白いカラス天狗
村の特産は異世界です
・白いカラス天狗
白船君の連絡を受けたからだろう、自衛隊の動きは迅速と言って良い物だった。何しろ連絡をした2日後に、先日現れた戦国武将トリオがやってきたのだ。そして集落に現れた3人は、勢揃いした翼人を見てこめかみを押さえてくれた。
「すまん、まだ現実として受け止められていないんだ」
前回同様、上杉氏が俺たちの窓口になってくれた。その上杉氏は、「本当にいるとは」と後ろに回って白い翼を確認までしたのである。
その気持ちはわかるので、彼らのしたいようにさせることにした。最後に納得した3人を連れて、俺の家へと案内することにした。その際翼人たちの代表も一人連れて行くことにした。ちなみに彼らの代表は、押し付け合いの末ハイエースが就任していた。
「こうして現実を見せつけられた以上、今後も異世界から来訪者があることを前提にする必要がある」
ご理解いただけて嬉しいと思いますよ。ただ今後のことを考える前に、目の前の問題を解決する必要があります。具体的な問題は何か、ですか。当たり前ですけど、彼ら20名の住まいを解決する必要があるんです。
今はどうしているのかですか。広さだけは十分にある集会場に、男女を分けて雑魚寝をして貰っています。特に男性は4名ですからね、控え室に侵入禁止処理をして隔離してあります。
「あー、一つ疑問が湧いたのだが。それを先に解消して良いかな」
ええ、構いませんよ。白船君が報告したとしても、受け入れられるのかは別だと思っていますので。
「では遠慮無く。なぜ、男性4名を隔離する必要があったのかな?」
女性側の4名ですが、まだ発情衝動が収まっていないからです。
「4名程度なら、小谷さんの家を開放すれば良いのでは?」
そして小谷さんは、エクシブの家に入れば良いと言うのですね。それが一つの方法と言うのは認めます。その場合の問題は、いささか扱いが不公平と言うことでしょう。ですので、できるだけ不公平にならないよう男性側も集会所を利用しました。
勿論、小谷さんの気持ちも尊重していますよ。
「そうか、だったら喫緊の課題解消を考えることにしよう」
そう願えると幸いです。それで、どちらから話をしますか?
「どちらからとは? 彼らの住まいが問題だと思っているのだが?」
ああ、それ以外は問題とは考えていないと言うことですね。でしたら、こちらからも一つ問題提起をすることにします。
そこそこの予算を使っているのですから、何らかの貢献・成果が必要ではないのですか? その方法をどうするのかと言うことです。ご理解いただけたでしょうか。
「貢献・成果と言うのだね。常識的に考えれば、あなたの言っていることは極めて正しいと思っている。ただ、この状況はその常識を当てはめにくくなっている」
理由を教えて貰えますか?
「君たちの存在が、極秘中の極秘になっているのが理由だ。何しろ、総理大臣にさえ報告していないぐらいだ。従って、市ヶ谷に連れて行くこともできない。あなただけならまだしも、エルフに翼人では、どう頑張っても秘密を守りきることは出来ないだろう」
つまり、まだ情報公開までたどり着けないと言うことですか。まあ、色々な常識がひっくり返りますからね。教会勢力も怖いですし、中東の方でも騒ぎが起きそうと言うのはよくわかります。
「その翼人を連れていけば、君が聖人認定をされそうな気がするのだがな。尤も、聖人程度では不満と言うのもわかってはいる」
別に、聖人に認定して欲しいとは思っていません。むしろ、そんな面倒は御免被ると言うのが正直な気持ちです。
「そうか、できないと言われていた中東の恒久的和平が実現するのかもしれないぞ」
そして、俺たちが予言者や地上代理人に認定されると言うのですか。上杉さん、宗教問題を甘く見ていますよね。本気で和平実現とか言っていないと思いますけど。
「今ので、君に功名心がないのは理解出来た。従って、貢献して貰う方だが、まだ検討中と言うことになる。それまで恩を売っておくので、適当なところで纏めて返してくれれば良い」
纏めて返せ、ですか。それはそれで、怖いと言うのは贅沢ですかね。まあ、方法については任せますので、あまり負担にならないようにお願いします。それから翼人ですけど、貸し出しでしたらいつでも受け付けますよ。
解剖しますか……どうかしたのかなハイエース、青い顔をして。冗談にならないので止めてくれ。ラズライティシア様に、恐怖は散々すり込まれたと言うのだね。いやだな、こんなことを冗談では言わないよ。もっと悪い、まあそのつもりで言っているからね。
「それでもう一つの問題、住環境整備の方なのだが……話を変えても良いかな?」
ええ、構いませんよ。ただその前に、こちらから情報提供を一つします。先日翼人族が襲来したときのことで、SNSとか調べて貰いましたよね。
「目撃情報がネットに出ていないかと言うことだな。こちらで調べた範囲では、SNS等に画像情報を含めて情報は出ていなかった。それが、なにか?」
それなんですけど、実は目撃者がいたんです。ええ、それが近くにある集落の住人なんです。役場の出張に上村さんと言う方がいるんですよ。その方の呼び出しを受けたので行ってみたらですね、集落の上を大きな白い鳥が飛んでいたと噂になったのだそうです。お年寄りなどは、白いカラス天狗だと騒がれたそうなんですよ。後はですね、科学忍者隊とか量産機とか言うのも有りましたね。ところで、科学忍者隊とか量産機って何ですか?
知らない、それでどうなったのかですか。はい、勿論何かの見間違いだとは言っておきましたよ。さもなければ、見たとおりの白い鳥じゃないのかとね。ただ上村さん、中二病でいいですか、中二病に罹っているようなんです。それはですね、自衛隊の秘密部隊の訓練でしょうと聞かれたんです。その辺り、何度も自衛隊のヘリがここに来ているからなんですけどね。
「われわれが、何かを隠すために廃村を利用していると言うのだね」
上村さんは、そのように妄想したと言うことです。何かの新兵器だと思ったのでしょうね。まあ現実は、その妄想よりも先に行っているんですけど。
ところで上杉さんたちに質問します。彼らが飛んでいる姿を、その目で見てみたいと思いますか? 是非とも、映像に収めて帰りたい、ですか。はい、了解しました。それでハイエース、今の要請を理解出来たかな。そう、優しく言っているうちに大人しく従った方が良いよ。それとも、ラズライティシア様とかエクシブをけしかけようか?
それだけは勘弁。何でも言うことを聞きますと言うのだね。ところで上杉さん、カメラは用意していますか? ええ、今、ハイエースに上半身裸になって貰いますので。触ってみたいでしょ、本物の翼って奴を。何でしたら、女性の翼人も連れてきますよ。流石に上半身と言えども女性はまずい、ですか。無駄飯を食らっているんですから、それぐらいは我慢させますよ。後で公開したときにばらされたら怖い。その手の団体を甘く見ない方が良いと言うことですね。
そう言うことなので、さっさと上半身裸になってくれるかな。寒いから手早く済ませて欲しいのだね。それならそれで、大人しく従ってほしいものだね。
翼人のデモは、上半身裸の男性4名の編隊飛行で終わりを迎えた。ちなみに女性も混じったのだが、こちらはしっかりと厚着をしての参加である。やはり間もなく師走を迎える長野の山奥は、冷え込み具合が半端ではなかったのだ。
ああ、セレス。頼んで悪いけど、何か体の温まるものを振る舞ってやってくれ。こちらは……酒でも飲ませておけば大人しくすると思うぞ。
それで簡単なデモは終わったのですが、残っている問題について考えを教えてください。
「温泉設備を持ったホテル、保養所のようなものを建築することを考えている。ただ今からだと、どんなに急いでも半年ぐらい掛かるのだよ。それでその施設なのだが、部屋数をどの程度見積もっておけば良いのだろうか」
ちなみに、部屋の広さはどうしますか。ああ、一人当たり8畳間ぐらいを考えているのですね。バストイレは? バスは大浴場で、トイレは部屋に付けてくれるのですね。洗面所は共同にすると。
えっ、俺に聞きたいことがあるのですか。ええ、どんなことでしょう。
「部屋風呂……露天風呂付きのスイートルームを作った方が良いのかと言うことだ」
誰が使う部屋ですか。そうですか、俺が使うことを考えているのですね。今の家がそのまま使えるのだったら、必要無いと思いますよ。
「だとしたら、少しグレードを落とした特別室を複数用意することにしよう。そうしておけば、リーダー格の部屋に使えるだろう」
それは別に構いませんけどね。それで部屋数なんですけど、取りあえず40程度で見積もって貰えますか。ただ今後増築が必要になることもあると思います。別館でも構わないのですけど、その計画は立てておいてください。
それで一つ大きな問題があるんです。そんな身構えないでください。取りあえず困っているのは、翼人たちの食事なんです。今はセレスとルーテシアにやって貰っていますが、誰か調理担当の人を派遣して貰いたいんです。
必要性は理解した。白船、神代のような人材を探してみると言うのですね。やっぱり、ああ言った人材は数少ないのですか? えっ、違う、むしろ逆なんですか。その聞いておいて何ですけど、大丈夫なんですか自衛隊。
心配する気持ちはわかるが、私生活と任務は区別して貰っているですか。白船君や神代さん、来たときに比べて生き生きとしているんですけどね。生活に張りが出来ることまでは、文句を言うことは出来ないと言うのですね。まあ、理解出来ることですから、これ以上文句を言うのは止めておきます。
いずれにしても、施設が出来るまでに半年は必要と言うことですか。それまで凌ぐために、仮設住居を用意してくれるのですね。加えて、大きめのプレハブも用意してくれると。目的は、人数が増えても良いように食堂用にするのですか。従って、調理場も作ってくれるんですね。すぐに、調理人も見繕って派遣して貰えると。
驚いている。そりゃあ、こんなに簡単に要求が通るとは思っていませんでした。それに、予算だってかなり厳しいんじゃ有りませんか。お金の出所は気にするな、ですか。確認しておきますけど、おかしな紐付きと言うことはありませんよね。
住まいの目星が付いたとの連絡は、なぜか1週間後に小谷さんに教えて貰った。前回訪問時には、半年後と言われていたのだ。それを考えれば、頑張ったで済ますことは出来ないと思う。多分だが、場所の目処を付けていたのだと思う。
「それがですね、途中に5年前に廃業した温泉旅館があったんです。破産管財人と交渉して、買い取りに成功したのだそうです。尤も、あちらも厄介払いが出来て喜んでいると思いますよ。隣の資料館も合わせて買収しましたから、広さだけはそこそこ確保できるそうです。ただ老朽化が進んでいるので、補修しながら使うことになりそうです。場所ですか、県道を分岐してこちらに入ってきましたよね。そこを分岐しないで、200m程進んだところです。加えて言うとですね、直線で500m程離れたところにある温泉旅館も買い取ったのだそうです。こちらも老朽化が進んでいるので、使用開始は改装後になるそうです。えっ、すぐに使用するのですか。いえ、ボロくて手を加えないと人が住めないって言ったんですけど……聞いてます? えっ、俺の力を忘れたのか、ですか?」
そう、ボロい程度なら『命令』してやれば事が済むのだ。さっさと相談してくれれば、今からでも引っ越しは可能なはずだ。
「あー、そう言えばそんな真似ができたんですね。でしたら、さっさと直しに行きましょうか。ちなみに、ばっちり温泉があるそうですよ」
だとしたら、善は急げと言うところだ。それからもう一つ、調理人の方はどうなってる?
「そちらは、仮設住居が出来たところで派遣する予定なのだそうです」
人選程度は済んでいると考えて良いわけだ。だったら、早急に入れ物の整備を済ませることにしよう。だから小谷さん、白船君を連れてきてくれるかな。ああ、彼には自衛隊側の証人になって貰うつもりなんだ。
見学したいと言うことで、ハイエースとヴェルファイアも連れて行くことにした。ちなみに彼ら、翼を隠すことは出来ないそうだ。ただ寒いからと言うことで、小さく折りたたんでダウンジャケットの中にしまい込んでいた。気にしなければわからない……と言うのは流石に無理はあるが、多少背中が膨らんでいる程度で収まっていた。
歩いてもたいしたことはないのだが、集落の入り口から白船君の運転で現地へと向かった。車に乗って5分と言うのは、雪道と考えればおかしなことではないのだろう。
廃業して5年経過したこともあり、建物の傷み方は想像以上のものだった。そして隣接する資料館にしても、傷み方は大差の無いものだった。いくつか温泉があったのだが、汚れ放題かつ給排水施設もそのままでは使えない状態になっていた。
「調理器具とかはあるんですけどね。当たり前ですけど、プロパンガスを供給する必要があります」
ガスが無くても調理できるようにするのはやり過ぎか? そうか、やり過ぎなのか。だったら、調理器具には手を加えないことにする。ところで小谷さん、営業していたときの写真はあるかな。ああ、白船君がWebから見つけてくれたんだね。
じゃあ、早速。
新品の状態に復旧しろ
こらこら、人に向かってそんな視線を向けるものじゃないぞ。だから俺は、化け物じゃないんだからな。ところでハイエース、ヴェルファイア、どうして土下座をしているのかな? 知らないこととは言え、大変失礼な真似をしていました……かい。失礼なことを言われた記憶はあるが、土下座をするほどのことではないと思うぞ。
なに、腹を立てていないか、かい。本当に腹を立てていたら、君たちは生きてはいられなかったと思うよ。
それから白船君、資料館の方も復旧させるからね。これだけ部屋数を確保すれば、少しぐらい増えてもなんとかなるんじゃないのかな。
余計なことを言うな、かい。言霊って……言ったことが現実になったらどうするのかと言うのだね。確かに、人が増えるのはあまり嬉しいことじゃないね。ところで白船君、この温泉なんだけど、あっちの家まで引くことは出来ないかな。手間は掛かるが、別に難しいことじゃない。だったら、戦国武将トリオに伝えておいてくれるかな。
それから車で3分移動して、もう一軒の廃業した旅館へと到着した。広さから行くと、こちらの方が小ぶりと言うことになる。ああ、客室は13室なんだね。宴会場もあるから、収容能力はもう少しあるんだ。だったら、こちらもさっさと復旧させようか。はいはい、『新品になれ』と。
これで入れ物が出来たことになるから、調理人を至急派遣して貰うように。後は、寝具とかの用意もよろしく。
それから1週間経過して、4人の食堂関係者がやってきた。そのうち1人が食材管理を受け持ち、残りの3人は和洋中の調理が出来るらしい。ところで白船君、料理にはデザートがつきものだと思うんだけどね。
そちらは、しばらく購入で凌ぐことにする。簡単なものなら、3人が作ることができると言うのだね。だったら、しばらくは様子を見ることにしよう。それで白船君、4人を紹介して貰えるかな。
「左から順に、山岡五郎さん、山岡小百合さん。ちなみにお二人は、夫婦で赴任されてきました。その隣が服部鷹夫さん、薄墨ぼたんさんです。山岡五郎さんが和食、小百合さんが洋食、服部さんが中華を担当されます。薄墨さんは、仕入れ並びに食材の管理をしてくれます。本家の方の食材も管理してくれますので、小谷さんが楽になると思います。後ですね、食材の保管は本家の方にある倉庫で行います」
4人とも自衛隊関係なのかな? ちょっと見えないところもあるんだけど。自衛隊関係で間違っていない。市ヶ谷の方から来たと言うバチものじゃない、かい。最後の意味はちょっとわからないのだけど、まあ、そう言うことにしておこうか。
それで、彼らはいつから活動を開始できるのかな。今すぐに活動開始が可能。さすがは自衛隊と言って良いのかな?
ところで、これは興味からの質問なんだけどね。この4人なんだけど、やっぱりオタクなのかな? 筋金入り。夏と冬にはビッグサイトに行っている。服部氏は、カメコでもあるんだね。ところで、カメコってなんなのかな?
イベントとかで写真を撮っているんだね。服部氏は、主にレイヤーを撮っていると。もう一つ教えてくれるかな。そう、レイヤーって何のことなのかな。
「レイヤーと言うのは、コスプレイヤーのことですよ」
なるほど、ここにはコスプレじゃなくて本物がいるんだけどね。ただ気をつけて貰いたいんだけど、ネットに流すのは許可できないよ。未来永劫とは言わないけど、日本政府の方針には従って欲しいんだ。
大丈夫。その辺りは、自衛官としての自覚がある。だったら信用しておくことにするよ。それで薄墨さんは、どういった傾向のオタクなのかな。薄い本……薄い本と言うのはどう言うジャンルなのかな?
「男女に限りませんけど、性行為を主とした二次創作ですね。ページ数が少ないので、『薄い本』と言われているんです。ちなみに薄墨さんは供給側で、山岡さんたちは購入側だそうです」
確か、神代さんはやおい……で良かったかな。殆ど同じ趣味だと思って良いのかな。
「厳密には違うと思いますが、概ねそうと理解していただいて結構です」
自衛隊の人選理由に納得がいったよ。だったら、後から歓迎会がてら住人に紹介することにしよう。ところで歓迎会は、ここでした方が良いのかな?
「せっかく綺麗にしたんですから、こちらの方が広くて良いと思います。それからですね、料理は彼らに任せて良いと思いますよ。はい、歓迎される方が料理を作るのか、ですか。セレスさんの料理がおいしいのは否定しません。と言うのか、セレスさんの手料理を食べられるのは幸せだと思っていますよ。ただ今日この時点から、食事の準備は彼らの仕事になったと言うことです。諸星さんのところ以外は、これで食生活が改善されることになるわけです」
まあ、彼らが良いと言うのなら構わないのだが。それでも、歓迎される側が料理を作るのは少しだけ抵抗があるんだよね。少しぐらい、セレスに用意させても良いんだよ。流石に、それは問題がある……どんな問題かは言うことが出来ないと言うのだね。
なになに、それよりもして欲しいことがあるのかい。多少のことなら考慮はするよ。それで、どんなことをすれば良いのかい。コスプレ……セレスにコスプレをさせるのかな。それだけじゃない、ラズライティシア様とルーテシアもコスプレをするんだね。ところで、どんなコスプレをさせるつもりなのかな。うちには、そんな衣装はなかったと思うんだ。
「こんなこともあろうかと、ちゃんと衣装も用意してあります」
こんなこともあろうかと……かい。君は、一体何を想定していたのかな。それから、うちの奧さんをどんな目で見ていたのかな。事と次第によっては、自衛隊から新しい人を派遣して貰うことになるからね。2階級特進なんてしたくないよね。
大丈夫。うちの奧さんとも相談したことがある。だったら……いつ、相談したのかな。
「あ、アニメの鑑賞会をしたときです。科学忍者隊とか量産機の話が出ましたよね。翼人の皆さんも、今度やってみると盛り上がっていました」
ああ、君たちは本当に趣味に生きているんだね。天職だって、本気で自衛隊のことが心配になったよ。
色々と不安はあったのだけど、3人の腕は確かだったようだ。何しろ出された料理のすべてが一級品だったのだ。流石はプロと言うこともあり、出されるペースも家とは段違いだ。うん、酢豚が絶品と言うのは認めよう。ああ、ローストビーフかな、これも中々お酒が進む。勿論、野菜の煮物も心が落ち着く味だと思うよ。寒ブリで良いのかな、久しぶりに食べたお刺身もおいしいなと。
ただ食べていて気がついたのだけど、調理場はここなんだよな。どう言うことかと言う、俺の家は少し離れているんだ。夕食の度に食べに来るのは、流石に面倒だと思うんだよ。
なに、その辺りは心配無用なのかい。ちゃんと対策も考えていると。
「ハイエース氏たちと相談したのですが、彼らに配達して貰うことになりました。主に主菜ですけど、出前の形で運んで貰います」
なにか悪いと思えてしまうのだけど……本当に良いのかな? なに、返しきれないほどの恩があると言うのかい。それに、神に仕えるのは自分たちの本望だと言うのだね。ところで、神と言うのは誰のことかな?
俺、こんな真似ができるのは神以外は存在しない……と言うのかい。悪いんだけど、俺を神と呼ばないでくれるかな。この力だって、神様から貰った恩恵なんだからね。そう、わかってくれたんだね。いやいや、地上代理人でもないんだよ。別に俺は、神の言葉を伝えようとか思ってないから。取りあえず、出前をしてくれるのは感謝するよ。
ところで一つ聞きたいんだけど、君たちは嵐の中でも飛べるのかな? 外が吹雪でも飛ぶことが出来るのかな?
飛べないことはない。魔法を使えば、多少の雨なら大丈夫と言うのだね。ただ、嵐とか吹雪の時は勘弁して欲しい。まあ、普通はそう言うよな。ああ、無理をする必要は無いから。こちらだって、今まではセレスが料理してくれたんだから。ほらほら、セレスだって『任せてください』って胸を張ってるだろう。
ところで一つ質問なんだけど、宴会はこれで終わりと言うことは無いのだよね。そう、こんなものでは終わらない。これからが第二部と言うのだね。ちなみに、俺は何をすれば良いのかな。こう見えても、市会議員時代に隠し芸とかさせられたんだよ。
それは、別の機会にと言うのだね。白船君、何か嬉しそうに思えるのだけど。なになに、これで夢が実現するのかい。だったら準備が出来るのを楽しみにさせて貰うよ。
……はい、そう来ましたか。うん、主役の4人……と君たち二人が盛り上がっているのはわかるんだよ。主役に喜んで貰えたのだから、出し物としては成功だと思うよ。だけどね、翼人たちも盛り下がっているだろう。実のところ、俺も出し物には疑問を感じているんだよ。ああ、これなら問題が無いことは認めてあげよう。
「なにか、失敗しましたか?」
いや、4人の格好がとても似合っているのは認めるよ。ちなみに、4人の格好の出典も知っているよ。何しろ、アニメは散々見倒したからね。その意味で言えば、再現性が思いっきり高いのは確かだと思う。以前見せて貰った写真よりも、遙かに上質と言うのはその通りだと思うよ。
でもね、4人の格好って……少しも新鮮味がないんだよ。多少意匠は変わっているけど、こっちに戻ってきたときの格好と同じなんだよ。あっちの時もそうだったんだけど、俺には見慣れた格好でしかないんだ。多分その事情は、翼人たちも同じじゃないのかな。
ああ、やっぱり見慣れていたんだね。まあ、君たちの反応を見ていてそうだと思ったよ。
それから服部さんだったかな、なにか言いたいことがあるのかな。とても素晴らしいものを見せて貰った……写真も最高の出来になっている……まあ、何しろ中身は本物だからね。ただね、君は制服を着た警官にコスプレが似合っているとは言わないだろう?
是非とも同好の士と共有したい……かい。残念ながら、それを許可することは出来ないんだよ。せめて、派遣元の承認を貰ってくれるかな。住人の公開判断は、日本政府に任せているんだ。取りあえず、上司に聞いてみると。思ったよりも常識的なんだね。
なになに、次の出し物も用意されていると言うのだね。ただ、そのためには外に出ないといけないんだ。それは構わないけど、あまり派手なことはしないように。最近なんだけど、やけに上村さんが顔を出してくれるんだよ。
その対策は、ラズライティシア様にお願いがしてあるんだね。認識阻害と人払いの結界が用意してある。何をするつもりなのか、おおよそ想像が付いた気がするよ。想像が付いても、今はまだ口にしてはいけないんだね。これは、新しい仲間4人の為の出し物だからと言うのだね。わかったわかった、外に行けばいいんだね。だけど、もう暗くなっていないかい?
白船君に急かされたので、セレスたちを連れて旅館……別邸の外に出ることにした。空を見ると、降るような星空が広がっていた。いや、これだと出し物をするには暗くないかな。ああ、翼人たちが張り切っているのはわかっているよ。
それから、照明弾はやり過ぎだと思うんだよ。違う、これもラズライティシア様の魔法と言うのだね。だけど、ここまですると流石に目立つんじゃないのかな。ああ、わかったよ、俺も恩恵を使うことにしよう。
ええっと、真ん中で赤い服を着て立っているのは何なのかな。準主役の女の子と言うのだね。彼女はどうして空を見上げているのかな、なるほど、あのシーンを再現しているんだね。
『○○シリーズ完成していたの!』
ああ、音楽も用意してあったのね。それで、白い服を着た翼人9人が円を描いて滑空するわけだ。うん、再現性としては満点だと思うよ。なになに、出し物はこれだけじゃない。まあ、何をしようとしているのか想像が付くけどね。
音楽が変わったね。うん、予想していたとおりだよ。今度は5人なんだね、衣装もちゃんと原作に準拠しているんだ。でも、やっていることはさっきとあまり違わないよね。それを言ってはおしまいと言うのだね。まあ、山岡さんたちが感激してるから問題はないと思うよ。それに、翼人たちも喜んでいるからね。
何かな服部さん。ああ、みなまで言わなくても良いよ。映像の公開は、ちゃんと上の許可を取ってね。俺が言えるのはそれだけだから。
山岡さん……男性の方ね。次は、可愛い系のエルフをお願いしたい、かい。ここを作った目的なんだけどね、俺みたいに帰ってきた人を保護することなんだよ。君たちの煩悩を満足させる、異世界人を連れてくることじゃないんだからね。改めて言うけど、大丈夫か自衛隊。
上の方からの呼び出しなど、良いことがあったためしがない。しかもすぐに市谷に来いと言うのは、俺の役目からして非常事態に違いない。
ああ、予想はしていたよ。顔を出したらいきなり、陸上幕僚長補の所に連れ込まれたんだ。うちの組織としては上から2人目、しがない三佐の俺には雲の上の人と言うことになる。
「杉下君。君は、一体何をやっとるのかね?」
しかしだ、入っていきなりこれですか。まあ、上にも報告せず……一応抜擢されて、スペシャルフォースに任命されているんですけどね。陸海空を串刺しにした特別組織だから、報告の義務もないんですけど……なんて、正論を言っても通用するはずがない。何しろ相手は、俺の任命権を持っているのだ。どう言うことかと言うとだ、気に入らなければ首をすげ替えることが出来ると言うことだ。
ただこの問題、総理大臣にも報告できない代物だ。それを考えれば、上を虎視眈々と狙っているこの人なんかに報告できるはずがない。
極秘任務中につき、報告を禁じられております!
と言うことで、一応立場的に許される理由を言うことにした。勿論、こんなことで納得して貰えるとは微塵も思っていない。
「なるほど、極秘任務と言うのだな」
ふんと鼻で笑った陸将補様……ちなみに、林下陸将補様は、『これは何だ』と1枚の写真を俺に投げ寄越した。ちなみにその写真には、森の上を飛ぶ翼人たちが映っていた。どうやら、これは捕獲される前の写真と言うことになる。
なるほど、鳥ですかな? それにしては、いささか格好が人間くさいようにも見えますね。
「ふん、あくまで白を切るつもりか。それならそれでいい、この写真に心当たりがないと言うのだな」
このような巫山戯た写真、映画の特撮ですかな。まあ、建前で言ってるんだけどな。
「宜しい。君は、何も知らないと言うことだな」
このおっさん……失礼、陸将補様は、一体何をしようと言うのだ。口に出しては言えないのだが、あそこに手を出すのは自分の死刑執行書にサインをするようなものだぞ。勿論、こんな忠告をするつもりもないのだが。
「なに、雪山訓練の上申を受けておるのだ。人里離れた地で、実弾を使っての演習計画を貰っている。君、浅間山荘事件を知っておるかな。過激派が、山荘に立て籠もった事件なのだよ。今からだと、50年ほど前の事件だな」
なるほど実弾を使った演習ねぇ。色々と煩いので、場所がかなり限られると思うんですよ。
「今時、廃村になった場所は沢山あるんだ。そう言えば、最近自衛隊の管理に入った場所があったな。そこを利用する申請に許可を出したばかりだ」
なるほど、廃村と仰りますか。ですが、演習地として指定していませんよね。あとですね、人里からの距離は十分離れているのですか?
「それは、君が頭を悩ませることではないな」
さて、こんなつまらない腹の探り合いはしたくない。さっさと帰って、彼にチクっておくことにしよう。マッチポンプな気がしないでもないが、少しはごまをすっておいた方が良いだろう。
そんなことを考えていたのだが、流石は執念だけでのし上がってきたお方だ。俺の考えは、どうやら想定した範囲だったようだ。話を終わらせて退出しようとしたら、4人ほど武装した隊員が入ってきてくれたのだ。
「君の金遣いが問題になっていてな。なに、ちょっとしたヒアリングを行うだけだ。抵抗しても無駄と言うのはよくわかっていると思うがね」
ああ、こうやって俺の排除に掛かってくれたのか。ただこれで、田部や田間に連絡を取ることも出来ないと言うことか。
それはそうと、雪山訓練はいつ行われるのですかな?
「間もなく結果報告が来ることだろう」
驚いた。この人に、そこまでの作戦実行力があったんだ。流石は上昇志向の鬼、機を見るに敏と言うことだな。なかなかと感心したいところなのだが、間違った方向と言うのが残念と言うことだ。
これで、しばらくウチは組織のゴタゴタが続くことが確定したわけだ。まあ、このおっさんがいなくなれば、少しは風通しが良くなってくれるのかな。なってくれれば良いなぁと言うのが俺の希望である。
ヒアリングと言う名の尋問から解放されたのは、連行された翌々日のことだった。慌ただしく尋問室から連れ出された俺は、緊張する隊員に連れられ陸将室へと連れて行かれた。どうやら、陸将補様は盛大な失敗をされたようだ。
何しろ『鬼の吉岡』と噂される、吉岡陸将様が待ち構えていてくれたのだ。あまりにも存在感が強すぎたので見逃したのだが、その前のソファーに林下陸将補様が青い顔をして座っていた。
いよいよ、私は首でしょうか?
何しろ俺を派遣してくれたのは、目の前に居る吉岡陸将様なのだ。その陸将様直々の呼び出し、しかも林下陸将補様まで同席しているのだから、俺の処遇と言うのは想像に難く無い。まあ、これが通常の事態ならばと言う但し書きがつくのだが。
そんな俺の言葉だったが、吉岡陸将様から『笑えない冗談だな』とお叱りの言葉を貰ってしまった。
ただ冗談と仰りますが、今回私は何もしていないんですよ。“使途不明金”のヒアリングと言うことで、しばらく外との連絡も取れませんでしたので。使途不明金の話ですよね?
「もう、白を切る必要は無い。林下も、手を出してはいけない相手に手を出したことを理解しておる」
なるほど、そっちの話を認めてくれましたか。それならそれで、私が呼び出される理由はないと思いますが?
「そうはいかんから、大急ぎで君を呼び出した。命令……ではないな、大急ぎで彼等に取りなして貰いたい」
ほほう、命令ではなくお願いですか……いったい、何が起きているのですか?
ただ返り討ちに遭ったのなら、こんなに慌てていないはずだ。だとしたら、彼は俺の想像を超えることをしていることになる。どんな方法で報復を行ったのか、俺の興味は彼の行った報復に向いていた。
「派遣した兵から、芋づる式に辿られている」
「と言われましても、何が起きているのかわからないのですが」
「先ほど、派遣した部隊の三佐が連行されたところだ。すぐに、林下の所に到達するだろう」
ええっと、三佐……が連行されたのですか? 確か、あそこは桂木でしたよね? なんで、桂木が連行されたんですか?
「理由はわからんが、一つずつ階級を上げて連行されている。しかも連行するのが、あの場所に派遣した兵たちなのだ。それどころか、連行された者まで連行する側に変わっていたのだ」
だとしたら、命令系統を辿られていると言うことですか。なるほど、それならば泡を食っても仕方が無いですな。命令に忠実なはずの隊員たちが、その命令とは真逆のことをしているわけですか。三佐まで到達したと言うことは、陸将補様にたどり着くのは時間の問題な訳ですね。
ただですね、私に出来ることは殆どありませんよ。実弾演習と言う名目で、彼らを襲撃しようとしたのです。それに失敗したと言うのであれば、逆襲を食らっても仕方が無いかと思います。まさか、自分が襲われる側にならないと高をくくられていたのですか? なぜ、私が細心の注意を払って対応しているのか理解されていないようですな。それどころか、私の努力を踏みにじることをされたのですよ。それを考えれば、取りなしなどできるはずがないんです。しかも内心では、『やれやれもっとやれ』なんですからね。
「勿論、ただでなどと言うつもりはない。林下には詰め腹を切らせるし、君の権限を拡大するのを認めることにする。加えて、予算の方も優遇することを約束する」
なるほど、大した譲歩と言うことですね。しかしですね、それは私に対してのアメでしかありません。襲撃を受けた彼らに対する謝罪になっていないと思いますよ。
「謝罪……謝罪には私が直接出向くつもりだ」
ええっと、陸将様がですか? あまり目立つことはして欲しくないのですけどね。何しろ、あそこの扱いはまだまだデリケートなんです。
「それはすでに手遅れだ。隊員の異常行動は、すでに多くの目撃者を生んでいる」
まあ、有無を言わさず連行されれば目立ちますな。それは良いのですが、電話が鳴っていますよ。
呼び出し音からすると、相手は官邸と言うことになる。多分相手は、内閣官房なのだろう。何しろあそこには、官房長官殿の秘書が送り込まれているからな。そのルートから、今回の不始末が伝わっても不思議なことじゃない。
ああ、陸将様がへこへこ頭を下げているよ。こりゃあ、陸将様も更迭されるのかな。尤も、あまり大きな動きはマスコミや野党の注目を集めてしまう。だとしたら、内部的には何もなかったと言うのが落とし所になるはずだ。
そんなことを考えていたら、俺の携帯電話も鳴ってくれた。相手は誰だ、白船君か。どうやら、相手から接触してきてくれたようだ。
もしもし、やはり諸星君か。予想していたのか、かな。そろそろ掛かってくる頃かと思っていたよ。ちなみに、今回の事件に俺は関与していないからな。それぐらいはわかっている。こちらの話が纏まったようだから、連絡をくれたと言うのだね。つまりなんだ、君はここでのやりとりを知っていると言うことかな。
なるほど、ここに誰がいるのかもわかってる。ソファーで青くなっている男性が首謀者と言うのもわかっているのだね。そこまでわかっていて、どうして下から順に拉致をしたのかな。なるほど、その方が真綿で首を絞めるような効果があると言うのだね。まったくもって、効果的な脅しと言うのを認めてあげようか。
それで、どうやって事態を収拾させれば良いのかな? こちらから誠意を見せれば許して貰えるのだね。どんな誠意かは、自分たちで考えろと言うのは、ちょっと。自分たちの蒔いた種だろうと言うのだね。君の言っていることは間違っていないよ。まあ、妥当な条件と言うのは認めるよ。了解した。結論が出たら、白船君経由で連絡することにする。
報告しますが、こちらの動きはすべて把握されていました。相応の誠意を見せることで、この場は収めて貰えるとのことです……と。
「それ以上の要求はないのか?」
自分たちで考えろとのことです。予め申し上げておきますが、頼られても私にもわかりません。それからこれは忠告になります。くれぐれも、私に丸投げなど考えないようにしてください。
「ならば、予定通り私が直接謝罪に出向くことにする。時間的に微妙なのだが、日を改めた方が良いのだろうか?」
今からだと……普通ならば、日を改めてと申し上げるところですね。ただ誠意と言う意味であれば、今すぐ最速の方法を選択することになるのかと。
「つまり、ヘリを使えと言うのだな」
それならば、暗くなる前に到着することが出来ますね。何度もヘリを使っているので、集落内にホバリングできる場所があるのはわかっているんです。
「それから林下、君も同行するように」
その方が、誠意を見せたことになりますね。では私はこれで……お前も来い、ですか。今回の件は、私は無関係なんですけどね。お前も当事者には違いないだろう、ですか。それを言われると辛いのですが、尻拭いを持ってきて欲しくないと言いましたよね。まあ、今回は仕方が無いのでしょうね。ええ、お供させていただきますよ。
まあ、どこの世界でも上の方はやっかいだったりします。




