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デスマーチから始まる異世界特区

村の特産は異世界です


・デスマーチから始まる異世界特区


 第1会議室なんだけど……なんか怖いと言っていいかな。時々トイレなのかな、人が出てきたりはするんだよ。だけど、出てくるのはそれだけ。食事は小谷さんが運んで行っているんだよ。その度にね、小谷さんから『助けてって』眼差しを向けられるんだ。

 でもね、これって小谷さんの仕事なんだよ。だから、所長である俺は手を出さないんだっ、えっへん。


 それは良いんだけど、立木さんたちが篭もって3日が過ぎようとしている。食事を届けに行ってる小谷さん情報では、中は凄いことになっているらしいよ。うん、みんな無精ヒゲ……白い物がしっかり交じってるんだけどね。無精ヒゲがしっかりと目立っているらしいんだ。しかもみんな、目がらんらんと光ってる……ように見えるんだって。

 ひょっとして、寝ていなかったりするのかな……まさかね。


 そんなこんなで様子を見ていたら、藍香ちゃんと朝倉さんが帰ってきました。うん、映画の撮影は順調だったんだね。そうか、藍香ちゃんの出演シーンは撮り終わったんだ。だから、これからはIMO研究所でお茶くみに専念する……お茶くみに専念。何か間違っていると言うのは俺の勘違いかな?


「IMO研究所でのお茶くみは、私にとって天職なんです!」


 おぅ、おおぅ。それは良い心構えと言ってあげよう……でいいのか?


「それで立木さんは出張ですか?」


 立木さん……立木さんは、会議室に篭もっているんだ。ああ、ちょっと菅谷総理の特命事項的なことをしていてね。うん、これで3日間篭もりっきりになっているんだ。

 ほかに誰がいるのかって? 官僚OBの凄い人たちが揃っているよ。うん、友池さんも検討に加わっているんだ。なんだ朝倉さん、身を乗り出してきたりして。ちょっと目が、怖いって言って良いかな?


「お茶、コーヒーとかお持ちしなくても宜しいのですか?」


 そう言えばそろそろコーヒーを持っていく時間だったかな。でも、この仕事は小谷さんがやっているんだよ。なんだ小谷さん、精神的に疲れたので休みたいと言うのは。それから朝倉さん、だったら自分がって……悪いことは言わないから、やめておいた方がいいと思うんだ。


「でしたら、私が行ってお世話をしてきます」


 いや、藍香ちゃんに行かせるわけには行かないんだ。だったら小谷さん……いない、いつの間に逃げてくれたんだ? 仕方が無い、だったら朝倉さん、任せて良いかな? だから、2人で行かなくても良い……ああっ、行っちゃったよ。でも、あんな修羅場にあの子たちを送り込んで良いんだろうか。


 藍香ちゃんたちを送り込んで、そろそろ30分か。本当に大丈夫なのか? 俺が覗きに行った方が良かったりするのか?

 と思っていたら、藍香ちゃん、朝倉さんが戻ってきました。戻ってきたのは良いんだけど、どうして2人とも顔を赤くしているんだ? ひょっとして、熱でもあるのかな?

 なんだ、その熱気に当てられたと言うのは。そのせいで、身体が火照って仕方が無い……身体が火照ってるのか?


「もう、何度『抱いてください』って言葉にしかけたかわかりません」


 何度って、中に入って30分も経ってないよな。それなのに、『何度』って、なに?


「私も円香さんと同じです。立木さんの隣で、御世話がしたくなったんですよ。でも、それをすると邪魔をしてしまいそうで。だから、泣く泣く二人して出てきたんです」


 小谷さん、精神的に耐えられないって言ってたんだけど。その意味なら、自分たちも正気を保つのが難しかった……うん、それって意味が違ってるからね。

 しかしなんだ、なんで正反対の反応をしてくれるんだ? こう言うときの解説役……普段は立木さんなんだよな。でもその立木さんは、篭もったきりで出てこない。朝倉さん、何かあるのかな?


「多分ですけど、立場の違いがあると思いますよ。私たちがミーハーと言うのは忘れて欲しいんですけど。すみません、藍香さんはミーハーな気持ちで言っていませんでしたね。ただ今は、本質的なことでないので忘れてください……とても重要なことだから、訂正するまで許さない。そうですか、では本気で男性を愛している立場の藍香さん。そこは立木さんと言え……どんどん本質から外れていくので、ここまでにしていいですか?」

「だったら解説おばさんにお任せします」

「藍香さん、それって仕返しの意味で言っていますか? 年齢なんて、たった4歳しか違わないんですよ。その私に対して、おばさんと言ってくれるのですか?」


 あ~っ、更に本質から離れたと言っちゃいけないかな。それからそう言う言い合いは、別のところでしてくれると嬉しいんだけど。


「お見苦しいところをお目にかけたことをお詫びします」


 それで、随分と遠回りをしているよね。それで、立場の違いとか言ったけど、どう言うことなのかな?


「小谷さんがあちら側と言うことです。そして私たちは、純粋に女として見ているんです。仕事に心血を注いでいる男性って、とっても素敵だと思うんです。でも小谷さんの場合、あの中に自分が入っていったらと考えているのではないでしょうか。それで臆した……と言うより、あの迫力に怯えてしまったんだと思います」


 なるほど、自分の立ち位置をどこにするのかってことなのだな。それを考えると、小谷さんは『女を捨ててる』……はっ、なぜ冷や汗がっ!

 と言うのは良いんだけど、『素敵』って憧れていられる立場じゃないってことか。だから、あの場に自分がいるのを想像してしまった。それだったら、俺が怖いと思うのもおかしくないのか。俺の立場も、あちら側じゃないとけないんだからな。

 ありがとう朝倉さん、なんか胸のつかえが下りた気がするよ。それで、中に入ってみて何か教えてくれたかな?


「私たちのこと、全く気づいていなかったみたいですね。それって、女としてとっても癪に障ることなんですよ。でも、それも『素敵』って思えてしまうんです。ああっ、まずい、また濡れてきちゃった」


 もしもし、朝倉さんみたいに綺麗な若い人が、『濡れた』って大声で言うのは問題だと思うんだ。うん、猥談なら俺のいないところでしてくれるかな。

 それで、取りあえず今日はどうするのかな? 時差ぼけがあるので、帰ってのんびりする。朝倉さんは、慶子さんのお手伝いをすると言うんだね。うん、引き留めて悪かったね。


 それは良いけど、朝倉さんは誰が好みなんだ? 藍香ちゃんと揉めてないようだから、立木さんってことはないと思うんだけど。だとしたら友池さんか? なるほど、イケオジが好きってことか。確か友池さん、奧さんはいたはずだよな。うん、康成さんって息子さんもいるんだし。


 ……聞かなかったことにしておこうっ!


 しかしここの女の子たち、みんな個性的すぎないか。本田さんも、あの光岡さんラブになっているしな。




 立木さんたちが第1会議室に篭もって、そうか、今日で1週間になるのか。しかしなんだ、トイレ以外に出てこないって、大丈夫なのか? 幾ら新陳代謝が落ちた年寄でも、それだけお風呂に入らないと酷いことになっていそうな気がするんだよ。

 ああ朝倉さん、藍香ちゃん。お茶出しご苦労様。それで、中の様子はどうなっているのかな?


「そうですね。そろそろ終わりそうって感じですか」


 そうか、そこまで検討が進んだってことだな。なんで、『まさか』って言ってくれるんだ?


「検討が進んだかどうかなんて、私にわかると思いますか? もう、散らばってる紙に書かれていることだって、全くちんぷんかんぷんなんですよ」


 そ、そうか。なんで、そろそろ終わるってわかるんだ?


「生き残ってるのが立木さんと……なにさんだったかな?」

「立木さん、『藤康ぅ~』って叫んでいたと思う」

「そうか、だったら藤康さんか。立木さん、藤康さんが寝ないように隣で頭を小突いていたのよ。でも、どう見ても限界だと思います。だから、取りあえず中断すると思いますよ」


 ええっと、なに、その『生き残ってる』って。なんか、ちょっと怖いんだけど。


「ほかの6人、友池さんもなんですけど。皆さん白目を剥いて会議卓に倒れ込んでいたんです。藤康さんも限界なんだけど、立木さんが無理矢理引っ張ってるって感じでした」


 そうか、そうなのか。なんか怖いと言って良いのか、立木さん恐るべしと言うべきなのか。中々判断に迷うところだな。

 それはそうと……立木さん、お風呂に入った方が良いと思いますよ。それで、検討は終わったんですか? そうですか、まさかと言ってくれますか。


「私以外の全員が使い物にならなくなったんです。だからシアに、リフレッシュの魔法を掛けて貰おうかと思って出てきたんですよ」


 もしもし、あれって体力をどこかから持ってくる魔法じゃありませんよ。体力の前借り……切れたらもっと酷いことになるんですからね。皆さん、お年を考えた方がいいと思うんですよ。と言うか、若くたって1週間会議室に篭もるのはハードすぎますよ。

 ところで、適当に仮眠を取っていたんですよね? いえ、そっちもまさかなんて言わないで欲しいんですけど。流石に休んだ方がいいと思うんですよ。ほら、徹夜って効率が悪いって言うでしょ? なんです、まだ泣きが入っていないと言うのは。それって、泣きが入ったら止めるって言うことですか?


「少しですね、力関係を示しておこうかなって。と言うより、民間対官僚の戦いと言った方が良いですね。いやね、国会議員の横暴に耐え、午前様は当たり前だって言ってくれたんですよ。ですので、民間のエンジニアの方が苦しんでいたのを教えてやろうかなって。お陰で、圧勝させて貰いましたよ」


 あははははって。立木さんも、随分とハイになっていませんか? それはそうと、その勝負って必要なことなんですか? なんです、上級官僚のプライドをへし折る必要があったってのは。必要性を認めたとして、それを実行する立木さんって、はっきり言っておかしくありませんか?


「非常識な人におかしいと言われたか……」


 そのフレーズ、よく使っていますよね。でも、立木さんにだけは言われたくないと思うんです。俺、超越と命令以外では、立木さんに敵わないのがよくわかりましたから。

 それから……ラズライティシア様、来てしまったんですね。


「ああ、来てしまったのだ。キヨヒコに呼ばれた以上、来ないわけにはいかぬからな。それでキヨヒコ、あの魔窟に行けば良いのか?」

「そうですね、全員にリフレッシュの魔法を掛けるのと、ちょっと部屋の消臭をして貰いたいんです。あの環境に、藍香ちゃんや朝倉さんに来て貰うのは流石に問題ですからね」

「1週間こもり続けたのだよな……なにか怖いと言っていいか?」

「こんなことで頼れるのはシアだけですからね。少しだけ我慢なんかしてくれるとありがたいと思っていますよ」


 そう言って、立木さんはラズライティシア様を連れて行った。ラズライティシア様、背中に哀愁を漂わせていた気がするんだ。やっぱり魔窟には行きたくないよな。


 それで3日が過ぎました……うん、立木さんが勝ち誇って出てきてくれたよ。それはなんです、ついに『泣きが入った』と言うことですか。そうですか、完全勝利と言ってくれますか。


「これで、彼等も世間と言うものを知ってくれるでしょう。なので、これからはペースを落としますよ」


 つまり、まだ終わっていないと言うことですか。一体何を検討しているんですか?


「菅谷総理が言ったとおりのことですよ。日本を作り替えるための検討……日本魔改造計画って奴ですかね」


 ええ、それは確かに聞かせて貰いましたよ。でも、その検討って、こんなに根を詰めなくちゃいけないことなんですか? まさか、まさかと言ってくれますか。それはなんです、官僚対民間の戦いを優先したと言うことですか?


「国会議員の横暴……質問通告が遅いことですけどね。それに耐えて、午前様は当たり前。それを激務をしていると宣伝してくれているんですよ。そんなもの、民間だったら大したことじゃないと言うのを教えて差し上げただけです」


 ええっと、相当怨念が篭もっていませんか? こんな話に巻き込まれたのだから、これぐらいはさせて貰ってもいい。今更ですけど、立木さんって結構根に持ちますよね。


「いきなり面倒に巻き込まれたんですよ。これぐらいさせて貰っても良いと思いませんか? それに私だって、同じことをしているんです。ですから、耐えられなかった彼等がひ弱と言うことです」


 やっぱり立木さんが怖い。それは良いんですけど、ペースを落とすと言う話でしたよね。どう、ペースを落とすんですか?


「検討の再開は明日にすると言うことです。そして、夜の10時を目標に仕事を終わらせることにします」


 今日は、これから休みにするんですね。それに、ちゃんと夜は休むわけですか。確かに、ペースを落としていますね。ええ、今までよりはと言うことですけど。

 それで、検討の目処は立っているんですか? そうですか、ここから先は機械的な作業と言ってくれるんですね。だとしたら、日本魔改造計画の大枠は決まったと言うことですか。


「決まったと言えば決まりましたね。後は、可能な限りソフトなハードランディングをどうするかと言うことです。多分ですけど、そこそこ広域でモデルケースを作ることになると思いますよ」


 そこそこ広域……って、どの程度のことを言っていますか? 例えばですね、大谷村レベルのことを言っているのでしょうか? 違う、それじゃ小さすぎるんですか。なるほど、大町市辺りまでを巻き込むことを考えている。そのための法整備も考えないといけないわけですね。

 おーい小谷さん、法整備の検討だって。小谷さんの『無理です』って、被せてくれたか。その無理ってのは、法律論のことを言ってるのかな。それとも、あの濃すぎる集まりに入ることを言っているのかな?


「その両方です。総務省出身の方もいらっしゃるんですよ。青二才の私が、太刀打ちできると思いますか?」


 そんな、真っ正面から『出来るか』なんて聞かれたら。まあ、難しいだろうなとは言ってあげるよ。でも、それで逃げていたら国会議員の将来はないと思うよ。なんです立木さん、驚いたような顔をしないでくださいよ。それから俺を指差さないように。もうね、俺には国会議員は無理と言うのがわかりましたから。


「最優先ですべきことは、土地取引に規制を掛けることです。この話が少しでも漏れれば、ハイエナたちが土地を買いあさってくれますからね」


 そうか、大谷村でも買い漁りが起きたんだよな。だとしたら、この話のエリア……大町辺りまでかな。買い漁りが起きても不思議じゃないわけだ。でも、土地取引の規制って、間違いなく騒ぎ立てる奴が出てくるよな。

 なんです、そんなものはぶっ潰すと言うのは。流石にそれをすると、裁判沙汰になったりしませんか。それも考えている。だから法整備も同時に進めると言うのですね。官僚の出番はそこにある。ええ、仰るとおりなんでしょうね。


 それで立木さんはこれからどうするんです? 1時間寝たら京都に行ってくる……正気ですか?


「少しばかり放置しすぎましたからね。本山の苦情も聞いてやらないといけないんです」


 すみません、立木さんって本当に人間なんですか? 色々と超越している俺ですけど、流石に無理だなと思えてしまうんですよ。確かに立木さんに頼っていますけど、寿命を削ることまで期待していませんからね。


「一段落付いたら、纏まった休暇を貰うことにしますよ……休暇、取れるのかなぁ」


 ええっとですね、所長の強権を発動して良いですか? はい、強制的に休暇を取ることについてです。流石にですね、仕事をしすぎだと思うんですよ。

 それはそうと、例の森なんですけど放置したままなんですよ。こちらの検討のことは知られていませんから、どうするつもりだって問い合わせが煩かったりするんです。立木さん、どうしたら良いと思いますか?

 そうですか、帰ってきたら考えると言ってくださいますか。はい、まだ法整備の方は進んでいませんね。大谷村からは、邪魔だからどうにかならないかとは言われてますけど。法整備の問題もありますから、どうにかならないかなぁのレベルなんですけどね。はい、京都から帰ってきてからでいいです。ここまで引っ張ったんですから、1日2日を急ぐことじゃありませんからね。




 今回ほど井の中の蛙と言うのを思い知らされたことはない。俺も、官僚として修羅場を潜ってきた自覚はあるのだぞ。その修羅場が、まだまだ子供だましだったと立木に思い知らされてしまったんだ。しかもなんだ、俺たち全員が屍になったのに、どうしてあいつがピンピンとしているのだ? あいつ、魔法とか使ってないか?

 ムキなった俺たちも悪いのだが、この検討って奴、ここまで昼夜を徹する必要は無かったはずだ。それなのに、どうして俺たちは7徹もしてしまったんだ? しかも、追加の3徹って……仕事の仕方として、間違っていると言って良いはずだぞ。

 それで立木、そうか、今日は上がりにするんだな。良いのか、まだ午前中だと思うのだがな。流石のお前も、限界が来たと言うことか?


 ちょっと待てっ、これから京都と言うのはどう言うことだっ!


 言葉の通り。放置しすぎたので、本山名誉教授と話をしに行ってくると言うのか? 加えて、持ちネタを増やす話をしに行く。今更だが、お前って体力お化けだったか? 民間企業はこんなもの……官僚の狭い、恵まれた常識で世間を語るな……本当なら反発する所なんだが、現実の前には黙るしかないんだろうな。

 それで、明日はどうすればいい? 9時に第一会議室集合……今度はちゃんと着替えを持ってこいと言うのだな。それは良いのだが、一つ教えて貰いたいことがあるんだ。気のせいだったら良いんだが、女の子……しかも若い綺麗な子が、お茶と軽食を持ってきてくれなかったか。いや、意識が朦朧としていてだな、本当のことかどうかわからなくなったんだ。


「心配しなくても本当のことですよ。安達マミちゃんの映画に出ている藍香ちゃんと、そのマネージャーをしている朝倉さんがお茶くみをしてくれましたよ」


 そうか、俺たちはしっかりと醜態を晒したと言うことか。なあ立木、俺はお前の恨みを買うようなことをしたのか? この歳になってもだな、若い子に醜態なんか晒したくないんだよ。


「恨みを買っていないと思っているんですか? あなたたち、私に余計な仕事を持ってきてくれたんですよ」


 それは、自業自得と答えたはずだ。まあ良い、本当は良くないのだが、取りあえず休息を取ることを優先させて貰う。それでだな、女神様の恵みってのを貰っていいか? ああ、今のままだとシャワーを浴びながら落ちてしまいそうなんだよ。

 そうか、手配をしてくれるのだな。一応感謝なんてものをしておくぞ。


 それで女神の恵み……奇跡って奴か。それを貰ったのだが、見覚えのない女神様って言って良いよな。もの凄く綺麗な女神様なのだが、一体何人女神様がここにはいるんだ? しかもこの女神様2人、どうしてお前に甘えているんだ?

 なんだ、その娘ってのは。お前の奧さん、普通の人間だと思ったんだが。奧さんはそう。もう35年以上連れ添っていると言うのか。奧さんはそうと言う所を見ると、奧さんじゃ無い人と子供を作ったと言うことか?

 なあ立木、タヒねと言って良いか……あれっ、なんでおかしな表現になっているんだ? それは良いのだが、男としてお前を殴っても良いか? ほほう、受けて立ってくれると言ってくれるのか。ただな、相手が俺一人だと思ってくれるなよ。7人の侍にたこ殴りにされて、反撃なんか出来ると思ってくれるなよ。


 それで翌朝9時……正確には、その10分前にIMO研究所上里ベース第1会議室に集合。これからやることは決まっている。日本魔改造計画……ちょっとまて、なんだその、魔改造と言うのは。それはそうとして、計画の大枠を整理し、各論に落として行くことだ。そのためには、各種法整備も考えなくちゃいけない。菅谷総理に依頼をすれば、閣議決定はすぐにでもして貰えるだろう。ただ訴訟リスクを軽減するためには、迅速な立法化が必要と言うことだ。

 ああ、それが俺たちの仕事と言うのは確かだな。それはそうと、その見覚えのある綺麗なお嬢さんたちを紹介してくれないか? ああ、なんか夢現の状態で顔を合わせたような記憶があるんだよ。


「敷島藍香と申します。立木さんに拾って貰って、今はIMO研究所でお茶くみをしています。将来の夢は、立木さんの愛人にして貰うことです」


 おい立木。ちょっと今から裏庭に行かないか? ここには裏庭はない。勿論校舎裏もないと言ってくれるのだな。ああ、ちょっとだな、男として許せない気持ちになったんだよ。


「朝倉円香と申します。敷島藍香さん……芸名はAIKAなんですけど。彼女のマネージャーをしています。ただ暇な時は、藍香さんと一緒にお茶くみをしているんです。趣味はですね、イケオジだったりします。ですので、皆さんにお目にかかれて喜んでいるんですよ」


 そ、そうか、それは嬉しいのだが……なあ立木。今更なんだが、ここってちょっと個性的な女性が揃っていないか? 否定はしない。ただ、狙ったわけじゃないと言ってくれるのだな。こんなもの、狙って集められたら逆に恐ろしいわっ!

 それからもう一つ、お願いしたいことがあるのだが。ああ、流石に疲れが取れないんだよ。例のリフレッシュだったか、その魔法をお願いしても良いか?


「私が魔法を掛ければ良いのですか?」


 できればだな。エリシオンさんだったか、彼女にお願いをしたいのだが。勿論、ラズライティシア様だったか、それをダメなんて言うつもりはないぞ。無いんだからなっ!


「藤康、取りあえず汗をふけ。それからシア、こいつが私が若い……大悟君ぐらいの時だな。その頃に、一緒に汗を流した仲間だ」

「なるほどキヨヒコの幼なじみと言うことだな。うむ、ぬしはわれが特別にリフレッシュの魔法を掛けてやろう。それからシオン、それ以外の6人にリフレッシュを掛けてやってくれ」

「おばばは根に持つのね?」

「キヨヒコの友人なのだからな、特別対応をしてやるだけのことだ」

「それからシア、シオン、時々あなたたちを呼び出しますからね。理由は……リフレッシュではありませんよ。魔法で出来ることを見せてあげる……その程度のことですよ」

「出し惜しみは不要なのだな?」

「ええ、必要無いと言ってあげます」


 おい、なんか怖いと言っていいか。なんだ、その限度を知っていると言うのは。その限度ってのは、世間常識での限度を言っているのか?


「魔法に関して、世間常識ってありましたか?」


 ああ、そう言うと思ったよ。ただこれ以上は時間の無駄だな。早速、とりまとめを始めることにするか。


 それでとりまとめなのだが、グランドデザインはできたと思って良いのだな。だから國枝、お前には活躍して貰うぞ。ああ、JRに色々とねじ込む必要があるのだからな。それに加えて、土地取引に規制を掛ける必要があるんだよ。ああ、ハゲタカどもに食い荒らされるわけにはいかないからな。

 ところで貨物はどうする? 今のところ、大糸線には貨物は通っていなかったと思うのだが。


「首都圏郊外に、物流倉庫を作ることにします。そこに転移ゲートを作って、特区にはカートで運ぶことにしましょう。燃料関係は……まだ道具立てが整っていませんね。仕方が無いので、こちらはパイプラインを作りますか」


 そのパイプラインを、空間ゲートで繋げると言うのだな。ああ、誰も考えていなかった方法には違いない。ところで、駅を残す理由は使い勝手を考えてのことだったな。


「無秩序な転移をさせるわけにはいかないでしょう。駅を起点に、各地に移動する。事業をJRにさせれば、彼等も協力してくれるのではありませんか?」

「保線作業がなくなることを考えたら、泣いて喜んでくれると思いますよ。尤も、泣いて喜ぶのはそろばん勘定をしている部門だけだとは思いますけどね」

「それで、大町から各大都市への直通ゲートを作るのだな。特区と言う魅力で、取りあえず若者を呼び寄せることは可能か」

「空港……とは違うが、世界への玄関も作ることになるな。ポトマック5からの報告では、英国、アメリカが首を縦に振ったそうだ。後は中国なのだが、色々と条件を付けてきているそうだ」


 今まで、中国は仲間外れにしていたからな。それを考えれば、これ幸いと条件を付けたくなっても不思議じゃないと言うことか。それで、奴らはどんな条件を出してきたんだ?


「こちらに、駐在事務所を作りたいのだそうですよ。あっちの奴が買った土地があるので、それを使うのなら可とでも答えておきましょうか」


 喜々として取り上げそうな話だな。まあ、それぐらいなら許容範囲だろう。どうせアメリカや英国も、似たようなことを言ってくるのだろうからな。それからお隣……韓国はどうなんだ。あいつらのことだ、仲間外れにするなと擦り寄ってくると思うんだが。

 そうか、俺の想像通りと言うことだな。だとしたら、この地区にスペースを確保するか。どうせ、EUからも泣きが入ることだろう。


「ゲートを含む施設管理は、日系の航空会社にさせれば良いのですな」

「それに加えて、物流会社も巻き込む必要がある。そうなると、運べる荷物の最大量が問題と言うことか。立木氏、その辺りはどこまで行けそうなのだ?」

「実験をしてみる必要がある……程度ですね。とにかく、首都圏から人を引っぺがすことを考えましょう」

「つまり、本社機能をこっちに引っ張る必要があると言うことだな。議員が彷徨くのはうざいから、官庁機能をこちらに持ってくるか。ところで立木氏、転移ゲートを朝晩限定で開放すると言うのに意味があるのですか?」

「こちらに、転居させる方法が無いかを考えただけです。霞ヶ関とか虎ノ門の転移ゲートだと、通常の通勤と変わらないですからね」

「その方法は、確かに考える必要がありますね。せっかく時間と距離の問題を解決するのなら、人を首都圏から動かしたいのは確かだと思います」


 それから教育はどうする。ああ、田口の守備範囲外と言うのはわかっているぞ。ただな、人を動かすには教育を忘れちゃ駄目だろう。


「でしたら、魔法を餌に人材を集めますか。ティア……オルティアさんを学長に、大学を作ると言うのはどうでしょう。科学系の人材なら、沢山集められそうですよ、海外から」

「治療用魔道具のことを考えたら、医療系も希望者が沢山いるのではありませんか」


 そして付属の中高を作れば良いのだな。募集要項に、地元優先ってのを付けてやるか。

 それに加えて、魔法診療を前面に出した総合病院も作れば良いのだな。なあ立木、俺は思うのだがアクセスを悪くした方が良くないか。勿論、大都市からのことを言っているぞ。

 そうか、悩ましいと言ってくれるか。だとしたら、IT系の大手を引っ張ってくるか。ああ、アメリカや中国からだがな。特区じゃなくて、国の中に国を作る形だな。税金的にも優遇してやれば、手を挙げる奴らも出てくるだろう。人を動かすには、仕事を作ることが必須なんだよ。


 それから食糧の増産だが……異世界って奴に期待はできるのか? そうか、土地ならあると言ってくれるのだな。国王が号令を掛ければ、身を粉にして働いてくれると言うのか。だとしたら、その国王とやらと交渉する必要があるのか。

 その交渉、お前に任せて良いのか。なんだ、その国王を連れて来ると言うのは。なあ、そんなに簡単なことで良いのか?


「実は、とても簡単なことなんですよ」


 かなり開き直りはできたと思うのだが、それでもまだまだ足りなかったと言うことか。ああ、その国王様とやらを連れてきてくれるか。




 なあ小谷さん、あの人たちって全員60過ぎの年寄なんだよな。なんで、10徹から1晩で復帰なんかしてくれるんだ。ひょっとして、人外だったりしないのか。違うはず……少なくとも7人は潰れていた。ただ立木さんに関しては、今ひとつ人であると言う確信が持てない。そうか、やっぱり小谷さんもそう思うんだな。

 それで……人外の立木さん、どうかしたんですか?


「人外じゃありませんっ! いえ、諸星さんに用があってですね。IMO研究所所長としてではなくて、ブーランジェリー王国、シャトレーゼ王国、フィアッタラノーボルクランボレフェラーロアウダボルオースチジャガロルスポルスベンベシトロエ王国、スハハトクサイカス王国国王様としておいで願いたいのですよ」


 長いの5を、ちゃんと正式名称で言えるんですね。それが驚きと言って良いですか? 礼儀を尽くすためには、長いの5では失礼に当たる。言ってることは間違っていませんよ。ただ、偉そうに言うことじゃありませんけど、俺、正式名称を覚えていないんです。


「国王様が言って良いことじゃありませんね。諸星さん、ちょっと会議室までご足労願います」


 ええっと、あの会議室に、ですか。ちょっと怖いと言って良いですか。後ですね、俺って王国運営に関わっていなかったりするんです。なので、王妃様を代わりに出しちゃダメですか?


「1回目は国王様に出て貰った方が良いんです。その後は……王妃様たちに来て貰うことにしますよ」


 そこでため息を吐かないで……いえ、ため息を吐かれる理由もわかりますけどね。仕方が無いじゃ無いですか、国政はしないことを条件に王様になったんですから。

 違う、最初からさせるつもりはなかったと言ってくれるんですか。出来ないことはわかっていた……間違ってはいない気もしますけど、そこまで言われないといけないことなんですか?


「文句は、別の機会に聞いて差し上げます。取りあえず、会議室まで来て貰えませんか」


 取って食われるとかありませんよね。あと、俺って気が弱いのでプレッシャーを掛けないでくださいね。だから『嘘つき』って声を揃えないように。一応繊細な神経なんか持っていたりするんですよ。


 それで会議室に連れて行かれたんだけど。やっぱり行かない方が良かったと思わせて貰いました。ねえ、小谷さんもそう思うよな。あの人たちって、『優秀』ってオーラが半端なかったりするんだよ。そのオーラに当てられたら、俺なんて跡形もなく燃え尽きてしまうんだよ。


「その頭を取ってるのが立木さんなんですけど」


 もうね、あの人は例外中の例外だから。俺の中では、人外に分類されているんだよ。神様4人に手を出した時点で、人と言うのは無理があると思うんだ。

 それは良いんだけど、頼まれた話は俺の手に余るものでした。うん、王国として悪くないんだよ。食糧増産、しかもこちらの技術で増産できるのだったら、諸手を挙げて賛成できるんだ。ただね、それを取り仕切るのって、はっきり言って無理ゲーなんだよ。


「王様は、部下に命令をすれば良いんですよ」


 言ってることは間違っていないよ。でもね、俺が言って大臣たちが言うことを聞くと思ってるのかな? それ以前に、『誰だ、こいつ』って思われるのがオチなんだよ。


「でしたら、王妃様に指示を出せば良いだけですよね」


 そ、そう言えばそうだったな。うん、王妃様は全員優秀だから。了解、だったら指示を出すことにするよ。うん、間違いなく食いついてくると思うから。


「では、指示の方をお願いします。それから小谷さん、そろそろこちらに交じりませんか? 力関係は確立したから、心配は要りませんよ」

「そうだな。そろそろ若い人の意見も聞いておきたいところだ」

「若いと言われても、最近つくづく世間知らずだったと実感なんかさせらているんです」

「だとしたら、勉強のつもりで入ってください。大丈夫です、虐めたりなんかしませんので」


 ああ、助けを求める小谷さんの視線が痛い。でも小谷さん、悪いけど俺じゃ助けることはできないんだ。うん、思いっきり力不足なんか感じているんだからね。


「そうですか。諸星さんに期待した私がバカだったと言うことですか。そうですか、やっぱりそうだったんですね」


 うん、繰り返されても無理なものは無理だから。だから立木さん、国への指示は任せておいてください。優秀そうな文官を派遣することも考えておきますです、はい。


 と言うことで、小谷さんがドナドナをされていきました。それからジャック、グレゴリー、その程度の視線じゃ俺には効かないからな。なんだったら、君たちも仲間に入ってくるかい。それなら、俺から頼んであげても良いんだよ。

 うん、土下座をしてくれたね。だろう、人にはどう頑張っても無理ってことがあるんだよ。そしてこれは、逆立ちしても無理なことなんだ。だから俺たちは、俺たちに出来ることを確実にやっていこうじゃないか。




 囚われの姫です。いえ、言ってみたかっただけなんですけどね。


 それはそうと、今更私が交じる必要ってあったんですか? わかっていたんですけど、なんですこの化け物の集まりは。なんで、法案の草稿が次々と出来上がっていくんです? 経験の賜……この分野だったら、民間人には絶対負けないと言ってくれますか。でも普通、民間人は法案なんか作りませんよね。

 だからかな、立木さんは隅っこでお茶なんか飲んでますよ。でも一つ良いですか、どうして査閲を立木さんがしているんです? グランドデザインをしたのは立木さん。だから、そのデザインからずれていないかを確認して貰っている。


「240時間も掛ければ、詳細を詰めることが出来たと言うことです」


 240時間って……皆さんが検討を始めてから、12日目でしたか。全部で288時間しかありませんよね。それなのに、240時間もって……ちょっと異常といわせて貰います。違う、延時間なら260時間……時間のかけ方もバグっているんですけど。

 それで、具体的には何をするんですか? 異世界特区……それって、以前菅谷総理が言っていたことですよね。可能な限りソフトなハードランディングをするには、区域を限定する必要があった。ソフトなハードランディングって、言ってること自体矛盾していると言って良いですか?


「魔法で出来ることを惜しげも無く地域につぎ込もうと言うことです。売りは転移ゲートなんですが、治療用魔道具も大盤振る舞いする予定です。エネルギー関係も、かなりの部分で魔力を使うことを考えていたりするんです」


 転移ゲートが売りって……今更と言って良いですか?


「ええ、今更ですね。ただ、今までは限られた人、範囲を限定して使っていたんですよ。それを、通常の移動に利用する……例えば、駅に行って列車に乗るような感覚で転移ゲートを利用するんです。ゲートを通るだけですから、列車のダイヤなんか考えなくても良いですよね。そして移動時間も、瞬きする程度でしかないんです。既設の駅間だけの移動に限定しても、世界が変わると思いませんか?」


 でも、利用者が少なければ大したことにはなりませんよね。はい、魔王城とかブーランジェリー王国公開がありましたね。それだけでも、かなりの人数が移動することになるわけですか。


「当然、人を集めるための施設も必要になります。なので、魔法治療を行える病院を作ります。加えて、新しい日本の玄関を作ることも計画に入っています。工場誘致なんかも計画に入っているんですよ。専用魔道具を組み込めば、例えばですが今までとは違った車も作ることができますよ。後は、大学を作ることも考えているんです」


 そこまですると言うことですね。それは理解しましたけど、時間はどれだけ掛けるんですか? なんです、可能な限り短時間と言うのは。いえ、早い方が良いのはわかっているんですけど。そこに掛けるお金なんですけど、どこから持ってくるつもりなんですか?


「その辺りは、私の出番でもあるんですよ」

「いやいや源田、お前だけじゃ無理と言ってやる」

「國枝、意気込みは良いが、建設国債は最終手段だからな」


 そうですか、国の予算……そっちから引っ張ってくるつもりなんですね。でも、国会を通ると思います? と言うか、皆さんの古巣が猛反発すると思うんですよ。

 藤康さん、悪い顔をしてますけど、何か企んでいるんですか?


「菅谷総理の思いからは外れるのだが、ちょっと頭の悪い奴らを張り倒してやろうと考えている。具体的には、特区への投資を海外にも開放することだ。魔法にいっちょ噛みを考えている奴らに、餌をぶら下げてやると言うことだな」


 つまり、日本以外のお金も使うことを考えているのだと。そうですね、色々なところで手が上がりそうな気がしますよ。

 なんです立木さん、それが答えと言うのは。


「後沢氏、堀内氏は当たり前ですけど。日本の企業が黙って見ているのかと言うことです。未来の形が示された以上、乗り遅れることは企業として生死に関わることになるんです。目と耳を塞いだりしたら、株主から見放されることになると思いますよ」


 つまり、日本中から投資が集まると言うのですね。ええ、それは理解することが出来ました。ただですね、そうなると別の懸念が出てくるんですよ。はい、魔法特区……その地域だけが繁栄することに対して、反発する人たちが大勢いると思うんです。

 間違いなく、国会議員たちが利益誘導のために騒ぎ立てるはずですよ。ええ、釈迦の耳に説法と言うのはわかっているつもりです。つまり、その対策も考えていると言うことですね。


「小谷さん。これは、日本魔改造計画の一部なんですよ。まず魔法が、新しい都市作りにどのような効果を示してくれるのか。それを実証する実験なんです。だから、比較的狭い範囲に集中的にリソースを投入するわけです。そして効果が実証されたところで、特区に取り入れられた技術を展開することになるわけです。その展開先の選定をどうやって行うのか。それを考えれば、邪魔をする不利益ぐらい理解出来ると思いますよ」


 つまり、邪魔をする前に知恵を絞れと言う訳ですか。ええ、それが合理的と言うのは理解していますよ。でもですよ、世の中合理性、正当性を無視して騒ぎ立てる人たちが必ず出てくるんです。勿論、これも釈迦の耳に説法とわかって言っていますよ。


「丁寧な説明、粘り強い説得……なぁんてことは微塵も考えていません。なあ、藤康」

「その通りと言わせて貰おう。騒ぎ立てる奴は、最初から理解するつもりなんて全くないんだ。どう考えても無理筋の理論……言いがかりだな。どこにそんなことが書いてある? と言う脳内妄想を騒ぎ立ててくれるだけだ」

「主要各国に餌を撒くつもりです。従って、彼等の後ろ盾になってくれる国はないと思ってください」


 でもですよ、自分たちが有利になるために、敢えて反対勢力に手を貸すこともありますよね。と言うのか、今まではそんなことばかりだと思ったんですけど。なんです、今までの常識を捨てようと言うのは?


「立木に教えて貰ったのだが。黒幕を辿ることが可能と言うことだ。工作をすることで不利益を被るのなら、工作から手を引くことになるだろう」


 それって、思いっきり不法行為をしようとかしていませんか? ラズライティシア様とかエリシオンさんをつかって、背後関係を洗うと言うことですよね。それって、絶対に裁判で証拠として使えない奴じゃないですか。


「裁判などするつもりはありませんからね。『俺たちはちゃんと知っているんだぞ』とか『利益は要らないんだな』と黒幕に教えてやれば良いだけのことです。こんなもの、証拠を突きつける必要なんて無いんです。白を切ったとしても、私たちは気にしないで仲間外れにしてやれば良いだけですからね」


 友池さん、随分と怖いことを言っていますよね。そうですか、有利な立場でいる以上、それを利用しないのは馬鹿だと言うのですね。自分たちの利益で動いている以上、明確な不利益を提示してやれば大人しくなってくれると言うことですか。


「気持ちよく協力してくれれば、それだけ見返りを与えると言うことです。それをわかりやすく伝えれば、それなりに大人しく協力してくれますよ」


 それでも、それなりと言ってくれるのですね。ええ、素直なのは美徳じゃないと言うのはわかっているつもりです。

 後はですね、おかしな義務感に目覚めた人とか出てきますよね。後は、反対のための反対をする人とか。そういった人はどうするつもりですか?


「どうもこうも、相手にしないのが一番なのだがな。相手にすると、逆につけあがってくれるのがわかっている」

「小谷さん。ノイジーマイノリティ対策なんですけどね、無視されるのが相手には一番堪えるんです。それからもう一つ、そのノイズよりも大きな熱狂でかき消すと言う方法もあるんです」

「広告代理店を巻き込んでいましたね。あと、マスメディアとの関係も良好と聞いている。絵に描いた餅を宣伝することで、『小さな』ノイズなどかき消すことが可能だと思いますよ」


 ええっと、『怖っ』って言って良いですか? そうですか、これが経験を積んだ年寄の本気なんですね。なんです立木さん、その話は後で教えてくれるんですか。でしたら良いのですけど、嫌な予感がすると言っても良いですか?



日本って、色々と面倒だと思うんです。いえ、特になんのこととは言いませんけど。

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