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色々と裏の話を

村の特産は異世界です


・色々と裏の話を


 ちょっと奧さん聞いてくれますか……いえ、IMO研究所の人間関係のことなんですよ。サークルクラッシャーって知ってます。そう、サークルやコミュニティの人間関係を壊す存在のことを言っています。

 いきなりどうした、ですか。いえね、今のIMO研究所で似たようなことが起きていると言うことです。もう、想像が付きましたよね。そう、立木さんが連れてきた女の子。敷島藍香さんのことなんです。


 一つ言い訳をしておきますけど、藍香さんにはまったく責任はありませんよ。だって藍香さん、人目も憚らず『愛人にして』って立木さんに言っていますから。ただね、彼女の場合は歌が凄すぎたのよ。しかも高校時代に作った恋の歌……なんで高校時代に作ったと言うのはおいておくけど、その恋の歌が凄すぎたのよ。もうね、武見君まで落としてしまったの。諸星さん、諸星さんなら紹介されたときに落ちているわよ。


「我々も、若かったら危なかったと思いますよ」


 そうですか、友池さんたちも危なかったと言ってくれるんですね。それはそうと、その手にある箱はなんですか? プレゼント……誰にって聞いても良いですよね?


「敷島さんにですが、なにか?」


 その手提げ袋、有名ブランドの奴ですよね。ええっと、プレゼントにしては高価すぎる気もするんですが。友池さんたち、落ちていないんですよね?


「落ちてはいませんよ。そうですね、今風に言うのなら推し活でしょうか。彼女が嬉しそうな表情をしてくれると、私たちも幸せな気持ちになれるんです。だから彼女の喜びそうなプレゼントを探してきたと言うことです」


 ええっと、はっきり言って『落ちて』いますよね。心外、心外と言ってくださいますか。若い人と違って、自分をわきまえていると言ってくださるんですね。でしたら、二人きりになっても冷静で居られると言うのですね。

 あっ、友池さんたちが逃げていった……しかし恐ろしい娘ね敷島さん。


 と言うこともあって、IMO研究所の男たちが敷島さんを狙っています。はい、どうやって立木さんから『寝取るか』を真剣に考えていたりするんです。もうね、おかしいったらないと思うのよ。だって立木さん、敷島さんと寝るつもりは無いんだもの。だから、寝取りは成立しないってこと。

 男どもとは違って、女性陣はとても冷静……でもないわね。御衣黄さんなんて、『応援する』なんて転んでいるもの。ただ今は、『一緒に頑張ろうね』にトーンダウンしています。それでも一緒と言っている分、かなりの譲歩だと思うのよね。それ以外の女性は、殆ど応援しているのかな。だって彼女たち、立木さんを狙っていたりしないもの。その中の例外は、どう言う訳かセレスさん。ただよくわからないのは、『強制力を使おうかしら』って悩んでいること。なんでセレスさんが、強制力を使えるのかしら? それに、使えたとして誰に使うつもりなのかな?


 あっ、武見さんお久っ! それは良いけど、なんか落ち込んでいるように見えるんだけど。そう、落ち込んでいるのね。それはなに、立木さんと敷島さんを見たからかしら? 違う、立木さんに見たくないものを見せられた。否定したけど、それって敷島さんのことだよね?


「くどいと言ってやる。それはそれできついのだが、もっときついものを見せられてしまったんだ」


 もっときついものって……なに?


「大量の魔道具……どうして、フローリアンさんが魔道具を作っているんだ?」


 ああ、それね。それなんだけど立木さんが指示を出していたのよ。もうフローリアンさん、目をハートにして内職していたわ。でも、魔道具が増えるのは悪いことじゃないよね?


「俺の作る魔道具と違って、彼女のは魔力を充填する必要が無いんだよ。そんなもの、危なすぎて配れないだろう。使用制限のない魔道具なんか、悪用されたら何が起こることか」


 それが心配で落ち込んでいたの? 違う、改良する前に改良されてしまった。また宿題が降ってきそうで戦々恐々としていると言うのね。そう、そんなことを心配していたんだ。なるほどねぇ……



 残念でした



 うん、もうしっかり宿題が準備できてる見たいよ。立木さんが、いつ渡そうかってそわそわしているのを知ってるんだ。そっか、踊り出したくなったと言ってくれるのね。多分だけど、その程度じゃ許して貰えないと思うわよ。

 それからね、ダイナさんたちが張り切ってるの、知ってる? うん、エクシブさんとシオンさんが素材を大量に確保してくれたの。それを加工して、魔道具を作ってくれてるのよ。術式自体は、武見君のをコピーしているわよ。その魔道具がね、そろそろ小さな部屋いっぱいになりそうなのよ。小さなジュラルミンケースで……1000個は超えてるかな? うん、まだまだ順調に増えているわよ。


「本山先生を過労死させるつもりか?」


 立木さん、本山先生には予告してあるって言っていたけど。予備だと思えば、数があっても困らないと思うわよ。

 それからね、オルティアさんたちが武見さんを探していたわよ。あっ、顔色が変わったわね。うん、MS器官について話がしたいんだって。立木さんと一緒に考察をして、かなりの部分がわかってきたんだって。もうね。オルティアさんとアスカさんが踊り回っていたのよ。勿論、危ない方の踊りじゃ無いわよ。歓喜の踊りって奴なの。

 ここから先は、実験で考察を深めたいんだって。そこまで言えばわかるよね……あっ、武見君が逃げ出した。




 最近話題に上らない女の子。はい、立木陽佳と申します。便りの無いことは無事の知らせって言うでしょ。立木陽佳は、奈良の地で普通の女子大生を堪能しています。

 本当なら、シオンさんと二人で生活する予定だったのよ。でもシオンさん、結構忙しく駆り出されているのよ。事情はわかるんだけどね、だって武見さんたちが死にそうな顔をしているのを見せて貰ったから。本山先生も、過労死寸前と言う顔をしていたりします。お父さん、手加減が苦手だからなぁ~


 そう言う事情で、マンションには一人で居ることが多くなっています。それでですね、それを利用して、ですね……こら、そこっ! 男なんか連れ込んでいませんからね。連れ込んでいるのは、先輩お二人。はい、まどかさんとめぐみさんのお二人です。ちなみにまどかさん、まだ就活が終わっていないのだそうです。狙いは奈良県の教職員。子供は疲れるので、高校を狙っているそうよ。

 そしてめぐみ先輩は、これから就活を考えるそうです。先生は? って聞いたら、それも候補に入っているんだって。後は、奈良県庁の職員も考えているらしいわ。藤原先生の伝手で、文化交流会館に潜り込むことを狙っているみたいね。


 一方私は、ひーこら言いながら学業に励んでいます。そしてその息抜きで、先輩たちと一緒にパジャマパーティなんかしています。うん、お菓子とかを買い込んで……お酒は買ってないわよ。買わなくても、集落に沢山ストックがあるから。もっとも、先輩たちとはジュースを飲んでおしゃべりしています。

 それでですね、私はちょっとした冒険をしようかななんて考えていたりします。大した冒険じゃありませんよ……本格的な冒険は、もう懲りていたりしますからね。だから冒険と言っても、アルバイトをするぐらいのことなんです。お父さんに内緒でアルバイトをして、驚かせてあげようかななんて考えているんですよ。驚かせ方、ですか? それは内緒と言うことにしておきます。それからですね、お母さんにはアルバイトのことは教えてあるから大丈夫です。


 上里集落のことですか? はい、面白いことになっているって小谷さんに教えて貰いました。敷島藍香さん、だったかな。綺麗でスタイルも良い女の子のことですよね。話を聞いたときには、お父さんらしいなって思わせて貰いました。だって私も、お父さんに救って貰った口だから。

 愛人……ですか? お父さんは、かすみさんにも手を出さないんだよ。だったら、私より若い女の子に手を出すはずが無いじゃない。


 その面白いことって、ほかの男の人たちのこと。私も藍香さんの歌を聴かせて貰ったんだけど、あれは半端じゃない威力を持っていると思う。魔法じゃないかと思うほど、聞いている私たちが感情移入してしまうのよ。その威力をまともに受けると、私たちなら共感、男の人たちは彼女に恋をしてしまうみたい。だから面白いことになってると言うこと。まるで高校生……で通じるかな。みんな、高校生みたいに藍香さんの気を引こうとしているらしいの。でも肝心の藍香さんは、お父さん以外は眼中にないって感じになってる。ねっ、面白いことになってるでしょ?


 それでお父さんのことなんだけど……とうとうフローリアンさんにまで手を出しちゃったのよね。お兄ちゃんには聞いてたけど、娘としてはちょっと複雑な気分。オルティアさんのこともそうなんだけど、ちょっとおかしいとも感じてる。だってお父さん、モラル的にはとっても普通なの。シオンさんを含めて4人で奈良観光をしたんだけどね。もうお父さんとお母さん、シオンさんでも入れない空気を作っていたから。

 そのお父さんが、どうしてシア母さんとかグラ母さん、シオンさん、ティア母さん、アン母さん……諸星さんのことを言えない人数になってるわね。それはそうと、手を出す理由はないと思うんだ。あっ、セフィーロさんもいた……

 お父さん、かなり疲れているのを知っているんだ。みんな綺麗で魅力的と言うのは認めるんだけどね。子供じゃ無いんだから、ハーレムなんて求めていないと思うのよ。なぜか義務? 義務みたいなものを感じてしまったわけ。


 それで、念願叶ったフローリアンさん。どう見ても、前よりも神様らしくなっているのよ。なんと言えば良いのかな、魔王様……ヴェルサティスさんのことなんだけど、魔王様よりも強そうに思えるの。シア母さんが言うには、神様としての階梯が上がったんだって。不思議なんだけど、どうしてお父さんとしたら階梯が上がるのかしら? うん、考えても無駄だから考えないことにしているんだけどね。

 それでお父さんの女性関係なんだけど……神様関係は別枠って、お母さんも言っていたのよね。うん、フィオレンティーナさんが旅行に来たときのこと。その意味で言ったら、フローリアンさんも別枠になるのよね。だとしたら、おかしいのはオルティアさんだけってことになるのか。


 それでフローリアンさん、アン母さんを見ていてふと思いました。いえ、アン母さん、魔王様が居なくなった世界って、今はどうなっているのかなって。魔王様に食われることは無くなったけど、女神様の加護も亡くなっちゃったんだよね。良い思い出の全くない世界なんだけど、1年ちょっと暮らしたこともあって気になったと言うことよ。

 でもまあ、こっちの世界に関係はないと思うけどね。




 初めまして。敷島大悟と言います。はい、敷島藍香の弟の大悟です。それは良いのですけど、俺なんかが出て良いんですか? たまには毛色が変わって良い。よくわからない理由ですけど、良いのなら遠慮無く。

 プロフィールはと言うとですね、中学3年生の男子だったりします。今は大谷村にいますけど、生まれは川崎市の川崎区です。駅の反対側は再開発が進んで綺麗になっているんですけど、俺が住んでいる側は再開発が進まずちょっといかがわしい空気を醸し出したりしています。それ以前に、空気自体が美味しくないんです。


 それはそうと、なぜ俺が大谷村の中学校。実は、村には中学校が1つしか無かったりするんですが、その中学校に来ているのかと言うと。海よりも深く、山よりも高い理由と言うのがあったりするんです。

 まずその理由その1が、1年とちょっと前に両親を亡くしたことです。少しばかりお金を残してくれていたのですけど、知らないうちに親戚に使い込まれていました。そのせいで姉ちゃん、姉ちゃんは大学を辞めてパートタイムに行くことになったんです。そして俺も、中学生でも働けるからと新聞配達で家計を助けていました。でも、家計が火の車……で良いんですよね。カツカツと言うより、足りていないと言うのは知っていました。ええ、姉ちゃんが毎日ため息なんか吐いていましたから。


 それで追い詰められた姉ちゃん、ついに身体を売るところまで来てしまったんです。弟の俺が言うのもなんですけど、姉ちゃん結構スタイルが良いんですよ。脱いだら凄いと言うのは一緒に住んでいれば……ごほん。今はそれはどうでも良いですね。

 それで運命の日……姉ちゃんが壊れているのは知っていました。でも、俺には何も言うことは出来なかったんだ。だって、姉ちゃんが悩んで悩んだ上で出した結論だから。なんの力も無い俺が反対したって、何の解決にもならないのはわかっていたんです。

 杏香はわかっていなかったみたいだけど、俺、見えないところで泣いたんだ。だって姉ちゃんだけに辛い思いをさせているのがわかっていたから。だから姉ちゃんが男の人……おじさん? おじいさんを連れてきたとき、来るものが来たと思ったんだよ。だってそのおじいさん、どう見てもスケベそうに見えたんだ……冴えなかったし。


 失礼なっ!


 あれっ、空耳かな。どこかから抗議の声が聞こえてきた気がする。

 それは良いんだけど、いや、良くないな。帰ってきたときの姉ちゃんを見て、俺はここに居ちゃいけないと思ったんだ。幾ら覚悟を決めていても、身体を売る所なんて家族に見られたくないよな。だから俺は、杏香を連れて外に行こうとしたんだよ。そうしたら、そのおじいさん。頭を掻きながら、姉ちゃんを買うつもりは無いって言ったんだ。そして明日の約束をしてから、お金を沢山置いて居なくなってくれた。思えば、あの時から姉ちゃんが別の意味でおかしくなったと思うんだ。

 でも、久しぶりに食べたドナルドの武士道バーガー、とても美味しかったと思う。ほかにもプリンとかあったんだけど、俺、泣きながら食べたんだよ、悲しくて。どうして、こんなことになってしまったのか。誰を恨めば良いのかと思ったんだ。

 そう、これが俺が大谷村に来た第2の理由と言うことなんだ。これだけ聞くと、川崎から逃げ出してきたと思うよな。俺も説明していて、紛らわしいかなと思ったのは内緒だ。


 それで翌日、姉ちゃんがウキウキしていたのが辛かった。なんでさ、御妾さんになるのを喜んでいるんだ。しかも姉ちゃん、今まで見たことのない綺麗な笑顔を浮かべていたんだよ。相手は、父さんたちより年上のおじいさんだよ。絶対におかしいと思うよな、杏香だっておかしいと思ったよな。

 でもさ、繰り返すけど俺はタダの中坊でしか無かったんだ。後1年、中学を卒業すれば、就職だって出来たんだよ。そうすれば、大して稼げなくても生活ぐらいはできたと思うんだ。たかが1年、その1年がどうにもならないって姉ちゃんに言われてしまった。そして昨日までのことを思い出して、納得してしまった俺がいたんだよ。だから俺、杏香を抱きしめて泣いてしまったんだ。もう、どうにも抑えることは出来なかったんだよ。


 そうしたらさ、お昼過ぎにおばさん……おばあさん? が訪ねてきたんだよ。とても優しそうなおばあさん、立木さんって名乗ってくれたんだよ。俺、最初はノックされても出なかったよ。だってさ、借金取り……は来ていないか、怖い人が来たって考えたんだよ。

 だから息を殺して家に居たんだけど、なぜかブーンと音がして家に電気が点いたんだ。それで驚いたからだと思うけど、居留守を使っているのがばれてしまったんだ。

 『もう隠れなくても良いんですよ』って優しい声が聞こえてきたんだ。だから俺、恐る恐るのぞき窓から覗いてみたんだ。そうしたら、優しそうなおばあさんがニコニコと笑って立っていたんだよ。一瞬『宗教?』って思ったけど、だとしたら電気が点いた説明が付かないよな。


「昨日来たおじさ……おじいさんの妻で立木慶子と言います」


 そのおばあさん、そう名乗ってくれたんだ。つまりあのおじいさんの奧さんが訪ねてきたんだ。


 普通さ、本妻さんが乗り込んでくるなんてありえないよな。違うのか、邪魔をしに来るってのがあるのかな。だけどさ、どうしてこの家がわかるんだ? もう、なにがなんだかわからなくなっちゃったんだよ。

 それから、それからなんだけど、俺たちお風呂に連れて行かれたんだ。新しい洋服を買いに行って……晩ご飯はファミレスでご飯を食べさせて貰った。ハンバーグなんだけど、もの凄く美味しくて涙が止まらなかったよ。そしたら、そのおばあさん。『もう苦労しなくて良いんだからね』って言ってくれたんだ。


 それからおばあさんに連れられて、駅に近い危ない場所に連れて行かれた。ひょっとして、俺たち売られたのか? なんて考えたのは内緒だ。ただ勘違いと言うのは、姉ちゃんの声……歌声が聞こえてきて理解出来た。そうか姉ちゃん、こんなところで歌っていたんだなって思ったよ。内緒だけど、姉ちゃんの歌がうまいのは知っていたんだ。

 ただ、歌っていたのは良いんだけど。なんか、回りに怖い人ばかり揃っていたんだ。なんで姉ちゃん、ヤクザの前で歌っているんだって思っちゃったよ。でもそれが、俺の勘違いだったのはすぐにわかった。だってそこに、『今日の異世界に行こう!』の人が居るのを見つけてしまったから。うん、魔王様とタメを張れる人のこと。うちにはテレビは無いんだけど、近くの電気屋に行けばテレビぐらいは見ることが出来るからね。俺は杏香を連れて、駅前の電気屋巡りをしていたんだ。

 だから『今日の異世界に行こう!』に出ている人のことを知っていたんだ。間違い……あの強烈なおじさんだよ。一度見たら忘れられない……ぐらい迫力ある人なんだ。だから間違いだとは思わなかった。だとしたら、集まっている人たちがヤクザと言うのは勘違いと言うことになるよな。


 それで、もう一度姉ちゃんの周りをじっくり見てみた。それで気になったのは、その時の姉ちゃんの顔なんだ。もうね、潤んだ瞳でおじいさんのことを見ていたんだよ。幾ら子供の俺だって、その視線の意味ぐらい理解出来るんだよ。そしてこれが、大谷村に来た3番目の理由。つまり、姉ちゃんが危ないから……道を踏み外しそうと言うのか、放っておいたら喜んで道を踏み外すのがわかっていたから。おばあさんは『大丈夫』って言ってくれたけど、姉ちゃんのことをそこまで信用できなかったんだ。俺。


 それで大谷村に来たんだけど、村に来て生活が一変してくれたんだ。それまでは4畳半の1K風呂無しに住んでいたんだよ。それが引っ越してきて一戸建ての大きな家に住むことになったんだ。俺たち3人だと、部屋が余るぐらいの大きな家なんだよ。家自体は古いけど、部屋には勉強机とかベッドとか置けたし、居間には大きなテレビも置いてあるんだ。

 ノートパソコンも買って貰えたし、チカチカしない明るい照明も付いていたんだ。しかも好きなときにIMO研究所に行けるように、転移ゲートで良いんだっけ、転移ゲートまで作ってくれたんだ。どうして最悪の負け組だった俺たちが、いきなり勝ち組になってしまったんだ?


 そして何より驚いたことは、スケベそうに見えたおじいさん……あれっ、また空耳が……と言うのは良いんだけど。そのおじいさんが、とっても有名な人だったこと。うん、IMO研究所の立木さんって、世界的な有名人だと教えて貰ったんだ。

 だから姉ちゃん、『現実』って文字。今更見せられなくてもちゃんと見えているんだよ。それから『空気』だって読んでるつもりだぞ。俺が気にしているのは、姉ちゃんが『現実』とか『空気』とか全く気にしていないことなんだよ。


 それで新しい中学校なんだけど、環境だけは良いと思うよ、うん環境だけはね。だけど、各学年1クラスしか無いんだ。しかも生徒の数が少ないし……教室が余っているから、なんか寒々としているんだよ。それに人数が少ないから、体育なんか結構大変みたい。

 あと苦労しそうなのは、俺以外のみんながスキーの達人ってこと。スキーはスポーツじゃ無くて生活……そうか、ここではスキーが出来ないと生活できないのか。それを聞かされたら、不安に感じてもおかしくないと思うんだ。


 あと、思いっきり交通の便が悪いんだよ。家からだと駅まで歩いて30分。この時点で、川崎の時とは大違いなんだ。しかも電車……ディーゼルってなに? その列車が、1時間に1本も走っていないんだよ。この時点で、もう世界が違うとしか言い様がないんだ。

 そして俺、今中3なんだ。そうなると、すぐに進路の問題が出て来るよな。そりゃあ、高校に行かずに働くつもりで居たよ。でもさ、おじい……立木おじさんに、『高校に行きなさい』って言われたんだ。そうなるとさ、一番近い高校って白鹿駅の所にあるんだ。距離的には、さほど遠くはないんだけどな。ただ、そこまでの公共交通が問題なんだよ。だってまともな時間の電車なんだけど、7時台に1本だけなんだぞ。その次は10時台って、どんだけ電車が走っていないんだ? 前の家、近くの川崎駅なんて1時間に10本以上電車が来たんだぞ! バスだって、ひっきりなしに走っていたんだ。なんかさぁ、本当に日本なのかと思っちゃったんだ。


 鬼頭さんっておじさんのところから、学校に通っても良いって話もあったんだよ。でもさ、暴走特急姉ちゃんを野放しには出来ないだろう? だからさ、多少の不便さならって覚悟して大谷村に来たんだよ。だけど、待っていたのは『多少』どころの不便じゃ無かったんだ。うん、後悔したよ。思いっきり後悔したんだ。

 でも、田舎と言うことに目を瞑れば……なかなか難しいんだけどな。目を瞑れれば、凄いところに来たと思ってる。なんだって、IMO研究所まで歩いて30秒もかからないんだぞ。そして翼人とかハイエルフとか、研究所に行けば普通に歩いているんだよ。それどころか、魔王様だって彷徨いているぐらいなんだ。テレビで見た世界が、本当に目の前に現れてくれたんだ。


 食事だって……初めから姉ちゃんには期待していなかったんだ。だから、『遠慮しなくて良い』と言う立木おじさんの言葉に素直に従って、別館の食堂に食べに来ている。別館、特に別館その1の方なんだけど、ハイエルフとか翼人とか大勢居て、とっても賑やかなんだ。しかも食事が終わってから、ステージでダンスなんかしているんだよ。

 それから杏香、お兄ちゃんは見蕩れてなんかいないからな。見た目は同級生ぐらいでも、あっちは200歳超えなのはわかっているんだからな。なんですモコさん、はい、とっても可愛らしいと思います。高校生になるのが楽しみって……その、何のことを言っているのかわからないんですけど……はい、嘘です。


 それで、朽木さん。俺たちを旅行に連れて行ってくれるんですか? 姉ちゃんの家族枠……俺たちにごまをすっても、姉ちゃんには届かないと思いますよ。

 行かないのか、ですか。勿論行きますよ。だって、旅行なんていつ以来かわからないです。えっ、安達マミちゃんとかBLTも来るんですか。しかも春夏秋冬(フォーシーズンズ)も来るんですよね。実は俺、白夜春陽ちゃんのファンになったんです。可愛いですよね、春陽ちゃん。

 それで立木おじさんは? 別のところで、偉い先生を接待するんですね。はい、ちょっと安心できました。一緒に温泉なんかに行ったら、姉ちゃん速攻で夜這いしますから。


 それで、温泉に行ってみてどうだったか、ですか。うん、本当に行って良かったと思ったんだ。姉ちゃんが凄いと言うのは今更だし、春陽ちゃんが可愛かったのも今更だと思う。うん、浴衣姿も綺麗だと思ったよ。激しく踊る所なんて、胸がドキドキしたのは本当だし。

 でも、本当に良かったと思ったのは。凄い人たちを間近に見られたこと。そう、武見さんと御衣黄さん。二人とも凄いんだけど、御衣黄さんはちょっと危ないかなって思ってしまいました。だって御衣黄さん、もの凄い美人なんだぞ。それなのに、どうして男の趣味が姉ちゃんと同じなんだ? 立木おじさんって、そんなに魅力的なのかな?

 それでそっちの話は置いておくけど。武見さんが、もの凄く格好良かったんだ。魔法、魔法で良いのかな。それを使えるところも凄いんだけど、本当に頭が良いってのがよくわかったんだ。しかも格好良いって、反則だと思うんだよ。だから、かな。俺も武見さんみたいになりたいと本気で思ったんだ。姉ちゃんも、立木おじさんじゃ無くて武見さんにすれば良いのにと思ったぐらいだ。


 なんですか武見さん。その辺り、もうちょっと強調して欲しい……ですか。できれば、夜な夜な姉ちゃんに吹き込んで欲しいと言うのですね。どうして……いえ、なんでもありません。

 それでですね、さっきの言葉再考させて貰っていいですか。いえ、武見さんが格好良いと言うのは本当ですよ。俺も武見さんみたいになりたいと言うのも本心ですから。は、はい、さっきの話ですね。帰ったら、試してみても良いのかなぁとは思っていますです、はい。


 あと姉ちゃんに『現実』って言ったけど、俺だって現実ぐらい見えているんだ。頭が悪いと言うつもりは無いけど、うちって最底辺の経済状態だったんだぞ。いくらIMO研究所にお世話になったからと言って、医学部なんて行けるとは思っていないんだ。だって医学部って、入るまでにもお金が掛かって仕方がないと思うんだよ。有名な進学塾とかのこと、中学の友達から話を聞いてるんだ。

 だから俺は、中卒から一歩進んで高卒で働くことを考えたんだ。うん、考えたんだよ。そうしたら立木おじさんに、『子供は余計な心配をしないように』って叱られたんだ。でもさ、学費の心配って余計な心配なんですか?


「その程度のことなら、私のお小遣いでどうにかなる程度のことなんです。だから大悟君、君がこれからどれだけ努力をするのかの方が大切なんですよ。沢山勉強をして、それから見聞を広めて……その積み重ねをして、初めて彼のようになれるんですからね」


 俺次第……と言うのは良いんですけど。医学部とか行くお金が、お小遣い程度なんですか? だけど俺、立木さんの子供でも無いんですよ……ひょっとして姉ちゃんを『違いますっ!』って被せないで欲しいんだけど。それから、あまり否定されるのも複雑な気もするんだ。不倫は良くないと言うのはわかってるけど、姉ちゃん立木さんに認められたくて……ええい、立木さんに抱かれたくて頑張ってるんだよ。あれっ、俺っておかしなことを言ってる?

 それは良いんですけど、本当に甘えて良いんですか? 研究所は、優秀な若い人材を求めているんですか。医者じゃ無くても、物理学者でも良いと言ってくれるんですね。まだまだ研究しなくちゃいけないことがあるので、人材は喉から手が出るほど欲しいのだと。研究所の未来への投資は、糸目を付けないと言ってくれるんですか。だったら俺、頑張って勉強してみます。




 温泉旅行から帰ったらですね、光岡さんに映画音楽の話を教えて貰いました。安達マミさんが、私の歌を聴いて感動してくれたのだそうです。だから、今度出る映画の監督に私のことを話してくれるのだそうですよ。でも、私が主題歌を歌うんですか? それは、とても光栄だと思います。でも、劇中歌を含めて曲を作るのって……はっきり言って、過剰な期待だと思うんですよ。だって、私、今までそんな勉強をしてきていないんです。1曲2曲作るぐらいならなんとかなりますよ。でも、映画音楽ってそんなに簡単なものじゃありませんよね。

 ですから、お話はありがたいと思います。思うんですよ、でも、絶対に無理と言うのもわかっているんです。ですから、このお話はお断りして頂けたらと思っています。


 そう答えたら、光岡さん、とても残念そうな顔をされていました。それでも、私の言うことには理解してくださいました。相手が世界的な映画監督さんだと考えたら、私みたいな素人がしゃしゃり出るのも問題だと思うんです。

 はい、お断りをしてくださるんですね。せっかくのお仕事なのに、ご迷惑をお掛けいたしました。


 惜しかったかなと言う気持ちは確かにあります。でも、それ以上にあったのはここを離れなくても良いと言う安堵の気持ちです。映画なんかに関わったら、しばらくここから離れないといけなくなりますよね。そんなことになったら、立木さんの側に居られないじゃありませんか。

 まてよ、離れる前に思い出が欲しいと言うのもいい手なのかも知れないですね。うん、いい手に思えてきた。


 そんなことを考えていた私が居ました。でもですよ、本当になるなんて予想もしていませんでした。いえ、思い出の方じゃ無くてですね、映画に関わる方の話です。光岡さんが断ってくれたんですけど、監督さんから是非歌を聴かせて欲しいと言う話になったんです。

 その話が光岡さんから朽木さん、そして立木さんにまで伝わってしまいました。もうわかりますよね、その監督さんの前で歌うことになってしまったんです。気持ちはしっかり後ろ向き……だったんですよ。でもですね、立木さんに『素敵な歌を聴かせてください』なんて言われてしまったんです。もう、断れませんよね、断れませんよね絶対に。しかも立木さん、付いてきてくれるって言ってくれたんです。


 それから、それからですけど。光岡さんの知り合いにスタイリストさんが居るんです。その人に美味しく料理されてから、監督さん。ブラット・コルヴァさんと言う有名な人なんですけど、その監督さんの前に連れて行かれました。

 安達さん、ちゃんと英語が出来るんですね……と言うのは現実逃避ですよね。それでその監督さん、なぜか立木さんと握手をして感激していました。立木さんって、思っていた以上に有名人なのかな? それで、私はどこで歌えば良いんですか? 違う、場所を変えると言うのですね。それは良いんですけど、なんでライブハウスにって言って良いですよね。それから、そちらの人は? そうですか、今度の映画で音楽監督される方なんですね。ねえ、話がどんどん大きくなってない? でも、立木さんが見ていてくれるんですよね。だったら私、精一杯歌いますからっ!


 はい、精一杯歌いました。よく歌う2曲に加えて、大谷村で作った1曲も追加で歌いましたよ。こっちはですね、憧れの気持ちを表したものなんです。はい、光の中に出ることは出来ました。でも明るい世界に出たら、もっと素敵な世界があるのを知ってしまったんです。もっともっと素敵な世界がこの先に待っている。だったらもっともっとその世界を見て見たい。その時には、あなたに隣に居て欲しいと言う歌なんです……きゃあっ!

 どうです立木さん、私の気持ちは届いてくれましたか?


 なんてことを考えてステージを降りたらですね、監督さんに抱きつかれてしまいました。それだけじゃ無くて、顔中にキスなんかされてしまったんです。汚されちゃった、汚されちゃったよぉ……立木さん、綺麗にして貰えますか?

 いえ、どうしておしぼりタオルが出てくるんですか? そこはですね、立木さんの口付けで……そうですよね、監督さんとの間接キスなんて嫌ですよね。はいタオル、必要ですよね。でもタオルで顔を拭くと、せっかくのお化粧が落ちてしまうんですよ。お化粧を落とすのでしたら、二人きりでホテルと言うのはどうでしょう。


 そうですか、これから研究所に戻るんですね。でも、監督さんたちが何か議論していますよね。その話、聞いていかなくても良いんですか? そうですか、当分終わらないと言ってくれるんですね。はい、でしたら研究所に戻るのも良いと思います。

 その前にホテルで休憩と言うのは……ない、帰った方がのんびり出来ると言うのですね。そうですか、そうなんですね。でしたら安達さん、私たちはこれで失礼いたします。期待して待っていて欲しい……何を期待すれば良いんでしょう。私の希望、希望ですか。今の生活を続けられるのが希望だったりするんです。




 いや、なんだ。確かに温泉は好きだぞ。好んで入っておると言っても間違ってはおらん。それに、ぬしと二人きりと言うのは願ってもないことだと思っておる。だがな、われはぬしが忙しいのを知っておるのだ。それなのに、われのために無理をしていないか。それが気になって仕方が無いのだ。

 なんだ、忙しいからのんびりしたい。特に心が疲れたので、その疲れを癒やしたいと言ってくれるのか。だったらなぜ慶子ではなくわれを選んだのだ? なんだ、その、恥ずかしいことを言わせるなと言うのは。言っておくが、大魔法使いである前にわれも女なのだからな。好いた男に恥ずかしいことを言って貰いたいと思っても不思議ではあるまい。


「あなたを愛しているから、では不足ですか?」


 そうか、では素直に喜んでおくことにしよう。いかんな、頬が熱くなってしまったぞ。それで今日は、耳を隠しておいた方が良いのだな。だがな、それだとわれはただの醜女になってしまうのだぞ。



 何を驚いた顔をしておるのだ?



「以前から、あなたのことを綺麗だと言い続けているつもりなんですけどね。そうですか、私の言葉は届いていなかったのですか」


 だからキヨヒコ、そこでしょげてくれるな。ぬしが綺麗と言ってくれるのは嬉しいのだぞ。だがな、客観的に見てわれは醜女になるのだ。ああ、何かにつけて『容姿に不自由をしているエルフ』と言われておるのだからな。

 それで、どうして自分を指差してくれるのだ?


「たんなるおじさん……冴えないおじさんと言われていたのですけど、最近はおじいさんと言われるようになってしまいました。それこそ、私の方があなたに釣り合っていないと思っているんですよ」


 だ、だがな、われはぬしのことを好いているのだ。われにとっては、それがすべてなのだぞ……そうか、それはぬしも同じと言ってくれるのだな。ああ、矛盾したことを言っておるのは理解出来た。ただな、それでもシオンと比べてしまうのだ。それにだな、最近はセフィーロも加わったであろう。

 なんだ、嫉妬するところが可愛いと言うのは。あのな、われの方がずっと長く生きておるのだぞ。だからだ、子供を見るような目で見てくれるなと文句を言っても良いと思うのだ。それから、われはシオンと違うのだ。唇を塞がれたぐらいで……ま、まだ、まだ部屋に入ったばかりであろうっ。し、仕方が無い男だな。ち、ちゃんと夜にも体力を残しておくのだぞ。いいか、だからと言っておざなりに済ませるのも許さないのだからな。


 いかんな、つい頬が緩んでしまうぞ。それからだが、確かにわれは『おざなりに済ませるな』とお願いをした。お願いをしたのは確かだが、物事には『過ぎる』と言うこともあるのだ。そ、それからだが、文句を言っておるわけでは無いのだからな。は、恥ずかしいことを口走った気がしただけのことだ。

 それからだが、今更だと思うがここはどこの温泉なのだ? 山形……と言ってもよくわからんのだが。山形市よりもちょっと北……将棋で有名な街の温泉と言うことか。うむ、全くわからんのだがな。それはそれとして、ここはロビーラウンジで良いのだよな。ビールサーバーがあるのだが、あれを飲んでも良いのか?

 なるほど、全部宿代に含まれていると言うのか。しかもこのビールは、宿の敷地で作っておると言うのだな。うむ、中々美味なビールを言ってやろう。ビールにしては、爽やかな風味を感じることが出来るぞ。それにつまみの……空豆の菓子なのか。うむ、絶妙な味を添えてくれておる。なるほど、スィートの方にもラウンジがあると言うのだな。

 それでこれから……部屋付きの露天風呂を使うと言うのだな。それはなんだ、われと一緒に風呂に入りたいと言ってくれるのか。なあ、われに甘えておらんか? む、無論、嫌などと言うつもりは無いのだからな。むしろ嬉しい……ああ、何も言っておらんからな。


 うむ、風呂上がりのビールは最高と言ってやろう。それからこちらのビールは、先ほどのよりもコクが深くなっておるのだな。サクランボのビールの爽やかさも良いのだが、こうしてコクのあるビールも乙なものと言ってやる。

 それで夕食までの時間はどうする? そうか、ロビーラウンジでのんびりとすると言うのか。ああ、あちらの方が座って飲むには都合が良いからな。部屋で差し向かいと言うのもおつなのだが、ゆったりとした空間と言うのも魅力的と言っておこう。なるほど、ここのビールを持っていっても良いことになっておるのか。


 それでぬしは、何を話したいのだ? ああ、われは神話の時代から生きてきたのだからな。悩みを抱えておるものは、それほど星の数ほど見てきておるのだ。だからぬしが何かを抱えておることぐらい察することが出来るのだ。


「私は、急ぎすぎているのでしょうかね」


 そうか、それを気にしていたと言うのか。ああ、確かに、われの目からは急ぎすぎているように見えるな。だがな、われには嫌と言うほど時間が残されておるのだ。だがぬしの場合、活躍できる時間は10年、長くても20年と言ったところだろう……ちょっと待て、われらにはその程度しか時間が残されておらんと言うことになるのだよな。だとしたらだな、今の時間を大切に……

 い、いや、それはまた別の話だな。今の話は、われの基準では急ぎすぎておると言うことだからな。だからぬしの時間を考えると、焦る気持ちも理解出来るのだ。それが、和志とかすみの成長を妨げることになる。ぬしが気にすることも理解は出来るのだぞ。


 だからわれのアドバイス……アドバイスで良いのだよな。アドバイスをするのなら、遠慮など必要無いと言うことだ。ぬしはぬしで、出来ることを精一杯しておるのだ。どうして、手を抜けなどと言うことが出来るだろう。それはな、ぬしに対する侮辱にもなるのだ。手加減は、同時に和志とかすみへの侮辱にもなるはずだ。

 本山、本山か。奴は、大勢の部下を抱えておるのだろう。ならば、その部下をうまく活用すれば良いだけのことだ。死ぬほど忙しいと言うのは、仕事を抱え込んでおるから悪いのだ。まあ、自分で解決したいと考える気持ちも理解は出来るのだがな。


 それから、ぬしはセレスを気にしておるのだろう? だがな、ぬしの活躍は『仕組まれた』ことだけが理由とは思えぬのだ。むしろ、セレスも持て余しておる気がするぐらいだぞ。そうか、セレスの修正が入るのではと思っておるのか。ああ、その可能性が否定できないのは確かだな。

 ただな、われは疑問を感じるようになったのだ。そうか、ぬしも疑問を感じておると言うのだな。それはなんだ、セレスの立場のことを言っておるのか? なるほど、ならばわれと同じと言うことになるのだな。


 それで……そうか、夕食の時間と言うのだな。普段より早いのだが……なるほど、夕食後にも色々と楽しみがあると言うのだな。なんだ、その、大人のクリームソーダと言うのは。

 なるほど、ぬしのような年代に刺さる企画と言う奴か。うむ、だったらお楽しみは大人のクリームソーダとやらを楽しんでからにしようか。



 ありがとう



 いや、われは何も言っておらんぞ。お礼を言われた気がする……何を今更と言ってやろう。われはな、ぬしのことを愛しておるのだ。そして、ぬしに対して感謝の気持ちを忘れたことは無いのだからな。

 そんなことより、早く夕食とやらを食べに行かないか。なんと、ほかにもここのビールが3種類もあると言うのか。それに加えて、山形の酒も揃っておるのだと。それは楽しみと言いたいところだが、あまり飲み過ぎるなと注意をしてやろう。なんだ、その、酔い覚ましの魔法を期待していると言うのは。期待しておるのは、酔い覚ましだけなのか? なるほど、今日はちょっと無理をしてみると言ってくれるのか。ならばわれも、ぬしの期待に応えなければなるまい。寝かせてやらぬと言うのは、うむ、今更のことと言ってやろう。




モデルは、天童温泉にあるオールインクルーシブの宿だったりします。

良いですよ、地ビールの飲み放題

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