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この島を出よ


「ま、良かったんじゃない? 闇属性だけだとこの先厳しいだろうし」

「……え? どうして?」


 マーサは真顔である。冗談で慰めようとしている訳でもないようだ。


「闇属性は他の属性とはちょっと違うのよ。魔導書を見れば一発で理解できるんだけど……、あんたはそんなのを読むタイプじゃないか」


 残念ながらその通りである。興味がないものにはてんで手が伸びないのだ。それに、属性が決まってから読むものだと思っていた。が、どうやら違うようだ。


「読んだことないな」

「呆れた。さすがに儀式の前なら多少は知識を入れておきなさいよ。……確か長老ジジイのところに行くまで時間はあったよね?」


 マーサはエレクの方を向いた。ネロもエレクを見る。こういう話はエレクに聞くのが一番だ。


「そうだね。30分はあると思うよ」

「30分ならまあそれなりに読めるか。闇属性の魔導書は書庫に何冊かあったわよね?」

「えぇ? 今から? 30分あるって言ったってそんなに時間はないぜ? ここから書庫まで歩いて10分はかかるだろ?」


 ネロはそうこぼした。……読むと良いことがあるのはわかっているが、さすがに今から読みたくはない。長老ジジイの話を聞く前にそんなものを読んでいては眠くなってしまう。


「それなら心配いらない」

「……へ?」

「ネロ、僕たちはたった今儀式を受けたばかり。つまり飛行魔法がもう使えるんだ。……飛べばすぐに着くさ」


 そこまで言われれば受け入れるしかあるまい。少し不満だが、せっかく使えるようになった飛行魔法を試したい気持ちはある。ここから書庫までの道は頭に入っている。デモンストレーションにはまあちょうどいいだろう。


「僕もちょうど読みたい本があったんだ。ついていくよ」

「私はパス。パパからおつかいを頼まれているからそっちを先に済ませるわ」

「分かった。それじゃ後で長老ジジイのところで合流な」





「さて、と。これであらかた揃ったかな。サラマンダーの鱗とかいうたっかいもん買わせやがって……、何に使うんだ? 絶対しょうもないことだわ。後で文句言ってやるんだから」


 マーサは素材屋から出てきて渋い顔である。確かに儀式前に買い物リストが書かれたメモは渡された。家に帰ってくるまでに買っておいての言葉と共に。

 まあそう難しい話じゃないだろうと内容に目は通していなかった。だが数は多いわ、調達がちょっと面倒なものばかりでマーサは若干苛ついていたのである。

 

「ま、ここが長老ジジイのところに近いってのはラッキーだわ、飛べばすぐでしょ。……そおれっ!」


 マーサは翼を広げると地面を軽く蹴って飛び立った。これだけで空を自由に飛び回れるのだから便利なものである。買い物のついでに何度か練習したからもう動きは慣れっこだ。……もしかするとネロたちはまだ下手っぴかもしれない。そう考えると少し楽しい。

 長老が住む家は村一番の高い場所にある。以前は息を切らしながら登っていた石段。一番下から上まで15分はかかる長い石段だ。

 だがそれも昨日まで。石段を横目にすっと通りすぎると僅か3分で家の前に到着した。大したことではないが、自分がずっと成長したみたいでかなり嬉しい。いつもより力強く扉を叩くと返事も待たずに豪快に開け放った。


「おや、マーサ。遅かったね」

「本当だぜ。てっきりすぐに来るもんだと思ってたよ」


 ネロとエレクの声が聞こえる。だが姿は見えない。声は上から聞こえるようだ。見上げると天井付近に2人が宙に浮いたまま座っている。長老の家はこの村で一番天井が高いことで有名だ。……見間違いではないはずだ。


「……なんで浮いてるの?」

「これはあれだ。翼の動きをコントロールして上に行こうとする力と落ちる力を同じにしてるんだよ。それで空中に留まってるってわけ」

「……え? そんなのできるの?」

「最初は難しいけど慣れれば簡単だよ。マーサも練習すればすぐにできるさ」


 そういうエレクは爽やかな笑顔である。嘘は言っていないのだろうし、こういう時に嘘を吐くタイプでないのも知っている。2人に聞こえないくらいの音量で「天才じゃん」と呟いたのはきっと聞こえていない。さっきまで感じていた嬉しさはどこかに行ってしまった。


「あ、そうだよマーサ。ありがとな!」

「……何の話?」


 完全に不貞腐れているマーサをネロはまったく気にもとめない。こういう男であることはよく知ってる。


「魔導書の話さ。お前の言う通りに書庫に行ってみたら確かに闇属性の魔導書は少なかったよ。でもその分内容は濃かったぜ。中級魔法も書いてあった。なんなら今見せてやろうか?」

「これ! 家の中で魔法を使おうとするんじゃない! わしの大事な家をぶち壊すつもりか?」


 しわがれた声が聞こえた。長老ジジイである。ネロたちが産まれてからずっとジジイであり、歳を取ったようには見えない。それに昔からずっと同じ顔なので最早何歳なのかも分からないのだ。


「大丈夫大丈夫。そんな壊れるほどの強さで撃たないって」

「つい10分前に天井に頭ぶつけて泣きそうになってた奴が何を言うか」

「あ、長老ジジイっ! 秘密にしてって言ったじゃんか!」


 ネロがそう叫んだ。その様子を見る限り長老の言うことは本当らしい。


「はて、わしはそんなこと聞いたかな? まあそれは良い。お前たちに話がある。そろそろ降りて来なさい」 

「えぇ? このままじゃダメか?」

「年寄りの話はありがたく座って聞くもんじゃ。ほれクッションでも敷いてやるからそこへ座れ」


 そういうと長老はどこからかクッションを2個出してきた。出てきた時にそんなものは持っていなかったはずだがどこに持っていたのだろう? マーサはそこがまず気になった。が、それは後にしよう。長老ジジイの話は長くなる。気になったことを聞いていてはキリがないのだ。

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