魔物使いの戦い
修練場に行くよ。そう言うキダルについてネロは屋上へと来ていた。屋上の扉を開けるとだだっ広い空間が広がっている。仮想敵として置かれたのだろうか、数多くの木の人形や的が置かれていた。ここが修練場か。ネロの心は人知れず弾んでいた。
帝都第二魔法学校の全ての寮は屋上に修練場を設置している。常に魔力で作った障壁で周囲を覆っており、長らくそれは破られていない。つまりは気兼ねなく規模の大きい魔法を試すことができるのだ。
休日の朝ということもあって修練場にはネロたち以外は誰もいない。ラッキーなことにほとんど貸切状態だ。
「魔物使いの戦い方は他の魔導士の戦い方とはちょっと違う。まずは他の魔導士の戦い方を軽く説明しようか」
そう言うとキダルは腕の中のスパちゃんを丁寧に床に置くと収納魔法から杖を取り出し構えた。杖の先は空を向いている。
「魔弾【闇】」
初歩的な低級魔法、魔弾【闇】。闇属性の魔導士なら誰でも撃てる基本技である。とはいえネロよりも発動が早く、威力も高い。やはり二級魔導士はすごいものである。
続けてキダルは収納魔法から剣を取り出す。狙いは近くにある人形か。
「魔力纏【闇】」
闇属性の魔力を纏ったその剣は鋭く人形をぶった斬った。修復魔法によってすぐに元に戻ったが、その威力は凄まじいものである。
さらにキダルは収納魔法からグローブを取り出した。
「身体強化【闇】」
闇の魔力をオーラとして身に纏い、人形を思い切り殴った。ガチンと重い音が鳴り響く。やはりこの威力もまた凄まじいものである。
「……とまあ、こんな感じだ」
「……え? キダルは……、魔物使い……だよね?」
ネロは混乱している。なにせネロはキダルを魔物使いと思っているのだ。そして魔物使いの戦いを教えてもらうつもりの人間である。
だが、今見せられたのは他の戦闘スタイル。軽くなんてものじゃなく普通にすごいものである。床で嬉しそうにスパちゃんがキダルを見ている。……これが普通なのだろうか?
「そうだよ、魔物使いさ」
「……それじゃあ今のは?」
「魔導士はそれぞれ得意な戦闘スタイルを持っている。だからといってそれしかしない訳でもない。二級魔導士になる条件として、複数の戦闘スタイルで上級ライセンスを持つことというのがある。高ランクの魔導士は皆他の戦闘スタイルもそれなりにできるってことだよ」
……なるほど、どうやらこれが普通のようである。戦闘スタイルは自分に向いているものを極め続けるものかと思っていたが、とんだ思い違いだったようだ。
ネロは少し考えこむ。魔法を使うのが魔法使い。魔剣を使うのが魔剣使い。グローブを使っていたが、あれは魔闘使いと言うべきか。とにかくそれぞれの戦闘スタイルは、全部見たので理解できた。
魔物使いは魔物を使う。それは聞いていた通りだ。……それでどうやって戦うんだろう?
「魔物使いをメインにする魔導士は他の戦闘スタイルもできるオールラウンダーであることが多い」
「……どうして?」
「全てに通ずるからだよ。さ、見てて! ……びっくりするから」
そう言うとキダルは再び杖を構えた。何をするのだろうと見ているとキダルは杖の先を空に向けた。……ここまでは先程も見た通りだ。
「魔弾【闇】」
発動するのはやはり初歩的な低級魔法、魔弾【闇】。先程見た光景とほとんど同じ。違っていたのは、その個数。空に向かって撃たれた魔法は2つあったのだ。
「……スパちゃんが撃った、……のか⁈」
「そう! 魔物使いは魔物を使う。魔物たちは何でもできる。僕たちができること全てね」
「できることは全て……」
「逆に僕たちができないことはできない。魔物使いの戦い方は、自分のできることを魔物にもしてもらう戦い方。実質的に2対1を作ることができる。……どうだい? 面白いでしょ?」
ネロはその言葉に深く頷く。要するに魔物使いが使う魔物は分身なのだ。それならばオールラウンダーが多くなる理由も理解できる。オールラウンダーであるほどできることが幅広くなるのだ。むしろならないともったいないまである。
しかもスパちゃんが魔法を使ったのはたった一度。今までキダルが見せてくれたことはやっていない。つまりこれは任意で戦闘に参加するしないを選ぶことができるとも言える。それに……
「ちなみに聞くが、……別行動ってできるのか?」
「ふふっ、もちろんできるよ。別行動って言うのはつまりこういうことだよね? ……カオスレイ」
闇属性の中級魔法、カオスレイ。大きめの魔弾が宙に放たれたと思うと広範囲に弾け飛んだ。当然範囲内にいるためネロたちにもそれは降り注ぐ。
しかしダメージはまるで受けない。ネロたちをスパちゃんがじっと見つめている。ネロの周囲には透明な球形の障壁が現れていた。間違いない。これは低級魔法、魔障壁だ。
「……満足してくれたかな?」
土煙が舞い上がる修練場でキダルはそう言って笑った。もちろんネロが満足したのは言うまでもない。
自分でも撃ってみたい。はやる気持ちそのままにネロは頭の上のクロを床に置き、収納魔法から杖を構えた。魔法を撃つのは初めてではない。だが、魔物と撃つのは初めてだ。ワクワクした気持ちそのままにネロは杖の先を的に合わせた。
「……魔弾【闇】」
闇属性の魔力が具現化し的に命中した。……ただし一個だけである。クロは不思議そうにネロを見ているだけであった。




