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それでいいのか自衛隊

村の特産は異世界です


・それでいいのか自衛隊


 盛大にやれと命じなくても、全員が盛大な宴会を開く気満々だった。それを悪いと言うつもりはないけど、一昨昨日派手に宴会をしたばかりだよな。いくら何でも、限度と言うものがあると思うんだ。限界は超えるためにある……限界じゃなくて限度のことを言っているのだからね。

 ヘリの操縦者を帰らせてから、吉岡陸将、林下陸将補、杉下氏は第一上里荘宴会場へと連れ込まれた。ちなみに隠し事の必要は無いと命じたので、エルフに翼人が勢揃いをして出迎えてくれた。ええ、驚きますよね、普通は。でも、これがここでの普通なんです。ひょっとして、林下さんは事情をご存じなかったのですか?

 何かあるとは知っていたが、まさかこれほどとは思っていなかった、のですか。なるほど、自衛隊内の秘密管理は問題が無かったと言うことですね。


 じゃあヴェルファイア、お三方の接待を引き受けてくれ。予め言っておくが、林下さんは独身だからな。独身と言うのは、連れ合い、つまり、奧さんがいないと言うことだ。ああ、皆まで言うな、そのつもりで俺も言っている。ただやり過ぎには気をつけてくれよ。大丈夫、ラズライティシア様の講義を全員が聴講済みなんだね。

 他の二人は駄目なのか、かな。言っただろう、奥さんがいるのだと。別に構わない、奧さんにしてくれなくても良いと言うのだね。そもそも、翼人族には婚姻の習慣はないと言うのだね。だったら、白船君のところはどうなるのかな。一応、他種族に嫁いだ実績はある。その辺りは、臨機応変と言うのかな。つまり、欲望に忠実だと思えば良いのかな。間違ってはいないが、もう少し手加減があっても良いんじゃないのか、かい。どう、手加減すれば良いのか教えて貰いたいものだ。


 それはそれとして、そう言ったことは本人と直接話をしてくれ……フェロモンを放つんじゃないぞ。それは無理、種族としての特製と言うのだね。一応確認をしておくのだが、彼らは君たちの守備範囲なのかな。しっかりと守備範囲、渋くてなかなか良いと言うのだね。取りあえず、俺は何も聞かなかったことにしておこう。


「諸星さん、あなたが挨拶をしないと始まりませんよ」


 俺が挨拶をしないといけないのか。そこは司会が勝手に始めてくれて良いんだぞ。だめ、お客さんがいる以上代表の挨拶が必要なのだと。国会議員を目指していたのなら、自分から挨拶に出てこないとおかしいと言うのだね。

 わかったよ、だけどこんな時にどんな挨拶をすれば良いのだろうね。『どんなときも安心議員の挨拶集』にも載っていなかったんだよ。


「皆さん、代表をしています諸星孝明です。我々の集落も、新しい仲間が増えて賑やかになってくれました。そしてこのたび、政府の要人をお客様に迎えることができました。これを一つの区切りとして、ますます集落の発展……すると人が増えてしまうことになりますか。まあ、細かいことに拘るのは止めましょう。エルフに翼人、それが恐ろしいものでないことをお客様に知って貰いましょう。では皆さん、乾杯のご唱和をお願いいたします。では、お客様を迎えたこと、集落の発展を祈念して、乾杯っ!」


 と言うことで、これで修羅の宴会が始まったことになる。取りあえず出だしは落ち着いているので、今のうちに挨拶をしておくことにしよう。だからセレスとルーテシア、俺と一緒に挨拶に行くからな。何かな白船君、別に嫌がらせとかじゃないからな。異世界人が怖くないことを、改めて教えてあげるだけなんだ。すまない、挨拶のことには触れないで貰えると嬉しいのだが。

 いえ、わざわざ立ち上がっての挨拶は不要ですよ。きょうは、皆さんが主賓なのですからね。それから紹介します、隣にいるのは妻のセレスです。そしてその隣にいるのが、内縁の妻に当たるルーテシアです。耳が特徴的だと思いますが、彼女たちは自分たちのことを森人と呼んでいます。ただ、エルフと呼んでも構わないと言っています。予めお断りしますが、妻たちはまだ日本語が不自由なんです。ですので、難しい質問は控えていただければとお願いいたします。

 妻たちが綺麗、ですか。それは否定しませんし、否定できませんね。あちらの女性は、みんな美人なのかと言うのですね。林下さんで宜しいのですね、それはとても危険な質問と言うのを理解されておいでですか。ちなみにですね、あちらの耳の長い女性も同じ世界から来ているエルフなんです。ご理解いただけましたか、でしたらこれ以上この話題には触れないと言うことで。


「それで彼女、アリアさんと言ったか。彼女は別の世界から来たと言うことなのか?」


 翼人は、私の行った世界にはいませんでした。ですから、別の世界で間違っていないと思います。何ですか、ええ、服で隠れていますが背中に白い翼があるんです。一度見てみたい、のですか。それは、個人的にお願いして貰えますか。自衛隊でもそうだと思いますけど、女性に『体を見せろ』と命ずるのはセクハラ、パワハラになりますので。

 ご理解いただけたのですね。ただ申し訳ないのですが、彼女たちはまだこちらの言葉を話せないんです。ラズライティシア様のお陰で、こちらが何を言っているのかは理解出来るんですけどね。まだ、話す所までは到達していないと言うことです。

 日本語をどうやって覚えさせるのか、ですか。それがですね、実は脱力ものの方法なんです。もったい付けずに言いますけど、実はテレビが先生になっています。セレスたちもそうですけど、日本のことをテレビから学んでいる所があるんです。ですから、少しだけ認識が歪んでいる気がしないでもないんです。


「こちらの言うことは理解出来ると思って良いのかな?」


 理解出来ると思いますよ。ただ気をつけていただきたいのは、彼女たちとは常識が違っていると言うことです。自分の放った言葉が、同じ意味で受け取られているとは限らないんです。ですから、不用意に見た目を褒めないように……手遅れですか。もう、しっかりと褒めてしまったのだと。確か林下さんはお独り身でしたよね。どうしてそれを確認するのか、ですか。いえ、一応確認のようなものだと思ってください。

 ところで、この集落に来てみてどう思われましたか。ええ、一応私が希望した環境だと思ってください。ここでしたら、人の目に触れにくいですからね。私としては、可能な限り騒ぎを起こしたくないんです。その気持ちは理解出来るが、現実にはかなり難しいと言うのですね。はい、それは理解しているつもりです。ですから、私たちがどのタイミングで世に出るのか。それは、菅谷先生に任せているんです。政治家を信用するのかですか。信用はしていませんが、当てにはしていると言う所でしょう。それにあちらにしても、敵対することを選ぶとは思いませんので。


「確かに、君と敵対するのは自殺行為と言うのはよくわかった。ただ、遠距離からの攻撃に対しては無力ではないのか?」


 遠距離からの攻撃ですか。狙撃とか砲撃、ミサイルとかのことを言っていますか。俺以外……ラズライティシア様も大丈夫かな。それ以外は、流石に生き残ることは出来ないと思いますよ。

 ただ、それでも俺を殺すことは出来ません。そして俺が生き残った場合、攻撃してきた者を絶対に許しません。今回は警告だけで済ませましたが、次が同じだとは思って欲しくないんです。その気になれば、アメリカだって滅ぼすのは難しくないんです……と言いますか、片手間で滅ぼすことが出来るんです。お願いですから、俺にそんな真似をさせないでください。


「片手間でアメリカを、と言うのか。まともに考えれば、狂人の戯れ言になってしまうのだがな」


 それを否定するつもりはありません。ですから、信用できなくても仕方がないと思います。それでも申し上げておきたいのは、その結果生じることの責任は私にはないと言うことです。無辜の民を巻き込むのか、ですか。それを言うので有れば、ここにいる者たちにも罪はないと思いますよ。ですので、こちらを攻撃する以上、その反論を受け付けることは出来ないんです。犠牲者の数に関係なく、虫のいい話だと思いますからね。

 私の考え方は理解出来たと仰るのですね。そうですね、わかりやすい部分だけお話しできたと思います。今更ですが、これですべてだと思わないでいただきたい。はい、それぐらいのことはわかっていると言うのですね。失礼しました、では私は吉岡様へご挨拶に行ってきます。


 言うことを言った以上、次は更に上を攻めることになる。相手が老獪な軍人だと考えると、煙に巻かれないよう気をつけなければいけないのだろう。

 ちなみに吉岡陸将には、翼人族のソルテラが接待に就いていた。アリアと比べると、ちょっと大人びた所のある、なかなかの美人と言うのがソルテラの見た目である。一方アリアは、ちょっと甘い所のある可愛らしいタイプである。この辺りの人選は、接待される側の嗜好と接待する側の希望をマッチングした結果である。


「盛大な歓迎に感謝をする!」


 先手を取ってくれた吉岡さんに、俺は『ようこそ』と右手を差し出した。その右手を握ってから、『ところで』と吉岡さんは俺の耳元で囁いてくれた。


「奥方と握手をしたいのだが、構わないか?」


 ええ、挨拶ですからね。ハグでないと言うのであれば、目くじらを立てることではないと思いますよ。なのでセレス、ルーテシア、吉岡さんに挨拶をしてくれ。

 吉岡さん、握手前に手のひらを拭うようなことですか。そうですか、それぐらいのことですか。林下さんにも言いましたが、まだ妻たちは日本語が不自由なんです。魔法のお陰で聞き取りは大丈夫なのですが、話す方はまだ途中になっています。ええ、聞き取りは大丈夫ですから、危ない話はしないように。特に女性関係で。


 不自由をしていることはないか、ですか。実のところ、何もないと言うのが答えになるんです。確かに退屈な田舎なんですけど、それさえ目を瞑れば快適そのものですよ。何しろ俺の飛ばされた世界とは、文明の程度が違いますからね。絹とか綿とか有りましたが、紡績技術自体が段違いなんです。これだけ寒くなっても、魔法を使わなくてもぬくぬくと暮らすことが出来ますよ。

 食べる方は、ですね。実は、あちらに飛ばされる前より贅沢させて貰っていると思います。山岡さんが張り切って仕入れてきてくれますけど……ああ、薄墨さんの目利きも確かですね。お陰で、おいしいものを食べさせて貰っています。セレスたちも、こちらの食べ物にはまっていますよ。彼女たちが元の世界に帰りたくない理由の一つに、食事とかお風呂とか、こちらの生活が快適と言うのがあるんです。


「君との関係があるのではないのかな?」


 だから、理由の一つと言いました。勿論、今更否定はしませんよ。ところで吉岡さん、エルフや翼人を見てどう思われましたか。


「美しい見た目と言うのは、この場合あまり適切な答えではないのだろうな。それに言葉が通じないのも、共同演習をしていれば珍しいことじゃない。翼人だったか、いささか脳天気に思えるのは、そう言う世界に生きてきたからだろう。それで世界が成り立っているのであれば、それはそれで羨ましいのではないのかな」


 脳天気ですか。まさか、そんな言葉を聞けるとは思っていませんでしたよ。まあ、確かに脳天気ですね。ちなみに、もう少し彼らの脳天気な所をお見せいたしますよ。


「脳天気な所を、かな?」


 ええ、脳天気な所です。と言うことでソルテラ。ヴェルファイアを連れてきてくれるかな。


「ヴェルファイア様をですか?」


 それからラズライティシア様もお願いする。

 これからの出し物には、言葉を理解出来ることが必要となる。そのためには、ラズライティシア様の魔法が必要となる。


「孝明様。お呼びと伺いました」


 ああ、君たちに一つ余興をお願いする。この世界に来たときに、求愛の歌を歌っていただろう。あの歌を、この場で披露して貰えないか。


「求愛の歌、をですか。ですが、あの歌はあまり宜しくないと聞いています。確かに、少しだけ過激かなぁと」


 だからこの場に相応しい。それから、ラズライティシア様が来るまで待ってくれないかな。ああラズライティシア様、少しだけお手伝い願います。


「それで、われに何をさせようと言うのだ?」


 ちょっとだけ、魔法で翼人の言葉をわかるようにして欲しいんです。


「わざわざ呼び出したと思ったら、なんだその程度で良いのか。ところで、誰に魔法を掛ければ良いのだ?」


 俺以外の、こちらの世界の男性にですね。


「なるほど、だがあの歌は過激ではないのか?」


 それが狙いと言うことです。と言うことで、ヴェルファイア。そろそろ始めてくれるかな。おや、全員翼を展開してくれるんだね。なるほど、その服って背中のところがそんな構造になっているんだ。


~かぁりのきせつがやってきたぁ やってきたぁ

 おとこをさがせ おとこをさがせ

 おっとこをみつけたぞ さあつかまえろ

 てあしをおってつばさをむしれ

 にげられなくしたら あとはおいしくいただこう~


 おやおや、楽しそうに輪になって踊ってくれるのだね。その様子だけを見れば、微笑ましい求愛ソングに聞こえるのが不思議だね。だけど、相変わらず酷い歌詞だね。ほら、隣で吉岡さんが苦笑いを浮かべているよ。


~かぁりのきせつがはってきたぁ やってきたぁ

 おっとこがいたぞ さあつかまえろ

 ないてさけぶのはいつものことだ

 しばいてやれば すぐしずかになるさ

 てかげんするな こころをおってからがほんばんだ~


「これは、なんの歌なのかね?」


 一応求愛ソングなんですけどね。信じられませんよね。


~かぁりのきせつがやってきたぁ やってきたぁ

 おっとこがかんねんしたが あんしんするな

 こころがおれても まだまだなかせ

 なさけはてきだ ゆだんをするな

 さあがんがんしぼりとれ しぼりとれぇ~


~かぁりのきせつがやってきたぁ やってきたぁ

 おっとこがふえた かみさまのめぐみによろこぼう

 みためはちがうが きにするひつようはない

 しゅぞくはちがえど ついているのはおなじもの

 なぐってたおせ さあがんがんしぼりとれ~


 それはいいのだが、どうしてセレスとルーテシアまで混じっているんだ。楽しそう、そりゃあ歌っている様子は楽しそうに見えるよ。でも、歌詞が酷いのはわかっていたよね。なんで小谷さんと山岡さんまで混じるんだ。こう言うときは、難しいことを考えては駄目だと。


「諸星さん。ノリは大切だと思いますよ」


~かぁりのきせつがやってきた やってきたぁ

 おっとこがふえたぞ かみさまありがとう

 おのこしするのはもったいないぞ くわずぎらいはいけないぞ

 みためがだめでも たべてみればおいしいさ

 わきめもふらず がんがんしぼりとれ しぼりとれ~


 いや、なんだ、本当に楽しそうだね。ただね、相変わらず歌詞が酷いと思うんだ。


「諸星君だったな。君はフランス国歌を知っているかな?」


 ル・マルセイユーズでしたか。あいにくフランス語を解さないので、歌詞まではわからないのですが。


「『進め、進め! 汚れた血が、我らの畑を濡らすまで!』と言った感じで、国歌のくせに物騒な歌なんだよ」


 国歌で血の雨を降らせますか。流石は革命の国と思えば良いのでしょうね。


「物騒な国歌と比べれば、とても平和だと思って良いのではないかな。それから君の言う脳天気と言うのも理解出来たよ。しかし、中々良い光景だとは思わないかな?」


 吉岡さんが指差した先では、女性陣が輪になって踊っていた。ちなみに物騒な歌は終わって、なぜかこちらの歌を歌ってくれた。どうやら、歌詞だけは覚えたようだ。

 そうですね、吉岡さんの仰るとおりだと思います。こうして見ると、良い光景と言えば良いのか、守りたくなる光景だと思います。ああ、俺が目指していることは間違っていなかったんですね。


「ああ、君の求めているものを間違っていると言うつもりはない。釈迦の耳に説法かもしれないが、この世界と言うのは優しさと同時に残酷さも沢山有る。しかも最近は、残酷な傾向が強くなってきているのだよ。しかも残念なことに、君の味方はほとんどいないと言うのが現実なのだ」


 そうなのでしょうね。結局、利害が対立したら菅谷先生も態度を変えると思います。それならそれで、俺は悪人になる覚悟は出来ているんですよ。


「君の力を考えたら、間違いを犯さないようにしないと駄目なのだろう。だが、わかっていても欲を掻いてしまうのが人と言うものなのだよ。林下も、今回のことで目が覚めたのではないのかな。賢い男なのだが、少しばかり権力欲が強すぎたのが災いした」


 すまんと頭を下げてくれたが、少なくともこの動きは想定の範囲だったのだ。それどころか、こうなることを期待していた所もある。


「まだ若い君は酷な話かもしれないな。だが、彼ら彼女らは君に頼ることで生きていくことが出来るのだ。それを忘れず、精進を続けることが君に求められることだ。さて」


 そこで吉岡さんは、盛り上がっているステージを指差してくれた。いつの間にか、林下さんたちまで踊りの輪に加わっていた。


「今君がしなくてはいけないのは、ここでわしと話をすることではない。踊りの輪に加わって、一緒に騒ぐことなのだよ」


 それで、吉岡さんは?

 その問いに、吉岡さんはにやりと笑ってくれた。


「勿論、わしも踊りの輪に加わるに決まっておろう。最近世間の目が厳しいのでな、あのような美女に囲まれて騒ぐのもままならなくなったのだよ」


 だから今は、浮世を忘れて騒ぐことになる。

 なるほど、この馬鹿騒ぎが俺の目指した世界でもあるのか。だったら責任者として、馬鹿騒ぎを続けられるようにしないといけないわけだ。その取りかかりとして、俺も踊りの輪に加わることにしよう。こう見えても、市会議員時代には温泉で隠し芸まで披露したんだ。踊りの一つや二つ、俺にしてみれば赤子の手を捻るようなものなのだ。赤子の手を捻るな……まあ、言葉の選択が間違っていたのは確かだな。




 夜遅くまで続いた馬鹿騒ぎだったが、流石に連日ともなると体力が続かなかったようだ。流石に日付が変わる頃には、盛り上がった宴会もお開きとなった。それで三々五々部屋に戻っていったのだが、俺は翼人3人がお持ち帰りされたのを見逃しはしなかった。見逃しはしなかったが、だからと言って止めることもしなかった。

 所帯持ちだろうが、相手は俺よりも年上の男ばかりなのである。若輩者が口を出しても、碌なことにならないのはわかっていたのだ。


 そして翌朝、まだ日が昇る前に俺は露天風呂に入っていた。この温泉、とろっとしたお湯の源泉掛け流しなのだそうだ。ナトリウム炭酸水素塩泉だったか、肌に良いので美人の湯と言われていたそうだ。

 日本人には温泉だ……とまでは言わないが、やっぱり温泉は良いものだ。こうして温めのお湯に浸かっていると、昨夜の疲れも吹き飛んでいくようだ。ああ、自業自得と言われても仕方が無いのわかっている。ただな、セレスとルーテシアが馬鹿騒ぎのノリを続けてくれたのがいけないんだ。あの二人に『しぼりとれ~』と恥ずかしげに迫られて、どうして抗うことが出来るだろう。


 まだ薄暗いのだが、外の景色はかなり白くなっていた。これから年末に向かって雪が降れば、ここいらは雪に閉ざされることになるのだろう。食糧さえ確保しておけば、人目に付かないと言う意味ではありがたい季節でもある。

 そんなことを考えていたら、誰かがお風呂に入ってきたようだ。


 ……吉岡さんと林下さんですか。それは良いんですけど、どうしてソルテラとアリアを連れているんです?


「諸星君。それは無粋な問いと言うものだな。なあ、林下」

「全くです。無粋なと言う以上に、お邪魔虫になっているのに気づいて貰いたいものですな」


 お邪魔虫と言いますか。お邪魔虫と。


「こうして我々が、女性連れで露天風呂を楽しんでおるのだぞ。そこに男一人と言うのは、お邪魔虫以外の何物でも無いだろう。なあ、杉……上杉よ」


 ああ、上杉さんまでセレナを連れて入ってきたよ。それから、本名を言いかけたのは聞かなかったことにします。


「全くですな。白船君もそう思うだろう」


 ここまで来たら、白船君がアクアを連れていても驚きはしない。それどころか、次は服部さんかと考えてしまったぐらいだ。山岡夫妻は、流石に無いと信じている。

 それで、小谷さんたちと言うことか。


 予想した服部さんではなく、エクシブがラズライティシア様と小谷さんを連れて入ってきた。そこそこの広さのある露天風呂なのだが、流石にこの人数だと狭いと思うぞ。えっ、そう思うのならお前が出ていけですか。後から入ってきたのは、あなたたちの方なんだけどね。最初からいるのなら、そろそろ遠慮して出て行けと。どうして……まあ仕方が無いか。だったら、お邪魔虫は出ていくことにしましょうか。

 ちなみに、誰一人として干からびている人はいなかった。きっとラズライティシア様の講義が役に立ったのだ。役に立ったのだと思っておくことにした。


 流石に朝食は、馬鹿騒ぎにはならなかった。ただ和洋中のビュッフェと言うこともあり、なぜか賑やかな朝食になってしまった。しかしこのビュッフェ、温泉ホテルの朝食ビュッフェとは比べものにならないな。


「お金を掛ければ、似たような料理でも極上になると言うことです」


 薄墨さん、一つだけ疑義を唱えて良いかな。俺から言わせると、お金の問題だけじゃないと思うんだ。やっぱり山岡夫妻、服部さんの高い調理技術が理由だと思うんだ。それから忘れがちだけど、薄墨さんの目利きがおいしい食事の理由になっていると思うよ。良い人に来て貰ったと喜んでいるんだ。

 ありがとうございます、かい。いや、本気で言っているのだけどね。それから薄墨さん、無理をしていないかな。別に、無理をしているつもりはない。調子自体は普段通りだと言うのだね。だけど、顔が赤くなっているよ。熱とかはなさそうだけど、あまり無理はしないように。薄墨さんに倒れられると、全員別の意味で干からびてしまうんだからね。そうそう、俺に出来ることなら、遠慮無く言ってくれれば良いんだよ。


「でしたら、軽々しく女性の額に触らないでください」


 それは悪いことをしたね。誓って言うけど、セクハラをするつもりはなかったんだよ。


「諸星さん。天然と言う言葉、ご存じですか?」


 一応知っているつもりだよ。何しろルーテシアは、お子様で天然だったんだ。それで、天然がどうかしたのかな?

 自覚がないのが一番悪い。だから、通じるように言ってくれるかな。


 結局、天然とかの話は有耶無耶になってしまった。その辺り、なぜか小谷さんが介入してくれたらからだ。ただ小谷さん、相手が悪すぎると言うのはどう言うことなのかな。気にする必要は無い、私が一度通った道だと言うのだね。そんなことをを言われたら、余計に気になると思わないのかな。


 朝食を終えた吉岡さんたちは、出発前にもう一度温泉に入ってくれた。ただ疑問なのは、どうして当たり前のようにソルテラたちが一緒に入ってくるのだろう。林下さんはまだしも、吉岡さん、杉下さんは家庭持ちだったはずです。どうして『お持ち帰り』と言う話になるんです。


「男としての責任を言っているのだが?」


 その場合、奧さんへの責任はどうなるのでしょうね。なに、今現在二人と関係している奴が言うな、ですか。それはそうですけど、それはそれ、これはこれだと思うのですが。なんですか、その男の甲斐性と言うのは。自衛隊トップの不倫がばれたりすると、マスコミにフルボッコに遭いますよ。

 流石に否定は出来ない、ですか。ご理解頂いて感謝します。ええ、だから大人しく彼女たちを置いて帰ってください。アリアはどうなのか、ですか。林下さんが独り身と言うのは聞いていますよ。ですが、翼人を連れて帰って大丈夫だと思っているのですか? 魔法で偽装したとしても、女性を連れて帰ると目立つことこの上ないですよ。知りませんからね、公私混同で叩かれても。

 しかたがない。一人で帰る、ですか。こちらもご理解いただけて感謝しますよ。お正月、ですか。そう言えば、もう少ししたらお正月でしたね。はい、特にお正月のイベントは予定していませんよ。でも困ったな、みんな年末年始は故郷で過ごすのですよね。


 山岡さん、服部さん、どうかしたのかな? その前にコミケがあるから、休暇を貰うことにする。纏めて休まれると、結構困るんだけどな。3日分、保存食を用意するので我慢して欲しい、かい。その後大晦日にもいなくなるんだよな?

 そちらはなんとかする。別に家に帰らなくても困らない、と言うのだね。こんなことを聞いて何だが、ご家族よりもコミケの方が大切なのかな? 家族は帰ればいつでも会えるが、コミケは年に2度しかないと言うのだね。改めて言うけど、大丈夫か、自衛隊。


「大船に乗ってとは言わんが、まあ、大丈夫だと思ってくれれば良い」


 今の話を聞いていましたか。吉岡さんには悪いのですけど、どうしても安心できないんです。気にしすぎだ、武力は行使するためにあるものではない、ですか。確かに使って欲しくないですけど、いざと言う時に役に立たないのも問題ですよね。


「何、人と言うのは守るものがある方が強くなるのだよ」


 その守るものが、彼らにとってはコミケだと言うのですか。もう一度言わせていただきます。


 大丈夫ですか、自衛隊。


 また来るからなと謎の言葉を残し、吉永さんたちは迎えに来たヘリで帰っていった。



 そうか、また来るのか。



 ソルテラやアリアのことを考えれば、本当は歓迎しなくてはいけないのだろう。ただ、ここに来る口実はどうするんだ。しかも自衛隊機を使ってくるなんて、間違いなく公私混同を責められることになるぞ。

 それからソルテラ、アリア、セレナ。東京に遊びに行くのは無しだからな。林下さんはまだしも、吉岡さんと杉下さんには家庭があるのだからな。だから、妻と別れると言う話を本気にしないように。離婚理由が、翼人との浮気と言うのはおおっぴらに出来ないだろう? まだ……いや、流石にいつになっても出来ないと思うぞ。


 ヴェルファイア、何か言いたいことが有るのかな。なに、次に新しい男はいつ来るのかだって? ごめん、当面その予定はないよ。だけど、どうしてそんなことを聞くのかな? ヤリスたちの突き上げが激しいのだと。セレナたちだけと言うのは不公平だと言う声が出ていると言うのかい。いやさ、何を言っているのか理解出来るよ。出来るんだけど、君たち飢えすぎていないかな。

 自分は、奥さん二人を侍らせているだろう、かい。だったら、ハイエースたちにでも迫ってみたら良いと思うんだ。なに、新鮮味がない。ソルテラとアリアが、凄かったと言っているのかい。


 とにかく、今のところ予定はないんだ。次、だから次の時には、君たちに接待を任せるから。それで我慢をしてくれないかな。

 約束、約束と言うのだね。仕方が無い、約束と言うことにしておこう。どうしてそんなに喜んでくれるのかな。嬉しいものは仕方が無い、しかも破られたら破られたで、責任を迫ることが出来ると言うのだね。ちなみに、誰に責任を迫ると言うのかな?

 頼むから、揃って俺を指差さないでくれるかな。超越の恩恵を持つ俺だって、物理的に無理と言うことはあるんだよ。甘えている、限界と言うのは心が決めた限界だって、体の限界はもっと先にあると言うのだね。君たちに忠告だ、テレビコマーシャルを真に受けるのは間違っているぞ。それに、あの暑苦しいのは、芸ではなく素でやっているんだからな……あれっ。とにかく、俺は心に棚を3つしか持っていないんだ。

 3つ持っている所からおかしい。あと一つ二つ増設しても、誤差でしかないと言うのだね。改めて言うけど、君たち飢えすぎていると思うよ。




 自衛隊幹部御一行が帰ってからは、特に何事も無く時間が過ぎていった。ただ長野北部の山奥と言うこともあり、次第に集落の周囲が雪に包まれてきた。それはそれで寒くて不便なのだが、上村さんの訪問がなくなったことはメリットと言って良いのだろう。

 ところでラズライティシア様、翼人たちと何をしているのですか。実験台と冗談で言いましたが、住人を実験材料にしないようにしてください。


 一応合意の元実験をしている、ですか。それに、翼人からも希望されたことであると言うのですね。はい、おおよそ事情が掴めた気がしますよ。隠すことのできない翼を、魔法で隠すことができないかと言うのですね。

 おおよそ合っている。隠すだけなら、さほど難しくないと言うのですね。それで何をしようとしているのですか。


「うむ、出し入れできると言うとわかりにくいか。隠した状態だと、背中を触っても翼人だとわからないようにするものだ」


 それが出来れば、洋服が楽になるのは否定しません。ただ翼を展開することを考えたら、洋服には特別な仕掛けがいりますよね。それは否定しない、ただ集落の外に出るには必要な魔法と言うのですね。

 それはなんです、アリアたちを東京に送り込むことを考えていませんか。それだけじゃない、自分たちの耳を隠すことも考えている、ですか。そうすることで、不意の来訪があっても困ることはないだろうと言うのですね。東京に行くことは否定しないんですね。

 その不意の来訪には疑問がありますが、確かに耳とか翼を隠せるのならそれに越したことはありません。ただ、耳も翼も皆さんのアイデンティティになっていますよね。それを隠して生活するのは、ある意味屈辱的なことではありませんか?


「耳は、まあ、多少その傾向はあるな。だがな、翼の方は利便性を考えてのことだぞ。ぬしは気づいておるかわからないのだが、温泉に入るときには翼を保護しておるのだ。取り外ししたいと言うのは、翼人たちから言われた希望なのだ」


 やっぱり、お風呂に入るのに不自由だったんですか。確かに、狭い部屋では翼がない方が便利ですね。了解しました、ラズライティシア様がしていることを認めます。それで、まだ何かあるのですか?


「いや、なんだ、魔法自体はほぼ完成しておるのだ。だからぬしの目から見て、問題ないかを確認して貰いたいと思っている」


 俺の目からですか。俺が見て役に立つのかわかりませんが、それぐらいならお安いご用ですよ。それで、誰が実験に参加するんです。ハイエースでも連れて来れば良いんですか?

 違う、ヴェルファイアとセンティアですか……ラズライティシア様、別の意図があるように思えるのは考えすぎですか? 違う、俺に見せることを教えたら、二人が立候補したと言うのですね。俺には偶然と言うより、恣意的に思えるのですけど。


「なに、そろそろ手を出してやっても良いのではと思っただけだ。ちなみに、セレスも反対はしておらんかったぞ。序列で良いのか、序列の下位で良ければ加えても良いそうだ」


 奥さんに三号、四号を承認されるのはどうなのだろう。誰だ、男の夢でしょうと言うのは。白船君、君とは腹を割って話し合う必要がありそうだね。


「で、ですが、アクアはとても可愛らしかったと思います」


 だから、俺にもヴェルファイアとセンティアと言うのだね。だったら君に問うのだが、君の目から見てセレスをどう思う? ルーテシアでは不満があるのかな。あの二人に満足している俺に、更に二人を押しつけようと言うのかな?


「だがの孝明。山岡……夫の作る和食は絶品だろう。だがな、山岡妻の作る洋食もまた絶品なのだ。そして服部の作る中華もまた、絶品には違いないだろう。ぬしは、山岡夫の和食だけ食べていれば良いと言うのか?」


 その例え、絶対に外で口にしないでくださいね。女性を物……料理に例えるのは不適切だと思いますよ。


「セレスもルーテシアも美しい。だがな、ヴェルファイアやセンティアも同様に美しいと言うだけのことだ。こちらの世界では、一夫一婦と言う習慣があるのはわかっておる。ただな、ぬしはすでに妻二人を娶っておるのだ。だとしたら、あと二人ぐらい増えたとしても何も問題はあるまい。それにぬしが二人に手を出すことで、翼人たちも安心することが出来るのだぞ」


 翼人たちが安心する、のですか?


「うむ、手を出されることで奴らが安心できるのだ。ぬしの意識は違うことは知っておるぞ。だがな、奴らは自分たちのことをお荷物だと考えておる。しかも、一方的に施しを受けておるのもわかっておるのだ。最初に脅したのも良くなかったのだが、ぬしがその気になったら奴らは生きていくことが出来なくなる。だとしたら、どうしたらぬしに捨てられないのか。それを考えても不思議ではないと思うぞ」


 だから、ヴェルファイアとセンティアですか。一応仕事をして貰っていると言うのは、言っても無駄なんでしょうね。


「ぬしも理解しておるとおり、全く意味の無いことだな。勿論、それだけと言うつもりはないぞ。何しろヴェルファイアとセンティアは、ぬしに対して発情しておるのだからな」


 それからと、ラズライティシア様はとても微妙な事情を教えてくれた。


「あの二人は、翼人たちの中では最年長なのだ。その最年長の二人が、男とまぐあったことがない。リーダーと言う立場以上に、翼人たちの感情的な問題が生じるのだよ」


 一応事情は理解出来ました。理解出来ましたが、それは保留にさせて貰います。やれと言われて手を出すほど、俺は飢えてもいませんからね。それからセレスやルーテシアとも、夫婦として話し合いをさせて貰います。だからセレス、『構いませんよ』と即答してくれるな。それはそれで、相手にされていない気がして落ち込むのだからな。それからルーテシア、お前は森に行っていたのじゃないのか? ラズライティシア様に呼び出された。自分も別に構わないと思っている。まさか、このためだけに戻ってきたのか。そう、そうなんだ……

 お願いだから止めてくれ。立場として、そう言っても問題はないと思うんだ。


 結果? 今更結果を聞いてくれるのか。うん、ラズライティシア様の魔法は成功したと思うぞ。見た目でも触った感触でも翼があるのがわからなかったからな。ただな、素朴な疑問として白船君が実験台では駄目だったのか。彼、アクアと同じ部屋に住んでいるよな。うん、アクアが本宅側の家から出てくるのを何度も見かけているんだ。それどころか、夕食を終えて一緒に帰ってくるのも何度も見ているぞ。


「その理由、今更説明が必要ですか?」


 いや、まあ、なんだ。取りあえずいらないと言っておこうかな。その辺り、俺も男だったと言うことだ。うん、後悔はしていないぞ。多分だけどな。





はい、主人公は好き者です。ええ、デフォルトだと思うんです。

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