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最初の大事件

村の特産は異世界です


・最初の大事件


 ごく一部が異常に盛り上がった歓迎会から明けた翌日、俺はいつもの生活を取り戻していた。ちなみに翼人たちが住まう宿舎は、第一上里荘と言う名前が付けられた。そしてその隣にある資料館には、第一上里荘別館と言う名が付けられた。

 そこから直線で500m上がった場所は、想像が付くと思うが第二上里荘と命名された。名前など適当で良いと言う合意の元、とても安易な名前が付けられたと言うことだ。

 ちなみに俺たちが住んでいる場所は、なぜか『本宅』と呼ばれることになった。だとしたら、第一第二上里荘は別宅と言うことになるのか。


「それはそれとして孝明よ。ぬしは、どうするつもりなのだ?」


 特にすることもないのだが、日中は事務所に使っているプレハブに詰めていた。従って、この場にいるのは俺とラズライティシア様、セレスと小谷さんの4人である。白船君と神代さんは、新しい住人対応のため別宅その一に行っていた。ルーテシアとエクシブは、訓練と言う遊びのため森に入っていた。

 ところでラズライティシア様、どうするとは何のことですか?


「知ってて言っているのか、それとも本気で気づいておらぬのか……前の世界で、何故ぬしの命が狙われたのか忘れてはおらぬだろう」


 俺が命を狙われた理由……と言われても。俺は、とても善良な冒険者として働いていたのだぞ。なあ、セレス。


「そうですね、あなたはとても優秀な冒険者でしたね。ただ優秀すぎたと思いますし、ちょっと魔法の方向が危なかったと思います。勿論、私は少しも気にしていませんでしたよ」

「男女のことは別の場所で……もうしっぽりといっておったな。それはそれとして、セレスの言ったことが問題なのだ。お前が優秀すぎたことではない、使った能力が異質すぎたと言うことだ。上の方まで、お前が魔王の手下……さもなければ魔王自身ではないかと疑われておったのだぞ。だからわれとエクシブに、お前の討伐命令が出たのだ」


 なるほど。だから、師匠にも圧力を掛けたと言うことか?


「ルーテシアは、初めから無理だと諦めておったがな。そしてわれも、ぬしの討伐は早々に諦めることになったのだ。なにしろぬしは、われの支援を受けたエクシブを退けてくれたのだ。矢で射かけてもはじき返されるし、剣で切っても傷一つ付かぬのだ。だからわれも、この身を使って封印するしかないと覚悟を決めたのだ」


 相談してくれれば……と言うのは無理なのだろうな。まあ、無理だよな。


「ああ、無理に決まっておる」


 それはそうとして、俺が何に気づいていないと言っているんだ?


「こちらでも、似たようなことになりかけていると言うことだ」


 ああ、そう言うことか。流石は齢を重ねているだけのことはある。話の一つ一つがとても周りくどい。


「今のは聞かなかったことにしておいてやる」


 それはどうも。ちなみに、その程度のことは俺だって考えている。

 そのあたり、いつ、飼い犬に手を噛まれるのか戦々恐々としている……と言うところだな。その事情は菅谷先生、自衛隊とも持っているものだろう。ただ菅谷先生の方が、老獪と言うのは間違いない。自衛隊側が失敗するのを見てから態度を決めるのではないか?


「つまり、自衛隊とやらが動くと言うのだな?」


 戦国武将トリオは、現実を知っているので馬鹿な真似はしないと思いますよ。ただその上の方になると、制御できない力に対して恐怖を抱くはずです。そして制御できない力を、制御できるようにする。さもなければ、無かったことにしようとしても不思議ではありません。


「お前など、いつでも殺すことが出来ると示すこともあるのではないか?」


 まあ、それぐらいはしてくるでしょうね。それで、そのことが何か?

 重要な話ではあるが、今更の話でもあったのだ。


「うむ、ここの所自衛隊とやらを使い立てしているからな。そろそろ、反発を覚える奴がいても不思議ではないだろうと思っただけだ」


 使い立て……まあ、色々と便宜を図って貰っていますね。反発、ですか、少しやり過ぎましたかね。


「うむ、入れ物の用意にはもう少し時間を掛けるべきだったな。白船が報告したのだろうが、あのような力はわれでも振るうことはできないのだ。ましてやこの世界の者には、認めることの出来ない力ではないのか?」


 俺が、好き勝手していると思っているのでしょうね……だから、一度ガツンとしておこうと言うことですか。

 そこでため息が出てしまうのは、相手の気持ちも理解出来るからと言うことだ。俺が同じ立場に置かれたのなら、間違いなく同じことを考えていたはずなのだ。


「間違いなく、すぐにでも動いてくるだろうな。ただな、それを利用しようと考える奴もいるはずだ」


 どうして中々、ラズライティシア様もどろどろとした世界をご存じなのですね。


「長く生きていれば、それだけ嫌なことを目の当たりにするものだ。それはそれとして、ぬしはどうするつもりなのだ?」


 どうすると聞かれても……今のところ何もしませんよ。勿論、相手が手を出してこなければです。


「手を出してきたら?」


 その時は……ですね。


「その時は?」


 どうしてセレスや小谷さんまで乗り出してくるんだ。俺は、元々平和主義者なんだぞ。しかもゼッタイシン……コスモクロアからも、善なる存在と言われた男なんだ。


「勿体ぶるでない、さっさとどうするのか答えて見せよ」


 することと言っても、襲ってきた者を確保。その後、命令系統を辿って行くつもりです。そうすれば、誰が黒幕か判明するでしょう。


「黒幕がわかったらどうするのだ?」


「辿って行く途中で、相手が怖じ気づいてくれると思いますけどね」


「やはり、ぬしは『お優しい』のだな」


 下手なことをすると、もみ消すのが難しくなるからです。ひょっとして、襲ってきた奴らを皆殺しにするとでも思っていましたか?


「流石にそれは考えておらんかったな。もしも皆殺しにするような者なら、われとエクシブは生きておらんだろう」


 そう言うことですね。人が死ぬ、殺すと言うのは気持ちの良いものではないんです。


「だが、原因を絶つのも重要なことだと思うぞ。まあ、ぬしがここのリーダーだからな。われも、ぬしの決定に従うことにする。協力するつもりはあるが、われに出来るのは探知の結界を張っておくぐらいだぞ」


「それでも、と言うのか、十分助かっていますよ。ところで小谷さん、顔色が悪くありませんか?」


 話に乗ってこず、ずっと押し黙ってくれていたのだ。それから小谷さん、菅谷先生は慎重な方だぞ。だから、心配するようなことは起こらないはずだ。


「そのことを心配していたわけじゃないんだけどね」


 だったら、何を心配していたんだ?


「本当に勝てるのかなって。流石に、相手は最新兵器を持った軍隊でしょ」


 なるほど、そう言うことね。ただそれならそれで、デモになってくれるんだがな。それから、最新兵器なんか持ち出すことは出来ないと思うよ。そんなものを持ち出したり、威力の大きな武器を使ったりしたら、勝っても負けても責任者の首が飛ぶことになるからね。自衛隊は、マスコミの目を恐れているんだよ。


「デモになるって言われて、まだ私が常識的だと思ったわ……はぁ。それで、いつ来ると思っている?」


 今日、明日と言う所かな。多分だけど、歓迎会で浮かれている隙を突いてくれるんじゃないのかな?


「諸星さん。本当に市会議員だったんですか?」


 本当に市会議員だったんだよ。ただ、刺殺された後は、非常識な世界で生きてきたんだけどね。

 俺が笑ったところで、ラズライティシア様が「孝明」と呼びかけてきた。どうやら、あちらも我慢が出来なかったようだ。

 小谷さん。早速来たようだよ。


「うむ、西の方から30名ほどが侵入してきたようだ。かなり慎重に、森の中を進んできておるぞ。それで孝明よ、どうするつもりだ?」


 どうすると聞かれてもねぇ。どうもこうも、全員確保するつもりですよ。捕縛する……で良いのですかね。翼人たちと同じ方法で捕まえる予定です。


「荷造り紐とやらで捕まえるのか?」


 そう言うこと。侵入者を捕まえろと命令をして、4カ所ぐらいにロールを仕掛けておきました。


「それで捕まったら、自衛隊員には悪夢だと思いますよ」


 ああと言ってこめかみを押さえたのは、頭痛と言うものを感じているのだろう。その辺り、まだ小谷さんは甘いと言うことになる。

 それはそうと、ハイエース、侵入者はどうなってる?


「変な模様の服を着て、森の中を進んでいます。タウンエースとボンゴが、継続して見張っています。そろそろ、罠が発動するのではないでしょうか」


 了解した。今回君たちは、姿を見られないように気をつけてくれよ。


「重々承知しております」


 報告を終えたハイエースは、頭を下げて事務所を出て行った。ちなみに侵入者検知に引っかかったところで、上空から翼人たちが観察することになっていた。主に人間相手であれば、考えてもいない監視方法と言うことになる。

 ハイエースたちが見つかっていないと言うことは、あちらは常識的……と言うより、こちらの情報を知らないってことか。


「秘密レベルが高いから……と思いたいですね」


「だったら良いんだけどねぇ。それからヴェルファイア、白船君を呼んできてくれるかな?


「畏まりました孝明様」


 声を掛けたら、物陰からヴェルファイアが姿を現した。ここで面倒を見る対価として、集落への貢献を求めた結果である。ごねるのかなと思ったのだが、意外にすんなりと受け入れてくれた。と言うより、役目を与えたら喜んでくれたのだ。

 ヴェルファイアが出ていったところで、入れ替わるようにタウンエースが入ってきた。どうやら、自衛隊ご一行様が罠に掛かってくれたようだ。


「全員捕縛完了を確認いたしました」


 そうか、流石は荷造り紐さんだね。ところで、逃げられてはいないかな?


「離れていた者を含め、全員荷造り紐での拘束が完了しています」


 協力してくれるのは良いのだが、言葉遣いがちょっと気になるな。まあ、こんなものは最初のうちだけだと思っておくことにしよう。

 では、監視を終了してくれ。後は、ラズライティシア様の結界で足りるだろう。


「連行してこなくて宜しいのでしょうか?」


それなんだけど、君たちの姿を晒したく無いんだよ。だから、後は一番目で寛いでいてくれればいい。ああ、連絡係だけは残しておいてくれるかな。


「それでしたら、私が残っております」


 物陰から顔を出したのは、女性側のサブリーダであるセンティアだった。どうやら野外仕事は、男性人に回されたようだ。

 だったらセレス、センティアさんにお茶とお菓子を。えっ、畏れ多い? いやいや、畏まらなくて良いんだからな。歓迎会も終わったのだから、君たちは客ではなく集落の一員なんだよ。取りあえずリーダーなんかしているけど、全員の立場は対等だと思っているんだ。


「孝明様に感謝いたします」


 だから、それが堅いと言っているんだけどね。




 不思議な任務を受けたと思っている。何しろその任務と言うのが、長野の山奥にある集落を制圧しろと言うものなのだ。実弾使用可と聞かされれば、ターゲットは過激派のアジトなのか考えてしまった。ただ怪我をさせることは罷り成らないと言う不思議な命令で、それも違うのだと知ることが出来た。いや、実弾を使用して良いのだよな。それなのに、怪我をさせてはいけないのか。

 ただ不思議とは言っても、正式な任務に違いない。従って我々……第0小隊は、四駆のワゴンに分乗して一路大谷村へと目指したのである。自衛隊車両を使用しないのは、これが極秘任務と言うのが理由である。


 国道から県道に入ったところで車を止め、そこから先は徒歩での行軍となる。県道を外れ森の中を進むのは、流石にきついと言うのが正直な所だ。ただ真夏に比べれば、まだましということも出来ただろう。うだるような暑さに湿気、虫の襲来する真夏に比べれば、今はただ寒いだけだからだ。

 第0小隊30名は、最初の手はず通りに森の中を1時間で踏破した。ここから先は、慎重に目標に接近し、速やかに制圧すれば任務は完了である。


 ただ拍子抜けしたのは、どこにも警戒網を発見できなかったことだ。監視カメラの場所も把握しているので、これでは侵入し放題に思えたぐらいだ。これが本当に重要拠点なのか。守らないことも守りの一つと言われても、この状況では無謀としか思えなかった。


「小隊長殿。全員配置につきました」


 普段の訓練と比べても、難易度は低いと言って良いものだった。その辺り、今回の任務が短時間で完遂させるものだからだろう。通常装備に比べて、極端に装備が少なくなっていたのだ。お陰で、ここにたどり着く労力もかなり軽くなっていた。


「30秒後に突入を行う」

「30秒後に突入いたします!」


 音を立てると気づかれることになる。その配慮の元、情報伝達はすべてジェスチャーで行われていた。この確認におよそ10秒、従って突入は20秒後と言うことになる。ミッションに楽なミッションなど存在しない。簡単そうに見えても、実は落とし穴があるのは珍しいことではない。

 だから、どんなミッションでも油断することはない。油断することはないのだが……なぜこんな所に白いビニール紐があるのだ。こんなもの、現場確認したときにはなかったよな。見落とし、こんな目立っていて見落とすことなんかあり得ないだろう。しかもこの紐、勝手に絡まってきてないか。いや、蛇のように何本も絡まってくるぞ、これ。


「し、小隊長殿、身動きが出来なくなりました」


 ああ、お前もそうなのか。実は俺も、身動きが出来なくなっているんだ。だが、これは荷造り用のビニール紐だよな。家内が古新聞を縛るのに使っている奴だろう。それなのに、どうしてナイフで切れないんだ。

 撤退っ……と言っても、今更無理だよな、これ。首を巡らせてみたら、他の隊員も同じように荷造り紐でぐるぐる巻きになっているじゃないか。仕方が無い、火を使って焼き切ることを許可する……どうして、ただのビニール紐が燃えないんだ? どう見ても、これは百均でも売ってるビニール紐だよな。


 いや、こんなことで全員行動不能になるなんて……世間様に知られたら生きていられないぞ。こんな恥辱を受けるぐらいなら、いっそのこと殺してくれないか……やっぱり、家には家族が待っているんです。だから、殺すと言うのは取り消しと言うことで。

 これって、演習なんですよね。演習だと言って貰えませんか。それから、我々はどこに連れて行かれるのでしょうか。いえ、襲撃が失敗して捕まった以上、どこに連行されても文句が言えないことは承知しています。だからと言って、これは何なのでしょうか。どうしてわれわれは、ビニール紐に吊されて運ばれていくのですか。透明人間、そんな兵器があるとは聞いていません。だとしたら、一体誰がわれわれを吊り上げているのでしょうか。


 任務に当たっては、どんなときでも冷静でいなくてはならない。それが生き残るために必要なことと言うのは叩き込まれています。ただ、どうすればこの状況で冷静でいられるのでしょう。どうして30名もの隊員たちが、体に白い荷造り紐を巻き付け、ゆらゆらと運ばれていくのでしょうか。もしかして、われわれはすでに狂ってしまったのですか。これが秘密兵器の威力と言うのなら、人体実験などしないで貰いたいと切に訴えます。

 いえ、もう、手遅れと言うのはわかっています。ええ、どう考えても正気の沙汰ではありませんからね。


 そうやってゆらゆらと森の中を運ばれた我々は、少し開けた場所……最初の作戦目標へと到着した。どこぞの住宅展示場で見たような建物……あれ、欲しかったんだよな……と言うのは良いのだが、見たような建物が3棟、そして大きなプレハブ製の小屋……建築現場でよく使われている奴が2棟立っている場所である。

 プレハブの方は違和感をあまり感じないのだが、小綺麗なモデルハウス3棟は違和感をバリバリ感じさせてくれた。そこで我々は、ようやく人の姿を見ることが出来た。

 『抵抗しないように』と命じてきたのは、どこかで見た顔……確か一緒にレンジャー訓練を受けていた男だな。確か……オタク、ではなく白船だったか。白船三尉殿だったような。


「ええ、白船で合っていますよ。それから、ここでは名前を呼ばないようにお願いします」


 ご配慮に感謝いたします。それで質問なのですが、我々はどうなるのでしょうか?

 はい、これにて解散すると言うことですか。そして次のミッションが与えられるのですね。はい、我に命令した上官を連れて来いと言うことですか。ちなみに、急がれますか。なるほど、可及的速やかに連行すれば良いのですね。11時間ほど時間をいただければ可能かと。

 急ぐので、正面から退出して良いと言うのですね。了解いたしました、大至急神永二尉を連行いたします。大丈夫です、どこにいても必ず探し出して連行いたします。




 非常識な存在と言うのは、十分に理解しているつもりでした。ええ、理解していたつもりなんです。ただそれが、どうしようもない勘違いと言うのをたった今教えられました。翼人が確保できたのだから、それに比べれば難易度は低いのですか。いえ、本当に低いのでしょうか?

 飛んでいないだろう、ですか。飛んでいることは、あまり関係ないと思いますけど。いえ、こうして現実を見せつけられれば、仰るとおりと言うのは理解出来るのですけどね。


 しかし、彼らの前に姿を見せて良いんですか。エクシブ氏はまだしも、ラズライティシア様とかルーテシア様はまずいのではありませんか?

 大丈夫? 彼の記憶には残っていない、のですか? みんな、しっかりとこっちを見ていますよね。はい、彼らには私しか見えていないのですね。だから、伝達事項はすべて私からしないといけないのだと。では、私から彼らに伝えることにします。今回の命令を発した上官を連れて来い。可及的速やかにも追加するのですね、では可及的速やかに連行せよ。


 彼ら、荷造り紐のことを忘れていますよね。これも、諸星さんの恩恵が理由なのですか。そうだけど、何を今更聞いているのか、ですか。今更と言うのはわかっていますが、それでも確認したくなるんです。

 彼ら、何の疑問も抱かずに出ていきましたね。これで、本当に上官……多分神永二尉だと思いますが。神永二尉が連行されてくるのでしょうか。諸星さんを信用しないのか、ですか。そこまでは言いませんが……確かに、疑ってはいますね。はい、神永二尉は連行されてくる。それを事実として認めることにします。ただその場合の問題は、自衛隊内で騒ぎが起きると言うことです。それも、今回の狙いの一つ、なんですか。これから一つずつ上を連行すれば、黒幕も冷静ではいられないと言うのですね。確かにそうですが……彼らが東京に着いたところで、黒幕も判明するのですか。

 だったら、いきなり黒幕と対決した方が……じわりじわりと、真綿で首を絞めていくのですね。その方が、相手に対するダメージが大きくなるのだと。少しだけ騒ぎを大きくすることで、上の方に対する牽制になるはずと言うのわけですか。


 それで、これからどうするのですか。活躍してくれたハイエース氏たちを慰労する。だから私も、一緒に来いと言うのですね。いえ、別に嫌と言うことはありませんよ。山岡氏たちの料理は、やっぱり日本人の口に合いますからね。そんなことを言うと、セレスさんの料理を食べさせてやらない、ですか。土下座、必要ですか?

 鬱陶しいから必要無いのですか。それから、今日は蟹を入手しているはずと言うのですね。蟹ですか、国産の蟹ってしがない自衛隊員には高嶺の花なんですよね。タグ付きの高級品、なんですか! 山岡氏が、近江町市場で買い付けてきたんですね。諸星さん、何をのんびりとしているんです。すぐにでも、ハイエース氏たちの慰労をしましょう!


 蟹にぶりにノドグロですか。えっ、飛騨牛もあるんですね。困ったなぁ、原隊に復帰できなくなってしまう。それだったら、翼人の女性を妻に迎えれば良いのですか。いえ、ちょっとあの方たちは怖くて、ですね。山岡氏ではありませんが、可愛らしいエルフの女性は連れて来られませんかね。

 ええっと、ヴェルファイアさん、いたんですか。最初から話を聞いていた、ですか。後で、じっくりと話を伺いたいと言うのですね。諸星さん、逃げても良いですか? 逃げ切れるものならと言うのですね。助けてくださいと言うのは、虫の良いお願いなのでしょうか。


 蟹、しかもタグ付きの高級品と言うことで、私と神代、そして小谷さんは狂喜乱舞させて貰いました。まあ、諸星さんも喜んでいたと思いますよ。ただ、どう言う訳か異世界組の顔色が優れませんでしたね。

 なんですか、よく似た見た目の魔物がいたのですか。アームドスパイダーと言うのですね。名前からすると、蜘蛛の魔物と言うことですか。素早くて堅い甲羅に包まれていて、しかも力も強い魔物ですか。そうですか、犠牲者が何人も出ていると。なんとか捕まえても、身には毒があって食べられたものでは無いと言うのですね。でしたら、皆さんは別のものを食べていただいて結構ですよ。残っている蟹は、私たちが責任を持って消費いたしますので。


 ちょっと待て、どうして嬉しそうにしているのか、ですか。嫌ですね、別に嬉しそうになんかしていませんよ。日本人には、もったいない精神と言うのがあるんです。それからですね、食と言うのは命を頂くことと教えられてきたんです。ですから、こうして命を頂くことに感謝をしているんです。

 それでも待て、ですか。もしかして、もの凄くおいしいのか、と言うのですね。何ですか服部さん、蟹チャーハンですか。しかも、ほぐした身がたっぷりと乗っていますよね。しかもそれ、蟹シュウマイですよね。どうして、異世界の人に蟹の味を教えようとするのですか。山岡さん、蟹汁も反則ですからね。


 流石は料理人、料理のできは完璧でした。お陰で異世界人、エルフやエクシブ氏、翼人の皆さんも蟹の味を覚えてしまいました。ああ、これで蟹三昧の夢も儚いものになってしまったのですか。なんですか山岡さん、少し仕入れすぎてしまったと言うのですね。

 グッジョブです山岡さん。お魚さんも捨てがたいですが、今日は蟹三昧で行きましょう……それから、鱈の白子ポン酢ですけど、しまわないでくださいね。そっちはそっちで、日本酒が進むんです。河豚の白子の天ぷらですか、そんな高級品も食べたことがないんです。でも、おいしいですよね。


 それからベルアフィアさん、先ほどの話なんですけどね。そのですね、絞り尽くさない控えめの女性はいるんでしょうか。えっ、翼人を舐めるんじゃないと言うのですね。そうですか、控えめの女性もいると言うことですか。

 違う、そんなひ弱だと生き延びていけない。子供が生まれにくい種族だから、子供を作るために最善を尽くしていると言うのですね。その、一つ良いですか。あまり過ぎると子供が出来にくいと言う話があるんです。いえ、その場しのぎの嘘ではありませんよ。疑うのでしたら、神代さんに聞いてみてください。神代さん、何かとっても悪い顔をしていませんか? お願いですから、仲間を売らないようにしてください。




 あっという間に、桂木三佐にまで到達してくれました。しかしどうして、全員が喜々として上官を連行してきてくれるのですかね。はい、これが諸星さんの強制と言うのはわかっていますよ。わかっていますが、それでも理不尽なものを感じてしまうんです。

 それから一つ伺いますけど、私には使っていませんよね。使っていない、翼人に手を出したのはお前の意思だろう、ですか。手を出したことは否定しませんし、否定しては駄目だと思っていますよ。ただ、気がついたときにはアクア嬢と同衾していたんです。ですが、その前の過程が頭の中からすっぽりと抜け落ちているんです。いえ、お酒に酔ってなんかいませんでしたよ、気をつけていましたからね。それを考えると、少し不自然じゃ有りませんか?

 誓っても、自分は何もしていないと言うのですね。だとしたら、この不自然さに説明が付くのですか? それはそれとして、アクアはどうだったかですか? 話を逸らすのは感心しませんが、予想外と言うのが感想です。そのですね、搾り取られる恐怖を持っていたんです。持っていたんですけど、それが全くの杞憂だったんです。弱いと言えば良いのか、可愛らしいと言えば良いのか、もしかして翼人の男たちってひ弱なのかと思ったぐらいです。

 それだったら、何も問題は無いだろうと言うのですね。ですが、記憶の抜けている部分が気持ち悪いんですよ。何ですか、魔法を使えるのは沢山いるだろう、ですか。ですがラズライティシア様は、こんなことをしませんよね。違う、翼人だって魔法を使えると言うのですね。つまり、私は魔法に掛かってしまったと言うことですか。

 いえ、『恋の魔法に掛かった』って、年寄りじみていると言うか、臭いと言えば良いのか。はっきり言って似合っていませんからね。うまいことを言ったつもりでしょうが、はっきり言って似合っていませんからね。


 それはそうとして、上杉氏に電話を入れろですか。そろそろ、あちらも大慌てだろうと言うのですね。わかりました、しばらくお待ちいただければと。

 それから繰り返しておきますけど、『恋の魔法』になんか掛かっていませんからね。勿論、アクアが魅力的と言うことは認めますよ。ええ、異論は許しません。翼の付け根を触ってあげると、とても喜んでくれるんです。




 急を聞いて踏み込んだとき、目の当たりにしたのはげっそりと痩せた白船君だった。まあ、隣で翼人の一人アクアが幸せそうな顔で寝ていたのだが。その、まあ、目の毒だと言うのを付け加えておく。悪いけど、二人とも服を着てくれないかな。

 それはそれとして、大急ぎでラズライティシア様を呼び出すことにした。流石にこのままだと、うちの集落は貴重な人材を失うことになってしまう。それからヴェルファイア、後からこの状況の説明をして貰うからな。


 ラズライティシア様の回復魔法で、白船君は殆ど問題の無い所まで回復してくれた。それは良いのだが、同じことを繰り返されても困ってしまう。アクア自体の問題もあるのだが、こちら側の対策も必要になる。翼人の女性に釘を刺しておかないと、俺を除く男性たちが壊滅する事態になりかねないのだ。

 ああ、ハイエースも事情聴取に参加してくれ。怖いから、問い詰めることは出来ないと言うのだね。心配しなくても良いよ、君も聴取される側だから。はいはい、抗議は受け付けないから。このまま対策をしないで放置すると、君たちは『害獣』として駆除対象になるのだからね。誰が害獣指定するのかかい、この場においての責任者。つまり俺が指定すると言うことだよ。

 わかった。大人しく聴取されるのだね。だったら情状酌量の余地があるとだけ言っておこうか。


 それであの状況なのだけど、一体何があったのかな。確か白船君は、翼人の女性を避けていたよね。どうして、枯れ果てるまでのめり込んでくれたのかな。

 なになに、アクアが白船君相手に発情したと。それって翼人側の事情でしかないよね。違う、発情すると強烈なフェロモンをターゲットに浴びせかけると言うのだね。そのフェロモンって、確か君とセンティアも俺に向けて放っていなかったかな。そう、それと同じだと言うのだね。えっ、どうして俺には役に立たないのか、かい。俺はね、外からの攻撃に対して超越すると言う恩恵があるんだよ。攻撃じゃない、誘惑だと主張するんだね。あの白船君を見て、単なる誘惑で終わらせるつもりなのかな。


 違う、きっかけは作るけれど、後は男性側の問題だと言うのだね。ところでハイエース、今の説明で間違っている所はあるかい。最近君は、ヴェゼルと関係していたよね。

 概ね間違ってはいない。ただ言葉足らずのところがあると言うのだね。その言葉足らずの部分を説明してくれるかな。なるほど、翼人の女性は底なしなのだと。しかも甘え上手だから、男の方がのめり込んでしまうのだね。その結果、際限なく要求に応え続けて『ああ』なるのだと。でもハイエース、君は枯れていないよね。他の3人にしても、白船君みたいになっていないだろう。

 危ない所だった。ただ、自分たちには多少の耐性が備わっていると。なるほど、白船君にはその耐性が無かったと言うわけだ。なんですラズライティシア様、それならそれで対策はあると言うのですか。取りあえず伺いますが、その対策はどんな物ですか?

 フェロモン自体は、翼人の特性だから仕方が無いと。ええ、種族としての特性ですから、それを持って問題視……してもいいのですけどね。取りあえず対策があるのなら、害獣指定は棚上げすることにします。それで、どんな対策をするのですか?


「その前に聞いておくが、ぬしは『自由恋愛』を否定するのか」


 フェロモンを使うのが、果たして自由恋愛かと言うのは疑問がありますよ。ええ、それが種としての宿命と言うのは理解しました。だからと言って、陰獣指定……ええ、わざと言い間違えました。捕食……捕食と言って良いと思いますよ。自由恋愛に逃げてはいけないと思うんです。

 そんなことは、対策をすれば済むことだ、ですか。一応俺の立場は、自由恋愛を否定はしませんよ。それで、自由恋愛を認めたらどうするんですか?


「なに、対策とやらをアクアに伝授するだけだ」


 魔法で精力を増強するとか言いませんよね。それって、結局体力の先払いをするだけですからね。違う、対策は女性側ですか。何か簡単な方法があるのですか?

 とても簡単。魔法すら必要が無いのですね。それで、どんな方法なんですか。はい、演技をするのですか。どんな演技を指導するのですか?


「そもそもの前提なのだが、奴らも男が枯れ果てるのを望んではおらんはずだ。そんなことをすれば悪評が立つし、継続的に搾り取ることが出来なくなるのだからな」


 すでに、悪評は立っていますけどね。それはそれとして、具体的にどうすると言うのですか?


「なに、満足したと言う演技をすれば良いだけだ。そうすることで、少なくとも過ぎることはないと思うぞ」


 それがうまく行けばですけど。取りあえず、様子を見てみろと言うのですね。ちなみに一つ教えてください。その演技なんですけど、セレスとルーテシアに教えていませんよね?

 必要は無い、のですか。それどころか、もう少し手加減を覚えよって……こらヴェルファイア、だったら私もと主張するんじゃない。だからハイエース、尊敬の眼差しを向けてくるんじゃない。取りあえずわかりましたから、翼人の女性に周知してください。言っておきますけど、あくまで様子見だからな。次に問題が生じたら、過激な対策を採ることもあり得るの忘れないように。


 翼人側の話が纏まったので、復活した白船君と話をすることにした。ああ、記憶が綺麗に抜け落ちているのね。まあ、フェロモンにやられたのなら仕方がないと思うよ。俺が強制力を発揮したのじゃないかって? こらこら、それは濡れ衣と言う奴だぞ。

 それはそれとして、電話を替わってくれるかな。ああ、相手は戦国武将トリオの上杉氏なんだろう?


 ええ、全部把握していますよ。ですから上杉さんには、責任が少ししかないこともわかっています。どうして少しだけなのかですか、上杉さんが自衛隊側の窓口だからです。相手はかなり上の上司というのですか、それは自衛隊側の事情であって、俺が忖度することじゃ有りませんよね。

 ちなみにソファーで青くなっている上司ですか、別にその人をどうこうしようとは思っていませんよ。ええ、同じ立場にいたら、俺でも似たようなことをしたと思いますから。


 はい、どうしてあんな周りくどいやり方をしたのか、ですか。その方が効果的だと思ったからですよ。そうですね、じわりじわりと真綿で首を絞めてあげる。そんな効果を考えたのですが、はい、思いっきり効果的だったんですね。

 事態の収拾はどうしたらいいのかですか? それは、そちらが誠意を見せることが先ではありませんか。嫌ですね、暴力団とは違うんですよ。だったら、どんな方法が良いのかですか。それを聞いたら、誠意を見せたことにならないと思うんですけど。そちらが蒔いた種なんですから、誠意の見せ方も考えてください。

 はい、言っていることを理解した。条件としては妥当と言うのですね。それから誠意の見せ方ですけど、白船君経由で教えてくれれば良いですよ。嫌ですね、別に激怒なんかしていませんよ。言ったでしょ、俺でも似たことをしていたと。ですから、似たような常識だと安心したぐらいなんですよ。


 答えが来たのは、その30分後と言う何も考えていないのではと言いたくなるタイミングだった。ただ誠意の見せ方自体、予想の範囲と言って良いのだろう。だから構わないと答え、ヘリの降りる場所を指定した。本宅の方に降りられると面倒なのだが、別館の方なら駐車場になっていた場所があったのだ。

 そして場所を指定してから1時間後、盛大な爆音を上げて自衛隊のヘリコプターが現れた。回転翼が2機ある、かなり大型のヘリである。どうやら、それなりの人数が移動してきたようだ。


「あれは、輸送用ヘリです。チヌークと呼ばれていますよ」


 白船君の説明に、なるほどねと俺は頷いた。ただ頷きはしたが、さほど頭の中には入ってこなかった。しかし、随分とお早い到着なんだね。


「それが、誠意の見せ方だと思ったのでしょう」


 まあ、お偉い人が駆けつけてきてくれたんだ。確かに、誠意としては最上級なのだろうね。ただね、政治家ってのはそこまで素直な性格をしていちゃいけないんだ。素早い行動の裏には、必ず別の意図と言うものがあるはずなんだ。

 それはそれとして、本宅にいるから連れてきてくれるかな。なぜ本宅なのかって? まだ、あまり刺激をしたくないからだよ。大丈夫、今夜は別宅で宴会を開くから。蟹、かい? 山岡さんにこのことを言ったら、張り切って仕入れに行っていたよ。


 本宅に移動して30分後、白船君が偉そうな人を二人と見慣れた顔を一人連れてやってきた。良いのかな、陸上自衛隊のトップ二人だよね。そのトップ二人を、護衛も付けずに連れてきて。

 護衛が役に立つのなら連れてきている。それぐらいはわかっているし、それもまた誠意の見せ方だと言うのだね。それなら仕方が無いね、丁重にお迎えすることにしようか。



 初めまして、リーダーをしている諸星孝明と言います。



 謝罪の為に来ているのだから、にこやかに迎えるのは間違っているのかもしれない。ただ駆け引きを考えたら、むしろにこやかにしていた方が良いはずだ。尤も、そこまでの腹芸が出来るほど経験を積んでいないのだけど。


「初めまして。そしてご迷惑をおかけしている。一応責任者などをしている吉岡一舟と言う。そしてこれが、そちらに迷惑を掛けた部下の林下だ」

「林下海翔と申します。今回は、大変ご迷惑をお掛けいたしました」


 自分よりも年上の、しかも迫力満点の男に頭下げられてしまった。いや、まあ、確かに迷惑を掛けられたのは否定しない。だから謝罪を受けるのも、事情を考えればおかしなことではないはずだ。ただ謝罪してくれる相手の迫力が、ちょっとだけありすぎるのが問題と言うことだ。

 ところで上杉さん、これが誠意と言うことですか?


「陸自のトップ二人が、取るものも取り敢えず駆けつけた。腹は膨れませんが、誠意と受け取っていただければと」


 まあ、形としては誠意なのだろうね。まあ、こんなものは形だから、誠意として受け取っておこうか。それで、君たちの示してくれる誠意は『謝罪』だけなのかな?


「それなのですが、予算措置を認めて貰いました」


 まあ、誠意の見せ方は最終的にお金と言うのは確かだからね。だったら、これで謝罪は終わりと言うことにしようか。安堵したね、あからさまに安堵してくれたね。嫌だな、俺のことをどう見ていたのかな。俺はね、面倒を避けて生きていこうと思っているんだよ。

 面倒を避ける人間が、政治家などになろうとしないと言うのだね。ただね、それで一度殺されているんだよ。だから方針を転換したと言うことだ。なんだって、俺自身が面倒の中心になっていると言うのだね。否定したいところなのだが……小谷さん、言いたいことがあるのならはっきりと言ってくれないかな。

 自覚のないのが一番悪い。この事態を招いたのは、誰でもない俺の存在だと言うのだね。否定できるものなら否定して見せろ……結構言うようになったんだね。この手のことは、はっきり言わないと通じない。遠慮しても意味が無いことは、一緒に暮らしてきて理解出来たと言うのだね。だったら、そう言うことにしておこうか。しておかなくてもそうなのだと言うのだね。

 ああ、本当に言うようになったのだね。君の成長を見てきた僕として、喜ばしいことだと思っているよ。この環境に慣れてきた自分が怖い、のかい。ずいぶんなことを言ってくれるのだね。

 ところで、この後ですが急がれますか。言葉足らずですね、今夜はこちらに泊まることが出来るかと言う意味で聞いています。はい、それも誠意の見せ方だと思いますよ。問題ない、それで何をさせられるのかと言うのですね。たいしたことは考えていませんよ。ただ、ちょっと宴会にお付き合いいただければと考えているだけです。色々と、腹を割って話をした方が良いですよね。


「それならば、喜んで招待を受けることにしよう」


 それは良かった。ところで、お二人とも奥様をお持ちですよね。吉岡さんは奥様とお嬢様がいらっしゃるのですね。林下さんはお一人なのですか、そうですか、独り身なのですね。別に、含む所なんか有りませんよ。一応、確認をしただけなんですから。白船君、別に間違ったことを言っていないよね。

 それから上杉さん、上杉さんはお独り身ですか。幸運なことに違う……なぜ、幸運と言うことになるのですか。その辺り、酒でも飲みながらお話ししようじゃ有りませんか。

 それでは皆さん、別宅……第一上里荘までご足労願います。




荷造り紐さん最強です(2回目)

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