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サマーデイ14  作者: レオ
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サマーデイ14後編その2〈完結〉

  「おい、ケイ。」家に帰ったらお父さんがいた。今日は仕事が早く終わったらしい。


「なんですか。」


「俺の職場の同僚に、『平松ソウタ』ってやつがいて、その息子さんがコトネちゃんの妹さんが殺された現場を見たんだってよ。」


そういうことだったのか。

なんだか平松タカヒロのことがわかってきたような気がする。


「それで、その息子さんが、ケイの電話番号が欲しいって言ってたというので教えといたぞ。」


「勝手に教えたのか。」


「ゴメンって、だってお前友達少ないだろ。」


そういう問題なのかと思ったが、今は怒る元気もなかった。

逆に、電話番号の謎が解けてスッキリしている。ありがとうと言いたかったが、やはり言いづらかった。




  「ああ、明日から八月か。」


蒸し暑い部屋にあるベッドに転がり、つぶやいた。

温度計は、昨日から30度を行ったり来たりしている。外に出る気と勉強する気が減っていくだけだ。

「コンコンッ」扉を叩く音が聞こえた。


「入るぞ。」


「お父さんか、何か用ですか。」


「コトネちゃんのお父さんの居場所がわかったぞ。ピースマンションの506号室だ。」


「ああ、あそこか。」


ようやくタカヒロの言っていたマンションがわかった。


「そこでだ、お前も一緒に来てくれないか。俺だけ行ったら、警察と思い逃げてしまうからな。」


ふと頭の中にコトネの顔が現れた。

それを思うと、断りづらくなってしまい、ついに承諾してしまった。

仕方が無いが、この温度だと余計に面倒臭く感じられた。明日、部屋に突入するらしい。これも、コトネのためだと思い面倒臭さを心の奥に閉まった。



 8月1日、とうとう突入する日がやってきた。

ピースマンションまで徒歩8分、距離は近いがとても長く感じられた。


「いいな、まず始めにお前がインターホンをおせ。」


昨日言われた通りに実行した。

「ピンポーン」甲高い音がマンション中に鳴り響く。

「なんですか。」扉が開かれ、かなり大きな男が出てきた。


「少し話がしたいので、中に入れてもらえませんか。」


「だっ、だめだ。今部屋の中が汚いから。」


それを聞き、お父さんがスッと出てきた。

「警察です。署までご同行願います。」


ケイは、久しぶりにお父さんがかっこいいと思えた。


「なっ、なんでだよ。」


「あなたには、ひき逃げの疑いがかかっています。」


お父さんの話を聞くと同時に男は、扉を閉めようとした。

だが、お父さんがすぐに男の手を掴んだ。暴れている男を見て、お父さんは手錠をかけた。そして、トランシーバーで誰かに伝えた。

すると、回りから警察とおもわれる人達が出てきた。さすがにこのことは、ケイも知らなかったようだ。

男は、警察に囲まれマンションを後にした。

お父さんたちは気づかなかったが、部屋の奥で若い女の人が泣きながらしゃがみこんでいた。このことは、お父さんには内緒にしておこうと思いケイもマンションを後にした。


なんだかあの女の人を見た時にいろんな感情がこみ上げてきた。なぜなのかは、このころはまだ分からなかった。





 マンションから帰る途中ケイは、近くの商店街に寄った。

今夜、お母さんが旅行で帰って来ないのだ。


料理が苦手なケンは、今晩の夕食を作れるほどの腕前は無いがお父さんに作らすよりかはましだった。


「何を作ろうかなあ」そんなことを考えながら、商店街の奥へと進んだ。


「ケイ君ー。」


遠くの方で聞き覚えのある声が聞こえた。予想通りコトネだった。


彼女も同じく夕食の材料を買いに来ていた。


「最近ずっとお父さんが帰ってこないの。仕事だって言っていたけど本当かしら。」

ケイの心臓が、「ドキッ」となった。


でも冷静に考え、本当のことを言うなら今しか無い、と考えた。


「えーっと、お父さんのことなんだけど・・・。」

ケイは自分の知っている全てのことを伝えた。


「嘘でしょ、お母さんが浮気をしていたなんて…。」


「その腹いせでお父さんは、他の人には体が弱くて死んでしまったかのように酸素マスクをとってお母さんを殺したんだ。」


お母さんが亡くなった時に体が弱くて死んだのでは無いというコトネの勘が的中した。


「えっ、お父さんが殺したの。」

驚いたのと同時に、涙が頬をつたった。


それからそのまましゃがみ込んでしまい、ずっと我慢していたかのように思いっきり泣き出した。

ケイは、先程女の人を見た時と同様いろんな感情がこみ上げてきた。

今回は、なぜこみ上げてきたかわかったような気がした。

コトネを見ていたら、なんだか自分も泣きそうになった。


5分ほど泣いた後、泣きっ面をケンにむけ、


「私ってかっこ悪いよね。」と、

励まして欲しいかのようにつぶやいた。


「そんなこと無いよ、コトネは十分強いよ。僕だったら両親がいなくなってしまったら、ずっと家に引きこもってしまうよ。」


コトネは、ケイの言葉を聞いた後スクッと立ち上がり、


「わかった、私もっと強くなる。私がもっと強くなったらまた、今までのように一緒に遊んでね、サヨウナラ。」


そう言い放つと、後ろを振り向き、自分の家へと走って行った。


「サヨウナラ」の意味はこのときまだ分からなかったが、すぐにその意味を理解した。


 夏休みが終わり、まだ暑さが残っている9月1日。担任の先生から、コトネが転校することがクラスのみんなに伝わった。

一瞬教室の中が騒然としたが、ケイの表情は何一つ変わらなかった。

転校しても、

「ずっと友達でいたい、一生コトネのことは忘れるものか。」

と、心の中で何度も繰り返した。だってコトネは、実質始めての友達なのだから。

 コトネが転校してから、ケイの中学校生活はとても有意義に過ごせた。勉強の方も、テニスも絵に描いたように上達した。

勿論、ずっとコトネのことは忘れなかった。そして、高校もかなりの頭の良い学校に入学した。




 高校の通学初日、ケイは大きく息を吸い勢い良くはきだした。


「よし。」


心を入れ替え、堂々と高校に向かった。

教室に入り、自分の席に座った。春の心地良い風が教室のカーテンを揺らした。

なんだか懐かしい気分になり、あの時と同じように


「今何時だっけ」と、隣の人に話しかけた。

「9時だよ。」聞き覚えのある優しい声が、ケイの耳に飛び込んできた。

もしやと思い、振り向こうとしたが少し抵抗があった。


「出席をとるぞ。」


担任の先生の声が教室の中に響いた。楽しく、愉快なケイの高校生活が今始まった。


 おわり



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