事件解決は面倒の香り
村の特産は異世界です
・事件解決は面倒の香り
私、私ですか。名乗るほどの者ではないと思いますよ。ええ、ちょっと都立高校で現代国語の教諭なんかしている女です。私立の女子大を出て、ですね。なんとか頑張って教員採用試験に通ったんです。それで都の教職採用に通って……通ったときは奇跡だと思ったんですよ。ただですね、今どき教職志望が減っているのだそうです。やっぱり景気動向が影響しているのですかね。皆さん、きつい職業を避けているみたいです。
いえ、今は教師の問題を語るときではありませんね。私、そろそろ名前を教えろ、ですか? 私の名前を聞いたって、別に良いことはありませんよ。いえ、隠すことにも意味は無いんですけどね。
ちょっとだけプロフィールをお教えすることにします。年齢はですね、24になったばかりの独身女性なんです。はい、彼氏ですか、勿論お付き合いぐらいしたことはありますよ。ええ、中高と公立に通っていましたからね。これでも、清楚系の美人として人気があったんです。
身長は同年代の中では高い方かな。でも、160センチ台……ごめんなさい、私嘘を吐いていました。174センチと、男子の平均身長よりも高かったりします。出るところの出ていない、引っ込むところの引っ込んでいないスタイル……言ってて辛くなってきた。でもですよ、見た目は良いんですよ。だから、胸にパットを4枚ぐらい重ねて入れれば、街で声なんか掛けられたりもしたんです。それなんですけど、『偽乳かっ』って酷くありませんか? それ以前に、どうしてばれるんでしょう。
自分の傷つく話はここまでとして、私は高校で現国の教師なんかしています。ただ教職に就いて2年目と言うこともあり、学校では2年の副担になっています。ちなみに部活は、合気道と模擬国連……なんなのでしょうね、これって。と言うのは良いのですけど、その2つの担当なんかしています。
それでこれはちょっとした自慢なんですけど、合気道の腕はちょっとしたものなんですよ。清楚系の美少女なんかしていましたから、痴漢対策が必要だったと言うことです。ですので、ちょっと身を守るために合気道を習ったと言うことです。
なんです、合気道は役に立ったのか、ですか? 幸いなことに、まだ一度も役に立ったことはありませんね。ええ、こんなものは役に立たない方が良いものなのですよ。
「キムラセンセー、課題を回収したっすよ」
あっ、名字がばれた。と言うのは良いけど、ありがとう。じゃあ、今日の授業を始めましょうか。
今時の高校生なんですけど、本当にめまぐるしく流行りが変わっていきますね。その中で根強いのは、映像系のSNS情報でしょうか。トベなんですけど、結構話題の中心になってたりします。そしてその流行りの中心にいるのは、今は上里集落……ええ、IMO研究所のことですね。
ただ公開されている学術系の話では無く、ハイエルフや闇エルフ? のダンスに人気があります。イケメンの魔王様にも、結構人気があったりしますね。ただ上里集落なんですけど、公開されているのは小学生までなんですよね。春にはグランドオープンするそうですけど、当面プラチナチケットで入れそうも無いと言われています。
それはそうと、皆さんもうすぐ受験が始まりますからね。学校推薦は、夏休みまでの成績がものを言うんです。ですから、今から気持ちを引き締めて……今、揺れませんでしたか? ええっと、周りの景色ががらりと変わってしまったんですけど。い、一体、何が起きたと言うんですかっ!
女の子……もう誰とは言えませんね、あちこちで悲鳴が上がっているんです。ええ、私だって悲鳴を上げたいところですよ。でも、私は教師なんです。こういった場合、私が狼狽えてはいけないんです……でも、絶対に無理だと思うんです。普通の女性である私に、一体どうしろと言うんでしょう。
だから、『先生』って頼られても、私にもどうにもならないんですよ。と、取りあえずですね、全員揃っていますよね? その確認から始めることにしましょう。そうですか、全員揃っているんですね。では、第一段階は終わったと言うことで。次に第二段階なんですけど……なにをすれば良いんでしょうね。
なるほど、状況の確認ですか。流石はクラス委員、しっかりとしてくれていて感心します。では、状況の確認……と言っても、薄暗い……灯りは、上の明かり取りから入ってくる光だけですね。そして部屋の中は……なんで、不揃いの石を積み重ねた壁になっているんでしょう。
扉は……1カ所ありますね。男子、開きそうか確認してくれますか。そうですか、びくともしないのですね。では、一度気持ちを落ち着けて、状況の整理と言うのをすることにしましょう。
「気がついたらここに居た……以上の状況ってありますか?」
白根さん。簡潔な整理ありがとう。確かに、それ以上の状況ってありませんね。しかもこの部屋、まるで牢獄のように扉が一つしかありませんからね。牢獄……ええっと、この中に誰か異世界ものに詳しい人って居る?
「センセー、現実とフィクションを一緒にしない方が良いと思いますっ!」
伊吹さん、バリバリの正論、ありがとう。でもね、無駄かもしれないけど考えて見るのも悪くないと思うのよ。どうしたの、谷川さん。そうか、足音が聞こえてくると言うのね、しかも沢山。
この状況を考えたら、あまり良いことには思えないわね。私たちって、全員攫われたんだよね。だとしたら、攫った人たちが友好的だとは思えないもの。なんです、気休めでも言って欲しいと言うのは。この状況で、気休めなんか言えると思う?
沢山やってきたのは、鎧のようなものを来た厳つい格好をしたおっさん……俺たちは若い、ですか。では訂正して、厳つい格好をした兵士のような人たちでした。訳のわからない言葉を叫んだと思ったら、私たちを別の場所に連行してくれました。
ずっと広くて明るい……比較的と言う意味ですよ。普段慣れている照明からすると、かなり暗いと言うのは間違いありませんからね。その比較的明るくて広い場所には、赤い絨毯が敷かれていたりしました。そして絨毯の先が少し高くなっていて、そこに偉そうにしたおっさん……こちらはおっさんで間違っていないと思いますよ。その偉そうにしたおっさんが座っていて、その脇には、好きになれないタイプの女性が立っていました。ローブじゃないよね、あれ。テープ……じゃなくて、帯のようなものを巻き付けた、金色の髪をしたデータ的には綺麗な女性です。ただ目が……とても冷たい目をしているんですよ。まるで虫けらを見るような目を、私たちに向けてくれているんです。
それからもう一つ、恥じらいと言うのも必要だと思います。ええ、布面積が必要以上に少ないと思うんです。それで衣装のつもりなんですか? それからお断りしておきますけど、胸の大きさは関係していませんよ。ええ、好きになれない理由です。
「あなたたちは、私たちの救世主となる方たちです」
ここに来て、初めて理解出来る言語を聞かせて貰ったわ。でも、言葉は理解出来ても、言っていることは理解出来ないわね。その『救世主』って、本気で言ってる? 本気で言っているのなら、この扱いはどう説明してくれるのかしら。
なに、『神によって選ばれた勇者』と言うのは。この世界は滅びに瀕している、私たちが救いとなると言っているの? あのね、もの凄く私たちには迷惑な話なんだけど。勝手に巻き込まないで欲しいものね。
「世界を救っていただいた暁には、元の世界に帰る方法を探したいと思います」
それって、帰りたければ戦えって言っているのよね。勝手に連れてきて、帰りたければ戦えですって? 盗人猛々しいって、このことを言うと思うのよ。
流石に腹が立ったわ。だから、はっきりと言わせて貰います……高尾さん、足が震えていると指摘しないように。これでも、必死に頑張っているんだからね。
今すぐ、条件を付けずに全員元の世界に返してください!
ええ、教師としてはっきりと言わせて貰います。あれっ、なぜか意識が薄れてきた……
気がついたら、どこかで見たようなベッドで寝ていました。どうやら私は、病院に収容されたようですね。腕には点滴が付いているので、どうやら私は夢でも見ていたようです。ええっと、夢を見ていたわけじゃ無いんですか? はい、指は2本ですよね。掴んでみろ、ですか。掴めば良いんですよね?
それで先生、お医者様で良いんですよね。間違っていない、でしたら教えて欲しいんですけど。自分が説明するより、テレビを見た方が早いと言うのですか。でしたらテレビを見ますけど、一つだけ教えて貰えますか? 生徒たちは無事だったんですか?
制圧、ですか。制圧自体は、圧倒的なものだったと思いますよ。元々諸星さんとエリシオンさんが出張っていたんです。あの二人に勝てる人なんて、居るとは思えませんね。だって、魔王様だって『絶対に無理』って即答してくれるぐらいなんです。
しかもそこに、荷造り紐を持った翼人を大量投入したんですよ。勝負なんて、やる前からわかっていましたよね。特別謁見室……別名調教の間らしいんですけど。そこに居た全員、女神様、パナメーラと言う名前なのだそうですよ。その女神様含めて、全員の確保に成功しました。突入から阿鼻叫喚、そして全員の拘束まで10分と言う短時間の出来事でした。翼人の皆さんのしていた、すっきりとした笑顔がとても印象的だと思いましたです、はい。荷造り紐に捕まるのって、よっぽど屈辱的なことなんですね。
制圧を終えたところで、拉致された生徒たちは全員元の世界に帰ることが出来ました。ただ念のためと言うことで、全員が一度自衛隊の病院へと収容。御衣黄さんと武見さんが招集されたのは、異世界ネタだからなのでしょうね。全員の細胞サンプルを採取して京都に戻っていきました。
収容された生徒たちは、遅いお昼を終えたところで解放されることになりました。一度高校に戻ってから、オリエンテーション……何をするんだろう。オリエンテーションをしてから帰宅と言うのが予定になっています。ああオリエンテーションは、ファンタスティック・フォーの4人がするのね。
「浮ついたことを考えられないよう、ガツンとやってやる!」
ええっと、一応お手柔らかにお願いします。そうですか、現実を知るのも重要と言ってくれるんですね。
そして頑張った先生は、そのまま病院に収容されました。魔法だと思うんですけど、いきなり意識を失っていますからね。しかもその後、結構乱暴に扱われたりしているんです。色々と検査……貞操方面ではありませんよ。頭の方の検査が必要だったと言うことです。
それもあって、先生……木村先生ですか。木村先生は、翌朝退院と言うことになりました。ただですね、検査自体は午後には終わっていたんです。脳にストレスが掛かった形跡はあるが、問題となるほどでは無いと言うのが彼女に対する所見なのだそうです。ただですね、マスコミが押し寄せていたんですよね。その説明とかがあったので、安全の為翌日まで自衛隊病院……マッドな研究施設じゃありませんよ。病院の方でお休みいただいたと言うことです。
生徒たちを保護したことで、事件の第一段階は完了と言うことになります。そして一段落付けば、そうです、記者会見の時間と言うことになるわけです。そう言うことなので、立木副所長宜しくお願いします。私は誰か、ですか? 謎の美人秘書Xとでも言っておきましょう。
「では、私からご報告させていただきます」
重要な会見ですからね。菅谷総理が段に上がるのは当然だと思います。
「参議院にて特別時限法成立後の13時30分。IMO研究所の突入部隊が敵本拠地に突入、突入10分後に、拉致首謀者を含む300余名の無力化を完了しました。その後拉致された生徒30名を保護し、自衛隊病院で検査並びにカウンセリングを行いました。その後15時30分に都立地蔵坂高校に生徒を搬送し、追加のオリエンテーション終了後に帰宅させています。次に」
言葉を切ったのは、記者さんたちの反応を確認したんでしょうね。取りあえず、今のところ皆さん黙ってお話を聞いてくれているようです。
「都立地蔵坂高校教諭、木村愛乃さんも並行して確保に成功。意識喪失をしていたため、同じく自衛隊病院に搬送し、現在は後遺症の確認を行っています。報告では、今は意識もはっきりしているとのことです。後遺症の方も、特に認められないとのことです。以上、都立地蔵坂高校生徒拉致事件において、拉致された生徒及び教諭31名を無事保護したことをご報告させていただきました」
これで、重要な邦人保護は無事完了したことになりますね。ただ、これで終わりと言う訳にはいかないんですよね。
「今回の拉致首謀者……エルデストラスハイゼローゼングランキッチュ……失礼」
笑っちゃ行けない所なんですよ。ええ、笑ってはいけないんです。ただ、噛みますよね。噛んでも仕方がないと思いますよ。だって、嫌がらせかって言いたくなるほど長い国名なんですもの。
「エルデストラスハイゼローゼングランキルシュタマリエルリーザカインケル王国の国王ス並びに宰相ケ、及び女神パナメーラに対して、警視庁公安課において取り調べを行います。その取り調べ結果を待って、今後の対応を考えることとなります」
あっ、名前を省略、さも無ければ間違えましたね。実際の名前はですね、『エルデストラスハイゼローゼングランキルシュタマリエルリーザカインケルロードエルミタハイネダクスハーミタットベルベディア王国』なんですよ。でもですよ、どうしてこんな嫌がらせのような長ったらしい名前を付けたんでしょうね。
それから今後の対応なんですけどね。まだ、特別時限法は有効なんですよ。それもあってですね、立木さんが闇エルフを派遣なんかしているんです。彼女たちの技能を生かして、長ったらしい名前の国及びその周辺の情報を調査するんです。ファンタスティック・フォーの情報もありますけどね。一面だけで見るのは良くないと、立木さんが主張したのが理由です。
さくっと菅谷総理の説明が終わったところで、お待ちかねの質問タイムになるわけですね。もうね、全員の手が上がっていたりするんです。
最初の質問は……意外、菅谷総理に対してなんですね。
「今回の事件は、時限法での対処で乗り切ることになりました。これはIMO研究所……と言うより諸星所長、立木副所長が常々仰っていたことですが、泥縄の時限法での対処には限界があるかと思います。今後恒久法としてどのように制定していくのか。その方針をお聞かせ願います」
ええっと、とってもまともって言って良い? 意外なほどにまともな質問なんだけど。
「まず一つ誤解を解いておきたいと思います。今回の事件ですが、事件自体は終結してないと言うのが政府の見解となります。それをご理解頂いた上で申し上げるのなら、第一段階として今回の事件に対する評価が必要となります。その評価を行い、課題点の抽出を実行し、法案化を行うことになるのかと考えております。拙速な法案化を行うぐらいであれば、今回の時限法で対処が可能だからと言うのが回答となります。国会での議論、国際的評価に耐えられる立法を考えております」
だよね。うん、その答えにも納得できるわ。今回の時限法だけど、法律的に考えると色々と問題を含んでいるもの。特に民間人の国外に於ける武力行使なんて……これまでの日本政府の見解とは真っ向から対立する話よね。
「当面時限法での対応と言うのは理解いたしました。ただ、法案成立の先延ばしは、リスク管理上問題が大きいと指摘させていただき質問を終わります」
うん、とってもまともな質問だったわね。なんか、異世界関係の質問って、凄くまともになったのは気のせいかしら。
「今回の時限法では、IMO研究所を民間協力者として示されています。その場合、民間の協力者に対する報酬はどのように考えておいででしょうか?」
あっ、嫌なところを突いてくれたわね。この辺って、敢えて曖昧にしていた部分でもあるんだよね。あっ、菅谷総理の顔が引き攣ってる。
「報酬に関しては、IMO研究所と協議を行うことを考えています」
「では立木副所長に伺います。今回の退所に対して、報酬の請求はどのようにお考えでしょうか」
そうか、立木さんに振ってくれたか。うんうん、やっぱりそうなるよね。
「成果に対する評価は、政府にお願いをしたいと思っていると言うのがお答えになります。そして以前から申し上げていますが、IMO研究所は民間の、かつ営利を目的とした組織になっています。従って、『ただ働き』は出資者に対する重大な背信と言うことになります。ですので、『正当な対価』を要求することになるかと思います」
「正当な対価の評価が難しいと思いますが……ちなみにですが、先日の停止現象に対しての支払いが完了していませんよね?」
「その宿題は、政府にボールがあると思っています」
「菅谷総理、コメントをお願いいたします」
ああ、ますます菅谷総理の顔の引きつりが大きくなった。
「本件に対して、米国政府から謝礼として100Mドルを支払う用意があるとの連絡を受けている。それを前提に、日本政府が考慮していると取りあえずお答えしておく」
100Mドルって……今だと、150億円ぐらいってこと? アメリカに観光旅行……は言い過ぎか。ひょっとして、高めの相場を作ろうとした?
「そうですね。明らかに他国に対する牽制となると思いますよ」
友池さん、やっぱりそう思いますよね。でも、こんな金額を出されたら日本も困ると思うんです。あっ、そこで立木さんに振ってくれた。
「アメリカの提示した金額をどう考えるか、ですか。私としては、コメントを控えたいと思っています。日本政府も考えていると思いますが、その金額を聞いた皆さんがどのように考えるのか。報酬を公開して欲しいと言うのは、皆さんにも考えていただきたいと言う意味も持っているんです。その意味で言えば、今回についても同じことになるわけです」
躱してくれましたね。ええ、こんなもの馬鹿正直に答えるものじゃないと思うんです。日本で起きた事件なんて、極端な話報酬を貰わなくてもいいと思うんですよ。勿論、前回の停止現象に限ってですけどね。今回の拉致事件に関して言えば、ちゃんと評価して報酬を貰った方がいいと思うんです。はい、仕事と言うのは無料であってはいけないと思うんですよ。
ところで、何か騒がしい気がするのは気のせいですか? なるほど、気のせいじゃ無いんですね。戦勝パーティーって、戦争なんかしていないんだけどな。
「今後の対応と言うお話があったかと思います。想定される問題についてご説明いただけるでしょうか?」
やっぱり気になるよね。あっ、立木さんが菅谷総理を指差した。そうよね、IMO研究所が請け負ったのは、拉致された邦人保護までだもん。あああ、菅谷総理の顔が引き攣ってる。
「基本的に、他国。異世界を含めて、他国の問題には関わらないことを前提にしています。ただ事情聴取の中で、長い名前の国のス国王から、支援依頼を受けたらどうするのかと言う問題があります。言うまでもありませんが、異世界は自衛の範囲から外れることになります。従って、日本国憲法の精神に則り、異世界への派兵は検討の俎上にも上ることは無いはずです。ただ人道的な問題として、蹂躙されるのを黙って見ているのかと言う問題もあるわけです」
ひょっとして、究極の選択とか言うこと? なんか、支援しろと騒ぎ立てる人たちが沢山でそうな気がしますね。でもさ、日本には異世界に派遣できるような軍隊はいないのよ。もしも派遣と言うことになったら、上里集落から人を出さないといけなくなるよね?
「IMO研究所としての見解をお願いできるでしょうか?」
あああっ、虎の尾を踏んでくれたよ。立木さんが、もの凄く嫌そうな顔をしているよ。
「交戦権の行使は、国の専権事項のはずです。従って、IMO研究所として本件に対して意見を述べることはありません」
だよねぇ。はっきり言って愚問だと思うのよ。えっ、敢えて質問が行われたと言うんですか?
「色々と言質を取りたかったのだと思いますよ。ただ、立木さんが乗らなかっただけです」
それって、IMO研が戦いに前向きと言わせたいと言うことですか? なるほど、印象操作を行おうと言うことですか。
「今回の時限法で、IMO研究所は自衛隊に対する指揮権を有しているかと思いますが?」
「その指揮権を使用し、被害者を自衛隊の病院に収容しています。自衛隊の利用は、必ずしも武力に限定されたものではないと言うことです。そして今回の時限法の目的は、拉致された邦人を保護することにあります。その目的が達せられた以上、すでに時限法は効力を失ったものと考えています」
食い下がってくれますね。でも立木さんは、その誘いに乗らないと言うことですか。いやぁ、今回の記者会見は、今までとは毛色が違っていますね。その辺り、民間の武力行使を認めたことが大きいんですかね。
「IMO研究所は、異世界に於ける紛争への関与は行わないと言うことですか?」
「質問の紛争に関する定義が広すぎる、且つ曖昧だとお答えします。従って、今の質問にはお答えのしようがありません。今回の拉致事件解決に関しても、広義の紛争への関与になるのをお忘れ無く」
ええっと、やけに食い下がってくれるんですけど。ひょっとして、こちらの失言を狙っています?
「そうですね、明らかにこちらの失言。紛争への介入の言質を取りたがっていると思いますよ。あの記者の背景を、古巣に調べさせる必要がありそうです」
ですよね。ちょっと質問が粘着しすぎていると思うんですよ。答えるのが諸星さんでなくて良かった……そんな気がしているんです。
それからも食い下がってくれたんですけど、立木さんが躱してくれました。ええ、相手に責任も投げ返していましたね。そこまでやって、質問時間は終了となりました。最初に菅谷総理が言ったとおり、まだ事件は終わっていないんですよね。それを考えれば、いつまでもマスコミの相手をしていられないと言うことです。
それからの1週間、上里集落は平穏を保っていましたよ。『今日の異世界に行こう!』も、通常通り放送しましたしね。ただ、事件がホットなお陰で、更に視聴率が上がったそうです。データが正しければ、週間視聴率のトップを独占しているようです。
ちなみに報道は、一連の記者会見と、突入に関する映像公開がもの凄い反響を呼びました。ただですね、MHKがトップなのですけど、他局にも視聴が分散したようです。立木さんにオファーがあったみたいですけど、すべて断ったのだそうですよ。
そして事件発生から1週間が経過し、闇エルフの皆さんが上里集落へと戻ってきました。長い名前の国のある世界に潜入し、他の国とか戦っている相手の情報を探ってきてくれました。
それをですね。まず、上里集落幹部で共有することになりました。そして情報共有をした後、日本政府並びに国連への対応方針を決めることになったと言うわけです。何故国連対応が必要かと言うとですね、アメリカ政府が国際問題として提起してくれたからと言うのが理由です。ええ、ファンタスティック・フォーを含む、米国市民の拉致・殺害を理由にしてくれました。
「では、私アイゴからご報告させていただきます。まず人間側ですが、いずれの国も長くて仕方の無い名前をしていました。いちいち呼ぶのは面倒ですので、長いの1から5と呼ぶことにします。ちなみに長いの1が、女神のいた国だとご理解ください」
そりゃあ、あんな長いのをいちいち言ってられないわよね。うん、1から5で良いと思うよ。
「そして長いの1から5が驚異としているのが、魔帝国と呼ばれるものになります。魔帝国は、魔王を頂点とした帝国……と言っても、国の形態をとっているのか疑わしい集団となっています。ちなみに魔王ですが、1年ほど前に新魔王が就任しています。そして配下に10傑衆と呼ばれる幹部がいます。これも、先だっての戦いで壊滅状態にあったのですが、新魔王就任と共に整備されたようです。そして魔帝国の戦力ですが、10傑衆の下にそれぞれ500から1000程の魔物……で良いと思うのですけど。異形をした魔物が揃っています。それが、こちらの映像となります」
う~んグロっ! こうやって写真で見せられると、ちょっとグロいかなって。うん、はっきり言って気分の良いものじゃ無いわね。動画もあるの……情報機器を使いこなしているわね。
「次に、長いの1ですけど。国王はス、女神はパナメーラです。そして長いの2ですけど、国王はテです。長いの3の国王はホ、長いの4の国王はカ、長いの5の国王はシです。ちなみにシは、現在病に伏せっているそうです。そのため、娘のカタリナが軍を率いているそうです」
国王の名前が一文字なのに、なぜ王女の名前は普通なの? それはそうとして、この王女様かなりの美人ね。それで、他の王様は? 時間の無駄だから先に進む……なにか、別の意図を感じるのは私の気のせい?
「長い名前の国の世界ですが、普通の人以外の種族も存在していました。いずれも少数民族でしたが、エルフ族、獣人族を確認しています。ファンタスティック・フォーの方たちの情報では、翼人もいるのですよね。ただそちらは、まだ確認が取れていません。引き続き、調査の継続を考えています。ちなみに映像ですが、姫騎士セフィーロと呼ばれるエルフです」
美人で巨乳ってのは良いんだけど。その情報って必要? さっき、王様の写真は省略したよね。しかも王女様とエルフなんだけど、どうして動画まで見せてくれるのかな? 絶対に、違う意図が含まれているよね。
「魔帝国ですが、新魔王就任と共に名前の長い国に対して侵攻しています。戦いは現時点で拮抗しているようです。ただ、時間とともに魔帝国の攻勢が強まっているようです。このまま放置すると、長いの4、3、5、2、1の順に滅びると言われています。ちなみに、かつては名前の長い国は10あったのだそうです」
それで、負けたりしたら何が起きるのかしら?
「今の質問への答えは、『魔物に食われる』と言うものです。ただですね、不確かな情報では食われた人は魔物に生まれ変わると言われているんです」
つまり、魔物は人間を材料にしていると言うことかしら。そうか、その可能性が高いと言うのね。う~ん、これもグロい話になってるわね。
「それから長いの1から5までの関係ですけど、女神がいることもあって長いの1の発言権が強いのだそうです。ですので、かなり無理な要求をされているようですね。『ぶっ潰してやる』と言うのが、長いの1に対する長いの2から5の感情なのだそうです。ただ、今は長いの1以上の問題、魔帝国があるので我慢しているようです」
つまり、人間の国同士でも関係が良くないと言っているんですね。なんか、どうしようもない世界って気がしてきました。
「5つ国が滅びたと言う話ですが。残りの5つは滅びを免れているわけですね。これまで、どうやって魔帝国の侵攻をはね除けていたのかわかりますか?」
それって、やっぱり気になりますよね。
「これと言う決め手はなかったようです。5カ国が滅びたのも、決め手が無かったのが理由になっているようです。そして最近は、女神によって戦力の召喚が行われています。そのお陰で、国が滅びることは無くなったようです」
それだと、長いの1のやっていることが正当化されちゃうよね。えっ、違うの? 欺瞞が含まれているんですか?
「召喚されたものにしか、恩恵付与が出来ないかどうかですね。アン、その辺りに意見はありますか?」
「答えないといけませんか?」
あっ、嫌そうな顔をしている。でも、質問したのは立木さんだよ。うん、素直に答えておいた方がいいと思うんだ。
「関係ありませんと言うのが答えになります」
つまり、陽佳ちゃんたちは攫われる必要が無かったってこと? 効率、効率と言ってくれますか。
「終わった話は今は止めましょう。アンも反省していると思いますし、二度と勇者召喚をすることはないと思いますからね」
そりゃあ、フローリアンさんはこっちに来ちゃいましたからね。でも、そこは庇わない方が良かったと思いますよ。いえ、何がとは言いませんけど。
「さて、この状況を知った場合、国連はどのような決定をすると思いますか?」
国連の決定、ですか。『人道』とかを持ち出して、能動的介入が発議されると思いますよ。その辺り、友池さんはどう考えますか?
「小谷さんの仰るとおりですね。『人道』を理由に、異世界に軍を送ることが決議されると思います。人間が食われると言う事実だけで、介入する理由として十分と考えられるでしょうね。愚かしいことだと思いますけど。まあ、こんなものは表向きの理由なんですけどね。各国の思惑が色々と関わってくると言うことです」
愚かしいことなんですか? 他の方たちは、そうですか、愚かしいと言うのに賛成なんですね。それで、諸星さんはどうされるんですか? 軍事介入すると言っても、こちらでゲートを用意しないと遠征できませんよね。つまり、国連から依頼なり命令が来ることになるわけです。
「俺は……難しい判断だと思っている。ただ、知らなければ良かったのだが、知ってしまった以上放置は出来ないと思っている」
つまり、諸星さんは長いのの支援を肯定すると言うことですね。それで質問なんですけど、上里集落の戦力はどうします? 今回出撃準備までしましたよね?
「依頼があれば、出撃もやむないと思っている」
つまり、それがIMO研究所代表の意思なのですね。そうですか、意思を肯定してくれるんですね。それで、黙っている立木さんはどうお考えですか?
「『人道的』と言うのであれば、私は反対させて貰います。勿論、IMO研究所の代表は諸星さんです。従って、最終決定権が諸星さんにあるのは了解していますよ」
なるほど、立木さんは反対なのですね。そうですか、反対と言ってくれるんですね。一応反対理由を教えて貰いますか?
「私たちは、『何様なのか』と言うことですね。今まで知らなかった世界、しかも国民を拉致し、殺害してくれた世界なのですよ。似た見た目をしてるものが負けそうだから支援する。とてもではありませんが、賛成できるものではありませんね。よほど、諸星さんがカタリナ姫とか姫騎士セフィーロを気に入った……踏み込んだ言い方をするのなら、奧さんに加えたいと言うのなら別ですけど」
ええっと、奧さんを増やすためなら賛成すると聞こえたんですけど。それって、冗談ですよね? なんです友池さん、『それなら賛成できる』って?
「善悪……これを決めること自体、傲った考えだと思います。一方的に善悪を私たちの基準……浅い考えで決めつけ、関係の無い世界の戦争に介入し『殺す』のです。戦力を派遣すると言うことは、私たちにも犠牲が出ると言うことになります。果たして、集落の住民の納得を得られるのでしょうかね? それぐらいだったら、諸星さんの嫁を助けに行く方が納得しやすいと思いますよ」
「小谷さん。これは、他の世界に対する侵略と言うことです。過去この世界でも、戦争を理由に大国が幾度も介入した歴史があるんです。それが幸せな結果に結びついていないのは、小谷さんもご存じだと思いますよ」
有原さん。こんなものは、歴史の繰り返しと言うのですね。大国のエゴを拡張したものでしかないと言うことですか。それぐらいだったら、素直な欲望の方が理解しやすくて良いって……そんなことで良いんですか?
なんです、立木さん。その、面倒に巻き込まれたくないと言うのは。
「諸星さんの嫁を連れて来ると言う話であれば、上里集落がすべて引き受けることが出来るんですよ。その一方で、国連決議による武力介入を行う場合、国連軍が出張ってくるんです。さて、出張ってきた国連軍はどうやって名前の長い世界に行くのでしょうかね」
どうやってって、ゲートを通ってですよね……ええっと、それってIMO研究所に通路を確保しろと言う命令が来ると言うことですか? 友池さんの言う、各国の思惑ってこのことを言っているんですね。
「諸星さんに伺います。集落には魔王様たちがいらっしゃいます。さて、陽佳ちゃんたちを追ってアンの世界に行ったとき。そこでは、人間が頭から食われ、幾つもの集落が消滅していたわけです。放置しないで、出撃して魔王様たちを討伐されるのですか?」
「それは……」
ええ、答えなんかすぐに出ませんよね。だって私たち、魔王様と愉快な仲間のことを知ってますもん。小学生たちと雪だるまを作るオークさんたちも知っているんです。
でも立木さんの言った条件だと、魔王様たちは討伐対象になってしまうんですよね。軍を投入して10傑衆でしたか、その配下を撃退したら、戦争って激化することになると思うんです。さも無ければ、相手側が全面降伏でした、そうなるわけですよね。その場合、支援された側は皆殺しを主張することになるのでしょうね。
泥沼だぁ……
「現在の国際情勢の混沌の多くは、大国……特に西側諸国がいらないことをしたことが理由になっているんです。それが宗教であり人道であり、はたまた政治体制であったりするわけですよ。敵方が異形をしている、そして負けた側の人が食われている。出しゃばっていくのに、十分すぎる条件になっているんです」
友池さん。それは仰るとおりなんでしょうね。でも諸星さんじゃないんですけど、知ってしまった以上、無視も出来ないと思うんです。
「次の質問です。魔王様たちの時にもしましたが、原因をもっと追いかけてみたらどうなりますか? なぜ戦いが続いているのか。なぜ、住み分けが出来ないのか。なぜ、倒したはずの魔王が復活しているのか……そうやってなぜを重ねたときに、見えてくるものがありませんか?」
「それは、根本の問題を解決しなければ、同じ問題が繰り返されると言うことか?」
「一体誰が、魔王、魔帝国などと言う存在を作ったのでしょうね。そこを解決しない限り、同じことを繰り返すことになると思いますよ。それとも、モグラ叩きのように問題を繰り返し潰していきますか?」
諸星さんが黙ってしまいました。知ってしまった以上、放置することは出来ない。動機としては、とてもわかりやすいと思います。ええ、私だってそう思っていましたから。でも、立木さんに言われて初めて、表面しか見ていないことに気づかされたんです。
でも、国連はそんなことまで考えてくれますか? 名前の長い世界への通路確保命令をしてくると思うんですよ。
「小谷さん。国連にはそんな命令を出すことは出来ないんですよ」
友池さん、それはどういう意味ですか?
「国連には、IMO研究所に対して命令を行う法的根拠がないからです。当たり前ですけど、異世界への移動なんて今まで検討をされたこともありませんからね。そしてIMO研究所は、あくまで民間人の集まりなんです。それ以上の問題は、そんな大きなゲートを作れるとは言っていませんよね?」
それって、戦車とか戦闘機とかを通れるように出来ないと言っています? でも、ドローンとかだと大きさ的に小さいですよね。
「万にも及ぶ異形の者と戦うのに、どれだけ戦力を揃えることになるのでしょうかね。例えば敵方に、竜人に匹敵する巨大な存在がいたとします。ドローン程度で戦力になると思いますか?」
つまり、法的問題、技術的問題が立ち塞がってくると言うことですか。でも、絶対に何か言ってきますよね?
「次に考えられるのが、武器の支援なのでしょうね。人が通れるぐらいの大きさがあれば、かなりの重火器でも運び込むことが出来ると思いますよ」
だったら、その可能性が高いと言うことですか。ええっと、それでも問題がありそうな……
「そうですね。誰でもと言うのは語弊がありますが、魔法や恩恵に比べれば使用者の制限は緩くなります。自動小銃でも構わないのですが、少し訓練をすれば誰でも使うことが出来るんですよ。しかも、殺傷能力がかなり高いんです。手榴弾みたいなものでも、簡単に人を殺すことができますよね。そんなものを、殺し合いが普通に行われている世界に導入していいのかと言うことです。果たして、魔帝国との戦いだけで収まってくれるのでしょうかね」
でも、私たちがゲートを管理すれば……ええ、抜け道ぐらい簡単に思いつきますね。
「残念ながら、人は善意だけの生き物では無いんです。だから、必ず抜け道を見つけて、己の利を得ようと考えるわけです。向こうの世界がさらなる混乱に見舞われたとき、私たちは否が応で巻き込まれてしまうわけです」
ああっ、頭が痛い。そうですよね、諸星さんも頭が痛いですよね。それで友池さん、私たちはどうすればいいんですか? 議論は、私たちの手を離れて国連に行っちゃっているんですよ。
「確実に言えるのは、近代兵器を持ち込んではいけないと言うことです。立木さんはやりたくないと思っているのでしょうが、上里集落の戦力で戦争を終結させるのが一つの解決策ではありますね」
「やりたくないと言うより、はっきり反対させていただきますよ。荷造り紐だけ……せいぜいシオンぐらいですかね。その戦力だけで解決できるのであれば、まだ検討の余地はあると思いますけど」
「戦力を制限するのは、IMO研究所の立場を守るため……と言うことですか?」
「諸星さんの力は、あまりにも想像を絶しているんです。その力が知られたら、間違いなく別の問題を呼び寄せることになります。諸星さん、現代の神になってみますか?」
現代の神、ですか。確かに、ものを金に変えたり出来るんですものね。以前菅谷総理が仰ったことですけど、宗教を興すことが出来ると思います。
ええ、嫌ですよね。諸星さん、何度も否定していますもんね。
「結局、どうすればいいんです?」
「簡単には答えなんか出ないと思います。ですので、自分たちが譲れないこと。それをはっきりさせておくしかないと思いますよ。諸星さんは神になど祭り上げられたくない。魔王軍相手でも、人殺しに行くのは受け入れられない。異世界の戦争に加担などしたくない……」
「その場合の問題は、支援を求めている相手を見殺しにするのかと糾弾されることですな」
あっ、立木さんが頭を抱えた。珍しいこともあるものですね。
「結局、私たちは名前の長い世界のことを知らなさすぎるんです。ゲートを閉じて、二度と関わらないと言うのも一つの方法でしょう。もしもゲートを残すのであれば、時間を掛けて解決策を探す以外に方法はないと思いますよ」
「それにしたところで、色々と口実を立てる必要がある訳ですよ。下手に国連決議などされようものなら、間違いなく泥沼に突入することになりますからね」
「諸星さんの嫁を口実に、集落が介入するのが良いと思われますが?」
友池さん、それって本気で言っていますか? 冗談に聞こえるかもしれないが、意外に良い手になるかのかもしれないのですか。
「ペンディングと言う意味ですよ」
そうなんですか、立木さん。そうですか、少し頭を冷やした方が良いと言うのですね。確かに、全員頭を冷やした方が良いと思います。
ところでインテグラさん、顔色が良くないように思えるんですけど。なにか、名前の長い世界に問題がありましたか? 違う、たまたま気分が悪いだけなんですか。胃もたれですか、だったら胃薬とかって……竜人の方が飲んでも良いものなのでしょうか?
「少しすれば、落ち着くと思うわよ」
了解です。その代わりですね、お酒は落ち着くまでダメですからね。だから、そんなこの世の終わりが来たような顔をしないでください。
荷造り紐さん最強です。




