動き出す日本
村の特産は異世界です
・動き出す日本
こうして登場するのは、恐らく初めてのことだと思う。本当にそうかと聞いてくれるのか? まあ細かなことに拘ってはダメと言うことだ。
自己紹介をさせて貰うのなら、現内閣総理大臣をしている菅谷道徳と言う。それからバーコードハゲと言った者は、もれなく公安の職員がお邪魔することになるだろう……面白くなかったか。そうか、慣れない冗談を言うものではないな。
内閣総理大臣をしている私が、何故出てきたのかと言うとだ。まあ、軽い愚痴を言いたくなったからに他ならない。うむ、例の異世界と言う奴についてだ。
私が総理大臣になれたのは、その異世界のお陰と言うのを認めるのは吝かではない。そこに巡り会いがあり、運が良かったと言うのは間違っていないだろう。それでも愚痴が言いたくなるのが人情と言うものだ。
諸星君と話をした時、『帰還事業』と言う話題が出たのを覚えているだろうか。そう、こちらの世界から拉致された者が帰ってくることを言っている。その帰還事業なのだが、厳密な意味で該当するのは立木陽佳嬢ただ1人なのだ。IMO研究所代表である諸星君は、こちらで一回死んだと言う実績がある。従って、『帰還』に分類するのは微妙に違っていると言うことだ。
そして都立地蔵坂高校の件は、帰還ではなく奪還こそ相応しいだろう。日本国民を拉致した相手に対し、堂々と乗り込み無事拉致された生徒たちを奪還したのである。形こそ異世界から帰ってきたことになるのだろうが、これは帰還に分類されるべきものではないと思っている。報奨金への批判はあったが、内閣支持率維持には大いに貢献をしてくれたのは確かだ。
なぜ向上ではないのかと疑問を感じるのかね。それはだな、すでに内閣支持率は限界値に近い高さを示しているのだよ。従って、下がることはあっても上がることはないとまで言われている。世の中、一定数逆張りをする奴がいるのだよ。その支持率に引っ張られるように、政党支持率も我が党は歴史的と言って良い高さを誇っている。
ああ、何度解散総選挙の誘惑が襲ってきたことか。ただ今は解散総選挙を行う大義名分が立たないのだ。『異世界解散』が脳裏によぎったのだが、争点を明確に出来なかったと言うことだ。この高い支持率を生かせないのは残念と言えば残念なのだが、それもまた巡り合わせと受け入れることにした。
それで愚痴、愚痴なのだが。それは、今の高い支持率に関わることだ。そう、IMO研究所に振り回されていることへの愚痴だ。なんだ、あの魔道具と言う奴は。お陰でだな、日本の、いや、世界の産業界が大騒ぎになっているのだぞ。経産省、厚労省、外務省……財務省も例外ではなかったな。いずれの省庁ともに、みぞゆう……おやっ未曾有の混乱に見舞われている状況だ。
彼等が優秀と言うのは否定するつもりはない。ある意味、日本で有数の頭脳と言うのも間違っていないだろう。地頭と言う意味で言えば、間違いなく日本のトップ集団なのだ。そして十分な柔軟性も持っている、最強の集団と言うのも間違っていない。その最強の集団が、異世界出現による混乱を収束させる術を持っていないのだ。
『今こそ、政治家の出番だと思うんですよ』
私の愚痴に対して、立木氏が口にした答え。日本と言う国が作り上げた優秀なシステム、今こそ政治家が使いこなすときと言ってくれたのだ。これまでつまらない使い方しかしてこなかったツケが、この大変革の時にのしかかってきているのだそうだ。
歴代の無能どもが、優秀なシステムにおかしな癖を付けてしまったと言い切ってくれたのだ。優秀なシステム……優秀なAIなのかもしれないな。片手間で終わるような仕事、しかも前例踏襲ばかりさせたお陰で、自己保身にその能力の殆どを向けていると指摘されてしまった。
そうか、俺たちの使い方が悪かったと言ってくれるのだな
それを聞かされたとき、俺の胸に熱いものがこみ上げてくれたぞ。この年寄りの胸に、使命感と言う熱い炎が燃え上がってくれたのだ。そうか、彼等の混乱は、俺たちが指針を出せないのが理由なのだな。ならば、俺たち政治家が道を示してやれば良い。
大騒ぎ、大混乱が起きると言ってくれるのか。俺の立場なら、避けなければいけないことなのだろうな。ただな、それがどうしたと言わせて貰う。このままだと、この国は早晩立ちゆかなくなるのは見えているのだ。座して死を待つぐらいなら、主導権がこの手にあるうちに打って出るのが政治家の役目だろう。なあに、大企業の一つや二つぐらい潰れても構わん。その代わり、新しい企業が生まれてくれることだろう。何かの映画で『スクラップアンドビルド』とか言っていたが、それが日本の伝統と言うのならその伝統に乗ってやろうじゃないか。
そのために、IMO研究所をどう利用するのか。そしてIMO研究所を利用して、既存のどの枠組みを破壊するのか。ぶっとんだ発想はIMO研究所に任せることにして、それをコントロール出来る優秀な奴を拾い上げることにするか。確か経産省出身者に、立木氏の同窓生がいたはずだ。
また年寄と言ってくれるのか? 俺からすれば、それがどうしたと言う所だな。年寄りに任せておけないと言うのなら、若い奴らが前に出てくれば良いだけのことだろう。俺はな、上を向いて口を開け、文句だけ囀っている奴らが大嫌いなんだよ。
時の内閣総理大臣からの呼び出しともなれば、何事と警戒しても不思議ではないでしょう。経産省を退職してから、もうそれなりに年数が経っているのだからなおさらです。確かに私は、幾つもの企業で役員とかを拝命していますよ。自分が有能と言うのを否定はしませんが、だからと言って特別だと思うほど自惚れてもいないのです。その私を名指しで指名してくると言うのは、きな臭さ満点と言うのは確かでしょう。
察するに、IMO研究所なる異世界に関係すると言うことでしょうか。そう、色々と暴れ回っている立木氏、つまり私と彼との関係を利用することを考えているわけですか。
古巣が大騒ぎになっているのは知っていますよ。そこで私に目を付けたと言うことは、普通なら混乱を収束させる。つまり、立木の首に鈴を付けることを期待した、と普通は考える所でしょう。しかし普通を考えるのは、今の時代……と言うより、異世界出現以降間違っていると言うのはわかっているのです。しかも総理大臣自ら私を指名したと言うことは、普通ではないことを期待したと考えるべきなのでしょう。
だとしたら、『破壊』と言うのがキーワードになるのでしょうか。なにかの映画ではないのですが、スクラップアンドビルドを考えていることが想像できますね。なるほど、古巣に指示が出せないわけです。こんなことを指示したら、猛烈な反発を受けることは明らかですからね。
「その顔を見ると、私の考えていることがわかっているようだな」
今をときめく菅谷総理直々の呼び出しですからね。警戒し分析するのは当然だとお答えいたします。そしてここ1年の出来事で、予想の斜め上、で宜しかったですかね。考えたことを一つ二つ、場合によって更に数段悪い方向に考えた方が良いことを経験したんです。
だから一番突拍子もないこと、そして今の開き直られた総理なら考えられそうなことを予想してきたと言うことですよ。どうやら、私の予想は大きく外れてはいなかったようですな。
「恐らく、と言っておこうか。それで藤康君、君に一つ現状認識を問うことにしよう。取りあえず異世界のことを忘れるとしてだ、日本国は発展していけると思っているのか?」
異世界を忘れて……と言う前提ですか。しかも日本国が発展していけるかと大上段に構えて問いかけてくださりますか。敢えて他者を排して面談の場を作ってくださったと言うことは、きれい事は聞きたくないと考えて良い訳ですね。
でしたら正直にお答えすることにします。正直な話、真っ暗と言うのが答えになります。理由ですが、今更必要でしょうか?
「いや、真っ暗と言う本音が聞けただけで十分だ。では、そこに異世界出現を加えたら、状況に変化は生まれるのか?」
状況に変化が生まれるのかと聞いてくださりますか。それなら答えは簡単かつ曖昧な物になります。
状況に変化が生まれるのは間違いない。ただし、それが望んだものになるのかは不明ということです。更に付け加えるのなら、異世界技術と言うのはゲームチェンジャーになり得るものです。現在日本が保有しているアドバンテージを生かせなければ、国はさらなる衰退……茹でガエルでしたか、そうなるのは想像に難くありません。
ですが宜しいのですか? 問いかけが曖昧と仰りますか。そうですか、腹の探り合いは良くないと仰ってくださいますか。それを政治家の方に言われるのは心外なのですが……まあ、私も似たようなものなのでしょうね。
私が期待されている部分ぐらい理解しているつもりです。ただAI仕掛けのブルドーザーになるには、私では身の丈に合っていないと申し上げます。その役目は、やはり総理自身が相応しいと思っております。
私の役目が、可能な限りソフトになるハードランディングと言うのも理解しているつもりです。それにしたところで、私のカバー出来る範囲は狭すぎるのです。お考えの通り、同士を集める必要があります。ただ適当に若い人材を巻き込まないと、世論が反発するのではないでしょうか。なるほど、実力で黙らせろと言ってくださいますか。良いのですか、せっかくの支持率が暴落することになりますよ。
その対策も考えろ……要求が多すぎると言っても良いと思いますよ。まあ、そっちは立木に押しつけることを考えますよ。
では、身辺整理をして取りかかることにいたします。それから……ええ、立木とコンタクトをとりたいんです。ここまでした以上、のんびり遊んでいられないのを突きつける必要があると思っています。いつが良い、ですか。早ければ良いと言うのが答えになります。極端な話、この後すぐでも構わないと思っていますよ。
菅谷総理にお願いをした2時間後、私は虎ノ門にあるポトマックコンサルの応接室に来ている。今までなら、考えられないほどの迅速な対応に違いない。ただこの素早い対応が、時代が動いているのを感じさせてくれる。
ガチガチに緊張した所員、そうか、君はポトマックコンサルのメンバーなのだな。それはそうと、私に対して緊張する必要は無いと言っておく。
「立木さんの緊張が伝染っただけです」
そうか、立木……立木氏が緊張していると言うのか。やれやれ、額面通りに受け取って良いものか悩むところだな。
それで、ああ、挨拶が必要だな。初めまして、ではないな。久しぶり、50年ぶりと言って良いのか。藤康智義……と名乗るのもわざとらしいわけだ。久しぶりだな立木、その顔を見る限り良い人生を送ってきたようだな。
「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ。なにしろあなたは、私たち東中出身者の出世頭ですからね。どこまで目指したのかはわかりませんが、キャリアプランのかなりを実現できたのではありませんか。ああ、久しぶりですね。ちなみに、52年ぶりだったりするんですよ」
その辺りの2年は誤差だな。取りあえずお互い元気そうで何よりだ。それで、俺が引っ張り出された理由に想像がつくか?
「いよいよ私の首に鈴を付けに来た……と普通なら考える所でしょうか。ただ菅谷総理が、そんなつまらないことを考えるとは思えませんからね。それを前提に、流れに竿を差しに来たと受け取ることにします」
なるほど、お前も色々と揉まれてきたのだな。てっきり、のんびりとした余生を過ごすことを考えているのかと思ったぞ。ああ、IMO研究所に関わったのが運の尽きだな。あそこに関わって、のんびりとした余生と言うのはあり得ないだろう。しかもお前、率先して掻き乱しているよな。
それで俺の面会目的だが、お前が想像したとおりと言っておく。ああ、日本の社会構造を変えることを目的にしている。日本と言う国を、全く新しいものに作り替える。恐らく産業構造から手を付けることになると思うが、将来的には日本と言う国自体を別のものに変貌させるつもりだ。なにしろ今のままでは、日本はすぐに立ちゆかなくなってしまうのがわかっているからな。
「なるほど、菅谷総理はそこまで覚悟を決められましたか。ただ作り替えると言っても、どうするつもりですか? どれだけの力……権限と言えば良いのか、それがあなたに与えられるのですかね」
なるほど、確かに方法論を考える必要があるのは確かだ。ただそのためには、まだ頭脳が足りていないんだ。何しろこの俺にしたところで、菅谷総理に呼び出されて3時間しか経っていないんだぞ。だから立木、1週間で良い、少しだけ待って貰えるか。ああ、俺がマグマを抱えている奴らを一本釣りしてきてやる。
「一週間と言いますか?」
なんだ、1週間じゃ不足か? だったら短縮……違う、そんなに早くと驚いてくれたのか。ただこんなものは、時間を掛けても意味が無いだろう。官僚の言うことじゃない……その官僚の前に、『元』を付けてくれ。内閣総理大臣が、本気で国のために俺たちを使う気になったのだぞ。だったら、それに応えるのが国に奉職してきた者の務めだろう。『最後』のご奉公には、これ以上無い舞台だと思わないか? だから、なんで頭を下げるんだ?
「あなたの本気を見せられたから。私は、とても力強い味方を得た気がするんです」
力強い味方か。その評価はまだ早いと言ってやる。それから断っておくが、自分の仕掛けたことに後悔なんかするんじゃないぞ。
立木さんが緊張する。とても珍しい物を見せて貰ったと思う。何のことかと言うと、菅谷総理の紹介で人にあうことになったことを言っている。元経産省官僚で、今は各種企業で取締役なんかしているエリート中のエリート……すみません、友池さんたちもそうなんですけどね。それはそうとして、立木さんが相手の立場で緊張するとは思っていなかったんですよ。
なんです、相手の立場で緊張しているわけじゃないと言うのは。立木さんの経歴は、生まれたところから調べられている。まあ、少しも不思議じゃないと思いますよ。それで……
「藤康氏は、立木さんの幼なじみ……と言うのは変ですかね。中学時代、同じ部活で汗を流した仲間だそうですよ」
つまりなんです、またバグってる人脈と言うことですか? そんなに単純な話じゃないと言ってくれますか。なんです、その立木さんをコントロールしうる人物と言うのは。その藤康と言う人は、そんなに凄い人なんですか?
「経歴的に言えば、さほど私と差があるわけではありませんよ。立木さんが持っている藤康氏に対するイメージ、と言えば良いのですかね。菅谷総理は、それを利用しようと考えた……のだと思うのですが。その辺り、立木さんに対する評価によって変わってくるんです。それでも一つ言えることは、菅谷総理が本気でことを起こそうとしていると言うことです」
菅谷総理が本気で何かを成し遂げようとしている。そのために、立木さんに影響力を及ぼしうる人材を当ててきたと言うのですね。だとしたら、菅谷総理は何をしようと考えているのでしょうか。
「さすがに想像が付きませんね。ただ、かなりの覚悟が必要なこと、と言うのは確かでしょう」
かなりの覚悟が必要と言ってくれますか。しかも友池さんにも想像が付かないことだと。だとしたら、立木さんが戻ってきたところで話を伺うことにします。菅谷総理、立木さんと組み合わさったら、絶対に俺に関係することですからね。俺には、話を聞く権利があると思うんです。そして俺は、話を聞く義務があるはずなんです。
それで……立木さんお帰りなさい。随分と早いお帰りなんですね。それはそうと、何かあったのですか? その、ちょっと普段と雰囲気が違うんですよ。その、少し怖いと言っていいですか?
「ちょっと本気を出さなくちゃいけなくなっただけのことです。詳しい説明は……そうですね、緊急幹部会議で説明することにしましょうか」
立木さんが本気って……ごくり。今までのって、本気じゃなかったと言うことですか? それで緊急幹部会議……小谷さん、至急手配してくれるかな。それで、誰を集めれば良いですか?
「今回の話は、役員ほかはポトマックコンサルの5人、そして小谷さんまでですかね」
いつもなら、ラズライティシア様を呼んでいますよね。そうですか、今回の話には呼ばないんですね。あっ、生唾が出てきた。
そして招集を掛けた10分後、所長室には俺、立木さん、オルティアさん、朽木君、ポトマックコンサルから友池さん、有原さん、立花さん、御門さん、朝日さん、そして小谷さんの合計10人が集まった。全員の顔に緊張が浮かんでいるのは、ただ事ではないと言う予感があったからだ。
俺、俺も緊張しているよ。それに、怖いと思っているところもある。だって立木さんが『本気を出す』なんて言ってくれたんだぞ。
「私程度の本気ではたいしたことはありませんよ」
ご冗談をと言わせて貰います。それで、全員集合しましたよ。報告、してくれるんですよね?
「そこは命令で良いんですよ。これは、IMO研究所、並びに上里集落にも大きく影響することですからね」
そこまでのこと、なんですね。何か、最後通牒を突きつけられたとか。いや、流石にそんなことはあり得ないか。
「諸星さん、菅谷総理がこちらにおいでになった時、魔王城とブーランジェリー王国の正式オープンの日のことです。そこで、医療用魔道具の話で文句を言われたのを覚えておいでだと思います。そのときに私は、『活用プラン』の話をしたと思います。今回のことは、まさにその『活用プラン』に関係することなんですよ」
確か、医療界だけじゃなく、世界中から大きな反発があると言う話でしたよね。それで苦情を言われたときに、立木さんは確かに活用プランがあるだろうと指摘していました。ええ、指摘していましたね。でも、それと立木さんが本気を出すことの関係がわからないんですけど。しかも今日会った人って、経産省出身の方だと聞いていますよ。
「菅谷総理が考えたのは、医療と言う世界だけのことじゃないと言うことです。空間転移で、物流が変わると仰っていたかと思います。魔法と言うのは、そしてIMO研究所が実現している技術は、医療に留まらず産業構造、社会構造まで変革させる力があると言うことです。藤康……すでにお聞き及びかと思いますが、奴は私が中学の頃同じ部活で汗を流した仲間です。運動方面なら勝てたのですが、こと勉強では歯が立たなかった相手でもあるわけです。そして奴は、地元の公立には行かず、東の大学を目指すために私立に行きました。そして宣言通り、東の大学、そして当時の通産省ですね。そこに入省して、事務次官まで上り詰めてくれましたよ。私と違って、子供の頃から自分のキャリアプランを考え、そして実現してきた男なんです」
そこまで立木さんが評価するんですか。いえ、その評価を聞いただけで、ただ者ではないと言う気がしてきました。
なんです、個人の思い入れと実力は別と言うのは。そりゃあ、そうなんでしょうけど。でも、立木さんの印象って重要だと思うんですよ。
「だそうですよ、友池さん」
「キャリアプランだけで言えば、私も似たようなものを持っていましたね。加えて言うと、息子も同じ物を持っていると思っています。ただ私の場合は、代々外交官をしてきたと言う環境があるわけです。そのバックグラウンド無しでキャリアを積み上げたと考えれば、確かに傑物だと考えても良いのでは無いでしょうかね」
「それは、時代背景を考える必要があると思いますよ。当時は、東の大学から官僚になるのは、エリート中のエリートだった時代ですからね」
そうですか、そんな時代があったと言うことですね。はい。俺が生まれる前の話ですから、そうなのかと感心する程度だと思ってください。
「それで藤康が教えてくれたのは、菅谷総理が『日本を変える』決意を固められたと言うことです」
日本を変える……ですか。それって、かなり漠然としたことに思えるんですよ。理由は異世界と言うより魔法だと思うんですけど、どう日本を変えると言うのがわからないんです。
「治療用魔道具を使えば、年間の医療費が半減すると言う話をしたと思います。同時に説明したのは、各方面、規制官庁からも反発があると言うものです。日本を変えると言うのは、そういった諸々の既成概念、既成省庁、既成企業を一度スクラップにすると言うものです」
…………ちょっと待ってください。それって、一つ間違うと人が大勢死ぬことになりませんか? もしもそんなことなら、俺は絶対に賛成できませんからね。
「その辺り、見ない振りをしてくださいと言うことになります。ところで諸星さん、年間の自殺者数と言うのをご存じですか?」
見ない振りって……それから自殺者数ですか? あいにく大勢と言うこと以上は知らないんですけど。
「おおよそ年間2万人です。この数字自体、年々減っては来ています。多い時には、3万人以上の自殺者が出ていますね」
それが沢山と言うのは理解しました。それで、人が大勢死ぬこととの繋がりがわからないんですけど。
「新たに亡くなられる方は、その自殺者に分類されると言うことです。大勢と言っても、統計誤差に含まれてしまう程度になると思いますよ」
そうですか……で納得すると思っていますか? きれい事を言っているのかも知れませんが、俺たちのすることで人が死ぬ。それを誤差で済ますのは我慢できませんよ、俺は。
「それは立派な考えだと思いますよ。ただ、同時に現実を見ない考えでもあるんです。例えば医療用魔道具ですが、実用化されることで多くの人が救われることになります。その一方で、少なくない方が職を奪われる可能性も出てくるわけです。そして職を奪われた方の中から、自殺をされる方も出てくることになります。さて諸星さん、医療用魔道具が理由で自殺者が出た場合、医療用魔道具の提供を許せなくなりますか?」
それは……その場合、セーフティーネットを考えれば良いんじゃありませんか。そうすれば、職を失って悲観する方も救われると思います。
「なるほど、では受注を大幅に減らす会社が出てきます。そこで働く人に対してセーフティーネットを発動できたとします。ただ会社自体の存続は危なくなるわけです。その場合、その会社の株を持っていた方は大損をすることになります。諸星さんの考えでは、その大損をした方も救済対象になりますか? 株、投資で大損を抱え、自殺される方も世の中にはいるのですよ」
それは……だけど、それでも人の死を肯定してはいけないと思うんです。
「日本人の平均寿命はおよそ80歳半ばです。どう言うことかと言うと、殆どの方はそこまでに亡くなられると言うことです。諸星さんは、その死も否定されるのですか?」
す、すべての死を否定したわけじゃありません。そこで自然死を持ち出すのは詭弁じゃないでしょうかっ!
「では、諸星さんの考える『自然死』と言うのはどのようなものですか? 病死、事故死、自殺、他殺等々人の死因は沢山あるのですけど」
せいぜい病死……までと言うのが俺の答えです。
「つまり、病死は救わなくても良いと仰るのですね?」
そ、そんなことを言っているつもりはありません。
「立木さん、そろそろ諸星さんを試すのは止めてあげませんか?」
「虐めていると言われるかと思いましたよ。そうですね、前向きの話じゃないのは確かだと思います」
友池さん、これは俺を試していることになるんですか?
「諸星さんの考え方を確認したと言う所です。私がIMO研究所の副所長として動く以上、あなたの考えを尊重する必要があるんですよ。だからこそ、ギリギリの時の考え方を知りたかったと言うことです。まあ、諸星さんが青臭い死生観を持っているのは理解できたので良しとしましょう」
すみません。ちょっとむかついたと言って良いですか? ええ、なにか馬鹿にされている気がしてしまったんです。なんです、それが正常な反応と言うのは。本気で俺を馬鹿にしていませんか?
「どこまで諸星さんが考えておられるのか確認した程度だと思ってください。それから諸星さん、あなたが一番頭を悩ませなくて済む方法をお教えしましょうか?」
俺に、目と耳を塞いでいろと言うことですか。それを受け入れられると思っているのですか?
「違います。あなたの力で、色々と無かったことにすることです。そもそもあなたはこの世界に帰ってこなかった。異世界から、この世界に誰も来なかった。ゲートなど作られなかったと言うことです。そうすれば、こちらでは今まで通りの営みが続いていくわけです。諸星さんが責任を感じるようなことは全くないことになるわけです」
それは、今起きていることすべての原因が俺にあると言っているんですかっ!
「違います。すべての出来事が、あなたの知らないところで起きると言うことです。翼人が来る未来は変わらないのかも知れません。ハイエルフが奴隷商人に襲撃される未来も変わらないのかも知れません。竜人に襲撃される未来も変わらないのかも知れません。魔王様たちが飛ばされてくる未来も同様です。そしてシオンによって、この世界のすべてが停止されることも変わらないのでしょう。そのすべてが、あなたの知らないところで起きた出来事になると言うことです。それなら、諸星さんが責任……違いますね、義憤を感じることもないと言うことですよ」
「立木さん。繰り返しますが、そろそろ許して差し上げた方が良いと思います。まだ諸星さんがすべてを受け入れるには、時間が掛かると思いますよ」
「友池さんの仰るとおりなのでしょうね」
やっぱりむかついたと言って良いですか。構わない、むかつかない方が異常と言ってくれるのですか。その言い方自体気に入らないとは思わないのですか。
「なるほど、友池さんの仰るとおり、私は言い過ぎたようですね。諸星さんに謝罪をさせていただきます。そしてその上で、しばらく自宅で謹慎することにいたしましょう」
頭を下げて謹慎する。それで責任を果たせると思っているんですか。俺から逃げるんじゃないっ!
なんで、俺の前からいなくなれるんだっ。俺は強制力を働かせたんだぞっ!
「その、ちょっと良いですか?」
なんだ小谷さん。何か言いたいことがあるのかっ!
「少し冷静になってくださいと言うのもあるんですけどね。諸星さん、『逃げるなっ!』って命令をしたんですよね。でも立木さんは、逃げたと思っていないんです。だとしたら、強制力が働かないのも仕方ないと思いませんか?」
そんなの、間違いなく屁理屈だろう。
「屁理屈かも知れませんけど……逃げるなと言った相手は、逃げたつもりが無いのは確かですよ。それよりも、もう少し冷静になりませんか? ご自身が立木さんに誘導されたの、まだ気づいていないんですか?」
俺が誘導された……俺が腹を立てるのも、立木さんの思惑通りと言うのか? なんで、朽木君までため息を吐いてくれるんだ。
「いや、まあ、なんだ。割と見え見えだったと思うのだがな。まあ諸星氏が腹を立てる理由も理解は出来るぞ。ただ俺が言うのもなんなのだが、もう少し立木氏のことを信用した方が良いと思うぞ。あの人はだな、所長以上に人の死を嫌がっているんだよ。そうでなければ、名前の長い国だったか。魔王様たちは殺されていたんじゃないのか?」
「あの時の諸星さん、その1とかの支援依頼を受け入れるつもりでいましたよね? それをしていたら、魔王様や10傑衆の皆さんは殺されていたんですよ。立木さんは、そうなる前に一度立ち止まって『本当にそうなのか』『それが必要なことなのか』を考えてくれたんじゃありませんか?」
「小谷さんの言ってるとおりだな。漠然とした『イヤ』じゃあ、本当に人が死ぬのを防ぐことは出来ないんだよ。だから立木氏はだな、具体的に色々と教えてくれたと言うことだ。それが気に入らない、上から目線と怒る気持ちも理解は出来るぞ。ああ、直接言われたら、俺だってむかつくのを止めることは出来ないと思うからな。だが傍から見ていると、立木氏の言っていることは理解出来るんだよ」
つまり2人とも、俺が立木さんに頭を下げろと言っているのか?
「そんなことを言っているつもりはないのだがな。諸星氏が腹を立てる理由もわかっていると言っただろう。ただ、もう少し冷静になれと言っているだけだ。立木氏の言っていることだって、全部が正しいわけじゃないのは今更だろう。だったら冷静になって、ちゃんと反論をするのがあんたに求められてることなんだよ。むかついた、腹を立てて終わっていたら、そりゃ、タダの子供でしかないんだよ。癇癪を起こすこともあるのだろうが、あんたの場合持っている力が大きすぎるんだよ。だから一歩立ち止まることを考えた方が良い……で良いんだよな、友池さん」
「私が口を出す必要は無かった。それがお答えになりますね。これは年寄の戯れ言なのですが、諸星さんが腹を立てるのは求められたことなんです。あそこで物わかり良く納得などされたら、逆に心配になってしまうんですよ。ええ、考えるのを止めてしまったと言う意味で言っていますよ」
そうか。俺が冷静じゃなかったと言ってくれるのだな。ああ、それは認めるよ。認めるけど、まだすっきりとしてくれないんだ。立木さん、なんであんな俺を煽るようなことを言ってくれたんだ? 菅谷総理の思惑を伝えてくれるだけなら、別に煽らなくても問題はないはずだと思うんだ。
なんだ小谷さん、それならちゃんと話をしてみろと言うのだな。ああ、そうだな、そういった疑問の数々をぶつけるのが必要と言うのは間違っていないと思う。考えて見れば、今まで聞いたことにはちゃんと答えてくれてたよな。
だったら、今からでももう一度立木さんと話をしてみる……なんだっ、何が起きたんだっ!
なんで、一斉に警報が鳴り響いてくれるんだ。しかもこの背筋が凍りつくような感覚……絶対何かおかしなことが起きたよな。転移、ただの大規模転移なんてものじゃないだろう。す、すぐに、大部屋……そう大部屋に行って状況の確認をしないといけないだろう。ここにいる全員、纏めて転移をするからなっ!
5分、たった5分をこんなに長く感じるなんて。ああ、俺が甘かったってことは、元々わかっていたんだよ。だって相手は俺なんだぞ。しかも魔王樹から力を貰っているんだ。再生怪人が弱いってもな、やっぱり相手は俺なんだよ。だからやることのすべてが、俺と同じなんだ。まるで鏡に向かって剣を振っている……違うな、その攻撃の一つ一つは相手の方が上なんだよ。
ただ今のところ、即死魔法対策はうまく行っている。ああ、護符だけが対策じゃないんだよ。ニロがだな、対策を施した結界を張ってくれてるんだ。まあ、いざと言うときのためにセーフゾーンを作る以上のことは出来ないんだがな。それを利用して、この空間を魔王樹の即死魔法から守っていると言うことだ。
「おっ、中々頑張ってるじゃないか。ただ、これが俺たちの本気と思ってないだろうな?」
そうかもしれないが、そうじゃないかもしれないだろう。言葉で俺を惑わしていると言うことも考えられるんだよ。ただ、おしゃべりできるだけ余裕があるのは間違ってないんだろうな。
「まっ、そう言うことだな。それからそこの可愛い魔法使い。中々頑張ってるじゃないか。そうやって、魔王樹の影響を遮断しているってことか。まあ、悪くない考えだと思うぞ。ただなぁ、俺たちも即死魔法ってのを使うことが出来るんだよ」
ほらとカイロンが笑った瞬間、俺たちの持っていた護符の一枚がはじけて消えた。魔王樹対策として用意した護符、つまり俺たちの身代わりになって誰かが死んだと言うことだ。
「ほら、中に入られたら結界なんて意味を持たないんだよ。ただまあ、面白くないからこれ以降は即死魔法は使わないでおいてやる。それから言っておくが、俺たちは魔王樹が焼き払われても困らないからな。むしろ、困るのはお前たちの方ってのを忘れるな」
なんでだ、諸悪の根源が焼き払われるんだぞ。だったら、俺たちの勝利と言って良いはずだ。なんだ、『単純な奴』ってのは。俺は、間違ったことは言っていないはずだ。
馬鹿にもわかるように説明してやる。うるせえ、人のことを馬鹿にするんじゃねえよ。
「馬鹿に馬鹿と言って何が悪いんだよ。それでな、魔王樹ってのはこの世界の悪意が集まって生まれたものって教えただろう。だから今ある魔王樹を焼き払ったところで、悪意が尽きない限り次の魔王樹が生まれるんだよ。そして焼かれた魔王樹なんだがな、蓄えていた悪意を世界に放出してくれるんだ。そこまで言えばわかるだろう、魔王樹の悪意が世界中に広がってくれるんだ。だから困るのはお前らの方だと教えてやったんだよ」
そんなでまかせを信用すると思っているのか。次の魔王樹が生まれる……それならそれで、また焼き払えば良いだけのことだ。それまでは、魔王樹の恐怖を考えなくて済むだけマシだろう。
それから、悪意ってなんてものは普通にあるものだろう。それが集まったのが問題なんだから、薄まっちまえばそれで良いんだよ。も一つ言っておくが、世の中には善意ってのも残っているんだよ。
「そうか、だったら前向きと褒めてやろうか。ただな、本当にそうなのかをもう少し考えた方が良いぞ。俺たちが即死魔法を連発しない理由だが、魔王樹を焼いて貰いたいからとは思わないのか? 俺たちはな、このくそったれの世界なんざ滅びても困らない……違うな、滅びて欲しいと思っているんだよ。だったらどうするのが一番良いのか、どうしたら一番嫌みったらしくなってくれるのか。そんなことを考えていたりするんだよ」
即死魔法が連発できないのは、お前たちの事情だけじゃないのか。そんなことで、俺たちを牽制しているんだろう。良いか、俺はお前の口車なんかに乗ったりしないからな。
「そうか、見たところ護符はまだ余裕があるようだな。だったら、即死魔法が連発できることを教えてやろうか。そうすれば、少しは俺の言葉を信用できるだろう。取りあえず、2連発でも味わってみることだな」
その言葉に少し遅れて、俺たちの持っていた護符が2枚爆ぜて消えてくれた。つまりこいつの言っていることは、それなりに信用して良いことになるわけだ。ただな、俺はそこまで素直じゃないんだよ。最初から撃てる回数が決まっていたら、それを利用したペテンを考えてもおかしくないだろう。
何しろこれで、俺たちに疑念って奴を植え付けることが出来るんだからな。そして疑問を感じるほど、俺たちのパフォーマンスって奴が悪くなるんだよ。だから俺は、敵の言葉に耳を貸すつもりはないんだよ。
「なるほど、色々と考えているようだな。そこで一つ質問だ。そこで結界を張ってる可愛い子、その子を俺たちが狙い撃ちをしたらどうなるのかな? 何枚持ってきているのかは知らんが、身代わりの護符が持ってくれるのか? そして結界が消えたら、魔王樹の即死魔法が襲ってくるんだぞ。インフェルノ発動まで残すところ1分か? それまで、お前たちは持ちこたえることが出来るのかな?」
「取りあえず、2枚分ぐらい破壊してみるか。これで、5枚分消えることになるわけだ」
ま、待て、俺が相手をしてやる。お前ら、仮にも勇者だったんだろう。だったら、俺たちと正々堂々戦ってみたらどうだっ!
「なるほど、残すところ2枚程度ってことなんだな。気持ちはわかるが、騙し合いにはむいてないな、お前は」
「それからだが、魔法を使っている、特に結界に専念している魔法使いってのは無防備ってのを忘れてないか? 殺さなくても、意識を奪ってしまえばそれで終わりなんだよ」
「も一つ教えてやろうか。結界ってのは、範囲を広げるほど魔力の消費が激しいんだなぁ。しかも耐久力にしても、範囲を広げれば弱くなってくれるんだよ」
だからどうした。もう少しで、インフェルノが発動するんだよ。そうしたら、魔王樹をすべて焼き払ってやるからな。
「だったら、さっさと焼き払ってくれないか。なんで俺たちが、エクステラと魔法使いのかわい子ちゃんを攻撃していないと思っているんだ? 魔王樹を焼き払われても困らないからって教えてあるだろう?」
「ケンゴー、インフェルノの準備が出来たわっ!」
「ニロ、結界解除。全員全力で自分を守れっ!」
「インフェルノ発動っ、いけぇっ!」
王女様にははしたない気合いで、切り札インフェルノが発動。これで、魔王樹討伐と言う俺たちの役目を果たしたことになる。だとしたら、俺たちがここに残る意味は残っていない。さっさと転移魔法、俺の転移魔法で逃げ出せば良いんだよ。
あばよ、先輩。魔王樹と一緒に焼かれて死ぬんだな。
「やっぱりお前たちは甘ちゃんなんだな。木だから炎に弱い。その考え自体は間違っていないぞ。ただなぁ、相手は嫌になるほど世界の悪意を集めた魔王樹なんだよ。ちんけな魔法で燃やせるとでも思っているのか?」
「後な、お前ら教皇のことを信用しすぎだ。違うな、全部教皇の書いた筋書きなんだぞ」
「燃やそうがどうしようが、これまで蓄積した悪意はこの世界に残っちまうんだ。だったら、外の世界に捨てることを考えてもおかしくないんだよ」
負け惜しみを言うな。魔王樹は、エクステラの魔法で炎上している……なんで、燃えていないんだっ!
「だから言っただろう? 魔王樹ってのは、世界の悪意を集めたものだってな。1本2本なら燃やせたのかもしれんが、纏めて燃やすには魔力がまだ不足していたんだよ」
「そしてお前らは、魔王樹から身を守る結界を解除しちまった。魔王樹の即死魔法が、俺たちみたいに甘くないのを思い知ることだな」
ぜ、全員、俺の所に戻ってこい。すぐに、この場を脱出するからなっ。緊急転移、そのために準備してあったんだよ。
「だから、お前らは甘ちゃんなんだよ。この程度のこと、あの教皇が想定しないとでも思ったのか?」
「俺たちは、ここでおさらばさせて貰う。達者でな後輩さんたちよ」
「もう二度と会うことは無いはずだ。ああ、お前らは頑張ったよ。ただ、あの性悪に踊らされただけなんだ」
うるせい。俺たちは、まだ諦めていないんだぞ。お前らこそ、首を洗って待っていろっ!
転移魔方陣構築……なんだ、俺の魔法が上書きされていく。こんな術式、俺は知らないぞ。なんだ、一体何が起こっているんだっ!
「もう一度言ってやる。お前ら、教皇に踊らされたんだよ」
「自分の頭の悪さを恨むんだな」
「俺たちは、聖女様の結界の中で世界が滅びるのを楽しませて貰うさ」
煩い。魔方陣再構築……できない、だったら魔方陣消去。くそっ、凄い勢いで魔方陣が書き換えられていく。消せない、なんで消せないんだ。こんな魔法、俺は知らないぞっ!
「ケンゴー、私たちの周りが光ってるわっ!」
「魔王たちの姿が見えなくなったぞっ!」
それぐらいはわかってる。わかってるんだが、俺にもどうにもならないんだよ。お前ら、とにかく離れないように捕まってくれ。転移した先がまともって保証はどこにもないんだからな。それに魔王樹が一緒だったら、俺たちに生き残る術が残っていないんだよ。だってさ、身代わりの護符だって役に立たなくなるんだからな。
「ケンゴー、まだ結界を張る余力が残ってる。だから、少しだけ時間を稼げると思うっ」
ニロ、とにかくやれるだけのことをやるしかないからな。ああ、このままくたばってたまるものかっ!
ゴミはゴミ箱に。ただ産廃は廃棄基準があったりします。あまり関係ありませんね




