上里集落の春
村の特産は異世界です
・上里集落の春
GW目前となって、上里集落にも遅い春が訪れてくれました。道に残っていた雪も、雪だまり以外は綺麗に消えてくれたんです。下界に比べればまだ気温は低いんですけどね。芽吹きの春、お花の春が訪れてくれました。
春、春と言えばお花見です。お花見と言えば、わかりますよね、そうです宴会が付きものなんです。と言うこともあって、IMO研究所では連日連夜大宴会が繰り広げられました。ただ花見に付きものの……と言うのか、主役の桜は咲いていません。まあ、指折りの豪雪地帯ですからね。遠くに見える桜……山桜なんですけど、それを眺めながら宴会が開かれました。
だぁれも花なんか見てないんだけどね
その辺りは、ほら、『花より団子』って言うじゃありませんか。いろんな理由を付けて、花見の宴会を繰り広げているんです。それにIMO研究所には、私を筆頭に綺麗どころが揃っていますからね……もしもし、そこでキョロキョロと首を動かさないように。とにかく、IMO研究所には綺麗どころが揃っているんです。その綺麗どころをを花に見立てれば、立派に花見が成立することになるんですよ。
「みんなぁ、今日はゲストとして安達マミちゃんが来てくれたぞぉっ。良いか、世界的大女優様が来てくれたんだ。お前ら、今日はキリキリと張り切っていくからなぁっ!」
相変わらずね朽木君。まあ、連日ともなるとテンションを保つのは難しいと思うわよ。それであのテンションを保つのって、ある意味特殊な才能だと思うのよ。
「それからもう一つ、これからの世界から女神プリムラさん、王女ステリナさんが来てくれたぞぉっ! ステリナさんの嫁ぎ先は決まっているが、プリムラさんは婚活を始めるのだそうだ。われと思う奴は、プリムラさんに挑んでみることをお勧めするっ!」
ステリナさんの嫁ぎ先は決まってるって……そりゃあ、諸星さんは王女様コレクターよ。でもね、もうちょっと女性的魅力を磨かないと難しいと思うのよ。ねえ、諸星さん……もしもし、発展途上なのが良いって。いくら何でも、見境と言う物が必要だと思うのよ。そうでしょ、セレスさん。
「我が君の思し召しに従うまでです」
随分と理解のあることを言ってくれるんだ……だったら藍香『ダメです』って、そっちは被せてくれるんだ。それって、第一夫人の座が脅かされるからってこと?
「私は、一途な女性の味方なんです。ですから、いつ立木様に強制力を働かせようかと考えているんですよ」
立木さんに強制力ね……なんかさぁ、その強制力が効かなさそうな気がするのよ。これって、私の気のせいなのかしら?
「小谷様もそう思われますか? 実はですね、私も似たようなことを感じているんです。だったら確かめてみれば良いんですけど、怖くて、ですね。確かめることが出来ないんです……ひっ!」
あっ今日は慶子さんもおいでになったんですね。なるほど、マミちゃんを見て見たかったんですね。わかります、マミちゃんは今をときめく大女優様ですからね。
ところでセレスさん、顔色が悪いのですけど大丈夫ですか? ちょっと向こうで休んでいる……そうですか、慶子さんが付き添ってくれるんですね。ええ、でしたらお任せして良いですか? 私はですね、これからどんぶり酒を楽しもうと思っているんですよ。
ああっ、助けを求めるセレスさんの視線が痛い。でもゼッタイシン様にも苦手があるんですね。不思議と言えば不思議と言って良いと思いますよ。それはそうと、今日のお酒は何にしましょうかね。ええっと大悟君、流石にお酒はまずいと思うよ。
「お世話になっているから、今日はお手伝いをしに来たんです。後はですね、安達マミさんとお話をしたいなあって……姉ちゃんがお世話になっているから、お礼を言いたいと思っているんです」
なるほど、藍香ちゃんの映画のことね。うん、いつの間にか映画に出ることになっていたのよね。でも藍香ちゃん、ものすごぉく後ろ向きだと思ったけど?
「立木おじさんに、『楽しみにしています』って言われたから。おじさんに言われると、姉ちゃん頑張っちゃうんだよ。なんかさぁ、最近応援しないといけないのかぁって思えるようになったんだ」
あれれ、大悟君って立木さんのことを警戒していたよね?
「いつのことを言っているんです。立木おじさんは、俺たち姉弟の恩人なんですよ。だっておじさん、俺たちを助けなくちゃいけない理由なんてないんです。それなのに、こんなに俺たちの面倒を見てくれるんですよ。これでおじさんが独身だったら、杏香と二人で全力で応援していたと思います」
独身だったら……ねぇ。ねえ大悟君、立木さんの女性関係って知ってるよね?
「はい、色々と。なんかもう、男として尊敬してしまうと言えば良いのか。神様とかハイエルフとか……ラノベの主人公を超えていると思うんです。その意味だと、諸星さんも凄いと思います」
そうかぁ、立木さんとか諸星さんを尊敬しているのね。だったら大悟君に忠告を一つしておくわね。そのことを、ハイエルフとか翼人に聞こえるように言わないこと。そう、理由は想像が付くと言ってくれるのね? つまり、もう誰かに目を付けられたってこと?
「その、モコさんが声を掛けてくれるんです」
なるほど、ハイエルフのモコさんね。うん、可愛らしい人だとは思うよ。確かあの集団では、若い方だったと思うし。見た目の年齢は……大悟君にちょうど良いぐらいかな? そうか、もう捕まっちゃったんだ。流石はハイエルフ、目聡いと言って良いのかな。それで、モコさんとは遊んでるの?
「春スキーで良いんですよね。スキーを教えて貰っています。今度、お礼に一緒に松本まで遊びに行こうって話をしているんですよ」
なるほど、順調に交際を始めているんだ。うんうん、お姉さんは反対しないよ。ところで、お小遣いは足りているのかな?
「立木おじさんが、頑張りなさいと言って沢山持たせてくれるんです」
そうか、立木さんがお小遣いを持たせてくれるんだ……ただ頑張りなさい、ねぇ。まだ中学生には早いと思うんだけどな。
「ええ、俺もそう思います。ただ、モコさんって可愛いんですよね……胸は小さいけど。だからデートをしていると、なんか嬉しいって言えば良いのか。頑張って勉強してくださいねって言われたら、もう、頑張るしか無いと思うんです」
そ、そうね、うん、頑張ってって言っておくわ。それで、天晴山をとってくれるかな?
「それでどんぶりを渡せば良いんですよね」
間違ってないけど……間違ってないけど、なんで大悟君が知ってるの?
「ええっと、陽佳さん……陽佳さんが教えてくれたんです。そう言えば陽佳さん、美人で格好良いですよね」
そうか、大悟君は陽佳ちゃんも好みなんだね。うんうん、趣味が良いって言ってあげるよ。
「それから、御衣黄さんが小谷さんを探していましたよ。今日は飲み明かすって、一升瓶を持っていきました」
御衣黄さんね……彼女も、色々と溜まっているからねぇ。仕方が無いなぁ、今日はとことん付き合ってあげましょうか。
「でも、御衣黄さんってもの凄い美人だし、とっても格好のいい人ですよね。もう、憧れてしまうんです」
そう、御衣黄さんに憧れるのね。それで大悟君に質問するけど、ほかに誰か格好良いと思う女性はいない?
「ほかに、ですか。だとしたら、オルティアさんも格好良いと思いますよ。お母さんぐらいの年齢だけど、綺麗だし颯爽としていますよね」
そうかぁ、オルティアさんを出してくれたかぁ。まあオルティアさん、世界的な学者さんだからね。格好良いと思うのも間違っていないと思うわよ。それで、ほかに誰か格好良いと思う人は居ないの?
「う~ん、だったらアスカさんかな。もの凄い美人だし、やっぱり学者さんなんですよね。あの人たちを見て、俺も学者さんになりたくなりました」
なるほど、アスカさんは学者で金髪美人だったわね。それで、ほかに素敵だなと思う人は居ないの?
「う~ん、集落の人ってみんな素敵だと思うんです。例えばエリザベスさんも美人だし、自衛隊から来ている人も綺麗ですよね」
ほうほう、ほかに思いつく人は? ほら、もっと身近な人は居ないのかな?
「身近じゃ無いですけど、春夏秋冬のみんなも素敵だと思っているんです」
まあ、あっちはアイドルだからねぇ。うん、それ以外は……御衣黄さん、引っ張らないでくれるかな。今ね、とっても大切な質問をしているんだから。
「大悟君を困らせないように。まだ嘘を吐けるほど、世間ずれをしていないんだからね」
べ、別に、嘘を吐かせようなんて考えていませんから。だぁかぁらぁ、引っ張らないでくれるかな。引っ張らなくても、ちゃんと歩けるからか……
だから御衣黄さん、悪いとは思ってるわよ。ついさぁ、私もムキになっちゃったから。でも良いわよね、あなたは『素敵』の中に入っていて。
「中学生に素敵と言われてもねぇ……」
言って貰えないよりは良いんじゃないのかな。
「今日は、花見宴会の千秋楽だぁっ! いいか、お前ら、心残りの無いよう騒いでくれっ!」
朽木君、本当にノリノリになってるわね。だけどさぁ、花見だったら花を愛でるものじゃないのかな。心残りの無いよう騒げって……この後に前夜祭が待ってるんだけど。
「前夜祭……前夜祭ね。前夜祭が、なんで1週間も続くのかしら?」
それはですね。前夜祭プラス一般公開記念祭典となったから、としか言い様がないのよ。もうね、大谷村の中林村長が悪乗りをしてくれたのよね。
「こう言うのって、もっと前から準備をするものよね?」
そうなんだけどさぁ……それでもやってしまうのがIMO研究所ってことかしら。最悪、諸星さんが『無かったこと』にしてくれるし。
「お陰で私と武見君まで、医療班に招集されたわよ」
それはご苦労様……でもさ、気晴らしには良いんじゃないの? でも、それも治験の一部になってるんだよね?
「そう、大規模災害に於ける医療整備対策……と言うことで、厚労省と交渉したんだって」
それも必要と言うのは確かなんだけどね。だけどさ、立木さんって仕事を増やしてくれるよね? と噂をすればなんとやら、立木さんたちがステージに上がったわよ。御衣黄さん、何か聞いてる?
「朽木君、伊豆の仕返しをしようとしてるんじゃないの? 多分だけど、返り討ちに遭うと思うけど」
ああ、あれね。だけどさ、今日はテレビカメラも入っているんだよ。さすがにさぁ、あれはモラルに厳しいと思うのよ。
「お前らお待ちかねの立木さんの登場だぁ。ただな、今日はテレビカメラも入っているんだからな。ラバウル小唄は禁止にさせて貰う」
ほら、先手を打ってきたわよ。それで立木さん、どうするつもりかな?
「同じネタを繰り返す真似はしませんよ。今日は楽しい宴会ですから、宴会に相応しい歌をご披露しようと思います」
ほほう、宴会に相応しい歌ね。あの年代だったら、何を歌ってくれるのかな?
「花見と言えば宴会、宴会と言えばお酒。冷凍マグロ芸で名高い小谷さんにこの歌を捧げよう。行くぞ、『日本全国酒飲み音頭ぉっ!』」
おい、どうしてそこで私を出してくれる。それから、どうしてそれだけで受けてくれるのよっ!
連日皆様お忙しい中、多数ご参加くださいましてまことにありがとうございます
まずは皆様方の健康とますますのご発展を願って乾杯いたしましょう 乾杯っ!
これって、あの歌のことかな。知ってるかもしれないけど、どうして私に捧げられるのかしら?
おたりさんは どんぶりで酒が飲めるぞ
酒が飲める飲めるぞ 酒が飲めるぞ
おたりさんのまぐろ芸で酒が飲めるぞ
酒が飲める飲めるぞ 酒が飲めるぞ
おいっ、どうしていきなり替え歌になってくれる。ほらそこ、私を指差して笑うんじゃ無いっ! 何も間違っていないってねぇ……そりゃあ、今でもどんぶりで飲んでるわよ。そうね、意外に面白かったわよ。ええ、意外にね。その辺り、流石は年の功って言っても良いと思うわよ。
でも、これだけじゃ無いみたいね。だったら次にいじられるのは諸星さんかな?
「次はポトマック5がバックバンドをしてくれます。伝説のバンド、サウザーの歌、勝手にロビンフッドだぁ!」
らららっらららっらららぁ~
うん、ノリの良い歌だね。少しだけ立木さんを見直したと思うわよ。でもねぇ、だったらさっきの歌はいらないと思うのよ、しかも諸星さんをいじってないし。こっちだけでいいと思うんだよね。
今何時、ちょっとまってて
まあ、有名な歌だもんね。うん、良いノリになっていると思うわよ。よくよく考えて見たら、これって立木さんが若い頃の歌なんだよね。懐メロなんだけど懐メロじゃ無いって、なんか不思議な気持ちがするわ。
「芸に限りのある年寄りは、これで退場させて貰います。次は、外務省のエリート集団、ポトマック5の演奏を楽しんでくださいっ!」
そう、あの人たちが演奏をするのね。でも、ちょっと意外。みんな楽器が弾けるんだ……それで演奏は? なるほど、ビートルズから入るのね。
でもさ、エリートで楽器もうまいって、ちょっと癪に障るわね。しかも、なんか格好良いし……で、次は、そう、クイーンなのね。ノリノリね、友池さんたち。流石は名曲、異世界の人たちにも受けが良いわね。
「流石は年の功。見事な演奏を聴かせて貰ったぞ。だがな、若手だって負けちゃぁいないんだ。いいか春夏秋冬、プロの凄さを見せてやれっ! 次は春夏秋冬の百花繚乱だぁっ!」
いつの間にステージ衣装に着替えてきたの? この衣装って、テレビなら良いけど……ここだと結構際どく見えるんだけど。いいの、こんなの流しちゃって。
咲き誇れ 色とりどりに 咲き乱れろ 百花繚乱~
いやあ、中々凄い物を見せて貰ったわ。でも、どうしてこの子たち売れていなかったんだろう。
「次は夢のコラボレーションの実現だぁっ。異世界の歌姫アイカと春夏秋冬の共演だぞっ!」
へぇ、この5人のコラボなんだ。中々凄いって言ってあげるんだけど……だけど、キャラクターが違ってない? えっ、藍香ちゃんもその格好をするの? いやぁ、似合ってるけどさぁ、良いのかしら? かなり際どいんだけど。
「この歌は、私が春夏秋冬に送った歌です。『トリコにしてみせる』宜しくっ!」
えっ、全くの新曲なの? しかも藍香ちゃんが作ったって……悪い予感しかしないんだけどなぁ。
こどもにみられてるのはしってる やさしくされてもうれしくない (こともない)
だけどみてほしいのは ほんとうのわたし こどもじゃないわたし
ほらぁ、やっぱりやばい歌だよ。藍香ちゃんだけが歌ってるわけじゃ無いけどさ。でも、春夏秋冬もがらりと雰囲気が変わってるんだよ。
でもわたしはわたし せのびをしてもにあわないのはわかってる
だからもっとじぶんをみせてあげる いまのわたしをみせてあげる
リズムが変わって、そう、ダンスもしっかりと入ってくれるんだ。いやさぁ、もの凄く良いんだよ、良いのは認めるんだよ。だけどここって、花見の大宴会ってのを忘れてない? 新曲のお披露目が、花見の大宴会って何か間違ってると思うんだ。
ええっと、ちゃんとカメラが入っている。これも、『今日の異世界に行こう!』で使うと言うのね。だったら良い……ですませていいのかしら。
でも藍香ちゃん、こんな曲も作れるんだね。なんかさぁ、春夏秋冬のグレードが上がった気がするのよ。
「盛り上がってるかぁ。次は安達マミちゃん主演映画の劇中歌だ。マミちゃん、アイカ、みんなを魅了してやれっ!」
映画の音楽をこんなところで使って良いの? そう、ちゃんと許可は取ってあるのね。これも、映画のプロモーションになる。ところで鴻池さん、いつの間にこちらに来たの?
「一昨日から居ましたけど、それがなにか?」
そう、一昨日から来てたんだ。それで、そちらの人はどなたなんですか?
「マミちゃんの主演する映画の監督ブラット・コルヴァ氏と音楽監督のジュリアン・モーリア氏です。是非花見宴会に参加したいと仰りましたので、こうして招待差し上げたと言うことです」
なるほどねぇ。でも、こんな宴会を見せて良かったんですか? なんです、感激していると言うのは。アイドル万歳って……いいの、それで。
それは良いんだけど、相変わらず藍香ちゃんの歌は凄いわね。その歌をバックに……マミちゃん、マミさんの姿を見るとゾクゾクとしてくるもの。それで、ジュリアンさん、残念と言うのはどう言うことですか?
「カノジョヲ、アメリカニツレテイケナイコト」
藍香ちゃんをアメリカに連れて行けない。彼女なら、今すぐ大スターになれると言うのね。だけど藍香ちゃん、ここを離れたいって言わないと思うんだ。そう、理由はわかっているのね。
「お前ら、酒を飲む手が止まっているぞ。どうだ、これがIMO研究所エンターテインメント部門の誇る春夏秋冬と歌姫アイカだ。ハイエルフども、まだまだ人間が凄いのを理解出来たかっ! それから待たせたな翼人たち。次はお前たちの出番だぞ。そう、IMO研究の名物求愛の歌って奴だ。諸星所長、立木副所長のご両人。遠慮しないでステージに上がってきてくれっ!」
遠慮って……遠慮じゃ無いよね。それで御衣黄さん、御衣黄さんはどこに行くのかな?
「ステージなんだけど?」
そう、御衣黄さんも参加するのね。だったら私も……この壁は何? なんで私だけ前に進めないの? 心の壁、○Tフィールドがなぜっ!
こぉいのきせつがやってきたぁ~ やってきたぁ~
これじゃあ、この中には入っていけないわね。それで、諸星さんを囲んで踊っているんだ。うんうん、マミちゃんとステリナさんも参加しているのね。それから妊婦さんたち、あまり羽目を外さないように。
それで立木さんの方には……なんか豪華になってない? 女神様が勢揃い……なんでパナメーラさんまで交じってるの? しかも御衣黄さん、藍香ちゃんも交じってるし。ところで、見覚えの無い女性がいるんだけど。そう、金髪をしたもの凄い美人。どうして、立木さんのところで踊っているの? もしかして、彼女も神様枠なのかしら?
「凄い絵、凄い絵なんですよ。だけどなぁ……だぁれもテレビに出てくれないんです」
鴻池さん、これを見てその感想を言ってくれますか? 羨むんじゃなくて、テレビに出て貰えないのを嘆くのって……間違いなく職業病だよね、それ。そう、鴻池さんなりの防波堤と言ってくれるのね。
ああっ、武見君たちもステージに上がってる。だったら、私が参戦しても構わないよね。また壁が……なんで?
後1つ寝ればGWと言う所で、IMO研究所の定例会見が開かれた。年中無休にして毎日がお祭りのIMO研究所だから、実はGWってあまり関係ないんだよね。ただ回りの季節が、暦に合ってきたと言って良いのかな。山岡さんたちのとってきた山菜が、春ってのを教えてくれるんだよ。
なんだポルテ、馴染みがありすぎて新鮮味が無いと言うのは。なるほど、あっちではこんなものばかりを食べていたと言うのだな。一番酷いときは土粥……悪い、それって食べ物なのか?
今回の定例会も、会場として大谷村と白鳥村を頼らせて貰いました。まだまだ増えると言う話があるから、別の場所も探さないといけないのかな?
なんか、今回海外からの参加が多くないか? ひょっとして、治験が絡んでいるのかな?
「本日は、お忙しい中お集まりいただきありがとうございます。新年度第1回目のIMO研究所定例会見をこれより開催いたします。最初に、研究所長諸星よりご挨拶させていただきます」
さあて、いよいよ新しい年の始まりだな。うん、昨年度は最後の最後に凄い発表をさせて貰ったんだ。だから、今年は堅実に行こうと思っているんだよ。それは良いのだけど、なんで皆さん妙なものを見る目をしているんだ?
「続きまして、エンターテインメント部門より朽木統括役員から報告させていただきます」
「エンターテインメント部門を統括している朽木だ。まず『今日の異世界に行こう!』だが、MC交代は無難に行われたと了解している。そしてこれはGW明けとなるが、お隣さんの韓国、台湾、中国から日本で言う小学生の見学が開始する。この招待は、外務省調整の元世界各国に展開されることになっている。ただ別件で外務省も忙しくなっていると聞いている。従って、間に合わない分は国内枠で埋めることも考えている」
別件、別件ねぇ……例の魔道具の治験って奴だよな。古巣に泣き付かれたから、友池さんたちまで駆り出されてしまったんだよ。ただし、これは別契約になっているんだよ。金額的にはたいしたことはないけど、それなりの収益になっているんだよなぁ。
「魔王城並びにパンの世界一般公開は、いよいよ明日から行われることになった。すでに一番乗りを目指した者たちが、ホテル前に集まっている。ただな、昼はまだしも夜は冷えるんだよ。従って、IMO研究所の翼人、ハイエルフが温かい飲み物を振る舞うことになっている。それからだ、並んでいる者が凍えないよう、魔法による暖房も実施する予定だ」
うん、みんなの健康が大切だからね。勿論、それだけで終わらせるつもりは無いんだよ。だってさ、異世界の一般公開だよ。前夜祭って、開くのが普通だと思うんだよ。
「ホテル前の特設ステージで、有名ミュージシャンを招いて前夜祭イベントを開催する。開始は『今日の異世界に行こう!』が終わってから、夜の10時までの予定だ。こちらは参加に制限を設けないので、ここに来ているマスコミの諸君もふるって参加してくれ!」
一応告知はしてあったんだよ。だから、すでに大勢ホテル前に集まっていたりするんだ。だからこっちの方は、753課と鴻池さんが仕切ってくれているんだ。
「次に所属タレントについてだが、前回報告から1名追加となった。アイカと言えば理解出来るだろう。安達マミ主演の「恋に落ちて」に、劇中歌並びに劇中シーンに歌い手として出演することになった。それから小劇場ではあるが、春夏秋冬が全国ツアーを行う。ちなみにこれは、『今日の異世界に行こう!』のコーナーの一つにもなっている。うむ、翼人、ハイエルフを連れての各地訪問を兼ねてのものだ」
まぁったく売れていなかった春夏秋冬だったんだけど、『今日の異世界に行こう!』出演をきっかけに売れ始めたんだよな。これで彼女たちも、真っ当なアイドル活動が出来るわけだ。
それで次は、研究部門の……その前に質問を受け付けるんだな。まあ、今回は研究部門は大人しいから良いのかな?
「アイカ……彼女について、良くない噂が出回っているのをご存じでしょうか?」
「良くない噂、か。何のことか知らないが、そんなものは有名税だろう。いちいち気にしていても仕方がないと思っている」
噂ねぇ、朽木君は白を切ってるけど、立木さんとの出会い前のことをいっていると思うんだ。だって、こんなものは簡単に調べが付くからね。
「それなのですが、一番酷い噂が両親が亡くなられた後生活に困窮し、身体を売って生活をしていたと言うものです。一部のSNSで拡散しているのですが、法的措置をお考えでしょうか?」
それを持ち出してくれたか……うん、俺が手を打とうかって提案したんだよ。提案したら、まだ泳がせておけと言われたんだ。どこかの週刊誌が書き立ててきたら、纏めて潰そうって話になったんだよ。
「今のところ、その予定はないと答えておく。ただ一つだけ忠告させて貰う。それはだな、IMO研究所を甘く見てると痛い目に遭うと言うことだ。大勢居るからばれないとか、ログを消したから逃げ切れるとか、大した罪にならないとか……俺たち相手に甘いと言わせて貰う。それはここに来ているマスコミ諸氏も例外では無いからな。プロバイダの開示請求などと言う、まだるっこしいことをするつもりは無いのだ」
おっ、朽木君……言い切ってくれたね。うんうん、攻撃されても怖くないからね。どんどんやってくれて構わないよ。
「その中には、立木さんと愛人契約を結んでいると言うのもありましたが?」
愛人契約ねぇ……藍香ちゃん、喜んで結んでくれると思うよ。ただ、立木さんが絶対に断ると思うけど。
「面白い冗談と言ってやる。彼女の歌を聴いて……直撃を受けたと言った方が相応しいな。直撃を受けて、IMO研究所の男どもが彼女に恋をしちまったんだ。立木氏と愛人契約だぁ? IMO研究所男性全員が、そんな暴挙を許すと思っているのか?」
これ、少しも大げさじゃ無いんだよな。本気で研究所の男たち……友池さんたちまで恋に落ちちゃったんだよ。だから、立木さんの独占が許されるはずが無いんだよ。
「しかし、お前らはつまらない質問しかしないのだな。ただまあ、巷で溢れる怪文書を否定する役には立ったのだろう。これ以上質問を受ける意味が認められないので、研究部門に席を譲ることにする」
「朽木君……もう少し言葉を選んで欲しいと言うのは贅沢ですかね?」
「言葉を選ぶと、理解出来ないウマシカが大勢居るんだよ。まあ、はっきり言っても理解出来ないウマシカが居るんだが……それから、ここに来ている方たちは違うと俺は信じているぞ」
最後はヨイショかな。それで、次は研究部門……今回は、立木さんじゃ無いんだな。オルティアさん、大丈夫なのかな?
「私から報告させていただきます」
やっぱり、1年近く居ると日本語も達者になるんだな。なるほど、立木さんとちゃんと話をするためなんだな。
「治療用に制作された魔道具を利用し、高次空間理論の検証を進めている。先月御衣黄研究主任の発表したMS器官について、多次元構造を持つことが検証により判明した。そしてその検証を目的とした、魔力制御にも成功している。加える魔力を制御することで、高次元構造の3次元平面に対する投影が制御できることが検証された。これにより、魔力そのものが高次元現象であり、我々が観測しているのは3次元に投影されたものと言うのが判明した」
う~ん、さっぱりわからん。だから立木さんも、説明係にならなかったのかな?
「魔法と言うのは、結果を想像して魔力に命令を与える……これまで常識とされてきた魔法に対する概念がある。そこで、なぜ命令を与えると魔力が形を変えるのかと言う疑問に突き当たった。そこで魔力が、何らかのマシン的存在ではないかと仮説を立てた。高エネルギーを保有したナノマシン……単位としては、さらに微少な物になるのかもしれない。そのマシンに対して命令を与えることが、魔法と呼ばれる現象では無いかと考えている。ただこれは、さらなる考察と検証が必要と考えている」
これ、初めて聞かされたときには驚いたよ。ただ立木さんが驚いていなかったところを見ると、先に教えられていたのかな? ベッドの中でとか。
そんなことをされたら立たなくなる……ごもっとも、ごもっともだと思います。素数を数えるのよりも効果的だと思いますです。
「MS器官……これも、構造的なものと言うのが研究によりわかってきた。従って、内部ではMR器官と呼称を変えている。Magic Resonance器官、従ってMR器官だ。MR器官が魔力を共鳴により制御していると言うのが現時点での仮説になっている」
あのさぁ、定例報告で話すには高度過ぎないかな。ここに来ている人で、どれだけ着いていけるんだろう? 俺、俺にとっては風の音ぐらいかな。うん、意味のある言葉として入ってこないんだ。
「これが、ごく最近……2週間程度で達した研究成果になる。それから、魔道具を用いた治験に関しては立木副所長から報告を行う」
質問って声が出てこない。やっぱり、ここのレベルじゃ質問することはできないか。だからさぁ、発表は立木さんがするべきだったんだよ。オルティアさんが事務的に説明をしたら、誰も質問なんか出来ないと思うんだよ。
「魔道具を用いた治験ですが、用意した100セットの魔道具の行き先は決定しています。現在1ターンの最中と言うのが進捗状況となります。慎重に対象を選定し、魔法による効果がどの程度認められるのか。その検証が終わったものから、魔道具を用いた治験に入っています。前回の質問にもありました、安全性をどこまで担保できるのか、それに関わっているとご理解ください」
本当は、もっと大きな動きがあるんだけどね。ただ、まだ発表には時期尚早って話になっているんだ。あとはだけど、面倒なことを言っている奴らがいるのもわかってる。
「どのような治験が行われているのか。少しだけ紹介させていただきます」
そこで、映像を表示。うん、カッパ……つまり、頭頂部がはげ上がったおじさんの絵が出てくれた。これって、結構センセーショナルな話だと思うんだ。
「頭頂部の無毛地帯……これは老化が原因なのですが。魔道具を用いて、細胞の若返り実験を行いました。実は、似たような研究が幹細胞を用いて行われています。それより、少しだけ先行したのではと思っています。ええ、ハゲを直してみたと言うことです」
それで、治験後の映像が提示された。まだ時間が経っていないからだけど、坊主刈りぐらいの長さで髪の毛が生えているんだ。
そうか、やっぱり反響が凄いのか。まあね、ハゲが直るんだからインパクトが大きいよな。
「脱毛に悩む方々にとって、福音がもたらされたと思って良いのでしょうか!」
その質問をした人。うん、しっかりM字ハゲになっているね。
「その可能性を否定するものではありません。ただし、まだ治験段階であり、承認された治療方法でないことをご理解ください」
「承認に向けてのタイムスケジュールはどのようになっているのでしょうか?」
おっ、食い下がるね。まあ、まだ若そうな人だから、藁にも縋る思いってのは理解出来るよ。
「魔道具を用いた治療に関しては、まだ厚生労働省での承認方法が確定していません。そして治療として認められた場合は、魔道具自体が有償提供となります。その手続きもまた、進んでいないのが実態となっています」
「手を挙げたら、治験に参加できるのでしょうか?」
なんか、質問が個人的なものになってきたな。うん、気持ちは理解出来るよ。
「治験を行っている機関にお問い合わせくださいとしか申し上げようがありません。IMO研究所では、治験を行っていないんです」
悪いけど、そう言うことなんだよね。まだ何か言いたそうだけど、これ以上は本当に個人の問題になっちゃんだよ。
それで立木さんが質問を打ち切って……最後は、例の発表をするんだね。そう、先日あった陽佳ちゃん召喚事件。IMO研究所だけで閉じているけど、発表しないわけにはいかないと思うんだ。
あれっ、外国の人だよね。どうしても質問したいことがあるって言ってくれたぞ。ちょっと、きな臭くなってきたかな?
「EU内部で、IMO研究所のあり方に対する議論が行われているのをご存じでしょうか?」
「政府が何か困っている。ぐらいのレベルなら聞いていますよ?」
ええっと、そんな話が? その話、俺には伝わってきていないんだがな。
「異世界の技術は、人類で共有されるべき物と一部で主張されています。そしてその技術を独占するのは、人類に対する大きな罪であると主張されているそうです。速やかに技術の公開……これは、研究者に対して技術の公開を示しているようです。また研究資産の共有も議論されているそうです。それを行わない場合、EUとして制裁措置を執ると言う主張があると言うものです」
「情報提供に感謝いたします。なるほど、そのような巫山戯たお話がされているのですね。ただ賢明なるEUの方々が、そのような巫山戯たことを真剣に議論されているとは考えにくいですね。まともに受け取る必要も無い話なのですが、一応コメントさせていただきます。IMO研究所と言う組織は、日本国内に閉じているのです。従って、IMO研究所に対する制裁を行うことが出来ないと思いますよ」
確かに、日本国内に閉じているんだよな。つまり、EUに制裁されても怖くないと言うことかな? ええっと、そんなに簡単な話じゃ無いと言うのですね。そうですか、それぐらいのことは立木さんもわかっていて言っていると。
「確かに、IMO研究所は日本に閉じた組織です。その意味で言えば、立木副所長が仰るとおりEUの制裁に意味があるとは思えません。ただ、面倒なことと言うのはご理解されていると思いますが?」
「確かに、EUは無駄に国が多いですからね。票と言う意味であれば、仰るとおり面倒と言うのは認めますよ。それにしたところで、良識ある皆さんが暴挙に及ぶことはないと思いますよ」
「ちなみに、制裁として日本企業に対して不利益を与えることも考慮されているようです」
ち、ちょっと待て。なんで、関係の無い日本企業がそこに出てくるんだ? なんです友池さん、ここは立木さんに任せておくんですか? 必要な武器は渡してあるんですか? つまり、この動きは予想されていたと言うのですね。
「なるほど、でしたらもう少し与太話に付き合わせていただきますかね。今のお話ですが、それをするとEUは法治主義を捨て去ることになります。人質をとって、身代金を要求するようなものですからね。それを考えれば、真っ当な国際組織が考えることでは無いでしょう。ですので、与太話とお答えさせていただきました」
あくまで、与太話であって本気にするものじゃ無いと言ってくれるんですね。なるほど、逃げ道を用意してあげているんですね。でも、本気で来られたら結構困るんじゃありませんか?
「予めお断りしておきますが、IMO研究所は日本に所属する遵法組織なのです。従って、日本国憲法及び関連法を遵守することを宣言いたします。ちなみに現在の法解釈では、自衛のための戦いは許容される方向となっています。賢明なるEU諸国の方々は、事を荒立てることの不利益を理解出来ると思いますよ」
ああっ、周りくどい言い方をしてくれてるよ。この辺りは、友池さんたちとの共同作業ですか? 違う、ただ立木さんの性格が悪いだけ……いいんですか、そんなことを言って。
「自衛と仰りましたが、具体的にどのような方法を考えられておいでですか?」
「嫌ですね、日本人と言うのは泥縄が身についた国民なんですよ。噂話程度で、過激な検討など始めませんよ」
「過激では無い検討ならあるのですか?」
言葉尻をとられてくれたな。ひょっとして、この質問って仕込みですか? さあ、さあと言ってくれますか。
「過激では無い手段……ですか? 直接的に動くと、過激になって仕方が無いんです。例えばですけど、エリシオンさんがドイツ辺りで停止の魔法を発動させるとかですね。竜人、実は数が増えて30ほど居るんですけどね。彼等がドラゴン形態でリアル怪獣映画をするとか。暴発しないよう管理している危険物がIMO研究所には沢山あるんです。IMO研究所を解体したら……いえ、するつもりはありませんよ。結果が恐ろしくて解体できませんからね」
これって、間違いなく脅しを掛けてるよね。
「ですので過激では無い手段……そうですね、間もなく開始される無料招待があるんですけど。その無料招待からEU諸国を外すと言うのはどうでしょう。それに加えてですね、治療用魔道具……実は追加の製造に入っているんですよ。これをEUには提供しないと言うのはどう思われます?」
これ、これをすると国民レベルから大ブーイングが起きることになると思うよ。
「異世界に関する技術、登場人物が危険である。私たちはそう思っていないのですが、国連はそのように判断されているかと承知しています。なぜなら、竜人たちの保護観察、そして女神パナメーラの保護観察依頼をIMO研究所が受けているんです。技術を寄越せと言うのなら、せめてリスクの一つでもとっていただきたいと思うんですよ」
ああっ、立木さんがネチネチ言ってくれてるよ。
「なにか、婉曲的に喧嘩を売っているように聞こえるのですが。それは、私の気のせいでしょうか?」
「喧嘩を売る……滅相もないとお答えいたします。そうですね、与太話にお付き合いした程度とお考えください。IMO研究所は、人類の発展に寄与することを目的としているんです。そして異世界と言うものと、この世界との垣根を取り払うことも目的としているんですよ。ですので、魔王城、パンの世界、おかしの世界を一部とは言え無料公開しているんです。ただですね、何でも無料と言うのは我々も立ちゆかなくなってしまうんです。従って、お金を出せるところに対しては、正当な対価を要求しているだけのことですよ」
これは、あれかな。研究者に対して結構な金を取ってる奴かな。あれって、高すぎるって苦情が出ていないと思うんだ。
「海外特派員の方もおいでのようですから、一つ教えていただきたいことがあるんです。いえ、ご存じでしたら程度の話ですよ。日本、もう少し言うのなら、IMO研究所以外で魔法、異世界の研究をされている機関はあるのでしょうか? いえね、IMO研究所にはアメリカ出身の若者が4名いるんです。そして娘と一緒に拉致された男女は、アメリカとフランスに帰国しているんです。そう言えば、結構前の記者会見で、おかしなのが交じっていましたね。少なくとも、IMO研究所以外でも研究を行う下地があると思うんですよね。研究成果を出せ……それならば、ギブアンドテイクを持ちかけてくれてもいいと思うんですよ。まさか、自分の所は公開したくない……なんて身勝手な話ではありませんよね。いかが思われますか?」
ところで友池さん、立木さんって『武器』を使っていませんよね。なんです、もっと嫌らしいことを言っていると言うのは。
「まあ、色々と与太話をいたしましたが、IMO研究所は成果の公開を行っていると言うことです。今日の定例会見では、オルティア氏が高次空間現象に対する発見を報告いたしました。前回、及び今回で魔道具に関する治験の報告を行っています。ちなみに治験は、IMO研究所外で行われているものです。そしてMS器官、今はMR器官と言った方が良いのですかね。その器官、及び魔力と細胞寿命に関する発見もこちらで公開しているんです。もっと欲しいと言うのは勝手ですけど、その分何か貢献してくれますかと言うのが私たちからの問いかけになります」
「繰り返しますが、ギブアンドテイク……と言うことでしょうか?」
「もう少し汗を掻いてはいかがですか、と言う程度ですよ。そもそも、私たちは余所で魔法研究をしていることを耳にしていないんです。ですので、研究成果を欲しいと言われても、ですね。いったい、どちらに提供したら良いんでしょうか。従って、製品化したものを買ってくれとしかお答えしようが無いんです」
そうですか、これで第1ラウンドは乗り切ったのですね。ただ、相手は諦めはしないと言ってくれますか。そりゃあ、莫大な利益が見えていますもんね。しかも俺たちが魔法でしていることって、軍事バランスだって崩しかねませんしね。
だから陰に日向に圧力を掛けてくれるのですか。だとしたら友池さん、どうやって乗り切ったら良いんですか?
「普通はですね、味方作りをするものなんですよ。その考えの下、私たちが動いて武器を作ったんです。作ったんですよ」
なんです、その歯に物が挟まったような言い方は。
「立木さん、もの凄くたちの悪いことを考えているんですよ。どう言うことかと言うと、すべてを白日の下に晒してしまおうと言うことです。政治家を目指していた……片足を突っ込まれた諸星さんなら、『寝技』とか『根回し』と言えばご理解いただけると思いますよ。立木さんは、その寝技を使えないようにされていると言うことです」
それはなんです? 公明正大にやろうと言うことですか?
「交渉する側からすると、最悪の状況と言うことです。勿論、すべてを馬鹿正直に明かすことはないと思いますよ。ただ、やり方を間違えたら晒されてしまう……条件闘争一つとっても、今まで以上に慎重に運ばないといけなくなったと言うことです。困ったなぁ、古巣には荷が重すぎると思うんですよ」
そんなに難しいことなんですね。だとしたら、立木さんは随分大胆な真似をされていることになりますよね。どうして、そこまで大胆になれるんですかね?
「恐らく……これは、私の想像なのですけどね。立木さんは、諸星さんに全幅の信頼を寄せられているから、だと思いますよ」
それって、俺の能力を信頼していると言うことですか? 違う、能力は当てにしているが、信頼しているのは俺自身に対してなんですか?
い、いや、今回の話でも、全くついて行けていないんですけど。
「諸星さんが、必ず正しい判断をしてくれる。そのための道を開く。そこで自分を出せないのが口惜しいところがあるのですが、IMO研究所に集った年寄りとしての務めだと思っているんです」
そんなことを言われても……そこまで大した物じゃないと思っているんですよ。
「ここまでIMO研究所が破綻しないで運営できてきた。余所が成功していないのは、諸星さん、あなたのような存在がいなかったのが理由だと思っているんです」
やはり、俺にはピンとこない話だと思います。
それは良いんですけど、これからの世界の話が出ませんでしたよね。端折っちゃったけど良いんですかね。そうですか、今更新しい世界が加わっても誰も驚かない。そんなことで良いのかと、言っちゃいけませんかね。いえ、俺が目指した世界に近いのは間違っていないんですよ。
日本全国酒飲み音頭……テーマソングだったりします




