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特区異世界

村の特産は異世界です


・特区異世界


 俺たちが大部屋に着いた時には、すでに立木さんが指示を飛ばしていた。それで安心できたのは確かなんだが、それを口に出すことが出来なかった。拗ねているのを認めるのは吝かじゃないぞ。ただな、素直になれないのは俺だけが悪いわけじゃない。


「諸星さん、状況を説明します。ここから南西に17kmの地点、ちょうど白鹿乗鞍スキー場になるのですが、そこに大規模な転移現象が発生しました。現在初動対応として、シアとシオンに上空からの現場確認及び緊急時の対処をさせることにしています」


 流石は立木さん。すでに手を打たれていると言うことですか。ただ、どうしてラズライティシア様とエリシオンさんなんですか、いつもなら翼人を派遣していましたよね。


「場所が良くないからです。何しろすぐ近くに宿泊客のいるホテルがあるんです。さらには最後の春スキーを楽しんでいた観光客も少ないですがいるんです。最悪、2人に空間固定……つまり、広範囲を停止させて貰う必要があるからです」


 観光客がいる場所に異世界から大規模転移……ごくり。それって、もの凄い重大事件じゃないですか。


「重大事件ですよ。それから白船君、現場の映像は入ってきましたか?」

「ドローン映像が入りました。それから、上杉さんと繋がりました」

「上杉さん、こちらの映像は届いていますね」

「ああ、しっかりとな。しかしなんだ、このおどろおどろしい存在はっ」


 上杉さんが零すほど、確かに映し出された映像は酷かった。カメラ越しなのに、もの凄い怨念が伝わってくる気がしたんだ。


「シア、シオン、何かわかったことはありますか」

「うむ、良からぬ存在と言うのはよくわかる。悪意と言って良いのか、この森のような存在から、悪意があふれ出しておるのだ」

「それから、中に入らない方が良い。多分だけど、中に入ったら悪意に食われることになる。尤も、私とおばばなら大丈夫だとは思う」

「森の周囲に、人が入らないよう結界を展開してください。それに加えて、中に取り残された人がいないかを確認してください」

「結界なら展開済みだ。それから、人の捜索はこれからすることにする」


 なんで、なんで俺は見ているだけなんだ。結局、俺は肝心な時に人任せにしているだけじゃないか。


「諸星さん落ち着いてください。この現象……現象で良いのかな。その収束には、間違いなく諸星さんの力が必要になります。それから上杉さん、官邸は何か言ってきましたか?」

「今のところこちらから一報を入れた程度で留まっている」

「場所が場所だけに、私たちが手を出しにくいんです。小谷さん、中林村長から支援依頼を貰ってください」

「は、はい、すぐに連絡を取りますっ!」

「それからダイナさん、ポルテさん……じゃなかったアルトさん、現場付近に転移をして、避難誘導をお願いします。とにかく、できるだけ現場から離れるように誘導をお願いします」

「翼人部隊直ちに誘導に出発します」

「ハイエルフ部隊、同じく誘導に出発しますっ!」

「正面に菅谷総理が出ますっ!」


 現役の総理大臣と考えたら、もの凄く早い対応ってことになるよな。それだけ、異世界事件の重要性が理解されていると言うことか。


「現時点での状況を教えてくれたまえ」

「情報が不確実であることを先にお詫びいたします。地点は現在営業を行っているスキー場となります。そこに、大規模転移……20万平米規模の転移現象を確認しました。転移してきたのは森林なのですが、観測に出たラズライティシア様、エリシオンの報告では、悪意に満ちた何者かが存在しているようです。すでに周辺に結界を展開済み、今は取り残された人がいないか確認をしています」

「つまり、まだ詳しい状況はわかっていないと言うことだな」


 今回の転移って、魔王城を超える規模なんだよ。しかも、悪意の塊ってどう言うことだ? 魔王様たちは、悪者のようで悪者じゃなかったよな。でも今回は、純粋な悪が存在すると言うことなのか?


「現時点で、IMO研究所に出来ることはここまでです。大谷村村長からの依頼があり次第、状況収束のため現地に踏み込みます」

「立木さん。中林村長から支援依頼を受け取りましたっ!」

「ドローン映像より、周辺部で倒れている者を発見しましたっ」

「シア、シオン、要救助者の救出をお願いします。それからアン、パナメーラ、蘇生を含めた救護をしてください」

「は、はい、我が君っ!」


 ええっと、我が君ってなに? と言うのは良いけど、俺の出番はまだですか? もう少し状況が掴めてから、そうですか、まだ状況がわかっていないのは確かですね。


「新たな人影をドローン映像で確認。動いているので、まだ生存しているものと思われます……ちょっとまて、なんだ、あれは?」


 そこで映像を確認。確かに、5人の人影があるんだが。白船君は何に驚いて……


「菅谷総理、そちらからも映像を確認できましたか?」

「ああ、人に似ているが、人ではないものも映っているな」

「どうやら、彼等が転移してきた異世界人のようです。シオン、結界内の時間を止めてください」

「わかった、ちょっとの間止まって貰う……抵抗がある。本気で止めて良い?」

「ええ、止めてください」

「わかった。ちょっと魔力を込めることにした。うん、ちゃんと止まったと思う」


 これで、事態の悪化は一時的に防げるってことだよな。後は、状況を確認しながら停止現象を解除していけば良いんだよな。

 それはそうと、あれって獣人だよな。以前の世界で見たことはあるんだが、こっちでは初めてって言って良いのかな?


「さて、現場の固定には成功しました。逃げ遅れ等の確認は警察に任せることにするのですが……菅谷総理、少し時間を早回ししていただけますか?」


 時間を早回しって、なに? ええっと、立木さん、説明をして貰えますよね?


「それは、私から説明をする。異世界関係について、国として重大な決断を行う予定だった。それを準備が整い次第発表することになっていたのだが、そのタイムスケジュールを早回しする必要が生じたと言うことだ」


 それって、立木さんが人と会っていた話のことですよね。


「異世界技術、具体的に言うのなら魔法技術を使用して日本と言う国を作り替える。その中心に、IMO研究所を据える予定だっ」


 ええっと、IMO研究所を中心にって……つまり、俺がトップってことですか? いえ、流石にそれは無理ゲーだと思うんですよ。だって俺、今日も自分の未熟さを曝け出してしまったんですよ。


「菅谷総理。それは少しばかり気が早すぎると言わせて貰います。藤康には言うつもりでしたが、大きすぎる揺さぶりは付いていけない者が出過ぎます。のんびりと、などと言うつもりは全くありません。ただ、やり方、発表の仕方には細心の注意が必要だと思っているんです。それから諸星さん、未熟さを実感したのなら、もっと勉強してください。今更ですが、私は謹慎中なんです。ですので、ここから先の対応は皆さんにお任せします」


 ええっと、謹慎中で逃げてくれますか? それって、逆に無責任って言いませんか? 謹慎を宣言したのに、舌の根も乾かないうちに破ってしまった。だから、謹慎期間を延ばすことにする……

 もしもし、それって俺に対する報復ですか? 前にアナウンサー……谷川さんに言われましたよね。立木さんの場合、それは責任を取ったことにはならないんです。むしろ、俺に対する嫌がらせになるんですからね。


「少し良いかな。君たちは、何を揉めているのだ?」


 なにをって……ちょっとばかり、感情の行き違いと言うものがあってですね。その、一応俺が腹を立てていることになっているんです。そして俺を怒らせた立木さんが、責任を取って謹慎することになった……あれっ、説明だけなら真っ当な流れになっているよな。


「真っ当な流れかどうかわからんのだが。もう少し、状況と言うものを考えて欲しいのだがね。諸星君、君が記者会見に出て説明してくれるのかな?」


 ええっと、絶対に無理とお答えさせていただきます。俺自身、まだ何が起きたのかを理解出来ていないんです。その状況で記者会見って、間違いなく記者さんたちにもフラストレーションが溜まることになると思うんですよ。

 だから小谷さん、そこで冷たい視線を向けてこないように。そうか、要救助者の蘇生に成功したんだな。即死魔法が使われていた……それって、もの凄くやばくないか?


「立木さんの判断が適切だったと言うことです。これまで通り翼人を派遣していたら、少なくない被害が出ていたと思いますよ。立木さん、一人の死者も出さずに事件を落ち着かせてくれたんです」


 ええっと、はい、仰るとおりです。それでも、俺が謝るのってなんか違ってない?


「ええ、腹を立てるのが正当な権利と言うのは認めますよ。でしたら、立木さんが謹慎するのもおかしくないことになりますね。そう言うことなので、記者会見には諸星さんが出ると考えて良いのですよね?」


 ああっ、チクチクと小谷さんが虐めてくれる。それで菅谷総理、記者会見なんですけど。IMO研究所からの出席は必要ですか?


「ほかに、誰が説明することが出来るのだ?」


 ええっと、確かに仰るとおりですね。だったら俺が事情を聞いて……ところでジャック、ラズライティシア様とシオンさんは?


「取りあえず状況が収束したので、帰宅してイチャイチャすると言っていました」


 それって、俺に対する嫌がらせだよな。間違いなく俺への嫌がらせだよな。だって、オルティアさんの姿も見えないんだよ。なんで、俺は何も悪いことをしていないと思うんだけど?


「それより、出動した翼人とハイエルフへの指示はどうしますか?」


 どうすると言われても、だな。どうしたら良いんだ?


「大谷村からも状況を教えて欲しいと依頼が来ています」

「諸星君、悪いことは言わん。頭を下げてでも、立木氏に天岩戸から出てきて貰いたまえ」


 小谷さん。俺が土下座をすれば収まってくれるのかな? だったら、土下座ぐらいするんだけど。なんだ、その有り難みがないって言うのは。そりゃあ、旅行に連れてってくれって何回か土下座をしているけどさぁ。でもさ、食傷気味ってのはないと思うんだ。

 事実だから認めろ……なんかさぁ、みんな俺に冷たくないか?




 天岩戸、天岩戸ってなんだってのを置いておいて。夜に行われた記者会見は、立木さんに出席して貰うことになりました。ただね、その前に『今日の異世界に行こう!』でお知らせなんかしているんだよね。ホテルの宿泊者、そして春スキーに来ていた観光客。そしてホテルの従業員とかの関係者。その全員の無事が確認できたんだ。

 そして心肺停止状態にあった4人の観光客とホテルスタッフ2人の健康状態も確認できていた。取りあえず、後遺症の恐れはないとのこと。このために、京都から御衣黄さんと武見君が飛んできてくれたよ。

 ただなぁ、御衣黄さんが俺に向ける視線。とてつもなく冷たかったって言って良いか? なんで、俺ってそんなに悪いことをしたの? 違うよね、どっちかと言ったら立木さんの方が悪かったよね。なんで、みんなに冷たい視線を向けられないといけないんだ?


「前に立木さんに突っかかったことがあるんです。その時に言われた言葉を諸星さんにも贈ることにします」


 小谷さん、立木さんに突っかかったことがあるんだ。それで結果は、当然のように返り討ちに遭った。それって、何が理由だったんだ?


「治療用魔道具を作った時のことです。その時、立木さんに異常すぎる、何者なのかと詰め寄ってしまったんです。そうしたら、自分の勉強不足を棚に上げるなと反撃されてしまいました。もうね、一つ一つ具体的に勉強不足を指摘されてしまったので、ぐうの音も出ないと言うのはこのことかと思いましたよ」


 そうか、そんなことがあったのか。それで、俺にどんな言葉を贈ってくれるんだ?


「簡単ですね。『勉強しろ』だけですよ。漫然と日々を生活するんじゃなくて、自分が置かれた環境、そして求められる行動、未来をどうするのかの展望、そのために何をすれば良いのか考えること。もっと注意深く毎日を生きて、自分に何が出来るのかを考える。立木さん、それを『勉強』の一言に込めてくれたんです。諸星さん、超越と強制……命令かな。その恩恵を持っていますよね。でも、それ以外の諸星さんが何をしているのかが重要なんですよ。だから、勉強しろと言うことになるわけです」


 勉強しろって……確かに、俺は勉強をしていなかったな。だけど、何から勉強をしたら良いんだ?


「これから見る記者会見。そこで語られることの意味を考えることも勉強だと思いますよ」


 そうか、そこから始めないといけないのか。なんだ、自分も勉強する必要があると言うのは。今のままだと、国会議員になれても役立たずでしかない。だから、もっともっと勉強が必要と言ってくれるのか。


「立木さんたちの検討に加われるぐらいにはなりたいと思うんです」


 そうか、小谷さんも色々と考えているんだな。ああ、冷凍マグロ芸だけが小谷さんじゃないってことか。それを言ってくれるな、かな。うん、少しぐらいは言い返してもいいと思うんだよ。


 それで緊急記者会見なんだけど、なんか空気がぬるくないか。なんだ、その、記者の方も食傷気味になっていると言うのは。そりゃあ、何度も緊急記者会見なんかしているよ。そして何事もなく……と言うのは言いすぎかかな。でも、本当に何事もなく世界は存続しているんだよ。

 よっぽどさ、IMO研究所の定例会見の方がエキサイティングってのは言っちゃ駄目なことかな?


「何が起きたのか、ご説明願えますか」


 やっぱりいつものアナウンサー、谷川さんが代表するんだね。もうね、どれだけ立木さんって警戒されているんだろうと思っちゃうよ。だってさ、この会見って入場に厳しい制限とか付けてないよね。それなのに、有名な迷惑記者とか出席していないんだもの。


「午後4時過ぎですね。IMO研究所本部から南西に17キロほどの所に、およそ20ヘクタールの森林が異世界より転移してきました。ただこの森林ですが、ただの森林ではなく、侵入した者を心肺停止に追い込む魔法を充満させていました。そのため、当地を訪れていた観光客、そしてホテルの従業員の合わせて6名が心肺停止状態で保護されました」

「心肺停止……ですか。つまり、死亡していたと言うことですか?」

「その辺りの定義は厳密にお願いします。心肺停止状態であって、死亡確認をされていない状態です。AEDとか心臓マッサージで救命された患者と同じ状態とお考えください」


 この辺りの定義って、簡単に言うけど深い意味を持っていると言うことか。確かになぁ、死者蘇生って言うと、かなり問題が大きくなってくれるんだよな。うん、メモメモ……


「心肺停止の定義に拘ったと言うことは、その6名は無事蘇生したと考えて宜しいのですね」

「女神フローリアン、女神パナメーラを派遣しました。そして女神の奇跡で、6人の心臓は無事活動を再開しました。御衣黄、武見両名の診断した結果、特に後遺症等は見つかっておりません」


 女神の死者蘇生じゃないのは、2人から『禁忌です』って申告を受けているんだよね。だから、あくまで救命行為なんだよ。だけど、あのパナメーラが素直に言うことを聞いたんだね。


「あれっ知らなかったんですか? とっくの昔に、彼女も立木さんのお手つきになりましたよ。階梯も上がったと、本人は踊りながら喜んでいたんですけど」


 えっ、そうなの? やっぱり立木さんって、女神コレクターになってるよな。だったらうちのアリッサも……なんだセレス、その情報が遅いと言うのは。


「強制力を使う使わないと言う話がありましたよね。アリッサに命じて、立木様に強制力を発動させたんです。その結果、無事お手つきになったんですけど……それが本当に強制力が理由なのかわからなくて、ですね。結局、娘を差し出しただけになった気がしてならないんです。いえ、私たちが望んだ結果と言うのは確かですよ」


 結局強制力が役に立ったのかどうかはわからないと言うのだね。パナメーラのことを考えると、強制力が無くても結果が変わらない気がすると言っちゃ駄目か? そうか、セレスも同じ意見なんだね。まあ、結果オーライと言うことで気にしないでおこうか。


「今現在、現場はどうなっているのでしょうか?」

「大谷村の依頼を受けて、被害拡大防止の措置を執っています。具体的には、人が立ち入らないように人避けの結界を張りました。加えて、エリシオンの手によって停止措置を行っています。これで内部からの未確認生物流出も防いでいます」

「追加の確認になりますが、それが最終措置となるのでしょうか?」


 うん、今のは暫定措置になっているんだよね。だとしたら、最終的にどうするのかは気になると思うんだ。特に中に入るだけで、人間が『心肺停止』してしまう場所だからね。一刻も早く、始末して貰いたいと言う気持ちは理解出来るんだよ。


「今回は、大谷村の依頼を受けてIMO研究所は緊急措置を執らせていただきました。大谷村の財産権を侵害していますが、村から依頼があったこと、放置することの危険性を鑑み緊急避難に該当すると思われます。そしてここから先は、法的根拠が必要となります。先の特別立法は、あくまで拉致被害者保護を目的としたものでした。そして今回は、異世界から到来した危険生物が対象となります。従って、特別法の対象外と理解しています」


 でたぁ、伝家の宝刀『法的根拠』だよ。うん、雑音を避けるためには、法的根拠を蔑ろにはできないよね。


「つまり、ここから先は政府の決定を待つと言うことですか?」

「それが大谷村でも構わないのですけど。とにかく、私たちが最終処分を行う法的根拠が欲しいと言うことです。これまでも繰り返してきましたが、IMO研究所は遵法組織なのです。同じく繰り返しますが、利益を追求する民間企業でもある訳です。ただ働きをするヒーローではないことをご理解いただければ幸いです」

「調査、分析はされていますか?」

「どこの空間から飛ばされてきたのか、ぐらいは調べてますよ。状況次第で、纏めて送り返すことも考えていますからね。あんな物騒な物をこちらの世界に飛ばしてくるのは、間違いなく悪意があると考えられるのが理由です」


 流石に事故ってのは考えられないよな。うん、確かに今の答えは納得できると思うよ。


「これ以上の措置は、政府、若しくは大谷村、長野県の決定を待って行うことになります」

「国連から残して欲しいと依頼された場合はどうされますか?」

「繰り返しますが、私たちが尊重するのは先の3者のみです。そして無邪気に『残せ』と主張された場合、その方のところに森の一部を贈呈して差し上げることになりますね」


 そして最後に脅しを忘れない。うん、これまでのフォーマットに則った会見だったね。間違いなく、谷川さんとツーカーの仲になってるよね。ツーカーの意味がわからない……ツーと言えばカーと言う間柄ってことだよ。

 余計わからなくなった……ネットで調べてくれるかな。予め言っておくけど、昔あった通信会社のことじゃないからね。


 それから特に波乱も無く記者会見は終了。それで立木さんは?


「そのまま自宅に直行されましたよ。まだ謹慎が解けていないので、自宅に引き籠もることにするそうです」


 あのさぁ、それって俺に対する嫌がらせだよね。立木さん、意外と言えば良いのか、かなり執念深いよね。


「諸星さん、少し考え方を変えてみませんか?」


 考え方を変えるって……どう言うこと?


「諸星さんへの嫌がらせでなく、仕事を拒否する口実にしていると言うことです。それでも、今回の事件対応をしてくれただけ優しいと思いますよ。諸星さん、結局記者会見対応しなくてもすみましたよね」


 仕事をさぼる口実に使われてるってこと? だけど、立木さんがいないと、いろんなものが滞ってくれるんだけど。だから小谷さん、そこで冷たい視線を向けないでくれるかな。それからジャックとグレゴリー、君たちの視線も十分冷たいよ。

 なんだ、その修行が足りないと言うのは。まだまだ視線でプレッシャーが掛けられていない。修行って、そっちの意味のことを言っているのか!




 しばらく謹慎と言う名の自宅浪人をしたのは、別に仕事をさぼる口実と言う訳ではないのですよ。もの凄く気が重いのですが、藤康との約束を守るために必要な時間だったと言うことです。優秀すぎる彼が本気で日本を改革しようとしている。恐らく、相当の覚悟を決めていると思うんです。だとしたら、私も十分に準備をする必要があったと言うことです。

 だからアンとパナメーラ……自分にも愛称が欲しいと言いますか。だったらパメラでも良いですか? そうですか、私が付ければ何でも良いと言ってくれるんですね。こう言ってはなんですけど、あなたも随分と変わったのですね。

 そのアンとパメラの協力を得て、何を提供できるのかを考えました。これまでの常識を捨て、かなりSFの部分にまで足を踏み入れたつもりです。それでも彼等の要求に応えることができるのか。常識的な自分の思考が恨めしく思えましたよ……なんですアン、パメラ。ナイナイと手を振らないように。


 それで約束の日時、朝の9時と言うのは少し早すぎませんかね。なんです、その老人には相応しい時間と言うのは。こう見えても、結構朝が忙しかったりするんですよ。ええ、小学生と中学生を、学校まで送っていかないといけないんです。

 似合っていない……お前には優しいおじいさんは似合わないと言ってくれるのですね。そんなことを言うと、黙ってここから帰りますからね……いや、そうやって全員で圧力を掛けないでください。私なんて、IT企業の下っ端管理職だったんですからね。


「立木、今更その言い訳は苦しいと言ってやる。それから、連れてきた奴を紹介する。まずは国交省OBの國枝だ。得意なのは交通行政だが、土木建設一般にも通じているぞ」

「國枝省吾と言います。高名な立木さんにお目にかかれて光栄です」


 そう言う褒め殺しは止めてくれないか。それだけで、胃がきゅっと縮まった気がするぞ。


「だから、そう言う冗談は必要無い。次だが、厚労省出身の山縣だ。医療行政全般に通じている」

「山縣寅次郎と申します。例の魔道具では、度肝を抜かされましたよ。それを主導した立木さんにお会いできて、感激を抑えることが出来ません」


 なあ藤康、これは俺に対する拷問なのか。もう、褒め殺しの域を超えているだろう。真剣に胃薬を飲みたくなってきたのだがな。


「胃痛ぐらい、魔道具で押さえられるだろう。そしてこっちが昔科学技術庁にいた田口だ。例の神岡関係にも深く関わっている」

「田口トモロウと申します。まさかあの施設が、魔法に関わってくるとは想像もしていませんでしたよ。その卓越した発想、日本の科学技術の発展に是非とも役立てていただきたいと思っています」


 なあ、本気でいじめじゃないのか。どう考えても、俺は要らないよな。お前たちで、勝手にやってくれないか?


「文句は、終わったところで幾らでも聞いてやる。それでこいつが、財務省出身の源田だ」

「源田藤一郎と言います。ドラスティックな変革で医療費の大幅削減が可能なそうですね。日本の財務状況を立て直すため、是非ともご協力願えればと思っています」

「それから、こっちが総務省出身の河野だ。地方自治の畑を渡ってきた」

「河野健一と申します。大谷村の実験、とても興味深く拝見させていただいています。移動時間を超越することで、地方分散の可能性が生まれると聞いています。是非とも、立木さんには地方創生のためにご協力願いたいと思っているんです」


 ああ、もう、好きに料理してくれ。それから友池さん、ひょっとして私が紹介しないといけないのか?


「外務省出身の友池実篤と申します。最初に立木さんに蹂躙された官僚出身者と覚えていただければ結構です。皆さん、立木さんの人当たりの良い顔に騙されないようにしてください」


 そうか、友池さんも『そっち側』なのか。これで、官僚経験者が7人揃ったのだな。だったら皮肉を込めて7人の侍と呼ばせて貰うことにするよ。


「そうか、俺たちのうち3人は生き残ることが出来るんだな。随分と優しいことを言ってくれるじゃないか」


 その部分に食いついてくれるな。だから頭の良い官僚ってのは嫌いなんだよ。


「その官僚……外務省を蹂躙した奴の言って良いことじゃないのを理解することだ。取りあえず挨拶は終わったのだから、本題に入ることにする。それから立木、この場にお前の持ち札を晒せ。その持ち札次第で、俺たちの議論も変わってくるのだからな」


 こちらの持ち札ぐらい、今まで公開してきたと思うのだがま。なんだ、その、隠しているだろうと言う決めつけは。事実だ、反論を許さないと言ってくれるのか。なあ藤康、俺はお前の恨みを買うようなことをしたか?

 手札を晒すのはいい。その前に、スキームをはっきりさせてくれ。この集まり、誰が頭を取って、誰が発表するんだ?


 全員で人のことを指差すんじゃないっ!


 いいか、俺は民間企業に籍を置いているんだよ。そして現時点での優先事項は、IMO研究所及び身を寄せている異世界人の保護なんだよ。日本のことは、ここまでぐだぐだにした官僚が責任を取るんだな。


 だから俺を指差すなっ!


 そんな真似をしたら、俺は集まりから抜けるからな。誰も頭を取らないって言うのなら、俺が指名するから文句を言うなよ。と言うことでだ、藤康、お前が頭を取るんだ。


「良いのか? 俺が頭を取って良いのか? 立木、お前は面倒を押しつけられる覚悟はあるんだな?」


 幾ら脅しても無駄だと言ってやる。俺はだな、しがないIT企業の中間管理職だった男だ。日本の舵取りなんて、分不相応な真似ができるはずがないだろう。良いか、お前たちに捲土重来の機会を与えてやったんだ。俺に感謝をして、身を粉にして働いてくれよ。

 なんだ、縦割り行政の弊害が出ると言うのは。あのなぁ藤康、流石に俺を馬鹿にしすぎているぞ。そんなつまらない柵に縛られた話だったら、俺はなかったことにして帰るからな。


「と言うことで、俺が指名をされたことになるわけだ。まあ待て、諸氏に言いたいことがあるのはわかっている。ここまでとっちらかした責任を取れと言いたいのも理解はしている。だから約束する、何があっても立木を逃がしはしない。記者会見でも、ちゃんとひな壇に並べてやるかな」


 往生際の悪い奴だな。そんなことをすると、また癒着と騒ぎ立てられるぞ。そんなものは気にしていない。年寄の集まりと言われるのも予想していると言うのか。


「その手の記者は、お前がいたら逃げていくんじゃないのか?」

「立木氏が天敵と聞いています」

「いやぁ、あの記者会見には快哉を叫ばさせて貰いましたよ」


 だから、人をなんかおどろおどろしいものにしてくれるなよな。だから、頭の良い奴らは嫌いなんだ。しかも徒党を組んで人のことを虐めてくれやがる。


「菅谷総理に白羽の矢を立てられた……違うな、菅谷総理を煽った自分を恨むことだ。その意味で言えば、俺たちも立木を恨んでいいわけだ。何しろ、お前のせいで俺たちは身辺整理なんてものをしてきたんだからな」


 自業自得と言い返してやる。日本はこのままだと持たないと言ったよな。その日本の舵取りをしてきたのは、政治家とお前ら官僚なんだよ。


「さて、お互い言いたいことは言えたか。だったら取りかかりとしてIMO研究所の立木副所長。さっさと持ち札を晒せ」


 なんか偉そうだな。この集まりのリーダー、俺が指名したと言ってくれるわけだ。一応確認しておくのだが、俺はどんな立場で出席しているんだ? 日本再生タスクフォースのメンバー……いつの間に、そんな仰々しいタスクフォースが出来てるんだ?


「今できたと言うのが答えだな。だから立木、勿体ぶらずにさっさと手札を晒せ」


 藤康なぁ、もう中学の頃とは違うんだぞ。ああ、わかってる。勿体ぶらずに晒せと言うのだな。だったらだ、幾つか魔道具で出来ることを教えてやる。いいか、見逃すんじゃないぞ。


「空間転移、で、良いのか?」


 ああ、空間転移だ。武見君の作った医療用魔道具の制限を外すと、こんなことが出来たりする。更に言うとだ、この程度のテーブルなら持ち上げることも可能だ。部屋の温度を上げることも出来るし、逆に部屋の温度を下げることも出来る。

 それから藤康、ちょっと踊って貰おうか。ああ、ハイエルフのダンス……は、ちょっと無理か。だったら、テレビで見た奴でもやって貰おうか。


「流石に、若い奴のダンスは無理があるぞ」


 ああ、命じてみてそれを実感したよ。それで、そうか、ちょっと筋肉を痛めたのだな。山縣さんでしたか、ちょっと藤康の治療をしてやってくれませんか?


「医療用魔道具と言う奴か。藤康、ちょっと右足を見せてみろ。なるほど、ちょっと炎症を起こしているな」


 流石は医師免許保有者。危なげも無く治癒魔法を使ってくれたな。


「なるほど、これは画期的と言っていいですね。すぐに使いこなすのは難しくても、時間とともに出来ることが増えていくのがわかりますよ。さてさて、医療機器メーカを幾つ潰しますかね」


 早速物騒なことを言ってくれたな。まあ、それぐらいの覚悟が必要と言うのはわかってる。それから次の手札なんだが、ちょっと女神を2人ばかり紹介する。アン、パメラ、出てきてくれるかな?


「我が君、お呼びでしょうか」


 ああ、確かに呼んだよ。ただなぁ、知らない人の前で『我が君』は止めてくれないかな。

 それはそうと、この2人が女神のフローリアン、パナメーラだ。これからの世界と名前の長い世界を守っていた女神だ。ちなみにパナメーラは、国連からの依頼でIMO研究所が保護をしている。彼女たちなら、魔力供給が必要の無い魔道具を作ることができる。


「立木、お前はそんなに女癖が悪かったか? いや、まあ、下級生の女の子に人気があったのは知ってるんだが」


 なぜ、わざわざ『女の子』と付けてくれる。ああ、別におかしなことは言っていないな。すまん、ちょっと集落の奴らに毒されていた。あそこはな、BLの好きな自衛隊員が集まっているんだよ。

 ちなみに魔道具を使えば、こんな風に空を飛ぶことも難しくない。まあ、これぐらいは魔王城公開のときにも披露していることだがな。そしてそのドアを開けて向こうに行ってくれないか。


「なるほど、空間転移ゲートと言うことか」


 そう言うことだ。菅谷総理が、物流が変わると言っていた奴だ。ちなみにここは、IMO研究所上里ベースにある会議室だ。窓の外を見ればわかると思うが、山奥にある思いっきり田舎と言うロケーションだ。

 ちなみに、転移関係は様々な展開を考えている。うちに小学生がいるのだが、防犯ブザー代わりに転移の魔道具を持たせている。何かあったら、不審者共々ここに転移をするようになっている。それから、電気を使わなくてもかなりのことが出来るようになっている。

 とまあ、今のところこれぐらいだな。ここから先は、さらなる魔法を開発しているところだ。


「國枝。どうやらお前の出番のようだぞ」

「なるほど、とてもわかりやすい手札ですな。これをうまく使えば、それだけで移動に革命が起こせますよ。加えて、物流問題の多くも解決できますね」

「ストロー現象に注意が必要だが、距離の問題を解決できることになる。首都圏に集まった人口の再配置できる可能性があるわけだ」

「実はですね。国際線の定義が変えられるのではと思っているんです。皆さん、米国大統領がIMO研究所から転移で移動したのを覚えておいでですよね」

「そうなると、転移ゲートのサイズがどこまで広げられるかだな」


 だそうだよアン、パメラ。そうか、試してみればわかると言ってくれるのだな。この通路ぐらいなら問題は無い。だとしたら、色々と使い道がありそうってことか。

 それから2人とも、呼び出して悪かったね。ああ、帰って慶子たちとおやつ……まだお昼には早いよな。しかしこいつら、手土産の一つも持ってきてないのか。官僚って奴は、本当に気の利かない奴が揃っているんだな。かすみちゃんの京都土産……そうか、陽佳ちゃんの奈良土産もあるんだな。それでも食べてのんびりとしていてくれるかな。


 と言うことで、持ち札を場に出してやったぞ。藤康、ここからどう進めるつもりだ?

 まだ隠しているだろう……あのな、適当なところで切り上げないと、時間が幾らあっても足りなくなるんだからな。適当に聞いてくれれば、出来るか出来ないかを答えてやるから我慢しろ。

 それで、お前らは一度出直してくるのか? まさか、まさかと言ってくれるのか? 着替えとか持ってきてないよな?


「その程度なら、どうでもなることじゃないのか。政治家の理不尽に耐えてきた官僚を甘く見てくれるなよ」


 そうか、そう来てくれたか。だったら俺も、メーカーのエンジニアを甘く見るんじゃないと言わせて貰う。24時間営業ってのは、官僚だけの専売特許だと思ってくれるなよ。ブラック比べをするつもりはないが、昭和のメーカーってのはブラックそのものだったんだよ。

 それでだが、コーヒーとか用意した方が良いか? 出来れば摘まむもの……サンドイッチとかあるとありがたい。だったらすぐに用意させることにしよう。じゃあここから先は、藤康、お前に任せたからな。




 可愛らしい子鹿のOちゃんです。なんです、気持ち悪いと言うのは。まあ、自分でも柄じゃないと思いましたよ。でもですよ。第1会議室に行ったら、つくづく自分が甘ちゃんだと思い知らされましたよ。もうね、空気が濃いと言えば良いのか。なんです、あの緊張感溢れる人たちは。

 菅谷総理の秘書なんかしていましたからね。ですから、あの人たちの顔ぐらいは見たことがあるんです。でもですよ、私の知っている顔とは違った顔をしてくれてるんですよ。なんと言えばいいのかなぁ、政治家を前にした官僚って、ちょっと卑屈なところがあるんですよ。でも第1会議室に集まった人たち、はっきり言って怖いと思いました。迫力って言えば良いんですかね。もうね、迫力が違いすぎるんです。


 お前は何をしに行ったのか、ですか。いえね、コーヒーと軽食を運んで行ったんです。お茶くみ仲間のセレスさんは逃げてくれたし、本田さん、藍香ちゃんはお仕事で不在だったりするんです。

 それから立木さん、『交じっていきますか』なんて言わないように。はっきり言って、私には役不足……違う違う、私では力不足ですからね。そんな怖いところに交じったら、夜眠れなくなっちゃうじゃありませんか。


「大丈夫です。しばらく寝かせませんから」


 今夜じゃなくて『しばらく』なんですか? なんです、その恐ろしい誘い方は。少しも色っぽく聞こえないんですけど。

 本気の官僚と一緒に仕事をすることで、政治家になるための勉強になる。いえ、仰ることは理解出来るんですけどね。どうして、ハードルを上げてくれますか? 今の議員さんで、この環境を仕切れる方っているんですか? いたら連れてきて欲しい……1日でノイローゼになりそうな気がするんですよ。だったら大丈夫って、なんです。そうですか、半日も持たせるつもりはないと言ってくれるんですね。


 そんなところにいられるはずが無いでしょうっ!


 それで逃げ出してきたんですけど……そうしたら、フローリアンさんとパナメーラさんに同情なんかされてしまいました。確かあなたたちも、立木さんに呼ばれて行ったんですよね。なんです、魔王様と戦うより怖かったと言うのは。

 身が竦んだと言うのは良いのですけど、なぜ濡れたと言う話になるんですか? 猛々しい殿方の空気に接したから。立木さんを拉致したくなったと言ってくれますか。


 この女神様たち、本当に大丈夫?


 それは良いんだけど……諸星さん、あの集まりに参加してみます? 副所長の立木さんが頑張っているんだから、所長の諸星さんが挨拶に行ってもいいと思うんですよ。それに諸星さん、立木さんに色々と言っていましたよね。そのことを、あの集まりの中で言ってみるといいと思うんです。

 なんでそこで土下座なんかしてくれるんですか? 絶対に行きたくない。漏れ出てくる空気が恐ろしいと言ってくれますか? それからラズライティシア様、こそこそと逃げ出さないように。あの会議室では、愛する立木さんが頑張っているんですからね。それからエリシオンさん、奈良に逃げると言わないように。ところでセフィーロさんは? 名前の長い国に避難をした……ちっ、勘が良いったらありやしない。


 それから有原さんたちは参加しないんですか? 集まってる皆さん、有原さんたちと同格ですよね? 同格には違いないが、人身御供で友池さんを差し出した。だから自分たちは、御用聞きをしに行ってくる。なんです、その御用聞きと言うのは。御用聞きは御用聞き……だから、ちょっと海外出張をしてくると言ってくれますか。

 みなさん、何をしに行くと聞いても良いですよね? まだ内緒……会議室の話に関係するので口に出来ない。本当に何をしようとしているんですかっ!




盛ってます。経験したのは、せいぜい2徹です。ただ、それを何度も繰り返しましたけど。

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