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色々教えてくれ


 なるほど、特権か。確かにこの気持ちのいい撫で心地は独占したくなるかもしれない。ネロは気の済むまでバッドバットの翼やら頭やらを撫でていた。……なんだか眠たくなってきた。


「ふふ、眠そうだね。ロージアさんに頼まれたから色々教えてあげようかと思ったけど、明日にするかい?」

「そうだな、明日色々教えてくれ」


 まぶたが少し重い。まだまだ寝るには早いと思ったが、疲れは結構あるようだ。本格的に眠くなる前に寝る支度を整える。腰掛けていたベッドに寝転ぶと枕元にバッドバットを置く。目を開けたまま不思議そうにこちらを見ている。……もしや眠いという感情がないのか?

 少し戸惑うが、眠気には勝てない。おやすみと声をかけてシーツの中に体をうずめた。目を閉じれば眠りはすぐに訪れた。……そして朝が来た。




 ぼんやりと光を感じネロは目を開けた。キダルが開けたのだろう。カーテンが開けられた窓からはやわらかな朝日が差し込んできていた。隣のベッドを見るとキダルの姿は見えない。どこへ行ったんだと扉の方を見ると、扉は音もなくするりと開いた。

 驚いた表情のキダルと目が合う。その手には良い香りのするマグカップが握られていた。


「早いんだねぇ! びっくりしたよ。起こさないように静かに開けたらもう起きてるんだもん。おはよう」

「キダルおはよう。それは……コーヒー?」

「そう。食堂のコーヒーを飲むのが毎朝の習慣でね。これがないとシャキッと目覚められないんだ。ネロも飲むかい?」

「いや、やめとく」


 ネロはコーヒーが飲めない。父親の真似をして一度飲んで以来一切飲まなくなった。香りは良いのにどうしてあんなに苦いのか、信じられない。ネロは甘党である。

 キダルは前日と同じようにベッドに腰掛けると一口コーヒーを啜り口を開いた。


「さて、それじゃあ早速色々教えようか。何か聞きたいことある?」


 悩ましい話だ。この手の質問が一番困るのである。ネロはそもそも何を知らないのかを知らないのだ。手始めに知らないことは何かネロは考え始めた。知らないことはいっぱいである。ひとつに決めかねたネロは悩む。

 3分ほど悩みはつづいた。するとネロの腹が鳴った。そうだ、まだ朝食を食べてない。


「……お腹空いた?」

「そうだね。お腹が減ったよ。朝食はどこで食べるんだ?」

「食堂だね。案内するよ」


 食堂は階段を降りてすぐのところにあった。部屋から近くて便利だ。中へ入るとスープのいい匂い。そして魔物を連れた人が何人か既にテーブルに座っていた。


「まあ、適当なところに座っててよ。ネロはご飯が好き? それともパンが好き?」

「……パンかな」

「おっけ。持ってきてあげるよ」


 ネロはお言葉に甘えることにした。初めて来る場所だから勝手が何も分からない。どこでどうやって注文するのか。受け取る場所も分からない。いい機会だとばかりに朝食をもらいにいったキダルを目で追った。

 キダルはカウンターに向かう。……少し待つ。振り返る。あれ? 既にトレーを持っている?


 注意して見ていたはずなのにキダルはいつのまにか注文を終えて戻ってきたのだ。トレーの上にはやや大きめのクロワッサンが2個、それとオレンジジュースが乗っている。ほのかにチーズの匂いがするようだ。


「お待たせ。一応オレンジジュースをもらってきたけど、大丈夫かい?」


 キダルは言いながら機嫌良さそうににこにこしていた。礼を言って受け取るが、ネロの頭には疑問が浮かんでいた。注意して見ていたから見落としはあり得ない。……キダルはいつお金を払ったのだろう。

 クロワッサンに手を伸ばしネロはそのことを考えていた。クロワッサンをかじる。こんがり焼けた生地とチーズが美味しい。母親の作るパンといい勝負だ。……おや? キダルの手元になにか輝いている? あれは何だろう。カード……なのかな?


「……あ、バレた? これはね、ギルドカードだよ。帝都の魔法学校は魔導士ギルドと提携しているんだ。高ランクに認定されれば恩恵もそれなりにある。例えば、……寮の食堂が無料になったりね」


 なるほど、それで納得した。見落としたのではない。キダルは実際に払っていないのだ。しっかりと見せられたそのギルドカードは銅色に輝いていた。


「そのランク? ってのは準級が一番高いのか?」

「いや、違うよ。上から特級、一級、準級、二級。ここまでが高ランク。そこから三級、四級、五級、認定なしと続くんだ」

「……なるほど」

「一応この学校は卒業の条件に二級魔導士以上になることってのがあってね。ネロも卒業するまでには僕に追いつくよ」


 そう言うとキダルはギルドカードをひらひらさせながらニヤリと笑った。つまりキダルは既に卒業条件を満たしているということである。優しくしてくれる二年の先輩はどうやら相当な実力の持ち主のようだ。


「……キダルはすごいんだな」

「ふふ、ありがとう。最近みんな褒めてくれないから素直に嬉しいよ。これは次は気合い入れて教えないとな」

「……次?」

「お腹を満たしたら、大事なことを教えようと思っててね。……魔物使いの戦いについてさ」


 それは知りたかった話だ。ネロはかじり始めた二個目のクロワッサンを強引に口に入れるとオレンジジュースで流し込んだ。

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