本当に新しい住人がやってきた
村の特産は異世界です
・本当に新しい住人がやってきた
俺はハイエース。誉れ高い翼人族のリーダをしている。ほどよく鍛えられた体に、白い大きな翼がチャーミングポイントの男だ。好きなタイプは、控えめな女性。ちなみに、美醜はあまり気にしない。そして嫌いなタイプは、見た目は良くても好戦的な女だ。その辺りの趣味は、俺の仲間たちにも共通した物だと思っている。
「リーダー、現実逃避をしている暇はないんだが」
そう言って声を掛けてきたのは、俺の副官であるタウンエース。少しだけ俺より逞しい、中々お茶目な男である。そのお茶目な男の顔が、これ以上無いほど青ざめていたりした。
「20有った防護結界の18枚が突破されたぞ」
18枚が突破されただと。姿を確認してから、まだ10分も経っていないだろう。この結界を張るために、人族の王都で大枚を払っているんだ。それが、こんなに役立たずであって良いはずがない。
「ですが、これを売った商人。この金額では気休め程度だと言っていませんでしたか?」
それはだなボンゴ。俺たちの手持ちが少なかったのがいけないんだ。
「それは良いんですけど、そろそろ最後の結界も破られますよ」
ああキャラバン。流石にそれは悪い知らせだな。だが、皆のもの安心しろ、こんなこともあろうかと、ダンジョンでお宝を見つけてきたのだ。これを使えば、あの忌まわしい女どもの襲撃を退けることが出来るはずだ……出来て欲しいなぁ。
ちなみに俺の嫌いなタイプ、それが今最後の結界を越えようとしてきている女たちだ。奴ら、奴らと言って良いと思うのだが、見た目は間違いなくとびきりだと思うぞ。それにスタイルだって、その、ごちそうさまと言いたくなるぐらいのものを持っている。ただな、繁殖期になった奴らは、蝗害を起こすイナゴのようなものなのだ。奴らに捕まったが最後、最後の一滴まで搾り取られ、干からびて死ぬと言うのが俺たちに待っている運命なのだ。
~かぁりのきせつがやってきたぁ やってきたぁ
おとこをさがせ おとこをさがせ
おっとこをみつけたぞ さあつかまえろ
てあしをおってつばさをむしれ
にげられなくしたら あとはおいしくいただこう~
どうやら最後の結界も役目を終えたようだ。まさか、20層もの結界がこんなにあっさりと!
~かぁりのきせつがはってきたぁ やってきたぁ
おっとこがいたぞ さあつかまえろ
ないてさけぶのはいつものことだ
しばいてやれば すぐしずかになるさ
てかげんするな こころをおってからがほんばんだ~
ああ、俺たちの死が陽気な唄と共に近付いてくる。確かに唄自体は陽気なのだが、なんだ、この歌詞。はっきり言って正気じゃないだろう。
「リーダーどうするんです?」
俺たちに死に方が選べると思うか。こちらは4人、相手は16人なのだぞ。抵抗しても無駄だし、俺たちの体力なんて関係ないんだ。そう魔法を使って、最後までおいしく搾り取られる未来しか待っていないんだよ。ちなみにおいしくは、あの女たちの立場を言っている。俺たちは、俺たちは……ちくしょーっ!
考えれば考えるほど、絶望しかないのはどうしてだろう。俺が、俺たちが何か悪いことをしたのか。あいつらのお誘いを、勘違いが出来ないぐらいにはっきりと断っただけじゃないか。
「結果が変わらないと言う意味では同じですけどね」
だったら、お前たちも最後の賭けに乗ってくれるか。ああ、乗らなくてもいいぞ。その時に待っているのは確実な死なんだからな。もしもうまくいったのなら、もしかしたら助かるのかもしれないぞ。
それで、どうするのかか。それはだな、地面に降りて俺の所に集まってくれ。そのペンダントは何かって、これこそダンジョンで手に入れたお宝だ。こらボンゴ、落ちていたのを拾ったと言うな。苦労に苦労を重ね、踏破したご褒美なんだからな。まあなんだ、地面から拾い上げたのは否定せんのだが。
~かぁりのきせつがやってきたぁ やってきたぁ
おっとこがかんねんしたが あんしんするな
こころがおれても まだまだなかせ
なさけはてきだ ゆだんをするな
さあがんがんしぼりとれ しぼりとれぇ~
ああ、お前たちも覚悟が決まったな。あれは、どう見てもまともな女じゃない。どうして、あんなに楽しそうな顔が出来るんだ。あれが、噂に聞くサイコパスなのか。
とにかく俺に近寄れ、ペンダントに手を置け。小さくて置けない? だったら手を重ねれば良いだろう。
いいか、全員手を重ねたか。手を重ねないと、一人取り残されることになるからな。ああ、奴らがそこまで迫っている。死にたくなければ、そう、そうやって手を重ねれば良いんだ。
それでどうするのか、か? お宝の力が発動するには、声を揃えて呪文を唱えるだけだ。いや、大丈夫、全然長くないからな。それに、間違えるほど難しい呪文でもないからね。そう、手を重ねて「トラン」と唱えれば良いだけだからな。
ああ、奴らがすぐそこに。だがお宝の力が発動すれば、俺たちは自由になれるんだ。いいか、声を揃えろよ。さんはい、
「「「トラン」」」「トレン」
おい、誰だ、呪文を間違えた奴は。間違えるほど難しくないだろう。緊張した、ちょっとした茶目っ気。おい、お前だけ置いていって良いか。いやだ、連れて行って欲しい? だったら、こんな時に茶目っ気を出すんじゃない。いいか、もう一度だぞ。さんはい、
「「「「トラン」」」」「イラン」
だから、茶目っ気はいらないと言っただろう。げっ、いつの間に。
気がついたら、俺の手の上に4つの手が重ねられていた。俺たちの人数は4人、つまり、重ねられた手は3つで無ければおかしいのだ。
「逃がすと思って?」
にっこりと笑ったのは、発情した女どものリーダー、ヴェルファイアと言う女である。くそっ、なんでこんな極上の見た目をしているんだ。神よ、天国に見せて、俺たちに地獄を見せるのかっ!
「り、リーダー。ペンダントが光ってますけど?」
おお、確かに光っているな。だがな、一度も正しい呪文を唱えていないのだぞ。正確な手順に則っていない恩恵の発動など、何が起きるのかわかった物じゃないだろう。
そもそも、どんな恩恵があるのかわかっているのかって。おいキャラバン、その質問は今はしちゃあいけない物だ。
ああ、楽に死ねるのなら悪くはないだろう。しかも見ろ、あの女どもまで光が包んでいるぞ。旅は道連れ世は情け、死なば諸共と言う言葉があるじゃないか。一緒に転移するだけ? タウンエース、お前はどうして悪い方に考えるんだ?
はい、タウンエースの言う通りでした。何のことかと言うと、お宝が暴走した結果のことです。何しろ目の前には、今までいた場所とは全く違った景色が広がっていたんだ。見たことのない種類の木々が、見事に整列して生えている景色だ。なんだ、この揃い具合は。ひょっとして、木の化け物が行進しているのか? ああ、あそこに集落があるじゃないか。襲撃に気づいているのか、すぐにでも教えてやらないと!
げっ、女どもが追いかけてくるじゃないか。しかしなんだこの結界は、俺たちの使った結界よりも高級じゃないか。だけどなんで、人避けの結界なんだ? 防御結界……だと俺たちも入れないか、でも防御結界じゃないと守りには使えないだろう。
だけど、こんな結界を張ることが出来るんだ。多分だけど、相当な実力者がいるんじゃ無いかな。いてくれたら良いな、もっと言うなら助けてくれたら嬉しいんだけど。
こら女ども、攻撃魔法を使うんじゃない。そんな炎があたったら、俺たちの翼でも炎上してしまうのだぞ。なに大丈夫、あそこが使い物になれば良いのか? ちょっとまて、あの物騒な唄は求愛ソングだよな。本気で歌と同じ真似をするなよ。
おお、あの村には男がいるようだ。こら女たち、獲物が増えたと喜ぶんじゃない。だから、拘束魔法を使ってくれるな。だからと言って、炎熱魔法はもっとダメだぞ。下を見てみろ、下手をしたら山火事になってしまうんだからな。
~かぁりのきせつがやってきたぁ やってきたぁ
おっとこがふえた かみさまのめぐみによろこぼう
みためはちがうが きにするひつようはない
しゅぞくはちがえど ついているのはおなじもの
なぐってたおせ さあがんがんしぼりとれ~
おいお前たち。その唄は流石にまずいだろう。まともに意味を考えたら、それは求愛じゃなくて襲撃だからな。別に構わない。結果は同じだと? そのデリカシーのなさが、お前たちから男が逃げる原因と言うのを知っているのか? いいか、女は見た目だけじゃないんだからな。
ところで、前から白い紐のようなものが飛んできていないか。しかも何本も何本も。なんで、あんなものが俺たち目がけて飛んでくるんだ。風なんかないよな、魔法か、魔法なのか? だけど、魔力を感じないぞ。こら、絡まるんじゃないっ!
はい、あっさりと捕まってしまいました。だって、白い紐が翼に絡んでくれたんだぞ。翼の力で飛んでいるわけじゃないんだが、羽ばたけないと飛ぶことが出来ないんだ。矛盾している? 飛ぶための儀式のようなものだと思ってくれ。
だから羽ばたけなくなった俺たちは、地上へと墜落することになる。途中に槍とか成長しかけの木とかないよな。串刺しになるのは御免被るからな。 ああ、女たちも捕まっているのか。ざまあみろと、今は言っても許されるだろう。
幸運なことに、俺たちは串刺しにも地面にも激突はしなかった。ただなんだ、どうして俺たちは紐に運ばれていくんだ。俺たち、この状態じゃ飛べないよな。おい、お前たちにもわからないのか。魔法だったら、お前たちの方が俺たちよりも上位だろう。
それは間違っていないが、抵抗してもどうにもならない。紐を切ろうとしても切れないし、紐から魔力を感じられないと言うのか。この紐って、新種の魔獣と言うことは無いよな。それからだが、あそこに見える家、そうあの家のようなものって、本当に家なのか。
ところで、あなた様は一体どなたなのでしょう。それから、その不思議な格好はどう言う意味があるのですか? そうですか、ここでは私たちの格好の方が不思議なのですね。魔法で飛んでいますよね、だとしたらこの紐も魔法で操られているのですか? 違う、もっと高位な方法と言うのですね。
それはそれとして、私たちはどうなるのでしょう。その、女たちとは違って、俺たちは逃げてきただけなんですけど。それは、これから事情聴取をして決めることになる。そうですか、話をさせてくれるのですね。問答無用と言うことはないのですね。
ところで実験動物ってどういう意味があるんです。それからもう一つ、後ろでぶんぶん音を立てている珍妙な物は何なのでしょう。ドローンですか、そうですか、ドローンなのですね。ところで、ドローンって何なのですか?
ちなみに俺たちの横を飛んでいたのは、どこかで見たようなエルフ族の女だ。ただ見たことがあるのはエルフ族であって、飛んでいる女に見覚えはない。それから大きな声では言えないことなのだが、エルフ族にしては丸顔だし見た目が悪くないか。それはそれとして、エルフ族は魔法には長けてないはずなんだが。
えっ、聞こえている? それはどうも失礼をしました。ですから、死刑に決まったと言うのは止めてくれませんか。沙汰を決める前に、事情聴取をしてくれるのですよね。魔法に長けていないと言ったのは謝りますから、死刑だけは許して貰えませんか? えっ、人を馬鹿にしているのか、ですか。その前に、見た目のことで悪口を言っただろうですか。すみません、俺としては褒めたつもりなんです。むしろ、見た目が良いと言うのは、俺にとって悪口になっているんですからね。後ろの女たち、みんな見た目だけは良いですよね。その見た目だけはいい女たちから、俺たちは逃げてきたんです。
始末するのは待ってやる。リーダーですか、リーダーの判断待ちなんですね。それで伺いますが、その判断にはあなたの意見はどれだけ影響するんです? もの凄く……ですか。すみません、見た目が悪いと言ったのを謝ります。個性的と言い換えますから、悪いことを吹き込まないでくださいね。
はい、私は正直者で通っているんです。ええ、空気を読めと時々言われますね。今ので処遇は決まったのですか。できるだけ、穏便なものにして頂けるとありがたいのですけど。
発生……で良いのか。発生自体は、それなりに早期に気づいていたよ。それぐらい、空間転移と言うのは大きな魔力を発生させるんだ。そして大きな魔力が発生すれば、神話の時代から生きている大魔法使いの目から逃れられることはない。白船君、どうやら活躍の時が来たようだぞ。少し泳がせておくから、ドローンでの空撮をよろしく頼む。
ところでラズライティシア様、あいつら何か歌っていませんか。言語の分析は終わったのですか、流石と言うのか素早いですね。どうして手で顔を覆っているんです? 唄が原因、歌詞が酷すぎると言うのですか。
ところで白船君、撮影の方が順調にいっているのかな。捕捉するのに苦労をした。まさか飛んでいるとは思わなかったと言うのだね。でも、今は更に上空から撮影していると。バッチリ撮れているので、上への報告に使えそうと言うのだね。ただ失敗は、固定設置カメラの撮影方向を下に向けていたことだと。さらに機材を増やして、上も監視範囲に加えるのだね。
設置は手伝うから、まあ頑張ってくれとだけ言っておこうか。
それで、そろそろ身柄確保をしていいのかな。撮影は順調。だから、そろそろ捕獲するのを撮影したいと。なるほど、だから俺にカメラを向けているんだな。だったら小谷さん、荷造り用のビニール紐を持ってきてくれるかな。何に使うのかって、翼に紐を絡ませてやれば飛ぶことができないかなっと思ったんだ。
それから10分後、背中に白い翼を背負った男女が俺の前で正座をしていた。その数総勢20人……数え方は人で良いんだよな。その20人が、綺麗に揃って土下座をしてくれた。しかしなんだ、どこの世界か知らないのだが、土下座の文化があるのだな。ところでこの土下座、謝罪だと考えて良いんだよな。違う、懇願の意味を持っている。まあ、それも土下座の意味には違いないな。
ところで白船君、取れ高の方はどうだった。そう聞いたら、爽やかな笑みを浮かべて親指を立ててくれた。そうか、期待通りの取れ高だったんだな。
必要な確認は終わったから、早速事情聴取に移ろうか。ところでラズライティシア様、翻訳魔法は万全ですか。ところで、誰から話を聞けば良いのかな?
ああ、今ので君たちの力関係がわかった気がするな。
それで、全員に指差された君だが。なんて呼べば良いのかな? ハイエース……聞き間違いじゃないのだね。本当にハイエースで良いんだね。なぜ繰り返し確認するのかって、いや、その名前に心当たりがあった、それだけのことだから。
それで君たち全体だが、種族的なものは何なのかな? 翼人と呼んでくれれば良い。確かに、白い翼を持っているね。だから翼人と言えば良いのか、なんか真っ当すぎて面白くないね。なに、面白さを求めて欲しくない。ただね、君たちプライドが高そうに見えるんだよ。だから、神人とか天使とか名乗っているのかなと思ったんだ……そう、やっぱり神人って名乗っていたんだね。
君たちへの質問なのだが、一体何をしでかしたのかな。いや、別に女性の求愛行動が過激と言うのは良いんだよ。良くない、それですませて欲しくないと。悪いけど、それは君たちだけの問題なんだよ。甘すぎる考えだ、こいつらはアレさえあれば見境がない。君たち、神人を名乗るぐらい気高いのだよね。どうして、そんなに本能だけで生きているのかな。自分たちは違う、おかしいのは発情期の女だけだと。
あー、まあ、話を戻そうか。聞き方を変えるけど、君たちはどうやってこの世界に来たのかな。なになに、女たちから逃げるために拾ったものを使ったのだと。それで、その拾ったものはどこにあるのかな。自分たちを転移させて、力尽きて灰になってしまったと言うのだね。それで、その物騒なものはどこで拾ったのかな。ああ、ダンジョンで拾ったんだね。ちなみに、効能は鑑定してあったんだよね。鑑定料を払うお金がなかった……その計画性のなさ、君たちはそれで神人を名乗っていたのかな?
白船君、こいつらを自衛隊で引き取るつもりはないかな。ああ、人体実験に使っても文句は言わないよ。翼人の飛行原理なんて、レンジャー部隊には垂涎ものじゃないのかな。
人に面倒を押しつけるな。こんな脳天気な奴の相手などしたくない。
「とうぜん、発情期の雌も付いてくるんですよね」
それは、今更の問いだな。小谷さん、何か意見があるのかな。
「この場所なんですけど、異世界から来た人を保護するために用意しましたよね」
なるほど。小谷さんは、彼らをここで保護しろと言っているのだね。どうやら小谷さんは、少しだけ勘違いをしているようだ。
心当たりがない。う~ん、俺が言ったことを思いだして貰いたいんだ。俺はね、『帰ってきた』人たちを保護することを考えていると言ったはずだよ。もともとあっちにいた人なんか、初めから考慮していなかったんだ。だったら、セレスはどうするって? セレスやラズライティシア様たちは、俺が巻き込んでしまったんだ。だから、巻き込んでしまったものとしての責任を取っているだけだと思っている。
それで、白船君。自衛隊は、翼人を引き受けるつもりはあるのかな。もしも無いのだったら、羽をむしって肉屋に卸すけど。本気でそんなことをするのか? 肉屋が迷惑をするって? まあ、ちょっとした冗談と言う奴だよ。
それはともかくとして、君を送り出した人たちに情報を渡してくれるかな。そうそう、だから撮影に協力したんだ。それにこちらで保護するにしても、入れ物は必要だと思うよ。今のままだと、彼らは集会場で雑魚寝をして貰わないといけないんだ。別に彼らのことを心配したわけじゃないからね、このままだと集会場が使えなくなるだろう。ちょっと不便かなと思っただけだよ。
使っていないだろう、かい。今はそうかもしれないけど、使うときに困る程度だと思ってくれ。
「取りあえず、避難所の手配はします」
段ボールベッドぐらい手配をしてあげないと、冷たい床で寝ることになるからね。これから冷え込みが厳しくなるから、暖かい布団も必要じゃないのかな。
ああ小谷さん、菅谷先生にもこの情報流してくれるかな。いきなり20名と言うのは、流石に想定していなかったんだ。これからの季節を考えたら、入れ物の準備を急がないとダメだろう。政治力って、こう言う時に使うものだと思っているんだ。
それからエクシブ、ルーテシア。君たちに、翼人たちの面倒を任せて良いかな。別に特別なことをしろとは言っていないよ。集会所で暴れないか、見張って貰いたいだけなんだ。なに、暴れたら切り捨てていいのかって。普段ならダメって言うんだけど、今回に限っては許可しても良いよ。一応釘を刺しておくけど、始末して良いのは暴れたときだけだからね。くれぐれも、試し切りをしないように。
ラズライティシア様、なにか異論があるんですか? そのハイエースが、とても失礼なことを言ってくれたのですか。だから、ちょっと魔法の実験材料に使いたいのだと。
だそうだよハイエース。まあ、身から出た錆だと思って諦めてくれ。後生だから、命ばかりはお助けをかい。つまり、君には心当たりがあると言うのだね。ああ、自分としては褒めたつもりなんだ。なるほど、価値観の相違が行き違いの原因と言うのだね。
それで、君は何を言ったのかな。自分たちにとって、エルフと言うのはルーテシアが標準なんだと。違うところがあるとすれば、胸の大きさだけと言うのだね。ああ、君が何を言ってご機嫌を損ねたのか理解出来たよ。もしもそうなら、このことで俺は力になれないんだ。
じゃあエクシブ、ルーテシア。翼人たちのことを任せるよ。食事、食事をどうするのか、かな。どうしようね、迷惑を掛けてきた罰で、しばらく飢えて貰おうか。それは冗談として、セレス、味はどうでも良いから食べ物を作ってやってくれ。冬が来るのに食材を減らしても良いのか、かい。大丈夫、こちらの世界では冬でも供給が途絶えることはないんだよ。
それから神代さん、身体データを取ることを許可します。もしも抵抗するようなら、エクシブとルーテシアに制圧して貰ってください。相手の人数が多いのが不安と言うのだね。もしも二人の手に負えないことが有ったら、その時は適当に間引くことを考えるよ。
その間、俺たちが何をするのかかい。ちょっとなのだが、今回の事件で気になることがあるんだよ。だからラズライティシア様、小谷さんの3人で情報共有をしようと思ってる。なに、大した時間を掛けるつもりはない。情報共有が終わったら、翼人が大人しくしているのか見に来るから。
と言うことなので、しばらくお付き合いをお願いします。ハイエースで遊ぶのは、情報共有が終わってからにしてください。
「それで孝明よ、何が気になっておるのだ?」
場所を俺の家に変え、ビールを一缶飲んだところでラズライティシア様が切り出した。ちなみに今日のつまみは、長野名物の野沢菜漬けである。こちらの生活が長くなったお陰か、異世界組も結構器用に箸を使うようになっていた。
ラズライティシア様への答えは、翼人がここに現れたのが偶然かと言うことだ。
「なるほど、ぬしが何を気にしているのかわかった気がするぞ。ハイエースとやらが魔道具を手に入れたのは間違いなく偶然だろう。ただ、普通の魔道具では、界渡りをすることが出来るとは思えない。しかも狙ったようにぬしの近く転移してきたのだ。これを偶然で片付けるのは無理があるのは認めよう」
ただと、ラズライティシア様は意見を続けた。
「一体誰が、そのような真似が出来ると言うのだ。そして何を意図したらこんなことをするのかと言うことだ。翼人の女どもの求愛行動は、確かに度が過ぎているのだろう。それにしたところで、ぬしの世界まで飛ばされるようなものではないはずだ」
確かに、意味が無いのは俺も認める。それでも、事実として翼人たちはこの世界に飛ばされてきた。その上その場所は、俺たちのいる所なんだぞ。
「最初にわれらが飛ばされた場所なら、特異点が理由にすることが出来るな。しかし孝明よ、ぬしが特異点と考えることもできるのではないのか」
つまり、似たようなことがこれからも起きるのだと?
「それを危惧して、ぬしもこのような場所を用意して貰ったのだろう。結果からすると、ぬしの考えは間違っておらんことになる」
だそうだ小谷さん。今までは眉につばを付けていた話も、これからは真剣に向き合って貰う必要があると言うことだ。
「でも、こんな大規模だと隠しきれなくなると思いますよ」
確かに、これだけの大規模転移を隠しきるのは難しいと思う。しかも翼人たちは、木の上を飛んでいたのだからな。場所柄人は少ないのだが、目撃者がいても不思議ではないはずだ。
そちらの心配は、白船君に対処させると言うんだな。自衛隊なら、ネット監視部隊がいるのが理由と言うことか。なるほど、SNSを監視すれば、目撃者がいたかどうかわかると言うのだね。だったら、戻ったところで白船君にお願いすることにしよう。
私たちの種族、一般的に翼人、私たちは神人と名乗っているのですが、その私たちの種族は、厄介な特性を持っています。ちなみに私たちの種族は、男族と女族に分かれて生活をしています。その辺り、いにしえからの伝統を守っていると受け取って頂いて結構です。ええ、男女が別れていることで、それなりの面倒が生じるのは事実です。ただ守旧派が多いと言うのか、『神人たるものは』とご高説を垂れてくれる長老たちのお陰で、私たちは不便な状況に甘んじているのが現実なのです。
厄介な特性と言うのは何なのか、当然抱かれる疑問ですよね。それは、私たち男女が別れて生活できる理由にもなっているものです。普段の私たち女性は、男を必要としていないのです。別に男の力を借りなくても、私たちは十分以上に強いのです。それこそ、男たちよりも強いぐらいです。従って男を必要とするのは、繁殖行動をするときだけになるわけです。
そしてその繁殖行動なのですが、突然私たちに強い衝動として襲ってくれます。その衝動が厄介なのは、季節に全く関係しないことなんです。ええっと、その衝動のことは『発情期』と言われています。いえ、この呼び方は私たちが始めたものではありません。男たちが、恐怖と侮蔑の意味を込めて呼び始めたものなんです。
そしてこの度、めでたく4名が『発情期』……なにか、嫌な言い方ですね。めでたく、番いを求める季節を迎えることになりました。ちなみにその名は、年若いヴェゼル、ミラ、アマロック、メガーヌの4名です。ですので、仕来りに従い男を捕獲にいくことにしました。そしていつもの通り、婿追いの儀式を繰り広げることになったわけです。
えっ、あの唄はなんだ、ですか。伝統に則った、婿追いの唄ですよ。あまりにも唄が過激すぎる、のですか。言いたいことはわかりますが、伝統だから仕方が無いとお答えします。嫌ですね、死ぬまで搾り取るようなことはしませんよ。何しろ今回発情期を迎えた4人は、まだ年若くて男の経験がありませんからね。どこまでしていいのかわからないだけなんです。
それでいつものように追い詰めたのですが……そう言えば、今回はやけに抵抗してくれましたね。ただ安物の結界では、私たちを止めることは出来ませんよ。枚数だけ重ねたところで、一枚一枚は本当に薄紙のようなものなんですからね。もう少し張り方に工夫をすれば別ですけど、ただ20枚張っただけでは私たちを止めることは出来ません。
まあ、これも伝統ですから。抵抗と言っても、形だけと言うのはわかっていたんです。形だけのはずだったんですけど、どうして訳のわからない魔道具を持ち出すんですか。枯れ果てるまで搾り取られるのは我慢ならない、ですか。嫌ですね、そんな真似はしませんよ。多分ですけど……
その辺に落ちていた魔道具ですから、大した効能があるとは思えません。例え効能があったとしても、男たちの魔力で起動できるはずもなかったのです。ただ、起動できなかったでは可哀想ですよね。だから私が、邪魔をすることにしました。邪魔をされたのだから、起動しなくても仕方が無い。その口実を作ってあげたと言うことです。どうしてこんなに優しいのに、男たちは恐れてくれるのでしょう。
ところで私は誰、ですか。名前を言わない方が良いと思います。ヒントぐらいは寄越せですか、でしたらヒントとして『女族のリーダー』を務めていると言うのを差し上げます。良いですか、そこで私の名前を挙げてはいけませんよ。何ですか、今ので頭のできを理解出来たですか。失礼なことを言いますね、回復不能になるまで搾り取ってあげても良いのですよ。
それで、お前の発情期はどうだったのかと言うのですね。よくぞ聞いてくれました!
いえ、そこで逃げないで欲しいんです。たいしたことじゃ有りませんよ、ちょっとだけ失敗しただけなんですから。そうですね、今から100年ほど前のことでしょうか。私は一人のオークに対して発情してしまったのです。えっ、オークは他種族だろう、ですか。どうして、他種族に対して発情するのかですか。
仕方が無いじゃないですか。そのオークが、とても逞しくて優秀だったんですから。それでどうなったか、ですか。ご多分に漏れず、最後の一滴まで搾り取ったのかですか? 色々と誤解があるようなのですが、その時の私は初心な乙女だったんですよ。だから先輩たちに連れられ、伝統に則った形で方法で婿取りに向かうことになりました。
だから、勇者は嫌いなんです。いきなりなんだ、ですか。いえ、私が発情した相手、そのオークが勇者に討伐されてしまったんです。勇者さん、そんな手間を掛けなくても私が搾り取ってあげたのに……言っていることが違うのですか。その辺りは、気のせいと言うことにしておいてください。
ただ私の婿取りは、勇者の介在によって失敗したんです。あれさえ残っていればと思ったのですけど、勇者さん、その剣は反則だと思いますよ。どうして、ただ切っただけで相手が炎上するんです。お陰で、私は大切なものの回収に失敗してしまったじゃありませんか。この責任、どう取ってくださるのですか? いえ、そちらの方は、複雑な事情をクリアしないといけないんです。残念ながら、私が発情した相手はオークさんなんですよ。つまり勇者さんでは、代わりにならないと言うことです。勇者さん、なぜそこで安堵されるのですか? ちょっと、真剣にお話をしたいのですけど。
いえ、今は昔の話をするときではありませんね。おかしな真似をした、男側のリーダーハイエースの責任を問う所なのです。訳のわからない魔道具の効果で、私たちは知らない場所に飛ばされてしまいました。なんですか、男たちの魔力では発動しないだろう、ですか。お前が関与したことで、魔力が条件を満たしたのではないかというのですね。
すみません、ちょっとそこの物陰で話をしませんか。ええ、私は冷静ですよ。
そんな話はどうでも良いのですけど、場所が変わっても私たちがすることに変わりはありません。ですから、伝統に則って続きをするだけなんです。ええ、他の集落が見えたのは否定しませんよ。ただ発情した相手で無い以上、手を出すことは普通はありません。
嘘を言うなですか、別に嘘は言っていませんよ。ただ、興味が少しあっただけのことなんです。本当ですよ、本当に興味だけなんですからね。だって、4人だけって不公平だと思うんです。
その結果、私たちは理解出来ない方法で捕まってしまいました。なんですか、あのくねくねと飛んできた白いものは。荷造り用のビニール紐ですか、なんですか、それ。ああ、そこで丸くなっている半透明な物体ですね。その、その半透明の物体は、あんな風に空を飛んで来るものなのですか?
普通は無理、今回は特別と言うのですね。でしたら、深く追求することは止めておくことにします。ところで、誰がそんな真似をしたのですか。ひょっとして、あの珍しい容姿をしたエルフがしたのでしょうか?
違う。この集落のリーダをしている男性ですか。
こちらの男性は、皆さんあんなことが出来るのですか? あの方が特別、他の人たちはそんな真似はできないと言うのですね。
でしたら、そう言うことにしておきましょう。それで、この後私たちはどうなるのでしょう。実験動物と言う言葉が聞こえてきましたが、それはどんな意味を持っているのですか? ええ、あのエルフが使う魔法の実験材料になるのですか。そのほかにも切り刻んで体の中身を調べるのもあると言うのですね。
ごめんなさい、土下座でも何でもいたします。いたしますから、命ばかりはお助け願います。それを決めるのは、リーダーの男性なのですか。出来れば、仲介をお願いできないでしょうか。
その、今更なんですけど。見た目には自信が有るんです。それに、まだ誰にも汚されていない綺麗な体と言うのを保証いたします。私を自由にしていただいて結構ですので、仲間たちを許しては貰えないでしょうか。あの見た目の悪いエルフ……その一言が死を招くのですか。でしたら、容姿に不自由をしているエルフで宜しいでしょうか。えっ、本気で命乞いをしているのかですか? はい、本気で命乞いをしているつもりですよ。
勿論、骨折りをいただくことへの代償は考えていますよ。そのですね、私の副官のセンティアなんですけど。似たような境遇で婿取りに失敗しているんです。どうです、見た目もスタイルもそちらの女性……ジンダイ様ですか。加えて先ほどまでいた女性……オタリ様と言うのですね。圧勝していると思いますが、いかがでしょう。
いらない。夢を壊すなですか。失礼を承知で伺いますが、どのような夢を抱いておられたのですか? 女性と言うのは、どのような時でも打算で動くものなのですよ。特に命が掛かっているのですから、多少のことなら目を瞑ると言うものです。
もう少し、気高い精神を期待していた、のですか。気高い精神を持っていても、死んでしまってはどうにもなりませんよね。私たちに求められるのは、どんな状況でも生き残って子孫を残すことなんです。混血……混血って何ですか? 他種族の血を混ぜても良いのかと言うことですね。大丈夫です、私たちの血はもの凄く強いんです。異種族から種を貰っても、生まれてくる子供は翼人なんですよ。そりゃあ、見た目が違っていることはありますよ。ですが、翼が生えていれば翼人なんです。
それから、この食事ですか。とてもおいしいと思います。ただ、もう少し量をいただけたらと。ええ、贅沢を言っているのはわかっているんです。ただ私たち翼人は、空を飛ぶこともあって燃費が悪いんです。その事情は、他の者たちも同じですよ。それから、これがおいしかったかと言うのですか。ええ、お世辞抜きでおいしかったと思いますが……それがなにか? それだったら構わない、量を用意するのは待ってくれですか。はい、自分たちの立場はわかっているつもりです。
それから、こちらのリーダーをされている男性です。失礼ですが、なんとお呼びすれば宜しいのでしょうか。出来れば、お名前を教えていただきたいと思っているんです。はい、諸星孝明様と仰るのですね。顔が上気している、もしかして発情期を迎えたのか、ですか? 嫌ですね、正直に白状すると思っているんですか。色々と警戒されているのはわかっているんですからね。
話を終えて様子を見に戻ったら、白船君が疲れた顔をして迎えてくれた。どうやら、翼人の相手は疲れるようだ。どうかな、翼人たちは大人しくしていたのかな。大人しくはしていた、食事も喜んで食べている。ただ事情聴取をしていて、その考え方に疲れてしまったと言うのだね。まあ、相手はこちらの常識が通用しない異世界人だからね。常識が違えば、会話一つとっても疲れてしまうのは理解出来るよ。えっ、経験があるのかって。俺がどこに送られたのか、それを忘れていないかな。そう、知らない世界で、1年と半を過ごしてきたんだ。自分の常識が通用しないのは、嫌と言う程思い知らされてきたんだ。
それはそれとして、どうしてご苦労様と言う話になるのかな。自分の口からは言えない、何だったら命令してあげようか。自分はこれから自衛隊と連絡を取る。ちょうど良い映像もあるので、説明するのに困らないだろうと。それは良いのだけど、説明はしてくれないのかな。なになに、異世界に対する夢が壊れたと言うのだね。それを受け止めるための時間が欲しいのだと。ろくでもないことはわかったから、今は追求するのは止めておこう。
感謝します、かい。君は、巻き込まれた口だからね。それで確認しておくけど、翼人の女性に興味はあるかな。止めて欲しい、それが夢が破れた理由なのだと。なるほど、おおよその事情が掴めた気がするよ。ああ、俺も無理を言うつもりはないよ。当然だけど、俺も無理をするつもりはないからな。
なにしろ俺にはセレスとルーテシアがいるんだ。見た目が多少良い程度で、流されることはないと断言しておこう。
最初の異世界人(3名は忘れる)として翼人が登場しました。それから、重要なパーツ『荷造り紐』さんも登場!




