↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
87/109

一般公開

村の特産は異世界です


・一般公開


 定例会見でも説明したことだけど、明日の一般公開に向けて前夜祭に突入した。場所ねぇ、場所はホワイトプラザホテル前。そう、異世界への表玄関になって貰った場所だよ。

 そこに特設ステージを作ったのと、徹夜で並ぶ人たち向けの食事提供をすることにしたんだ。そして特設ステージでは、うん、普通にライブをするんだよ。時間は、『今日の異世界に行こう!』の放送終了後……から30分経った18時30分。そこから、22時……つまり夜の10時までにしている。


 ホテルの前を使うんだから、宿泊者向けの特典なんかも用意してあるよ。何かと言うと、ホテル宿泊者向けのフリー飲食券。もっとも、飲み物はソフトドリンク限定なんだけどね。お酒の方もフリーにして良かったんだけど、そちらは事故防止のために有料にしたんだよ。

 それでステージの方なんだけど、なんか凄いことになっているんだよね。鴻池さんが愚痴ってたんだけど、出演希望者が殺到したらしいんだ。『ギャラは要らないから出させてくれっ!』って、プロの言って良いことじゃないと思うよ。それって立木さんが提案した『餌』が効いてるのかな? うん、魔王城、ブーランジェリー王国とかへの特別ご招待って奴。内緒の話なんだけど、おかしの国とか名前の長い国への特別招待も考えているんだよ。

 それは良いんだけど、いや、良くないか。お陰で前夜祭では出演希望者を捌ききれなくなってしまったんだ。


「でしたら、GW期間中続ければ良いだけです」


 頭を悩ませた鴻池さんに対する立木さんの助言。それって、どんなフェス? って聞いても良いよね。ちなみに立木さんの提案に、中林村長が全面的な協力を申し出てくれました。しかしなんだ、元気な村だな大谷村は。

 その結果……その結果ねぇ。一般公開初日なんだけど、入場者は上限1万世帯に設定してあるんだよ。それなのに、前夜祭……からつづくフェスに、10万人以上集まってくれたんだ。特に前夜祭なんだけど、20万人……いやさ、スキー場の緩斜面の結構上までテントが開いているんだ。


 20万人集めるためには、やらなくちゃいけないことが沢山出てくるんだ。まずロジなんだけど、大糸線の輸送能力を超えているんだ。臨時列車、臨時列車ねぇ。2両編成じゃ、幾ら増発してもたかが知れてるんだよ。東京から直通の特急もあるんだけど、これにしたところで500人ぐらいしか運べないんだ。つまり、鉄道だけでは20万人を運べないってこと。

 ちなみに車で来る人向けの駐車場にしても、10万台規模って……どう考えても無理としか言い様がないんだ。だって普通に営業しているホテルもあるんだからね。つまり、車の方も収容するのがかなり難しいってこと。一応首都圏、中京圏、関西圏から観光バスが集まってくるんだけどね。それにしても、焼け石に水に近いことになる。大谷村としては苦渋の選択になったのだけど、転移ゲートを糸魚川と大町にも設定して輸送力を上げることにしたんだよ。


 それだけ人が集まると、誘導員とか現場スタッフとか……とっても沢山の人員が必要になるんだ。それはどうしたかと言うと、そちらは鴻池さんたちの得意とするところだね。うん、アルバイトを募集することで乗り切ることにしたんだ。

 それから大勢の人が屋外に集まると、怪我人とか病人も絶対に出るよね。まだ特区指定がされていないので、治癒魔法は封印。その代わり、長野県医師会の協力で無料診療所が開設されることになったよ。ただそれでも、何が起こるかわからないよね。だからと言うことも無いけど、立木さんがやってくれました。何のことかと言うと、治療用魔道具の大量投入が実現したんだよ。うん、大規模災害における、魔法治療の効果確認なんだって。大規模災害が起きたりすると、医薬品の不足が予想されるよね。その状況を、魔道具でどれだけ緩和することが出来るのか。その実証実験を、厚労省に認めさせてくれたんだ。お陰で、日本全国から医師派遣について問い合わせが入ってくれたよ。


 後は、会場設営の人手……人手で良いんだよな。力仕事に、オークが大量投入されたんだ。あとデモンも大量投入。その辺り、これからの世界に取り残されていたのを、立木さんと陽佳ちゃんが引き連れてきてくれたんだ。なんかさぁ、立木さんの方が魔王っぽくなっていないかな? ちなみに連れてきたのは、オークが120、デモンが160……もの凄く沢山と言って良いと思うよ。

 それからなんだけど、『せっかくだから』と言う訳のわからない理由で、名前の長い世界から10傑衆も招待されました。彼等……と言うより彼女たち、ドラゴンと同じで仮想体を出せるんだよね。だからお祭りの中で、彼女たちのお披露目もやってしまおうと言うことになったんだ。後は魔王様……プレオプラスさんの方なんだけど、魔王城公開の方でも活躍して貰うことになったよ。この辺り、朽木君が定例会見で言ったことでもあるんだけどね。


 後は……後は、まあ色々と準備をしたのは確かだな。それから、大谷興業も頑張ってくれたよ。いろんな所に声を掛けて、テキ屋……もとい屋台を沢山用意してくれたんだよ。ちなみにこの屋台、普通のお祭りよりも良心的な値段になっている……違う、会場にあるのは無料。道路沿いに出てるのは、補助金を出して値段を下げているんだね。


 いよいよ前夜祭の始まり始まり。そこで意表を突く……と言う意図もあるけど、やっぱりIMO研究所らしさって必要だと思うんだ。だから開会の挨拶は、俺では無く魔王ヴェルサティス様、プレオプラス様にお願いすることになった。

 この二人に期待するのは、集まった人たちの度肝を抜くこと。だから人間形態……人間サイズでは無く、巨大化して登場して貰った。大きさからしたら、10mぐらいかな。そのまま大きくなったヴェルサティス様と、人型をした巨大な牛……ミノタウルスなのかな。その姿をしたプレオプラス様がステージに登場。もうね、これだけで会場が大歓声に包まれたよ。


「ふはははは、愚かな人間どもよよくぞ参ったな。その愚かな行為は、死を持って償うことになるだろうっ!」


 大きな身振り……大勢人が集まっているから、これぐらいじゃ無いと伝わらないんだよね。


「とは言え、今宵はとても良い気分なのだ。これより、眷属どもが余の恐ろしさを教えてくれよう。それでもなお立ち向かう勇気のある者は、褒美としてさらなる血の宴へと招待してやる。そうか、最初はぬしが恐怖を教えてやるのだな。良かろう、先陣を切る名誉を、夕暮れの悪魔に与えてやることにするっ! ふはははははっ」


 流石は魔王ヴェルサティス様。練習の甲斐あってか、随分と様になっていると思うよ。それで最初の出演者は、うん、白塗りメイク……ごめんなさい、それが素顔なんですね。夕暮れの悪魔が率いるラグナロク参上って、うん、しっかり厨二病の設定になっていると思うよ。


 それからの30分、ラグナロクの咆吼……つまり、恐怖のサウンドが山間に響き渡ってくれたんだ。それが終わったぐらいで、空がしっかり暗くなってくれた。そこでなぜか、スポットライトを残して会場が暗くなり……危なくない程度なんだけどね。

 そのスポットライトに浮かび上がった魔王ベルサティス様、夕暮れの悪魔率いるラグナロクにお褒めの言葉。


「うむ、中々見事であったと褒めてやろう。どうだ人間どもよ、尻尾を巻いて帰るのなら命までは取らんぞ」


 そこで空に向けてスポットライトが。白い衣装を着た翼人たち20が編隊飛行をして襲撃してきた。肩には、LEDライトがチカチカ光ってる。


「おのれっ、目障りな天使ども。人間を守りにやってきたのかっ! だがな、その程度の力で我が眷属を超えられるとでも思っておるのか。いけっ、デモンよ、生意気な天使どもを生け捕りにしてこいっ!」


 それで、翼のあるデモンが迎撃のため出撃。当然こっちにも、色違いのLEDライトが光ってる。


「おおっ、これでこそ血の宴、余の治世に相応しき光景。いけZ、天使どもに逆レクイエムを捧げてやれっ!」


 またまた有名バンドZの登場。ラグナロクはシャウトから入ったけど、こっちはしっとりとした高音を響かせてくれた。うん、この寂しげな音色が、恐怖を駆り立ててくれるね。


 それからの30分、上空では一進一退の戦いが行われた。色違いのライトが消えていく……これは死を現しているんだけどね。一つ一つ天使のライトが消え、最後の一つに多くのデモンが殺到。夜空を切り裂く悲鳴……これはステージから上がったんだけどね。その悲鳴と同時に、最後の天使が消滅。


「どうだ、余の威光を思い知ったか? だがな、まだまだこれは恐怖の序章(プレリュード)でしか無いのだ。出でよ終末竜(ターミナルドラゴン)、この世界にお前の恐怖を教えてやれっ!」


 呼ばれて現れたのは、50m超級のドラゴン。出番が欲しいと言っていたゾエが終末竜(ターミナルドラゴン)役を買って出てくれたんだ。

 それからゾエ、お腹が空いてもお客さんを躍り食いしちゃいけないからね。


 スポットライトを浴びたゾエが空を舞っているところで、次のバンドが登場した。うん、こちらも有名バンドだね。ドラゴンブレスだったかな。なんかさぁ、鴻池さんたちノリノリの演出をしているね。演出としては、もの凄くベタだと思うけど。


「ふはははははっ、思い知ったか人間ども。だがな、今宵の余は気分が良いのだ。さらなる恐怖を魂に刻み込むが良い。出でよドラゴンども、抗うことの愚かさを人間どもに教えてやれっ!」


 そしてここで、始祖竜たちが登場。全20体が、スポットライトに浮かび上がってくれたんだ。もうね、空を覆い尽くすドラゴンの群れ……鶏さん、卵を産まなくなったりしないかな。うん、心配することがずれてるのは理解しているよ。


「ふははははっ、どうだ、余の力を思い知ったかっ!」


 おっ、どこからか『女神様っ』の声が。ここで女神様が登場、魔王を打ち倒してくれると思うよね。残念、それはもう少し後のことなんだ。


「哀れな人間どもよ。女神ごときに余を討てるとでも思っていたのか。良かろう、その最後の希望とやらを打ち砕いてやる。四天王よ、捕らえた女神をここに連れて来いっ!」


 そこで四天王……アクトロスさんが、女神様。うん、パナメーラなんだけどね。ちょっといかがわしい格好……いつもの格好とも言えるんだけど、ちょっといかがわしい格好をさせた女神を連行してきた。

 そこで魔王ヴェルサティス様が、普段のサイズに戻って……パナメーラとの対比が必要だからね。元のサイズに戻って、パナメーラの顎を『くぃっ』と持ち上げて一言。


「女神パナメーラよ。滅せられたくなければ、その身をもって未来永劫余に奉仕することだなっ!」


 そこで顎から手を離して、魔王様は空似向けて高笑い。女神様が魔王の手に落ちた以上、地上には希望がなくなったことになるわけだ。


「デビルクライ、余を褒め称えよっ!」


 そこでガールズバンド登場。ちょっと怪しい雰囲気で、魔王様を褒め称えてくれた。うん、物語仕立てとしては悪くないと思うよ。会場に集まった人たちも、かなり興奮しているしね。

 ステージ上では女神が拘束され、空には20にも及ぶドラゴンが我が物顔で飛び回る。転生先で見せられたら、間違いなく絶望するって光景だと思うよ。俺だって、さじを投げる状況に思えたぐらいだからな。


「どうだパナメーラよ。世界は、余の前に跪いたぞ。まだ、余に抗えるとでも思っておるのか?」


 ふははははとまたまた高笑い。うん、しっかりと役に入り込んでくれてるね。

 そして両側から押さえつけられたパナメーラが、従いますと屈服の言葉を口に仕掛けた、まさにその時っ! 天空から光の矢がステージに突き刺さり、魔王の眷属を弾き飛ばしたんだ。そして光の突き刺さったところには、一人の女性勇者が剣を天に向かって突き上げていた。うん、本物の勇者、陽佳ちゃんのお出ましです。


「魔王ヴェルサティス。私が生きている限り、お前の好きにはさせませんっ! 勇者陽佳ここに見参!」


 うん、見得を切ったところは十分様になっていると思うよ。しかも陽佳ちゃんとヴェルサティス様って、本気で戦っていた間柄なんだよね。その意味で言えば、女神様はパナメーラじゃ無くてフローリアンさんのはずなんだよ。ただ、立場の弱いパナメーラが蹂躙される女神役を押しつけられたんだ。


「ふははははっ、物陰で怯えておれば良いものを、よくぞ余の前に姿を現してくれたな。そのことだけは、褒めてつかわそう。ただな、現実と言うものを見た方が良いと忠告してやる。余、そして余の軍勢を前に、ただ一人で立ち向かうとでも言ってくれるのか?」


 その言葉に合わせるように、ステージ上には四天王とオークたちがゾクゾクと集結してきた。もうね、普通に考えれば絶体絶命ってところだよね。


「現実を見るのは、魔王お前の方だ。お前を倒すために、私の元に異世界の勇者が集結してくれたんだっ!」


 陽佳ちゃんの言葉に合わせるように、ステージ上にスポットライトが。そのスポットライトに浮かび上がったのは、おおっ、勇者エクシブじゃ無いかっ……って、知ってたけど。


「義に従い勇者エクシブ見参っ!」

「お、愚かな勇者よ。たった2人で、余の軍団にどう抗うと言うのだ?」


 ここでまた、ふはははと高笑い。うん、中々迫真の演技だと言ってあげようか。


「愚かだと。誰が、2人だと言ったのだ?」


 その言葉に合わせるように、ステージ上に4つの影が。うん、ファンタスティック・フォーの登場だよ。そして登場に合わせて、夜空をつんざく咆吼がっ! そこに更に大きな2匹の竜がっ! 本当なら、インテグラが登場する所なんだけどね。身重と言うことで、カングーとゼトロスが満を持して登場したんだ。

 そしてその2匹の竜から、2人の大魔法使いがゆっくりと地面に向けて降りてきた。うん、ラズライティシア様とエリシオンさんの2人だよ。本当はなくても良いんだけど、わざわざ足下に魔方陣を描いての登場です。


「な、なんの、まだまだ余の軍勢の方が数が多いのだぞっ! しかも女神は、すでに余の手の内にあるっ!」


 魔王様。なかなかの役者だと思うよ。ちゃんと、微妙な焦りが声色に出てるもの。


「愚かな魔王。私たちは、大いなる神の加護を受けている。見よ、宇宙を治める5神の降臨をっ!」


 陽佳ちゃんの言葉に合わせるように、夜空にまばゆいばかりの金色の光がっ。それは良いんだけど、セレス、今日はコスモクロアバージョンで出てきたんだね。うん、今更驚かないよ。だって、その格好は寝室で見ているんだ。

 燃えたかって? 何を今更と言ってあげよう。


「魔王ヴェルサティス。魔王プレオプラス。宇宙の調和を乱す者たちよ。平伏し、己の罪を悔い改めなさい。そうすれば、神の救いが与えられるでしょう」


 やっぱりゼッタイシン様モードって良いよね。今夜も、ゼッタイシン様モードをお願いしようかな。


「う、うぬぬ、今更神が姿を現したからなんだと言うのだ。余は、神に抗うことを決めたのだからなっ! ここで姿を現したのは、むしろ好都合と言ってやろう。我が眷属よ。神など恐れる必要は無い。神を滅ぼし、この世界を我が手中に収めるのだっ!」


 ここで最後のバンド、ロックスの登場。ちなみにこのロックス、国内外の有名アーチストが今日のためにコラボをしてくれたんだ。曲は神魔大戦と書いてラグナロクなんだよ。ちょっとね、前夜祭でするような顔合わせじゃないと思うんだ。

 ただ、これで魔王様のステージは終わり。ここで決着を付けちゃうと、魔王城公開が成り立たなくなるからね。だから陽佳ちゃんとエクシブが、『俺たち(私たち)の戦いはこれからだっ!』と叫んで終わり。

 ステージから花火が吹き出し、演奏が最高潮になったところで暗転、そして静寂が訪れた。魔王様、陽佳ちゃんたちの姿が消え……転移したんだけどね。ステージ上には、オークたち、翼人たちの屍が幾つも転がっているだけになった。これはね、神魔大戦(ラグナロク)の激しさを現しているんだよ。


 『きぃずぅついたぁ~このぉ、暗い世界にぃ~』


 その闇の中、藍香ちゃんの高い澄んだ声が響き渡る。うん、相変わらず凄いと思うよ。なんかさぁ、俺って調教されてしまったのかな。藍香ちゃんの声を聞くと、胸の鼓動が上がってしまうんだよ。

 でも今日の歌は、神魔の戦い。その悲しさを歌い上げているんだよ。この結末……歌の結末は、両者が共に滅びを迎えることになっている。そしてすべてが滅びた後、世界は再生されることになるんだ。


 『新しく生まれた小さな光 その光が未来を照らし出すぅ』

 『新しい希望と供にぃ~!』


 最後に白いドレス姿の藍香ちゃんがスポットライトに浮かび上がり……その場から光の粒となって姿を消すんだ。そして姿を消した後には、小さな白い花がスポットライトに照らし出される。スノードロップって言う花なんだって。


 藍香ちゃんの歌が終われば、会場の照明が点灯される。うん、時間も10時になったからね。これで、前夜祭のイベントは終了なんだ。だってホテル前の屋外会場なんだからね、宿泊者の迷惑……迷惑なのかな? 迷惑も考えないといけないことになっているんだよ。

 これで来場した人たちも退場することになるんだけどね。ここでちょっとした手違い。誰も出口に向かおうとしなかったんだ。全員が、ステージの方を呆けた顔で見ていたんだよ。まるで魂が抜かれたような……そう言って良いと思うよ。だって俺も、似たような状態になっているんだからね。


 ところで鴻池さん、この状況をどう解消するつもりですか?


「……えっ、すみません。今、何か仰りましたか?」


 鴻池さんまで魂を抜かれてどうするんです。お客さんが動き出さない……帰らない状況をどうするのかと聞いているんです。


「え、ええっと、どうしましょうかね?」


 どうしましょうかって……そんなことで良いんですか? 良くはないが、今は何も考えられなくなっている。

 仕方が無い、必殺技を使うことにしよう。うん、



 立木さぁん、ヘルプぅ~!



 もうね、普通の方法では無理だと思うんだよ。はっきり言って、俺でも無理だと思うから。




 一般公開は、朝の9時開園です。ただね、ゲート前には長蛇の列が出来ているんだ。しかも特設ステージでは、すでに初日の演奏が始まっていたりする。テレビカメラ? うん、沢山集まってきているよ。それからヘリコプターを使用した空撮は禁止してある。だって、事故の心配が必要なんだよ。だからと言うことも……あるのかな? 翼人たちがカメラを持って空撮なんかしています。うん、空から撮った公式映像と言う奴ね。これを、報道各社に提供することになっているんだ。

 ちぃなぁみぃにぃ、テープカットなんかしたりするんだよ。そのテープカットには、菅谷総理と長野県知事、中林村長、安達マミちゃん、そして俺が並ぶことになったんだ。


「お前らぁ、お待ちかねの異世界だぁ。魔王城、ブーランジェリー王国を楽しんでくれ。昨日出し惜しみをしたハイエルフたちも、ブーランジェリー王国でお前たちを待っているからなぁ!」


 相変わらず言葉遣いの問題はあるんだけど。まあ、観客も興奮しているから仕方が無いよね。それに、お堅い挨拶ってのはIMO研究所には似合わないと思うんだ。


「そして一般公開に、日本の名宰相菅谷総理大臣閣下も駆けつけてくれたぞ。今日、この日があるのも、菅谷総理の尽力あってこそのことだ。さあ、菅谷総理からお言葉を頂く。お前らぁ、一言も聞き漏らすんじゃ無いぞ!」


 煽るねぇ、煽ってくれるね。だけど、嘘は言っていないんだよ。俺たちがここに根城を築けたのは、全部菅谷総理のお陰なんだよ。


「ただいまお褒めに与った内閣総理大臣をしている菅谷です。初めて諸星氏と出会ったときのことを思うと、今この時を迎えられるのは感慨深いものがあります。明日の朝まで語っても、語り尽くせないことがこの1年と半にありました。IMO研究所、そして上里集落は、私たちの持っていた常識を打ち壊してくれたのです。それにあやかって、私も一つ常識を打ち壊すことにしましょう。政治家の話は長い、己の手柄を誇示したがる。それが、これまでの常識でした。そう、これで挨拶を終わることで、その常識を打ち破ることにする。魔王城、ブーランジェリー王国の一般公開おめでとう!」


 確かに短かったな。俺の持ってる本でも、こう言った時に何をアピールするのかが書いてあったんだ。それに従うと、最低でも10分は話す必要があるそうだ。


「では、これよりテープカットを持って開場とする。それからだが、一番乗りには一番乗りの栄誉がある。だが真ん中辺りにスポットが当たっても良いと思わないか? だからだ、3333番目の入場者にぞろ目賞を授与することとした。言っておくが、この数字に意味は無い。明日も出すつもりだが、思いついた数字を使うことにするっ!」


 ちなみにこのぞろ目賞……ってことも無いんだけど、結構凄い特典があったりするんだ。それが何か……うん、内緒。発表を持って発送に変えさせて貰う……違う、発表を心待ちにしてくれ。

 それで5人が揃ってテープをカット。そこでなぜかファンファーレ……じゃなくて、ドラゴンの咆吼が響き渡ってくれた。だけど、鶏さん大丈夫かな?


 テープカットが終わり、ゲートが開放されました。入場者が殺到……することもなく、結構お行儀良くゲートを通っていってくれた。まあ、オークが先導しているからね。流石に馬鹿な真似はできないと思うんだ。しかしなんだ、結構コスプレをしている人が多いな。一番多いのは……エルフと翼人はどっこいどっこいか。だけど力の入った奴は、オークやデモンのコスプレをしてたりする。

 うん、ここまでは大きなトラブルも無く進んでいるのかな?


 改めて、菅谷総理本日はありがとうございました。朽木君が言ったこと、俺の本心でもあるんですからね。


「損得勘定から離れた賞賛と言うのは、どうもこそばゆいものだな。しかし、あれから1年と8ヶ月も経ったのだな。改めて振り返ってみると、本当に色々な事件が起きてくれたと思うよ。叶うのなら、そろそろ打ち止めにして貰いたいところだな」


 打ち止め……ですか。その気持ちは理解出来るんですよ。俺も、そう思うことがありますからね。

 それはそうと、立ち話もなんですから研究所に場所を変えませんか?


「あまり時間を取れない……と普通なら言うところなのだがな。出来れば立木君も呼んでくれるかな?」


 立木さん、ですか。何を仰りたいのか理解出来る気がします。ええ、いろんな喧嘩を買ってくれていますからね。


「そう言うことだ。外務大臣……上原が泣き言を言っていたよ。あとは、祖父江……厚生労働大臣も頭を抱えていたな」


 その話をする必要があると言うことですね。承知しました。立木副所長にも同席して貰うことにします。

 では、所長室まで転移しますので、じっと……して無くても大丈夫なんですけどね。と言うことで、ようこそIMO研究所へ。


「全く……ここだけ、文明とは違うのだろうが、世界が違っているな」


 空間転移一つとっても、確かに世界が違うのでしょうね。これがあるだけで、移動に関する常識が変わってくれますからね。


「物流の常識も変わってくれるのだよ。時間と距離の概念が崩れてしまう……産業界が大騒ぎになっているのを気づいているのかな?」


 産業界が大騒ぎ……ですか。俺はその方面に疎いのですけど、立木さんなら理解していると思いますよ。あの人、一般企業に勤められていましたからね。


「大手IT企業……その経歴が詐称されている気がしてならないのだよ。いや、確認は取れているのだがな」


 似たようなことを……鴻池さんたちも言っていましたね。なんだセレス、そうか立木さんが来たんだね。だったら通して貰えるかな?


「菅谷総理大臣、ようこそIMO研究所へ。ところで諸星さん、私をお呼びと伺いましたが?」


 実は、菅谷総理のリクエストなんだよ。用……立木さんも想像が付いてるよね?


「心当たりがあり過ぎると言っても良いですか?」


 そうですか、心当たりが無いじゃなくて、あり過ぎるんですね。自覚している分たちが悪いと言わせて貰います。


「軽口はそこまでにして、私にどの話があるのでしょうか?」

「どの、と言ってくれるのだな?」

「心当たりがあり過ぎると言ったかと思います」


 あり過ぎるんだったら、『どの』と言ってもおかしくは無いな。それで菅谷総理、どの話からするんですか?


「EUの一部の国なのだが、例の議論に反対していると言ってきたな」

「はて、例の話と言うのはなんでしょう?」


 立木さん、流石にそれは白々しいと思いますよ。それに、ここで腹芸をするのは良くないと思うんですよ。


「失礼した。異世界及び魔法技術独占に関する議論と言う奴だ。噂話と言っていたが、脅しの方法として日本企業に対する制裁……不利益となる規制が提案されていた」

「友池氏から、その話は聞かされていました。同時に、対策も提案されていたんですよ」


 ええっと、俺には事後相談ですか。そうですか、俺が頭を悩ますような問題じゃ無いと言ってくれるんですね。それって、俺を気遣ってくれていると言うことですか?


「諸星さんが気に病むようなことじゃないと言うことです」

「あいにく、それを真に受けるほど私は若くないのだよ」


 ええっと、まだほかにあると言うのですか?


「わざわざ、自分を排除対象にする必要はないと思うのだがね」


 排除対象、排除対象って……暗殺のことですか? 立木さん、どう言うことなんですか?


「排除対象になったつもりはないんですけどね。せいぜい、『邪魔者』程度でしかありませんよ。後は、いざと言う時に切り捨てられる尻尾ぐらいでしょうか?」


 いやいや、それってもっとたちが悪いですよね。なんです、その『尻尾』と言うのは。俺は、トカゲの尻尾切りなんかするつもりはありませんよ。


「まあ、保険だと思っておいてください。これだけ悪名が知れ渡れば、首を切った時の効果も大きいと思いますからね」

「諸星君を守るためとは言わないのだな?」

「それは、言わずもがなだと思いますよ。諸星さん、そして上里集落に集う者たち。そのすべてを守るためには、手札が多い方が良いんです」

「そこまで理解して喧嘩を売っていると理解して良いのか?」

「別に、喧嘩を売っているつもりはないのですけどね。どう言う訳か……でもありませんか。利益に目が眩んで、ちょっかいを掛けたがる者が多すぎるんです」


 利益に目が眩んで、ですか。確かに、異世界、そして魔法は金のなる木ですからね。それだけじゃ無い、金儲けの邪魔者でもあると言ってくれますか?


「そちらも理解していると言うことだな」

「ですので、私は有識者会議などに出るつもりはないのですよ」


 それって、魔道具を使った医療の話だよね。でも、それって医療器具としての認可とか、治療方法としての保険適用とかに絡んでくると思うんだよ。

 だけど、日本全国から治験への参加希望があるって聞いてるけど?


「諸星さん。日本の年間医療費は、50兆円に迫ろうかと言う規模なんですよ。魔法を使った治療は、そのお金の動きを変えてしまうことになる訳です。魔道具を用いることで、例えばその金額が半額になったとします。政府予算、健康保険と言う観点では良いことには違いないのですよ。ただ、25兆円もの市場が消滅したとき、一体何が起きるのでしょうね?」


 なにがって……25兆円のお金が市場から消えるんだよな。ええっと、大不況になるとか?


「会社、業界のいくつかが消えることになりますね。経済活動と言う意味では、諸星さんの仰るとおり大きな打撃を受けることになります。さて、その危険性が目の前に提示されたとき。影響を受ける側は、どのような反応をするのでしょうね?」


 つまり、猛烈な反発があると言うことか。マスコミを巻き込んだ、反魔法治療キャンペーンが行われると。


「それが、国内だけだと思いますか?」


 医療機器メーカーとか、世界各地に大手がありますよね。その企業も大打撃を受ける……でも、魔道具で救われる人たちも大勢居ると思うんです。その人たちが、邪魔をされるのを黙って見ているとは思えないんです。


「このまま放っておけば、IMO研究所が100%の世界シェアを占めますからね。色々な摩擦が生じることになる訳ですよ」

「つまり、その可能性には気がついていたと言うのだね。従って、厚労省も扱いに困っているのだよ。増え続ける医療費の圧縮……と言う観点では、治療用魔道具と言うのは好ましいのだよ。だが省として考えた場合、扱う予算規模が小さくなってしまう。そのことへの反発も実は根強いものがあるのだ。むしろ、ネガティブな反応の方が大きいと言っていいぐらいなのだよ。ただ、立木氏がマスコミの前で大々的に発表をしてくれた。お陰で、厚労省も無視をすることが出来なくなってしまった」


 これで、大勢の人が救われる……と言う簡単な話では無いと言うことですか。嫌な世界……と言うのは、ものを知らない言い方なんですかね。


「その感想を持つのは、極めて自然なことと言って良いのだよ。だが来年から25兆もの市場が消滅する。GDPの5%が消失するとなると、景気への影響が甚大なものとなるだろう。その意味で言えば、あのように無邪気に発表をして欲しくなかったのだよ」

「先に相談をしていたら、発表前に潰された可能性もありますよね?」


 菅谷総理が黙ってしまった。つまり、立木さんの言っていることが正鵠を射ていたと言うことか。


「それも、理解した上での行動と言うことか?」

「こちらは後付けですね。本山名誉教授が、今のままでは治験をしにくいと言っていたのが発表の理由ですよ。後はですね、『今日の異世界に行こう!』に届いた切実な手紙に対する回答を示す必要があったと言うことです」


 後から見せて貰ったんだけど、確かに段ボール一杯のお手紙があったんだよ。それを読んだら……一部だけど、本当に切実な願いが書かれていたんだよ。それを見せられたら、立木さんが発表に踏み切ったのも理解出来るんだ。


「だから、私は有識者会議……専門家会議ですか。そこに出るつもりはないのですよ。多分彼等は、手を替え品を替えて私を潰しに来てくれますからね。どう考えても、前向きの議論などできるはずがないんです」

「そこまで予想していると言うことか?」

「ネットニュースの世界では、医療関係は悪役になっているんです。殆どは被害妄想なんですけどね……まあ、一握りぐらいは本当の悪役がいるんですよ」


 一握りって……その人が権力を持っていたら、とんでもないことになってしまいますよね。


「私の友人で名古屋の大学で学部長をしている香川と、世界的に有名な川端がいるんですけどね。業績的には、香川では川端に敵わないんです。ただ学内の序列で行くと、香川の方が上になっている。まあ、偉くなる方向が違っているだけなんですけどね。研究よりも権力を志向する医者がいてもおかしくは無いんですよ」


 金儲けと言わないんですね。そうですか、必ずしもお金だけの問題じゃ無いんですね。


「名誉欲……人にとって、名誉と言うのは大きな意味を持つと言うことです」

「名誉欲、か。耳の痛い話でもあるな。それで、君はどんな手を打ってくると思っているのだ?」

「それこそ、色々とと言うのが答えになりますね。事故をことさら騒ぎ立てるのとか、医療機関が一斉に治験から手を引くとか……多分ですけど、思いもよらない手を打ってくることもあるのではないでしょうか。直接は手を汚さないのでしょうが、明らかに違法な行為を行う可能性もあるぐらいです」


 そこまでしてくるんですか。いえ、不可解な自殺者が出るのは、確かによくある話だとは思いますよ。


「まあ、国内の抵抗だけであれば、海外に出て行けば良いだけですけどね。それを持ち出すだけで、大騒ぎになるんじゃありませんか?


 あっ、菅谷総理の顔が引き攣ってる。つまり、立木さんの言ったことが正鵠を射ていたわけだ。


「やはり、あなたはたちが悪いとしか思えないな」

「何も考えずに、無邪気に行動しているだけですよ。ただその行動が、意外にツボを突いていただけのことです」


 無邪気、無邪気と言ってくれますか。俺には、絶対にそう思えないんですけどね。


「せいぜい部長……部下の数を考えたら、課長レベルなんですけどね。その程度にしかなれなかった凡人と言うのが私ですよ。もしも政治的、権力的な動きが出来るんでしたら、今頃社長にでもなっているんじゃありませんか? 現実を見ると、あまり羨ましくない立場でもあるんですけどね」


 社長になっていた……そう言われると、結構説得力があるのかな。


「世界のどこかで受け入れてくれる国があると考えているのか?」

「相手は、世界規模の存在ですからね。まあ、総スカンを食らう可能性は否定しませんよ」

「その割に気にしていないように見えるのだが……それは私の気のせいなのかな?」


 結構危ない話……俺たちの立場なんだけど。危ない話をしていると思うんだ。その割に、立木さんが気にしていないように見えるのは確かだな。


「IMO研究所は、切実な声に対する回答を用意した。そのことは、すでに発表してあるんです。このことは、すでに世界中……と言っても良いと思いますけど、世界中の人が知ってしまったんです。簡単な治療……ハゲの治療を簡単と言っていいのかは疑問ですけど。簡単な治療であれば、すでに実績を示してしまっているんですよ。治験実績も……20件を超えたかな。さて、今までの治療で出来なかったことが、治療用魔道具を使えば出来るようになったんです。この事実を、どこまで見ない振りが出来るんでしょうね?」

「繰り返すが、やはりあなたはたちが悪いと言わせて貰う。風見鶏のマスコミは、大衆の支持を見誤ることはないだろうな」


 俺もそう思います。だって、治療用魔道具は『希望』を示してしまったんだ。だったら、その希望の芽を摘み取る動きが支持を得るとは思えないんだ。


「国民すべてから攻撃をされて厚労省は持ちますか?」

「まず間違いなく壊滅的打撃を受けることになるな。君のことだ、攻撃材料をほかにも用意しているのだろう?」

「私では無く、友池氏たちが頑張ってくれましたよ。治療用魔道具を用いることで、どれぐらい医療費を削減できるのか。こんなもの、正確な値である必要も無いんですけどね。それなりに、説得力のある数値を用意してくれましたよ。さて、医療費が財政を圧迫している、このままだと持たない、増税しか無いと散々宣伝してきましたね。そのツケが、ここに回ってくると言うことです。与党攻撃だけすれば良い野党にしてみれば、格好の攻撃材料となってくれるわけです」


 そうかもしれないけど。それだと、菅谷総理の不利益になるよな。俺としては、菅谷総理の足を引っ張りたくないんだよ。


「諸星さん。総理の頭の中には、活用プランが出来つつありますよ。まあ、治療用魔道具の存在が世に出てしまいましたからね。菅谷総理としては、我々を活用するしか生き延びる方法が無くなってしまったんです」

「……繰り返すのだが君はたちが悪いのだな」

「全部後付けの理由ですよ。ですから、『偶然』と言わせていただきます」


 偶然で片付けてくれますか。それって、誰が信用してくれるんでしょうね。


「それから諸星さん。世界……の医療界ですが、総力を挙げて潰しに来るのかも知れません。ただ、裏では救いの手……ではありませんね。自分だけは利益を得ようとする者も出てくるんです。少し考えればわかることですが、『医療用魔道具』は、医療用に機能制限を掛けているだけなんです。女神の恩恵で誤魔化していますが、空間転移も魔道具を使えば可能なんですよ。その技術を手に入れる……販売権を得るだけでも、莫大な利益を得ることが出来るんです。他を出し抜いて、手に入れたいと考えてもおかしくありませんよね?」


 そう言えば、あの魔道具は武見君が機能制限をしたんだったな。つまり、機能制限を外せばほかの魔法も使えると言うことか……立木さんも空間転移を使っていましたっけ?

 ああっ、それを考えたら手に入れたいと考えるのは自然ですね。つまり、表と裏の動きが激しくなると言うことですか。それって、竜人とかの話と似ていますよね。


「それからお断りしておきますが、私の手に余りますからね」

「役人の手にも余るのだがな。政治家も……随分と小粒になってしまったよ」


 そこで菅谷総理は、大きく息を吐き出して……


「一つ文句を言わせて貰っていいかな?」

「一つと言わず、幾らでも」


 文句の一つぐらいならお安いご用と言う所かな。うん、すべての面倒が菅谷総理に掛かってくれるからね。


「敢えて拙速と言う言葉を使わせて貰う。なぜ、拙速な技術開発を行ったのだ? このような変化は、長い時間を掛けて行うものと思っているのだが?」

「総理の立場なら、それが正当な苦情と言うのは確かなのでしょうね。ただ、技術屋にしてみれば、お門違いの苦情と言うことになります。出来ることをやらないのは、技術屋として失格なんですよ」

「技術屋と言ってくれるのか」

「研究者などと高尚なものではありませんからね。だから私は、技術屋なんですよ」


 その技術屋さんに、研究者が大勢より掛かっているんですけど。それって、俺の気のせいなんですかね。気のせい……嘘でしょ、それ。


「すべての発端は、諸星さんがこの世界に帰ってきたことなんですよ。その時点で、この流れは決定づけられていたんです。教えてくれるかはわかりませんが、セレスさんに質問してみてはいかがですか?」


 そう言えば、俺をこんなにした責任者が身近に居ましたね。だったら聞いて……教えてくれるのかな?


「それは、聞き方によるんでしょうね。ただ諸星さんだと……やっぱり無理かな?」


 そうですか、俺だと無理と言ってくれますか。ええ、そうじゃないかと俺も思っていたんです。


「そんなことを認めてくれなくても良いんですよ。それから菅谷総理、ここから先は更に加速して行くことになると思いますよ」

「まだ加速すると言ってくれるのか?」


 苦笑を浮かべたね。菅谷総理が苦笑を浮かべてくれたよ。まあ、ここまでのドタバタを考えたら、苦笑を浮かべる気持ちも理解出来るんだ。


「かなりの部分は、私の手を離れているんです。優秀な研究者のハートに火を付けてしまいましたからね。ここから先は、彼等が突っ走ることになると思いますよ」


 優秀な研究者……オルティアさんたちのことかな? そうですか、オルティアさんのことは否定しないんですね。ただ、点数として30点と言ってくれるんですか。


「武見君、かすみちゃん、アスカのことを言っているんです。恐らく、この先には人数が増えることになると思いますよ。彼等を中心にして多くの人が集まってくる……夢見ていると言っても良いのかも知れませんね」


 夢、夢と言ってくれますか。なるほど、自分では想像も付かないことをしてくれる。それを期待していると言うんですね。

 なるほど、立木さんの言いたいことは理解出来た気がしますよ。ただですね、静かに退場しようとか考えていませんか? 引退して、配当金と年金で悠々自適、温泉三昧の生活をするつもり。まだそんなことを言っているんですか?


「幾ら観測気球を上げても、誰も認めてくれないと思うのだがね。ちなみに私も、あなたの引退を認めるつもりは無いのだよ」


 菅谷総理もそう思われますよね。ええ、俺も同じことを考えていますから。ちなみにですね、温泉三昧の生活なら、今でも実現できていますよね。それからですね、飲み歩くことは推奨して差し上げますよ。『犬も歩けば棒に当たる』って言いますよね。最近俺たちは、『立木が飲み歩けば人材に当たる』って言い換えているんです。

 ええ、だから飲み歩くことは奨励させていただくんです。ちなみにこれは、後沢も積極的に賛同していたりするんですよ。


「最近、飲みに行くのが怖くなった……って言わせて貰います」


 そうですか、飲みに行くのが怖くなりましたか。ただですね、光岡氏……は、飲んでいたら絡まれたのか。それを考えたら、怖くなったと言ってもいいですね。だって光岡氏、魔王様とタメを張れる迫力がありますからね。

 ただ藍香ちゃんのことは、自分から関わり合っていきましたよね。だからこれは、自業自得と言わせて貰います。


「自業自得と言ってくれますか。それでも、しばらく大人しくしていようかなと思っているんです。後はですね、家内と2人、横浜の家でのんびりしようかなと」


 4LDKのマンションでしたっけ。はっきり言って、部屋が足りないと思いますよ。間違いなく、女神様たち、ハイエルフたち……竜人もいたな。彼女たちが押しかけていきますからね。ああ、陽佳ちゃんも押しかけていくと思いますよ。オルティアさんもいたし……ほかにもいたような。

 それから藍香ちゃんは、俺が面倒見るので大丈夫です……ええっとセレス、聞いていたのか?



引退して温泉三昧……憧れます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。