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灰被り物語

村の特産は異世界です


・灰被り物語


 ねえ武見君、ちょっと愚痴を聞いて貰えるかな。嫌だ、生々しそうだから絶対に聞きたくないと言ってくれるの? 大丈夫よ、今回のはライトだと思うし。それに愚痴を言いたいのは、そっちの話じゃ無いんだから。

 そう、それなら聞いてくれるのね。だったらさ、藍香ちゃん『止めてくれっ!』やっぱり被せてくれたわね。大丈夫よ、今のは冗談だから。それから言っておくけど、お父さんのことじゃないからね。


「諸星氏の提案のことか?」


 そうそれ。正確に言うと、お父さんとの雑談で出た話だそうよ。MS器官なんだけど、普通は分析から入るものよね。そりゃあ、一筋縄でいかないのはわかってるけどさ。でも、どうして『移植』って話にいきなりなるのかしら。MS器官の役目を検証するには、有効な手段と言うのは認めるけどさ。


「魔道具が出来たから、と言うことなんだろう?」


 細胞分析の道具だよね、ってお父さんに言われちゃったわよ。確かに、色々と細胞に加工が出来るのは確かよ。それを考えたら、MS器官の移植を考えるのも当たり前だと思うんだけどさぁ。だけど、途中を色々とすっ飛ばしていると思うのよ。

 うん、重要な意味を持っているのはわかっているわ。そもそも、移植できるのかどうかもわかっていないからね。そして移植が成功した場合、移植を受けた私たちの細胞が、どんな性質を示すのかも重要だと思うのよ。


 ねえ、前に身体が幾つあっても足りないって言っていなかったっけ? 間違ってはいない、似たようなことは言ったと言ってくれるのね。あのね、私も同じことを言いたくなったのよ。MS器官自体の分析、そして移植方法の確立、移植された細胞の振る舞い……どれ一つとっても、簡単な話じゃ無いのよ。もうっ、やることが多すぎるって言っていいと思うんだ。

 そう、武見君も同じと言うのね。魔道具の改良……素材をこちらで手に入るもので作る必要があると言うのね。でもさ、それって急がなくても良いんじゃないの? パンの国とかおかしの国とか、買ってあげることで経済が回ることになるよね。


「それは否定しない。ただ、今の素材はかなり脆いんだ。そして、今のサイズでは蓄積できる魔力量が少ないんだよ。これから医療に適用することを考えたら、もっと丈夫で使用時間の長い魔道具が必要になってくる」


 確かに、今は実験レベルの持続性しか無かったわね。だけど、それって素材の話をしているよね。それだったら、シア母さんとかシオンさん、翼人に頼んでも良いんじゃないの?

 もしもし、ひょっとしてその可能性を考えていなかったの? 言われて初めて気がついた……武見君、あなた疲れているのよ。お父さんに言って、温泉にでも連れて行って貰おうか? 暖かくなってきたから、選べる宿が増えたと思うんだ。ええっとお父さん、居たの?


「落ち着いたようですから、新しい宿題を出そうかと思ってきたんです」


 もしもし、今の話が聞こえていたんでしょう? 聞こえていたのなら、どうして『落ち着いた』なんて言葉が出てくるのかしら? 今の話に関係するから……魔道具の素材のことを言ってる? 違う、MS器官の移植の方。うん、身体が幾つあっても足りないって言って良いかな。

 聞いてみたい気もするけど、聞いたら朽木君みたいに踊り出すかもしれないわよ。そう、私たちの状況を理解してくれたのね。取りあえず、慰労を兼ねた温泉旅行を企画してくれるのね。それから釘を刺しておくけど、お酒の場でも宿題の話をしないように……ベッドの中なら聞いてあげても良いかな。


 そう、絶対にしないと言ってくれるんだぁ。ちょっとね、やさぐれても良いかしら。




 もの凄いピンチだと思う。だって、ポストに新しい督促状が入っていたんだよ。このままだと、水道まで止まってしまうことになってしまうの。電気とガスはどうなっているのか、ですか。そんなもの、2ヶ月前に止まっているわよ。

 どう、ピンチと言う理由をわかってくれた。わかってくれても、なんの助けにもならないんだけどね。


 だけど、このピンチを乗り越えないと、弟や妹と離ればなれになってしまうの。無駄遣いをしたのか、ですか。好きだった音楽を諦め大学も辞めましたよ。そして毎日、スーパーでレジ打ちをしています。食費だって削ってるし、着るものなんていつ買ったか覚えてないぐらい。救いと言えば、中学校と小学校のお金が掛からないこと。修学旅行? 行かせてあげたいけど先立つものがどこにもないの。

 それから、スキマバイトだっけ? 当然毎日やっているわよ。


 色々と手を尽くしたんだけど、もう私に出来ることって残っていないと思うのよ……わけじゃないか。うん、私は20歳だし、高校時代には『巨乳』って言われるぐらい胸が大きかったのよ。ウエスト、ウエストだって締まっていたと思う。

 ただね、この前裸になってみて愕然としたわ。うん、自慢の胸が萎んでいたのよ。垂れて……少し垂れ始めてるかな。少しだからね、脂肪が落ちて萎んだだけだから。


 ここまで言えばわかるよね。最後の手段、そう女を売ること……ぼかした言い方だとパパ活とか援助交際。つまり、春を売ると言うことを言っているの。すぐにお金が必要なんだから、もう仕方が無いと言って良いよね。痛いのとか我慢して、天井のシミを数えていればお金になるんだから。

 大悟、杏香、大丈夫。お姉ちゃんがなんとかするから。それから、今夜は久しぶりに美味しいもの……ドナルドでも買ってくるからさ。大丈夫、最後の晩餐とか絶対に言わないからね。


 固い決意の元、レジ打ちが終わってから川崎駅前に来てみました。これだけ沢山人が居るんだから、私を買ってくれる人は一人ぐらい居てくれるよね。贅沢は言わないけど、優しくてお金を持っている人だったら良いな。

 それはそうと、どうやって声を掛けたら良いのかしら? 『私を買ってください』だと、絶対に引かれてしまうよね。一つ間違えたら、警察に通報されちゃうし。慎重に……ああ、みんな私の周りを避けていくぅ。


 うん、うまく行かないのは私のせいじゃないよね。場所、そう、場所が悪かったのよ。みんな、家族の待ってる家路を急いでいるんだよね。だったら、もう少し静かで、人通りの少ないところの方へ場所を変えてみよう。

 それに、ここに居ると辛くなってくるから。だって、駅前ではストリートミュージシャンの人たちが、観客を集めて演奏しているんだもの。こうやって頑張った一握りの人が、みんなに認められてのし上がっていくんだよね。ああっ、あそこの人集り。間違いなく、人気者になってるわ……私の方が絶対にうまいのに。


 そんなことを言っても、音楽は1年前に捨てたんだ。うん、両親が死んで姉弟3人になったときに。それから1年、大学も辞めてずっと働き通し。なにか、最近身体の具合も悪い気がしてきたし。医者? 無保険だし、お金も無いから掛かっていないわよ。弟たちぐらい、なんとかしてあげたいんだけど。


 今は浸っているときじゃないわね。だったら場所を変えて、レッツ花売り娘っ! ああっ、言ってて惨めになってくるわ。

 それで、もう少し駅から離れた場所……飲み屋さんがポチポチとあるあたりに来てみました。ここだったら、酔っ払って気持ちが大きくなってるよね。


 はい、簡単にお客さんが見つかると思っていました。でもね、優しくてお金のありそうな人と言う条件が満たせないのよ。優しいのかどうかはわからないけど、みんなぼろっちい格好をしているのよね。どう見ても、纏まったお金を貰えるとは思えないの。

 そっかぁ、この辺りにあるのは格安の酒場ばっかりなんだ。私にお似合いだけど、問題解決の役に立ってくれないよね。だったら、もう少し高そうなお店のあるエリアに行ってみよう。


 そんなことを考えながら歩いていたら、ちょっと不思議な空間に出くわしました。多分だけど、近くのパチンコ屋の灯りが理由だと思う。建物のガラスに反射して、ちょっと幻想的な光景を作ってくれていたのよ。まるでアイドルのステージのよう。そんな風に見えてしまったの。

 夢は、こんな風にきらびやかなステージで歌うこと。わかってる、それが絶対に適わない夢と言うことなんて。だから、ここで最後の悪あがき……じゃないわね、現実逃避と言う奴かな。偶然出来たステージで、私が作った歌……オリジナルなのよ。それを歌い終わったら、次に会った人に私を買って貰うんだ。お金なんか関係ない……とは言わないけど、ここで捨てることが出来れば諦めも付くと思うから。


 灯りの中で姿勢を正して、差し出した右手を引き上げるようにゆっくりと持ち上げて。顔は心持ち伏せ加減から、右手上がったところで真っ直ぐに正面を見る。


 『こぉのぉ~』


 ああっ、これまであった色々なことが、走馬灯のように頭の中に浮かんでは消えていく。お父さん、お母さん、こんな私を許して。大悟と杏香は、なんとかして独り立ちさせるから。


 『夜を駆けてぇ~』


 これ、自作の中では一番のお気に入り。夜の闇を抜けたら、そこには光り輝く世界が待っていると言う歌。でも私は、もっと深い闇に落ちていくんだと思う。だからこの歌は、私の叶わない夢を歌った歌になっている。


 『光の中に私はぁいるぅ~』


 歌としては会心の出来。でも、誰も聞いてくれる人は居ない……あれっ、いつの間に? おじさん……おじいさんかな。おじいさんが熱心に聞いてくれていた。そう、凄かったって褒めてくれるんだ。それでね、おじぃ……おじさん、お願いが一つあるんだ。あの、私を買って……ああっ怖い人が2人やってきたっ。せっかく勇気を振り絞ったのに、間が悪いと言って良いよね。


 迷惑料って……夜中に大声で騒ぐんじゃ無い。はい、仰るとおりだと思います。でも、私お金なんて持っていないし。


「まあ、私に任せておきなさい」


 でも、おじさんに迷惑を掛けるわけにはいかないし。大丈夫って……どう見ても、おじさん弱そうに思えるんだ。

 はい、そう思っていた私が居ました。そこで私の得た教訓、やっぱりお金ってすべてを解決すると言うこと。大した……今の私には喉から手が出るぐらい欲しいお金だけど、おじさんがお金を少し握らせたら態度が変わってくれました。今日の所は見逃してやる……よく聞く捨て台詞だけど、今はとってもほっとしていたりします。


 どうして、そこで呼び止めたりするの?


 おじさん。帰って行こうとする2人を呼び止めてくれたんです。しかも、追加のお金を握らせたりして。なんです、その興が冷めたと言うのは。せっかく良い気持ちだったのに、今のやりとりで興ざめしたんですか。だから、もう一度私に歌って欲しい。そして歌を聴くのなら、聴衆が一人と言うのは勿体ない……んですか。


「今の歌、とっても感動させて貰ったんです。だから、もう一度気持ちを込めて歌ってくれますか?」


 もう一度歌えば良いんですね。でもですよ、怖い顔が目の前にあるのはちょっと……大丈夫。すぐに気にならなくなると言ってくれるんですか。

 だっ、だったら今から歌いますよ。


 もう一度光の中に立って、顔を少し伏せて右手をゆっくり持ち上げて。うん、開き直りはできたと思う。今は、優しいおじさんの期待に応えないと。


 『こぉのぉ~』


 確かに、怖い顔が気にならなくなった。自分がなぜ歌っているのか、どんな気持ちで歌っているのか。叶わない夢、歌の中なら夢が叶ってくれるんだ……


 『光の中に私はぁいるぅ~』


 ふうっとゆっくり息を吐き出せば、私の短い歌が終わることになる。3人、うち2人は友好的とは思えないけど。たった3人のお客さんに、ゆっくりとお辞儀をすれば最後のステージもお開きになる。あれっ、なんかちょっと空気が微妙。怖いお兄さんたち、何も言わないで背中を向けて居なくなってくれた。てっきり『下手くそ!』って罵倒されると思ったのに。


「多分ですけど、照れ隠しだと思いますよ」


 照れ隠し、なんですか? それで、私の歌はどうでした? そうですか、感動したと言ってくれるんですね。今日はこんな良い歌を聴かせて貰えて幸せ。幸せと言ってくれるんですね。いえ、お礼なんて……ええと、でしたら、なんですけど。

 私の歌を褒めてくれたし、それにお金も持っていそうだし。最悪の中で見つけた希望……って言っていいと思うんだ。このおじさんだったら、私のことを優しく女にしてくれると思うし。お金も……貰えたら嬉しいのは確かなのよ。だからっ


 私を抱いてくださいっ!


 どうしていきなりそんな話になる。やっぱり疑問に思いますよね。そのですね、話すと長くなるんですけど、良いですか? 家で、弟と妹がお腹を空かせて待っているんです。だから、できるだけ早く帰りたいなと。

 矛盾、矛盾したことを言っていますか。ここでホテルに行ったりしたら、明日の朝まで帰れないことになる。そう言えばそうなんですけど、私の家でも良いですか? 弟たちにお金を渡せば、外で時間を潰してくれると思いますから。


 右手で顔を覆って、それから天を仰いでくれました。はい、全くお金がないんです。電気もガスも止まっていて、もうすぐ水道も止まりそうなんです。だからなんです、身体を売ろうと思ったのは。

 どうして歌っていた……ですか。話すと長くなるんですけど……帰り道でお話ししながらでも良いですか? 家に食べ物はあるのか、ですか。無いとは言いませんけど、殆ど無いと言うのが正直なところです。だったら、家に行く前に寄り道をする。銀柳街ですか、そちらを回っていくんですね。それは良いんですけど、銀柳街で何をするんですか?


 ここでご機嫌を損ねたらいけないのぐらいはわかっています。ですから、大人しくおじさんについて銀柳街へ。えっ、ドナルドでセットを買ってくださるんですか。でしたら、こちらの武士道バーガーセットのポテトをLサイズに変更して3セットお願いします。飲み物は、オレンジジュースとコーラ……こちらもLサイズにして良いんですか。

 それから深夜も開いているスーパーに行ってお買い物。贅沢言ってるのはわかっているんです。でも、買ってくれると言うのなら遠慮してはいけませんよね。遠慮できるような余裕もないですし。だから、火を使わなくても食べられるものを選んで買い込みました。おにぎりとかお弁当、これだったら温めなくても食べられます。ミカンとかバナナ……こんな贅沢は久しぶりなんです。プリンも買ってくれるんですか?


 一杯になったレジ袋を両手で下げて、街灯の殆ど無い細い路地裏へ。その間、私はおじさんに身の上話をすることになりました。ありふれた悲劇……多分ですけど、可哀想な自分に少し酔っていたと思います。でもおじさん、何も言わないで私の話を聞いてくれました。

 それで築何年なんだろう、とっても古くて狭いアパートへと到着、はい、あの灯りの付いていない部屋が私たちの家なんです。言いましたよね、電気が止められているって。


 気配なのかな、それとも私の声が聞こえたからかな。鍵を開ける前に扉が開いてくれました。家には灯りが付いてないけど、アパートの外にはおんぼろ街灯が付いているの。だから見えてしまった弟の表情。中2にもなれば、知らない男の人を連れて来る理由なんてわかるんだよね。


「姉ちゃん、杏香を連れて外に行ってくる」


 うん、お姉ちゃんが身体を売る所なんて見たくないよね。だから、残っているお金をあげるから……なんで手を押さえるんですか? 弟たちには知られたく……違う、見せたくないんです。

 私を買うつもりは最初から無い。でも、ここまで来てくれたんですよね? だったら、私に勇気をくれてもいいと思うんです。おじさんに抱いて貰えれば、明日からはもっと気持ちが楽になると思いますから。


「お礼をしたいと言ったつもりなんですけどね。どうして、早合点をしてくれるんでしょう」


 でもですよ。ここで幾ばくのお金を貰ったとしても、なにも解決になっていないんです。春を売るのか風俗に行くのか、もう残された方法が私には思いつかないんです。ただ、最後の一歩が踏み出せないでいたんです。だからおじさんに女にして貰えば、その一歩が踏み出せると思うんです。


「そんな話を聞かされて、娘よりも若い女の子を抱けるはずがないでしょう。今は持ち合わせが無いのでいけませんが、明日も会ってくれますか。場所は……今日歌を聴かせてくれた場所でどうでしょう。そこで歌を聴かせてくれれば、最悪でもあなたを囲ってあげますよ」


 取りあえず手付けって……持ち合わせが無いって言いませんでした? 1万円札が……何枚あるの?


「途中で寄ったコンビニで下ろしたんですよ。限度額が50万だったから、50万円あるはずですよ」


 これだけあったら電気ガス水道料金が払える。ほかにも色々と滞っていた支払いが出来るんですけど。でも、私にこんな価値はないと思います。


「その価値は、私が決めるものだと思いますよ。ただ勘違いと言うこともあるので、明日もう一度確認したいだけのことです。それから心配しなくても大丈夫ですよ。勘違いだったとしても、悪いようにはしませんから」


 本当に、本当にそれで良いんですか? こんなにして貰っても、私は何お礼が出来ていないんです。


「素敵な歌に感動させて貰いました。それが私にとってすべてなんです」


 私の歌を褒めてくださったんですか。はい、明日は絶対にあの場所に伺います。雨が降っても絶対に伺いますからっ!




 立木さん、お帰りなさい。どうです、今日はのんびりとお酒を楽しめましたか? そうですか、お酒はのんびりと楽しむことが出来たんですね。お酒は……ですか。今度は、一体何があったんです?


「訳ありの女の子に関わり合ってしまいました」


 訳ありの女の子……ですか。どんなと聞いたら教えてくれますか? 話すと長くなる、纏めてしまうと身も蓋もなくなってしまう。なんです、それ?


「両親を亡くして貧困のどん底に落ちた不幸な姉弟に関わったと言うことです。その前にですね、その女の子……で良いと思いますけど、とても素敵な歌を聴かせてくれたんですよ。だからちょっと、お節介をしようかなと考えているんです」


 俺の勘違いで無ければ、とっても重要なことを飛ばしていますよね。珍しいですね、立木さんの目が泳いでいますよ。もしかして、援交に手を出してしまったとか?


「かすみちゃんに手を出していないのに、もっと面倒になることをすると思いますか?」


 大上段にそう言われるとですね、普通ならしないと思いますけどね。でも、立木さんって普通が通用しないし。


「一番普通じゃ無い人に普通が通用しないと言われてしまったか……」


 ちなみに、周りの評価は立木さんも俺の側にいますからね。恩恵がない分、もっと得体が知れないと言われていたりします。

 それで、その女の子に手を出したんですか? 流石に相手は娘よりも若い……その娘って、どのお嬢さんのことを言っています。そうですか、陽佳ちゃんより若いんですね。確かに、手を出したら鬼畜と言って差し上げますよ。やぁ~い、鬼畜っ!


「どうして、そんなに嬉しそうなんですか。それから、手を出していませんからね」


 まあ、そんなことだと思いましたよ。ところでお節介をすると言っていましたよね。どんなお節介をするつもりなんですか?


「彼女にもう一度歌って貰おうと思っているんです。ちなみに、その時には光岡君をつれて行くつもりです」


 なんか面白そうと言っちゃいけませんか? 一人の女の子の人生が掛かっている……だから茶化すのは良くないと言うのですか。でも聴衆は多い方が良いと言ってくれますか。女の子……多分家族の人生が掛かっているんですよね?


「弟さんと妹さんは、成否に関わらず救い上げるつもりでいますよ」


 そうですか、だから掛かるのは女の子の人生だけなんですか。それにしたところで、立木さんのことだから見捨てたりはしないんですよね?

 それで、聴衆なんですけど……どうするつもりなんですか? 俺とか光岡氏が行っても、大した人数にはなりませんよね。多い方がって程の数にならないと思うんですよ。


「その辺りは、ちゃんと当てがあるので大丈夫です」


 立木さんが大丈夫と言うのなら、多分大丈夫なんでしょうね。じゃあ明日ですけど、『今日の異世界に行こう!』が終わったところで移動すれば良いんですよね。


「ちょっと仕掛けをしたいので、私は先に移動していますよ」


 なるほど、面白いことにになっているわけですか。ええ、楽しみにさせて貰います。


 それで翌日、指定時間に川崎まで空間移動っと。それで参加者なんだけど、光岡氏は必須として朽木君も参戦してくれました。どうやら『面白そう』と言うのが参戦理由らしいよ。同じ理由で、白船君も参加と相成りました。うん、みんな野次馬根性が旺盛だと思うんだよ。

 俺っ? 所長としてだな、副所長の……はい、しっかりと野次馬になっていますです。


 それで指定された場所に行ったらなんだけど、回り右をして帰りたくなったのは内緒だ。うん、どう見てもその筋の人たちが揃っているんだよ。なんです立木さん、人を見た目で判断してはいけないと言うのは。でもですよ、どう見ても堅気の人には見えないんですよ。


「至極真っ当な、商栄会の方たちなんですけどね。多分ですけど、川崎区だからと言うのが理由なんでしょうね」


 皆さん堅気の方なんですか。なんです、その方は商店街の顔役と言うのは。大谷興業と同じ空気を感じるんですけど。

 それで、どうして商栄会の方たちが集まっているんです。木を隠すには森の中……ちょっとイミフなんですけど。


「諸星さんたちは目立ちますからね。だから、ちょっと目立ちにくくするのを目的としたわけです。彼等が一緒なら、どうしても目は彼等に向いてしまいますからね」


 そりゃあ、迫力満点ですけど。でも、良いんですか? この面子に囲まれたら、平常心を保てるとは思えないでしょう。なんです、それならそれと言うのは。

 ところで何さんとお呼びすれば宜しいんですか。そうですか、鬼頭さんと仰るのですね。なんです、その『仏の鬼頭』って、相手を仏様にすると言う意味じゃ無いですよね。


「立木さんには勝てませんよ」


 そうですか、仏の鬼頭さんでも勝てませんか。『夜討ち朝駆け』をされたんですね。その時点で、全員降参したのだと。おかしいなぁ、立木さんは堅気の会社員だったと思うんだけど。


 あっ、立木さんから来ても良いと言う合図が来た。だけど、本当に行って良いのかな。間違いなく、もの凄い迫力だと思うんだよ。あれっ、鴻池さんいつの間に? そうか、面白そうなことがあると朽木君に誘われたんだ。みんな、野次馬根性が旺盛なんだね。

 それで言われた場所に全員で移動。あの子がそうなのかな。うん、普通に可愛い子……美人の方が良いのかな。だけど、それだけって気がするんだよ。美人と言う意味なら、春夏秋冬(フォーシーズンズ)の方が美人だと思うんだ。スタイルは……胸はあの子の方が大きいのかな。それにしても、その程度だと思うんだよ。


 それは良いんだけど……落ちてるよね、うん立木さんに。帰ったら、小谷さんにも教えてあげよう。ついに立木さんが道を踏み外したって。

 でもこの場所って……そうか、パチンコ屋のネオンが反射しているのか。なるほど、偶然出来たステージと言うことだね。そのステージの中央に立った女の子……そう言えば名前を聞いていなかったな。中央に立ったのは良いけど、本当に大丈夫なのかな。だって周りにいるのって、全員厳つい男なんだよ。ほら、不安そうな目を立木さんに向けて居るよ。しかしいかんな、おかしな癖が付いたかもしれないぞ。今の視線に、ぐっと来るものを感じてしまったんだ。


 開き直ったのかな。そこでポーズを決めて……ちょっと待て。なにか、雰囲気が変わってくれたぞ。あれっ、背中がゾクッときてくれた。えっ、こんな声を出してくれるの? なんだ、なんだ、これっ。心が引き込まれていくんだけど。えっ、もう終わり。心臓がドキドキ言っているんだけど。なんで涙が……どうして俺、泣いてるんだ?

 鬼頭さんたちは、鬼頭さんたちも魂を抜かれたような顔をしているよ。だったら光岡氏は……怖い顔をしているな。鴻池さんも、随分と真剣な表情をしているよ。あっ、立木さんが彼女の所に近付いていった。お陰で魔法……魔法と言っていいと思うんだ。魅了の魔法が解けたような気がしたよ。でもさ、もう一度魅了の魔法に掛かってしまったよ。だって彼女、とっても良い笑顔を立木さんに向けているんだ。なんかさぁ、嫉妬ってこう言うものだって思ってしまったよ。


 それでもう一曲。もう一曲聴かせてくれるんだね。それでどんな? 恋の曲……高校の時に作った曲なんだね。




 昨夜のこと。そう昨夜のことなんだけど、散らかったゴミを見て現実だと知ることが出来ました。そうか、夢じゃ無かったんだ。久しぶりに、弟たちにもお腹いっぱいご飯を食べさせてあげられたわ。しかも、今日もおじさんに会えるんだよね。おじさん、今日は私のことを女にしてくれるのかな? だって私に出来るお礼って、これぐらいしか思いつかないんだもの。

 どうしたの大悟。何か言いたいことがあるの?


「お姉ちゃんが綺麗だなって久しぶりに思えたんだ。違うか、今までで一番綺麗に思えたんだよ」


 ええっ、今は寝起きの顔をしてるよ。それに、髪だって手入れしていないし。


「そりゃあ、そうかもしれないけど……今日の姉ちゃん、なんか綺麗なんだよ」


 う~ん、自覚はないんだけどな。杏香、今日のお姉ちゃんって綺麗? そうか、杏香の目から見ても綺麗に見えるんだ。

 それはそうと、お小遣いをあげるから銭湯に行ってらっしゃい。多分だけど、またおじさんに会うことになると思うから。大丈夫、して貰うときはホテルだっけ、ホテルを使って貰うからね。


「なあ姉ちゃん、嬉しそうって言っちゃいけないか?」


 べ、別に、嬉しいってことは……ちょっとあるかな。あのね、私の歌を褒めてくれたんだよ。感動したから、今日も聞かせて欲しいって言ってくれたんだ。お金だって、昨日たくさんくれたのよ。


「それって、御妾さん……愛人契約って奴じゃないのか?」


 愛人契約……否定はできないけど。でも、風俗よりはマシだと思うのよ。だって、相手はおじさんだけで良いんだからね。


「なあ姉ちゃん、俺高校に行かないで働くからさ。あと1年、なんとか今まで通りやっていけないかな」


 あと1年……言いたいことはわかるけど、多分、違うわね。絶対に無理だと思ってる。だって、このままだったら今月中に水道が止まるんだよ。家賃だって滞納しているし、食費だってカツカツなんだもの。

 それにおじさん、私には優しい人に思えたもの。だって、怖い人に絡まれそうになったのを助けてくれたのよ。私なんて助けても、何も良いことはないと思うんだよ。それに愛人にするんだったら、昨日だってそのまま帰っていかないでしょ。


「やっぱり、俺にはよくわからない」


 私だって、全くわかっていないわよ。でもさ、今より悪くなることはないと思ってる。あのおじさん……そう言えば名前を聞いていなかったわね。ちょっと不安になってきた……


 それからスーパーのレジ打ちをして、駅のトイレでお化粧直し。と言っても、100均で買ってきたお化粧品なんだけどね。それでお化粧直しをしてから、昨日の場所へと急ぎました。言われた時間よりもまだ早いんだけど、なんだろう、逸る気持ちを抑えることが出来なかったの。

 レジ仲間のおばちゃんに、『何か良いことがあったの?』って聞かれちゃった。大悟には悪いけど、間違いなく私は浮かれていると思う。おかしいな、私はふけ専……良いんだよね。年寄り趣味なんて無かったはずなのに。


 でも、ここってあまり雰囲気が良くないような。さっきから、ちょっと怖そうな人たちが通っていくのよ。私こんな場所で夜に大きな声を上げていたの? 今更だけど、よく無事に帰れたと思うわ。

 それから1時間して、おじさんが現れてくれました。すっぽかされると思った……絶対にすっぽかしたりしませんから。だって、まだおじさんにして貰っていないんですからね。その話はしないように、なんですか? それで、始めても良いですか?


「ほんのちょっとだけ待って貰えますか。やっぱり、聴衆は多い方がいいと思うんですよ」


 聴衆が多い方がって、ここって結構人通りが少ないし。何か怖い人ばっかり通るんですけど。ええっと、その怖い人が団体で来てくれました。ひょっとしておじさんって、その筋の人なんですか? でも大丈夫です、今日は情婦になる覚悟も決めてきたんですからね。

 だけど、改めてみてみると汗臭いと言えば良いのか、脂臭いと言えば良いのか。本当に怖い人ばかりなんですけど。私、本当にこの人たちの前で歌うんですか? でも、おじさんが見ていてくれるんだったら、私精一杯歌って見せますから。良いですか、じゃあ、歌いますからね。すぅ~っ


 『こぉのぉ~』


 なにか、昨日よりも気持ちよく声が出てくれる。だって、おじさんが見ていてくれるのがわかるから。


 『夜を駆けてぇ~』


 今までは、闇しかなかったと思ってる。だけど今は、闇の先に明るい日差しがあるのを信じることが出来るようになったんだ。だから、もっともっと気持ちを込めて歌い上げてみせるっ!


 『光の中に私はぁいるぅ~』


 今までで一番の出来だったと思う。おじさん、私を見ていてくれた? 素晴らしかった……本当にそう思ってくれるんだ。うん、もの凄く嬉しいよ。それでね、もう一曲聴いて貰っていいかな?

 勿論。楽しみって言ってくれるんだね。これはね、今の私の気持ちを現したものなんだ。作ったのは良いけど、恥ずかしくて歌えなかった歌なんだよ。でも、今ならちゃんと歌えると思う。


 『何もない、落ちていくだけの目覚め』


 汚泥にみまれていた昨日までの私。未来なんて、絶望しかないと思っていた昨日までの私。目が覚めるのって、本当に辛いと思っていたんだよ。でも、そんな私が変わったと思うの。だって、今日という一日が楽しみに思えたんだよ。ずっと、おじさんに会えるのが楽しみだったんだ。


 『光の中にあなたがいる~』


 そう。私を包んでいたドロドロとしたもの。膜が張ったような私の視界。それが今、くっきり晴れ渡ってくれたの。そして私の前にはあなたがいる。だから……


 『あなたといる未来が欲しいぃ~』


 うん、沢山の聴衆なんて要らない。おじさんが聞いてくれているだけ、それだけでいい。




 立木さん、責任の取り方って知っていますか? もうね、これって責任をとらないといけないと思うんだよ。白船君、白船君もそう思うよな。だって今の、間違いなく求愛の歌だよ。翼人の歌う、酷い求愛の歌とは全然違っているんだ。だって魂、そう魂から求めているのがわかってしまうんだよ。

 歌……歌は凄いと思う。立木さんに嫉妬してしまうぐらい凄いと思うよ。だって俺、あの子に恋しちゃったと思うから。なんかさぁ、胸がきゅんと苦しくなるのを感じちゃったんだ。もっともっとあの子を見ていたい、もっと歌を聴かせて貰いたい、あの子の微笑んだところを見て見たいと本気で思っちゃったんだよ。この気持ち、超越することが出来ないんだ。それに、超越したいとも思えないんだよ。だって今の気持ち、忘れていた甘酸っぱい気持ちを思い出させてくれたんだ。


 ええっと光岡さん、鴻池さん、難しい顔をしてどうかしたんですか? なにか、問題があったんですか? ああっ、光岡さんが頭を掻きむしっているよ。い、いやね、人相がもっと悪くなるから止めた方がいいと思うんだよ。


「なんで、こんな逸材を隠していたんです?」


 いや鴻池さん、隠していたって言われても。立木さんだって、昨日知り合ったばかりだと言っていたんだよ。どうして誘ってくれなかったって言われても……でも、こうして鴻池さんもここに来ていますよね? 朽木君が教えてくれなければ来ていなかった。それにしても、立木さん絡みの面白い話としか言われていない……

 仕方が無いだろう、俺だってこんなに凄いなんて思っていなかったんだから。立木さん、光岡さんに見せることしか考えていなかったみたいだし。俺たち、俺たちの役目は賑やかしの枯れ木なんだそうだよ。


 それで鬼頭さん……どうして泣いているんですか? 感動した、それ以上の言葉が見つからないと言ってくれますか。それからそこの人……どうしたんです? 昨日の自分が恥ずかしい。だから、貰ったお金はのしを付けて返したい。ええっと、それ、日本語として間違っていますよ。学がないだけ、けして悪気があって言ったわけじゃないんですか。ええ、なんとなく気持ちは理解出来るんですけどね。


 それで……立木さん、その子を連れてどこに行くつもりですか。なんです、身の振り方の相談をしに行くと言うのは。近くにラブホがあるので、取りあえず汗を掻いてから話をすると。あんな歌を歌わせた以上、男として責任をとるつもり……そうですか、責任をとるんですね。良い心がけだと言ってあげましょうか。でもですね、



 ちょっと待てやっ##



 ああっ、なんか任侠ものが降りてきてしまったぞ。ねえ立木さん、あなたを殴っても良いですか。泣いて謝るまで殴っても良いでしょうか。だよな白船君、君もそう思うだろう? そうか朽木君も同じ考えなんだね。なんかさぁ、俺の中の男が、絶対に許すなって叫んでいるんだよ。ほら、鬼頭さんたちも怖い顔をしているんだよ。

 ここにいる全員、その子に恋をしてしまったんだ。それなのに、立木さんが男として独占する? 本気で強制力を使って差し上げましょうか?


「だとしたら、彼女、敷島藍香さんをどうするつもりですか? 彼女の事情は、簡単ですけど昨夜お教えいたしましたよね? 曖昧な答えは、今は求められていないんです」


 そこで立木さん、光岡さんを見てくれたよ。そうか、芸能部門は光岡さんの受け持ちだったね。


「俺に、預けてくれるのか?」

「あなたが現場の責任者ですからね。副所長だからと言って、頭越しに決めるのは良くないと思うんです。しかも芸能界のことは、私にはわからないんですよ。あなたのメガネに適わないと言うのなら、無理強いなんてするつもりなんて無いんです。その時には、彼女には愛人になって貰いましょうかね」


 だから藍香さんだったかな、そこで大きく頷かないように。今のだけで、立木さんが随分と敵を作ったことになるんだからね。タヒねじゃなくて、このままだと全員が実力行使するのを厭わないからね。

 ああっ、光岡さんが頭を掻いているよ。大丈夫かな、さっきより顔が怖くなっているんだけど。


「だが、どう言う立場を用意するんだ。今の仕事で、彼女が入り込むところは無いよな?」

「今の仕事では、あなたは使われる立場でしかありませんからね。ですからIMO研究所として、彼女を獲得する価値があるのかどうか。あなたに求められるのは、その判断を行うことです。価値がないと言うのなら、私が愛人『待てっ』被せてくれましたか」

「俺に、プロデュースさせてくれると言うのか?」

「そう聞こえませんでしたか? 夕方の5時から6時だけでは暇を持て余すことになりますよね?」


 ああっ、これって思いっきり嫌味だよな。俺、悪戦苦闘している光岡さんを知ってるもの。


「彼女を採用して良いのか?」

「諸星さんがうんといえば、研究所としては決定になりますね。勿論、藍香さんの意思が第一ですけどね。愛人の方が良いと言うのであれば……そろそろ自分の身が危なくなってきたようです。ですから、真面目にお答えしましょうかね。藍香さん、IMO研究所……つまり、『今日の異世界に行こう!』のチームに加わってくれますか?」

「私なんかで良いんでしょうか?」

「あなたが欲しいんですよ」


 うん、言っていることは間違っていないよ。でも、その言い方って絶対に誤解を招くよね。と言うのか、誤解させようとしていますよね。ねえ、誑しって言って良いですか?


「こう言うことは、はっきりと言ってあげるのが良いんですよ。それで藍香さん、答えを教えてくれますか?」

「私の気持ちは、私の気持ちは決まっているんです。でも、弟たちはどうなるんでしょう?」

「仏の鬼頭さん、あなたを頼っても宜しいですか?」

「私が手を出すまでもないと思うんですけどねぇ」


 ああっ、鬼頭さんが苦笑を浮かべているよ。でもなんで、鬼頭さんを頼るって話が出るんですか?


「鬼頭さん、身寄りの無い子供の面倒を見られているんです。だから、『仏の鬼頭』って呼ばれているんですよ。ですので、一時的に弟さんたちを保護して貰うこともあるのかなと。そうすれば、今の学校に通い続けられますからね」


 ええっと、いつの間に調べたんです。それから……なんで慶子さんがここに? それに、その子たちは誰なんですか?


「大悟、杏香っ!」


 つまり、藍香さんの家族と言うことですか。ねえ立木さん、どこまでが演技だったんですか? なんです、彼女の歌に感動したこと以外と言うのは。囲うとか囲わないとか、色々と言っていましたよね。


「納得の出来る理由を与えてあげただけですよ。無償の善意なんて、普通は信じられないですよね?」


 無償の善意と言ってくれますか。それを言われたら、確かに信用なんか出来ませんね。身体目当てと言われた方が、仰るとおり納得しやすいと思います。

 でも今回のこと。うまく行かない可能性もありましたよね。もしも光岡さんが認めなかったら、どうするつもりだったんですか? なんです、方法ならいくらでもあると言うのは。


「彼女を、IMO研究所の事務員として雇う手があります。ほかにも、大谷村で採用して貰う方法もありますね。後は川崎市の福祉を利用するのですが、これは市会議員だった諸星さんの方が詳しいのではありませんか?」


 俺の方が詳しい……確かに、生活保護から養護施設収容とかありますね。でも、それぐらいのこと、彼女だって知っていたのではありませんか? 普通の生活をしていると、セーフティーネットのことを知る機会は少ない。知らなければ、頼ることも出来ないと言いますか。

 それはそうと、彼女が騒動の元になるのは理解していますか? 彼女、間違いなく立木さんに恋をしていますよ。なんです、恋を知ることで成長できると言うのは。


「言葉の通りなんですけどね。それから、IMO研究所に来たら、忙しくて惚れた腫れたなんて言っていられませんよ。かすみちゃんなんて、身体が幾つあっても足りないとぼやいているぐらいですからね」


 知りませんよ、ストレスのせいでおかしな行動に走っても。でも、まあ、御衣黄さんだったら問題ないかな。今更、俺ってこともないと思いますから。

 大丈夫。絶対に逃げ切ってみせる、ですか。出来たら良いですね、と言って差し上げましょうか。どちらかと言えば、俺は御衣黄さんの味方ですからね。




シンデレラストーリーです

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