↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
84/111

捨てられた世界のこと

村の特産は異世界です


・捨てられた世界のこと


 私、私は誰、ですか? よくぞ聞いてくださいました。良いですか、頭を垂れて私の言葉を聞くのです。私こそは、この世界を教え導く女神なのです。名前を知りたい……ですか。宜しいでしょう、私の名前をお教えいたします。よいですか。女神プリムラと言うのが私の名前なのです。

 面を上げ、私の姿を直接見ることを許して差し上げましょう。黒髪とそそる体……女神を性的に見るのは不遜なことなのですよ。それになんです、どこかで見た覚えがあると言うのは。もしかして、私の前任者のことをご存じなのですか? はい、魔王を封じるためにその身を捧げたフローリアン様のことを言っています。

 なるほど、フローリアン様のことを言っているのですね。はい、貴い犠牲だと思っています。ですので、私はフローリアン様の残されたこの世界、この世界を健やかに発展させていくことを考えているのです。


 はい、私は女神なのです。ですから、世界のために尽くすのは当然のことなのですよ………………



 ……………………



 なんて殊勝なこと。本気で考えていると思うのですか? ババを押しつけられたのですババを。上を恨んでもおかしくないと思いませんか? 私をここに送り込んだのは……そう、金色の髪をした女神様……すみません、女神などと言う下っ端じゃ無いんですね。神様が女性形態をとったもの。

 その、誠に言いにくいのですけど。その、女性形態をとったのなら、女神と言っていいと思うんですよ。はい、私とは違うと仰るのですね。そのですね、お父様に言いつけても宜しいでしょうか? お姉様が私に意地悪をすると……なぜ姉と言うことを知っている、ですか。逆に、どうして知らないと思っているんですか? お姉様、結構ポンコツだったりしますか?


「なるほど、この世界を教え導くことに不満があるのですね?」


 はい、そう聞こえませんでしたか? なるほど、世界を教え導くのはかなり高位の仕事と言ってくださるのですね。それでは反論させていただきますけど、それは『世界による』と言って良いと思います。もっと健やかに発展した世界があるのを知っているんですよ。それを考えたら、この世界を教え導くのは『罰ゲーム』ですよね。ひょっとして、母が私を産んだのが気に入らないのですか? 違いますね、母がお父様の寵愛を受けたのが気に入らないのですね。ひょっとして、お姉様は『ファザコン』と言うものなのですか?

 そうですか、私の希望を聞いてくださるのですね。それで、私の新しい配属先はどちらなのでしょうか……トイレ、田舎のくみ取りトイレ……一つ伺いますが、それはお父様のいらっしゃる世界のものですか? 違う、そちらを希望するのなら、廃棄されたぼっとんトイレになると言うのですね。田舎の駅トイレ……それって、最悪じゃありませんかっ!



 お父様、フィーナ姉様が虐めるんですっ!



 はい、わかってくださいましたか。お互い譲歩が必要……それは条件によると申し上げさせていただきます。私にだって、譲れないものがあるんです。この世界って、食べ物が思いっきりまずいんですよね。お姉様って、お父様にグルメ三昧に連れて行って貰ってますよね? いえ、私も連れて行けとまでは言いませんよ。でもですね、もう少し衣食住の環境整備を手伝って欲しいんですよ。

 はい、それが女神の仕事と言うのは理解していますよ。でもですよ、それを整備するのにどれだけ時間が掛かるのでしょう。支援ぐらいしてくれても良いと思うんです。

 そうですか、支援を考えてくださるのですね。取りあえず、支援物資の現物支給をしてくださるのだと。でしたら、しばらく我慢などしてみることにいたします。それで、どんな支援物資を送ってくださるのですか?


 レトルトカレーとカップ麺……ですか。そのですね、これって後に繋がりませんよね。こんなもの、この世界の住人の参考にならないと思うんです。だったら引き上げる……いえ、これは私の個人用に頂いておくことにいたします。できれば、箱で用意して頂けないでしょうか。

 ですので、引き続き支援の程お願いいたします。ええ、お父様には言いつけませんので。


 ちっ、自分の立場が上だと思って。これって、間違いなく『親ガチャ』ですよね。つまり私は、『親ガチャ』に負けたと言うことになるんですよね。だとしたら、ですね。別のお姉様に手伝って貰うことにいたしましょう。はい、手段を選んではいられないと思うんです。




 以前アルバイトを始めると言いましたよね。はい立木陽佳は、居酒屋さんでアルバイトを始めることにしました。ここまで言えば、どのお店かわかりますよね。お父さんがよく行く、おでん屋さんと言うのが私が選んだお店です……すみませんご主人、無理を言ってしまいました。

 可愛い娘はいつでも歓迎……ただ相手が酔っ払いだから気をつけて欲しいと言うのですね。その、酔っ払いだったら小谷さんで慣れていると言うのは言ってはいけませんか。


 小谷さんを知らない。そのですね、諸星さんの秘書をされている女性のことです。その小谷さんなんですけど、宴会の度にどんぶりでお酒を呷ってくれるんです。それでですね、最後は冷凍マグロになってくれるんです。冷凍マグロとは何か、ですか。

 あの冷凍マグロですよサクじゃなくて、まるままの奴のことです。そうです、宴会場の片隅で泥酔して寝転がっているんですよ。しかも冷凍マグロにになる前に、周りの人を巻き込もうとしてくれるんです。お酒を楽しむのって、どんぶりで飲むものじゃ無いですよね。


 それでですね、アルバイトを始めて仕事が大変と言うのを思い知らされました。ただ私が可愛いからですか、おかしな絡み方はされていませんよ。後ですね、お尻を触られたりもしていません。ご主人が仰るには、年齢層が少し若返ったと言うことです。後は、列に並ぶ外国の方も増えたらしいんです。

 それって、私目当てのお客さんが増えたってことですよね。うん、やっぱり可愛いは正義と言うことよね。


 はい、ハート島の生を2つですね。それからキモ焼きのハーフを一つ。少しお時間が掛かりますが宜しいですか?

 ポテサラに串カツですね。お酒……風の森ですね。


 と言う形で、注文をとっていたりします。そして出来たお料理を運んでから、にっこりと微笑んで見せたりします。ほら、スマイル0円とか言いますよね。少しでもお客さんに喜んで貰えるのなら、スマイルぐらいお安いものですよ。だって、原価も0円なんですからね。それに笑顔の綺麗な女性って、素敵だと思いませんか?

 ちなみにですね、そのお店には大学の先生たちも沢山来てくれます。一応言っておきますけど、私が目当てと言うことじゃありませんからね。藤原先生もそうですけど、もともと先生たちのたまり場にもなっていたんです。


「立木さん。お父さんに『お手柔らかに』と頼んでおいてください」

「立木さん。お父さんに、パンの世界、おかしの世界に行きたいと言っていたと伝えてくれませんか?」

「立木さん。オルティアさんにお越し頂くようお伝え願えますか?」

 …………


 あのぉ、私はお父さんへの繋ぎ役じゃ無いんです。そう言ったことは、藤原先生にお願いした方がいいと思うんです。藤原先生にも言っている……ただ競争が激しいので私にも言った……ですか。あのぉ、私は居酒屋さんでアルバイトをしているんですよ。軽口程度ならお付き合いできますけど、陳情窓口じゃ無いんですからねっ。

 大学の先生には困ったものですけど、外国のお客さんにも困っていたりするんです。はい、とっても熱い眼差しを向けてくれるんですよ。それに、結構格好いい人もいたりしますから。でもですね、私だってバカじゃないんです……いえ、賢いと言うつもりも無いんですけど。勘違いしたいんですけど、勘違いできない自分が悲しかったりします。もっと言うとですね、目当てがIMO研究所だとわかってしまうんですよね。その辺りの事情は、先生たちと同じと言うことです。私はですね、お父さんと違って出会いがバグっていたりしませんからね。


 ちょっとお店の選択を失敗したかなと思っています。でもですよ、お父さんの立ち回り先がわからないんです。お父さんがお店に来て、油断したところで後ろから脅かしてあげる。そう、びっくりさせると言うのはこのことなんです。

 そのためには、お父さんが顔を出しそうなお店じゃ無いといけないんです。と言うことでですね、藤原先生協力して貰えますか?


「協力するのは吝かではないのですけどね。ただ陽佳さん、自分が人目を引くと言うことを意識された方が良いと思いますよ」


 私が人目を引く……のですか? それって、私が可愛いからと言うことでしょうか? ワクワク


「比較的答えやすい問いかけをありがとうございます。陽佳さんは誰もが認める美人なんですよ。それだけじゃ無いんですけど、実はお店を変えても事情は変わらないんです。何しろ大学の連絡網で、陽佳さんのアルバイト先が回ってくるんです。お父様へのお願い以外にも、結構な数でファンがいたりしますからね」


 お店の選択を失敗した訳じゃ無い、どこで働いても同じと言うことですか。だとしたら、外国の方も同じ事情になる訳ですね。ねえご主人、私ってご迷惑をおかけしていませんか? そうですか、むしろ売り上げに貢献して貰っていると仰ってくださるのですね。でしたら、もう少し働かせていただきますのでお願いいたします。


 それでですね、このアルバイトのことなんですけど。たまぁにエリシオンさんも手伝ってくれるんです。はい、手伝ってくれるんですよ。邪魔とかではありませんからね。器を壊さないか、ですか? エリシオンさんが魔法を使えるのを忘れていませんか? 手を滑らせても、極端なことを言えば落として割れても、魔法を使えばあら不思議。元通りになって戻ってくるんです……戻ってくるのは良いんですけど、土間に落とした料理をお客さんに出さないようにね。もしもし、テーブルだったら良いと言うわけじゃありませんからね。3秒ルール……それは家庭内でのみ成立するルールなんです。

 でもエリシオンさんまでアルバイトすると、秘密を守るのは難しくなると思いますよね。その辺りはですね、お母さんの指令で全員が結託しているんです。かすみ姉さんも共犯になっているので……武見さんも共犯でした。だから、今のところ知られていないはずと言うことになります。


「大丈夫よ。お父さん、普段は『空気』を読んでくれるから」


 と言うのがお母さんの言葉。つまり、敢えて『空気』を読まないことがあるんだよね。私がアルバイトをすることって、その例外にあてはまったりしないのかな? そう、娘のことは信用してくれてるのね。お姉さんの時も、アルバイトのことを知ったのはお母さん経由だったんだ。

 そうなると、残る問題はマスコミと言うことね。だとしたら、そっちの方も手を打っておかないとダメと言うことか。だったら……鴻池さんにお願いするのが良いのかな。武見さんから朽木さんに言って貰えば、鴻池さんに話が通じるよね。


「ドッキリの映像を提供して貰えますか?」


 それを約束すれば、協力して貰えると言うのですね。はい、了解しました。お店にカメラを仕掛けるのですね。ご主人、許可を貰っていいですか? ほかのお客さんの顔を映さないこと……それぐらいは承知していますよ。お父さんが来たとき、外で開店を待っているときにですね、カメラのスイッチを入れれば良いんですから。


 と言う根回しをして、立木陽佳はアルバイトを続けていたりします。それでですね、お店で驚かせることだけがドッキリじゃ無いんですよ。アルバイトで貰ったお金で、お父さんにプレゼントなんか考えています。




 春になると、ちょくちょく奈良をぶらついてくれる。はい、お父さんの行動パターンのことを言っています。ちなみに今の情報は、お母さんから貰ったものです。以前のお勤めの時には、纏まった休みが取れるGWを利用していたそうです。でも今は、休みは自由にとっていたりするんです。と言うのか、日曜日も研究所に出ていたりしますからね。だから『気が向いたら休む』と言うのが、お父さんも含めたIMO研究所の勤務体系になっていたりします。

 それでお父さん、桜が終わったぐらいに奈良に遊びに来てくれました。お昼に私の家に顔を出して、一緒に法隆寺近くの塩ラーメン屋さんでお昼を食べました。ちなみにこの移動、空間転移なんか使っていたりします。今更驚く魔法じゃ無いんだけど、お父さん、ちょっと異常と言わせて貰います。だってお父さん、転移の恩恵を使ったわけじゃ無いんですよ。アン母さんが作った魔道具、うん、ループタイのアクセサリー部分なんだけど、その魔道具を使って自力で空間転移をしてくれたんです。

 このことを知っているのは? そっか、諸星さんには教えてあるのね。それ以外は、慶子母さん、シア母さんは知っているんだ。で、肝心の武見さんには? 教えていない。今は、新しい情報を入れないようにしている。どうしてって聞いても良いよね?


「彼等の研究を邪魔しないため……と言うのが答えになりますね。以前宿題を渡そうとしたら、勘弁して欲しいと泣き付かれたのが理由ですよ」


 なるほどねぇ。アン母さんの魔道具で『空間転移』が出来たりしたら、また余計なことで頭を悩ませた入りしそうだものね。うん、教えてない理由は理解出来たわ。

 それから塩ラーメンご馳走様。とっても美味しくいただけました。


 塩ラーメンを食べてから、法隆寺近くの甘味屋さんで甘いもの……私はあんみつを頂きました。そしてお父さんは、コーヒーだけ……もうちょっと食べてもいいと思うんだけどなぁ。4時にお店が開くから、ちょっと食べるのを控えているのね。うん、了解。大丈夫よ、夕食は一人で済ませることが出来るから。

 それで今日のホテルは、猿沢の池近くの旅館なのね。夕食を抜けて、大浴場を備えている。なるほど、奈良市内に来ても大浴場を選んでくれるんだ。その辺り、やっぱりお父さんと言う所だね。


 チェックインするからと、3時前に奈良駅でサヨウナラ。さあ、これからが勝負所よ。家に帰らず、そのままお店へ直行。うん、着替えは事前にお店に用意しておいたんだ。人目を忍んでお店に入って、着替えをしたら開店準備。普段ならお外の掃除もするんだけど、今日はお店の中でお皿の準備をしています。

 うん、今日も表には人が並んでいるのね。お父さん、ここに来て並び負けをしたら恥ずかしいよ。そっか、4番目には並んでいるんだ。だったらご主人、手はず通り宜しくお願いします。

 それでカメラの準備はどうかしら? うん、バッチリ取れてるわね。音も、ちゃんと隠しマイクが生きてるのを確認。後は、お父さんを調理場に一番近い席に案内すれば仕掛けは完了することになります。うん、なんかドキドキしてきたな。


 時間となったところで、ご主人がのれんを掛けてお客さんを中に誘導。手はず通り、お父さんを一番調理場に近いところに案内してくれました。ただ少しだけ誤算があったのは、なぜか大学の先生が紛れ込んでいたのよね。一応口止めはしてあるけど、不自然な態度をとっていたりしないよね。うん、勝負は早めに付けた方が良いみたい。

 と言うことで、こっそりと後ろから近付いて注文をとることにします。ありがとうご主人、ちゃんとお父さんの注意を逸らしてくれたのね。


 いらっしゃいませ。お飲み物は何になさいますか?


 いけないなぁ、つい顔がにやけてしまう。声を掛けたときのお父さん、まさかと言う顔をしてくれたんです。うん、これでドッキリが成功したんです。もうね、皆さん協力ありがとうございます。


「じゃあ、ハート島のビールをお願いします」


 ふうっと息を吐いてから注文してくれました。うん、お父さんは演技なんかしていないね。それでご主人とハイタッチをしてから奥に入りました。実は、今日はシフトを入れてなかったんだ。だから着替えをしてから、お父さんの隣に陣取りました。はい、そのために、隣の席を空けて貰ったんだよね。

 そして私も、お父さんと同じハート島のビールを頂きました。戸籍年齢は22なんだから、お酒を飲んでも問題は無いのです。お父さん、こう言ったお店でお姉さんと二人で飲んだことが無いって言ってたんだ。だからこれも、お父さんへのサプライズの一つなんですよ。


「藤原先生がよそよそしかったのは、これが理由と言うことですか」


 そこでもう一度大きく息を吐いてくれました。ねえお父さん、もしかして怒ってる?


「怒ってなんか居ませんよ。ただ本当に驚かせて貰っただけのことです。それ以上に、陽佳ちゃんとこうすることが出来て本当に嬉しいんですよ。優美が叶えてくれなかった夢を、こうして陽佳ちゃんが叶えてくれたんです。思い残すことは無い……とまでは言いませんが、かなりの夢が叶ってしまいましたよ」


 お父さん、流石にそれは大げさだと思う。でも、お父さんが喜んでくれて私も嬉しいんだ。だって私、お父さん、お母さんから貰うばかりだったから。だから、少しでもお父さんに返す……違うかな、私からしてあげられて嬉しいんだよ。

 だからお父さん、もっともっと長生きをして活躍してね。だから、泣かなくても良いんだからね。もっともっと、お父さんが喜ぶことをしてあげるから。これで終わったりなんかしないからね。で、お父さんどこに行くの?


「ちょっとトイレで顔を拭いてくるんです。良い年をして、泣きながらお酒を飲んでいるのは恥ずかしいんですよ」


 お父さんが、奥にあるトイレに行ってしまいました。そう言うことなので、映像の方はここでストップです。取れ高、取れ高ならもう十分ですよね。ここから先は、父娘だけの時間にしてください。


 それから、それからですか。2時間ぐらいお店にいて、奈良の町を歩くことにしました。ちなみにお店は、午後4時開店なんですよ。だからまだ、午後6時を過ぎたばかりなんです。もう4月も終わりに近いから、まだまだ外は明るかったりします。

 それで外に出たらですね、お父さんにお願いをして腕を組ませて貰いました。そうしたら、お父さん、もの凄く喜んでくれたの。ただねぇお姉さん、初めて尽くしっておかしくない? たまにはさぁ、お父さんに優しくしてあげても良いと思うの。


 それから商店街でアクセサリーを見て、デザートを買ってマンションまでのんびりと歩きました。流石に日が沈んで暗くなってきたけど……そうか、この辺りは街灯も少なかったわね。でも大丈夫、私は勇者様なんだよ。索敵も出来るし、腕っ節だってオークさん並みに強いんだよ。

 だからお父さん、街灯が少なくても心配なんてしなくて良いんだからね。


「それでも心配になってしまうのが親と言うものなんです」


 だったら私もお父さんのことを心配してあげるね。うん、お父さんって忙しすぎると思うから。それに、奧さんが多すぎって言ってあげる。お店でも言ったよね、もっともっと長生きをして活躍して欲しいの。それでね、もっともっと親孝行がしたいなぁって……あとね、もっともっと甘えさせて貰いたいんだ。


 組んでいた手を離して、ちょっと早足でお父さんから離れます。そこでくるりと振り返って……うん、ドラマとかでの定番だよね。それを意識して、小首を傾げたりします。『お父さん、大好き』って言ったんだ……



 えっ、なんでっ!



 急に目の前が真っ暗になった。この落ちていく感覚って、もしかしてっ!




 今日は宴会もないし、特に事件も無い平和な一日だったな。研究所の中も、なんか一日中まったりとした空気が流れていたりしたんだ。その辺り、立木さんがお出かけと言うのが大きかったと思うよ。別に立木さんが何かをしたと言うことも無いんだけど、やっぱりのんびりさが変わってくれるんだ。

 だからファンタスティック・フォーの4人を含め、まったりとしていたんだ。まあ友池さんたちは、忙しそうに東京出張をしていたんだけどね。そう、魔道具の治験対応。古巣の外務省から、助けて欲しいって泣きが入ったそうだよ。おかしいなぁ、せっかく活躍の場を用意してあげたのにね。

 それからこちらは小谷さん情報。菅谷総理から、立木さんにお願いがあるんだって。どう言うことかと言うと、例の厚生労働省対応の話。専門家部会を立ち上げたいんだけど、IMO研究所から誰かに参加して貰いたいらしいんだ。でも、誰かと言われても困るよね。だって武見君とか御衣黄さんは、研究で手一杯になっているんだ。オルティアさん? 魔法関係は手を出さないと宣言してくれてる。勿論、アスカさんも同調しているよ。そうなるとさ、対応出来る能力って立木さんしか無いんだ。だから菅谷総理から『お願い』って話になるわけ。


 うん、人気者だね


 俺? 俺には絶対に無理と言ってあげよう。まだ法律関係なら行けるけど、厚労省ってことはお医者さん絡みなんだよ。理系がさっぱりの俺に、対応なんてできるはずがないだろう? だから、菅谷総理のお願いと言うことになるわけだ。間違いなく、立木さんも嫌がると思うよ。

 それでまったりとしていたんだけど、一人敷島さんだけが心配そうにしていたな。でもさ、今日は陽佳ちゃんに会いに行っただけだからね。敷島さんが心配するようなことは何もないんだよ。それから心細いんだったら俺の家に……どうかしたのかセレス。い、いや、無言の圧力って怖いんだけど。


 その無言の圧力で思い出したんだけど、例の女神、そうパナメーラのこと。無事彼女を集落に迎えることになりました。それで今どこに住んでいるかと言うと、魔王様に預けていたりするんだ。理由、理由は簡単で、彼女を住まわせる部屋が無いから。だから、一番部屋が余ってる魔王城に住むことになったんだ。『中々そそる』と言うのが魔王様のコメントと言うことだよ。

 それで彼女を迎えたときのことなんだけど。立木さんの助言に従い、俺とセレス、フローリアンさんとクロアさん、フィオレンティーナさんの5人で歓談することになったんだ。歓談だよ、歓談。絶対に、脅迫なんかしていないからな。ただ歓談を始める前に、みんな大真面目な顔をしてじっと彼女の顔を見てあげたんだ。うん、時間にしたら5分も掛けていないんだけどね。始めて2分で汗まみれになって、4分で顔色が真っ青になって、5分で土下座をしてくれたよ。もうさ、頭をガンガンと地面に打ち付けていたね。

 セレスが首筋を触ったときなんか、恐怖に顔を引き攣らせていたね。うん、色々と無かったことにしてあげたよ。だって、流石に可哀想だと思ったから。それに、床が汚れちゃったしね。


 それから歓談……彼女の身の振り方についてなんだけどね。うちに来るかいと誘ってあげたけど、また土下座なんかされてしまったよ。そんなに怖がらなくてもいいと思うんだけどなぁ……ちょっと傷ついたと言っても良いのかな。

 そんな経緯があったので、パナメーラは魔王様のところに預かって貰うことになったわけだ。部屋があったら立木さんのところでも良かったんだけどね。だって立木さん、女神コレクターになってるんだから。パナメーラも、結構乗り気になっていたんだけどね。

 でもパナメーラを預けるときの魔王様、舌なめずりなんかしていたな。知らないよ、プレオプラスさんが焼き餅を焼いても。




 わたし、私ですか? いえ、名乗るような大層な名前は持っていません。その辺りの雑草とでも思って頂いて結構です。なんです、雑草と言う名の草は無いと言うのは。

 それですね、私は以前の世界では『女神』として崇められていたんです。それからそこの顔色の悪い者。嫌われていたのではありませんからね。なんです、その『クソ女神』と言うのは。下劣な……ごめんなさいごめんなさい、種族が違えば常識も異なりますよね。

 話を戻しますけど、私は女神として君臨していたんです。ええ、君臨していたんですよ。何しろ女神と言うのは、その世界を調和するための存在なのですからね。世界を調和、つまり世界を動かすことの出来る存在と言うことです。ですから、君臨と言って間違いないと思います。


 私の君臨していた世界で、私はある国を通じて神託を下していました。はい、その国の名前ですね。エルデストラ……なんでこんなに名前が長いのかしら。でも女神……その辺りの雑草として、敬意を示すためにもフルネームでお話しする必要がありますね。では……エルデストラスハイゼローゼングランキルシュタマリエルリーザカインケルロードエルミタハイネダクスハーミタットベルベディア王国……やっぱり長いわね。どこかで間違えていないかしら。誰にもわからないから、まあ良いのでしょうね。

 その国で信託を下し、魔帝国と生き残りを賭けた戦いを続けていました。どうして戦う必要があるのか、ですか? だって相手は魔族なんですよ。女神である以上、魔族を滅ぼすのはレゾンドデートルなのです。理由など必要無いと思いませんか。嫌ですね、魔王に冷たい仕打ちをされたからなんて言いませんよ。


 それでですね、魔王って結構強かったりしたんです。はい、私だって強いのは確かなんですよ。ただ、負ける恐れもあるわけです。だったら、自分で戦うのは無謀だと思いますよね。

 だから、最初は兵の中から見所のありそうな者を選んで可愛がっていたんです……ごほん、違いますね。見所のありそうな若者に、恩恵を授けていたんです。恩恵を授けた者がどうなったか、ですか? 無事魔王を討伐し、王女を娶り国王になった者もいますよ。はい、私を裏切ったんです……ごほんごほん。


 ただですね。人材と言うものに苦労するようになったんです。事情ですか、事情は……それって、人材に苦労する程度で十分ですよね。それでですね、人材を外に求めることにしたんです。はい、『勇者召喚』を行うことにしたんです。ただピンポイントの召喚には、失敗の可能性が高くなってくれるんです。ですので、団体さんで召喚することを考えました。その中から、気に入った子を……ごほんごほん。見所のありそうな若者を勇者にしたんです。

 でもですよ、みんな元の世界に帰りたがってくれるんです。残ってくれれば、私が可愛がって差し上げるのに。ええ、譲歩して王女を娶っても構わないのですよ。ほら、中々見た目やスタイルの良い王女も揃っているでしょう? だから、元の世界に返せと暴れないように。


 相手は魔王を倒す勇者一行なんです。ええ、手を焼かせていただきましたよ。それに懲りてですね、使い捨てにすることにさせていただきました。だって、誰一人として私の言うことを聞いてくれないんです。もうね、見切りを付けてもいいと思うんです。

 はい、お陰でとても気持ちが楽になってくれました。さくっと団体で連れてきて、能力のありそうなのを勇者にすれば良いんですからね。後のことを考えなくても良いと言うのは、本当に気持ちが楽になってくれたんです。


 それでも、たまに失敗なんかするんですよね。前回、そう前回のことなんですけど。始末するはずのコマから、4人ほど逃げ出してくれたんです。それでも、私に関係しなければ問題ありませんよね。どこかで野垂れ死にでもしていると考えて、忘れることにしたんです。

 それで元の生活に戻ったと思ったんですけど、また少しだけ手違いがあったんです。魔王討伐が終わったのだから、そろそろ魔族を根絶やしにしておこうと考えたんです。それで兵を進めたら、なぜか新たな魔王が即位なんかしたんです。しかも忌々しい翼人が、魔王の味方に付いてしまったんです。

 そうなると、人間側が不利になりますよね。それに魔王が即位したのですから、勇者召喚の必要が生まれてしまいました。もうルーチンになっているので、今回も若者を団体でご招待したんです。ええ、片道切符のご招待をさせていただきました。


 なんで、こんなことになるのでしょうか


 煩い年増を始末……眠らせて、コマを品定めしようと思ったんです。そうしようと思ったところで、なぜか襲撃なんかされてしまいました。まさか魔王軍がっと思ったんですけど、相手はもっと悪かったと言えば良いのか、知らない翼人の襲撃を受けてしまいました。

 それは良いのですけど……良くないですよね。それで、あの白いうねうねと動く紐状の物はなんなのですか? 荷造り紐……その辺りで、荷物を縛ってある紐と言うのですね。あのですね、こう見えても私は女神なのですよ。その女神を、新聞紙同様に扱うのはどうかと思うんです。だから、私も恩恵を駆使して抗わせて貰います……



 全く歯が立ちませんでした



 はい、大勢居た兵士共々、荷造り紐に縛り上げられてしまいました。もうですね、抵抗しても意味が無かったと言えば良いのか、気がついたら身動きできなくなっていたと言えば良いのか。蹂躙された……あの、もうちょっとそこをきつく縛って頂けると……いえ、おかしな趣味に目覚めたとか言いませんから。

 それで召喚に使用したルートを逆走し……逆走って危ないと思うんです……それは良いのですけど、コマを召喚した世界へと連れて来られました。そこで暗い部屋に押し込められ、尋問……あの私は女神なのですよ。その女神に対して尋問など、畏れ多いと思わないのですか? 大人しく話せばカツ丼を食べさせてくださる。カツ丼とはなんですか……その美味しそうな匂いをさせている物なのですね。はい、それで何をお話しすれば良いのでしょうか? 何なりと聞いて頂いて結構です。

 それから一つ伺いたいのですが、はいこのカツ丼なる物のことです。このカツ丼と言う食べ物は、この世界では特別なものなのでしょうか。特別の意味、ですか。そのですね、王侯貴族にならないと食べられないものと言う意味で言っています。違う、むしろ庶民の食べ物と仰るのですか……つかぬ事を伺いますが、あなたの名前はなんと仰るのですか? 高橋様、高橋様と仰るのですね。それでですね、高橋様はお一人なのでしょうか? はい、奥様がいらっしゃるのかと言うことです。どうしてそんなことを聞くのか、と言うことですか。いえ、深い意味は無いんですよ、深い意味は。


 それから、それからですか、日本のケーサツと言う所から、コクレンと言う所に身柄が移されました。そこでですね、私は頑張ったのですよ。如何に魔帝国が悪逆非道で、人間たちが魔物に食われていると訴えたんです。これなんですけど、事実として間違ったことは言っていませんからね。

 それでですね、コクレンの者たちは魔帝国が悪と言うのを理解してくださいました。こちらから兵を派遣して、魔帝国を滅ぼすと言うところまで話が進んでくれたんです。もうですね、これで私は女神としての役目を果たすことが出来るんですよ。こちらの食べ物を持って凱旋すれば、更に崇められるのは間違いないと思っていたんです。思っていたんですよ……それなのになんなのですか、あれはっ!


 どうして、一夜で立場が入れ替わってくれるんです。なんです、そのIMO研究所と言う者たちは。そうですか、私を捕らえた荷造り紐の使役主なのですね。つまりなんです、私の敵なのですね。

 それはそうと、どうしてスが許されるんです? なぜ、私が諸悪の根源と言う話になるんです? 私は、ただ人の世界が平穏であるようにと努力しただけなんですよ。ずっと努力を続けたのですから、多少はおこぼれに預かってもいいと思うんです。


 女神だったら、恩恵を使って逃げないのか。なるほど、それは尤もな疑問だとお答えいたします。私だって、何度逃げ出そうと思ったことか。でもですよ、私の居るところには必ず荷造り紐が置いてあったんです。その荷造り紐がですね、私が『逃げようかなぁ』って考える度に、ピクリと動いてくれるんですよ。しかもトイレに行ったとき、隙を見て逃げだそうと思ったんです。そうしたらどうなったと思いますか? はい、誰かに後ろから肩を叩かれたんです。でもですよ、私はトイレの個室に篭もっていたんですよ。だとしたら、後ろに人なんか居るはずがありませんよね。

 怪談……怪談の意味がわかりませんが、もう恐怖で顔から血の気が引いてくれました。それで振り返ったら……振り返らなくても予想は付いたのですけど。白い荷造り紐がゆらゆらと揺れていました。ホラー、ホラーの意味がわかりませんが、思わず漏らしてしまいました。トイレで良かった……心からそう思いましたね。


 それから、それからですね。日本と言うところにある、上里集落と言う場所に連行されました。ただですね、なんなのです、この上里集落と言う場所は。住んでいる者がおかしすぎると思うんですよ。

 空間転移……なぜ、こんな高度な技術を普通に使っているんです? その空間転移で運ばれたところで、歓談するからと言われて部屋に連れ込まれました。



 …………地獄でした



 なんです、私をじっと見ている人たちは。みんな私よりも、遙かに格上ではありませんか。一番格下の黒髪の女神でも、私では及びも付かない高位に居るんです。その格上の人たちに囲まれ、じっと見られ続けたんですよ。もう、本当に生きた心地がしませんでしたよ。一番格上の女性に首を触られた時なんて、思わず漏らしてしまいましたよ。

 それからその男性……うちに来るかと言うのはどういう意味で言っています? あなた、隣で微笑んでいる最高位の女性の配偶者なんですよね。そんなところで、心安らかでいられると思いますか? 絶対に無理と言わせていただきます。はい、土下座をしますのでお許し願います。


 それから立木と言う方はどなたなのですか? 女神コレクター……あのぉ、女神と言うのは収集の対象ではないと思うんです。

 なんです、その方のお手つきになると階梯が上がると言うのは。もしかして、その方と言うのは遙か高位の神様なのでしょうか? 同居はしていないがお二人が奥様とお嬢様……同居をしていないんですよね。でしたら、そちらでお願いを……部屋が無いからダメ。そのレベルで否定されてしまうものなのですか?


 それでですね、私は顔色の悪いイケメンに預けられることになりました。その顔色の悪いイケメンなんですけど、別の世界の魔王なのだそうです。しかもその魔王、別の世界にいたときは人間を頭から丸かぶりをしていたそうなんです。しかもなんです、魔王プレオプラスの保護者と言うのは、それって、絶体絶命と言う奴ではありませんか? それから、『そそる』って何のことを言っています? もしかして、貞操の危機も訪れているのですか?

 いえ、魔王の見た目が良いのは認めますよ。でもですよ、女神が魔王に身体を許しちゃダメだと思うんです。どうせ身体を許すのだったら、階梯の上がる方を選びたいと思います。それにあの高位の女神、金色の髪をした女神たちの配偶者なのですよね。でしたら、そちらを選びたいと言うのは自然なことだと思うんです。

 これはもう、逃げ出すしかありませんよね。逃げ出すしか……どうして荷造り紐が沢山あるんですっ!




 そう言えば、今日は陽佳ちゃんがサプライズを仕掛けると言っていたな。陽佳ちゃん、本当に明るくなったと思うよ。立木さんの養女になって、本当に良かったと思うんだ。だって俺、泣きべそを掻いていた陽佳ちゃんのことを覚えているんだからな。

 だから俺、立木さん夫婦のことを尊敬しているんだ。ただ本人には言わないけどね。俺も父親になるんだから、立木さん夫妻を見習わないとと思っているんだよ。藍香ちゃんたちだって、落ち着いたら立木さんのことを『お父さん』って呼ぶようになると思ってるんだ。そうか、俺も立木父さんって呼ぶことになるんだな……どうしたセレス。いや、まだ寝るには早いと思うんだがな。

 それはそうと、一度陽佳ちゃんがアルバイトをしているのを見に行かないか? だって、立木さんお勧めの居酒屋さんなんだろう。ほら、セレスと一緒に居酒屋さんって行ったことがなかったと思うんだ。陽佳ちゃんを冷やかしながら、お酒を飲むのも楽しいと思うんだよ。そうか、一緒に行ってくれるんだな。だったら、いつにしたら良いのかな。今度いつシフトが入っているのか聞いておこうか。



 ……………………



 な、なんだ、今のは。な、なんか、おかしくないか。地震、地面は揺れてないよな。だったら今のは一体何なんだ。セレス、どうした顔が真っ青だぞ。俺も、俺の顔も真っ青なのか? 俺ってすべてを超越しているんだよな。それなのに、どうしてこの恐怖を超越できないんだ。

 と、とにかく、ここに居ちゃ何もわからないよな。け、研究所に行けば、何か情報が掴めるかもしれないだろう。格好は……これぐらいなら大丈夫だな。セレス、大部屋に移動するから捕まってくれ。


 大部屋に移動したら、遅れてみんなが集まってきた。ただ集まってきたのは、魔法に関して上級者たちばかり。ラズライティシア様、エリシオンさん、それからフローリアンさん……ファンタスティック・フォーの4人も集まってきたか。つまり、さっきの現象は魔法絡みと言うことになるんだな。

 さっそくで悪いんだけど、何か観測データは入っているのか? なるほど、とても小さな重力波現象は捕まえているんだね。ただ、レベルとしてはシャルロットの転移よりも小さいのか。念のためテレビのニュースは……普段通りになっている訳だな。


「で、ですが……ニュートリノレベルの爆発的な増大を観測っ! 観測値としては過去最大値なのですが、すぐに落ち着いてくれました。ただ発生タイミングは、全員が異常を感じた時間に一致していますっ!」


 グレゴリー、そうか、何かが起きたのは確かと言ってくれるんだな。だったら、すぐに立木さんと連絡を取ってくれないか。

 それはそうと、場所は特定できたのか? 誤差は大きいが特定できた……今から画面に出すってっ!


「はい、IMO研究所で確保したマンションの近くなんです」

「立木さんと連絡が取れませんっ! 携帯が圏外になっていますっ!」


 立木さんと連絡が取れない。しかも、小規模転移が起きた可能性がある。それに加えて、大規模な魔法現象って……こんなもの、どう解釈したら良いんだ。ラズライティシア様、何か意見はありますか?


「すまん、われにも全く理解ができんのだ。少なくとも、こんな現象、現象で良いのだよな。こんな現象は、今まで生きてきて初めて見たものなのだ。シオン、何か意見はあるか?」

「ごめん、私にも理解出来ない。それでも問題は、キヨヒコの消息が掴めないこと。無駄かもしれないけど、現場に行ってみるつもり」

「あ、ああ、現場に行く意味はありそうだな。孝明よ、われはシオンと共に現場に行ってみる。それからグラ、心配するなとは言わん。だが陽佳には、キヨヒコが着いていたのだ。あやつが、陽佳一人を危険な目に遭わすとは考えられんのだ。当然、道連れで自殺をする真似などするはずが無いのだからな」

「そ、それぐらいはわかっているわよ。あの人は、いつも最善を考えて行動しているんだから……でも、もしもそれが失敗したら」

「だぁっ、人と言う物は悪いことを考えるとますます悪い神に捕まってしまうのだぞ。キヨヒコなら大丈夫、われらを置いて居なくなるにはまだ早すぎるのだからな。それよりも、お腹の子に障るからぬしは休んでおるが良い。なあに、われとシオンは最強のコンビなのだからな」


 ああ、能力だけなら俺の方が上なのだろうな。ただ、知識と言う意味では俺では太刀打ちできないのは確かなんだよ。だから今は、ラズライティシア様とシオンさんに任せるしかないと思っている。悔しいけど、それが今の限界なんだよ。

 ところでシャルロット、どうかしたのか?


「魔法の使えない皆さんには、私のマーカーが渡してあるんです。はい、異世界に行っても辿ることの出来るマーカーをです。そのマーカーなんですけど、二人ともどうやっても見つけることが出来ないんです」


 つまり、シャルロットでも見つけられないと言うことだな。ああ、その程度なら予測した範囲に収まっていると思う。まあ、強がりと言われても仕方が無いんだがな。

 ただ立木さんは、女神様に守られているんだよ。だとしたら、こんなことで命を落としたりしないと思うんだ。落としたりしないと思うんだよ。勿論これは、漠然とした期待でしか無いんだがな。だ、だから、立木さんを信じて待つしかないと思うんだ。


「うむ、ここから先はわれとシオンに任せておくことだ」


 ラズライティシア様、あなただけが最後の希望なんです。だから、宜しくお願いしますと頭を下げさせて貰います。




荷造り紐さん最強です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。