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危ない足音

村の特産は異世界です


・危ない足音


 何もない空間……でもないわね。暗闇の中に、いくつかの大きさを持った光が浮かんでいる。あの光の一つ一つが、私が住んでいたのと同じような世界らしい。なぜ曖昧な言い方をしているのかと言うと、いちいち確認していないからだ。

 星の数ほど……そう、本当に星の数ほど光が浮かんでいる。その一つ一つを確認することに、一体どんな意味があるのだろう。そしてどれだけの時間が掛かることか。だから、確認なんかするつもりは無い。


 自分でも馬鹿なことをしたと思っている。ただあの時は、そうしないといけないと言う強迫観念を持っていた。多分だけど、頭がおかしくなっていたと思う。違う、今でも狂ったままなのかもしれない。だって、まだ殺せって声が頭の中に残っているのだから。

 それでも、頭の中には冷静な私も残っている。この星の数ほどある光の中から、どうすれば目標を見つけることが出来るのだろう。長いと言われる私の一生を掛けたとしても、本当にごく一部しか覗くことが出来ないのだから。


 それに、今更殺してどうなると言う声も響いている。私が大切なものをなくしたのは間違ってない。間違っているなんて言わせはしない……そんなことを考えているのも、やはり私が狂ってるからだろう。

 それは良いけど、私は無くしたもの以上の命を奪っている。私の復讐に全く関係の無い人、生き物を殺したのは確かだ。私が殺した人たちにも、守りたい人、守りたいものがあったはずだ。しかも私が殺した人たちは、私のことなど知りもしなかったと思う。だから、これは完全に八つ当たり。さも無ければ、ただの無差別殺戮と言うことになる。


 だから、私は大罪人なのだ


 それなら、もうやめたらと私の中の誰かが囁いてくれる。そう、もうやめてしまえば良いと言う気持ちがしっかりある。その一方で、ここで止めたら自分を否定することになる。だから止めてはいけないのだと、悲痛な声で叫んでいる私も存在している。私が私であるために……なんのために? 何のためだろうと、私が私であるためには、最後までやり遂げる必要があるのだと。

 でも、最後の一人がどこに居るのかわからない。星の数ほどある世界から、たった一人を見つけようと私はしている。それがどれだけ馬鹿らしいこと、無駄なことかはわかっている。わかっていても、見つけ出すと言う気持ちはせめぎ合いながら私の中で力を持っている。


 いったい、私は何をしているのだろう


 思考が、ぐるぐると同じ所を巡っていてくれる。小さな光に囲まれた何もない世界。そこに漂っていると、色々な気持ち、感情が溶けてなくなっていく気がする。

 だけど、私の大切なもの……大切なもの? 一体何だったっけ? そうか、そのことも思い出せなくなっていたのか。それなのに、どうして私は復讐しようとしているのだろう。私は、何をしようとしているのだろう。


 ワタシハダレ


 私は誰なのか、うん、まだ自分の名前は覚えていた。だったらまだ大丈夫。大丈夫って、なにが?

 なぜ殺すのか。そうしないといけないと思っているから。そうしないと、私が私で居られなくなるから。私って、なに?


 もう、何度同じことを考えているのだろう。たぶん、もっともっとずっと同じことを繰り返すことになると思う。だって、煩く瞬く光以外、私の目には何も映ってくれないから。何の変化も、時間の経過もわからない世界。だから私は、ずっと同じ問いかけを続けることになるのだと思う。


 ワタシハダレ、ワタシハナニ、ワタシハダレ、ワタシハナニ


 ずっと、ずっと、ずぅっと同じことを繰り返している。ずっと同じことを繰り返している……繰り返してる。時間の経過なんて、もう全くわからない。だって、私の周りには何の変化もないのだから。だから、私はずっと同じことを繰り返してくだけだ……繰り返していくだけだと思ったのに。


 ミツケタ


 私の世界に変化が現れた。だから私は、その変化を追いかけていくことにした。


 ダレカワタシヲトメテ


 止めてくれなくてもいい。これでおしまいに出来るから。そう、すべてを終わらせるために私は行くのだから。




 ワイハ……うん、ハワイ旅行なんだけどね。そう、鴻池さんが持ってきてくれた企画のこと。そのハワイ旅行は、目出度く順延になりました。順延になったんだよ。


 目出度くなんかないやい!


 と言うのは良いのだけど。順延になった理由だけど、新しい世界に繋がったことなんだ。だからセレス、自業自得と言わないように。確かに、探索許可を出した……と言うより、探索に行かせたのは俺だよ。だからアルカナとイセッタ、ヴェルファイアとハイエースは何も悪くないんだ。だって彼女たちは、自分の役目を果たしたのだからね。ただちょっと、俺が迂闊だったと言うだけなんだよ。

 だけど、行きたかったなぁ……ハワイ。ハワイだよ、ハワイ。常夏の島ハワイだよ。お正月に芸能人が大挙して押しかけていくハワイ。テレビで見ながら、良いなぁって憧れていた場所なんだ。


「鴻池さんは、年明けに順延と仰っていました。ですので、1ヶ月程度我慢すればハワイに行けると思います」


 そりゃ、そうなんだけど。もうね、心はハワイに行っていたんだ。だって、あと10日寝ればハワイに出発していたんだ。それなのに、『順延ですね』って立木さんに言われたんだよ。

 そりゃあ、立木さんの言うとおりなのはわかっているよ。だけど、俺の中で高まったハワイ熱をどうしてくれるって、言っても良いよね。しかもだよ、順延を言った立木さん、団体さんで温泉旅行に出かけてくれたんだ。うん、エンターテインメント部門の忘年会……慰労会かな。朽木君とか鴻池さんとか、三辻夫妻……なぜ、大谷興業の社長まで参加している? ええっと、マミちゃんとかBLTも参加している。伊豆の豪華な温泉で宴会三昧って……なんで俺が仲間外れなの? 魔王様とか女神様も参加……翼人も何人か参加している。なんで、エンターテインメント部門だから。そう、魔王城公開に関わってるからなのね。


 だったら、なんで立木さんが? エンターテインメント部門の統括。朽木君が踊り出したとき、後始末もしている。大谷興業と関係構築をしたのは立木さん。鴻池さんのところと契約を結んだのも立木さん。

 じゃあ、小谷さんは? 配偶者枠……誰の?


「エクシブ君のですよ。彼は、魔王様たちに演技指導をしていますからね」


 配偶者枠って、あり? ありなんだ。じゃあ、ラズライティシア様とかインテグラさんは?


「私の配偶者枠ですが、なにか?」


 立木さんの配偶者は、慶子さん一人でしょう。良いんですか、あの二人を配偶者枠にしても。慶子さんに悪いと思わないのですか?


「あの二人は、慶子公認ですから」


 それにしても、複数っておかしくありません? なんです、スマホを取り出して。ええ、俺が映っていますけどどうかしましたか?


「沖縄に、一体何人連れて行きましたかね。日間賀島の時には、それ以上連れて行きましたよね?」


 ええっと、ですね。それはそれと言うことで。正直言うとですね、どうして俺を呼んでくれないんですか?


「常識的に考えましょう。異世界探索に、諸星さん抜きが許されるはずがないでしょう」


 なんて、立木さんに言われてしまったんだ。うん、今度繋いだ世界を確認しに行くんだ。それはそれで面白そうなんだけど……別の疑問が生まれてしまったんだ。なんで木下君と田中さんまでメンバーに入っているの? そうか、ブーランジェリー王国での実績を買ったと言うことだね。

 それで案内は……ヴェルファイアがしてくれるんだね。ところで、お母さんとか族長は何をしているんだい? 温泉グルメを堪能している。炬燵に潜り込んで、ミカンを楽しんでいる。熱燗万歳って……襲撃してきた人たちがして良いことじゃないと思うんだ。


 だったら始祖竜は? 同じ、温泉三昧、熱燗万歳、雪見酒万歳……もうね、だらけきってるんじゃ無いのか? ドラゴンたちって、確か世界の安定を担っていたよね。それなのに、こんなところで怠けてて良いのか? 少しぐらいなら問題は無い。たまには息抜きが必要……その息抜きなんだが、一体いつまで居るつもりなのかな?

 ちょっと10年ぐらい……もしもし、息抜きの次元を超えてないか? 自分たちの寿命を考えれば、さほど大した時間じゃ無いって……あまり使い回したくないんだが。


 大丈夫か始祖竜


「そもそも、わしらだけが責任を負うのは間違っているのだ」


 一見正論に聞こえますけど。今まで、世界の安定を守ってきたと自負していませんでしたか? そんなことを言った覚えはない、単なる風評だろうと……もう一度繰り返しますけど、


 本当に大丈夫か、始祖竜


 なんてやりとりがあった後、俺はチームを組んで翼人たちの世界に行くことにした。チームには、俺とルーテシア、ヴェルファイアとハイエース、アルカナとイセッタ、それから大谷村から出向できている木下さんと田中さん。これで以上なんだけど……なんで白船君がいないんだ?


「白船様は、記録係として伊豆に行かれました」


 そうか、記録係なら仕方が無い……って言うと思っているのか? あっちは、単なる忘年会だろう。それに引き換え、こちらは初めて行く異世界なんだぞ。記録係だったら、こっちの方に来ないとおかしいと思うんだ。


「その言いにくいのですけど、白船様が逃げたのは……アクアの母親が理由になっているんです」


 アクアのお母さんが理由? アウレリアさんだよな、彼女は集落に残っていたよな。温泉グルメが目的で。


「いえ、彼女のせいで翼人に対して恐怖を抱いたようで……こちらの集落には、まだ飢えた仲間が残っているんです。どうやら、アクアからその情報を貰ったようなんです」


 危険から逃げたと言うことか……自衛隊員が、危険から逃げたと言うのだな。そうか、久しぶりに言おうか


 大丈夫か、自衛隊


 と言っても、居ない以上はどうにもならないか。ところでヴェルファイア、元から居た翼人たちはどうしてる? 確かセンティア、見送りの中に居なかったよね?


「センティアたちも伊豆に行っています。どうしてと聞いたら、エンターテインメント部門に協力しているからだそうです。はい、恩恵を授ける天使役で出てるからだそうです……私も協力してるのに」


 なんか、あっちに行きたいように聞こえるんだが。そうか、あっちに行きたかったんだな。こちらの世界は、ずっといたので目新しいことは無い。それ以上に、面倒に巻き込まれそうな気がすると言ってくれるのか。

 しかもなんだ、上の方の始祖竜が居なくなったからと言うのは。間違いなく、色々なところで騒ぎが起きていると言ってくれるんだね。


「それからだが、ハイエルフたちも伊豆に行っているそうだよ。うん、彼女たちはパンの国のシアターで活躍してくれているからね」


 つまり、ハイエルフたちもエンターテインメント部門だと言うのだね。それだけ誘っておいて、立木さんは俺を誘ってくれなかったんだ。


「これは言いにくいのだが……セレスも伊豆に行っているよ」


 レアキャラ登録されているから、と言うのだろう。ああ、確かにセレスがレアキャラになっているのは知っているよ。


「実は、私も誘われていたんだよ。ただ、君を一人で行かせるわけにはいかないと思ったのだよ」


 どうして、俺を一人に出来ないと言うんだ? 放っておくと非常識な真似をするから……歩く非常識とまで言ってくれるのか? そうか、俺は歩く非常識なのか。


「そんなことはどうでも良いのだが、囲まれているのに気づいているかい?」


 どうでも良いと言ってくれるな……と言うのをひとまず忘れるとしてだ。確かに、俺たちは囲まれているな。人数にして……30人ぐらいかな? それから、久しぶりの殺気を感じているんだが、これは俺の気のせいかな?


「気のせいじゃ無いと言ってあげよう。ところでヴェルファイア、何か心当たりはあるのかな?」

「心当たりですか……翼人に喧嘩を売る馬鹿は居ないはずなのですが……居ないはずなのですが、心当たりが多すぎて」


 おい、なんか矛盾したことを言っていないか。矛盾をしていない、翼人族は単体でもかなり強い。ただ敵も沢山作っている。


「強いって、始祖竜と比べたら?」

「ごめんなさい、歯が立ちません」


 やはりそうなのか。それは良いのだが、殺気が高まってきた気がするんだ。攻撃されても困らないけど、理由もわからずに襲われたくないと思うんだよ。


「だったら、荷造り紐さんに活躍して貰えば良いだろう」


 最終的にはそうするけど、まだ囲まれているだけだよな。先に手を出すのはどうかと思うのだが……悪いけど、刃物は通らないんだ。

 気がついたら胸を刺されていた。もしも超越が無ければ、そのままお陀仏になっていたな。なんだ、取り囲んで殺気を放ったのは、このための囮と言うことなのか。じゃあ、遠慮する必要は無いな。うん、荷造り紐さん出番です。


 その結果、その結果ねぇ。荷造り紐さんは、100m超級のドラゴンでも捕まえることが出来るんだよ。それを考えれば、人間サイズを捕まえるのは難しくないんだ。逃げ足が早い……早い程度で逃げ切れると思うのが間違っているんだよ。

 と言うことで、俺の前には日焼けした……にしては色が濃いな。肌の色の濃い耳の長い男女なんだが……エルフで良いんだよな。ひょっとして、ダークエルフと言う奴かな?


「私たちは、闇エルフと呼んでいますね。暗殺を得意としています」


 おい、随分と物騒な種族だな。それはそれとして、俺は狙われる覚えがないのだが? ええっとラズライティシア様……温泉に行っていたか。だとしたら、彼女たちの言葉がわからないのだが。ヴェルファイア、事情聴取をお願いして良いか?


「我が君を殺そうとしたのですよ。なぜ、事情聴取などと言うまだるっこしいことをするのですか?」


 つまり、有無を言わさず始末をしろと? ヴェルファイアさぁ、俺が人殺しを嫌いなことを知ってるよね。だったら、自分が手を汚すと言うのかい。俺はね、奧さんに人殺しをして欲しくないんだよ。だから、彼女たちから事情を聞いてほしいんだ。理由があっても嫌だけど、理由もなく殺されるのはもっと嫌だからね。


「では、事情を聞くことにします。ですが、素直に話してくれますか?」


 だったら、素直になるようにしてやれば良いと思うよ。ただ、一応話を聞いてくれるかな?


「我が君は寛大なのですね」


 褒め言葉に聞こえないのは気のせい? 気のせいにしておいてくれって……気のせいじゃ無いってことだよな。


「そんなことはどうでも良いのですが。取りあえず素直に話してくれるようです」


 だったら良いのだが。なんで、俺たちを襲ったんだ?


「それなのですが……アルカナさんとイセッタさんが理由になっているそうです」


 アルカナとイセッタが? 顔を見たら、知らないと首を振ってくれたぞ。


「翼人族を服従させたこと。始祖竜を制圧して、別の世界に連れて行ったことが理由なのだそうです。この国……シャトレーゼ王国と言うのですが。その国王から依頼を受けたとのことです」


 つまり、侵略者の排除なのか? そうか、始祖竜が制圧されたので、正面から戦うのは無謀と考えられたわけだ。正面からいけないから、暗殺者を使った。そうか、俺たちは侵略者に思われたわけだ。

 うん、立木さんが居なくて良かったと思うよ。もしも立木さんが居たら、しっかりお小言を食らったと思うんだよ。だからルーテシア、告げ口すると言わないように。


「ところで我が君、こいつらはどういたしましょう。我が君が気に病まないよう、目立たないところで始末をいたしますが」


 始末すると言ったよね。もうこの時点で、始末するのはダメと言うことだよ。うん、目立たないところに連れて行ってもダメだからね。

 職業的な暗殺者と言うのは気になったけど、国王の依頼を受けてのことなんだろう? だったら、彼女たちは依頼を実行しただけだと思うんだ。甘い……甘いかなぁ、だけど良いのかな? 厳しく当たるのだったら、今回攻め込んできた翼人も処分するけど。だって、あっちは自主的に攻め込んできたんだよ。しかも、とっても物騒な唄を唄っていたしぃ、


 そう、理解してくれたんだね。じゃあ彼女たちに聞いてほしいのだけど、うん、まだ俺たちを殺すのを諦めてないのかと言うこと。諦めていないのなら、ちょっと強制力を働かせようかなと思ったんだ。


「命令をした方が早いと思いますが……取りあえず、確認はしてみます。嘘を吐く可能性があることを忘れないでください」


 うん、俺を殺せないのはわかったと思うから。そして次にやったら、本気で全滅させるからね。ああ、その脅しならしてくれても構わないよ。

 なるほど、敵わないのはわかったと言ってくれたんだ。ただ、このまま帰ると自分たちの命が危ないと言うのだね。暗殺失敗の責任を問われる……確実に実行できるから、これまで見逃されてきたと言うのだね。つまり、そのシャトレーゼ王国……国王はなんて言うんだい?

 パステル……どこかで聞いたような名前だね。パステルと言う王様が、シャトレーゼ王国を治めているんだね。そうか、こちらはそっち系の名前なんだね。ところでヴィタメールとかユーハイムとかヨックモックとか言う名前はあるのかな? そうか、ユーハイムが隣国なんだね。うん、理解出来たよ。


 だったら、パステル国王に暗殺命令を取り下げさせれば良いんだね。だめ、それをしても失敗したと言う事実は残る。しかも、依頼者を明かすと言う失態を知られることになる。ああ、漫画みたいって言っちゃダメ? そうか、これが現実と言うのだね。


「だったら、集落に連れて行くと言うのはどうかな? 肌の黒いエルフと言うのも、変化球でいいと思うんだよ」


 ルーテシア、それを良い考えだと言うと思っているのかな? 彼女たちを連れて行ったら、小谷さんに冷たい……絶対零度の視線を向けられそうな気がするんだよ。


「だけどね、彼女たちは依頼に失敗をしたんだ。このまま逃がしても、一生日陰……今も日陰だったね。王国に命を狙われることになるんだ。そして王都に乗り込むとだね。ブーランジェリー王国の二の舞になると思うんだよ。君が、シャトレーゼ王国国王になりたいと言うのなら反対はしないよ。君は、国王になりたいのかな?」


 俺は、一度も国王になりたいと思ったことは無いっ! それだけは断言させて貰う。


「じゃあ、言い方を変えようかな。美人のお姫様を抱きたいと言うのなら反対はしないよ」


 そ、それは、そんなことは考えてないぞっ! 今、十分に間が空いた。好き者と言ってくれるのだね。ああ、俺が好き者と言うのは否定しないよ。


「開き直るのはどうかと思うんだ。それはそうと、彼女たちをどうするつもりなのかな? 彼女たちが難しい立場にいるのは説明したとおりだよ。それに、ハイエルフたちよりもスタイルがいいと思うんだ」


 スタイルが良いと何かあるのかな? いや、とぼけているわけじゃ無いぞ。本当にわからない『嘘吐け』……被せてくれたか。なあルーテシア、俺ってそんなに好き者に思われているのかな? 来るものを拒んでいない。そりゃあ、アルカナとイセッタも結果的に流されたけどさぁ。そうか、それがすべてと言ってくれるんだね。

 じゃあヴェルファイア、彼女たちにどうしたいのか聞いてくれるかな? 俺たちを狙わないと言うのであれば、このまま解放してあげても良いんだ。


「そして、我が君が彼女たちを欲していると伝えれば良いのですね、性的に」


 うん、そんなことを言っていないから。だから言っていないんだって……ああ、全員が顔を見合わせているよ。それから俺をみてくれたんだけど……この視線、どこかで見た気がするんだ。うん、つい最近大宴会で。


「我が君にお伝えします。喜んで我が君にお仕えするとのことです……お手つきありで」


 なぜ、そう言うことになるんだ。ルーテシア、どうしてそこで頷いてくれるんだ? 予想通りだった……これで夜のお勤めが楽になる。嫌とは言わないが、過ぎると嫌いになってしまうと言うのだね。そうか、過ぎると言われてしまうのか……


「そんなことより、彼女たちを解放してあげてください」


 ああ荷造り紐さん、闇エルフたちを解放してくれるかな。うん、それで良いんだけど……やっぱり土下座になるのか。


「まずアイゴ……リーダーなのだそうですが、アイゴがご奉仕すると言っています」


 ああっ、俺って女漁りに来たわけじゃ無いんだけどな。まずだな、こっちの世界……お菓子の世界と名付けた方がいい気がするのだが。こっちの世界を見に来たつもりなんだよ。


「それなのだがね、一度出直した方がいいと思うんだよ」


 そうするしかないのかなぁ……木下君、田中さん、何か意見があるのかな?


「案内人を付けてくれれば、私たちが探検しますが?」


 君たち二人が……確かに、ブーランジェリー王国での実績は認めるよ。うん、セリカがもの凄く驚いていたのは知っているんだ。だけど、こっちだと言葉が全くわからないよね。なんだい、それぐらいはなんとかすると言うのは。なんとかなるとは思えないのだけど……


「実は、フローリアンさんに恩恵の付与されたチョーカーを借りてきたんです。大したことは出来ませんが、言葉の方はこれでなんとかなるのだそうですよ」


 つまり、今のやりとりはちゃんと聴き取れていたと言うことかな? そうか、ヴェルファイアが脚色して伝えていたのも聴き取れていたと言うのだね。だったら質問なんだけど、なんで訂正してくれなかったんだ?

 脚色はしていたが、間違ったことは伝えていない。俺が好き者と言うのは、集落では共通認識。世間体さえなんとかなれば、まだまだ女性を増やしたいと考えている……否定できるのなら否定してみろと言うのだね。


 一つ気になったんだけど、それが集落の共通認識になっているって本当? そう、本当なんだ。ところで、大谷村役場はどうなのかな? 英雄色を好む……それを体現していると評判になっている。マミちゃんを口説いていた……だから、敵を作っている。

 いやいや、俺はマミちゃんを口説いていないぞ。そう言うことにしておく……いや、しておくんじゃ無くてだな、それが事実なんだよ。


「そんなことより、二人の案内は誰がすることになるのかな?」


 翼人の集落に行って……絶対に収拾が付かなくなりそうだな。だったら、別の候補を探さないと……なんで闇エルフが手を上げているのかな?


「彼女イオタと彼、サガが案内してくれるそうです」


 そうか、二人なら大丈夫そうには思えるのだけど。だけど、王国に見つかったらまずいんじゃ無いのかな?


「それだったら、魔法で変装できるそうです。肌の色と耳を隠せば、紛れ込むのも難しくないようですね」


 だったら、変装して戻ると言うのは? 数が多いので目立ってしまうからダメ。

 そうか、大丈夫と言うのなら任せることにするけど。それで、こちらで活動する資金はどうするんだ?


「諸星さん、金を作ることができましたよね?」


 つまり、金があればなんとかなると言うのだね。ところで、石っころを金に変えれば良いのかな?


「そのですね、砂をひとすくい金に変えれば良いそうです。砂金の方が換金しやすいのだそうですよ」


 じゃあ、適当な量を掬ってくれるかな。それで良いのかな、じゃあ「金になれ」と。

 なんで、揃って土下座をしてくれるんだ? 神が現れた……いや、俺は神様じゃ無いから。それだけは間違えないでほしいんだ。


 と言うことで、木下君と田中さん、任せたからね。それから連絡は……荷造り紐さんにメッセージを付けて飛ばしてくれるかな。


「万能ですね、荷造り紐さん」


 うん、それは否定しない。自分でも、ここまで便利だとは思わなかったんだ。

 じゃあ、俺たちは一度日本に戻るから。それから、あまりこちらに長居をしないように。ブーランジェリー王国公開も、まだまだ仕事が残っているんだからね。




 しかしなんだ、随分と大所帯になってくれたな。ああ、エンターテインメント部門の忘年会のことだ。翼人とハイエルフの参加を認めたことで、人数が膨れ上がってくれたんだ。

 なぜ、なぜと聞いてくれるか? これはだな、鴻池氏からのリクエストに応えたからだ。だから芸能枠として、安達マミやお笑いコンビBLTまで参加している。ああ、マネージャーの二人が、ボディカメラを付けてくるくると走り回っているよ。

 俺? 俺か? 身の安全の為にパッソを連れてきたぞ。その辺り、飢えた翼人対策と言う意味が大きい。それにだ、目をうるうるとさせてお願い攻撃をされたのだ。どう考えても、絶対にダメだなんて言えるはずが無いだろう。まあ、ダメと言うつもりも無かったのだがな。


 今回は、集落からバス2台を連ねて伊豆を目指すことになった。ただわからないのは、なぜかマミちゃんやBLTの3人も集落から出発してくれたことだ。


「取れ高狙いに決まってます……と言いたいのですが、実のところそれだけじゃ無いんですよ」


 と言うのが鴻池氏の弁明。どうやら、マミちゃんは魔王様のファンで、BLTの二人は翼人が好みらしい。だが良いのかBLT。そんなことを口にすると、一晩中搾り取られることになるのだからな。なんだセンティア、ちゃんと加減をわきまえていると言うのは、そうか、ラズライティシア様に指導をされたと言うのだな。


 なぜ、と聞いても良いよな?


 そうか、最初の頃に色々と問題を起こしたと言うのだな。ラズライティシア様が教育することで、その場を納めることになった。お陰で、夫婦仲も円満。今は感謝していると言うのか。

 ああ、教育の中身は聞かないことにしておこう。尤も、俺には関係の無いことなんだがな。なんだ、その無駄な抵抗と言うのは。新しく来た奴らに目を付けられていると言うのだな。言っておくが、俺は目をぎらつかせた奴は好みじゃ無いんだよ。


 それは良いのだが、中伊豆と言ったら修善寺に超高級な宿があったよな。今回はそっちじゃ無かったんだな……なんです立木さん、あちらも良いのだが収容能力の問題がある。しかも部屋を確保するのが難しかったと言ってくれるのか。

 だとしたら、こちらもかなり苦労をしたんじゃ無いのか? こっちも、かなりの有名旅館だろう……なぜ鴻池氏が偉そうにしているんだ?


「会社の方から手を回しましたから」


 つまり、色々と無理を言ったと言うことか。無理は言ったが、宿からは喜ばれていると言うのだな。『今日の異世界に行こうっ!』は、こちらを特設スタジオにして中継をするのか。


「異世界に行こうっ! ではなく、異世界から来たっ! 特番と言うことにしました。ゲストは魔王様と四天王の皆さんです」


 なんか贅沢だな。MHKも大乗り気。だから、撮影スタッフも来ていると言うのか。ひょっとして、外にあった中継車はこれが理由なのか。


「翼人の皆さんの出番も用意してあります」


 翼人の出番。沖縄の時のように、翼を広げて空を飛ぶのか? 翼を広げるが、空を飛びはしない。ただ日本庭園のオブジェになって貰うと言うのか。なるほど、それも贅沢な翼人の使い方だな。

 それから一つ注意をしておく。大浴場と露天風呂……女性の方にカメラは持ち込み禁止だからな。タオル着用可……番組はお子様向けなんだよな。なるほど、大きなお友達とかお父さんもターゲットにしているのか。鴻池氏よ、わかってて言ってるよな。


「ええ、商品価値を下げることになりますからね。だから、お色気は当面控えることにしていますよ」


 そう言うことだ。ところでマミちゃん、なんかポカポカしていないか?


「お風呂に入ってきましたっ!」


 そうか、まあここは有名な温泉地だからな。温泉に入ってきたとしても、別におかしなことはないと思うぞ。それで、一人で入ってきたのか?


「憧れのセレスさん、フィオレンティーナさん、フローリアンさんとご一緒しました。いやぁ、女として自信をなくしますね、あの三人と一緒だと。ところで、フィオレンティーナさんってこちらの関係者なんですか? もの凄く綺麗なんですけど、見覚えが全くないんです。勿論、嫌になるほどお綺麗でスタイルも良かったですよ」


 フィオレンティーナさん……フィオレンティーナさんって、金髪美女のフィオレンティーナさんのことか? そうか、そのフィオレンティーナさんなのだな。だとしたらだ、立木さんの関係者だぞ。ああ、俺たちが立木さんに初めて会った……ろばた焼きのお店なんだが、そこに現れてくれたんだ。

 そうか、フィオレンティーナさんが来ているのか。


「朽木さん、なにか獲物を狙う目になっていませんか?」


 そうか、そんな目をしていたか? 多分だが、気のせいと言ってやろう。

 ところで、マミちゃんはお酒を飲めるのか? そうか、大好物と言ってくれるのだな。お友達のカンナちゃんも誘いたかった。だとしたら、次の機会にと言うことだな。だそうだ、鴻池氏よ。


「今日の宴会次第……と言うことで宜しいですか?」


 なぜ宴会次第になる? 難しいことを考えるな、宴会をしてみれば理解出来る。いや、全くわからないのだが。


 それで宴会なのだが……これはエンターテインメント部門の忘年会だからな。俺が仕切るのは当たり前と言って良いだろう。こらこらBLTの二人、ここで持ちネタを披露しないように。いや、ダメと言うつもりは無いのだがな、まだ宴会は始まってもいないんだよ。

 と言うことでだな。いや、今の言葉に別に深い意味は無いぞ。取りあえずだ、『乾杯っっ!』っと。ああ、長々と挨拶をするのは嫌いなんだよ。


 待たせたなBLTの二人、もう持ちネタをやっても良いのだからな。


 ところで立木さん、今年はお世話になりました。踊り出すなんて恥ずかしいところをお見せしてしまいました。ええ、俺もあんなに行き詰まるとは思っていませんでしたよ。ささ飲んで飲んで。ところで立木さん、隠し芸をお願いしても良いですか? プロの後にやりたくない……いえ、だから立木さんにお願いをするんですよ。だってそうでしょ、誰だってプロの後にはやりたくないんですから。

 ええ、立木さんが盛り下げてくれれば、後がやりやすくなるのかなと。


「随分と酷いことを言ってくれるのですね。次に踊り出しても、助けてあげませんよ」


 立木さん、副所長ですよね。しかも、エンターテインメント部門も受け持っていたはずです。ですから、逃げ道は無いと言って差し上げます。

 おーいみんな、立木さんが隠し芸をしてくれるぞっ! 拍手拍手っ!


「真面目に生きてきた上場企業の管理職、しかも技術系に芸をさせてくれますか」


 今はIMO研究所の副所長様です。ささ、もう逃げ場はありません。だから、観念してステージに上がってください。


「やはり、報復が必要ですね……と言っても、今更逃げられませんか」


 ええ、逃げられませんよ。だから、諦めてステージに上がって上がって。ほら、拍手拍手っ!


「朽木君に嵌められました。報復を考えていますので、皆さんから報復方法を募集することにします。はい、翼人の皆さん、搾り取っても構いませんよ。ええ、じゃんじゃんやってください……と言うのはお約束としてですね。芸の無いおじさんですから、ちょっと趣向を変えてみます」


 うん、適度に盛り下がってくれたな。これこそ、俺の意図したところ。後がやりやすくなってくれるんだ。ところで、翼人の下りは冗談と受け取って良いのだよな。


「では、小ネタを一つ。広告代理店の鴻池さんがおいでですが、マスコミでは各種世論調査を行っていると思います。まあ、アンケートと言い換えても良いのですけどね。それで、ここで一つ『するだけ無駄なアンケート』と言うのをしてみます」


 なんだ、そのするだけ無駄なアンケートと言うのは?


「では、するだけ無駄なアンケートを採ります。諸星さんが異世界に行っていますが、女性をお持ち帰りするかどうかと言うものです。お持ち帰りをしないと思われる方は手を上げてくださいっ!」


 おおっ、確かにするだけ無駄なアンケートだな。ああ、誰一人として手を上げてないぞ。いや、まて、セレスさんも手を上げてないんだが。


「おや、セレスさんも手を上げてませんね。セレスさん、理由を伺っても宜しいですか?」

「妻として否定してあげたいところなのですけど……私は正直に生きているんです」

「つまり、連れて来ないと言うのは嘘になってしまうと?」

「せめて何人お持ち帰りするか、人数のアンケートにして欲しかったと思います」


 爆笑……とまではいかないのだが、なかなか受けが良かったと思うぞ。ああ、もう少し酔いが回っていたら、多分もっと受けたと思う。流石は……と言って良いのだよな。流石は年の功っ!


「朽木君に酷いことを言われましたので、年寄りらしくもう一つ。先にお断りしておきますが、今から唄う唄は、私よりもずっと上の世代向けです。今からだと50年近く前ですか、大学の学祭打ち上げで先輩に見せられたものです。では、ごほん」


 唄かぁ、唄ねぇ……


「さぁらぁばラバウルよ~」


 これって軍歌って奴だよな。確かに、年代的にはもっと上だよな。しかしだ、反応が零下に落ちてくれたぞ。


「あーれーがあれでぇも、こーれがこれでぇ」


 ちょっとまて、歌よりもそのアクションは何なのだ? いや、意味は理解出来るのだが、良いのか、その芸を素面でやって。いや、受けてるよ、思った以上に受けてるんだが……マミちゃんもお腹を押さえて笑ってるよ。そうか、立木さんに対するイメージが変わったと言うのだな。


「怖いおじさんじゃ無くて、面白いおじさんだったんですね」


 ああ、俺も意外だった。それでなんだ、手のひらを広げて。


「親指が10代、人差し指が20代、中指が30代、薬指が40代、小指が50代と言われてます。さて、これが何のことを言っているのかわかりますか。はい、BLTの二人……そう、あれの元気度合いですね。こうするとよくわかると思いますよ」


 そこで股間に持ってきてくれるか。なるほど、言っている意味はわかるのだが……それでは、芸として不足しているよな。


「では、60代はどうなるのかと言うことです。では、唄でお教えいたしましょうっ!」


 おい、またその唄か。なぜ、そこで肘を曲げて突き上げてくれるんだ。ラズライティシア様とかインテグラさんが手を叩いて喜んで居るぞっ。

 ちょっと待て、俺は盛り下げてくれと頼んだよな。後がやりやすくなるよう、盛り下げてくれと頼んだと思うんだ。なんで、そこでゆっくりと肘を伸ばしてくれる? 残心……残心って。


「さて、拙い芸をご覧に入れたことをお詫びいたします。では口直しとして、朽木君に場を盛り上げて貰いましょうっ!」


 おい、この後に俺にやれと言うのかっ。仕返しか、これは仕返しなのかっ! こら、全員で拍手なんかするんじゃ無い。俺は、盛り上げるような芸なんか無いんだからなっ! パッソも手を叩いて喜んでいるんじゃ無いぞっ!


「盛り上がったのは良いのですけど……これは、テレビには流せませんね」


 そりゃあ、下ネタバリバリだからな。それでも、やるだけ無駄なアンケートはネタとして面白い。番組の中に取り入れることも考えて見ると言うのだな。使用許諾はだな……立木さんに貰ってくれるか。

 とにかくだ、俺は指名されてしまったんだ。だからステージに上がって……


「朽木君、ステイっ!」


 ちょっと待て、出てこいと呼んでくれたよな。なんでステイ……ああっ、反射的に座ってしまったじゃ無いか。なんで、これで受けるんだ? 似たことを諸星氏相手にもしている。反応が全く同じだったと言ってくれるのか。なるほど、内輪受けと言う奴なのだな。


「口直しは、ハイエルフのダンスですることにしましょうっ! ハリアー、ジェイド、レガシー、スターレット、アクセラ、訓練の結果を見せて貰いましょうっ! カモン、ボルケノ!」


 ボルケノって、いつの間に? それに、この音楽って最初から仕込んでいた? おい、俺は何も聞かされていないのだが。だれだ、こんな仕込みをしてくれたのは。


「立木さんですけど?」


 そうか立木氏がしてくれたのか。それなら良い……良くないだろう。この場の仕切りは俺の役目だよな?

 これは売れるって。確かに凄いよ、凄いのは認めるよ。キレキレだし、全員ものすごイケメンだしな。


「こちらなら、番組で使うことが出来ますね」


 ああ、これなら小さなお友達にも受けてくれるよな。それであっちなんだが、なんでBLTの二人と立木さんが握手なんかしているんだ。ひょっとして、さっきの芸も仕込みだった? もしかして、俺って嵌められたのか?


「まあ、芸は下準備が重要と言いますからね」


 それを否定するつもりは無いのだが。なんで、立木さんが準備なんかしていたんだ。俺は、立木さんに無茶振りをしたつもりなんだぞ。なんだ、その年期の違いと言うのは。それはなんだ、俺の考えることなどお見通しと言ってくれるのか?


「立木氏ですけど、技術系のエンジニアは向いてなかったんじゃありませんか?」


 これを見せられたら……いや、40年近く続けてきたんだよな。流石に向いていないは可哀想だと思うんだ。可哀想だよな?




舞台は修善寺にあるプリンス系のお宿です。いえ、どことは言いませんけど。

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