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70話:王都へ

 領地の視察中だったけれど、私は急いで王都に戻ることになった。

 そんな急ぎの馬車の中にはロジェが揺られている。


「あなたまで一緒に来なくても…………」

「逆にイレーヌもいないのに滞在する理由ないだろ」


 包み隠さずとんでもないことを言う。

 つまり私に会うためだけに公爵領へと移動したのだ。

 王子としては間違っている気がするのだけれど?


「いえ、王位継承を視野に入れるなら有力貴族と繋ぐのはありね?」

「妙な勘違いするなよ。それはおまけだ」

「おまけ?」


 ロジェに思わず聞き返すと、不機嫌そうな顔をされた。


「イレーヌに惚れた。で、口説くことを伝えた。王位やるだとかはそのついでに言われただけだ。最初から言ってるだろ」


 改めて言うロジェは真っ直ぐな目をしてる。


「我が国の情勢に探りを入れるのが私を口説くこととなんの関係が?」

「そりゃ、口説くからには俺に惚れてもらわないと。いいとこ見せるチャンス探るに決まってるだろ」


 笑顔で返すロジェの、いまいち惚れただなんだが信用できないのがここ。

 決してそれだけではないし、確実に現状で自国にとっての最善を探っている。


 だから私は今までどおり相手にしないという選択をするのだ。


「王都まで連れ帰ることはしてあげるけれど、ボルボーの公館には自力で帰ってね」

「公爵家には?」

「アポイントメントを取ってどうぞ。取れるならね」


 にっこり笑う私は腐っても公爵家。

 私に会うなら父である公爵の許可を取る必要がある。


 ロジェも多忙なお父さまからの許可を取る難しさはわかっているようだ。


「あの舞踏会のこともあって高嶺の花が過ぎるだろ…………」

「あら、舞踏会で過去の栄光をまとった私は、招くのを憚る人も出ているわ。今回の視察も王都にいるよりもという判断よ。社交期なのにね」


 ちょっと愚痴っぽくなってしまった。


 新王との対立が顕著になったため、身の振り方を決めていない貴族は私に近づかない。

 これは最初から想定していたことだ。


「いっそ王都離れるならうち来るか? 華やかさはないが、北を追い返す堅牢さはヴァルシアにも劣らないぜ」

「そうね、ボルボーとはまだ外交上で…………とんでもなく軽い口調でとんでもないこと言わないでくださる? 危うく検討しかけたじゃない」

「ち、駄目か」


 私が気もそぞろとわかっていてだなんて、危ない危ない。


「なんだか私、ボルボー王国に一度踏み込んだら帰れない気がするわ」

「そりゃ惚れた女が家に来たなら帰す理由ないだろ?」

「名目を用意するだけ、盗賊よりはお上品なのかしら?」

「嫁にしようってんだ、大事に、だぁいじに扱うさ。盗賊呼ばわりはやめてくれよ」


 ロジェの笑顔に本気がほの見える。

 軽口に見せかけて攻めて来る。これだから油断ならないのよ。


 私の警戒に気づいて、ロジェは雰囲気を緩めた。


「しないさ。そんなやり方じゃ一番欲しいものが一生手に入らなくなるのはわかってる」

「一番欲しいもの?」


 聞き返すとロジェはいっそ悲しげになった。


「本当に何も響かないんだなぁ。…………えー? イレーヌ、別に鈍いわけじゃないんだろ?」

「どうして私を責めるような目をするのかしら。攫うと言った次には手に入らないものがあると言うのだから聞いただけでしょう」

「あーあー、言葉どおりに受け取った訳ね。切ねぇ」


 どうして私が責められてるの?


 理不尽だけれど社交界に出ている淑女として鈍いと言われるのは癪よ。

 攫って手に入らなくなるもの?

 既成事実さえ作られれば婚姻は成立してしまう。これは乱暴を働いた男を無責任に逃がさないための決まりという側面があるけれど。

 攫って結婚を強要して終わりではなく、その後は金銭の絡んだ両家の話し合いがあり、もちろん我が家からの心象は最悪から。

 それでも攫われた娘を思えば関係を続けなければ不憫と結婚は認められることが多い。


「お父さまが存命の限り、ボルボー王国への心象は最悪からになるでしょうね」

「そこじゃないんだよなぁ」


 即座に否定された。

 なおもわからないとロジェが身を乗り出す。


「だからな!」


 そこに今まで黙っていた侍女が動いた。


 無表情ながら見開いた目には命を賭しても阻むという心意気が溢れている。

 無言の威圧にロジェも勢いを殺され座席に戻った。


「今まで忘れるくらい気配消しといてこれか。本当に公爵家の使用人は教育が行き届いてるなー」


 投げやりにロジェが言うと、侍女は胸に手を添えて褒め言葉として受け取る。


「公国では目立つことを避けて侍女は置いて来ていたけれど、公爵家の人間が軽々と二人きりにはならないのだから、軽はずみな行動は駄目よ」

「俺の知ってる侍女と違う…………。侍女はそんな殺気立った目しない…………」


 片言のようにロジェがぶつぶつ言う。


「許しもなく触れようとするからよ」

「じゃあ、髪に触らせてください」

「何がじゃあなの? 触らせるわけないでしょ」

「駄目か。いや、綺麗な髪だから触り心地に興味があっただけ…………」


 言ってロジェは、侍女を窺うように見る。

 侍女だってただ話すだけなら邪魔はしないわよ。


「はぁ…………俺が欲しいのは、イレーヌの心だ。攫って既成事実作ったって、イレーヌは確実に俺のこと拒絶するだろ」

「するわね。いっそボルボー王国が傾くくらいのの弱みを握ると同時に身一つで逃げ出すくらいのことをするわ」

「やりそう。ただ結界使って逃げるで済まさない辺り」

「わかっているならいい子でね」


 嫌みで微笑むとロジェは不服そうに私を見つめた。


「笑うと可愛いのになぁ」


 予想外の言葉に顔が強張ると、よほどひどい顔になったのかロジェが笑う。


 よし、意趣返し決定よ。


「それでは」


 王都に戻って速攻でロジェを降ろした。

 ぽつんと立ち尽くすしかないロジェの姿にちょっと溜飲が下がる。

 同時にロジェの前では保っていた余裕を捨てた。


「すぐに屋敷へ! 私の準備は気にせず先方をお呼びして!」


 公爵家に戻って慌ただしく外出着から着替えながら、私は戻った理由を改めた。


「聖遺物教会の方が私を訪ねて来たのね? そして来訪の理由は濁した」

「はい、旦那さまへの取り次ぎも打診しましたが、イレーヌさまへと」

「それを受けてお父さまも私に対応するようにとおっしゃられた、と」


 これは十中八九ラシェル関係ね。

 しかもやって来たのは以前ラシェルが持ちだした聖遺物を返した教会から。


 さて、どんな問題を抱えて来たのかしら?


毎日更新

次回:聖遺物教会の修道士

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