輝ける色たち
村の特産は異世界です
・輝ける色たち
アイドルを夢見た22歳……それが私と言うことです。見た目ですか、結構いけてると思うんですよ。胸だってそこそこ大きいんですから。それからですね、ウエストは聞かないでくれると嬉しいです。
夢を見た結果、結果を聞いてくれるんですね。そのですね、今は裏方に回っています。いえ、マネージャーなんて高尚なものではありませんよ。零細事務所の事務員と言うのが今の私です。この世界、私程度の見た目は幾らでもいると言うことです。
それでもですよ、大手の事務所だったらまだいいと思うんです。でも実際は、社長一人にタレントが4人の超零細事務所だったりします。どうしてそんなところにと聞いてくださいますか。社長に惚れた……性的にではありませんよ。そりゃあ、ちょっとぐらい考えたことはありますが……ごほん。朴訥で不器用で、それでいてとても優しい人なんですよ……きゃあ。
それはそれとして、私が働いているのは753プロダクションと言います。753とかいて『なごみ』と呼びます。ですから、七五三ではありませんからね。
なぜプロダクション名が『なごみ』と言うかですけど。はい、社長の名前からとっています。ただですね、社長は光岡和と書いて『みつおか なごみ』なんですよ。ええ、男性ですよ。なんか、柔和そうな男の方をイメージしますよね。でもですね、社長……とっても厳ついんです。身長は190センチぐらいありますし、体重も100k越えの巨漢なんです。柔道家と言うより、レスラーと言った方が相応しいのでしょうね。顔を見ただけで、チンピラが逃げ出す迫力があるんですよ。
ただ強面の社長なんですけど、実はとっても優しかったりするんです。そのギャップがですね……いけないいけない、ちょっと私情が交じってしまいました。ちなみにバツ1だったりします。前の奧さんは、前のプロダクションの社長だったかな。
ちょっと融通の利かないところはありますが、人格者として業界では有名だったりするんです。
要領が悪いとも言われてますけど
お前はなんと言うのか、ですか。私のことを知っても、あまり意味がないと思いますよ。ええ、事務員その1だと覚えてくださって結構です。その2はいるのか、ですか。零細事務所ですから、他の事務員なんかいませんよ
ちなみに『753プロ』ですが、所属アイドルが4人と言う超零細だったりします。同じことを繰り返してしまいましたね。それで超零細と言ったとおり、4人……女の子なんですけどね、今現在売り出し中となっています。ですので、経営的には火の車になっています。もう少し現実を見た言い方をすると、倒産まで秒読みになっています。
『意地を張るんじゃ無いのよぉ~』と言うのが前の奧さん、前の事務所社長のありがたいお言葉です。どうやら、潰れたら元サヤを考えて居るみたいですね。あの人、袂を分かった理由を忘れたのかしら?
それで倒産までカウントダウンの753プロですけど、起死回生を狙ってオーディションに申し込んだんですよ。はい、『今日の異世界に行こう!』の新MCオーディションです。
結果、結果を聞いてくれますか? 書類選考には通ったんですよ、ええ、奇跡的にです。ただですね、ちょっと担当者がいけ好かない業界人で、『枕』をしろと要求してきたみたいなんです。うちの社長、そう言うところは潔癖なんですよね。従ってお断りをしたんですけど、そうしたら2次審査前にサヨウナラと言われました。なんです、一次審査に手違いがあったと言うのは? 絶対に、枕を断った報復ですよね、それってっ! ぷんぷん
ただですね、お陰で倒産までのカウントダウンが早まってくれました。
ここまで来たら、もう開き直るしかありませんよね……違いました、諦めるしかありませんよね。それで諦めた社長は、最後にと言って卒業旅行を企画してくださいました。はい、目的地は大谷村……つまり、IMO研究所のあるところですね。最後に遠くからでも見て、思い出に残そうと言うことです。
それはそうとして、うちの社長って結構間が悪かったりするんです。どう言うことかと言うとですね、近場の宿を取ることが出来なかったんです。はい、最後の最後まで格好が付きませんよね。それでどうしたかと言うと、信濃大町駅近くの小さなお宿……一応ホテル形式にはなっているんですけどね。近くにある新しいホテルは、満室で取れなかったのだそうですよ。もう、ここでも間が悪いんですから。
「千早さん、社長はまだ帰ってこないのかしら?」
ああっ、私の名前がばれてしまった。でも、まだ名字はばれてないわよね。うん、大丈夫大丈夫。それから真冬ちゃん、そろそろ帰ってくると思うわよ。
ええっと、今声を掛けてくれたのが桐谷真冬ちゃん。4人の中では最年長の20歳の綺麗な女の子。ちょっと理屈っぽいところはあるけど、運動神経抜群の才女だったりするの……なんで、ウチの事務所にいるんだろう?
「千早っちと駆け落ちをしたと思ったんだけど……千早っちはここに居るのね」
夏美ちゃん。どうして、私が社長と駆け落ちをしないといけないの? 私たち大人だから、駆け落ちなんてする必要が無いのよ。なに、その、場を和ますジョークって。『空気』って、読める?
「裸踊りをして警察の厄介になってたりして」
春陽ちゃん、なぜいきなり裸踊り? それに、まだ2月だから警察の前に風邪を引くわよ。『凍死の方が可能性が高い』って、縁起でも無いことを言わないで。
「あのぉ、電話をしてあげた方が良いと思いますよ。確かに社長は大人ですけど、私たちを放って飲み歩くのは問題だと思います。叱ってあげないといけないと思うんです!」
秋保ちゃん、秋保ちゃんの言う通りね。だったら電話……電話……中々出てくれないわね。だから夏美ちゃん、女の人としっぽりと言わないように。あっ、出てくれた……おじさんの声が聞こえるんだけど?
「社長、お尻大丈夫かしら?」
真冬ちゃん、まだそうと決まったわけじゃ無いから。すみません、これは光岡の電話でしょうか。はい、私本田と申します。そうですか、誰の電話かはわからない。持ち主が、隣で酔い潰れていると言うのですね。
それで、どこで酔い潰れているんですか? 酔楽の家たもん……すみません、場所がよくわからないのですけど。はい、私が今どこに居るのか、ですか。升……大町駅近くの小さなホテルです。そうですか、それだけでわかってしまったんですね。はい、駅前の本通り……わかります。そこの信号から250mぐらい北に行った所なんですね。道路の進行方向の左側……歩道からだと少し奥まったお店なんですね。赤提灯が目印……はい、わかりました。今からすぐに……すみません、着替えてから出ますので30分ぐらい掛かると思います。歩くと10分以上掛かるのですか。寒いから、無理をしなくても良いと仰ってくれるのですね。いえ、そこまで甘えてしまってはいけないと思うんです。
はあっ……と言うことで行ってくるから。ええっと、どうしてみんな出かける気満々なの?
「千早さんだけだと、帰ってこない可能性があるからです」
「真冬ぅ~近くにラブホはないと思うんだ」
「外ですると、間違いなく凍死するから」
ええっとみんな、どうして発想がそっちに向いてくれるのかしら?
「ちはやを身代わりにして連れて帰ってくればいい」
身代わり……身代わりって、なに? 酔っ払ったおじさんは大方エロいことを考えている。社長のお尻を守るため……ねえ、私の貞操だったら失くしても良いの?
「そんなことより、早く迎えに言った方が良いと思うわよ」
そうよね、真冬ちゃんの言うとおりだと思う。今の格好だったら、そうね、コートを羽織れば大丈夫よね。
「コートの中が裸と言うのも素敵だと思う」
春陽ちゃん、私は変態さんじゃ無いんだからね。こんな所でコントをしていないで、すぐに迎えに行くわよっ!
べ、別に、掛け合い漫才をしていたわけじゃ無いんですよ。ただ、ちょっと時間を忘れてしまっただけで。ええっと、何のことかと言うとですね、相手の方が行動が早かったと言うことです。ホテル……旅館かしら、その玄関を出たら男の人が二人……一人は身体の大きな社長ですね。そしてもう一人は、小柄なおじさん……おじいさんかな? そのおじいさんが、身体の大きな社長を支えていました。おじいさん、意外に強いって思ってしまいました。
「おじいさんですか……おじいさんねぇ、おじいさんかぁ」
ああっとおじいさん、ごめんなさい、おじさんが天を仰いでくれました。
「まだ孫は居ないんですけど。まあ、孫が居ても不思議じゃ無い年齢と言うのは認めますよ」
はい、失礼なことを言ったことをお詫びします。それで、ですね。
「あなたたちじゃ、彼を部屋まで運べないでしょう。案内してくれれば、私が抱えていきますよ」
抱えてって……社長、半端なく重いと思います。だからと言って、私たちでも運ぶのは難しいんですけど。ええっと、ここで話をしていても仕方がありませんね。真冬ちゃんたち、先導してくれるかしら。私は、反対側から社長を支えるから。
どこのどなたか存じませんが、もう少しだけ手を貸していただけるでしょうか? 構わない、ここに来て覚悟を決めたと言うのですね。重ね重ね、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。だから春陽ちゃん、千早が身体でお礼すると言わないように。
「元気が良いのは良いんですけど、もう時間が遅いですからね。他の人の迷惑にならないよう静かにしてくれるかな」
はい、仰るとおりです。では、私も支えますから宜しくお願いします。
今日ほどエレベーターに感謝したことはありません。だって、あの重たい社長を担いで、階段なんか上るのは絶対に無理です。間違いなく、二次災害が起きてしまうと思うんですよ。
それは良いのですけど、社長を部屋まで引きずって、ベッドに押し込むことに成功しました。スーツは私が脱がして……ねえ、みんな見てるだけなの? だからと言って春陽ちゃん、パンツを脱がそうとしないの。それからね、私を脱がしてくれなくて良いんだからね。
失礼ですが何さんと仰るのですか。おじいさんですか……ごめんなさいともう一度謝りますから。その、本当に失礼なことを言ったと思っているんです。
ところで教えていただきたいのですけど……居酒屋さんの支払いとかタクシー代はいかほどでしょうか? いらないって……流石にそれは甘えすぎだと思うんです。
「そうですね、お礼を言いたいと思われるのなら……こちらに連絡していただけますか?」
こちらにって……あの、IMO研究所と書いてあるのですけど。これって本物なんですか? 立木さんって、あの有名な立木さんですよね?
「エルフを侍らせてるおじさん?」
春陽ちゃん、それは思ってても言っちゃ駄目な奴だから。ごめんなさい、この子ったら口が悪いんです。事実だから、そう言われても仕方が無い。身内にも、エルフコレクターと言われている。SNSでもタヒねでバズってるんですか。
ええっと、感心するところじゃないですよね。中々個性的で面白い……この子たち、アイドルを目指しているんですけど。
「ほほう、5人組のユニットですか?」
そのですね、私はアシスタント……別名事務員と言います。だから春陽ちゃん、社長の愛人と言わないように。本当に愛人だったら、二人きりで旅していますからっ!
「電話ですけど、気が向いたらで結構ですよ」
い、いえ、絶対に電話をいたします。光岡にもちゃんと言い聞かせて、お詫びを言わせますので。そこで5人揃って頭を下げたんです。はい、揃って頭を下げたんです。問題はその後で起きたんですよ。頭を下げたら、当然頭を上げますよね。でもですよ、頭を上げたらおじいさん……の姿がどこにも無かったんです。
「妖精さん?」
「おじいさんの妖精っていたかしら?」
「全員で夢を見ていたってこと?」
でもですよ、ここにちゃんと名刺が残っているんです。だとしたら、全員で夢を見たってことはないと思うのよ。それから春陽ちゃん、どうして私の脇腹を抓るの? 夢じゃ無いかの確認……それってさぁ、自分の脇腹を抓るものじゃないのかしら?
「痛いの嫌い」
私だって、痛いのは好きじゃ無いのよ。でも、一つだけはっきりしたわね。今のが夢じゃ無いってこと。『ふんすっ』って、だから春陽ちゃん、春陽ちゃんの手柄じゃ無いんだからね。そこでどや顔をしないように!
それでですね、社長を置いて全員自分の部屋に……だから春陽ちゃん、私は別の部屋ですからね。後でこっそり戻ってくる……そんな真似はしませんよ。
それで部屋に戻ったのは良いんですけど、眠れませんよね。だって、相手はIMO研究所の副所長さんなんですよ。ウチの社長、どれだけ失礼な真似をしたのか。あとはですね、電話をしたら何が起こることになるのか。そんなことを考えていたら、眠れるはずがありませんよね、普通。
それで朝起きて部屋を出たら、なぜか全員と顔を合わせました。ええ、みんなぐっすりと眠ってくれたようです。神経が太いと言えば良いのか、大物と言えば良いのか、さも無ければ鈍感? それで肝心の社長なんですけど、ノックをしたらドアを開けてくれました。
なんと言えば良いのか……酷い顔をしていますね。普段の怖い顔もなんですけど、更に今日は酷くなっているんですよ。だって髪の毛はぼさぼさですし、顔には枕なのかな、跡がしっかり付いていたんです。でも、本当の問題は顔色がもの凄く悪いことですね。もしかして、二日酔いですか?
「いや、昨日のことなんだが……隣で飲んでいた人に絡んだことを思い出したんだ。ただ、そこまでは覚えているのだが、ここまでどうやって帰ってきたのか全く覚えていない。それで持ち物を確認したのだが、財布の中からこんなものが出てきたんだ……」
こんなもの、こんなものですか。名刺なんですけど、ペンで書いてあるメッセージが問題ですね。ええ、IMO研究所副所長立木さんの名刺なんですけどね。メッセージで、『逃げないように』なんて書いてあるんです。『逃げないように』ですか。相手を考えたら、逃げるなんて絶対に無理ですよね。
あと、意外に字が下手と言っちゃいけませんか?
「俺は、こんな人と飲んでいた……違う、酔っ払って絡んでいたのか?」
それだけじゃ無いんですけどね。はい、昨夜は立木さんが送ってきてくださったんです。ええっと、部屋の電話が鳴っていますよ。はいはい、代わりに私が出ますから。
「はい光岡です……迎えの車が来ているんですか。おかしいですね、車の手配なんかしていないんですけど。とにかく降りてきて欲しい……ですか。まだチェックアウトの準備できていないんです。車ですけど、待たせておいて貰えますか」
聞こえましたよね。事情はよくわかりませんけど、なぜか車が迎えに来ているみたいです。私が事情を聞いてきますから、皆さん出発の準備をしてくださいね。はい、間違いだったら問題ないんです。でも、間違いじゃなかった場合に困ると思うんですよ。
と言うことで。いえ、この言葉自体に意味はありませんよ。とにかくですね、事情がわからないとどうにもなりませんよね。ですので、取りあえずフロントに行くことにしました。そしたらですね、フロントのおばさんに言われてしまいました。
「あなたたち、一体何をしでかしたの?」
ええっと、いきなりなんですか。心当たりは……一人泥酔して帰ってきただけです。ただ送ってきてくれた人がですね……ええっと、何さんでしょうか?
フロントのおばさんと話をしていたら、格好の良い男の人が入ってきました。背は……社長より少し低いぐらいかな。でもですね、かなりのイケメンと言うのは間違いありません。
「七五三プロの本田千早さんでいらっしゃいますか?」
ええっと、ですね。753と書いて『なごみ』と言うんです。はい、紛らわしいのは理解していますよ。回りからも、七五三と言われているのも知っていますから。と言うか、周りの人たちは七五三だと思っているんです。
はい、私が本田ですけど。失礼ですが、どちら様でしょうか?
「申し遅れました。自衛隊からIMO研究所に派遣されている白船と申します。立木副所長に、皆さんをお迎えに上がるよう申しつかってきました……もしかして、聞いてらっしゃらなかったのですか?」
はい、全く。ここに連絡するようにと名刺は頂いたんです。でも、私たちはまだ何も連絡していないんですよ。ですので、白船さんですか。おいでになるなんて、予想もしていませんでした。なんです、立木さんらしいと言うのは。立木さんは、勝手に話を進められる方なんですか?
「相手の度肝を抜いて、思考能力を奪う真似をしてくださるんです」
そうですか。ええ、昨夜もしっかりと驚かせていただきました。でも、これで一つはっきりしたのは、昨夜のおじいさん……昨夜の方は、騙りじゃ無かったと言うことです。
「騙りですか。立木さん、落ち着いてお酒を楽しむことが出来ないと嘆かれておいででしたよ」
本当にご迷惑をおかけしました。ですが、どうして迎えに来てくださったのですか? IMO研究所からしたら、私たちなんて塵芥ですよね。
「申し訳ありませんが、私は『迎えに行ってこい』と送り出されただけなんです。ただあの人……本当に、思いもよらないことをしてくれるんだよなぁ。とは言え、色々とお世話になっているのも確かなんです。それはそれとして、出発の準備をされなくて宜しいのですか?」
そ、そうですよね。急いで……慌てなくても良い……ですか。いえ、さほどお待たせすることはないと思いますです。
それからですね、大慌てで荷造りなんかしましたよ。お化粧、ですか? 社長を起こしに行くときに終わらせてますよ。お化粧しないで男の人の前に出るのは、裸を晒すようなものなんですからね。
それで10分後にロビーに降りたら、相変わらず顔色の悪い社長がいました。ただ他の4人は、『期待に顔を輝かせて』いたりしました。本当に、みんな度胸があるのね。そう、『失うものがない』って言ってくれるんだ。そうね、みんなまだ学生だったわね。
「皆さん、お揃いでしょうか?」
は、はい。全員揃いました。それで、ここからはどうやって? あの車に乗れば良いんですね。何か普通と言えば良いのか、いえ、IMO研究所って空間転移? でしたか。普通じゃ無い移動の仕方をしていると聞いていたんです。
「心の準備が必要だろうと立木さんが言っていたんですよ。ですから、普通に車で迎えに来たんです。空間転移の方が宜しかったですか?」
そのですね『勿論っ!』……春陽ちゃん、被せてくれたわね。
「私たちも、空間転移ですか。経験してみたいと思います」
真冬ちゃんも……そうですね、出来れば経験してみたいと思います。でも、そんなに簡単なことなんですか?
「普通じゃ無いことをするのがIMO研究所なんですよ。纏めて運びますので、車に乗り込んでいただけますか?」
車に乗り込めば良いんですね……はい、ご指示に従わせていただきます。
「予めお断りしておきますが、空間転移はとても地味ですからね」
地味なんですか……もの凄いことだと思うんですけど。それはそうと、白船さんエンジンを掛けていませんよね? どうして、『降りてください』と言うことになるんでしょうか・
「どうしてと言われたら、到着したからと言うのが答えになります。実はですね、私もここは初めて使うんです。いえ、場所は知っているんですよ。ただここまでの道路が閉ざされているので、普通ならば使わない場所なんですよ」
普通なら使わない場所。ここまでの道路が閉ざされている?
「千早さん。外の景色が変わっていますよ」
ありがとう真冬さん。ええ、確かに山の中になっているわね。でも、目の前にあるのは真新しい建物なんだけど……誰か、じゃないわね。立木さんが出てきた。社長、早く外に出てご挨拶、ご挨拶!
「その、昨夜は」
「ようこそIMO研究所へ七五三プロの皆さん」
ああっ、やっぱり先手をとられた。身体が大きくて迫力満点の社長なのに、こう言った時には弱いんだよね。ほかのみんなは……やっぱり、物怖じしていない。本当に、大物なのね。売れてないけど。
「ところで皆さん、朝食はおすみでしょうか?」
朝食ですか……実はですね。コンビニで買おうと思っていたんです。その、良かったと言うのはどうしてですか?
「せっかくですから、朝食をご馳走しようと思ったんですよ。それからですね、こちらには温泉もあるんですよ。宜しければ、朝食の前に温泉などいかがでしょうか?」
あの……そこまで甘えてしまって宜しいのですか? いえ、遠慮はお互いのためにならないと教えられているんです。ですので、ありがたく……みんな、少しぐらいは遠慮しようよ。
「おじいさんはですね。孫に色々としてあげたいものなんですよ」
ひょっとして、根に持っていたりしますか? さっさと行かないと、もっとチクチクと言ってくださるんですね。はい、粘っこいのは苦手なんです。ですので、ご厚意をありがたく頂戴することにします。
温泉はどうだったか、ですか。意外にこぢんまりとしていたと思います。ただですね、温泉のあった場所ってお車から降りた場所じゃ無いんですよ。直線で2km近く離れているって……普通に歩いて移動したつもりなんですよ。そうですか、これが魔王城公開で使用されている転移ゲートと言うものなのですね。
それからお風呂なんですけど、先客の女性がいました。顔色が悪いと言ってはいけないのでしょうね……最初は二日酔い? って思ったんですけどね。元気にしていたので、すぐに違うのだと気がつきました。なるほど、魔王様関係なんですね。四天王のアクトロスさん……こんな格好で申し訳ありません。本田千早と申します。美味しそう……わ、私を食べても美味しくありませんよっ!
そう力説したらですね、『性的』って言われてしまいました。ええ、全員でお風呂の反対側まで逃げさせて貰いましたよ。だってアクトロスさん、目が本気だったんです。
そんな空気は、新たな女性二人の登場で霧散してくれました。どうして四天王のアクトロスさんが、普通の女性二人を意識……と言うより、なにか恐れているような気がしたんです。
見慣れない顔……ですか。そのですね、立木さんがお風呂に入ってきたらと言ってくださったんです。おかしい、耳が長くない。ええっと、どうしてそんな話になるんですか? 立木さんは、エルフが大好き……だから、エルフを見つけてきたのかと思ったんですか。ええっとですね、私たちは東京の芸能プロダクションで働いているんです。
それはそうと、どうしてアクトロスさんは逃げて行ったんですか? お二人とも、普通の女性に見えるんですけど。
「ドラゴンで良いんだっけ? 50m超級のドラゴンになれるのよ」
ひょっとして、ニューヨークとかで人間を踊り食いした……あの時はお腹が空いていた。今は、ここで美味しいものを食べられるので人間は食べない。その事情は魔王様たちも同じなんですね。でもアクトロスさん、『性的に』って言っていたんですけど。
「私たちは、そっちの趣味を持っていないわよ。私、アルカナって言うんだけどね。こっちのイセッタもそうなんだけど、孝明様の奧さんにして貰ったの。もう、身体が持たないと言えば良いのか。あの人って、人間離れ……で良いんだよね。色々と人間離れしているのよ。だからあなたたちが加わると言うのは歓迎するわよ。人海戦術で当たらないと、私たちの身体が持たないの」
ええっと、そのつもりは無いとお答えしておきます。
「そう、その気になったら相談してね」
バイバイと言って、お二人はお風呂から出て行かれました。もうなんと言えば良いのか、異世界人がここでは普通なんですね。空間転移と魔族、竜人だけでお腹がいっぱいになった気がします。
それからですね、食堂に行ったんですよ。はい、そこにも大勢の異世界人の方たちがいらっしゃいました。四天王の一人がいたのですから、魔王様とか残りの3人が居ても不思議じゃありませんよね。竜人の方たちがいるのも、騒ぎ立てるようなことじゃないと思います。もう、色々と麻痺をしてしまった……昨夜からの疲れが出たと言っても良いと思います。
それから社長、更に顔色が悪くなっていませんか? そうですか、お風呂で魔王様と一緒になったんですね。だとしたら、四天王の3人の方も一緒だったわけですか。なんです、その一目を置かれたと言うのは?
「立木氏に絡んだ話が広がっていたんだ。『あの』立木氏に絡めるのが凄いと感心されてしまった」
それって、褒められたことじゃないと思うんですよ。それぐらいは理解している……理解出来ないのは、どうして自分たちがここに連れられてきたのかと言うことですか。はい、私も理解出来ていないんです。
それから春陽ちゃん、『エルフに見えないエルフの人』って……もしかして、ラズライティシア様ですか? 神話の時代から生きている大魔法使いの。
「そのラズライティシアであっておるぞ。それからそこの小娘。次に同じことを言ったら、そうだな、とても楽しいことをしてやろう」
だから春陽ちゃん、言葉には気をつけようね。うん、見た目の話はとてもデリケートなんだからね。ええっと、なんですラズライティシア様……お顔が怖いんですけど。
「言った端から見た目の話か? ぬしにも罰とやらが必要そうだな」
ええっと、私何か悪いことを言いましたか。そのこの程度で許しやるって、杖で叩かれると痛いんですけど。
「痛いから罰になっておると言うことだ。それからそこの男、キヨヒコに絡んだそうだな。ついでに、ぬしにも罰を与えておくことにする」
あ、所長も杖でぶたれた。軽く叩かれているように見えて、結構痛いんですよね。でも社長、顔色が良くなったように見えますよ。あれっ、私も身体がしゃんとした気がします。
「これはおまけなのだが、ぬしには疲労回復の魔法を掛けてやった。それからその大男、ぬしには酔い覚ましと疲労回復だな」
どうして……の前にお礼が必要ですね。お気遣いいただきありがとうございます。礼ならキヨヒコ……立木さんに言うんですか? どうしてと聞いても良いですよね?
「迎えに行くついでに、大男とぬしの面倒を見ろと言われたからだ」
立木さんが、私たちのことを気遣ってくださった、と言うことですか。
「色々と誤解されておるようだが、キヨヒコは気遣いの人なのだ」
い、いえ、優しい人だと思いますよ。昨夜だって、社長を送ってきてくださいましたし。おじいさんと言われたことを気にしていた……見た目とか歳とかはどうにもならないと言うのですね。
「これからぬしらを研究所本棟に連れて行くのだが。身だしなみを整えた方が良くないか?」
仰るとおりなんですけど、荷物、あちらに置いたままなんです。後ろを見て見ろ……ええ、私たちの荷物ですね。大丈夫です、もう許容量を超えていますので。今更この程度のことで、取り乱したりしませんから。
身だしなみを整えてと言っても、今回は『卒業記念旅行』が目的なんです。ですので、ステージ衣装とか持ってきているはずがありませんよね。しかも目的地は、まだ雪深い北長野なんですよ。寒さはコートで補うとして、動きやすいことを第一とした洋服しか持ってきていませんでした。
それでも若さって最強ですよね。はい、4人はとても綺麗になったと思います。私、私ですか、売り出しても貰えなかった事務職員と言うことで理解出来ますよね。それで社長なんですけど……スーツなんか持ってきているはずがありません。ですので、厚手のセーターにスラックスと言うのが今の出で立ちです。スラックスにしても、チェック柄と言う畏まった席で穿くようなものではありません。旅行に来ていたのですから、当然と言えば当然なんですけどね。
その旅行姿の私たちは、ラズライティシア様の案内で研究所へと帰還しました。こうして見ると、空間転移ってもの凄く地味な魔法ですよね。やってることが凄いのは理解していますよ。この技術が広まれば、距離と言う概念が過去のものになるのはわかっているんです。ただ身構えた割に、なんと言えば良いのか、あっさりと終わってしまう点が地味だと思いました。
「地味なのは言う通りだな。ここの所多用しておるので、われにとっても日常となってしまったのだ。それはそうと、われはここまでだ。ここから後は、セレスが案内してくれるそうだ」
セレスさんって……
「初めましてセレスと申します。諸星様がお待ちです。私に付いてきてくださりませんか?」
やっぱりあのセレスさんだった。もう、女性として強烈な敗北感を味わってしまいましたよ。なんです、スタイルも含めて見た目が整いすぎてるのは。うちの子たち……特に真冬ちゃんは美人だと思っていたんだけど、セレスさんと比べたら普通の女の子でしか無いと思いました。
それは良いのですけど、どうして私たちが所長さんのところに案内されるのですか? 立木さん、何も言っていませんでしたよね?
「諸星様だけではありませんよ。エンターテインメント部門の朽木執行役員。D’sエージェンシーから、鴻池本部長様もお見えになっています」
社長、そこで固まっていないで。早く解凍しないと……無理、無理ですか。でも、今更逃げ出しても仕方がありませんよね。みんなもそう思っているよね? それから、みんなして私を指差さないように。私は、753プロの事務員でしか無いんですからね。しかも、パートタイムなんですからっ!
とにかくですね、社長が最初に入らないと格好が付きませんからねっ!
それで応接室? に入ったんですけど、回れ右をして出ていきたくなりましたね。なんで、所長さんがニコニコしながら握手してくるんです? もう、そこから予想を外してくれてますよね。
その、なんです。『立木さんに絡んで無事だったのが凄い』と言うのは。あのおじいさん……おじさんって、そんなに怖い人なんですか? それから所長さん、背格好は社長と差がありませんね。ただ顔の方は、所長さんの方がずっとイケメンだと思います。まあ、こんなものは好みの問題だと思いますけど。
それで、私たちは案内されて立派なソファーに座ることになりました。はい、短いスカートじゃ無くて良かったと思います。理由は、今更言わなくてもわかりますよね。
「立木副所長の下で、エンターテインメント部門を統括している朽木と言う。そしてこちらが、業務契約を結んでいるD’sエージェンシーの鴻池本部長だ。鴻池本部長には、『今日の異世界に行こう!』を含めて異世界関係のプロデュースをお願いしている。従って、そちらの男性が立木副所長に絡んだ、オーディションの最高責任者でもある」
「その件については、深くお詫びいたします。ですが、その件と今が結びつかないと思うのですが?」
ようやく社長も開き直りが出来たのかな。開き直ってくれさえすれば、本当に頼りになる人なんだけど。滅多に開き直りが出来ないんだよね。
「紹介に与ったD’sエージェンシーの鴻池です。753プロダクションの件ですが、立木さんに話を聞いて調べてみました。オーディションに申し込まれたそうですが、その記録が残っていないんです」
えっ、それって嘘ですよね。ほら、社長も驚いて立ち上がってるし。
「御社の中井さんと話をしています。申し込みの手続きも、中井さんが引き取ってくださいました」
「なるほど、中井が窓口をしたのですね。それで、そちらの桐谷さんですか、彼女を差し出せと言う要求を受けたわけですね」
大きく頷いているところを見ると、何か心当たりがあると言うことだよね。
「実は、余所からも苦情に似たものを受け取っているんです。しかも苦情を言ってきたところは、例外なくオーディションに登録されていませんでした」
「つまり、どう言うことでしょうか?」
「彼は、社内コンプライアンスに対する重大な違反と言うことで、懲戒免職扱いとなりました。それに加えて、管理売春……売春強要ですかね。それで、警察の方にも告発してあります。容疑が固まり次第、報道発表を行う予定になっています。ちなみにですね、IMO研究所に対する接待は、すべて未遂と言うことをお伝えします」
「ホテルのカードキーが、うずたかく積み上がったと言うのを教えてやろう」
その被害者……接待される側が、朽木執行役員と言うことですか。ひょっとして、選びきれなかったのが未遂に終わった理由なのかしら?
「そこの女性……ええっと、本田さんで良いのかな。どうやら失礼なことを考えてくれてるようだな。教えておくが、俺にはハイエルフと闇エルフの恋人がいるんだよ」
ええっと、顔に出てました? 誠に申し訳ありませんと謝らせていただきます。
「それで、私たちがここに居るのは、中井さんの件に関する事情聴取と言うことでしょうか?」
「その確認はできたと思っていますよ。ただですね、私もすぐに来いと呼び出された口なんです。ええ、立木さんになんですけどね」
「その立木さんに、『お前が責任者だろう』と言われて俺がここに居る。そして立木さんが居ない理由でもある」
「すみません。未だに事情が掴めないのですが?」
ですよねぇ。私たち全員が、ここに呼び出された理由になっていないと思うんです。あのいけ好かない人の話だったら、社長だけで終わった話でしょ。
「あんたたちに、『機会』を作ってやった。ここで俺たちのメガネに適えば『今日の異世界に行こう!』の新MCとして採用することになる。どうだ、事情は理解出来たか?」
「あまりにもいきなりすぎる。そう文句を言っても良い立場だと思います。オーディションをするのなら、彼女たちにも準備が必要なはずです」
「なるほど、突然と言うのは間違っていないな。ただ立木さんには、異世界関係はこんなものだと言われてしまったのだ。従って、突然と言う苦情は受け付けないことにする。それで準備と言ったが、一体どんな準備をするつもりだったのだ?」
少なくとも、心の準備は必要だと思うんです。
「卵とは言え、彼女たちはアイドルだ。普段着と言うのは、アイドルにとっての戦闘服では無いと思っている」
「なるほど、アイドルだと考えれば言っていることは間違っていないな。ただ番組は、アイドルを求めているわけじゃ無いんだ。それがウリと言うのなら、ほかのプロダクションとどう差別化してくれるんだ? 753プロは、どんな価値を番組に提供してくれるつもりなんだ?」
「彼女たち4人、アイドルを提供するっ!」
「超売れっ子と言うのならいざ知らず、まだ売り出し途中……それもうまく行っていないんだよな。そんなアイドルになりかけの子が『提供できる価値』なのか? 言っちゃあ悪いが、仕事を舐めていないか? 倒産間際のプロダクションの、思い出応募に巻き込んで貰いたくないんだがな」
うわぁ、指摘がエグすぎるわ。流石の社長も、何も言い返すことが出来ないんだもの。
「鴻池氏、何かコメントはあるか?」
「朽木さんが、殆ど言ってくれましたよ。ただですね、エントリーされた方たちに大差が無いんです。皆さん、自分の得られる価値には熱心ですけど、番組に提供してくれる価値を考えていないんです。ですので、もう、疲れてしまったと言えば良いのか。バグってる、立木さんの出会いに任せても良いと思い始めているんです」
「そう言う責任逃れは感心しないな。まあ、立木さんを理由にすれば、誰も文句を言えないのだろうな」
「申し訳ない。話が全然見えないのですが?」
「ああ、こっちの話だ。気にするなと言うのは無理かもしれないが、気にしてもしょうがないことと言ってやろう」
それで終わりと言うのは不親切だと思うんです。確かに、私たちに親切にする理由が無いのも確かなんでしょうけど。
「この4人がそこそこ可愛くて、そこそこテレビ映えするのは確かなんだが。それじゃあ、番組の求めているものじゃ無いよな?」
「安達マミ、BLTと同じ路線を求めるのは無理だと思いますよ。MCを変える以上、違ったキャラクターが必要だと思います。それから言い方は悪いですが、このレベルであれば芸能界に掃いて捨てるほど居ます」
さっきから、不安になる話しか聞こえてこないんだけど。特に不安なのは、私たちを選ぶことが前提で話をしていること。
「だとしたら、立木さんの提案に乗ることになるのだが……どう思う」
「私の考えは、先ほど申し上げたとおりです。立木さんに飲み屋で絡んできた男性をMCに据える。IMO研究所らしくて良いと思いますよ。一応『提供できる価値』になっていると思いますから」
「俺も、飲み屋で拾われた口だからなぁ……」
もしもし、一体何の話をしているんです。私の聞き違いで無ければ、社長をMCに据えると言っていたと思うんです。
「そして相方はあなたと言うことになる。そして彼女たちは、番組のアシスタントから始めて貰うことになるな。これから異世界人は、日本中を回ることになるんだ。今はカンナちゃんに頼んでいるが、あちらの交代も必要なんだよ」
「お、俺が番組のMCって……この見た目をしているんだぞ」
そりゃあ、気にしますよね。私は好きですけど。
「大丈夫だ。オークやデモンには負ける」
そう言う問題なのでしょうか。確かに、負けているとは思いますよ。と言いますか、普通の人間の勝てる相手じゃありませんよね? ええ、見た目も力もです。
「ところで所長はどう思う?」
「逞しい男が増えるのは歓迎……って言っちゃいけないか?」
「事情は理解出来るが、それを最初に言ってくれるかね」
「朽木君を信用していると思ってくれれば良い」
「良いんだぞ。立木さんの非常識を期待していると言っても」
やっぱり、あの人って非常識なんですか? いえ、今日の出来事を思い返すと、ですね。ちょっと常識を疑ってしまったんです。
「ところで光岡さん。オーディションに応募した言うことは、合格すればこちらの仕事をしてくださると考えて宜しいのですか?」
「わ、私たちの商材は、この4人だと思っています。ですので、合格するのはこの4人で無ければと思っているんですが……」
「なるほど、あなたとそちらの女性、本田さんでしたね。応募した覚えはないので、この仕事を断ると言うことですか。つまり、彼女たち4人の未来を奪うと仰ってるのですね。番組で注目を集めれば、将来の仕事に繋がっていく可能性があるのは理解されておいでですよね?」
あっ、社長の弱いところを突いてきた。みんなの未来の為と言われたら、社長、絶対に断れないもの。
「この子たち4人の未来と言ってくださいますか?」
「753プロの財務状況も調べていたりするんです。倒産秒読み……間違っていませんよね?」
「間違っていません……」
「倒産、つまりプロダクションが解散となると、4人はアイドルを諦めることになると思いますよ。一方仕事を受けていただければ、視聴率お化けと言われる番組にレギュラーで出られるんです。どうです、黙って聞いていたみなさん。この仕事、やりたいですか?」
そう聞かれた『やります!』って、被せてくれたね。そりゃあ、このまま解散する未来と比べたら、比べものにならないのは間違っていないと思うのよ。でもね、社長がMCで私がパートナーって、なにか間違っていると思わないのかな?
「千早さん。成り上がるためには、利用できるものは利用する。そうしないと、生き馬の目を抜く芸能界では生き残っていけないと言っていましたよね?」
「運を掴むのも実力のうち……と聞いたことがあります」
「千早は、これで公私でパートナーになるんだよね?」
真冬ちゃん、秋保ちゃん、言ってることは間違っていないと思う。ただ、利用される側の気持ちと言うものもあると思うのよ。それから春陽ちゃん、公の方はわかるけど、私の方のパートナーと言う話は無いからね。だから、『嘘でしょ』と声を揃えないように。
ええっと、お見苦しいところをお見せしたことをお詫びいたします。
「鴻池氏よ、中々面白そうなユニットに思えたのだがな?」
「奇遇ですね。なにか、うまく行きそうな気がしてきましたよ」
もしもし、今のは評価されるようなことなのでしょうか。それから社長、社長も例外では無いんですからね。話すのは苦手……みんなのために克服してくださいっ!
「どうやら、仕事を受けてくれるようだな。だとしたらだ、立木さんからのメッセージを伝えることにする」
立木さんのメッセージ、ですか?
「ああ、立木さんのメッセージだ。まず社長……光岡氏にだが、『次からは静かに飲ませてくれ』だそうだ。そして本田さん、あなたには『おじいさんと言った報いを知れ!』だそうだ。楽しそうに言っていたので、根には持っていないと思うぞ」
報いで抜擢してくださるんですか? 普通、絶対に有り得ませんよね。なんです、IMO研究所に普通を求めるなと言うのは、そのうち理解出来る……怖いんですけど、それ。
モデルになった居酒屋さんはあります。好きですよ、落ち着いていて




