06_入学パーティー(後半戦)
パーティー後半戦。
に、入る前に待ったがかけられた。
「ちっ、誰かと思えば、お前か。ヘレナ・ラスウェル」
いや、誰。初対面で舌打ちとか、本当に貴族? 見た目だけ上品にしやがって。って、それはわたしも一緒か。それっぽいのは見た目だけ。
大広間の扉の前で出くわしたのは、青髪の男。なんかすごく態度が悪い。敵意のようなものを感じる。それにしても青髪ってすごいね、それ地毛なの? 似合ってるのもまたすごいと思う。
「……ラザーフェルド侯爵家のご子息ですよ」
誰だか分かってないわたしに、優秀な従者グレアムがこっそり教えてくれる。同じ侯爵家ってことは、もしかして初対面じゃないのかな。相手の態度もそんなだし。さては、ヘレナの被害者か?
「扉の前に立たれたら邪魔なんだが? そこの従者もさっさと扉を開けろ。相変わらず使えない男だな」
なんだコイツ。おまえが話しかけてきたから止まったんだろうが。
息を吸う。
「――あなたにわたくしの従者に命令する権利はなくってよ。それから、グレアムが無能であるかのように言わないでくれるかしら? 気分が悪いわ」
使えないって、おまえにグレアムの何が分かるんだ! 他の従者は知らんけど、グレアムは誰よりも優秀なんだからな! この似非貴族め! いや、この横柄な態度はある種貴族らしいのか?
「お前も相変わらず五月蠅い女だな。その従者を庇ったのは初めて見たが」
まあ、ヘレナじゃ庇わないよね。ていうか、いつもコイツにこんなこと言われてるのかな、グレアム。
それならば、負けるわけにはいかない。
「うるさいのはどちらかしら。レディに突っかかってくるだなんて、女の扱いも知らないのね?」
わたしも知らんけど。
「なんだと――!?」
顔を真っ赤にして肩を怒らせる青髪男。
ん? こいつ煽り耐性低いな? すごい怒気が伝わってくる。
あらあら、そんなに赤くなって。それでは図星を指されたと言っているようなものよ? ってな感じの更なる煽り文句が口から飛び出そうなのを押しとどめる。あんまり怒らせて痛い目には遭いたくない。
男はふるふる震えて怒りを露わにしているけれど、さすがに掴みかかってはこない。
さっさと大広間に入ってしまえば逃げられるだろう。貴族は外聞を大事にするから、大勢の人がいる前でみっともない姿はさらせないはずだ。それこそ掴みかかってくるとかはできないだろう。
「グレアム、わたくし行くわね。扉を開けてちょうだい」
「……かしこまりました」
視線が冷たい。
突っかかってきたあっちが悪いじゃん、なんで!?
「おい、待て! 言い逃げか!?」
はーい、聞こえません~!
*
青髪男から逃げるためにいそいそ大広間を歩き回る。
食べ物は軽食ばかりかと思ったけど、さっきグレアムがくれたクッキーも少し置いてあった。今はもうお腹いっぱいだからいらないけど、最初から気づいてたら食べただろうね。
青髪男は、グレアムが足止めしてくれたのか、すぐには大広間に入ってこなかった。グッジョブ、グレアム!
さすがに人目のあるここでは変に突っかかってこないとは思うが、一応人の多いところに紛れておくことにする。
「――ヘレナ嬢!」
ん? この声は。
「でん――おぅ――殿下」
ちょっと今頭が疲れててね。なんて呼ぶのが正解か分かんなくなっちゃったんだ。
ていうかそうか。人がやたら多いところに来たけど、この人集りは王子目当てのヤツか。また壁に包囲されてたのか、この人気者王子は。
それにしてもヘレナってすごいね。王子が声をかけたら、人の波がザッて引いたよ。ザッて。
人の壁がなくなって、王子はほっとした表情を浮かべる。まさかそのために話しかけたんじゃないだろうね。
「戻ってきたんだね、良かった。急に体調が悪くなったのかと心配したよ」
善意百パーセントですねコレは。しかも、ほっとしたのはわたしの体調に問題なかったからですか。いい人だね。変な疑いを持ってしまって罪悪感が湧いてくるよ。
「ご心配をおかけしました」
「うん、さっきよりも元気そうで安心したよ」
いろいろあって疲れはしましたけどね。
でもまあ、王子といればさすがに青髪男は突っかかってこれないだろう。なんせ権力者だからね、王子って。
「ヘレナ嬢、甘いものは好き? 先程お菓子が追加されたんだ」
「えっ、先程……? わたくしがいない間に、ということですか?」
なんだ最初からあったわけじゃないんだね。どうりで気づかなかったはずだ。
「うん、ヘレナ嬢も食べてごらん。とっても美味しいから」
「あ、いえ。実は、グレアム……従者が休憩の時に持ってきてくれたので、既に頂きましたの」
「え、そうなの? なんだ、残念。ヘレナ嬢の幸せそうな笑顔が見られるかと期待してたのに」
ちょっと残念そうに笑う王子。なんかごめんね。
ていうか王子、ちょっと天然が過ぎない? 何なの、女たらしなの? その顔でそんなことを言われたら大半の女子はときめくんじゃない? あれ、乙女ゲームだからそれでいいのか?
「わたくし、そういった笑顔は安売りいたしませんの」
だってばかっぽく見えるでしょ? 甘いものを食べてるときのわたしの顔、たぶんだらしないと思う。美味しそうに食べるねとはよく言われるけど、侯爵令嬢がそんな顔してたらちょっと威厳が消し飛ぶと思う。
「そんなこと言われると、見たくなってしまうね、ヘレナ嬢の笑顔」
王子は笑顔安売りバーゲンセールするよね。爽やかなヤツ。
「あら、わたくしは簡単な女じゃなくってよ」
特に王子の前では気をつけてるんだよね、いろいろと。一回やらかしてるし、あんまり親しげにするとうっかり婚約話が持ち上がる可能性があるらしいし。
「はは、だろうね。だからこそ、憧れるよ」
まあ、王子は笑顔安売りしてるもんね。真逆の人間って憧れるよね。分かる分かる。でもまあ、わたしもグレアムに合格点を貰ったヘレナっぽい薄ら笑いは外ではよくするから笑わないってわけじゃないけど。
「殿下は今のままでよろしいのではありません? 笑顔を向けられて不快に思う人間はそういないと思いますわ」
時と場合にも寄るけどね。
フレンドリーに相手の懐に入っていくスタイルの王子は今のまま爽やか笑顔をまき散らしていた方が合ってると思う。たとえ笑顔のバーゲンセール状態でもね。別にそんなことで安い男ってなるわけじゃないし。
「そういうことを言いたかったんじゃないけど……でも、ありがとう。やっぱり、ヘレナ嬢は僕の憧れだ」
なんか違ったらしい。わたしは的外れなことを言ったのかもしれない。変なことを言ってもフォローしてくれる王子はやっぱりいい人だね。憧れはちょっと言い過ぎな気がするけども。
「まあ、光栄ですわ」
パーティー後半戦は、そのまま何事もなく終わった。
*
パーティーが終わり、疲れ切ったわたしはベッドにダイブした。
そういえば言ってなかったけど、この学園は全寮制。一人につき一室、学園の敷地内に建てられた寮に部屋が与えられている。部屋の掃除や食事などわたしたちのお世話は学園側が雇ったメイドさんがやってくれるので、グレアムの負担はかなり減ったと思う。いや、そうでもないかも? 勉強は相変わらず見てもらってるし。グレアムはやっぱりわたしの面倒を見ているし。
「お疲れ様でした」
「あ、グレアム。そうだ。聞きたかったんだけど、あの青い髪の人、なんとか侯爵の息子さんだっけ? ヘレナと仲悪いの?」
欠片も好感が持てない男だったけどヘレナの知り合いなら、少しは知っておかなくちゃね。もう名前も忘れたけど。
「ラザーフェルド侯爵、ですよ。名前はポールス。ポールス・ラザーフェルドです。同じ侯爵位を持つ家の子供同士ですからね、何度かお嬢様と顔を合わせていますよ。お嬢様の結婚相手の候補でもあります」
「えぇ、結婚候補意外といるね……ていうか、敵意むき出しじゃなかった? 結婚考えてる相手に向ける態度じゃなかったと思うんだけど」
「いつもお嬢様に鼻であしらわれていましたからね。あの方もお嬢様もプライドが高く傲慢ですから、反発し合っていました。互いに結婚など更々考えておりませんでしたね」
同族嫌悪ってヤツかな? ていうかさりげなく傲慢って言ったな、ヘレナのこと。
「それなら、あの対応は間違ってなかった?」
「お嬢様なら、もっと簡潔に『フン、つまらない男ね』と鼻で笑って終わっていたと思います」
「前から思ってたけど、グレアムってヘレナの真似上手だよね」
「長い間側で見ておりましたからね。それはともかく、あまりあの方を煽らないでくださいよ。血の気が多い方ですから」
「でもさ、いくらヘレナが嫌いだからってグレアムまでばかにする必要なかったでしょっ?」
「……いえ、あの方は私のことも嫌いですから。お嬢様よりもむしろ、私のことの方が嫌いかもしれません」
「そうなの? どうして?」
「いろいろあったのです――過去に」
ふうん? なんだか濁すような言い方だね。言いたくないことなのかな?
わたしはグレアムの手をぎゅっと握る。
「じゃあ、グレアム。あの男が何か言ってきたらわたしが守るね! いつも助けて貰ってるお礼!」
グレアムは従者だから、侯爵子息よりも立場は弱いもんね。言われっぱなしになってしまうかもしれない。でもわたしの立場は侯爵令嬢。あの男と土俵は一緒だ。めちゃくちゃ言い返してやれる。
任せて、と胸を張ると、呆れた視線が注がれた。
「ああいうのは、黙って流した方がいいですよ。余計な火種になりかねません」
「それでも! 闘わなければならないときがある! の!」
従者がばかにされているのを放っておいたら、主人までばかにされるかもしれないしね。まあ、そんなの関係なくグレアムがばかにされるのが嫌なだけだけどさ。
「――馬鹿な方ですね」
「ストレートにばかにされたっ!?」
これは調べるまでもなく、ばかにされた。だってばかって言ったもん。
「しかも笑いながらとか、さてはドSだな、グレアム!?」
薄々そんな気はしてたけども。
「なんですか、その珍妙な響きの単語は」
「この世界にない単語だった! なんか虐めるの好きな人のことだよぅ、たぶん」
調べたことないから自信ないけど。言われたことあったら気になって調べちゃうけど、言われたことない言葉だからね!
「では、私には当てはまりませんね。私はあなたを虐めたいわけではありませんから」
「え、そうなの……? でも、よくばかにしてくるじゃん」
「何を言ってるんですか。私は事実を言っているだけですよ」
「待って、わたし面白い冗談言ったわけじゃないからねっ? なんでそんな『ご冗談を、お嬢様』みたいに笑ってるの?!」
「ふふ、ご冗談を、お嬢様」
「やっぱ、ばかにしてるでしょ――!?」




