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市ヶ谷の方から来ました

村の特産は異世界です


・市ヶ谷の方から来ました


 自衛隊関係者がやってきたのは、小谷さんから話を聞いた3日後のことだった。話をしてからを考えると、異常に短い時間、そして事情を考えれば当たり前とも思える迅速な対処と言うことになる。

 集落……と言っても3件しかないのだが、その集落の入り口で俺と小谷さんとで一行を迎えることにした。そこで少しだけ驚いたのは、自衛隊関係者の他に一人、政府関係者がいたことだ。黒縁のメガネが特徴の、菅谷官房長官の右腕と言われる男、吉沢健人官房副長官が同行してきていた。さすがにこれは、驚かせて貰ったよ。


「君の扱いはかなりデリケートなところがあるんだよ。それが理由だと理解して欲しい」


 そこで防衛省関係者の顔を見たところを見ると、彼らの感情への配慮が含まれているのだろう。

 だから俺は、初対面の作法に則り名乗って右手を差し出した。


「丁寧な挨拶に痛み入る。故有って所属は名乗れないのだが、上杉と覚えてくれれば良い」


 なるほど、上杉さんと言うのですね。それが偽名と言うのは口に出しませんよ。

 流石は現役と言えば良いのか、握った感触は固いものだった。それなりに鍛えたつもりなのだが、争ったらあっという間に制圧されてしまうのだろう。ちなみに上杉と名乗った男性は、ポマードで髪を固めたダンディに見えないことはないがっちりとした体格の男である。


「同じく武田と言う」


 こちらは、先ほどの上杉よりは少し細めと言う所か。ただ比較の問題で、一般人とは異なる迫力を持っていた。


「真田です。よろしくお願いします」


 最後に真田と名乗った男は、この中では一番背が高いのだろう。短い黒髪と言うのが、一番自衛官らしく見えていた。

 挨拶が済んだのだから、ここからはお話の時間となる。場所、場所は選べるほど無いんだよ。だから、俺の家と言うことになるんだ。


 こちらにと背を向けたのだが、俺の背中にはしっかり汗が流れていたと思う。今更戦って負けることはないのだが、それでも圧倒的な暴力の気配には緊張してしまうんだ。

 そのまま玄関で靴を脱いで貰い、広い方のリビングへと案内をした。応接にしようとした方では、人数として不足しているのが理由だ。


 そこまで案内して、ご挨拶と。改めまして、私が代表をしている諸星と言います。そして、これが私の妻、セレスです。予めお断りしておきますが、妻はまだこちらの言葉に慣れていません……ってことで。

 そこで背中を軽く押してやるのは、俺たちの関係を示す意味がある。そしてセレスも、役目はわかっているととても綺麗な笑顔を浮かべて挨拶してくれた。ちなみにその時の格好は、シックな装いのワンピースである。その辺り、山々の紅葉をを意識したものだった。


 ちなみに、セレスを紹介したのは意図があってのことだ。こちらが緊張しているのと同じくらい、いや相手の方が緊張していてもおかしくない。だから緊張を解くと言うより、違いを見せつける意味で最初にセレスを紹介したのである。勿論、この後に森人と言う追撃も用意してある。

 セレスの投入は正解だったようで、吉沢官房副長官以外の目が彼女に引きつけられた。今更のことだが、それだけセレスの美貌が並ではないと言うことだ。情報として知っているのだろうが、それでも間近で見るのは破壊力が違うと言うことだ。


「丁寧なご挨拶、痛み入る」


 最初に口を開いたのは、上杉と名乗る男だった。どうやら、この場は彼がリーダー的役割をしてくれるようだ。


「お気づきかと思うが、あなたたちのことは監視させて貰っていた。そこで報告を受けていたのだが、実際に目の当たりにしてみると、その、想像力の欠如を思い知らされました」


 そうですか、監視と言ってくれますか。普通は、護衛と言うところだと思うんですよ。


「取り繕うことに意味があるのならだ。そして、あなたたち相手には意味が無いと考えている」


 なるほど、確かに意味の無いことですね。正直に監視と言ってくれましたので、他の3人も紹介することにします。

 俺の合図を受けて、セレスが隣で待っていた3人、ラズライティシア様、ルーテシア、エクシブの3人を連れてきた。ちなみにラズライティシア様とルーテシアは、偽装の魔法を解除していた。どう言うことかと言うと、彼女たちの持つ特徴、長い耳を隠さず現れてくれたと言うことである。


 全員が揃ったところで、再度ご紹介と。妻のセレスを含め、この4人が別の世界からの来訪者となる。左から順に、ラズライティシア、ルーテシア、エクシブと言います……っと。


「ご紹介ありがとうございます。私は上杉と申します。そして隣に居るのは武田、その隣が真田と申します」


 早速お話を……ラズライティシア様、何か気になることがありますか?


「指摘していいのか迷ったのだが、何故この者たちは偽名を使っておるのだ?」


 しっかりとした日本語を話したからだろうか、それとも偽名を指摘されたからだろうか。3人の顔に、ほんの僅かだが動揺が現れてくれた。ただねラズライティシア様、お互い承知の上のことだと思ってください。


「そうか、話の腰を折って悪かったな」


 あっさりと引き下がってくれたので、話を先に進めることにした。ただ話を進める前に、確認しておくこと、お知らせしておくことを済ませておく必要があった。

 その一つが、住戸に設置された盗聴器、カメラの類いはすべて排除してあることだ。勿論、必要な場所はと言うことになる。集落の入り口にあるカメラは、撤去しないで残してあるんだよ。


「どうしてわかったと言うのは、間違いなく愚問なのだろうな」


 まあ、有ることはわかっていましたからね。と言うより、設置されていない方がおかしいと思っているんだ。ただ、こちらにも事情があるので、すべて見つけ出して……出てこいと命令をすれば良いんだけど、命令をして壊させていただきました。ですので、このことについて騒ぐつもりはありませんし、損害賠償を求められても答えるつもりはありません。


「感謝する。それで、確認しておくことと言うのは何のことだ?」


 それはですね、集落周辺に兵を展開されていますよねと言うことです。どう頑張っても中に入れませんので、もしも中に入りたければ正面入り口、つまり皆さんが入ってきた経路を利用して貰う必要があります。ちなみに、こちらは認めていただければこちらからは何もいたしません。お認めいただけないのであれば、こちらも対抗措置を執ることにいたします。


「対抗措置と言うのか?」


 ええ、対抗措置になりますね。怪我人……死人を出したく有りませんので、大人しく認めていただければと思っているんです。

 この辺りになると、すでに駆け引きの世界に入ることになる。それもあって、エクシブとルーテシアの二人には席を外して貰うことにした。もう少し言うのなら、彼らが『対処』に関わると言うことだ。


「認めるだけで良いのか」


 ええ、認めていただけるだけで結構ですよ。俺だって、事を荒立てようとか思っていませんので。


「ならば、外に配した者たちのことを認めよう」


 認めていただいて感謝いたします。それとは別に、おかしな二人連れが居るんですよ。そちらも関係者なんですか?


「おかしな二人連れ、だと?」


 その表情を見る限り、関係者でないのは確かなのだろうな。ラズライティシア様によると、あまりにも無警戒だからと言うのがそう判断した理由である。

 だったら、その二人を確保してここに連れてくることにしますか。


「それはそちらに任せる……いや、我々がしなくてもいいのか?」


 それはですね、下手に排除すると後から問題になりかねないからです。特にマスコミ関係だと、あなたたちが動くことで、痛くない腹を探られることになりますよね。


「だとしたら、なおのこと君たちでない方が良いのでは無いか?」


 それなんですけど、私たちに対して色々と疑念を抱かれていますよね。ですので、少しだけ手の内を明かしておこうかなと思っているだけなんです。


 セレスに合図をすれば、そのことをエクシブたちに伝えてくれる。『殺しはダメ』と念を押してあるので、少なくとも五体満足の状態で連れてきてくれるだろう。

 そしてセレスが出て行ってから5分後、気を失った男二人が抱えられてきた。手足が繋がっているところを見る限り、かなり手加減をしてくれたのだろう。


 それで、そちらでも観察されていたんですよね? と言いますか、もう隠し事はないと思って良いんですよね?


「事情は承知していると言うのだね」


 その辺りは、まあ。自衛隊の精鋭が、後を付けられるなんて間抜けなことをするとは思いませんからね。従って、記者ですか、これもあなたたちの仕込みだと思っていますよ。間違っていましたか?


「取りあえず、肯定させて貰うことにする」


 悪意については、まあ触れないことにしておきますよ。取りあえず、この二人の処置が必要ですね。さて、どうしてあげましょうか。

 そこでラズライティシア様を見たのだが、『お前がやれ』と返されてしまった。


「始末していいのなら、われがやっても良いぞ」


 流石に、始末と言うのは問題です。それに人二人が消えると、結構な騒ぎになるんですよ。忘却魔法でも掛けて貰おうと思ったのですけど、それはそれで記憶の整合がとれないんですよね。

 そう言うことなので、俺は二人に対して命令、つまり強制力を働かせることにした。具体的に何をしたかと言うと、彼らの取材が空振りだったと言うものである。ここでは何も見ていないし、仕方が無いので道の駅で松茸と釜炊きご飯を食べて帰った。後半のは、実際に道の駅まで行って証拠を残すと言う命令である。



 と言うことなので、自分で歩いて帰ってくれるかな



 俺に命令された二人は、立ち上がってとても素直に帰って行った。その後ろ姿を見送った3人は、顔を見合わせてから『良いのか』と上杉氏が聞いてきた。

 でも、良いのかと聞かれても、ですね。


「彼らは、カメラと録音機を持っている。スマホも持っているから、ここまでのログも残っているはずだ」


 ああ、そう言うことですね。それだったら、全部無かったことにしましたよ。カメラは何も撮っていない。録音機も何も録音していない。行動ログは残しましたが、逆に何もなかったことへの証拠になると思います。ここには、道に迷って偶然来てしまった。それ以上でも、それ以下でもないと言うことにしました。


「そんな都合のいい話があるのだと?」


 まあ、疑問に思いますよね。ただね、失敗したときのリスクは私たちが負うわけです。ですので、あなたたちは見守ってくだされば結構です。あの二人ですけど、この後に道の駅に寄り道して帰ることになっていますよ。


「では、手出しをしないことにする」


 そこで顔を見合わせ、『失礼する』と言って真田氏が出ていった。今の話を、部下に命ずるためと言うことだな。

 ところで、皆さんは私たちの能力に疑問を感じられているのですよね?


「まともに考えて、信用する方がおかしいと思うのだがね。一応官房長官からの命令だから従ったが、保険を掛けたいと考えても不思議ではないはずだ」


 そこで視線を鋭くするのは、流石は自衛隊幹部と言う所だろう。少なくとも、俺に出せる迫力ではないのは確かだ。

 信用する方がおかしい……そりゃあ、そうですよね。あっさりと信用したら逆に心配してしまうぐらいです。さて、だとしたらどうしたものでしょうね。

 実のところ、何を見せるのかは決まっていたりする。別に思わせぶりなことをするわけではなく、すでに命令が発動されていたのだ。どう言うことかと言うと、彼らが気づくのは外に連れ出されてからと言うことになる。

 ただこの強制力は、吉沢官房副長官には発動させていない。うん、証人と言うのが必要だと思うんだ。と言うことなので、デモンストレーションを外でしましょうか?


「彼らはどうするのだ?」


 実はですね、もう命令を発動してあるんです。ちなみに3人とも、まだソファーで座っているつもりでいます。


「人を操る真似はしないのではなかったのかな?」


 ええ、そう言いましたよ。でもですね、この程度なら罪のない使い方だと思いますよ。それに、出来ることをわからせておいた方が良いと思うんです。

 だからだと説明したら、素直に俺のやり方を認めてくれた。


「それで、外に出れば良いのだな」


 裏手にですね、ちょうど良いあんばいの空き地があるんですよ。そこで、簡単なデモでもしてみようかなと。


「それで、われは何をすれば良いのだ?」


 ラズライティシア様は、飛んでくれても良いですし、炎とか出してくれても良いですよ。


「そんな、初歩的な魔法で良いのか?」


 ええ、高度な魔法は必要ありませんね。それに高度な魔法を使うと、それだけで被害が出る恐れがあるんです。

 だからその程度で構わない。おかしな真似をするなと繰り返してから、俺は操られた3人を連れて家の外、裏手へと向かったのである。


 せっかく連れ出したのだから、呆けたままでは意味がないことになる。だから、『命令』をして正気を取り戻して貰うことにした。

 うん、慌てる気持ちは理解出来るよ。


「い、いつの間に、我々は外に出たのだ?」


 それなんですけどね、皆さんと一緒に外に出たんです。3人とも、覚えていないのですか?


 そう命令したのだから、覚えているはずが無いんだけどね。3人同時に意識していないと言うのは、明らかに異常なことに違いない。そしてその場合、最初に疑われるのは集団催眠と言うことになる。

 そう言うことなので、吉沢先生宜しくお願いします。


「正常だったかどうかは忘れれば、彼の言っていることに間違いは無い。貴官ら3人は、自分で靴を履いて屋敷から外に出ている」


 屋敷ですか。屋敷と言うには狭い家ですけどね、さて。


 そこで目配せをしたら、手はず通りラズライティシア様が浮かび上がってくれた。ちなみにスカートを穿いているのだが、なぜか下からでも中が見えないと言う謎仕様のスカートである。

 勿論、これだけだと証明になっていないのはわかっていますよ。だからですね、お三方にも空を飛んでいただくことにしましょう。


 その説明直後、3人プラス1、吉沢官房副長官も空へと持ち上げられた。こういったことは、仲間外れにするのは可哀想と言う気遣いからである。ところで、これが疑いは晴れましたか。晴れないと言うのであれば、もう少しお付き合いをしていただくことになります。


「い、いや、まて、これで十分なはずだっ」


 ですが、この高度では護衛の皆さんからは見えませんよ。と言うことなので、もう少し高いところへご案内いたします。

 そこで目配せをすれば、ラズライティシア様が4人を持ち上げてくれる。その高さ、推定で100mと言う所か。辺りを見渡してみると、護衛の自衛官が唖然とした顔をして見上げていた。ここまですれば、護衛の方たちからも見えると思いますよ。


「あ、ああ、そうしてみた方が良さそうだな」


 俺の助言に従い、3人が揃って携帯電話を取りだした。そしてそれぞれが、慌てて確認を始めたのである。


「た、確かに、我々が浮いているのは確認できた。だ、だから、早く下ろしてくれないか?」


 いえいえ、これだけでは不足ですよね。そんなことはない、十分と仰ってくれるのですか?


「あ、ああ、確認としては十分だ」


 仕方がありませんね。でしたら、元の位置に降りることにしましょうか。


「た、頼む」


 彼らの立場を考えれば、これぐらいの高さで恐怖に震えるとは考えられない。恐らく、訳のわからない方法と言うのが彼らの恐怖を掻き立ててくれたのだと思う。持ち上げた方法がわからなければ、大丈夫と言う確信など持てるはずがないからな。

 ラズライティシア様に合図をしたので、すぐに彼らは地面へと降りることになった。その速度がいささか速かったのは、『早く』と言う彼らの希望を尊重した……はずがない。単なる嫌がらせと言うことになる。そのお陰で、聞きたくもない男の悲鳴を聞かされることになった。高度100mからの自由落下、まあ悲鳴を上げたくもなると言うものだ。

 それでも地面に激突しなかったのは、限度をわきまえていたと言うことだ。地面にへたり込んだのは、感じた恐怖を考えればおかしなことではないと思うぞ。


 さて、次の出し物はどうしようか。


 激しい運動をしたわけでもないのに、上杉氏がゼイゼイと言いながら手で制してくれた。


「す、すまない、少しだけ時間を貰いたい」


 なるほど、これで十分と言うことですか。ところで、それなんですけど、無かったことにしましょうか?


 何をと明言するのは、彼らの尊厳に関わることになる。従って『何の』の部分をぼかして確認することになる。それでも意味が通じたのか、3人揃って……違うな4人に『お願いする』と言われた。だから俺は、『無かったこと』になるようズボンとパンツに命ずることにした。

 ちなみに、これもつまり部分的に強制力を働かせたことになる。続いて、もう少し理不尽な現象をお目に掛けましょう。


 次なる出し物として、俺は近くにある巨木を指差した。申し訳ありませんが、手で触れて本物であるのを確認して貰えませんか?


「手で、触れれば良いのだな」


 ここまでのデモンストレーションが効いたので、3人はとても素直に従ってくれた。その3人が杉の巨木に触れたところで、俺は次の命令を発動させることにした。どう言う命令かと言うと、若木になれと言うものである。その辺り、樹齢を知らないからと言うのが理由である。

 そして俺の命令を受けた杉の巨木は、あっと言う間に縮んで杉の苗木になってくれた。お陰で、手で触れていた3人がバランスを崩したぐらいだ。


 今のが、若木になれと命令した結果と言うことです。次は元に戻しますから、少し離れて貰えますかね。


 ここまで来たら、捻くれた3人も素直になってくれる。俺の言葉に対して、過剰なまでに反応して若木から離れてくれた。



 元の姿に戻れっと



 命令を発すれば、若木になった杉が元の巨木へと変貌する。成長の過程を見せず、あっと言う間の変化と言う奴である。こうなると、質量保存則とかの物理法則は完全に無視されたことになる。

 簡単なデモは終わったのだが、何かほかにすることはありますか? 物理法則とか無視できますから、言っていただければ対応できるんですよ。後ですね、物質変換もすることが出来ますよ。こちらはですね、そうですね、後で皆さんにお土産を差し上げることにします。お好みのものを、金でも銀でもダイヤモンドにでも変えて差し上げます。ええ、遠慮なんか必要ありませんからね。


「そ、それは、少し考えさせて貰えないか」


 そうですか、でしたら場所を変えることにしましょうか。


「あ、ああ、そうさせて貰おう」


 とても素直になった3人+1は、言われたとおりに家に入っていった。そこで出来た嫁さんは、人数分のおしぼり、しかもレンチンを用意してくれた。


『女として負けた気がする』


 小谷さんの呟きなのだが、何を今更と言うのが俺の感想である。ギルドの受付嬢時代から、セレスは気配りの人として有名だったのだ……あれっ、何か違和感が。いや、きっと気のせいなのだろう。

 4人を広いリビングに案内したところで、俺たちは少しだけ席を外すことにした。ただ放置と言うのは良くないので、事情を知る小谷さんを残していくことにした。色々とデモをしてあげたので、相談することがあるはずだと気を使った結果である。

 と言うことなので、小谷さん宜しくお願いします。それからお茶とかお菓子の追加はお任せしますよ。それからお酒なら、キッチンに揃っていますので。


 俺たちですか? 話をすることがあると思いますから、しばらく席を外すことにします。2階でのんびりとしていますので、必要でしたら声でも掛けてください。


「ええっ、お邪魔をしちゃ悪いと思うのですけど」


 その辺りは、小谷さんのところとは違うんです。はい、その手のことは暗くなってからすることに決めているんです。


「じゃあ、何をしているのかしら?」


 それはですね、お茶でも飲みながら、テレビでも見ているんですよ。これも、異世界から来た二人……今日はラズライティシア様もいましたね。多分エクシブもいると思いますから、4人への教育のようなものですね。


「何か、間違った伝わり方をしている気もするけど……おかしな番組を見せないようにね」


 あっ、それ、もう手遅れなんです。


 そう言い残してから、俺たち3人はリビングを出て2階へと上がることにした。そして上がった2階、俺の書斎には予想通りルーテシアとエクシブがテレビを見て寛いでいた。平日の昼前と言うこともあり、今日のお供は奥様向けのワイドショーだった。

 しっかりとワイドショーに染まった異世界人。違和感バリバリの光景と言うことになる。


「今ニュースを見ていたのだが、不倫と言うのは許せないな」

「男として、仕方の無い行動だと思うぞ」


 下では、日本の将来に向けて膝詰めで話をしているはずなのだ。それなのに、その上の階で話されているのが芸能人の不倫である。駄目とは言わないし、この時間に真面目な社会派ニュースがやっていないのもわかっている。MHKは……と言われても、毒にも薬にもならない情報番組しかやっていないはずだ。日本を知るには良い番組なのだが、退屈と言うのが一致した意見と言うのは今更のことだろう。

 俺としては、下世話な話よりももう少しこの世界を知って貰いたいのだが。なになに、人間関係を勉強している。ワイドショーでわかるのは、ねじ曲がった人間関係だけだぞ。あれは、あくまで暇な奥様たちの娯楽なんだからな。




 諸星さんたちが退出したところで、吉沢官房副長官たち4人が大きく息を吐き出されました。わかります、それは私が一度通った道ですからね。今ですか、今でも割り切れているとは言いませんよ。何しろ私は、毎日あの人たちと顔を合わせていますからね。そのお陰で慣れてきたとも言えますが、ラズライティシア様の非常識さを何度も目の当たりにさせて貰っています。その度に、神経が削られていくのがわかるんです。

 えっ、その割に血色が良い? ちょっと、表情も艶やかになっている、ですか。一応気のせいと言わせて貰います。


「つまり、君は諸星君と寝たと言うことだな」


 吉沢先生。それは、しっかりセクハラですからね。えっ、国家の一大事の前には些事ですか。でしたら、しっかり否定させていただきます。私は、諸星さんと寝ていません。考えてもみてください、セレスさんやルーテシアさんと比べられるんですよ。私の繊細な神経が、どう頑張っても持ちこたえられるとは思えません。


「なるほど、だとしたら相手はエクシブ君と言うことだな」


 なぜ、私が誰かと寝たことが前提になっているのですか? いえ、そちらの方は否定できませんけど。それでどうだったですか、ええっと意味が理解出来ないのですけど。


「いや、こちらの男と比べてと聞こうと思ったのだが。聞こうとして、自分が迂闊だったと気がついただけだ」


 つまり、私が処女だったと言いたいのですね。それもセクハラなんですけど、ごめんなさい否定できない自分が恨めしいです。普通に出来たのかですか、その、普通と言うのがよくわからないんですけど。えっ、カマトトぶるんじゃない。経験が無くても、行為の方法ぐらいは知っているだろう、ですか。セクハラに加えて、パワハラで訴えましょうか。訴えられても怖くはない? 事実が明るみに出たら、それどころの騒ぎではなくなるのですか。確かに、異世界から人が来たことがばれれば、上を下への大騒ぎになるのでしょうね。

 ところで、私をセクハラして何か意味があるのですか。そのこと自体に意味は無い、少し落ち着く時間が欲しかっただけだ。お陰で落ち着けたので感謝してくれるのですか。いえ、感謝なんかしてくれなくても結構です。人のデリケートな部分を利用しないで欲しいのですけど。


「防衛省の方に伺います。直接その目で見て体験してどのように感じられましたかな」

「まだ、現実を受け止め切れていないのだが……」


 そこでスマホを見られたのは、上杉と名乗った男性です。諸星さんが見破っていたのですが、ええ、偽名を使われておいでです。


「あの記者二人だが、彼が言ったとおり大谷村の道の駅に行っている。そしてかまどご飯と、特別に用意された松茸の炭火焼きを食べて帰ったそうだ。本社に電話しているのだが、何の成果も得られなかったと報告している」

「つまり、すべて彼の言った通りと言うことですか」

「それとは別に、我々が空に浮かされたことも映像でも確認されている。これで、我々が催眠術に掛かったのではないことも証明された」


 こちらは、武田を名乗った方ですね。しかし、戦国武将が揃えば偽名がばれても当然ですよね。


「杉の大木に起きた不思議な現象だが……これもまた、映像で確認が取れている。詳細な分析が必要だが、我々が目撃したものはすべて事実と考えて良いことになる」

「これで、私たちの指示が正当だとご理解いただけたと思って宜しいですね?」

「総理大臣を通さなかった理由にも納得が出来た。こんなもの、世間に知られたらとんでもないことになる。同盟国首脳にも、知られてはいけないことに違いない」

「その判断は、政治家が行うものなのですけどね。ただ、仰ることは理解出来ますよ。と言いますか、菅谷先生と全く同じ意見なんです。勿論、私も同じ意見だと申し上げておきます」


 ちなみに、私も全く同じ意見です。もう、あまりにも常識が違いすぎます。お陰で、深夜テレビで異世界もののアニメを見てしまいました。あの人たちは、アニメの世界で起きていることを実現できるんです。それどころか、アニメよりも凄いことをしていますよ。


「アニメが参考になるのか?」


 話を聞いていると、似たような世界観があるのがわかりましたよ。彼らの生活していた世界ですが、似たような物語がありました。後ほど参考資料としてお知らせいたしますので、確認をお願いいたします。それからお断りしておきますが、それでも諸星さんの能力は異常過ぎると言うことです。チートで良いと思いますが、あれ以上のチートはいないと思いますよ。


「だそうです。分析資料として調べてみてください」

「同じことが出来ないか、再度検証して貰うのも良さそうですな」

「諸星君は、支援を受ける正当な対価と考えてくれています。ただ、それでも限度を考える必要があります。加えて言うと、彼らを実験動物のように見ない必要があります」

「実験動物ですか。その気持ちがないとは言いませんが、相手が猛獣だと忘れないように気をつけます」


 猛獣ではなく、尊厳を持った人間と理解してください。そう考えないと、手痛いしっぺ返しを受けることになりますよ、と忠告しておきます。お三方、知らないうちに外に出ていたのを忘れないように。諸星さんがその気になったら、隠し事はすべて白状させられてしまいますからね。死ねと命じられたら、知らないうちに自殺していることになります。

 諸星さんは、とても自制的な方だと思いますよ。でも、人には譲れないことがあるのを忘れないようにしてください。わざわざ虎の尾を踏むのは、間違いなく愚か者のすることですからね。


「では小谷君。君はどうするのがいいと思うのかね?」


 私ですか。私の経験からするとですね、実は普通の人との違いがわからないんです。ええ、能力のことを言っているわけでは有りませんよ。人付き合い……威張って言えるほど経験は有りませんけどね。人付き合いという点では、懐に入り混んだ人には優しくしてくれます。

 厄介なのは、諸星さんが私たちの常識を熟知していることですね。ですので、送り込まれた目的は隠しても意味がありません。むしろ、最初から白状した方がスムーズにいくと思います。


「つまり、君以外の人材も送り込んだ方が良いと言うのだね」


 それは肯定させて貰います。何しろここは、人手が足りていないんですよ。ただ私もそうですけど、送り込まれた方の生活が問題になります。10年も前に住民が居なくなり、今は近くの集落まで車で10分は掛かるんです。言い方は悪いですけど、島流しに遭ったようなものですからね。


「だとしたら、彼らはなぜここの生活を受け入れたのだ?」


 諸星さんが教えてくれたことですけど、彼に特殊な能力を与えた神様が居るのだそうです。その神様が、星の数ほどの世界を管理されていると教えてくれたとのことです。その管理されている世界の一つに、諸星さんが送り込まれたのだそうですよ。


「宗教観どころか、科学の世界も変わってしまう話だな」


 それは否定しませんよ。でも、この話には続きがあるんです。どう言うことかと言うとですね、諸星さんたちだけが例外ではないだろうと言うことです。つまりですね、他にも異世界から戻ってきている、戻ってくる人があるだろうと考えられているんです。それで諸星さんは、そう言った人たちを収容するための場所を作ろうと考えられていると言うことです。

 流石に、東京のど真ん中にそんな場所は作れませんよね?


「東京どころか、人目に付くところに作れないだろう。自衛隊の管理地であろうと、幾ら守秘義務を課しても秘密を守りきれるとは思えない」

「お言葉ですがと反論したいところなのですが、仰るとおり駐屯地の中でも秘密を守るのは不可能でしょう。それどころか、このままではばれるのは時間の問題だと考えます」

「つまり、公開の方法を考えた方が良いと言うことですな」

「公開の時期も考える必要があります。そして同盟国、特に米国なのですが、話の持って行き方にも細心の注意が必要でしょう」

「細心の注意を払ったとしても、どうにかなるような問題とも思えませんな」

「それでも、公開しないわけには行かないのではありませんか。確かに衝撃的なことですが、その一方で科学の進歩にとって重要なイベントとなります。諸星氏の示した力、ラズライティシア様でしたか、彼女が示した魔法と言う力。その力を解析することで、我々は新たな力を手に入れることが出来ます」

「それは、我々が先行して調査すべきと言っているのですか?」

「そう言っているつもりです」


 確かに、世界の発展のために必要と言うのは否定しませんよ。ただ、どこの誰が、こんなことを研究していると言うのでしょう。私が大学にいたときに見た狂人でも、ここまでぶっ飛んだ研究なんかしていませんでしたよ。


「人材については持ち帰らせて貰う。ただ、必要性は認めて貰えると思っている。そしてそれとは別に、我々からの人を送り込むことにする」


 ここに住み込んで、骨を埋める覚悟を持った人にしてくださいね。いえ、自分がそうだとは言いませんよ。私は、そんな覚悟に関係なく巻き込まれましたからね。そのことを、絶対に忘れないでくださいね。忘れてはダメですからねっ!


「小谷君、落ち着いてくれたまえ。ここのことが公開された場合、君の名前は日本中、それどころか世界中に広まることになるのだからね」


 それって、いつのことになるのでしょうね。なにか、その前に妊娠してしまいそうな恐怖があるんです。いえ、子供を産みたくないとは言っていませんよ。ただ、自分の夢とは違った方向に行かないかと危惧しているだけです。

 だったら、関係を拒めば良い、ですか。それが出来るのなら、苦労なんかしていません。いえ、その、別に嫌といっているわけじゃないんですよ。エクシブさん、イケメンだし逞しいし……ただちょっと背が低いだけで。平均身長で言うと、あちらと20センチは違うんですよね。


「すまない、話が随分と逸れてしまったな。ただ君の忠告は参考にさせて貰う。安易に人員の入れ替えを考えるなと受け取れば良いのだな」


 その程度と考えてください。それから、セレスさんとルーテシアさんに欲情されない人を選んでください。後ですね、二人と比較されて落ち込まないと言う条件も必要ですね。諸星さんの家は、女性にとってハードすぎる環境なんです。


「あの二人か……はっきり言って、張り合うだけ無駄でしかないな。最初に紹介されたとき、魂を抜かれたような錯覚を覚えてしまったよ」

「君の忠告は肝に据えておく。その上で、適切な人選を行うと約束しよう。なに、自衛隊にもオタクが在籍しているのだよ」


 オタクですか。確かに適切な人材だとは思いますよ。適切だとは思いますが、本当に良いのかと言う気もしてしまいます。

 ところで、ラズライティシアさんとルーテシアさんなんですけど、俗に言うエルフなんですよ。初めてエルフを見て、何か思うところはありましたか?


「そう言えば、耳が尖っていたな。言われてみて、初めて気がついたと言えば良いのか……」

「最初のインパクトが大きすぎましたと言うのが答えになります」

「私も、セレス嬢でノックアウトされました」


 つまり、最大の攻撃で後は有耶無耶になってしまったのだと。わからないとは言いませんが、それでいいのですかと言っても構いませんよね。


 ちなみに人を送り込む話は、『構いませんよ』の一言で走り出すことになった。ただその時諸星さんは、『住む家も用意してくださいね』と条件を追加してくれた。お陰で、しばらくヘリの音がうるさくて仕方がありませんでした。

 ただ諸星さんやラズライティシア様は、あまり気にした様子はありませんでした。それで理由を聞いてみたのですけど、家の中は防音がバッチリ効いていたそうです。だから家の中にいれば、ヘリの音が気になることはなかったのだそうです。うちにも、防音して欲しいと言うのは贅沢なのでしょうか。ラズライティシア様、そちらに住み込むのはなしの方向でお願いします。




やはり自A隊は必要ですよね。

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