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特別製防犯ブザー

村の特産は異世界です


・特別製防犯ブザー


 はい藍香です。いえ、別にフェイントなんか狙っていませんよ。あまりお話をすることがなかっただけです。

 それで私は、今ロサンゼルスなんかに来ています。はい、安達マミさんの映画に出演するためです。まずは音取りと言うことで、スタジオに篭もっていたりします。でも、なんか調子が出ないんです。やっぱり、立木さん分が摂取できないからかな。遠く離れちゃったので、なんか気持ちが乗らないのよね。しかもお外は、脳天気なほど晴れ渡っているし。こんな天気の下で、私の歌って似合わないと思うんだ。立木さんの声、聞きたいな。


『藍香ちゃん、頑張ってください』


 あっ、立木さんの声っ! 悪いけど円香さん、それはもう効かないの。これまでに、一体何回聞かせてくれたと思ってるの?


「調子が出ないのですか?」


 うん、新しいバージョンを仕入れてくれたのね。でもね、今更録音じゃ効果が無いの。ああっ、立木さんに会いたいなぁ……ちょっと待って、今顔が凄いことになってるから。お化粧、お化粧っと……

 でも、どうして立木さんが? そう、円香さんがヘルプを出してくれたんだ。円香さん、ナイスって褒めてあげるわ。それで立木さん、ハグさせて貰っていいですか? と言うのか、もうハグしちゃっていますけど。ああっ、立木さんの匂いだぁっ!


 もっとこうしていたい……と言うより、このまま可愛がって欲しいんだよ。でも今は、お仕事をしないといけないよね。なので円香さん、ちゃちゃっと一曲歌ってきましょうか。うん、気分は爽快。今なら、どんな歌でも歌えそうな気がするんだ。


 Because you're not here


 これって、『あなたがいないから』って歌なの。残念でした、私には英語で歌を作る力なんて無いわよ。だから、作詞作曲はモーリアさんの方で手配してくれたのよ。でも、割と共感できると思っているんだ。それから、読み仮名は見ないようにしてね。流石に、読み仮名がなくても読めるんだからね。

 それで立木さん、私の歌はどうでした? 良かった、でも、日本語で歌っている方がもっと良いって言ってくれるんですね。それでですね、この歌は日本語歌詞もあったりするんですよ。はい、気持ちを込める練習用に自分で日本語歌詞を作詞してみたんです。せっかくですから、聞いて貰ってもいいですか? 喜んでって、言ってくれるんだ。じゃあ、今から歌ってくるからね。




 立木さん、こんなに遠くまでありがとうございます。はい、日を追うごとに藍香さんの調子が落ちていったんです。このままだとダメだと全員で話し合って、立木さんに来て貰うことにしたんです。繰り返しますが、本当にご迷惑をおかけしたと思っているんです。

 そうですか、これぐらいはお安いご用と言ってくださるのですね。ところでロサンゼルスは、なるほど久しぶりなんですね。やっぱり立木さんって神出鬼没な方なんですね。なんです、みんなでサンタモニカビーチで歌ってきたと言うのは。


「50年ぐらい前のアイドルで、サンタモニカの歌があったと言うことです。『きてぇきてぇ』って歌っていたんです。まあ、その頃は私も若かったと言うことですよ」


 そうですか。それで、ほかにどちらに行かれたのですか? 仕事でアーバイン……アーバインってどこにあるんですか?


「ロサンゼルスをもう少し南に行ったところ、オレンジカウンティと言われるエリアですね。そこにスタートアップの会社が集まっていたりするんですよ。何をしたのかと言うとですね、協業の話し合い……私は技術評価が理由なんですけどね。それでしばらく滞在したことがあったんです」


 そうですか、もしかして立木さんってエリートだったりします? その頃は、今はしっかり落ちこぼれと言ってくれますか。いえ、ちょっと素敵だなぁって思えてしまったんです。それで、こちらまではどうやって?


「トム・ブラッドレーからレンタカーで……と昔なら言ったんですけどね。今は安全の為と言って、領事館が車を出してくれたんです。ですので、外交官ナンバーの車で乗り付けるなんて、分不相応な真似をさせて貰っています。友池氏も、そこまで手配しなくてもいいと思うんですよ」


 ですが、立木さんってVIPですよね。日本政府としては、万が一のことがあってもいけないと思っているんじゃありませんか? 棺桶に片足を突っ込んだ年寄り……それって、あと10年ぐらい後のことだと思いますよ。

 それから藍香さん、いきなりテンションがマックスになってくれましたね。ええ、昨日まで……違いますね、さっきまでとは大違いです。まるで別人って言って良いと思いますよ。


 それで立木さん、こちらまではお一人でおいでになったのですか? そうですか、ポトマックコンサルから大島さんがアテンドされているのですね。大島さん……ああ、あちらでガチガチになってる方ですか。ダメですよ、若い方を虐めたりしちゃ。


「皆さん、どうして私を怖いお年寄りにしたがるのですかね。私なんて、人畜無害の優しい老人なのに」


 もしもし、流石に今のは無理がありすぎると思いますよ。一体どれだけの人が、立木さんを怖がっていると思っているんですか? 噂では、ポトマックコンサルの方たちを蹂躙されたのですよね。だとしたら、そこの若手が怖がっても不思議はないと思いますよ。


「蹂躙なんかしていないんですけどねぇ……大島君、思いっきり首を横に振らないように」


 ほら、大島さんも違うと言っていますよ。なんです、蹂躙されるのよりも酷いと言うのは。

 それはそうと、藍香さんを無視していてはいけませんね。ただ、もういきなり絶好調になってしまったんです。自分の世界に入ってしまいましたから、多分立木さん以外は目に入らないと思うんです。


 ところで立木さん、外国に来ると人肌が恋しくなりませんか? 必要でしたら、私と藍香さんで接待いたしますよ。間に合っている、間に合っていると言うのは?


「ラズライティシア様とエリシオンさんを連れてきているんです。彼女たちは、領事館の案内で観光をしているんです」


 そうですか、対策をされたと言うことですね。なぜそんなことをすると言っても宜しいですか? 藍香さんはまだしも、私は初めてと言う訳じゃないんですよ。後腐れの無い相手でも構わないんですけど。

 いえ、藍香さんが『愛人で良い』と言っているのは知っていますよ。私の場合は、もっと緩い『行きずり』の関係で構わないと言っているんです。さも無ければ、酒の上の間違い、旅の雰囲気に酔ったでも構わなかったんです。でも、お二人を連れてきてしまったんですね……はあ。いえ、私の方が人肌が恋しくなったと言えば良いのか。すみません、忘れてくだされば幸いです。


 ところでジュリアンさん、収録の方はどうです? サムズアップしてくれましたね。立木さんに来ていただいた意味があったわけですね。

 一つ質問を良いですか? なぜ、監督さんまで現れてくれたんです?


「タチキガキテイルトキイタカラ」


 そうですか、立木さんが理由なんですね。それで、なんです、お願いがあると言うのは。


「エキストラデエイガニデテモライタイ」


 酒場の賑やかし……それって立木さんが出る意味があるんですか? いえ、愚問でしたね。立木さんが居るか居ないかで、藍香さんの歌が変わってくるんでしたね。はい、確かにエキストラで出て貰うのはありだと思います。

 と言うことなんですけど、立木さんエキストラをやってみます? 端っこで飲んでいるだけなら可。大島さんも一緒に出て欲しいと言うのですね。大島さん、拒否権はありませんので悪しからず。


 それで監督さん、酒場のシーンは明後日でしたよね。立木さん、ご予定はどうなっているんですか?


「D.C.に来て欲しいと言われているんですよ。このあとレッドアイでD.C.に飛んで、あちらで苦情を言われる予定になっていますよ」


 すみません、レッドアイってどう言う意味ですか? 夜行便……西から東に行くと、夜のうちに移動することになる。ビジネスでは、比較的ポピュラーな言い回しなんですね。一つ賢くなったと思います……どうでもいい知識と言ってくださいますか。そう言うちょっとしたことが、素敵だと私は思うんですよ。




 立木さん、立木さんはアメリカに飛んで行ってしまいました。理由はですね、藍香さんのマネージャー、朝倉さんからのヘルプ依頼があったからです。おまけで言うと、アメリカに行っているマミちゃんからもヘルプが来ていました。うん、藍香さんの調子が絶不調なんだって。調子を取り戻すためには、立木さん分を補給する必要があるのだそうです。

 老人分を補給って……はっ滝のような冷や汗がっ! ラズライティシア様とかエリシオンさんも一緒にアメリカに行ったのよ。なのに、なんでっ!


 それはそうと、立木さんをリーダーにブレーンストーミングなんかしてみたんです。それで何をしたのかと言うとですね、専用機能を持った魔道具を作ってみようと言うことです。汎用品をばら撒くの危ないので、専用品なら大丈夫だろうと考えたのが理由です。

 でも、いざアイディアを出すとなると、出てこないものなんですよね。出てくるのは、飛行の魔道具とか肉体強化とか、目新しさの欠片もないものばっかり。


 その中で「イケるのかな?」となったのが転移の魔道具です。ただイケそうと言う所までは良かったんだけど、そこから先が纏まらなかったのよ。後は、どこ向けに売るのかと言うのも問題になったの。だってさ、転移なんて好き勝手にしていいものじゃないでしょ。そうなると、市場が結構難しいことになってくれるのよ。

 流石に難しいかなと全員が諦めかけたときに、立木さんから鶴の一声。鶴、鳥の鶴さんだからね。ツルって擬音の方じゃないから。立木さん、かなり減ったけどまだ髪の毛は健在だから。


「定番の自衛隊と言うのはどうでしょう。使用方法として、緊急脱出装置が考えられると思いますよ」


 その提案に、白船君が膝を叩いてくれました。だからと言う訳ではないんだけど、白船君が市ヶ谷までプレゼン資料を持って行きました。そうしたら、トントン拍子に話が進んで、実証実験をしてみようと言う話になったんですよ。ただね、流石に戦闘機を落とすわけには行かないでしょ。だから順を追って機能を実証したわけ。

 本当なら、こう言うときこそ立木さんの出番なんだけどね。立木さんは、藍香ちゃんのためにアメリカ出張中。ただ立木さんって、段取魔だったりするんだよね。だから実証実験……PoCって言うのね。その手順書なんか作ってくれたのよ。


 それで最初にやったのが、市ヶ谷で部屋から部屋への転移実験。まあ、これまで散々転移をしているんだから、失敗するはずもなかったんだけどね。それが成功したところで、次は走ってる車の中からの転移となりました。うん、移動体からの転移って、意外にやったことがなかったんだ。ただね、立木さん的に言うと『相対速度』で良いのかな? 自分が走ってるわけじゃないので、問題は起きないはずなんだって。

 そして立木さんが保証したとおり、何事もなく会議室への転移が成功しました。ちなみにこの転移なんだけど、立木さんが開発した転移を利用しています。なんでフローリアンさんのじゃないのかと聞いたら、沢山利用されたときのことを考えているんだって。


「アンやシャルロットさんの転移だと、警報が鳴りまくるんですよ。それに大芝や宇梶の所でも、観測データがノイズまみれになってしまうんです。だから、ノイズレベルの小さな方を選択したと言うことです」


 確かにね。立木さんが開発した転移だと、空間転移検知装置に引っかからないんだ。もう少し正確に言うと、閾値だっけ? それを下げると引っかかるらしいんだけどね、ノイズを拾いすぎるのであまり嬉しくないらしいよ。

 そしてもう一つ、転移先の決め方にも特徴があるんだ。だって非常時に使用するんだから、いちいち飛び先なんか指定していられないよね。と言うことで、飛び先は固定と言うことになっています。ただそれだと使い勝手が悪いので、親機と子機の形式を取ることになりました。そう、子機を持っている人が、非常時に親機の所に転移することになるわけ。そうすることで、反応を良くするんだって。

 ちなみにこの方式のもう一つの狙いは、無秩序な空間転移をさせないこと。子機だけで転移できると、悪用が出来たりするでしょ。紐付けされた同士でしか成立しない転移にすることで、悪用をしにくくすることも目的なんだ。


 走っている車からの転移を成功したことで、次はお空からの脱出にステージが移行しました。これもヘリコプター、輸送機とステップアップしていって、最後は戦闘機の後部座席からの脱出とステップアップに成功。これで、緊急脱出装置として活用できることが証明されました。

 最後におまけとして、落下中に作動させたらどうなるかの実験もしました。その前に走っているときもやったんだけど、こちらは『使わない方が良いのかな?』って結果になりました。『転移場所をプールにして良かった』と言うのが実験に参加した人のお言葉。うん、落ちてくる速度そのままで現れてくれたのよ。お陰で、派手に水しぶきを上げてくれたわ。


 実験……PoCが成功したら、次は商談と言うことになるんだけど、流石に自衛隊員の白船君に価格交渉させるわけには行かないよね。だから商談は、立木さんが帰ってくるまで延期となりました。

 そこで貰った苦情は、『せめて半年前に欲しかった』と言うものです。何のことかと言うと、年度予算のことを言っているの。有効性が高いのは間違いないけど、導入するためにはお金が掛かるのよ。そして自衛隊さんは、年度予算で動いているのよね。どう言うことかと言うと、『お金がない』ってこと。


 ちなみに立木さんからありがたい言葉を頂いていました。うん、隊員一人育成するのに、どれだけお金が掛かるのかなぁってこと。戦闘機のパイロットだと、1回訓練飛行するだけで燃料費で数百万円使うんだって。だから、数億円と言うのが育成費用なわけ。つまり、それ相応のお金を貰えと言う話なの。

 それはそうと、吉岡さんお久しぶりです。それで、お隣のダンディーな方はどなたなのですか?


「初めまして小谷さん。空自で幕僚長などしている薩田と申します」


 幕僚長の薩田さんですか。なにか、訪問の目的が予想できますね。そうですか、私の予想は合っているんですか。でもですよ、諸星さんと交渉してもあまり意味がありませんよ。諸星さん、お金の話は立木さんに頼り切っているんです。

 それでも、所長に挨拶することに意味があると仰ってくれますか。ええ、それは間違いないと思います。ですので、これから所長室……じゃなかった、大部屋に案内いたしますね。


「なぜ、所長室ではないのですかな? それ以前に、約束もなく来てしまったのですが」


 あそこだと寂しいからだそうですよ。ただ、この後は所長室にご案内することになると思います。それから諸星さん、毎日暇にしていたりしますから大丈夫です。


 そう言うことで、IMO研究所にようこそ


 ところで諸星さん、宴会の準備をさせれば良いんですね? それで薩田さん、当然結婚されているのですよね?




 立木さんが居ないとのんびりしているって言っちゃいけないかな。だってさ、ここの目的って、せこせことお金儲けをすることじゃなかったんだ。それに荷造り紐だけで、十分以上に稼げているんだよ。だったらさ、のんびり楽しくやってもいいと思うんだ。

 だからジャック、グレゴリー、そこでひそひそ話をしないように。大丈夫、俺だってやるときはやるんだよ。だけど今は、本気を出すときじゃないと思うんだ。王国かい? 王国の方は優秀な王妃様が仕切ってくれてるから大丈夫なんだ。だから、二人でひそひそ話をしないように。


 それはそうと友池さん、古巣の方は落ち着いたんですか? まさか、まさかと言ってくれますか。なんです、駐米大使に感謝をされたと言うのは。ひょっとして、立木さんが渡米したことを言っていますか?


「思いっきり文句を言えると喜んでいましたよ」


 思いっきり文句を言える……ですか。なにか、返り討ちに遭いそうな気がするんですけど。そうですか、俺の気のせいじゃないんですね。ホームグラウンドならと言うのは、相手を見ない甘い考えと言ってくれるわけですか。でも立木さん、完全にアウエーですよね。


「強力な武器を立木さんが押さえているんですよ。しかも今回は、エリシオンさんも連れて行かれているんです。そう言えば、ラズライティシア様も同行されていましたね。あの二人を押さえられるのは、立木さん以外に居ないんですよ。同席するか否かに関係なく、力関係は立木さんの方が間違いなく上なんです。だから國友、今の駐米大使なんですけど、お願いベースになるんじゃありませんかね」


 お願いベース、ですか。でも立木さん、自分はしがないエンジニアとか謙遜するんですよね。ええ、しっかり嫌味になっていると思います。そのしがないエンジニアを自称する人に、いろんなところが蹂躙されていますからね。


「それは仰るとおりなんですけどね。それから、ヨーロッパ関係からは感謝なんかされていますよ。もう、あちらがえらく下手に出てくると笑っていましたよ」


 ヨーロッパの方で……ですか。ひょっとして、EUがおかしな議論をしていた奴のことですか? そうですか、あのことを言っているんですね。各国政府が国民から叩かれている。反政府デモが、幾つも起きたんですか。それほどのことと言っちゃいけないんでしょうね。


「ええ、魔法技術の提供から仲間外れにされる……『今日の異世界に行こう!』でしたか。あれの海外配信が、かなり強力な武器になっているんです」


 ええっと、その強力な武器って……どういう意味でですか? それって、異世界への憧れと言う意味で言っています?


「番組の中で、とても無邪気に魔法で出来ることを公開しているんです。魔道具も、宴会で紹介していたりしますよね。しかも定例会見も、配信の中に入っていたりするんです。IMO研究所は、積極的に技術を公開している。しかも、各国から子供を無料招待している。という風に、しっかりプロパガンダなんかされていたりするんです。そうなると、なぜ自分の国が……と言うことになるわけです。かと言って、放送に検閲なんか出来ないんですよね。権利関係の問題も無いので、ピィ~音で誤魔化すことも出来なかったりするんです。下手に隠すと、更に騒ぎが大きくなると言う状況になっています」


 そうですか。あの番組がそんなことになっていたんですね。ただですね、流石の立木さんも想定していなかったと思いますよ。ええ、想定していたら怖すぎると思うんですよ。


「想定はしていなかったのでしょうね。ただ、利用されているとは思いますよ。定例会見のとき、私たちが用意した武器を使用されなかったのを覚えておいでですよね。あそこで立木さんは、すべて公開すると言う選択をされたんです。それを考えると、テレビ番組を利用することを考えていたのではないでしょうか」


 流石にそれはないと思う……思いたいんですけどね。思いたいんだけど、あの立木さんだからなぁ~


「そうやって疑心暗鬼にさせるのも、立木さんの戦略なんでしょうね。それはそうと、お客さんがお見えになったようですよ」


 お客さん……ああ、自衛隊から誰か来たんだね。ただなぁ、俺は価格交渉をしないことにしているんだ。だって、この手の相場観ってのが全くわからないんだよ。

 それでようこそIMO研究所へ。私が所長をしている諸星と申します。そうですか、航空自衛隊で幕僚長をされている薩田さんと仰るのですね。先手を打って言わせていただきますが、私は価格交渉をしない約束になっているんです。

 それは残念と言ってくださいますか。それなんですけど、初めからわかっておいでですよね。


「吉岡が、良いところだと散々宣伝してくれたんです。ですので、陸だけでなく空も懇意にしていただこうかと考えたと言うことです。価格のことですが、立木氏が居ない場所で交渉するのが卑怯と言うのは心得ているつもりです」


 そうですか。仲良くと言う意味なら、喜んでと申し上げておきます。ですので、今日は泊まって行かれるのですよね。それも吉岡さんに聞いていると仰るのですか。つまり、何が起こるのかも理解されておいでと言うことですか。確か薩田さん、奧さんがいらっしゃるのですよね。ええ、慣れ親しんだフレーズを言わせて貰います。


 大丈夫か、自衛隊幹部は


 ええ、ちょっとバリエーションを考えて見ました。一応IMO研究所は、自由恋愛を奨励していますよ。ただ、人間関係を壊す真似をしないのが前提なんです。なんです、その心配無用と言うのは。すっかりその気になっていませんか?


「それとは別にですね、人材を一人受け入れていただきたいと思っているんです」


 人材、ですか。白船君と言う前例がありますから、拒否する理由はないと思っていますよ。ええ、これぐらいなら立木さんに確認しなくても大丈夫だと思いますので。それにIMO研究所は、恒常的に人手不足になっているんです。ですので、この環境でやっていける方なら大歓迎と言うのが正直な気持ちなんです。

 それで、どんな人材を考えられているんですか?


「装備開発をしている部門があるのです。そこからですね、活きの良いのを一人派遣したいと思っておるのです」


 ほほう、活きの良い方ですか。ちなみに、目的はなんですか? いえ、空自の方との交流は望むところですよ。


「今回の緊急脱出装置が理由となっております。これまでやろうとして出来なかったこと、それがここなら可能になるのではないか。そんな漠然とした期待を抱かせていただいたからと言うことです」


 やろうと思っても出来なかったこと……ですか。まあ、色々とあるのは確かなのでしょうね。それから、魔法活用のアイディアを出していただけるのなら、大歓迎させていただきます。ただ一つお断りしておきたいのは、人を殺すための武器は避けたいと言うことです。

 それがきれい事と言うのはわかっているつもりです。敵基地攻撃能力とか報復攻撃とかは、通常兵器でやって貰いたいと思っているんです。勿論、核とかで脅しを掛けられたら別ですけどね。それにしたところで、核兵器に爆発を禁じてやればことが足りるんです。そのまま核を搭載したミサイルに、お帰り願うのも難しくないんですよ。


 もしもし、なぜこめかみを押さえてくれるんですか?


「想像を遙かに超えていたからと申し上げておきます。核爆発を禁じてくださいますか。IMO研究所に女神が御座すのは存じていますが、まさに神の所業に違いありませんな」


 まあ、そんなものでしょうね。ただ今の日本に戦争を仕掛けるバカは居ないと思いますよ。だってラズライティシア様とかエリシオンさんが控えていますからね。俺、俺ですか? もっと凄いことをしようと思えば出来ますけどね。ただ、立木さんから『隠しておくように』と強く言われているんです。

 ええ、切り札はなんとかと言っていましたね。


「抑止力と言う意味であれば、あの二人だけでも十分なのでしょうな。それに加えて、竜人も控えておりましたな。今の日本に戦争を仕掛けるのは、確かに愚かしいことと言えるのでしょうな。ただ、混乱を狙ったテロと言うのは十分に考えられると思います」


 それは、政治と警察の仕事でしょ……と言うのが研究所としての見解となります。IMO研究所として、できる限り人間同士のもめ事に関わりたくないんです。まあ友池さんたちも居ますから、備えだけはしていますけどね。

 ああ、一つだけ例外があったのを忘れていました。IMO研究所関係者へのテロに対しては、断固たる措置を執らせて貰いますよ。極端な話、関係者を『居なかったこと』にするのも可能ですからね。


「それがIMO研究所として譲れない線と言うのは理解させていただきました。それから一つ、自衛隊と言うのは戦わない軍隊で居たいと言うのが本音なのですよ。我々が戦うと言うことは、それだけ国民が不幸になることに直結するのです。ですので、穀潰し、金食い虫と罵られるのが身の丈に合っていると思っているんです」


 それは、とても立派なお考えと言わせて貰います。でしたら、私たちも色々と協力できることがあると思います。もしも可能であれば、上杉、武田、真田の3氏に常駐して貰いたいぐらいですね。勿論、お三方が偽名と言うのは存じ上げていますよ。

 そうですか、考慮していただけるのでね。そう言えば、虎ノ門に事務所を持っているんです。そことゲートを繋いでいますから、都内からの通勤も可能と言っておきます。帰りに使っても良いか、ですか。別に構わないと言うのが答えになりますね。


 それで小谷さん、そうか、宴会の準備は出来ているんだね。だったら少し早いですが、大宴会に突入することにしましょうか。大丈夫ですよ、この宴会、簡単に終わったりしませんから。


 それで翌朝、翌朝なんだけどね。色々とあったと言う噂は聞いたけど、細かなことは教えて貰わなかった。だって薩田さんが翼人としっぽり言ったとしても、今更としか言い様がないんだ。これで薩田さんが干からびていたりしたら別だけど、普通に挨拶して帰って行ってくれたんだ。だったらさ、気にしても仕方がないと思わないか?

 それから薩田さん、吉岡さん、お持ち帰りは不可なのは言うまでもありませんからね。翼を隠していようがどうしようが、若く見える女性を連れて帰ったらマスコミに叩かれますからね。


「諸星さん、週刊誌にIMO研究所が性接待していると書かれたらどうします?」


 そんなもの、事実無根……とばかりは言い切れないのか。だけどな、俺は一度も接待しろなんて言ったことはないんだぞ。それから自由恋愛を否定もしていないんだ。

 なんだ、そのどこかの風俗と同じと言うのは。出会った瞬間恋が芽生え、そのまま性行為に及んでしまう。そして性行為が終わると、その恋も冷めてしまうと言う風俗があるんだ。それとどこが違うのかって言われてもだな。少なくとも、お金を目的とはしていないんだぞ。


「自衛隊って、IMO研究所の上得意様ですよね?」


 そ、そりゃあ、たくさん買って貰ってるけど。買って貰ってるのは確かなんだが……だから、性接待しているように見える。指摘されたら、否定が難しいと言ってくれるのか。その辺り……どうしたら良いと思う?

 偉い人には遠慮して貰う。だけどなぁ、なぜか偉い人の方が精力的なんだよなぁ。うん、取りあえず問題はわかった。だから、立木さんが帰ってきたら相談することにしよう。


 ああっ、小谷さんの冷たい視線がぁ


 ゾクゾクすると言っちゃ駄目か。そうか、気持ち悪いから止めてくれと言ってくれるのか。うん、俺も気持ち悪いのかなぁって思ったのは内緒だ。




 あんまり東海岸って、思い出がなかったりするんですよね。スミソニアンとか見に行ったこともあるんですけど、それ以外はあまり観光をしていないんですよ。その辺り、治安の問題を警戒したからと言うのが大きいんですけどね。

 なので大島君、行きたいところがあったら連れて行ってくれるかな? そうか、世代格差があるから無理と言ってくれるのか。確か大島君は、うちの娘の後輩に当たるんだよな。息子と同い年……ああ、無理に話を合わせようとしなくても良いんだよ。無理と言うのはよく理解出来たからね。


 それで、これからの予定は? やっぱり、大使館に行かないといけないのか。まあ、ここまで来たんだから今更と言うのは確かなのだろうね。それでも、やっぱり気が進まないんだよ。

 いやね、私は温厚な年寄りのつもりでいるんだよ。前の職場だって、人当たりの良さが評価もされていたりしたんだ。指導が親切と言うフィードバックもあったりしたんだ。それなのに、どうして怖がられなくちゃいけないんだろうね。


「そんなことを、いけしゃあしゃあと言えるからだと思います」


 酷いね。全部本当のことなんだよ。もうさ、全部放り出してのんびりとしたいんだよ。

 そうか、あれが大使館が差し向けてくれた車なんだ。ここからはシアとシオンは別行動……見張っていなくても大丈夫なのかな。ああ、私が監視役になろうかと思ったんだよ。


「意外に往生際が悪いんですね。ここまで来たら、大人しく文句を言われてください」


 なぜ、文句を言われることが前提になっているのかな? そうか、外務省全体が振り回されていると言うのだね。その辺り、自分たちの手際の悪さを棚に上げていないのかな?


「そんなことを言うから、怖がられるんですよ」


 そうか、やっぱりそうなのか。それから大島君、結構言うようになったね。ああ、良い傾向だと思うよ。

 ところで思いっきり疲れているんだが、このまま大使館に連行されるのかな? 疲れているところが狙い目……細かな配慮が出来なくても良いんだね。


 それからシア、シオン、大人しく観光してきてくれるかな。お昼……お昼かぁ。別々になるんじゃないのかな。それから夜は、疲れたから転移で戻ろうか。大丈夫、ホテルの部屋はそのままにしてあるんだよ。

 そう言うことなので、二人とも騒ぎを起こさないように。


「キヨヒコよ、ぬしがそれを言ってくれるのか?」


 私は言っても良い立場だと思いますよ。少なくとも、私は騒ぎを起こしたことはありませんからね。


「敵なら沢山作っておると思うのだが。まあ、騒ぎにはなっておらんのだろうな」


 敵も作った覚えがないのですけどね……それから3人で『嘘』と声を揃えないように。


「これだけ沢山の監視の目を引き連れておいて、よくもそんなことを言ってくれるな」


 年寄りは鈍感なんですよ。だから、細かなことは気にしないことにしているんです。それが生きていく上の知恵と言うことですよ。


「われより2桁も若いくせにな。まあ、そう言うことにしておこう」

「私は、ババ孝行をしてくる。それから、誤差と言うのは受け付けない」


 仲良く遊んできてください。早く終わったら、私があなたたちを追いかけますよ。

 と言うことで、虐められに行きますかね。




 私、私ですか。ポトマックコンサルの若手で、大島と申します。今回友池さんに指名されて、立木さんの鞄持ちをすることになりました。はい、しっかり貧乏くじを引いたと思っていますよ。だって立木さん、友池さんたちを蹂躙されているんですよ。私たちの間では、『恐怖の立木』と言われていたりするんです。

 しかも立木さん、ぱっと見は温厚そうと言うのが更にたちが悪いと思うんです。それで油断なんかしたりすると、思いっきり痛い目に遭わされてしまうんです。野良のジャーナリストにとっては、天敵のような人だと思いますよ。


 それでなぜ私が鞄持ちになったかと言うと、もの凄く単純な理由があったりします。ええ、私はお嬢さんの大学の後輩に当たるんですよ。だから、多少のことは大目に見て貰えるんじゃないか……貰えたら良いなぁレベルで選ばれたと言うことです。

 あの立木さんですよ、そんなことで遠慮をしてくれるとは思えないんですけど。


 それはそうと、鞄持ちなんですけど、それなりに役得があったりするんです。ハリウッドに行って、安達マミさんとか敷島藍香さんを間近に見ることが出来るんです。しかも普段着の藍香さん……集落で何度か見た記憶もあるんですけど……普段着の藍香さんを見ることが出来るんです。その視線が誰に向けられているのかは気にしないことにしていますけどね。

 それからですけど、藍香さんのマネージャー、朝倉円香さんも素敵だったりするんですよ。俺……失礼、私も独身ですからね。ああ言った綺麗な女性とお近づきになりたいなぁ、なんて思っていたりするんです。

 翼人やハイエルフはどうか、ですか。いえ、皆さんお綺麗だと思いますよ。それに、スタイルもかなり良いと思います。意外に思われるかも知れませんけど、闇エルフが良かったりするんですよ。見た目はハイエルフとは互角、胸回りは圧勝なんかしていますからね。


 ただ私はIMO研究所の中では下っ端なんです。ですので、彼女たちに手を出すのは分不相応だと思っているんです。しかもですね、実家からは『早く嫁を連れて来い』なんて煽りが入っていたりするんですよ。異世界人を連れていったりしたら、両親が卒倒してくれそうな気もするんですよね。

 なんです、自衛隊員を見習えと言うのは。もしかして、白船氏のことを言っていますか? そうですか、白船氏のことを言っているんですね。


 私は、オタクじゃなかったりするんですよ


そう言うことなんです。なんです、現実として異世界人が目の前に居る。それを見てどう感じるのかが重要だと言ってくださいますか。ええ、それを否定するつもりはないんですけどね。


 それはそうと、鞄持ちの私は立木さんについてD.C.にやってきました。そしてこれから、友池さんの昔の職場。そう、日本大使館を訪問するんですよ。だから立木さん、今更愚痴っても遅いですよ。それにですね、私だって愚痴りたい気持ちで一杯なんですからね。

 それで大使館が差し向けてくれた車で大使館まで移動。こうして見ると、意外に建物は小さいんですね。それは良いのですけど、早速大使御自らお出迎えですか。もう戦闘モードに入っているんですね……水の要らない胃薬、持ってきてたよな。


 そこでにこやかに握手をしてから、大使館の中へとご案内。勿論、私は鞄持ちですからね。後ろから大人しく付いていきましたよ。

 それで大使執務室の立派なソファーに……私は鞄持ちですから、隅っこのパイプ椅子で。こっちに来い、と言われてもですね。そうですか、上司命令なんですね。そんなことを言うから、みんなに怖がられるんですよ。


「皆さんに、多大なるご迷惑をおかけしているようですね。深くお詫びいたします」


 いきなりそれを言ってくれますか。それって、間違いなく嫌味ですよね。しかも最初に謝罪をされると、文句も言えなくなってしまうではありませんか。ほら、國友大使、目元がしっかりと引き攣っていますよ。


「いえ、こちらこそお世話になっている……もう少し言うのなら、気を使わせていると思っているんです」


 だから、こんな言い方になるんですね。いやぁ、そろそろ胃薬を飲むことにするかな。


「私なんぞ、しがないIT企業の元管理職ですからね。外交的なことはさっぱりわからないんです。ですので、皆さんに助けていただいて深く感謝なんかしているんです」


 嫌味か、これは嫌味なのか? だから、IT企業の管理職だったのは事実と言わないように。だぁれも信じちゃいないんですからね、その経歴。

 それから、褒め殺しはよくありませんよ。國友大使、目元の引きつりが大きくなってますから。


 その後、その後ですか。立木さん、外交の素人を貫き通してくれました。しかも海外活動は苦手で出来ないので、海外で事業展開するつもりもないと主張してくれたんです。

 この煙幕……大使の所に会見希望が沢山来ていることに対してのものなんです。隠していませんから、立木さんが訪米しているのは知れ渡っているんです。後からこっそりと教えて貰ったんですけど、医療関係以外の方が多かったそうです。わかりますよね、軍事研究しているところが我先にと面会を希望したと言うことです。

 当たり前ですけど、魔法ってゲームチェンジャーなんですよ。特に転移なんて、使い処があり過ぎると言うのが正直なところです。なんです、軍事関係は自衛隊を窓口にしていると言うのは。日本は武器輸出に関して厳しい縛りがある。IMO研究所は、その縛りに挑むつもりはこれっぽっちも無いと言ってくれますか。それって、面倒を他人に押しつけていますよね。


 俺、違う、私は國友さんが薬を飲んでるのを見ちゃったんです。ええ、俺と同じ胃薬を飲んでいたんです。色々と文句を言おうとしたのに、『しがないIT企業の管理職上がり』をその都度持ち出してくれるんです。どう言うことかと言うと、期待値が高すぎると言っているんです。

 武器、道具立ては用意してやったから、後は自分で頑張ってみろ……と言うのが友池さんが翻訳してくれた立木さんの言葉です。もうね、性格が悪いとしか言い様がないと思うんです。


「外務省の方には迷惑でしたでしょうか?」


 なぁんて言ってくれるんですよ。その心は、迷惑だったら無料招待とか、魔道具とかの窓口を取り上げると言う意味なんですよ。それをされるとですね、各国に置かれた大使館の立場がもの凄く悪くなるんです。國友さんが理由なんてことになったら、即刻大使召還の上後任が送り込まれることになってしまうんですよ。そうなったら、國友さんのキャリアも閉ざされてしまうことになります。もうね、最初から勝ち目のある戦いじゃなかったと言うことです。

 そうか、だから友池さんが、哀れみの篭もった眼差しをしていたのか。これを見せられたら、あの眼差しの意味もしっかり理解出来ますよ。敵じゃなくて良かった……心から安堵なんかさせて貰いました。


 だから立木さん。怖くないと言う反論は受け付けません。ですので、國友さんが吐血する前に帰ることにしましょう。映画のエキストラ、やるんですよね。はい、結構楽しみにしていたりするんですよ。




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