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新しい住人がやってきた

村の特産は異世界です


・新しい住人がやってきた


 戦国武将トリオが帰った40日後、約束通り一組の男女が送り込まれてきた。一人は20代半ばの男性で、白船裕一郎と言うそうだ。こう言っては何なのだが、負けたと言うのが男としての感想である。何がと言うと、白船氏は高身長のイケメンだったのだ。

 そしてもう一人が、神代めぐみと言う女性である。本当に自衛隊員なのかと聞きたくなるような、物腰の柔らかな美しい女性である。流石にセレスやルーテシアには負けるが、小谷さんが落ち込むぐらいの差があることを明記しておく。ちなみに神代さんは、背格好的には清楚と言うことを特別に記しておく。


 ちなみにこの二人、住民に引き合わせたときに卒倒してくれた。いや、別に恐怖を感じたわけじゃない。むしろその逆で、ルーテシアとラズライティシア様の姿に感激したのが理由だった。

 いや、なんだ、自衛隊、それでいいのかと言いたくなってしまった。


 ちなみに、この二人が赴任してくる前に家の方は完成していた。俺たちの住む家に比べて小さめの家が2軒、どうやらこの二人は同居しないようだ。

 そして集落へのアクセス道路なのだが、こちらは俺たちが整備を終わらせた。その辺りは、俺が『広い道になれ』と命ずるだけで事足りたのだ。勿論、『あんな風に』と完成形を示してやる必要はある。少しやり過ぎたと思ったのは、途中の県道よりも立派な道になってしまったことぐらいだ。


「なにか、取り付け道路の方が立派ではありませんか?」


 落ち着いたのを見計らって、俺の家で二人の歓迎会をすることになった。ここでの生活も40日を超えたこともあり、こちらも落ち着くことが出来たのだ。お陰でセレスの活躍の場が増え、俺たち6人の胃袋を握られてしまった。6人、つまり小谷さんも胃袋を握られた一人と言うことになる。

 それから取り付け道路なんだけど、ちょとやり過ぎたとは思っているんだよ。しかもその前の県道が細いから、取り付け道路だけ立派でも意味が無いんだよ。


「やり過ぎたって……まさか、諸星さんが整備されたのですか?」


 言ったとおりなんだけど。何か問題があるのか?


「遅れていましたが、取り付け道路の整備は自衛隊の役割だったと思います。それに、あれだけの工事……重機を持ち込まれたのですか?」


 ああ、そう言うことね。そこで確認なんだけど、俺の能力のことは聞いているんだよな? 聞いている……だったらその能力を使っただけだぞ。


「常識、疑っていいですか?」


 このイケメン、随分なことを言ってくれるな。ちょっと暗い気持ちになったのだが、真剣に考えるととんでもない事態を引き起こすことになる。だから、命令じゃないと考えながら、俺は白船君を呪ったのである。その呪いにした頃で、若ハゲになる程度の微笑ましいものである。


「すみません、若ハゲは勘弁してください。俺はまだ、独身なんです」


 だったら、失礼なことを言わないように。何かの弾みで、若ハゲの命令をしてしまうかもしれないぞ。


「ですが、あの距離を一人で工事したと言うのは、常識的には考えられないと思います。それを非常識と言わせていただきました」


 ちょっと脅してみたのだが、それで引かないところは腹が据わっていると考えて良さそうだ。だったら、ここの非常識さにも着いてこられるだろう。

 ところで白船君の所属を聞いていいか?


「出来れば、その辺りは触れないでいただければ。それでも、レンジャー資格は持っています」


 だったら、神代さんは?


「私は衛生科です。看護官と言うのが職種になりますね」


 看護官……ね。住人のことを考えたら、医療関係者が必要と言うのはわかるんだよ。


「皆さんの健康管理……が必要なのかわかりませんし、私たちの常識を当てはめていいのかもわかりませんけど。できれば、色々な身体データを取らせていただければと思っています」


 その時の視線は、ラズライティシア様やルーテシアに向いてきた。なるほど、欲望に忠実だと理解させて貰った。違う、職務に忠実と言ってくれるんだね。

 ところで、二人とも特殊な趣味を持っていると言うことはないだろうな?


「私は、ごく一般的なものだと自認しています。具体的には、漫画、アニメだとご理解ください。今は、異世界物がマイブームになっています」


 なるほど、適材適所と考えて良いのかな?


「趣味を職務に持ち込むことはありません。プライベートとの区別は付いています」


 まあ、365日24時間勤務じゃないのだからな。しかも、そのプライベートはここで過ごすことになるんだ。だから、窮屈なことを言うつもりは無いんだ。


「天職だと理解しております!」


 大丈夫か自衛隊。イケメンの顔を見ながら、自衛隊と言う組織そのものへの疑問を感じてしまった。

 ところで神代さんは?


「私ですか、白船さんよりはディープだと思います」


 ディープと言ってくれますか。その時点で、俺は覚悟を決めることにした。どうやら俺は、自衛隊と言う組織を見誤っていたようだ。


「それでも、知人に比べればライトだと思っています」


 それで、どう言うことなのかな?


「同人誌の執筆を少々」


 なるほど同人誌と言ってくれますか。その同人誌と言うのはよくわからないのだが、どう言ったものなのかな?


「BLなのですが、通じますか?」


 いや、BLと言うものがよくわからないのだが?

 首を傾げた俺に、『そうですね』と神代さんは人差し指を顎の辺りに当てた。


「男性同士の絡みを書いたものですね。白船さんとエクシブさんのような男性の絡みです。ただ、画力が無いので購入が主になりますね」


 今、本気で自衛隊の将来に不安を感じたぞ。まあ、個人の趣味をとやかく言うつもりはないのだが。


「世間的には、さほど珍しくない趣味だと思いますよ。同好の士も沢山いますので」


 まあ、個人でやる分には干渉はしない。ただし、住人に迷惑を掛けなければだな。


「私は、十分に常識的だと思っています」


 その常識を疑っているんだよ。

 取りあえず言うことは言った。これ以上くどくど言うのは、この場において相応しくないのだろう。もしも実害が生じたのなら、その時にはしっかり修正してやれば良い。


「それはそうとして、ここは違和感バリバリの場所だと思いますよ」


 なるほど、違和感バリバリと言ってくれるのか。参考までに教えて欲しいのだが、どの辺りにそれを感じるんだ?


「そうですね。例えば諸星様ですけど、スペック的にはかなり高いですけど、普通と言えば普通ですよね。ですがラズライティシア様は、一般的なエルフとは違ったイメージのエルフです。そしてルーテシア様も、ちょっと巨乳方向で最近のエルフの傾向だと思います。普通の人のはずのセレスさんは、エルフを置き去りにする怖いぐらいの美人ですし、エクシブ様は身長は足りていませんがイケメンです。構成しているメンバーが、その、ごちゃごちゃの設定になっていると言うのがオタクである私の印象なんです。ですよね、白船さん」

「諸星氏、小谷さんを除けば許容範囲だと思います。最近の傾向からすると、小谷さんが異世界転生をした主人公なのかと思います」

「それって、冴えない男の子とか女の子が、異世界に行ったら活躍するだけじゃなく、もててしまうものを言っています?」

「詳しくはノーコメントと言うことでお願いします」


 ああ、小谷さんが思いっきり落ち込んでいるな。まあ、面と向かって冴えないと断言されれば仕方が無いか。


「諸星さん、どうかしましたか」


 いや、失礼なことを言っているなと思っただけだ。もう少し、歯に衣を着せた方が良いと思うぞ。


「歯に衣を着せようと、事実は変わらないんですよ。それぐらいは自覚していましたよ、自覚していたのですけど、改めて指摘されると胸が痛いだけです」


 どうする、俺が罰を与えてやろうか?


「やけ酒を飲んで忘れることにします。明日になれば、今の辛い気持ちも忘れますから」


 なんだ、その、まあ頑張ってくれ。それからセレス、親切のつもりなのだろうが、とどめを刺す真似はするなよ。お前が側に居るだけで、違いが際立ってしまうのだからな。


「諸星さん、職務を放棄していいですか?」


 まあ、プライベートな歓迎会……だから、うん、色々と頑張ってくれと言っておこう。


 小谷さんのために、確保しておいた高級酒……と言っても、ちょっと良いスコッチ程度なのだが。それを提供することにした。まあ、来いと命じてやれば、勝手に来てくれるので手間は掛からないのだが。

 なんだ白船君、神代さん。化け物を見るような目をしないでくれるかな?


「諸星さん、あなたはどれだけ非常識な真似をしたのか理解されておいでですか?」


 この程度のことなら、ラズライティシア様にも出来るんだがな。


「小谷さんが出来ると言うのなら、私も非常識とは言いません!」


 立って、歩いて取ってくるのと大差は無いぞ。やったことと言えば、その程度のことでしかないんだ。


「それを非常識と言うんです」


 ああと天を仰いだ白船君と神代さんは、『常識が狂う』と声を揃えてくれた。

 それが、ここの常識だと開き直ることだな、うん。


「極秘任務と言うのがよくわかりました。こんなことを知られたら、大騒ぎになってしまいます」


 だから、人里離れたところに引っ込んでいると言うことだ。


「ええ、賢明な選択だと思います。ところで、私も潰れていいですか?」

「その、私も潰れたいと思います。そのですね、お持ち帰りされても文句は言いませんよ」


 誰に言っているのかが疑問なのだが。ちなみにここは、俺の家と言うのを忘れてくれるな。

 つまり、お持ち帰りではなく、デリバリーされてきているのだ。心の棚を増設していないので、今のところその気はないと言うのが現状になっている。




 結果的に、歓迎会は明確な終わりがないまま終わることになった。俺とセレス、ルーテシアは早々に退散したし、小谷さんは手酌でひたすら飲み続けていた。その隣では、神代さんが白船君を殴りながら飲んでいたし、エクシブがラズライティシア様におもちゃにされていた。


「面白い方たちですね」


 俺は、自衛隊と言う組織に疑問を感じてしまったのだがな。


「だが白船君だったか、彼はなかなかの実力者のようだよ」


 陸自でレンジャー資格を持っているんだから、実力はあるんだろうな。ただ、まともに戦えばエクシブの方が強いだろう。


「それは、戦い方によるだろうよ。もっとも、おばばが着いてれば負けることはないのだろうな」


 おばば……本人に聞かれないようにしろよ。住人の間で、余計な諍いは起こしたくないからな。


「心配には及ばない。こう見えても、危機察知能力には自信が有るんだ。なに、本人も親しさ故だと思ってくれてるだろう」


 とてもそうは思えないのだが。お前が勝手にそう思っているだけじゃないのか?


「本人に文句を言われたことはないぞ。まあ、面と向かって言ってもいないのだが。そんな危ない真似をするつもりは無いよ」


 あははと笑いながら、ルーテシアは着ているものを脱ぎ捨ててくれた。いつもそうなのだが、もう少し恥じらいがあっても良いのではと思えてしまう。それでもその気になってしまうのだから、男と言うのは美女に弱い生き物なのだろう。

 それからセレス、張り合って裸にならないように。お前の場合は、恥じらいに関係なく破壊力が半端じゃないんだからな。俺の健康のためにも、控えめにしてくれると嬉しいのだが。


 そして翌朝、ダイニングは修羅場になっていた。爽やかな朝の空気とは対照的な、どんよりとアルコール臭い空間が広がっていたのだ。そしてそこには、4つの屍が転がっていた。小谷さん、エクシブ、白船君、神代さんの4人である。残りの一人、ラズライティシア様は何事もないようにビールを飲んでいた。この、ウワバミめっ!


「われにとっては、この程度の薄い酒はエネルギー源でしかないからな」


 あなたは、アルコールエンジンで動いているのか? それはいいのだが、4人にリフレッシュを掛けてやってくれないか。もう、歓迎会の時間は終わったのだからな。


「そうだな、この状況は爽やかな朝には相応しくないだろう」


 わかったと言って、ラズライティシア様はリフレッシュの魔法を発動させた。この魔法、どこまでやるかはラズライティシア様任せになる。アルコールの分解、酔い止め、体のリフレッシュ……汚れ落としの効果も持っていた。


「もう、朝ですか?」

「いつの間に、朝になったのでしょう」

「飲み過ぎたと思ったのだが……」


 3人の反応は、まあ予想の範囲と言うところだな。それはそうとして、おいエクシブ大丈夫か?


「もう少し現実逃避していたかった、その程度だと思ってくれ」


 取りあえず、リフレッシュの魔法は無事効果を発揮してくれたようだ。

 各自、自分の家に戻って身支度を調えてくれ。特に白船君、神代さんは仕事をしに来ているのだからな。


「ところで諸星さん、監視カメラを仕掛けていいですか?」


 監視カメラね。つい最近、取り外したばかりと言っちゃいけないんだろうな。それなんだが、プライバシーエリアでなければ許可をしてもいいぞ。具体的には、どこに仕掛けるつもりだ?


「室内は集会場。屋外は、集落の入り口、集落を俯瞰する場所。そして集落周辺と言う所を考えています。ドローンも持ってきていますので、時々空撮することも考えています」


 プライバシーは尊重してくれると言うことか。まあ、その程度なら問題は無いんだろうな。設置する機械を確認するので、設置はその後にしてくれればいいぞ。


 そうやって全員を追い出せば、それで一息吐くことが出来る。命令と超越の恩恵は、こう言った地味な仕事での有り難みが少ない。まあ人間欲を出せばきりが無いのだから、文句を言ってはいけないのだろう。

 そのあとセレスがおいしい朝食を用意してくれたので、朝から満ち足りた気分になることが出来た。あちらの世界と比べるまでもなく、刺される前の世界でもこんな気持ちになったことはないのだ。もの凄く美人と言うことを差し置いても、俺には勿体ない嫁さんに思えてしまったぐらいだ。


「ですけど、私も幸せなんですよ」


 そこで頬を染められると、ぐっとくると言うよりムラッときてしまうのだ。まだ一日が始まったばかりと考えると、流石に自重しなくてはいけない。

 それでも、まあ、なんだ。夫婦として、朝に許される程度のスキンシップなら良いだろう。


 と言うことなので、俺は膝の上にセレスを座らせ後ろから抱きしめた。勿論、振り向かせてキスなどもしている。いやなんだ、以前の世界でも想像できない幸せなことには間違いない。ただ、時間を考えるとことに及ぶわけにはいかない。それにそろそろ、師匠……ルーテシアも起きてくる時間なのだ。


「いや、邪魔をしては悪いと思ったのだよ」


 別に、邪魔などと言うつもりはありませんよ。ところで、味変をしていいですか? 味変とは何か、ですか。セレスとは違う唇も味わおうかと言うことです。スケベ……まあ、否定はしませんよ。それでも言えることは、俺は二人を愛していると言うことです。恥ずかしいことを言うな? お願いですから、照れ隠しで人を殴らないでください。




 ゆっくりしてから集会所に行ったら、白船君がお店を広げていた。繰り返して言うが、別にバザーをしようとか言うわけではない。彼が持ち込んだ、様々な監視機材を広げていたのだ。


「これですか、可視光と赤外光の両方で監視を行うカメラです。集落の入り口、それから後ろの林……森ですね、森に仕掛けようと思っています。カメラで撮った映像は、無線でこちらに集めます。そこそこ高速の通信が出来ますから、かなり高画質の映像を撮れますよ」


 なるほど、それで電気はどうするんだ。集落に電気は来ているが、コンセントはさほど用意されていないぞ。


「電源は、基本的に太陽電池で賄います。後は、バッテリを抱かせて夜間にも動作するようにしています」


 なるほど、俺の知らない世界と言うことか。


「それから、こちらがドローンカメラになります。大型小型、それぞれ2台ずつ持ってきました。小型ドローンは、狭いところを監視するためです。大型の方は、小型に比べて高度と距離を取ることが出来ます。結構大きなバッテリを摘んでいるので、数時間ぐらいなら飛び続けることが出来るんです。速度も、最高で100kmぐらい出る優れものです」


 中々いい機材を持ち込んだのはわかるのだが、使い道があるのだろうか。飛べるかと言われれば、俺とラズライティシア様は飛ぶことが出来る。ただ俺たちは監視対象外のはずだし、上からの映像が欲しければ俺たちが持って飛べば良い。


「取りあえず用意したと思ってください。ちなみにですね、簡単なレーダも持ち込んでいるんです。ただこちらは、しっかりした塔を作らないといけないんですよ。塔の機材は手配中ですから、届いたところで設置することになります」


 なるほど、やりたいことは理解出来たと思う。ただ注意しておくが、ここを自衛隊の基地化をしてくれるなと言うことだ。


「つまり、迎撃用の武器も用意しろと?」


 それをするなと言っているんだ。武器って、一体何を迎撃するつもりなんだ?


「そうですね、某国のスパイとかが考えられますね。それから異世界ですよね、異世界だったら色々なモンスターがいてもおかしくないと思いませんか? それだったら、それなりに殺傷能力が必要になるのか……対戦車砲とか申請した方が良いのかな」


 こらこら物騒な武器で悩むんじゃない。それから言っておくが、そんなものがなくてもモンスターぐらいなら俺とラズライティシア様、加えて言うとエクシブとルーテシアで迎撃が出来るぞ。その気になったら、骨も残さないぐらいに燃やし尽くすことだって可能なぐらいだ。


「ええっと、非常識と言って良いですか?」


 俺を敵に回したいのならご自由にどうぞ。何だったら、白船君を使ってデモをしてもいいんだぞ。


「謹んで遠慮させていただきます」


 それは残念。まあ、それは良いのだが、どうして神代さんは白衣を着ているんだ。ひょっとして、コスプレとかしているのか。違う、自分は看護官だと。だから、職務を果たすために白衣を着たのだと。


「まさか、諸星さんの口からコスプレと言う言葉を聞くとは思っていませんでした」


 いや、俺もその世界に馴染みはなかったんだぞ。ただな、ラズライティシア様たちに巻き込まれたんだ。別に俺たちがコスプレをすると言うことではないぞ。そのだ、アニメと言う奴を見ることになったんだ。それに加えて、その関係の情報誌も購読するようになったんだよ。コスプレと言うのは、その情報誌からの受け売りと言うことになる。


「そのアニメですけど、やっぱり異世界系ですか? それは、こちらに侵入してくる奴の対策と言うことでしょうか?」


 それは否定しない。否定しないが、ラズライティシア様には別の目的もあるようだ。うん、新しい魔法の研究と言う奴だな。魔法には魔力と想像力が必要なのだそうだ。


「魔力はわかりますけど、想像力ってどんな意味を持っているんです?」


 魔法と言うのは、結果を想像して魔力を練り上げることで実現するのだそうだ。だから、自分が想像できないことは魔法でも出来ないらしい。その辺り、俺の命令でも似たようなものだな。命令を下す以上、その命令は具体的なもので無くてはいけないと言うことだ。


「なるほど、だから諸星さんもアニメを見ているんですね。それで、何か参考になるものはありましたか?」


 その辺り、ラズライティシア様が整理中と言っておこう。ちなみに、現代科学の勉強もしているぞ。


「ああ、進んだ科学は魔法と区別が付かないって奴ですね」


 いや、違うから。科学で実現していることを、魔法でも実現できないかと考えているだけだ。後だな、核融合ができないかなとも考えている。ただ実験に失敗すると、俺以外が消滅してしまうことになる。だから、自信が持てるまで実験はしないことにしている。


「諸星さん。非常識と言って良いですか?」


 白船君と同じことを言っておこう。俺を敵に回しても良いのなら。まあ、そう言うことだ。

 ところで、白衣を着てどうするつもりだ?


「これからですね、皆さんの身体データを取ろうかなと。身長体重体脂肪、血液や尿の検査もしようかと思っているんです」


 視力とか聴力とかもか?


「そう言った、諸々のデータですね。ちなみにですね、変なウィルスとか持ち込んでいないかの調査も含まれているんです」


 今更なのか。そう言っても問題はないと思うぞ。


「はい、今更ですね。諸星さんが戻ってきてから、一体どれだけの人と接触したのでしょう。それを考えたら、本当に今更だと思いますよ。ですが、今更でもしないといけないことなんです」


 だとしたらだ、俺は悪いことをしたのかもしれない。


「悪いこと、ですか?」


 ああ、悪いことだな。この世界に戻ってきたところで、全員の体を消毒しておいたんだ。ちなみに、ウィルスとか菌で良いのか、それも消えろと命令してある。


「あまり殺菌しすぎると、逆に体がおかしくなりますからね。人間と言うのは、多くの菌と共存して生きているんですからね」


 なるほど、素人が余計なことをしてはいけないと言うことか。だったら、これからは神代さんに相談することにしよう。

 ところで神代さん、何か言いにくいことが有るのか?


「いえ、ちょっとした検体が欲しいんです」


 血液を採るとか言ったが、それではダメなのか?


「それも検体の一つではあるんです。ただ、その、ですね。生殖関係の検体も欲しいなぁって」


 生殖関係の検体?

 首を傾げた俺に、神代さんは具体的な検体を教えてくれた。


「例えばですね、エクシブさんの精子です。セレスさん、ラズライティシアさん、ルーテシアさんの卵子も欲しいんですけどね。ただ、精子に比べて卵子は入手しにくくて」


 精子は入手しやすいのか?


「卵子は、その採取方法が微妙で……女性の大切なところから、注射のようなもので採取するんです。装置も大がかりになりますから、ちょっと難しいかなって。それに比べて、精子は射精して貰えばいいですからね。小谷さんに頼めば採取できると思います」


 あー、小谷さんに頼むのね。ちなみに聞いておくが、俺のも採取するのか?


「諸星さんの、ですか?」


 なぜ、そこで赤くなってくれるのかな。いや、理由は教えてくれなくていい。俺はまだ、心の棚を増設していないんだ。


「私じゃダメなんですか。やっぱり、無いチチ系だと無理なんですか?」


 その辺りはノーコメント。いや、下手なことを言うと、抜き差しならないことになりそうな気がしたのだ。




 俺が許可を出したので、白船君が監視カメラの準備を始めた。いつの間に運び込んだと言いたくなる大きな荷物を開け、次々とパーツとやらを取り出してくれた。

 それなんだけど、質問していいか?


「どうぞ、私には説明責任がありますので」


 遠慮無くと言われたので、遠慮無く質問をすることにした。

 そのだ、何セット分持ち込んだのだ。それ以前に、それだけ大きな荷物をどうやって運んできたんだ。


「その辺りはですね、開発中のパワードスーツを使いました。稼働時間が極端に短いのですけど、取り付け道路が広くなっていたので十分間に合いましたね」


 それで、何セット持ち込んだのだ?


「予備2台を含めて、10セット持ってきました。それからドローンですが、あれは自力で飛んできて貰いましたよ。それが、これです」


 ああ、さっき飛んできた奴か。打ち落とさないで良かったと言う所だな。ラズライティシア様が、興味津々と言う顔をしていたんだ。


「後で、デモ飛行をしましょうか? こちらのモニタに、撮影した景色を映すことが出来ますよ」


 ああ、お願いしておいた方が良さそうだな。それで、このバラバラになった部品はどうやって取り付けるんだ。取り付け金具で、ではなくてだな。確か高いところに取り付けるのだよな。バケット車だったか、そんなものを持ってきていないだろう。


「ああ、高所取り付け作業ですね。それでしたら、私が木登りをして取り付けていきますよ。1セット2日で、2週間ちょっとで取り付けが完了すると思います」


 木登りをして……どれぐらいの高さに取り付けるんだ?


「せいぜい5mぐらいですね。高いところの方が、広範囲の監視が出来るのですけど……木の葉とかの障害物が多くなりますから、5mが限度だと思います」


 その高さに、一人で上って作業をするのか? 誰か、補助が必要と言うことは無いのか?


「有ればありがたいと言う所です。ただ、エクシブさんとか、機械を扱えるとは思えません。小谷さんには無理そうですし、神代さんは手伝ってくれないと思いますよ」


 俺は?


「集落のトップに手伝いをさせるのですか? 確かに、諸星さんだったら、任せていいのかなと言う気もしますが。流石に畏れ多いので遠慮させて貰います」


 畏れ多いと言うことはないと思うぞ。ところで、組み立てとか見学してもいいか?


「暇なんですね。ええ、別に構いませんよ」


 では遠慮無く、

 それから白船君が、1時間がかりで1セット組み立ててくれた。手伝うと言ったのだが、俺がやったらどこかおかしくしてしまいそうだ。だから俺は、貰った恩恵を利用することにした。ああ、『完成品の真似をしろ』と部品たちに命ずるのである。


「あー、ちょっと現実逃避していいですか?」


 右手でこめかみを掴み、白船君は天を仰いでくれた。ちなみに彼が1時間かけた作業を、10分も掛けずに7セット分を組み立てたのだ。

 現実逃避は構わないが、正しく組み上がっているのか確認してくれよ


「組み上がっていくのを見ていましたよ。その結果、組み立て工程に問題が無いのは確認しています。確認しているのですけど、どうしても頭が受け入れるのを拒んでいるんです」


 こめかみを揉みながら立ち上がった白船君は、『現実逃避してきます』と言って倉庫を出て行った。やはり、まだ精神的に鍛えられてないと言うことか。エクシブたちなら、こんなものだと受け入れているのにな。


「うむ孝明よ。そこに少しだけ勘違いがあるのを教えてやろう」


 勘違い、俺の?


「うむ、ぬしの勘違いだな。エクシブはな、受け入れているわけではないのだぞ。初めから気にしていないだけのことだ」


 普通気になると思うのだが、気にしていないのか?


「うむ、気にしておらぬな。その辺りが、奴の美徳と言って良いだろう」


 俺には、それを美徳と言って良いのかわからんのだが……


「魔法のある世界なのだぞ。細かなことに拘っていたら、あっと言う間に頭がおかしくなってしまうと言うことだ」


 魔法を持ち出されたら、確かにそうとしか言えないな。ああ、魔法に慣れた世界なら、多少の不思議なことは魔法で片が付いてしまうのだからな。


「ただ言わせて貰うと、われにもぬしの真似はできぬぞ。従って、われは『こんなものだ』と受け入れておる。それにしたところで、この世界に飛ばされてからのことだからな」


 その前は?


「有ってはならぬ力。滅することが出来ぬのなら、封印するしかないと思っておった。例えこの我が身を犠牲にしてもだ」


 随分と、重い決断をしてくれたのだな。ただ言わせて貰うと、俺はあの世界を害するつもりはなかったのだぞ。それどころか、師匠と一緒になって遊んでいただけだと思うのだが。


「例えぬしがそのつもりでも、回りはそうとは受け取らなかったと言うことだ。考えてもみよ、魔獣や鬼どもが、お前の命令を聞くのだぞ。その光景を見せられたら、魔王が降臨したと勘違いしてもおかしくないであろう」


 その魔獣や鬼どもなのだが、ただ大人しくさせただけだぞ。それに加えて、人に迷惑を掛けないように姿を隠せと命じただけだ。殺さなかったのは……ここに来たのだから、俺の考え方が理解出来るだろう。


「ああ、今のぬしなら、殺生しない理由に納得がいくな。ただな、この世界の考え方は、我らには馴染みの無いものなのだ。それからこの世界と言ったが、今現在で大々的に殺し合いをしているところがあるよな。それを考えれば、ぬしの常識にしても狭い範囲のものとしか思えぬのだ」


 その指摘は、極めて正しいと言ってやる。ただな、その指摘が出来るあなたを、俺は心から尊敬するぞ。流石は神話の時代から生きてきた大魔法使い。英智の面でも、ただの人の及ぶものでは無いと言うことか。


「うむ、その心がけは良しとしてやろう。そんなわれでも、ただの一人でしかないと言うことだ。それに引き換え、この世界には80億を超える人がいるのであろう。集合知と言う言葉を使わせて貰うが、80億もの人々の集合知に比べれば、われなどその辺りの石ころのようなものだ。何しろわれには、監視カメラだったか、その成り立ちを理解することが出来ぬのだ。それにドローンだったか、あのようなものを考えたこともなかったぞ」


 と言うことだ。そう言って話を終わらせたラズライティシア様は、『のう』と別の話を始めてくれた。


「これからのことだ。ぬしは何をしたいのだ、何をしようとしているのだ?」


 俺が、何をか。改めて聞かれると、たいしたことを考えているわけじゃない。ただ、俺たちが安心して暮らせる場所を作りたかった。その程度のことしか考えていないのが正直な所だ。


「その俺たちだが、どこまで含んでいるのだ?」


 俺とセレス、それからルーテシアぐらいまでだな。なんだ、文句があるのか?


「われとエクシブを外したのは、何か含むところがあるのか?」


 この世界に戻ってきたきっかけ、その前に俺のことを殺そうとしたよな。ルーテシアに、暗殺を命じたのも知っているぞ。


「暗殺を命じたのは、われではないからな。われだって、国王に泣きつかれて仕方なくルーテシアに相談をしたのだ」


 相談と言うのは、暗示を掛けたり催眠術を使うことではないのだがな。


「だがな、お陰でお前は元の世界に戻ることができたではないか。われが使ったのは、お前を封印するための空間遮断の魔法でしかない。空間遮断が成功したところで、次に時間凍結の魔法を使うはずだったのだ。ただ空間遮断したにもかかわらず、われらは別の空間に現出してしまったと言うことだ」


 時間凍結か。その結果を想像すると、あまり嬉しいものでは無いな。しかも時間凍結までされたら、俺でなければ世界から遮断されてしまうぞ。


「つまり、お前には通用しないと言うのだな。なぜそれがわかると言うのもあるが、つくづくお前と言う存在はヒトを超越しておるのだな」


 ふうっと息を吐いたラズライティシア様は、「戻ってきたようだ」と白船君が出ていった出口を見た。


「ぬしは、本当に他の世界とやらから来訪者があると思っておるのか?」


 その問いへの答えは、『可能性ならある』と言うことになる。そして俺の気持ちを言うので有れば、『来て欲しくない』と言うことになる。それでも、備えが必要だと思っている。


「そうすれば、この世界に与える被害を抑えることが出来る、か。今更なのだが、随分とぬしはお人好しなのだな。それがわかっていれば、われはお前に味方になっていたはずだ」


 政治家ってのは、お人好しではやっていけないのだがな。


「だが、われにはどうしようもないほどお人好しに思えるのだ。なに、卑下することはないのだぞ。そんなぬしを、われは好ましいと感じておるのだ」


 好ましいの意味は、深くは考えないことにしておこう。それから白船君、もう大丈夫なのか?


「少し落ち着いたと言う所です。時間が思いっきり出来ましたから、1カ所だけですが、取り付け金具を取り付けてみます。それから、見学することは構いませんよ。ただ、思いっきり地味な作業なのをお断りしておきます」


 なるほど、地味な作業というのだな。それならそれで、レンジャー資格保有者のお手並みを見せて貰うことにしよう。


「おだてても何も出ませんよ」


 そう笑った白船君は、装備一式……ロープとか金具を持って倉庫から出発した。目指す先は、集落入り口近くに生えている杉の巨木である。もともと設置されていた監視カメラがあるのだが、より高性能のものに更新するのだそうだ。


 そしてその夜、リビングで酔い潰れる白船君がいた。いや、なんだ、白船君は悪くないと思うぞ。ロープ一本で木を登っていく姿は、かなり格好が良かったと思う。それに、金具設置も見事だったと思う。流石は自衛隊と、感心させて貰ったのは確かだ。


「だがの、ぬしはその後何をしたのだ?」


 それについては、申し訳ないことをしたとは思っている。ただ、ちょっとだけ手伝ってあげようと思っただけだと言い訳をさせて貰う。


「完成形を見て、監視カメラとかに命令をしたよな。あれと同じように、指定した木に設置されろと」


 仕方が無いじゃないか。ロープで木に登るより、浮遊魔法の方が良いだろうと提案をしたんだ。その提案を断ったのは、白船君なんだからな。だから俺は、少しだけ設置の手伝いをしただけのことだ。


「少しだと、少しと言うのは残りのすべてを設置することを言うのか? 白船が設置したのは1台、ぬしは6台を設置したのだぞ……すまぬ、最初の1台も主が手伝ったのだったな。本当に、それは少しと言って良いものなのか? 殆どすべてと言う方が正しいのではないのか?」


 しかしだ。監視カメラの設置に時間を掛けることに意味は無いはずだ。だから俺は、間違ったことはしていない……と思う。


「間違ったこととは言っておらん。ただ、白船は現実に向き合うことが出来なかったと言うことだ。現実に向き合えないから、酒に逃げたと言うことだよ」


 俺が悪いのか?


「悪いとは言っておらん。空に浮かせてやる程度で留めておくのが親切だったと言うことだ」


 それは、次への教訓としておくことにする。まあ、次があったらなのだが。


「ぬしなら、間違いなく次も同じことをすると思うぞ」


 その決めつけは、流石の俺でも傷つくと思うぞ。まあ、少しだけなのだがな」


 そしてその次の機会なのだが、思ったよりも早く訪れてくれた。いや、今度は白船君が何かをしたと言うことではない。『来て欲しくない』と俺が言ったことが、現実になったと言うことだ。

 そしてその結果が、俺たちの前で土下座をする20名……で良いのだよな。20名の男女と言うことになる。ちなみにその20名なのだが、背中に大きな白い翼を背負っていた。





自A隊隊員さんの名誉のために。彼等がオタクと言うのは、単なる設定です。大勢隊員がいるのだから、オタクがいても不思議は無いと思いますが。

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― 新着の感想 ―
海賊ならゴムとまりもとか 特撮なら赤と青とか 偽名に使った人いるからあれだけど武将なら天下餅ついた人とこねた人とか そんなのじゃなくてナマモノを例えに持ってくるのはだいぶ非常識側ですな
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