後始末とか
村の特産は異世界です
・後始末とか
大宴会なのだが、今回は研究所の大ホールを使うことになった。どう言うことかと言うと、今までよりも収容能力が格段に増えたと言うことだ。300名を超える報道陣対応は無理でも、200程度なら大宴会が可能になっている。
しかも知らないうちに、料理人が増えていたりした。なんでと首を傾げたら、セレスが理由を教えてくれた。どうやら立木さんが、中林村長さんに相談してくれたようだ。お陰で6人……6人も料理人が増員されたと言うことだ。それに加えて、配膳とかしてくれる人も採用してくれた。こちらは10人、大谷村のおばさま軍団が参戦したと言うことだ。
「キッチンは、給食センターをリノベーションしたのだそうです。そしてキッチンとここを、転移ゲートで接続したとのことです」
なるほど、それは凄いと言って良いんだよな。だけど、普段のことを考えたら人数が多すぎないか? 違う、普段は別の仕事もして貰っている。別の仕事って……もしかして全員アルバイト?
「朽木様が仰るには、来場者向けの飲食提供を考えているのだそうです。魔王様たちが人間を丸かぶり……ですか、丸かぶりしていたのは知られているんです。魔王城で人間料理……少し悪趣味な気もしますが……悪乗りをした料理を提供するようですよ」
人間料理って……マジか、マジと言ってくれるのか。しかし朽木君、夫婦の会話に割り込んでくるものじゃ無いぞ。
「色々と誤解をしているようだから、それを解消してやろうと思っただけだ」
誤解と言うのか? それで、どう解消してくれるんだ。
「ちょっと容器と名前を遊んだだけだ。頭蓋骨をデフォルメした器とか、指の形をしたフォークとかだな。食べ物で言うのなら、脳みそのパンケーキとか、阿鼻叫喚ポテト、オークのスペアリブ、デモンの唐揚げとかだ。ちなみに、写真があるから見てみるか?」
ああ、見せてくれ……と言う以前に、なんか言葉遣いが気になるんだが。俺、一応研究所のトップなんだがな。だから、立木さんは副所長なんだよ。それぐらい知っている……知っていてそれなのか?
ところで写真だが……おおっ、なかなかおどろおどろしく見えるな。ところで、阿鼻叫喚ポテトはフライドポテトだよな。この赤いのは何を掛けたんだ? 唐辛子ソース……大丈夫なのか? そうか、お子様用もあるんだな。それでオークのスペアリブは……大谷村特産野豚を使っているのか。デモンの唐揚げは、普通の鶏唐。青唐を少々……辛い方に振っているんだな。それで、脳みそのパンケーキは……魚のすり身と言うのだな。確かに、これならテーマパークの範囲だと思うぞ。
「あの6人に加えて、10人ほどスタッフを雇うことにした。予算の方は、立木さんからじゃんじゃんやれと言われているんだ。だから稼働を見て、人を増やすことを考えている。それに加えてだな、『今日の異世界に遊びに行こうっ!』にコーナーを作ることになった。うむ、魔王様たちが食べる料理をお子様から募集するコーナーだな。マミちゃんが、貰ったイラストを元に料理をすることになっている」
なんか、楽しそうなコーナーが出来ているんだな。これは、誰のアイディアなんだ? そうか、鴻池さんのところで考えてくれたんだ。いや、なんかこっちにも立木さんが絡んでるような気がしてたんだ。
「好きにやれと言われている以上、好きにやらないと駄目だろう。こう言ったことはだな、若い感性と言うのが必要なんだよ。あのおっさん……あっ、背中に冷や汗が……と言うのは良いのだが、立木さんを年寄りの感性と言って良いのかは疑問に感じているんだがな。ところでだ」
どうかしたのか?
「なんか、知らない顔が増えているのはどうしてだ?」
どうしてと言われてもだな、ヴェルファイアたちの世界からお客さんが来たんだよ。ああ、翼人の女性20人とドラゴンの男女20人と言うのが内訳だ。しかし、知らなかったのか?
「知らないから聞いたのだが。それはなんだ、鴻池氏が言っていたことに絡んでいるのか?」
そうそれ。ところで、どうして知らないんだ?
「少しも騒ぎになってないだろう?」
だけどなぁ、首相官邸で記者会見までしているんだぞ。それを知らないと言うのは、流石にないと思うんだがな。
「そうか、忙しくてテレビを見てる暇が無かったんだ。しかも魔王城に居ると、少しも騒ぎが伝わってこないんだ……と言うことも無いか。インテグラさんだったか、ドラゴン形態になったのが関係しているのか?」
あれはだな、こちらの戦力を見せてやっただけのことだ。だから、戦闘とかはしていないからな。そっちは、荷造り紐さんだけでことが足りたんだ。
「なるほど。ところで、さっきから視線を感じるんだが……なんか、獲物を狙う視線と言えば良いのか。これは、俺の気のせいなのか?」
それか、ああ、気のせいじゃ無いと言ってやろう。新しく加わった翼人なんだが、男と食べ物を求めてこっちに来てるんだよ。つまり、朽木君もターゲトット言うことだ。うん、俺は力になれないからな。だから、まあ、頑張ってくれと言っておこう。
そうか、普段なら喜んでいると言ってくれるんだな。つまり今は、喜んでいないと言うことか。
「なんか、視線が怖いんだよ。パッソみたいに、可愛らしく迫ってくるって感じじゃないだろう」
その観察は正解と言ってやる。最初に来た翼人たちもそうだったんだが、力関係で言えば女性の方が強いらしいんだ。だから、男は捕食される立場になると言うことだ。
「それで、代表様は放置するつもりなのか?」
放置か……恋愛の自由を認めているんだよ。だから、基本的に放置なんだが……度が過ぎるようなら駆除することも躊躇わないぞ。
「駆除と言うのも極端な気がするぞ。それから、度が過ぎた時点でエンターテインメント部門に問題が生じることになる。従って、所長様に善処を求めたいのだがな」
そうか、業務に影響が出てくれるのか。だったら立木さんに……まだ戻っていなかったか。だとしたら、俺がビシッと言わないといけないんだな。
あれっ、なんか空気が変わった気が……
「流石はラズライティシア様と言うことだな。うむ、所長様よりも有能と言うことか。流石は立木ガールズ……ガールズ……いやいや、ガールズと言うことにしておこう」
朽木君、汗びっしょりなんだが。いいか、口は災いの門と言う言葉を贈ってやろう。特に立木さんのところは、怖い女性が揃って……なんで、俺まで冷や汗が出てくるんだ? 俺の能力を超越してる?
初めまして、アウレリアさんで良いんですよね。アクアのお母様の。はい、アクアの夫をしている白船……裕一郎と言います。アクアのお腹に居る子供の父親で間違っていませんです。よくやった……ですか。まあ、頑張ったと思いますよ。
「それで、子供は一人だけなのですか?」
一人だけと言われてもですね。アクアたちが来てから、まだ1年しか経っていないんですけど。普通に夫婦生活をしていたら、一人でもおかしくないと思いますよ。
ええっと、手を出したのは一人かと言うことですか。すみません、実はハイエルフも一人手を出しています。ええ、シエンタと言う可愛らしい女性です。い、言い訳をさせて貰うとですね、シエンタを連れてきたのは。お、俺は、アクアだけで良かったんですよ……違う、なぜ他の翼人に手を出していないのかと言うのですか。
すみません、ちょっと考え方が違うと言えば良いのか……お願いですから、俺に向かってフェロモンを飛ばさないでください。俺は諸星さんじゃ無いんですからね。
「娘を味わったのなら、母親も味わってみたいと思いませんか?」
それって、どんなエロゲですか。と言うのは良いんですけど、俺は常識的……こちらのですよ、こちらの常識で生きているんです。いえ、お母様は綺麗だと思いますよ。ただ、アクアのお母様ですからね。だったら、俺にとってもお母さんと言うことです。お母さんに手を出すなんて、インモラルそのものだと思っているんですよ。
だから、フェロモンを飛ばさないでください。散々アクアで慣れましたから、他の人に比べて効きが弱くなっているんです。なんで舌打ちをしてくれますか? 諸星さん……は役に立たないか。誰か助けてぇっ!
しかしなんだ、どうして酷いことになっておるのだ? ヴェルファイア、翼人……悪かったなハイエース、翼人の女と言うのはどこかおかしくないか?
はずかしい。本能で生きてきていた。今の自分は理性的……まあ、あれに比べれば理性的なのだろうな。
「ここの食べ物が美味しいのも理由だと思います」
ここの食べ物が美味しいのは認めるのだが。それなら、食べ物に夢中になるのでは無いか? 食欲が満たされると、性欲が頭をもたげてくる。本当に、本能で生きておるのだな。
だがなぁ、こう言ったことにはコーメーが役に立たぬのだ。キヨヒコがおれば別なのだろうが、まだ戻ってきておらぬのだ。
しかたがない、毟るか
ご容赦を、か。大丈夫だ。全部毟る真似はしないからな。せいぜい半分程度……それも勘弁と言うのか。仕方が無いな、二三本毟ってやるか。
と言うことで、羽を毟る魔法の発動……うん静かになったな。ただ悪いな、少し毟りすぎたようだ。だが、まあ大人しくなったので良しとしておこう。
「それで終わらせて貰っては困るのですが……」
だったら、ぬしが言い聞かせてくることだな。流石にあれは、目に余るとしか言い様がなかったぞ。なんだ、否定できるのなら否定してくれても良いのだぞ。その時は、ぬしの羽も毟ってやるからな。
そうか、言い聞かせに行ってくれるか。それから言っておくが、羽を戻す魔法は開発しておらんからな。飛び散った羽を回収して、コーメーのところに持っていくことだ。あっ、突然風が吹き抜けてくれたな。
「誰です、窓を開けたのはっ!」
流石は上質な羽だな。軽やかに風に舞っておるぞ。阿鼻叫喚と言うのは、見ないことにしておこう。
シエンタだったか、ナイスと言ってやろう。だが、何故窓を開けたのだ?
「ユーイチロー様をお守りするためです」
白船をか? そうか、アクアの母親に迫られていたのだな。ならば仕方がないと言ってやる。しかし、ますます宴会が混沌としてきたぞ。しかし翼人と言うのは、落ち着きのない種族なのだな。その点エルフ族は……あやつら、ステージで何をやっておるのだ?
「何をって、覚えたダンスのお披露目ですけど?」
あれがダンス……なのか? なにか、格闘しておるように見えるのだが。
「カラテ、でしたか。その組み手からインスピレーションを得たと言っていました」
なるほど、創作ダンスと言うことか。しかし、ぬしらはダンスに命を賭けておらんか? そんなことはない、ただ埋没しないように苦労していると言ってくれるのか。
「それに、シアターの演目としても必要なんです」
パンの国公開と言う奴だな。確かにそれは必要なのだが、あのダンスは求められているものなのか? テレビで似たようなダンスを見た記憶があるのだがな。
「ラズライティシア様、あのようなもったりとした遊戯と一緒にして欲しくありません」
色々と敵を作りそうな意見だな。確かに、ぬしらの踊りは見事と言って良いものだろう。だがな、幾ら見事でもこちらのダンスはどうかと思うのだ。うむ、客が求めるのはパンの国の文化では無いのか?
そうか、それも考えていると言うのだな。そして、元々有る踊りなら、ここでお披露目する必要が無いわけか。そう言われてみれば、納得できる話でもあるな。
「ところでラズライティシア様、食事が進んでいないように見えますけど。ひょっとして、立木様がいないのが理由ですか?」
意外と可愛いと言うのは余計と言ってやろう。われはな、キヨヒコの前ではいつでも可愛い女なのだぞ。
それはそれとして、別にキヨヒコが理由では無いのだがな。ああ、蟹も肉もうまいのは間違いない。ただな、こんなものだったかと思っただけだ。最初に食べたときには、この世にこのようなうまいものがあったのかと感動したのだ。だが先日行った米子だったか、その宿と比べると何か違うと思えてしまうのだ。
「それはですね、料理の提供の仕方が理由になっているんですよ」
おおっ、キヨヒコでは無いか。いつの間に帰ってきたのだ! これシエンタ、なぜ笑ってくれるのだ。いや、いい、理由は言わなくてもわかっておる。
「それは良いのですが、随分と騒がしいのですね」
「それはですね、ラズライティシア様がちょっといらずらをしたからです」
あれをいたずらと言うな。あれはだな、場をわきまえない翼人どもに警告を発しただけだ。そもそも騒ぎが大きくなってきたのは、お前が窓を開けたのが理由だぞ。
「何をした……と言うのは、舞っている羽が理由と言うことですか」
「はい、ラズライティシア様が毟ってくださいました」
そしてお前が、窓を開けて吹き飛ばしたのだよな。自分のしたことを棚に上げるなと言っておく。
ところでキヨヒコよ、随分と遅かったな。記者会見とやらは、もっと前に終わったと思うぞ。だからシエンタ、べ、別に、寂しがっていたわけでは無いのだからな。もう一つ言っておくが、『羽を毟る魔法』の発動は八つ当たりでは無いのだぞ。
「それって、語るに落ちると言う奴ですよね? 私は、ラズライティシア様が『毟った』としか言っていませんよ」
な、ならば、なぜニヤつきながら言ってくれる。
それは良いのだが、これまで何をしておったのだ? あっちを見ろ……あっちを見れば良いのか? 確かあれは、後沢なるものと堀内なるものだったな。そうか、奴らを誘っておったと言うことか。
「連れて来る前に、色々と話をさせて……と言うより面接を受けましたよ。今の私は、後沢氏から派遣された立場なのですよ」
なるほど、確かにお前は後沢なる者が送り込んだのだったな。だが転籍……で良かったか、奴から自由になることも出来ると思ったぞ。いや、これぐらいのことはテレビを見ていれば理解出来ることだ。転職サイトだったか、お前はもっと自分を高く売れるはずだろう。
「今でも、分不相応の待遇で迎えられていますよ。それは良いのですが、私はまだ首にはならないようです」
お前を首だと? そんなことを考える方がおかしいと思うのだがな。IMO研は、コーメーとお前が居なければやっていけないはずだ。まだかすみと武見では、不足しているものが多すぎるだろう。
「私なんか、足りないところだらけですよ。あの二人は、ちゃんと自分の足で歩く能力を持っているんです。私と言う存在は、二人の成長を邪魔している可能性があるぐらいですよ。まだ働かせて貰えるようですから、もうちょっと頑張ってみようかと思っているんです」
お前には、ヨーカに対する責任もあるのだからな。ヨーカが独り立ちしていないのに、引退を考えると言うのは関心せんぞ。
「陽佳ちゃん……確かに陽佳ちゃんの独り立ちを見届ける必要がありますね」
そう言うことだ。それからシエンタ、後からじっくりと話をすることにしよう。
ところでキヨヒコよ、宴会に加わっていかぬのか?
「流石に疲れましたから、家に戻ってのんびりとしますよ。なぁに、食べ物ならここから持ち帰れば良いだけですからね。ティアには、先に家に戻って貰っています」
ならば、われも家に帰ることにしよう。それから、インテグラにも声を掛けてやらんとダメだな。フローリアンは……楽しんでおるようだから放置しておくか。
これからインテグラを連れてくるから、それまでここで待っておるのだぞ。料理ならば、われから山岡たちに申しつけておけば良いだけのことだ。
「行っちゃいましたね」
「そうだね。ところで君は、白船君のところに行かなくて良いのかな?」
「ユーイチロウ様のところは、アウレリアさんが怖いですから。いえ、もうちょっと落ち着いたら行こうとは思っているんですよ」
「彼女は、アクアさんのお母さんでしたね。しかし、エルフもそうですが翼人も年齢不詳ですね」
「ハイエルフでも、男性は結構老けた見た目になるんですよ。ただ女性は、成長はしますけど老けませんね」
「成長はする……どこがですか?」
「その……胸回りが、です。あのですね、今は乏しい胸をしていますけど、100年もすればもう少し大きくなるんです」
「100年ですか……私の子供でも生きていませんね。孫……まだ居ないのですが、孫でも生きているのかわからないほど先の話だと思います」
「こう見えても、私の方がずっと年上なんですよね。正確には数えていないのですけど、200と……17歳になったと思います。私の母……もう命を落としていますが、200歳ぐらい上だったと思います。あっ、ラズライティシア様が戻ってきました」
なにかしんみりとしている気がするのだが、何かあったのか? 何もない、ただ時間の話をしていただけと言うのか。ああ、われらはとても長生きだからな。
「私たちもヒトを基準にすると長生きになるわね。正確に数えてないけど、600年は生きてるはずだと思う……もっとかな?」
「どうして、私たちだけ寿命が長いのでしょうね? あっ、落ち着いたみたいですから、ユーイチロウ様のところに行ってきます!」
キヨヒコよ、ああ見えてもシエンタはお前よりも遙かに年上なのだからな。そんな、娘を見るような目をするでないぞ。そうか、それぐらいはわかっておるのだな。ただ、立ち居振る舞いが年若い娘に見えると言うのだな。それはなんだ、われの立ち居振る舞いが老けていると言いたいのか?
「なんだ、ちゃんと自覚していたのね」
そう言うぬしも十分に年寄りじみていると思うのだがな。まあいい、ここでお互いを傷つけ合って良いことはなにもないだろう。家に帰って、ゆっくりと温泉にでも浸からないか?
「それ賛成。食べる方はもう良いかなって思えてきたから」
「私は、まだそれなりに空いているのですけどね。まあ、ティアを待たせていますから、家で軽く摘まむことにしましょうか」
「お酒なら、私たちが付き合ってあげるわよ」
「でしたら、さっさと退散することにしましょうか」
うむ、移動ならば我に任せておけば良い。外は寒いからな、と言っても、いきなり部屋に入る真似はしないぞ。転移先は、ちゃんと玄関にするから安心するが良い。うむ、われは、気遣いの出来る大魔法使いなのだからな。
来たのかと言っちゃあいけないことぐらいは理解して居るぞ。何しろお前たちは、IMO研の大スポンサー様だからな。お金に困らないのも、お前たちのお陰と言うのもわかっているんだ。1年前を思えば、隔世の感があると思うぞ。
「明日は大雪か? まさか、孝明の口からそんなことが聞けるとはな」
いや、かなり真剣に感謝しているんだ。なんだったら、お礼に身長を10センチ伸ばしてやっても良いと思ってるぐらいだ。今なら、俺がやったことにできるからな。
「今のは、ちょっと心が動いたぞ。ただ、まあ、今回は遠慮しておこう。それはそうと、今回の件はいただけないな。いくらお前が強くても、敵を増やす真似はしない方が良い」
敵を増やす……俺がしたことで、敵が増えると言うのか? 今回のは、放っておいても翼人が空間を繋いでいたんだぞ。 確かに、きっかけは作ったのだが。それにしたところで、鴻池氏の要請に応えたのが理由だ。
「あいつらは、後先考えていないからな。何しろ問題が起きても、自分たちが矢面に立つことは無いんだよ。だから、かなり無責任なことでもやってくれるんだ。今は問題が起きていないが、勢いで異世界と繋げたとき、取り返しの付かない問題を起こすこともあるのだぞ。そもそもお前、後始末を立木氏に放り投げただろう?」
放り投げた……と言われも仕方が無いとは思っている。翼人を増やすことは仄めかしてはいたが、実際の行動は俺の独断で進めたのは確かだ。後始末……確かに立木さんに頼ったのは間違いない。
「あの人が65と言うのを忘れないようにしろ。お前の面倒を見させるために送り込んだのは確かだが、想定よりも負荷が重くなりすぎてる。だから、いくつか仕事を取り上げることにした」
立木さんの仕事を取り上げる……それは、IMO研究所から外れると言うことじゃないよな。今あの人に抜けられたら、色々と立ちゆかなくなるのがわかっているんだ。
そうか、IMO研から外すことはしないのだな。だったら良いのだが、何の仕事を取り上げるのだ?
「一番大きいのは金勘定だ。ウチの所でも手伝っているが、経理の仕事の殆どを立木氏がやっている。日々の経費……例えば、この宴会もそうだな。出張精算とかも全部あの人がやっているんだよ」
立木さんは、確か経理担当として派遣されてきたよな。だとしたら、IMO研究所の経理をしていてもおかしくは無いのだが……全部一人でやっていたのか?
「ああ、こちらでやる分は全部立木さんがやっているんだよ。うちの奴らは、何人かアルバイトを雇っていると思っていたようだ。それを一人でやっていると聞いて、冗談だろうと叫んでいたぞ」
い、いや、ちょっと待て。立木さん、何も言っていなかったぞ。それどころか、研究所では結構暇そうにしていたぐらいだ。
「後は、大谷村との折衝関係や、協力会社との協議、エンターテインメント部門の統括……研究部門でも引っ張り回されていると了解しているのだが? ああ、総務的な仕事もやっていたな。本人は手抜きをしているから大丈夫と言っていたのだがな。後は、所帯が小さいからなんとかなっているのだそうだ」
所帯が小さいって……翼人とかハイエルフとまで含めると、かなりの大所帯になってるぞ。それ以前に、研究所維持に必要な仕事の大半を立木さんがやっていると言うことか?
「一つ一つの仕事を考えて見ることだ。その仕事を、誰かに割り振っていたか?」
し、資材管理は薄墨さんがやっていたはずだ。食事の方は、自衛隊から派遣された隊員がやっているんだが……
「その費用はどこから出ている? どうやって、経理処理をしていると思っているんだ? 派遣されている自衛隊との人事管理、大谷村からの出向者の受け入れ……ボランティアを受け入れているのとは訳が違うと言うのをわかってるか?」
指摘されるまで、考えていなかったと言うのが答えになる。
「だから、仕事を整理して取り上げることにした。あの人は『バグってる』人脈、京都との関係だけで十分以上に働いてくれているんだよ。誰でも出来る仕事で使い潰すわけにはいかないと言うのは理解して貰えるよな?」
当たり前だと答えさせて貰う。やってない俺が言っちゃいけないことかもしれないが、たかが経理や人事、総務であの人を使い潰して良い訳がない。
「難しい所はあるのだろうが、御衣黄もあの人に頼り過ぎだ。お前ら、立木氏に何人分の仕事をさせるつもりだ?」
便利に使っているのを否定するつもりは無い。後は、色々と頼っていたのも間違っていない。ただ本音を言わせて貰うのなら、地道な仕事のことは忘れていた。知らなかったと言っても良いと思う。
「その辺りの非は、立木氏にあるのだろうな。ただな、ここはあまりにも環境が特殊すぎたんだ。公開してマシになったが、それでも特殊すぎる場所と言うのは変わっていない。一口で人を連れて来ると言っても、それが簡単なことじゃないと言うのもわかっているつもりだ。と言うことなので、俺の所から5人ほど手伝いに出すことにした。まあ場所が場所だから、常勤と言うのは難しいのだがな」
東京からここに転勤と言うのは、流石に厳しいのは確かだな。ああ、上里集落が特殊すぎると言うのは認めてやるよ。人目に付かないことを重視したせいで、アクセスに問題がありすぎるからな。
「人を雇うと言う意味ではその通りだ。その一方で、これまでいくつか事件が起きているだろう。その事件を考えた場合、大谷村で良かったと言うのも確かなんだよ。もう少し正確に言うのなら、人気の少ない寒村で良かったと言うことだ。もしも便利な場所に拠点を構えていたら、どれだけ人的損害が出たのか恐ろしいと思えてしまうよ。と言うことでだ……おい堀内、なんでハイエルフと楽しくやってるんだっ!」
「俺は、単なるスポンサーだからだ。何か、問題があるのか? 金が必要と言うのなら、引っ張ってくるのは吝かじゃ無いぞ」
「あいにく、金なら困っていないぞ。収益だけなら、荷造り紐でお釣りが来るぐらいだからな」
「だったら俺は、ハイエルフの綺麗どころと楽しくさせて貰うさ」
あれは、確かアルトとマーチだったな。しかし堀内氏も二人とは欲張りだな。ああ、集落向けの人間だと思うぞ。
と言うことで、お前もどうだ?
「言われなくても……それは良いのだが、翼人だったか? お通夜状態になっていないか?」
翼人がお通夜って……そう言えば、『羽を毟る魔法』で毟られた羽を戻していなかったな。仕方が無い、『元に戻れっ』と。これで混乱は収束しただろう。
「ところで、一体何があったんだ?」
何がと言われてもだな。ラズライティシア様が、『羽を毟る魔法』を使ったとしか……翼人が発情していたから、頭を冷やすために使ったんじゃ無いのか?
「発情ってのは随分生々しい言い方だな」
生々しいか、確かにそうなのだが。実際発情しているんだよ。だからフェロモンなんか放って、男を虜にするんだがな。白船君だが、お陰でアクアにはまり込んで干からびていたんだよ。今は、まあ、子供を作ってうまくやっているんだがな。
「翼人と子供ね……俺がやったら、大騒ぎになりそうだな」
お前の場合、芸能ネタになってくれるんだろうな。それ以前に、お前と言い堀内氏と言い、なぜ独り者なんだ?」
「堀内は離婚歴があるんだが……と言うのは良いのだが、俺とあいつは結婚観が違っているからな。あいつは、まあ、失敗に懲りたんだろう」
じゃあ、お前は?
「俺か、俺は懲りて……と言うより、なぜかフィーリングの合う女性がいなかっただけだ」
フィーリングと言ってくれるのか。紹介する方としては、なかなか難しい問題だと思うぞ。
「ああ、難しいのは理解しているさ。だから、セレスさんを譲ってくれれば良い」
なんだ、まだ諦めていなかったのか。ここにはフリーの女神様がいるのだが、そっちはどうだ?
「女神様……確か、魔王と戦っていた女神様だったか。ええっと……」
フローリアンさんだな。長い黒髪をした、胸元の豊かな綺麗な女神様だぞ。ほら、あそこで料理を漁っているのがそうだ。
「なかなかの美人だな。それに、そそる体をしていると思うぞ。ただなぁ、気のせいなのか残念美人に思えるんだ」
残念美人、残念美人ねぇ。そうか、残念美人に思えるのだな。なんでだろう、確かに残念美人なんだよなぁ。なんか、色々とポンコツだし。
ただな、それでも神様の力は持っているんだよ。ほら、魔王城公開で転移ゲートとか使ってるだろう。あれは、全部彼女が用意してくれてるんだよ。後は、恩恵を授けるチョーカーもそうだな。あれを使えば、お前でも空を飛ぶことが出来るんだぞ。
「空を飛ぶことが出来るのか……彼女のことは良いのだが、そういったアイテムを融通して貰えないか?」
アイテムかぁ。今なら、色々と用意しても問題は無いのだろうな。それで、具体的にはどんなのが欲しいんだ? 俺とお前の仲だからな、公序良俗に引っかからない限りなんでも大丈夫だぞ。
「取りあえず、空を飛べるアイテムだな。後は……肉体強化とかは無いのか?」
空を飛ぶのだったら、女神様のチョーカーがあるぞ。それから肉体強化、か? 具体的には、何を目的にしているだ?
「目的ねぇ、肉体強化は護身が大きいな。それ以外の目的は、単なる興味と言うのが大きいと思うぞ。去年、夜の東京を遊覧飛行しただろう。あの時の景色に感動させて貰ったからな、だから空を飛ぶことに憧れがあるんだよ」
あれか、確か御衣黄さんも感激していたな。ああ、マミちゃんも欲しがっていたぞ。流石に配れないので、あげてないんだがな。
了解した。それで、アイテムはどんなのが良い? 流石にチョーカーってのは似合わないだろう。
「ああ、俺に似合うとは思えないな。だったら……そうだな、指輪とかはどうだ? 今でもしているから、不自然には思われないだろう」
確かに、指輪をしているな。しかしなんだ、なかなかパンクな指輪をしているんだ。
「昔バンドをしていたからな。その名残だと思ってくれれば良い」
じゃあ、その指輪に恩恵を付与するか。空を飛ぶのと、肉体強化で良いんだよな?
「今のところ、他に思いつかないからな」
なんか良さげなものがあったら教えてくれ。検討の上、追加で恩恵を付与してやる。「飛行の恩恵」「肉体強化の恩恵」っと。これで、お前も空を飛べるはずだ。
「軽いな……普通なら詐欺を疑う、こともないな。詐欺を働くんなら、もっとそれらしくやってくれるか。で、どうやれば飛べるんだ?」
それはだな。指輪に命令をすれば良いはずだ、多分だけどな。
「随分といい加減だな。取りあえず試してみるか。空を飛ぶぞっと」
一応限度を考えろって……手遅れか。ああっ後沢の奴が、天井に張り付いているよ。まあ、恩恵は無事発動したと考えて良さそうだな。後は、空を飛ぶ練習をしてくれればうまく行くだろう。
「と、取りあえず俺を助けろっ!」
確かに、いつまでも天井に入り付いてはいられないか。了解、ゆっくりとここに降りてこい。いいか、ゆっくりだぞ。
宴会に出ていないのか、ですか。そのですね、大騒ぎしたい気持ちはあるんですよ。ただ、あっちに混じるのは違うのかなと思っているんです。大騒ぎをしたい理由、ですか。それがですね、なんと試験に合格したんです。はい、『高校卒業程度認定試験』のことです。自分で言ってはいけないことなんですけど、まさか受かるとは思っていませんでした。だって、私の頭ですよ、直前まで試験対策でヒーヒー言っていたぐらいですからね。
でもですよ、ちゃんと合格証が届いたんです。これで、私も春から女子大生になれるんです。もうね、ちゃんと出願してくれたお母さんに感謝感謝大感謝です。
本当なら、お父さんともお祝いをしたかったんですよ。でもお父さんは、IMO研究所の副所長をしているんです。だから、今回の事件で東京に行かないといけないし、翼人さんたちの歓迎会にも出ないといけないんです。はい、それぐらいのことは理解しているんですよ。これまでお父さんには色々として貰ったから、こんな時ぐらいは我が儘を言ってはいけないと思っているんです。
でも、ちょっと寂しいなぁ
と思っていたら、誰かが玄関に転移してきました。はい、この辺りは勇者の能力が役に立っています。だって敵に不意を突かれて負けたら、はっきり言って間抜けでしょう。だから、周辺探知は勇者にとって必要技能の一つにもなっているんです。
でも、誰が戻ってきたんだろう。お母さんティアさん、ちょっと玄関に見に行ってくるねぇ。
と言うことで玄関に来てみたら、お父さんとインテグラ母さんが立っていました。あれっ、このメンバーだったらシア母さんが居ないとおかしいよね。
と思っていたら、シア母さん登場。そうか、かすみ姉さんを迎えに行っていたのね。うん、納得納得。
それでお父さん、あっちは良かったの? 必要な身代わりは置いてきた……身代わりって、誰?
「それは良いのですが、随分と待たせてしまったようですね」
ううん、そんなことは無いよ。お父さんが戻ってきてくれただけで、私には十分だから。だから、シア母さん、インテグラ母さん、ちょっと空気を読んでくれるかな。どうして揃って、自分を指差してくれるのかしら。忘れてないから、今はお父さんの娘をさせて欲しいんだけど。
「とにかく、早く内輪でお祝いをしましょうか」
うん、晩ご飯は食べちゃったけど、お菓子だったら沢山残っているから。なんでかすみ姉さんが偉そうにしてるのかしら?
「私が下げているものが目に入らない?」
うん、そんな大きなものは目に入らないから。と言うぼけは良いんだけど、ひょっとしてケーキ?
「研究所の人に用意して貰ったのよ。有名なお店のガトーフレーズ……まあ、イチゴのデコレーションケーキね」
ええっと、ありがとうで良いんだよね。そっか、ありがとうで良いんだ。なんか、嬉しくて前が見えなくなって来ちゃった。ねえ、今日は泣いても良いんだよね? だからお父さん、ちょっと胸を貸してください……少しアルコール臭い気がするけど。
今日は月が綺麗に見えているわね。そう言えば、あの悪夢の日も月が綺麗に見えていたっけ。いけないいけない、今日はヨーカちゃんの目出度い日だったわね。悪い思い出で暗くなってちゃいけないわ。
それでこれからどうする、ヨーカちゃんは寝ちゃったけど。そっか、キヨヒコも疲れていたわね。だったら、二人でお風呂に入って寝ることにしましょうか。ところでカビの生えたエルフ、なんで意外そうな顔をしてるのよ。
「ぬしが似合わぬことを言ったからに決まっておるだろう」
似合わないこと? 何か言ったかしら? 私だってね、空気ぐらいは読めるし、気遣いだって出来るのよ。それにキヨヒコが疲れているのはよくわかってるんだから。
それから言っておくけど、バフを掛けようなんて考えてないわよ。あれはね、体力回復には役に立たないから。ポーション、あれも体力の前借りでしか無いんだからね。今のキヨヒコは、前借りするほど体力が残ってるわけじゃ無いから。だぁかぁらぁ、意外そうな顔をするんじゃ無いのよ。
「それぐらい、ぬしが似合わぬことを言ったと考えることだな」
あなただって、人のことを言えないと思うんだけどな。そんなことは良いから、大浴場に行かない? それとも、第二近くの露天風呂にしておく?
「風流さを味わうのなら第二の方だろうな。ただ今日は、湯殿にしておいた方が無難であろう。なぁに、天晴山の四合瓶を持っていけば良いだけだ」
そうね、四合瓶を持っていくのは大賛成よ。あれっ、オルティアさんどうかしたの?
「ワタシモマゼテモライタイ」
いいの、こっちに残っていなくて。そう、色々と思うところがあったのね。だったら、お姉さんたちが話でも聞いてあげましょう。先に釘を刺しておくけど、おばあさんと言ったら寒空に放り出してあげるからね。
と言うことで、どうする転移する? すぐそこだから歩いて行く? 寒いけど、月が綺麗に見えるわよ。そっか、たまには歩いて行くのも良いと思ってくれるのね。でもオルティアさんは大丈夫?
「ワタシノコキョウモサムカッタ」
じゃあ、大丈夫なんだ。ええっと、自信は無いって。言ってることが違ってない?
「リロンブツリガクシャハヒキコモリ」
ああ、そう言うことね。ほんのちょっとだから、月でも見ながら歩きましょうか。
お酒と木で出来たぐい飲み、そして大きめのお盆を用意すれば、雪見酒の準備になるわね。つまみ……つまみだったら、綺麗なお月様が窓から見えるでしょう。だからカビの生えたエルフ、似合わないことって言わないように。それぐらい、自覚しているんだからね。
それで、もう一つのつまみはどうする? 恋バナ……私たちの恋バナって……別に良いけどティア、覚悟は出来てるの? 私たちに聞くと言うことは、あなたも話さないといけないんだからね。
「サビシイケンキュウシャニコイバナハナイ」
それ、マジで言ってる? あんた、ことあるごとにキヨヒコに言い寄ってるじゃ無い。そのくせ恋バナが無いって、信じられないんだけど? そう、相手にして貰っていない。だから、恋バナが成立しないと言うのね。
ああ、確かに相手にされてないわ。うん、されてない、されてない。
「ジジツニハチガイナイガ、クリカエサレルトキズツク」
自分で言ったことと言うのは指摘しちゃダメ? そうか、今は許してほしいというのね。了解、だったら私とカビの生えたエルフの恋バナね。と言うことで、カビの生えたエルフからどうぞ。
「ぬしは、本当に命知らずなのだな。竜人最強なのかも知れぬが、正面からわれと戦えば無事ではすまないだろう」
その辺りは、近くにキヨヒコがいるからよ。私たちが本気で戦ったら、この辺りなんて蒸発しちゃうでしょ。
「なるほど、キヨヒコたちを人質にしたか。ただな、われをカビが生えたと言うのなら、ぬしは苔生したトカゲであろう」
苔生したって……マイバッハ様程じゃ無いわよ。それは良いとして、酒のつまみにするからあなたの恋バナを教えなさい。
「本当に偉そうな奴だな。われの恋バナを聞きたいと言うのか……」
やけに真剣に考えてるけど、心当たりが無いの? まさか、キヨヒコの前に経験が無いとは言わないよね?
「それこそまさかだな。一人一人思いだしておるのだが、恋バナと言って良いのか考えて見たのだ」
なるほど、逆に沢山いたと言うのね。参考までに聞きたいんだけど、何人ぐらい居たのかしら?
「うむ、100年に一人ぐらいだから……50人ぐらいと言うことになるな」
流石はカビの生えて干からびたエルフね。今のだけで、5千年ぐらいになるんだけど。そう、実際にはもっと長く生きている。よく惚けなかったわね。感心してあげるわ。
「男を作ったのも、惚け防止が理由になっておったからな。それから断っておくが、その時は愛おしく思っておったのだぞ。ただな、奴らは一人の例外も無くわれを置いて逝ってしまった。ああ、やつら一人一人の顔が浮かんでくるな」
そうか、一人一人を大切にしていたのね。ところで、ちょっと微妙な質問を良い?
「ダメと言っても聞くつもりなのであろう。そしてその質問は、キヨヒコはどうなのかと言うことだろう」
流石は人生経験が長いだけのことはあるわね。それで、これまでの男とキヨヒコは同じなの?
「キヨヒコはな、われを大魔法使いではなく一人の女としてみてくれている。キヨヒコの前では、われは恋する乙女で居ることが出来る。それが答えと言うことになるな」
それが答え、ね。だとしたら、別れが辛くなってくれるわね。
「今のところ、別れのことは考えておらん。それはそれとして、われは恋バナとやらを教えたぞ」
つまり私と言うことね。一応、これでも夫を持っていたのよ。私のことを竜人最強って言ったけど、真の最強は夫のワジャだったわ。私よりも一回り身体が大きくて、とても深い思慮をしていたわ。子供が出来なかったのは残念だけど、それでも私たちはとても仲の良い夫婦だった。
「そしてぬしの夫は、死んだと言うことか」
ええ、私たちを逃がすために囮になってくれたわ。こっちで言う100m超級……その竜人が10と50m超級30が囮になったのよ。
「もの凄い戦力だな。そこまでしないと、ぬしらが逃げられなかったと言うのか?」
そうね、その前に50m超級だったら数え切れないほど殺されているわ。しかも相手は、たった一人のエルフなのよ。魔王エリシオン。あなたよりは若いけど、1千年ぐらい生きているはずよ。
「ならば、ぬしにとってキヨヒコはどのような存在なのだ?」
故郷を捨てた悲しみ、仲間を見捨てた悲しみ、夫と一緒に居られなかった悲しみ。その悲しみを忘れさせてくれる人と言うが答えになるのかな。恋と言う意味なら、間違いなくこれは恋だと思ってる。
と言うことで私たちは話したわよ。さっきも言ったけど、あなたもさっさと吐きなさい。
「サッキモイッタケド、サビシイケンキュウシャニコイバナハナイ」
研究者になる前はどうなの? 生まれたときから研究者ってことは無かったんでしょう?
「チイサナコロハ、ヘンジンダッタ。イッテイルコトガムズカシスギテ、チカヅイテキタノハヘンナオジサンバカリ」
そのおじさんにいい人は……その顔を見る限りいなかったのね。
「ワタシダッテコイヲシタイ。デモ、ダレモワタシヲオンナトシテミテクレナイ。ソンケイハシテモラエテモタイトウニハミテクレナイ」
なんか、カビの生えたエルフに境遇が似てるわね。引き合いに出すなって……否定できるの?
「そんなことより、ティアの話の方を聞くことにしよう」
逃げたわね。まあ、あなたのことはどうでもいいんだけど。
でもさ、なんでキヨヒコだったの?
「イッショニイルノガココチヨカッタ……ソレデハコタエニナラナイカ?」
答えにはなってるけど、それだけ?
「クワエテイウノナラ、キヨヒコハワタシニチテキコウフンヲアタエテクレル」
知的ね痴的じゃないことを願ってるわ。漢字じゃ無いとわからないことを言うな……そうね、確かにそうだったわ。
ところで抱いてくれと迫ってるけど、どこまで本気なのかな?
「ドコマデトイワレテモ……ホンキデイッテルツモリ。タダ、ダカレナクテモマンゾクハシテイル」
おっどろいた。随分とプラトニックなことを言ってくれるのね。
「ソレハヒテイシナイ。ジブンジシン、イマノキモチニオドロイテイル。イマサライワナクテモワカッテルトオモウケド、ワタシハショジョ」
そうか、あなたも色々と抱えているのね。処女……男を知らないってことね。意外と言いたかったけど、話を聞いていたらそうなるわねと思ったわ。
そうなると、残るはかすみちゃんか……
「カスミハワタシトオナジニオイガスル」
話の流れからすると、学者として成功すると言うことじゃないのよね。
「コノママダト、カスミモイッショウショジョ。カノジョノシッパイハ、ムスメノタチバヲツクッテシマッタコト。マトモナチチオヤハ、ムスメニタイシテヨクジョウシナイ。ソシテキヨヒコハ、マトモナチチオヤ」
そうね、お父さん、お母さんと言ってるのが失敗だと思うわよ。多少……かなり変なところはあるけど、キヨヒコは良い父親だもの。
ところでティア、顔が赤いけど大丈夫? そう、流石に酔ったのね。違う恋バナで頭に血が上った……いい年してそんなことを言うの。
それはそうとして、湯あたりしないうちにお風呂から出た方が良さそうね。ありがとう、とっても楽しい時間を過ごせたと思う。ティアは無理だと思うけど、シアとはまだまだ長い付き合いになると思う。思うから、たまには酒を酌み交わしましょう。
「相手がぬしと言うのは不満だが……まあ退屈はしないで済みそうだな」
それはお互い様。ティアが倒れる前に、涼みながら家に戻りましょう。ええ、今日は大人しく寝るつもりよ。それに明日になれば、キヨヒコの疲れも取れると思うから。
疲れが取れたらどうするのか、かしら? ねえシア、今更そんなことを確認する必要があるの?
最後はちょっとしっとり熟女(?)の会話で




