産みの苦しみ?
村の特産は異世界です
・産みの苦しみ?
指示を出してから2週間か。検討に掛かった時間は、予想以上に短いと言って良いだろう。何しろ出した指示が指示だからな、今までなら数年かかってもおかしくない話だったのだ。それを考えると、今までの行われた改革への検討ってやつは、生ぬるい、アリバイ作りの物が多かったと言うことか。
その決めつけが可哀想と言うのはわかっているぞ。だがな、2週間で報告が出来ると言われれば、そう考えてもおかしくはあるまい。
ただ報告の内容が内容だけに、最初は俺だけに説明したいのだそうだ。それをマスコミどころか、党内に嗅ぎつけられるのも避けて欲しいと言うのか。吉沢君は、次に巻き込むのでそれまでは待って欲しいと言うのだな。ああ、俺一人動くだけでも目立つのだからな。吉沢君まで一緒に動けば、ばれる恐れが高くなるのは間違っていない。
それで、俺はどうすればいいのだ? なるほど、オフタイム、夜中に迎えに来てくれるのだな。それで迎えは……そうか、貴方が来てくれたのか。
「うむ、キヨヒコから頼まれたのだ。シオンでなかったことを詫びさせて貰おう」
いやいや、立木氏が誰を一番信頼しているのか。それを考えれば、最大限の配慮が行われたと言うことだろう。それで、俺はこの格好で良いのか? パジャマにガウンと言うのは、重要な報告を聞く格好ではないと思うのだがな。
「キヨヒコは、露天風呂を用意したとのことだ。それを考えれば、その格好の方が良いと言うことになるな」
確か、重要な報告と聞いた覚えがあるのだが。そうか、何も隠さない、裸の付き合いをしてくれるのだな。老人ばかりと言うのは気になるが、確かに腹を割った演出も必要に違いない。
「では、準備は良いか。まあ、準備が出来ていなくても連れて行くのだがな」
くれぐれも、騒ぎを起こさないようによろしく頼む。それからだ、携帯電話ぐらいは持って行かせてくれ。ああ、緊急連絡が取れないと、それだけで騒ぎになってくれるのだよ。
それで露天風呂……しかも完全に屋外と来てくれたか。第二別館近くの露天風呂……それが開放的と言うのを認めるのは吝かではないぞ。運良く、運良くで良いと思うのだが。空には夏の星空も広がっているからな。ああ、久しぶりに見る景色……それで、出席者は誰なのだ?
「ここから先は、キヨヒコに任せることにする」
そうか、立木氏が案内してくれるのだな。それで、誰が出席することになるのだ?
「むっさい老人8人と、一人だけ若い諸星さんですよ」
そうか、ついに彼も巻き込まれることになったのか。まあ話は、温泉に入ってからすることにしよう。
しかしなんだ、絵面的には人にお見せできないものだな。まあ、老人向けのパンフレットには良いのかもしれないのだがな。
「普通はそうなんですけどね。混浴希望者が複数いて説得に苦労をしたんです」
この面子を見て、混浴を希望してくれるのか。言ってはなんだが、ゲテモノ趣味ではないのか。そうか、それを否定する言葉を持っていないと言ってくれるか。参考までに、どんな酔狂な女性が混浴を希望してくれたのだ?
「こちらの人間からは、藍香ちゃんと朝倉さんの2人です。20歳と24歳の綺麗な女性ですよ。後は、翼人のダイナさん、ベルベディアさん、リエッセさんです。いずれ劣らぬ美しい方たちだと思ってください」
翼人はまだしも、その藍香と言う女性と朝倉と言う女性は流石に危なくないのか? なるほど、深く考えてはいけないと言うのだな。ああ、実行されなかった計画は、忘れることにしておこう。
それで誰が説明してくれるのだ? なるほど、立木君が説明してくれるのか。それから立木君、無駄な抵抗と言ってやろう。何しろ全員が、諸星君まで含めて、全員が一斉に君を指差したのだからな。
「この場のリーダーは藤康のはずなんですよ。私は、あくまで民間人なんですけどね」
有識者会議では、民間人が説明に立つのは珍しくないと言っておこうか。それで、どこまで検討は煮詰まってくれたのだ?
「では、マジックシティ構想……ネーミングとして『マジックシティ(仮称)』と言うものを付けています。そのマジックシティ構想ですが、大谷村、白鹿村、大町市をファーストステージとして立ち上げることにします。JRを巻き込むのですが、このエリアと更には糸魚川までの区間の運行を廃止します。その代わり、駅間を繋ぐ転移ゲートを設置します。転移ゲートの管理……料金を含めてですが、JRに移管をします。そして鉄道以外の場所にも、類似のゲートを複数設置します。そちらの管理もJRに任せることにします。既存のJR駅をハブとして、スポークのように複数の転移ゲートを配する形となります」
まずは域内の移動を作り替えると言うことか。ああ、話を進めてくれたまえ。
「長距離移動に関しては、空港に似た施設を作ります。スタートは国内移動、主に大都市に対しての移動用のゲートを作ります。具体的には、首都圏の東京、新宿、横浜、大宮、千葉が接続地となります。こちらも、運営はJRに任せることにします。そして順次、接続先を名古屋、大阪、京都、神戸、博多と増やしていきます。ファーストステージはハブアンドスポークの接続で移動を行います。ハブは大町市に置くのですが、こちらは移動量に応じて直接接続も考えることにします。これが、高速鉄道の代替となる技術と考えてください」
わかりやすいところで、移動から目玉を打ち出したと言うことか。それから、国内はスタートだと言ったな?
「ええ、スタートは国内ですね。総理が指摘したとおり、これは高速鉄道の代替となるものです。でしたら、航空機の代替も考えると言うことです。ただし札幌については、航空会社とJR、どちらに任せるかは食いつき次第と言うことになります。そしてこちらが本命なのですが、航空会社でそこそこの輸送量のある国内線の代替接続を考えています。そして海外路線も計画しています。ポトマックコンサルが動いてくれたのですが、ロンドン、ワシントンD.C.、ニューヨーク、ロサンゼルス、テキサス、北京、上海、モスクワとの接続を計画しています。こちらは、出入国管理施設が準備できてからと言うことになりますね」
そうか、ついに国際接続を実現させるのだな。ああ、これで移動手段としての航空機が過去の遺物になるのは間違いないな。そして航空機は、軍事産業と密接に結びついている。激しい抵抗が予想されると言うことだ。
うむ、抵抗の激しさは、それだけ画期的な施策と言うのを認めることにしよう。
「今説明したのは、一部となりますが『人』の移動となります。そして物の移動ですが、マジックシティ内に物流基地を一つ作ります。そこから副拠点に対しては、転移ゲートを用いてものを運びます。ただトラック等の車両を用いず、常設ゲートにコンベヤーを通す形で行います。24時間365日稼働しますから、単位時間当たりの輸送量がさほど無くても、大量の輸送が可能となります」
そしてマジックシティの物流基地に対応する物流基地を、首都圏に作ると言うことか?
「首都圏、中京圏、関西圏、九州圏、北海道に作る予定ですよ。各種の物資を拠点に集積して、そこから太いパイプでセントラル物流基地に運ぶことになります。こちらは、物流業界に声を掛けることになりますね」
物流も考えていると言うことだな。それで、超大規模輸送である海運は……そうか、マジックシティは山の中だったな。
「それは、国際線の次の段階ですね。当然出る疑問ですから、答えとしては次の段階。ステージ2とか3とかで考えることになると思いますよ」
ああ、これは日本国改造計画なのだからな。長野の一地方で終わって貰っては困るのだよ。そして、いつまでも実験レベルでは困ると言うのも確かなのだ。
「仰るとおりだと思いますよ。ただ、狭いようで広い日本です。津々浦々まで変革するには、それなりの時間が掛かるのはお忘れ無く。それでこれはジャストアイディアではあるのですが、震災等で復興を諦めた地域。そこの再開発を魔法を使って行うと言うものがあります。移動と言う大きな問題を解決できるわけですから、考慮する余地があると思います」
経済効果の点では疑問しかないアイディアではあるな。そうか、俺の支持率維持のことも考えてくれた訳か。それだけじゃない、高齢化対策にもなっていると言ってくれるのか。
「どこまで網を掛けるのかは検討が必要ではあります。ただ、転移ゲートの設置コストは、車1台よりも掛からないんです。しかもその殆どは、ゲートを収容する入れ物なんですよ。勿論、電気ガス水道等のインフラ維持は別の問題として残ることになるわけです」
それでも、地方維持には大きな意味を持つことになるわけだ。見捨てていないことを示す意味では、大きな意味を持ってくるな。
「移動関係は、需要が出たところで更に追加検討が必要になるのでしょう。そして次の問題ですが、医療と教育も考えています。なぜこの二つを同時に持ち出したのかと言うと、すでに発表している治療用魔道具を利用するからです。具体的には、既存の医療技術と魔法治療を融合させた病院を作ります。そしてそこで働く医療関係者の教育を行う教育施設を作ることになります。IMO研究所の研究成果は、大学……ですかね。そこに展開されることになるわけです」
ああっ、それは凄いことと言ってやろう。ちなみにその大学だが、受け入れは日本国内だけなのか?
「学長をティアにさせることを考えていますよ。つまり、IMO研究所が設立する私立大学になるわけです。そしてティアに学長をさせる以上、国内に閉じるつもりはありません。教育も医療とは違う物理学、科学方面にも手を伸ばします。奈良の大学と協力して、文化的な面への対応も考えるつもりですよ」
オルティア女史を学長にすると言うことは、海外からの留学生を受け入れると言うことだな。それはなんだ、例のEUに対するカウンターと考えれば良いのか?
「それだけが理由だったら、別に海外から受け入れる必要は無いんですよ。今のままでは、IMO研究所の人手不足が問題となるのがわかっているんです。従って、優秀な人材を集めると言う目的もあるんですよ。ああ、その意味ではゲートを奈良に作っておく必要がありますね」
かなりのものと言うのは理解出来た。ただ、それだけ摩擦が大きくなると思うのだがな。その対策はどう考えているのだ?
「世界各国に対して、マジックシティに対する投資を呼びかけます。その審査を行い、審査に通った企業体にマジックシティ内に進出して貰うこととします」
それをすることで、敵対するのは損だと知らしめると言うことだな。それでも、審査に漏れたものは手を替え品を替え邪魔をしてくるのではないか?
「この動きが、マジックシティ内だけで終わればそうですね。ただ、日本全国に展開することも計画されているわけです。さらには、その成果は世界に展開される未来があると思います。愚かにも、その時に仲間外れにされること選ぶのかと言うことがありますね。勿論、そんな生易しい相手ではないことも理解していますよ。それならそれで、こちらも報復手段を選ばないと言うことです」
「俺とかラズライティシア様、エリシオンさんもそうだな。陰謀とかの黒幕ぐらい、簡単に炙り出すことができると思う」
なるほど、邪魔者は排除すると言うのか。それはそれで、強権的で敵を作ることにならないか?
「排除ならそうでしょうね。ただこの手の陰謀は、自分が表に出ないから成立することでもあるんです。ですので、『ばらしていいか』と囁くことでかなりは潰すことが出来るんですよ。それでも引かないところには、全面戦争を仕掛けることになるのでしょうね」
なるほど、全面戦争と言ってくれるのか。だとしたら、そうならないようコントロール……相手をなのだが、そうするのも政治の仕事になるわけだ。従って、適当な餌も作って貰いたい。
「潰した方が後腐れなくて良いのですけどね。加えて言うと、下手な譲歩は相手をつけあがらせることになります。まあ、諸星さんが人の死を嫌っていますからね。できるだけ、穏便な結末となる方法を考えて貰いますよ」
なぜ、最後だけが他力本願となるのだ? そうか、そこで藤康たちを指差してくれたか。彼等に対して懸念があるのだが、それは最後に指摘させて貰うことにする。
「それ以外にも、各種小物の魔法技術を展開することを考えています。加えて、食糧生産に異世界を活用することにします。土地ならありますからね、日本ではやりにくい大規模農業を展開するつもりです。これで、食糧自給率も上がることになりますよ」
異世界から持ってきたら、それも輸入になるのではないのか? ああ、無粋なツッコミと言うのはわかっているぞ。ただそう主張する奴も出てくると言うことだ。後はだな、植民地と騒ぐ奴もいそうだと言うことだ。
「国王は諸星さんです。従って、植民地と言うのはあたりませんね。まあ、その手の騒ぎは無視することにしますけどね。勿論、因縁を付けてきた相手には不利益……違いますね、利益を与えないことを考えています」
やはり、かなり強権的なことを考えているのだな。ああ、意趣返しと言うのはわかっているぞ。ことあるごとに、自分たちのルールを押しつけてきてくれたからな。それが通用しないのを教えてやるのも重要と言うのは間違っていない。むしろ望むところと言っておこう。勿論、この場でしかそんなことは言わないがな。
「大枠はこんなところです。最初の機能実現は、スタートが掛かってから1ヶ月を考えています」
やけに早いと言って良いかな?
「成果を見せるのは、早ければ早い方が良いと言うことです。従って、一番わかりやすい施策を実施します。ええ、鉄道及びバス機能の代替と言う奴です。こちらでしたら、ゲートさえ作ればすぐに実行できますからね」
確かに、発表の熱が冷める前に、実物を見せる必要があるのは間違っていない。その意味で言えば、発表時点でお披露目を考えて貰いたい。
「でしたら、発表時期と施設設営時期を調整すれば良いだけですね。ちなみにこの発表ですが、菅谷総理にお任せすれば宜しいですか? お願いですから、これは国家的事業となるんです。ですので、総理まで私を指差さないでください。もしもし、それでも私を指差してくださいますか?」
ああ、取りかかりは私がするのは吝かではないぞ。勿論、指示を出した首相として逃げることは絶対にしない。だがな、藤康を初めとした元官僚ではだめなのだ。こと魔法と言う意味では、貴方を前面に出すのが一番見栄えがしてくれるのだよ。
あの日あの時、そう、竜人の襲撃があった時のことだ。そこで魔法を紹介したのは、立木清彦君。君と言う存在なのだよ。従って、君を前面に立てることが、誰もが納得しやすいことだと理解して欲しい。
「だとしたら、IMO研究所の秘密兵器に登場して貰いますかね」
「普段から言っている、所長命令をして良いんだよな?」
「ここで、所長命令を持ち出してくれましたか……仕方が無い。諸星さん、派手にやっても良いですか?」
「立木さんにすべてお任せします」
派手、派手と言ってくれるのか。怖いと言う気もするのだが、その一方で見て見たいと言うのも確かだな。ああ、現時点で実行できる、効果的な施策と言うのは否定しない。短期間で構想を纏めてくれたことにも感謝をさせて貰う。
その上で、マジックシティ実現には様々な課題があるのは確かだろう。特に国会なのだが、かなりの反発が与党内でも出てくるのは確実だ。そしてもう一つ、君たちの安全に対する懸念と言うのがあるのだよ。立木君は、まあ色々と守られているから大丈夫なのだろう。だが藤康を始めとした7人……友池はIMO研究所に参加していたか。そうなると、残りの6人の身辺警護が必要となってくるのだよ。
「彼等に危害を加えることで、我々の譲歩を引き出そうと考えることを言っていますか」
それだけじゃない。おかしな義憤、妄想と言っても良いのだろう。目立った者を害することが、自分の務めと考える奴が出てくるのも考えられるのだよ。
「個人的には嬉しくないのですが……藤康たち6人から遺書を預かっているんです。その覚悟は尊重したいのですが、IMO研究所として対策を考えているんですよ。諸星さんを殺した勘違い馬鹿程度であれば、闇エルフの身辺警護で排除が可能です。さらなる大規模テロに対しては、自衛隊にも提案している緊急脱出装置を使用します。国家や企業に対しては、味方になった方が得と言う情報を流すことにしましょうか」
そこは、敵になったら破滅するの方がいい気もするのだがな。ああ、すでにEUに対して脅しを掛けてくれただろう。似たような方法も考えられると言うことだ。
「強権的……と言われた気もするのですが。まあ、その方法を否定する気はありませんよ。むしろ、今更のことですからね。何しろ私は、後を考えなくても良い年寄なんです。無敵の存在……と言うには弱点を作りすぎている気もしますが、過激な方法をとりやすいと思っていますよ」
自分で言っておいてなんだが、多少の手加減を考えてくれたまえ。無駄な敵……先鋭化した敵を作る必要は無いのだからな。
「それから総理にお願いすることがあります。私の立場上、堀内氏はまだしも後沢氏を蔑ろに出来ないのです。発表前に彼を巻き込むことへの許可をお願いいたします」
君の立場的……と言ってくれるのか。利益誘導、汚職と騒がれそうな気がするのだがな。それさえ対策してくれれば、許可を出すのは吝かではないぞ。
「では、彼等を巻き込む方法を考えます。最後にですが、白鹿乗鞍のあれ、どういたしましょうか?」
白鹿乗鞍のあれ……あれ?
「忘れるのもどうかと思いますよ。異世界から転移してきた、悪意しかない森のことです。今はシオンの魔法で停止しているのですが、大谷村からは邪魔なのでなんとかして欲しいと言われているのですよ」
あ、ああ、あれのことか。それについては謝罪をさせて貰う。そう言うことだ、終わった気になっていたのだよ。大谷村として、処置が必要と言うのは理解した。閣議決定を行うので、大谷村と最終処分を考えてくれたまえ。
「では、閣議決定後に最終処分を行うことにします。諸星さん、いよいよ出番が来ましたよ」
「ようやくと言って良いのだな。第一段階は、異世界人5人の保護と考えて良いのだよな?」
「事情聴取を行う必要がありますからね。シアとシオンの二人に、ピックアップして貰うことにしますよ。場所は、上里ベースの会議室で良いですかね」
「その辺りは、立木さんの判断に任せますよ。エリシオンさんの魔法で固定されたんだから、驚異として大したことがないのがわかりましたからね」
「では、早速大谷村と協議をすることにします。まあ、全面的に任されるのが見えていますけどね。例の木ですけど、1本ぐらいこちらに残しておきますか? 研究所のエントランス近くが、緑がなくて寂しいなって気がするんですよ」
少し良いかな? 確かあの木は、悪意の塊と聞いた覚えがあるのだよ。しかもあの森に入った者は、心肺停止状態に陥ったと聞いた覚えがあるのだ。そんな物騒な木を、研究所の庭木にすると言うのか? 正気を疑うと言って良いと思うのだがね。
「だそうですよ諸星さん」
「なぜ、そこで俺に話を振ってくれるんです? まあ、大人しくしろと命じておけば、害をなすことは防止できるのは確かですけど。なぜそこでこめかみを押さえてくれますか? 藤康さんたちも、頭が痛いと言う顔をしないでください。多分ですけど、湯あたりをしたのだと思いますよ」
「立木……ここって、常識をどこかに置き忘れた……違うな、非常識の更に先に行ったところなのか?」
「藤康。今頃そんなことに気づいたのか? 今更なのだが、お前たちに不安を感じてしまったぞ。そうか、まだわからせが足りなかったか」
一つ言っておくのだが、私も藤康君と同じ印象を持っているのだよ。ああ、まだ私も開き直りが足りなかったと言うことだな。しかし、一体どこまで開き直れば良いのだろう。
知らない場所に転移したのは気がついていた。ただ気がついていても、どうしようもなかったと言うのが現実だった。何しろ魔王樹の森ごと転移をさせられたのだ。少し気を抜くだけ……気を抜かなくてもなのだが、即死魔法の餌食になるのはわかっていたのだからな。何しろ頼みの護符にしたところで、元の世界から切り離されれば役立たずになってくれるんだ。だから殺されないように、頑張って結界を張っていたんだ。張っていたんだよ、ただ張ったからどうなるって展望はなかったんだけどな。
ただこの世界はなんなのだ? 回りの魔王樹なのだが、なぜかおかしなものに変わっているんだ。それに伴って、感じる悪意まで減っていくんだ。このまま乗り切れば、即死魔法を気にしなくても良くなってくれるぞ。だったら、もう少し頑張ればって……
「ケンゴー、結界が何かに侵食されてる。だめ、防ぎきれないっ!」
ニロ、その何かってのはなんだ? わからない。でも、圧倒的な力を感じると言うのか。その正体がわからない以上、戦うしか方法が無いんだよな。だったら俺も結界を張るから、なんとか耐えるしかないだろう。耐えきった先……そもそもどこまで耐えれば良いのか、か。そんなもの、耐えきったところで考えれば良いことだっ!
ああ頑張ったんだよ。俺たちは、全力で頑張ったんだよ。だけど俺が覚えているのは、あっけなく結界が浸食されたことだった
次に気づいた時には、白い壁に囲まれた部屋、そして俺たちの前に見知らぬ格好……でもないな。俺の記憶にある格好をした男女が5人立っていた。そのうちの1人、じじい……なんだ、この強烈なプレッシャーはっ。
それはいい、ここはどこなんだ? テラたちは……それ以前に、お前たちは何者なんだっ?
「ここは、日本と言う国にある、IMO研究所と言うところです。そして彼が、所長の諸星孝明氏。そして彼女が、エルフの大魔法使いであるラズライティシア様。そして同じく、エルフの大魔法使いであるエリシオン、そして記録係の白船裕一郎です。そして私が、尋問官である立木清彦と言います。予め通告しておきますが、ここで抵抗することに意味はありません。まず、あなたたちの名前から教えて貰いましょうか」
なんか、俺の記憶に残っている故郷……本当の故郷ではないのだがな。その故郷に似ている気がするのは気のせいなのか。それはそうと、俺の名前を聞いてくれるのだな。俺は杣木謙吾と言う。俺のオリジナルは、日本と言う国で生きていたらしい。それ以上のことは、残念だが説明ができないんだ。ああ、俺の理解が追いついていないんだよ。
そしてこちらが、ルースクリス王国第二王女エクステラだ。そして隣にいるのが、魔法使いのニロ・ロッテン。そして獣人の男が、クーガと言う。そしてもう一人の獣人の女がパンヤだ。
「素直に答えてくれてありがとうございます。では、少しあなたたちの事情を教えて貰いましょうか。私たちには、あなたたちが戦闘を行っていたように見えました。あなたたちは何者で、何と戦っていたのでしょうか? ああ、その前にお腹が空いていますか? 空いているのなら、食べ物を用意しますよ。後は、飲み物も必要ですね」
食べ物と飲み物を用意してくれるのか。それならだな、こちらで言う紅茶をお願いしたい。出来れば、熱くないのをお願いする。甘みを付けてくれれば最高だ。
「では、早速用意することにしましょうか。それで、あなたたちの事情を教えて貰えますか?」
俺たちの事情と言うことだな。まず俺は、ルースクリス王国で召喚された勇者と言うことになっている。なぜなっていると言ったかと言うと、俺は過去召喚された奴のコピーだと言われたからだ。そいつの言葉が正しければ、俺とエクステラは、過去の人物をコピーした存在らしい。
そして俺たちは、魔王樹と呼ばれる存在と戦っていた。魔王樹と言うのは、世界の悪意を集めた存在なのだそうだ。魔王樹が厄介なのは、即死魔法を使うこと。そして眷属とも言える魔王を作り出すことだ。こちらの世界に飛ばされる前に、俺は俺のオリジナルと名乗った魔王たちと戦っていた。そこで戦いが不利になったんで、撤退のために転移魔法を使うとしたのだが……教皇が俺の術式に術式を上書きして、魔王樹の森ごとこちらの世界に転移させられた。俺のオリジナルの言うことには、悪意を外の世界に捨てるためなのだそうだ。
それからもう一つ、教皇が黒幕の一人と教えられた。俺たちに期待されたのは、魔王樹を焼き払うことじゃなく、森の真ん中で転移魔法を発動させることだったようだ。
「シア、彼は嘘を言っていますか?」
「少なくとも、自分が信じていることを語っておるな」
ここで嘘を言っても、何も得られるものがないのだからな。だから俺は、少なくとも本当のことを言っているつもりだ。ただ、俺が知っていることが、すべて正しいと言う自信は全くない。それ以前に、知らないことが多すぎたんだよ。
「正直に答えてくれてありがとうございます。それからそちらの獣人の二人ですが、あなたたちの知っていることも同じですか?」
「俺たちは、魔王樹を倒すために派遣されたとしか言いようがない。俺たちの種族は、ずっと魔王樹の作り出す魔物や魔王と戦ってきた。だから、それ以上の意味を求めていなかった」
「シア、どうです?」
「嘘は言っておらんぞ」
「では魔法使いのニロさんでしたか。貴方の役目はなんなのですか?」
「私の役目、魔法使いの役目って決まってると思うわよ。魔法を使って、勇者の支援、魔王樹に対する直接的な攻撃をすること」
そりゃあ、そうとしか答えようが無いよな。
「では質問を変えます。貴方は、なぜ魔王樹と戦っていたのですか? 獣人のように、戦うことが日常と言うことはありませんよね。そして王女様のように、国を守るためと言うこともなかったと思います」
「それだったら、興味が第一……ごめんケンゴー、ケンゴーの役に立ちたいと言うのが第一ね。私、ケンゴーの女なの。そしてそこにいるテラも、ケンゴーに調教されているのよ」
「本質的なようで、本質から外れた余計な情報をありがとう。確認ですが、こちらの世界に来たのは、あなたたちが意図したことではないのですね?」
それだったら、自信を持って違うと答えることができる。そもそも、どうやってここに来たのか理解していないんだ。俺のオリジナルが言うには、教皇がやったことらしい。俺が転移の魔法を発動するタイミングで、俺の術式を上書きしてくれたんだ。
「シア、ここまで嘘は含まれていましたか?」
「その女、ニロだったか。多少の嘘は含まれていたが、大勢には影響のない程度だ」
「では、あなたたちに伺います。あなたたちは、元の世界に戻りたいですか?」
元の世界に戻りたいか、か。間違いなく、俺たちは捨て駒だったんだ。だったら、戻っても良いことはないのだろうな。その前に一つ質問なのだが、あの魔王樹をどうするつもりだ?
「のしを付けて送り返すことを考えていますよ。ただ一部は、サンプルとして残すことを考えています。廃棄物を外に捨てる……その考え方自体は理解出来ますよ。ただ、私たちが黙って受け入れる理由もないと言うことです。しかも、魔王樹でしたか。あまりにも物騒すぎるんです。現に、6人ほど被害を受けましたからね」
6人が犠牲になったと言ってくれるのか……違う、被害は受けたが死んではいない。魔王樹の即死魔法を食らって、生き延びることが出来たと言うのか。
それはそうとして、あの森を送り返してくれると言うのだな。騙された俺としては、願ってもないことだと思うぞ。ただな、エクステラは王女として育てられたんだ。王女として、国を守ると言う義務感があるんだよ。だからエクステラ、お前はどうして欲しいんだ。俺は、お前を手放すつもりはないんだよ。だからお前が帰ると言うのなら、俺も一緒に帰るつもりだ。
「魔王樹が送り返されると言うことは、国が滅びる恐れがあると言うことですよね。王女として育てられた……本当なら、国に帰って戦うと答えるところだと思います。ただ、色々とわからなくなったと言うのが答えになります。育てられたと言う記憶、それが作り物じゃないかと疑問も感じ始めているんです。元の世界に戻ったら、邪魔者に扱われる気がしてならないんです」
「ちょっと良い? 王女として育てられた……だとしたら、ケンゴーに宛がわれることはなかったと思うのよ。だって王女様なのでしょう? 何度でも作れるコピー品に本物を与えるのって、常識的には考えられないと思うのよ」
「腹立たしいけど、ニロの言う通りなのでしょうね。ですが、国を思う気持ちがあるのは確かなのです。ですから、すぐには答えを出すことが出来ません」
ああ、その気持ちは理解出来るぞ。
「ではニロさん、貴方はどうなされますか?」
「私は、ケンゴーと一緒にいるつもり。それでも希望を言うのなら、こちらの世界の方が面白そうってことかな。うん、そこの二人、大魔法使いと言ったよね。だとしたら、私の知らない魔法を幾つも知っているってことでしょ。それを教えられたらさあ、残りたいと思ってもおかしくないと思うのよ」
おっ、おう。ニロらしいと言って良いかな。
「それで獣人のお二人はどうですか?」
そこで顔を見合わせてくれたか。多分だが、俺たちは『尊い犠牲』とされていると思うんだ。そこに魔王樹の森と一緒に帰還をしたら、裏切り者として蔑まれる未来が待っているのだろうな……だとしたら、エクステラを帰しちゃいけないってことか。それに、帰ってもいいことはないと思うしな。
「迷っている、と言うのが答えになる。帰っても碌なことが無いのはわかっているんだ。戦ってみてわかったのだが、俺たちじゃ勝ち目なんかどこにもないんだよ。だが、ここに残ると言うことは、故郷を捨てることになる。それが良いことか、許されることかがわからないんだ」
「では、皆さん態度は保留と言うことにします。しばらくこちらで過ごしてみて、答えを教えてくだされば結構ですよ」
そうして貰えると嬉しい。それで魔王樹の森なのだが、本当に送り返すことが出来るのか?
「だそうですよ、諸星さん」
「だそうですと言われても……別に難しくないのだがな」
「と言うことです。枝振りの良さそうなのを1本残して、残りはお帰りいただきましょうかね」
一つ良いか。何かとてもお気楽に聞こえるのだがな。あの魔王樹、どれだけ人の命を奪ってきたと思っているんだ? その魔王樹の中で枝振りの良い奴を残す。いくら何でも、考え方がぶっ飛んでいると思うんだよ。
「それが、IMO研究所の標準と言うことです。しばらく滞在されるのなら、じっくりと観察でもしてみてください」
「でしたら、一つお願いしても良いですかっ!」
に、ニロ、ああ、言いたいことが理解出来る気がするぞ。
「内容によるとしか答えようがありませんね」
「簡単なことです。大魔法使いのお二人に、弟子にして貰いたいと思っているんです!」
「だそうですよシア、シオン」
「弟子か……久しぶりと答えておこう。うむ、良き心がけと褒めてやるぞ」
「おばば、勿体ぶらずに嬉しいと言えば良い。勿論、私も構わないと答えておく」
「二人からお許しが出たようですね。ですからニロさんでしたか、弟子入りを認めることにします」
良かったな……と言って良いのか。うん、良かった、良かった。なんかニロ、もの凄く嬉しそうな顔をしていないか。
「では白船君、記録はここまでで良いですよ。それから、この5人を別館4に案内してください」
「部屋を宛がえば良いんですね。了解しました」
「諸星さん、我々は魔王樹の森、でしたか。おまけを付けて送り返すことにしましょうかね」
それなのだが、俺たちにも立ち会わせて貰えないか。それからだが、送り返す場合の場所を指定できるのか?
「出来るのかと言えば出来るのだが。具体的には、どこに送り返して欲しいんだ?」
だったら、簡単だが地図を書いてみる。俺たちを騙した報い、それを教皇に受けさせたいんだよ。その結果、世界が滅びることになるのかもしれないんだが。正当な仕返しだと思うんだ。
「それが正当な報復と言うの間違ってはいませんね。では、具体的な場所を教えてください。悪意をこちらに向けた以上、これは正当な報復になりますからね。それから、そこで様子を覗っている女神。滅せられたくなければ、こちらに出てきて弁明をしてください」
様子を覗っている女神……なんでそんなことがわかるんだ? それで出てきた女神なのだが、見覚えがないと言って良いよな。薄い茶色の髪をした、とびっきりの美人と言うのは女神様だから不思議じゃないか。
それは良いのだけど、なんで女神様が土下座なんかしているんだ? 女神様だよな、世界を統べる偉い神様なんだよな? それが、どうしてただのおっさん……はっ、背中に酷い冷や汗がっ!
「取りあえず、貴方の正体を明かしてください」
「魔王樹が存在していた世界を統べる女神スピアーノと申します。そのですね、今回の不始末についてお詫びをするのが目的で参りました」
「なるほど、不始末と言うことは理解しているのですね」
なんで普通のおっさん……さっきから冷や汗が止まらないのだが。それはそれとして、どうして女神様が顔を真っ青にして土下座をしているんだ。エルフ、で、良いんだよな。魔王樹をものともしないエルフの大魔法使いとか、この世界っておかしくないか?
「それで、お詫びと言うのは土下座をすることなんですか? もうね、土下座なんか見飽きているんですよ」
「で、でしたら、私がこの身を持ってお詫びをすると言うのはいかがでしょう……」
「あーっ、なるほど、それが狙いと言うことですか」
なんだ、一体何を言っているんだ? 女神様が身体でお詫びって……それってやって良いことなのか? 女神様だよな、とっても偉い存在なんだよな。その女神様が、身体でお詫びって……あっ、頭に血が上ってきた。
もの凄く美味しい話なのに、どうして嫌そうな顔をするんだ。俺だったら、二つ返事で頂いてやるぞ。だってこの女神様、美人だしスタイルも良いじゃないか。それに清楚そうってのも、ポイントが高いと思うんだ。
「ケンゴー君だったかな、心の声がダダ漏れになっていますよ。エクステラさんとニロさんのご機嫌を取っておいてくださいね」
テラ、ニロ、これはだな、男としての正常な欲求なんだよ。お、お前たちに飽きたとか言っていないからな。
「諸星さん。今回は王女様を諦めてくださいね。その代わりと言ってはなんですけど、女神様なんかどうです。魔王様ではありませんが、そそる姿をしていると思いますよ」
「女神様とエルフは立木さんの受け持ちだと思うんだ。俺は、王女様コレクターを貫き通すつもりだから」
「ここで手を出すと、真似をする女神が出てきそうな気がするんです。と言うより、明らかに狙っていますよね、彼女」
ああっ、土下座をしている女神様。冷や汗をだらだら流しているぞ。冷や汗で背中が思いっきり透けているんだよ。つまりなんだ、立木って人の言っていることが図星ってことか?
「アン、パメラ。出てきて貰えますか。彼女を連れて行って、以前のパメラと同じことをしてあげてください」
「我が君、クロア様たちにご協力頂いても宜しいでしょうか?」
「私が許したと言って呼び出しても構いませんよ」
「スピアーノと言いましたね。別の部屋で、私たちと楽しくお話をいたしましょう」
つまり、後から現れた2人も女神様ってことか。なんだニロ、もの凄く高位の女神様に思えると言うのか。確かになぁ、神々しさが違っているように見えるよな。だとしたらだ、ここは神様の世界なのか?
それで女神様……顔色が更に悪くなってくれたぞ。冷や汗……滝のように流れているんだが。それで連行……かなりやばい状態に見えるぞ。ああ、色々な意味で言っている。あれ、見ちゃいけないものが透けて見えてるよな。しかも絶望、そう、絶望した顔って、これがそうなのかと思えるぐらいの顔をしているんだよ。
「さて、後から女神からも事情聴取をすることにしましょう。取りあえず、魔王樹の森でしたか。処置は明日と言うことにしましょうか」
「それで良いのかと言うのは言っちゃいけないことなんだろうな。まあ、ここまで引っ張ったんだから、急ぐことじゃないと言うのも確かだな。それに、ここの所色々とあったからなぁ……そろそろ、大騒ぎをしたい気持ちなんだよ」
「でしたら、久しぶりに大宴会でも開くことにしますか。新しいお客様も迎えたことですし……そう言えば、藤康たちをもてなしていませんでしたね。彼等も連行することにしましょうか」
なあ、そんなことで良いのかと言っちゃ駄目か? 言っても良いけど、特に意味が無いのか。魔王樹って、俺たちの世界では恐怖そのものだったんだよ。それなのに、もの凄く扱いが雑な気がするんだよ。そりゃあ、カチカチに固められたってのは確かなんだけどさ。
それで白船さんでしたか。俺たちはこれからどうなるんです? 美味しい食事とお風呂が与えられる……他に欲しいものがあるのなら、遠慮の必要は無いと言ってくれますか。
だったらですね、一つ相談があるんです。ちょっとですね、大人のおもちゃ……で良いんですよね、こっちの世界では。それを手配したいと思うんです。意外、意外と言ってくれますか。そのですね、王女様を調教するのに、ですね。その道具を使ったりしたんです。それが癖になって……それ以上言わなくて良いんですね。それで、手配の方は? カタログを見せてくださる。はい、感謝なんかさせて貰います。
おもちゃの進歩って、本当に凄いと思いますよ。いえ、なんのことかは言いませんけど。




