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本当に年度末

村の特産は異世界です


・本当に年度末


 『終わりましたぁ』と声を上げたのは立木さん。そして何が終わったかと言うと、IMO研究所初年度の締めのことを言っていた。ここまで受け取ったお金の集計と出ていったお金の集計。それを付き合わせて、現預金との整合。それから食材とかの仕入れで使ったお金の整理……領収書とかの突き合わせもしたんだ。バス会社からの請求書……そう言えば、何度か観光バスのチャーターもしていたね。宴会代も計上しておく必要があるのか。

 勿論、この仕事は立木さんだけがしたわけじゃ無い。当たり前だけど、後沢のところから人が手伝いに来ていたし、そこで使っている税理士事務所にも纏めて貰っている。それでも、1年目のIMO研究所には、税務処理のベースが存在していない。そこから纏めるのだから、かなりの手間が掛かったと言って良いと思う。うん、俺には絶対に無理と言わせて貰う。


「そんなもの、私だって無理なことなんですけどね」


 でも、結局やりきってくれましたよね。だから立木さん様々なんですよ。ちなみに753プロの話だけど、採用の決め手は立木さんなんだけど。それ以降は、殆ど関わっていなかったりするんだ。それは名前の長い国も同じで、そちらは老人グループに任されていたりした。

 うん、友池さんが助けを求める目をしていたのは気づいているよ。でもね、年度末の締めの方が重要だからと、5人……正確には10人なんだけど、必死になって頑張って貰ったよ。来年度は、優秀な経理担当者を連れて来ないと立ち回らなくなるよな、これは。


 それで『今日の異世界に行こう!』の引き継ぎだけど、今のところ問題なく進んでいるよ。あの社長……今は、ウチの一部門になったんだけど、あの社長には手こずらせて貰ったけどね。手こずったと言っても、手を煩わせたのは俺じゃ無いんだけどね。あの事務員の女の子……本田さんが奮戦してくれたよ。少なくとも、テレビで寡黙と言うのは欠点でしか無いんだ。表情作りから始まって、相づち以上の反応をするように仕込んで……本当に仕込んでくれたんだよ。まだまだ笑顔がぎこちないけど、個性だと思ってそれ以上触れないことにした。

 それからアイドルユニット春夏秋冬……って書いてフォーシーズンズって言うらしいんだけどね。その4人は、すっかり集落に馴染んでいたりする。今時の若い子って、思った以上に逞しいんだね。時間の合間を縫って、ハイエルフたちとダンス談義なんかしてくれてます。


「どうです、4人の仕上がり具合は?」


 そんなことを俺に聞いてわかると思いますか? 俺からしてみれば、凄いとしか言い様がないんですよ。勿論、ハイエルフたちと比べればまだまだなんですけどね。ダンスのうまさだったら、春陽ちゃん、真冬ちゃんが凄くて、秋保ちゃん、夏美ちゃんが少し劣っているらしいですよ。それでも、俺にしてみればみんなうまいと思いますよ。


「そうですか、だったら心配は要らないのですかね」


 もしもし、何か心配しなくちゃいけないことがあるんですか? ひょっとして、感情的なものを言っています?


「いえ、桐谷さんなんですけどね。左足首に爆弾を抱えているんですよ。彼女は小さい頃にフィギュアスケートをしていて、ジュニアで国際大会に出るぐらいの実力があったようです。ただ練習中に他の選手と接触をして、左足首を複雑骨折、そのまま引退となったそうです。だから足のことを心配したのですけど、心配無さそうと聞いて安心したと言うことです」


 そのですね、いつの間にそんなことを調べたんです? なんです、その検索のプロと言うのは。


「あの子、ほかの3人と比べて頭一つ飛び抜けていますよね。それなのに、どうしてあんな潰れかけの事務所にいるのかが気になったからと言うことです」


 それで、理由はわかったのですか? そうですか、流石にそこまではわかりませんよね。はい、安心させていただきました。


「そのうち、光岡課長から話でも聞くことにしますよ。まあ、あまり急ぐ話でも無いのは確かですね」


 今優先するのは、『今日の異世界に行こう!』の方ですからね。今の役割からしたら、ダンスが役に立つのはもっと後と言うのは間違っていないと思います。

 それはそうと、例の発表ですけど定例会でするんですか?


「本山が、さっさと発表しろと煩いんですよ。発表しないと、治験が続けにくくなるのだそうです」


 そうですか、本山名誉教授から催促が入ったと言うことですか。でもですよ、発表したりしたら大騒ぎになりませんか?


「それは、いつ発表しても同じことですね。それだったら、大ネタをいくつか被せた方がマシでしょう」


 大ネタ……つまり、『今日の異世界に行こう!』関連と魔法関連と言うことですか?


「MCの交代、招待枠を各国に広げる、そして魔法技術の発表。魔法技術については、公開を急ぐ理由がほかにもあったと言うことです」


 本山名誉教授のプレッシャー以外に理由があるんですか?


「年末に施設の慰問をしましたよね。そこで魔王様が、交通事故で歩けなくなった子供の足を魔法で治したんです。番組での公開は控えていましたけど、治療を懇願する多くの手紙が送られてきているんですよ。このまま無視を続けると、恨みを持つ人を作ることになります。それを緩和するため、魔法治療技術の公開が急がれたわけです。ちなみに治療の魔道具ですが、IMO研究所の商材になりますのでご心配なく」


 治療とは言っても、魔道具をばら撒いても良いものなのですか? 絶対に、悪用を考える奴が出てきますよね? なんです、その対策済みと言うのは?


「これが、問題の魔道具なんですけどね。機能制限がない状態では、こんなことが出来たりするんですよ」


 えっと、立木さんの姿が消えたんだけど。ひょっとして転移魔法? 魔道具で、そんな真似まで出来てしまうんだ?

 流石に驚いたのだけど、もっと驚いたのは『空間転移検出装置』に引っかからなかったこと。理由は立木さんに聞かないとわからないんだけど、これって大きな問題じゃないのかな?

 あっ、立木さんお帰りなさい。


「ただいま……と言うのは良いのですけど。流石に、この状態でばら撒くのは問題が大きすぎるんです。かすみちゃんが問題に気づいてくれたので、武見君が術式に制限を加えてくれましたよ。後はですね、消費量に応じて魔力の充填が必要なんです。充填部分に保護を掛けていますから、悪用されても使用制限が掛かることになります」


 そして、魔力充填でもお金を取るんですよね? いえ、あくどいなんて言いませんよ。正当な経済行動だと思いますから。そうか、これでIMO研究所の本業でも稼ぐことが出来るんですね。なにか、感慨深いものがあるんだよなぁ。


「研究の方向がぶれている気がしますけどね。この辺りは、武見君が来てくれたお陰だと思いますよ」


 それは確かですね。そしてそっちも、立木さんのバグっている出会いが理由になっていると思うんですよ。ですので、これからも適当に飲み歩いてください。まだまだ、人材の受け入れ余地が沢山ありますからね。


「出来れば、のんびりとお酒を楽しみたいんですけどね」


 当分諦めてくださいとしか言いようがありませんね。ところで、御衣黄さんの研究の方はどうなっていますか?


「予想通り難航していますよ。理由の一つとして、今回の魔道具が邪魔をしてしまったと言うのもあるんですけどね。まあ、あっちは気長にやっていくしかないと思っているんです。今回の魔道具だって、解析の道具立てと言う意味もあったりするんです」


 魔道具で細胞操作ができるんでしたよね。そうか、操作ができるのなら加工も出来るのか。MS器官でしたか、その移植も可能なんですよね。なんです立木さん、こめかみを押さえたりして。


「その発想を、かすみちゃんにして欲しかったんですよ。まだちょっと、頭が固いのかなぁ……」


 今のは、単なる思いつきを口にしただけですからね。逆に、何も知らないから言えただけと言うのもあるんです。そうですか、この研究にはそれが重要と言ってくれるんですね。なるほど、適当に言ったことに意味がでることもあるわけですか。


「適当は言いすぎにしても、通常のアプローチではダメと言うことです。流石にこれは無いよなと言うことに、だったら何がダメなのか、もうちょっと変えたらいけるのかな? と試行錯誤をして欲しいんですよ。ちなみに先ほどの転移は、SFを参考にしています。以前SFオタだったとお教えしましたよね?」


 その設定って、まだ生きていたんですね。ええ確か最初の時でしたか、その時に教えていただいた気がします。それでですね、SFから空間転移技術を持ってきたんですか? それって、流石に非常識と言って良いと思いますよ。


「十分に発達した科学技術は、魔法と区別が付かないと言います。イメージはSF映画から持ってきて、数学的考察はティアに頼りました。その結果、シアたちとは違う空間転移を開発した……のかな。空間転移検出装置に引っかからない転移技術が出来たと言うことです。力任せでない分、魔力の消費は少ないと思いますよ」


 やはり、非常識に思えてしまうんですけど。なんです、その『非常識に非常識と言われた』と言うのは。


「諸星さん、カタリナ王女とセフィーロさんを召喚しましたよね? 『すぐに、ここに来るように』でしたか。その命令だけで空間転移をさせる方が、よほど非常識だと思いますよ。一応私のは、科学的裏付けを持ったものなのですからね。その裏付けにしたところで、ティアを頼ったものなんです。まあ、諸星さんの能力については、ぶっ飛びすぎていて分析できないのも確かですけど」


 ぶっ飛びすぎ……ですか。なんです、妄想ならあると言うのは。検証できない仮説は、ただの妄想でしか無いと言ってくれますか。つまり、俺の能力に何らかの理由が付きそうと言うことですか?


「妄想なら、と言うことですよ。それが正しいのかどうかわからない以上、でたらめである可能性もあるわけです。むしろ、でたらめの可能性の方が高いぐらいですね」


 そうですか、立木さんでも無理なんですね……でもじゃない、自分程度では太刀打ちの出来る話じゃ無いと言ってくれますか。




 年度末だからと言うことではないのだが、定例会見は大盛況となってくれた。うん、内外から1000人近いマスコミが詰めかけてくれたんだよ。流石に大谷村役場のホールだけでは足りないので、白鹿村のホールを借りることにしたよ。


「本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。これより、今年度最後のIMO研究所定例会見を行います。まず所長の諸星より、ご挨拶をさせていただきます」


 最初は立ち席と言う話もあったんだけどね。それだと万が一のことがあるからと、椅子を置くことにしたんだよ。だから白鹿村の協力も貰ったんだけど、それでもホールは満員御礼の状態になっている。その満員のマスコミ関係者を見ながら……うん、俺も随分と場馴れをしたと思うよ。あまり緊張しなくなったからね。


「本日は、お忙しい中お集まりいただき感謝いたします。空中分解すること無く、無事初年度を終えることが出来ることを喜んでいます」


 そうなんだよなぁ、昨年度は設立準備だったから、本格的な稼働は今年度になってからなんだよ。そして今年度は、竜人の襲来とか魔王城出現、新たな異世界との交流開始、エリシオンさんの襲撃、高校生拉致事件と色々とあったと思っている。どれ一つとっても、対応に失敗していたら大惨事になっていたのは確かだと思うんだ。

 その激動……激動と言っても良いと思っているんだ。それを乗り越えたことは、本当に感慨深いと思っているよ。後は、色々と研究の方にも成果があったからね。1年目の研究所だと考えたら、もの凄い成果だと思っているんだよ。


「次に、エンターテインメント部門より報告いたします。なお、色々と事件がありましたが、事件についての発表はありません。勿論、後ほど質問については受け付けることといたします。エンターテインメント部門統括役員朽木より報告いたします」


 あっ、朽木君が緊張してる。うん、こんなに沢山のマスコミ相手の会見って、今までやってきていないからな。


「ではエンターテインメント部門の報告をさせて貰う。エンターテインメント部門として、9月から魔王城並びにブーランジェリー王国の公開を行っている。ただ公開準備……アトラクションとしてなのだが、不十分な状態と言うのは今更のことだろう。従って、本格的な公開は今春からとして、それまでは小学生を対象として無料公開を行うこととした。MHKの協力もあり、この無料招待は成功したと言って良いだろう。そしてMHKの番組も、海外配信が始まっている。その放映権料が、IMO研究所の収益源へと成長してくれた。この場を借りて、MHK並びにMCを務めてくれた安達マミさん、そしてBLTの二人に対して感謝をさせて貰う」


 そこで言葉を切って一歩下がり、朽木君が深々とお辞儀。うん、礼儀として必要なことだよね。


「すでに噂として広まっていると思うのだが、『今日の異世界に行こう!』に関して2つほどリニューアルが行われる。その1つが、番組MCの交代となる。何しろ安達マミさん、BLTともに売れっ子なのだからな。毎日夕方の時間を確保するのが困難な状況となってくれたのだ。従って3人が『今日の異世界に行こう!』を卒業することになった。ただし、これで縁が切れる訳ではないのだからな。各種特番、それからゲストとして来て貰うことを計画している。そして新MCとして、光岡和、本田千早、そして春夏秋冬(フォーシーズンズ)の6人のチーム753を起用することとした」


 そこで後ろに控えていた6人が立ち上がってお辞儀を一つ。大勢のマスコミを前に、流石に緊張……女の子4人はしていないのか。流石と言って良いのかな?


「そしてもう一つ、こちらは海外配信にも絡む変更となる。現在1日100人……引率を含めるともう少し数が増えるのだが、毎日100名程の無料招待を行っている。その無料招待枠を200名に拡大し、拡大した100名分を海外に割り当てることにした。この海外展開には、外務省の全面的な協力を得ていることをお知らせしておく。それに伴って、『今日の異世界に行こう!』の拡大された30分枠を、海外分にも割り当てることにした。なお異世界人の各地訪問は、引き続き行っていくことを強調しておく。そして計画段階ではあるが、国名の長い世界の魔帝国アドベンチャーも企画している。こちらは特殊車両に乗って、魔物を間近に見るツアーと言うものだ」


 おっ、これは初出だったのかな。ちょっとマスコミの間にどよめきが起きたぞ。それから朽木君、してやったりとどや顔をしないように。ただ、公開の方の本命はこれからなんだよ。


「そして、待望の一般公開を4月29日に開始する。抽選で選ばれた1万名……もう少し正確に言うのなら、1万世帯が初日のお客様となる。アトラクションもブラッシュアップされ、魔王城ツアー、ブーランジェリー王国ツアー、エルフの里劇場、王国劇場がコンテンツとして用意される。なお魔王城ツアーでは、魔王ヴェルサティス様のほかに、名前の長い国から魔王プレオプラス様にもお目に掛かることが出来るぞ。運が良ければ、四天王、十傑衆のお迎えも期待できるものとなっている」


 半年寝かせたからね。アトラクションも色々とブラッシュアップされているんだ。『くっ、殺』かい。ちゃんとね、スケジュール表には乗っているよ。ただし、不定期開催になっているんだけどね。


「そして一般公開に先駆けて、前日からホワイトプラザホテル前ゲレンデで前夜祭が開催される。こちらは抽選を行っていないので、誰でも参加は可能となる。ただし入れ物に制限があるからな。キャパシティオーバーになったところで入場制限を掛けることになる。なお、前夜祭に出演してくれるアーティストは現在募集中だ」


 ちょっと準備期間が短い……実は、3ヶ月前に準備が始まったんだよ。だから、かなりドタバタなのは確かなんだ。それに、圧倒的にIMO研究所では人手不足なんだよ。だから前夜祭、オープニングセレモニーに関しては、鴻池さんが全面的に取り仕切ってくれてる。かなり大変な仕事なんだが……『出番が来たっ!』って張り切ってくれてるよ。


「最後に地味な活動の報告をさせて貰う。IMO研究所の地域貢献として、大谷村、白鹿村でボランティア活動をしている。こちらの活動は、小谷をリーダーとして集落の除雪を行うことだ。除雪に参加したのは、竜人、翼人、ハイエルフ、オーク、デモンとなる。地元の放送局でニュースとなったため、ボランティアの参加も進んでいる。それに加えて、ハイエルフ、闇エルフたちがスキー同好会を発足させた。主に大谷村のスキー場なのだが、エルフたちがプロ級の腕前を見せてくれている。スキーシーズンも残り少ないのだが、エルフと一緒に滑りたい者は大谷村が告知するので参加して欲しい」


 そこでハイエルフ、闇エルフたちがスキーウェアで入場。うん、みんな格好良いと思うよ。


「以上がエンターテインメント部門からの報告となる。質問は受け付けるが、すべての報告が終わってからにして貰いたい」


 これで朽木君の出番は終わり。まだ質問が残っているって? 多分だけど、エンターテインメント部門が注目を集めるのはここまでだと思うんだよ。だって、この後の報告がとても衝撃的だからね。


「では研究部門の報告を行います。内部で押し付け合いが行われましたので、私立木から報告させていただきます」


 これ、全員が『無理』ってギブアップしたんだよ。普通ならさ、研究部門統括のオルティアさんが報告する場面なんだよね。そのオルティアさん、『マホウマデホウコクサセルナ』と早々にギブアップしてくれたんだ。


「まず細胞分析について報告させていただきます。以前、魔力影響下で細胞に差異が現れることを報告しています。その続報ですが、MS器官と呼ばれるものの分析が進んでいます。そこで厄介なのは、MS器官が成分として存在しないと言うことがわかったことです。魔力影響下で現出し、魔力の影響を排除すると消失する。ただ単に細胞構造的な器官なのか、はたまた魔力によって接続され現出する器官かの分析が出来ていません。後者の検討には、理論物理学者としてオルティア、アスカの二人にも加わって貰っています」


 謎が謎として更に深まった……これは次へのステップと考えて良いんだろうな。


「もう一つ、各種細胞を魔力影響下に置いた実験を行っています。こちらでは、異世界人とこちらの人間との間で明確な差異を見つけています。具体的には、魔力の無い環境では全く同じ振る舞いをする両者の細胞が、魔力影響下では耐性、寿命で大きな違いを見せてくれました。私たちの細胞は、魔力影響下に置くと細胞分裂する間もなく死滅します。一方異世界人の細胞は、死滅すること無く細胞分裂を行います。さらに細胞分裂の間隔が大幅に伸びることも観測されました。このことから、魔力が寿命に対して大きな影響を与えると言う結論を得ています。こちらの研究は、御衣黄研究員が主導して行っています」

「御衣黄です。今の説明に補足させていただきます。実際の実験サンプルは、ラズライティシア様、インテグラさん、立木副所長、そして私と武見研究員の細胞を使用しました。立木副所長が加えられたのは、副所長に魔力耐性があるのが理由となっています」


 そこで御衣黄さんが、スクリーンに映像を出してくれたよ。うん、ラズライティシア様たちの細胞なんだけど、一見したところ区別が付かないね。


「魔力影響下にないため、MS器官は現出していません。さらに真ん中と右側には、魔力環境下においてもMS器官と命名した器官は現出しません。まずこの状況で細胞の振る舞いをご覧頂きます。時間を1日を1分程度に短縮して表示いたします」


 この映像、俺も始めて見るんだよね。それで……おお、こうやって細胞って分裂していくんだ。


「ご覧頂いたとおり、多少の時間差はありますが、同じ振る舞いをしていると言って良いかと思います。次に、魔力影響下に置かれた場合の映像をご覧頂きます。こちらは、最初の5分を300倍速で表示いたします。そしてその後、3日を1分程度に短縮して表示を行います」


 なんでって言って良いよな。と思って見ていたら、確かにタイムスケールの変更が必要と言うのがわかったよ。だって御衣黄さんたちの細胞、表示を始めてすぐに溶けてくれたもん。あっ、そこで映像を止めてくれた。


「魔力耐性の無い者が魔力環境下に置かれると『魔力酔い』を起こすことがわかっています。今の映像から、人体に対して魔力の与える影響の大きさをご理解いただけるかと思います。そして立木副所長には魔力耐性があるため、同じ時間軸で細胞が溶融することはありませんでした。では、タイムスケールを変更して再度表示いたします」


 最初から再生し直してくれたんだね。うん、御衣黄さんたちの細胞はあっと言う間に消えてくれたよ。でも立木さんの細胞は、持ち主同様しぶとく生き残っているね。おっ、ようやく細胞分裂……溶融じゃ無いんだ。細胞分裂をしてくれたね。でもラズライティシア様たちのは、まだまだ何の変化も出ていないと。


「更に、タイムスケールを変更して頭から再生いたします。30日を1分に縮めた映像をご覧頂きます」


 おっ、まだまだ立木さんの細胞は生き残っているね。それでラズライティシア様たちのは……ようやく細胞分裂をしてくれたんだ。


「ご覧頂いたとおり、魔力影響下ではMS器官を持つ細胞の寿命が桁違いに延びることが確認されました。また魔力耐性を持つ細胞についても、MS器官を持つ細胞ほどでは無くても寿命が延びることが観測されています。以上によりIMO研究所の発足理由、人の寿命に対する挑戦への手がかりの一つを掴んだと考えています」


 おおっ、フラッシュが凄いことになっているね。これでどっかのフリー記者も、三流研究者なんて恥ずかしくて言えないだろう。


「御衣黄研究員に、補足説明をして貰いました。さて、ここからは少し毛色の違った話をさせていただきます。先ほどのエンターテインメント部門にも関係するのですが、年末に異世界関係者に施設訪問をして貰いました。その訪問の中で、魔王ヴェルサティス様が治癒魔法を使ったことを覚えてらっしゃるでしょうか。交通事故で歩けなくなった子供の足を治療し、その子が再び歩けるようになった。これだけであれば、美談と言って良いものだと思います。ですが、ほかにも同じ苦しみを味わっている子供……だけではありませんね。苦しみを味わっている人が大勢日本、そして世界に居るわけです。その人たちにしてみれば、なぜ自分は直して貰えないのかと妬みに似た感情を持つことになります」


 うん、これは当日にも問題となったことだよね。直して貰った子には罪はないけど、同じ立場の人からは妬まれたと思うんだ。


「自分の子供も直して貰いたい。自分の足も治して貰いたい。そんな切実な思いを綴ったお手紙が、『今日の異世界に行こう!』に寄せられています。はがき、手紙が段ボール10箱を越えているぐらいです。今現在、IMO研究所には高度な治療魔法の使い手が5名在籍しています。魔王ヴェルサティス様、大魔法使いラズライティシア様、同じく大魔法使いエリシオン、女神フローリアン、そして諸星所長がその5名になります。その5名のすべての時間を使ったとしても、救える人はほんの一握りでしかありません。更に申し上げると、今挙げた5人は医師資格を持っていないのです。従って、現行法では無資格医療行為となり刑罰の対象となってしまいます。何度も繰り返させていただいているのですが、IMO研究所は日本の法律を遵守しています。従って、無資格医療行為を行うことが出来ません」


 おおっと、ちょっとどよめきが起こったね。立木さんの言っていることは、法律論として言えば間違っていないんだよね。ここを異世界特区に指定して、医師法の縛りをなくせば解決はするよ。それでも、人手の問題は何も解決しないんだ。

 そのことは、何一つとして間違っていないんだ。間違っていないから、大きな問題を含んでいるんだよ。


「魔法を使えば、歩けなくなった子供の足を治すことが出来る。更に言うのなら、難病の治療も可能になることでしょう。それは間違いなく、苦しんでいる方たちにとって希望と言って良いのかと思います。ですが今のままでは、希望は失望に取って代わられることになってしまいます。それは、ここに居る皆さんも理解されていると思います」


 ああっ、全員が立木さんの話に神経を集中しているよ。予感、予感で良いのかな、絶対にこれで終わらせないと言う予感を感じていると思うんだ。


「私たちに対して、異世界技術を独占していると言う非難の声があるのは承知しています。そしてそれ以上に、助けて欲しいと言う切実な思いがあるのも承知しているのです。非難の声は耳を塞げば良いのですが、切実な思いに対して耳を塞ぐわけにはいきません」


 ああっ、会場が静まりかえってくれたよ。期待、期待だよね。なんとかしてくれると言う期待を感じるんだよ。


「その思いに対する回答として、IMO研究所では治療用魔道具を試作しました。この魔道具は医師の方に使用していただくことを前提に設計されたものです。理由は先ほど説明した法律問題もありますが、人の身体に対する理解は医師の方が一番だと考えているからです。この魔道具は用途を医療行為に限定し、医師の思考・音声を元に効果を発動します。魔道具の第一被験者として、当研究所の研究員アスカ・ラングレーが当たっています。彼女は幼少期から極度の近視に苦しんでいました。医師免許を持つ武見研究員が眼科医の指導の下操作を行い、治療を成功させました。アスカ、出てきてくれるかな?」


 そこでアスカさんが立木さんの隣に登場。親子だな、うん。

 それは良いんだけど、こうして見ると凄い美人なんだな、アスカさん。最初に会ったときには、もの凄い形相で睨まれたのを覚えているんだ。あれを覚えているから、今は全く別人に見えるんだよ。


「アスカデス。オカゲデ、ミエナイホウガイイモノマデミエテシマイマス」


 ああっ、立木さんの顔を見ながら言ってくれたよ。多分だけど、オルティアさんのことを当てこすってくれたと思うんだ。違う、立木さんの顔のしわ……なるほどね、うん、見えない方が良いものだよね。


「具体的に何をしたのかと言うと、歪んでしまった眼球形状を修正しています。それに加えて、水晶体の形状も修正しています。その修正作業を、この魔道具だけで行ったと言うことです」


 ここで、魔道具の実物登場。見た目は……何が一番近いと言って良いんだろう。ちょっとセンスの悪い指輪……かな。大きな石の部分が、魔力蓄積と術式が記録されているらしいんだ。指輪の部分は、使いやすいようにするための固定具なんだって。


「この指輪に見える魔道具ですが、魔道具を固定するためのリング部分、そして本体となる石の部分があります。この石の部分に魔力を込め、使用者が命令を与えることで魔法が発動します。ちなみに魔法ですから、結果に対する明確なイメージが必要となります。従って、医師の方に使用して貰うことになるわけです。ちなみにこの魔道具は、使い捨てではありません。魔力を再充填することで、再使用が可能となっています。そして今現在、京都の本山名誉教授にご協力頂き治験の手続きを進めております」


 ああっ、『対象は』って声が上がったよ。その気持ち、とてもよく理解出来るよ。


「質問は後ほどと言いたいところですが。確かに説明が必要なことかと思います。ただこちらについては、本山名誉教授にお任せしているのが現実です。初めは効果のわかりやすい外科的なもの、そして次第に難易度の高い内科循環器へと対象を拡大していくことになるかと思います」


 またまたフラッシュの乱れ咲き。御衣黄さんの時も凄かったけど、今度はそれ以上と言って良いのかな。


「では、本魔道具の開発に関わった者を紹介いたします。先ほど補足説明を行った御衣黄研究員、そして武見研究員、大魔法使いのラズライティシア様、同じく大魔法使いのエリシオンです。ちなみに魔道具製作に関しては、武見研究員がリーダーとなっています」


 立木さんに呼ばれて、4人が演壇に勢揃い。真ん中に武見君と言うのは、貢献度を考えれば当然のことだね。


「魔道具の素材、魔力を込める部分、そして術式を付与する部分はおかしの世界、パンの世界から採取しています。そして使用に適した形に加工するのは、IMO研究所内で行っています。これは形を成形するだけなので、さほど重要では無い工程となります。そして加工された素材に対して、武見研究員が独自の術式を付与いたしました。さらには魔道具の作動に必要な魔力を、ラズライティシア様、エリシオンが充填しました。その魔道具を使用し、御衣黄研究員が各種実験を行っています。その中には、癌細胞を正常細胞に戻す実験も含まれています。多少の怪我ぐらいであれば、治癒魔法を行使して治療することも実現しています」


 そこで言葉を切った立木さん、ゆっくりと会場を見回してくれたよ。


「国、つまり厚生労働省との調整が必要となりますが、治験を行う機関を増やすことを考えています。先ほども申し上げましたが、治療には結果に対する明確なイメージが必要なのです。それに加えて、使い方に対する想像力も必要となってきます。各医療機関で知恵を絞っていただくことで、魔道具を用いた治療方法の開発が進むものと考えています。また魔道具製作ですが、現在は異世界で採取した特殊なものを使用しています。これは、魔力を保持する素材が必要と言うのが理由になっています。その部分に対する改良も、現在ラズライティシア様、エリシオン、翼人たちによって行う計画です。以上、切実な願いに対する、IMO研究所なりの答えを示させていただきました。ご静聴ありがとうございました」


 立木さんが頭を下げるのに合わせて、武見君たちも一斉に頭を下げた。それを迎えるように、今までで一番のフラッシュの乱れ咲きが起きたよ。なんかさぁ、俺もゾクゾクする興奮を感じていたりするんだ。


「年度末の発表として、大きな3点を行わせていただきました。それでは、これから質問を受け付けたいと思います……と言いたいところですが、これだけお集まりいただくと、恐らく明日になっても質問が尽きることはないのかと思います。本来直接質問を受けるところなのですが、申し訳ありませんが質問フォームにて質問を受け付けることといたします」


 不満そうな顔をしているよね。ただね、これだけ集まると、本当にいつまでやっても終わらないと思うんだ。


「質問事項を整理して頂ければ、直接質問を受ける機会を作ることも考えています。その目安ですが、10個程度と考えていただきたい。時間にして2時間程度と言うのが私どもからのお願いとなります」


 おっ、今から1時間だけでも質問を受けて欲しいって。うん、その気持ちは良く理解出来るよ。ただね、本当に1時間で終われないと思うんだ。ええっと……どうして俺の顔を見てくれます? 俺が責任者だから。許可があれば質問を受け付ける……って。俺を悪者にしますか?

 仕方が無いなぁ、質問は立木さんが受けてくれるんだよな。本当に1時間で終わるんだったら受けても良いんじゃないのかな。


「諸星所長より質問を受けよと命じられました。ただ質問時間は1時間に限定させていただきます。1時間を大幅に超過した場合、別途行う質問の機会はキャンセルいたします。質問フォームに対する回答も、ペナルティとしてレスポンスを遅らせていただきます。それは良いのですが……谷上さんがおいでなので質問を仕切って頂くことにします」


 あっ、酔って絡んでいた人だ。第一声がそれは可哀想。だって、思いっきり印象に残ったんだぞ。


「今日は素面の谷上です。ご指名を頂きましたので、私が司会を務めさせていただきます。私の独断で指名いたしますことを最初に申し上げておきます」


 もう、そこら中で手が上がっているんだよな。こんなもの、指名する基準なんて作りようがないと思うんだよ。


「では知っている顔から。科学系に強い旭日(キョクジツ)新聞の茂木さん。質問は簡潔にお願いいたします」

「伺いたいのは3点。魔道具ですか、その安全性をどのように考えているのか。魔道具の数はどれぐらい揃えられるのか。治験を行う機関の選定基準を教えていただきたい」

「まず安全性についてですが、道具自身の安全性として現時点で思いつく制限を掛けてあります。医療行為、及びそれに殉じるもの以外には使えないようにしています。また充填する魔力量を制限することで、暴走してもすぐに魔力が枯渇するようにしてあります。そして結果の安全性ですが、それが治験のポイントになると考えています。なお治験に参加される医療機関に対して、導入教育を行うことも計画しています。そして用意する魔道具の数量ですが、当初100程度と考えています。機関の選定に関しては、申し込み内容で審査することを考えています」

「では、DNN特派員のケント・カベルネ氏」


 おっ、いきなり海外特派員か? つまり、質問の予想をしていると言うことだな。


「チケンノキカンハ、ニホンコクガイモタイショウトナリマスカ」

「IMO研究所として、直接海外窓口を作ることはありません。本件については、外務省に窓口をお願いすることを考えています」

「次は……どうして本山名誉教授がおいでになるのですか? しかも質問って……直接できますよね?」

「この場ですることに意味があると思っているからだ」


 そりゃあ、ここで質問すれば、答えを共有できますしね。


「審査を誰が行うのか。そして魔道具の提供にあたって、費用を請求するのかと言うことだ」

「治験をお願いするのですから、魔道具は貸し出しとして費用請求を行う予定はありません。ただし魔力の再充填に対しては、送料程度の実費を請求いたします。なお、誰が審査をするのかですが……共同研究相手にお願いすることを考えています」


 共同研究相手って、本山さんのことを言ってるよね。ああっ、本山さんの目元が引き攣っているよ。


 それからなんだけど、谷上さんがうまく仕切ってくれたよ。だから約束の1時間にしても、10分程度の延長で終わってくれたんだ。

 そして最後は、盛大な拍手でお見送りを受けたんだ。うん、一人一人空間転移で退場したんだよ。そして最後に、立木さんが締めくくってこれで定例会見は終わり。今回は、とっても盛りだくさんだったと思うよ。




 定例会見が終われば、わかっていると思うけど打ち上げ宴会が待っている。それから後沢、堀内さん、よく来てくれた……なんで俺が詰め寄られなくちゃいけないんだ?


「決まってるだろう。今日の話、俺には一言も相談が無かったよな?」


 研究内容に関しては、確か相談しなくても良かったと思うんだが? 違う、こんな凄い発表をするのなら、事前に教えておいて欲しいと言うのか?


「電話が鳴り止まなかった……インタビュー依頼が捌ききれないほどあった。そう言えば、事前に相談して欲しいと言うのもわかるよな?」


 そうか、それは悪かったな。なんだ、誠意を感じられないと言うのは。誠意と言われてもだな……お前の所も儲かったんだろう?


「明日の株価が怖いと言えば良いのか……ここの所、右肩上がりのストップ高が続いているんだよ。流石の俺も怖くなったと言えば良いのか。ウチの株、IMO研究所には関係していないんだがなぁ」

「俺たちが持っているIMO研究所の株なんだが。売れなくなったと言えば事情がわかるか? 東証からな、上場しないかと内々に誘いがあるんだぞ。ただな、今のIMO研究所は、市場から金を調達する必要が無いはずだ」


 それはだな。確かに立木さんも、剰余金が凄いことになっていると言っていたな。それって、内部留保って奴だよな。


「剰余金と内部留保は正確には違うんだがな。ただIMO研究所は、現金以外の資産が極端に少ないんだよ。結局、入れ物は作ったが研究用の設備を入れてないよな?」


 その辺りは、本山名誉教授の協力で足りているな。それ以外の特製測定器は、今立木さんがメーカーと協力して設計中だ。


「本山名誉教授か……お前の所で、20億ほど寄付したんだったな。だったら、うちからも同じぐらい寄付しておくか」


 間違いなく、喜んでくれると思うぞ。それからだな、新年度になったら更に資金を投入する予定だぞ。何しろ、魔道具の治験もして貰うからな。あと、もっと大変な交通整理もして貰うことになってるんだ。


「だったら、もっと寄付を増やしておくか。それはそうと、今回の仕掛け人は立木氏なのか?」


 それ以外に、誰がこんな真似を出来ると思っているんだ? 設計は武見君だが、『怠けるな』と活を入れられた結果なのだそうだ。手取り足取り、何をすれば良いのか事細かく指導されたと言っていたな。


「そうか、やっぱり立木氏が仕掛け人なのか。なあ孝明、流石におかしいと思わないか?」


 おかしいと言うのは、何のことを言っているんだ?


「ここ最近起きたこと……違うな、立木氏を派遣してから起きたことだよ。大芝教授、宇梶教授、本山名誉教授を巻き込んだこと。竜人を制圧したこととか、空間転移検出装置を作ったこと。エリシオンだったか、その制圧も立木氏がしたんだよな。後は、名前の長い世界の問題も、結果的には立木氏がまとめ上げただろう。そして細胞の研究、魔道具の開発……どう考えても、元IT企業の管理職に出来ることじゃないだろう」


 何を今更……と言ってやる。そんなことは、ずっと前に俺たちの間で言われていたんだよ。

 それからお前の知らないことを教えてやる。その一つ一つの出来事があった後、立木さんが行動理由を説明してくれてるんだよ。その説明を聞いていると、本当に特別なことが何もないんだ。今回の魔道具だって、魔道具自体は異世界には普通に存在しているんだよ。やったことと言うのは、その魔道具に対して汎用性を持たせただけだ。


「だけと言ってくれるのか?」


 説明されてみれば、『だけ』と言っても良いと思うぞ。ただな、ネタばらしをし貰ってようやく理解出来たと言うのが正直なところだ。魔道具を作った武見君にしても、やらされて初めて意味を理解したぐらいなんだよ。最初にボタンを掛けるところ、それを立木さんは軽々とやってくれているんだ。

 だから異常と言うのなら、なんでそんなことを考えるのかと言う部分なんだ。技術的には、たいしたことはないと言っちゃいけないんだろうな。


「それは、技術に何を求めるのかと言うところだな。しかしなんだ、ポトマックコンサルのことと言い、立木氏がいなければどうなっていたんだろう」


 立木さんが居なければ……か? 少なくとも、竜人はここで暮らしていなかったな。そして竜人がいなければ、おかしの世界と接続されることは無かった。エリシオンさんの事件は、彼女の死と言う結末が待っていたと思う。高校生拉致事件……奪還はできたと思うぞ。その代わり、魔帝国が滅びることになっていたのだろうな。それから魔王様たちも、今みたいに打ち解けることはなかったと思う。フローリアンさんにしてもそうだな。だとしたら、異世界ネタの稼ぎもなくなっていたと思うぞ。そもそも『今日の異世界に行こう!』は、立木さん発案なんだからな。

 だから後沢、間違いなくお前のファインプレーだと思うぞ。


「立木さん最大の貢献は、お前をコントロールしていることなんだろうな。菅谷総理も、絶対に引退させるなと俺に言いに来るぐらいだ」


 俺をコントロールしている……か。色々と勉強させて貰っていると思うぞ。それから断っておくが、言いなりになっているつもりは無いからな。ただ、今のところ色々と尻拭いもして貰ってると思う。


「盛り上がってるかぁっ!」


 あの朽木君にしたところで、立木さんが連れてきてくれたんだからな。


「御衣黄にしても、立木さんが居なければ一皮むけていないだろう。と言うのか、まだ何も出来ないでいたんじゃ無いのか?」


 その通りとしか言い様がないな。立木さんが居なければ、本山名誉教授のところでお世話になる話は無かったと思うんだ。大芝教授たちとも、今のような関係を結べていなかったのは間違いない。大芝教授、宇梶教授との関係が無ければ、空間転移検出装置を作ることは無かった。それが無かったら、竜人の襲撃、高校生拉致事件への対応。全部、違うものになっていたな。


「立木氏から、余計な仕事のすべてを取り上げるか」


 ああ、今回も期末処理をして貰ったからな。そこに手が取られたせいで、友池氏たちが心細そうにしていたぐらいだ。


「だったら、うちから経理担当を派遣するか」


 ああ、お願いする……と言っておくのだが。確か立木さん、経理担当と言う触れ込みだったよな。柳の下のドジョウと言うことは無いだろうな。まあ、それならそれで構わないのだが。


「あんな人が、早々いると思ってくれるな。取りあえず、ペアで派遣することにする。今は係長なのだが、課長に昇格させて送り込むことにするか」


 ああ優秀……じゃないな、タフな人をお願いするぞ。それから、遠距離通勤は可だからな。


「遠距離通勤可、か。まあ転移ゲートを使えば、なんの問題も無いのだろうな。ところで転移ゲートなのだが、どこに常設しているんだ?」


 虎ノ門にあるポトマックコンサルの事務所だ。外務省と話をするには、近いところにある方が良いと上申を受けたんだよ。


「だったら、勤務地は虎ノ門と言っておくか」


 それは、流石に阿漕じゃ無いか? 通勤先は間違っていない。ここ、長野の山奥なんだけどなぁ……




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