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異世界人増強について

村の特産は異世界です


・異世界人増強について


 鴻池氏に、『もっと翼人とか増やせないか』と言う依頼を貰ったこともあり、翼人を増やす努力をすることにした。こら、そこのハイエルフ、その方法だと時間が掛かって仕方が無いだろう。誰だ、子作りに励むと言ったのは。だからヴェルファイア、ちゃんと夫婦の時間はとっているつもりだぞ。

 はあはあ、だからヴェルファイアたちの元いた世界を見つける試みをすると言うことだ。そうすれば、あちらの世界に居る翼人を連れてくる……勿論、合意の上での話だぞ。だから、攫ってくると言う話は無いのだからな。センティア、力尽くと言うのは色々と問題があるんだ。


 それもあって、アルカナとイセッタに協力して貰って捜索に出ることにした。なぜインテグラでは無いかと言うと、彼女は温泉旅行中だからと言うのが答えになる。べ、別に、立木さんの留守を狙ったわけじゃ無いぞ。たまたま、この時期になっただけなんだからな。それに、立木さんには翼人の居る世界を捜索することは、それとなく伝えてあったんだからな。

 うん、これは俺がリーダーとして決断して始める事業なんだ。それに、いちいち副所長の立木さんの意見を聞くのも違うと言う気がしている。ほら、立木さんも『引退したい』って日頃言っているだろう。だったら、そのために俺も、独り立ちをしないといけないと思うんだ。異世界関係だったら、立木さんより俺向きという気もしたんだよ。


 そう、だからヴェルファイア、ハイエース、色々と頼むぞ。それからアルカナ、イセッタ、二人を連れて飛んでくれ。今回の転移ゲートなんだが、警報対象から外してあるから騒ぎにならないから大丈夫だ。

 空間接合だが、マーカーさえあればシャルロットが転移できるそうだ。ああ、一度マーカーを設置すれば、比較的容易に行き来できるようになるわけだ。


 で、良いんだよな、シャルロット


「攫われた世界から戻ってきましたから、一応その通りと言うのが答えになりますね」


 だそうだ。だから、帰りは心配しなくても大丈夫なんだよ。なんだアルカナ、行ったのと同じ方法で帰れると言うのか。それならそれで、構わないと言うのが答えになるのだがな。


「では我が君、しばしお別れとなります」


 ああ、ヴェルファイア、アルカナ、イセッタ、よろしく頼むぞ。それからハイエース、なんだかんだ言って頼りにしているからな。

 なんだ、残っている女たちが怖いと言うのは。そうか、こっちに来たのはまだ大人しい方だと言うのだな。違う、ずっと大人しい方と言ってくれるのか。そのあたりは、まあ、なんだ。しっかりとお前の目で見極めてくれとしか言い様がないな。大丈夫、俺はハイエースのことを信じているんだぞ。お前なら出来る、立派にやり遂げることが出来る、自分を信じろハイエースっ!


「なにか、大丈夫な気がしてきました」


 うんうん、アルカナとイセッタが居れば、多少の荒事だって大丈夫だからな。そうか、あちらの世界でも竜は恐怖の対象だったと言うのだな……ひょっとして、二人が行ったら争いにならないか?

 大きさ的には、アルカナとイセッタの方が大きい。100m超級になると、あちらの始祖竜でも敵わないはず。だったら良いのだが、追加のお願いとして争いにならないように気をつけてくれよ。


「ところで諸星様。翼人以外も誘って宜しいのでしょうか?」


 その辺り、無理強いをしなければと言う所だな。それから、美辞麗句を並べて騙すんじゃ無いぞ。それを理解してくれれば、他の種族を勧誘するのも可と言うことになる。まあなんだ、せっかく捜索に行くんだ。お前たちの目で、スカウトしてくるのは一向に構わないぞ。


 色々と言い含めてから、4人を送り出すことにした。しかしなんだ、異世界転移ってのは地味な話なんだな。『行ってきます』と言うのは良いのだが、その言葉から少し遅れて4人の姿が唐突に目の前から消えてくれたんだ。うん、なんのエフェクト……派手な効果は全くなかったんだよ。そのまあ、うん、ちょっと期待外れと言って良いのだろうな。本物はそう言うものと言われれば、まあ、確かにそうなんだが。




 はいヴェルファイアです。こうしてお話しするのは、二度目と言うことになりますね。そうです、ハイエースがおかしなアイテムを使って以来と言うことです。ただおかしなアイテムですけど、私にとっては宝物のようなものになってくれました。お陰で私は、絶倫の主人様に巡り会うことが出来たんです。しかもアクアが、ちゃんと後継者を妊娠してくれたんですよ。子供の出来にくい私たちにとって、新天地は天国のような場所なんです……食べ物がもの凄く美味しいからと言うのは今更ですが。

 食べ物と男を餌にすれば、仲間を勧誘するのは難しくないと思っています。後は、翼人族に従う亜人を連れて帰れば、その亜人なんですけど、トカゲの仲間を擬人化したものです。主人様の世界で言う所の……そんな亜人は実在しませんけどね。リザードマンと言うのが、一番しっくりとくる呼び方になります。なんですリザードマンは卵生……寒いところでも大丈夫かと言うのですか。その辺りはですね、温泉が決め手になると思いますよ。産卵場所にしても、ちょっと谷に降りれば綺麗な水が沢山あるのはわかっているんです。


 勧誘方法、ですか。それはですね、とってもわかりやすい方法をとることにしました。はい、その想像は間違っていませんよ。食べ物で釣るのが、一番手っ取り早いんです。後はですね、美味しいお酒と言うのも重要です。

 ですのでアルカナさんとイセッタさんには、酒樽……この場合はワインになるのですけど、ワインの樽とウィスキーのペットボトルを運んで貰うことにしました。後はですね、塊の生ハムとか、美味しいリンゴとかもお土産に持っていくことにしました。ブドウ……ですか? これはお土産じゃありませんよ。ええ、私たちのおやつにと持っていくことにしたんです。おやつはですね、チョコレートなんかも用意してあるんです。フルーツゼリー……おいしいですよね、あれ。


 と言うことで、アルカナさんたちの案内で異空間を移動することになりました。これはですね、はっきり言って初めての経験なんです。何もない暗闇の中に、幾つかぼんやりと光る球状の物体が存在しています。その球状の物体が、別の世界への入り口なんだそうですよ。なるほど、私たちを取り巻く世界って、こんな風になっていたんですね。

 ちなみに主人様の居る世界は、その中でもひときわ大きな球になっていました。大きさから行くと、他の世界を10個合わせたのよりも大きいぐらいですね。だから帰り道にも、迷わなくても済みそうです。尤も、帰り道はブーランジェリー王国同様にゲートを作ると言う話になっているのですが。


 それでですね、私たちが元いた世界はどこかと言う問題があります。インテグラさんが言うには、途中で似た世界を見たらしいんですよね。ただ通り過ぎただけと言うことで、具体的な場所はよくわかっていないんです。だから私たちの居た世界を見つけるために、力業を使うことにしました。言い換えるとですね、何も考えていない方法とも言えますね。はい、手当たり次第に確認していくと言うものです。


「この世界は外れですか……」


 最初に訪れた世界は、荒野が広がる世界でした。生きとし生けるものの見つからない世界……遺跡のようなものはあったのですが、何一つとして動くものを見つけることが出来ませんでした。ええ、草木すら見つからなかったんです。それなので、その世界からは早々に退散することにしました。

 そして次の世界に来てみたのですが……そこもまた、同じように荒野が広がっていました。いえ、どこにでも同じ世界があるとは言いませんよ。でもですね、集落には少なくとも4つの世界の人が集まっているんです。それを考えたら、もう少し見つかっても良いと思いませんか?


 ただ文句を言っても仕方が無いので、諦めて他の世界を見に行くことにしました。ええ、異空間に出てみれば、それこそ星の数ほど球状の光を見つけることが出来ますからね。捜索候補には事欠かないと言って良いと思います。

 それから10個ぐらいの世界を確認したのですが、そのいずれも似たように荒野になっていました。それだけ、私たちの引きが弱いと言うことかしら。でも、他にも星の数ほど球体はありますからね。だったら、根気よく探していけば良いだけのことだと思います。それに荒野だったら、確認に時間は必要ありませんからね。


 ところでアルカナさん、イセッタさん。表情が優れないように言えるのですけど。何かありましたか?


「いえ、先ほどの世界なんですけど。何か見覚えがあるような気がして……私の知っている世界は、世界全体に光と緑に溢れていました。だから、見た目自体は全然違うのは確かなんです。ただ、記憶にある建物があったような気がしたんです」


 そうですか、見覚えのある世界に似ていましたか。でもお二人がいらしてからの時間経過を考えたら、あそこまで荒廃するのは考えにくいですよね。全体が風化していましたから、時間としてかなり経過していると思いますよ。

 そう、それぐらいのことはわかっていたんですね。ただ気になっただけ……多分ですけど、気のせいで片付けてもいいと思うんです。


 ほら、あそこに明るく輝く球体がありますよ。これは私の勘なのですけど、きっと新しい出会いがあると思うんです……あれっ、求めていたのは新しい出会いでしたっけ?




 お庭が有名な美術館を見学中に、私の時計に通知が送られてきました。そうですか、大規模転移が発生したのですね。警報が出ない所を見ると、どうやら計画的な転移を行ってくれたようです。だとしたら、諸星さんの言っていたあれですかね。


「キヨヒコ、どうかしたのか?」


 ああシア、諸星さんが異世界探索を始めてくれたようですよ。せっかくだから、私も立ち会いたかったなと。

 なぜ、そこで『嘘を言うな』と言ってくれるんです。別に、嘘を言っているつもりありませんよ。


「だがの、リスクで良いのか。積極的な探索にはリスクがあると考えておるのだろう?」

「そう言えば、私たちが逃げ出した理由を聞いていたわね。それに関係することと思っていいのかしら?」


 嫌ですね、私はそんなことを考えていませんよ。だから、『嘘』と声を揃えないように。それから顔に出るほど迂闊じゃありません。だから顔に書いてあると言っても無駄と言ってあげます。

 それよりも、せっかく日本有数の美術館に来たんです。慶子たちのように、芸術を楽しんだ方が良いと思うんです。展示してある絵画は個人の作品ですが、その背後には長い歴史の積み重ねがあったんですよ。そして外の庭も、造園技術の集大成と考えても良いものなんです。


「まだわれには理解出来ないところもあるのだがな。ただな、キヨヒコの言う積み重ねと言うのは理解出来る気がするぞ」

「そうね、まだまだ理解が追いついていないところがあると思うわ。でも、庭を含めて綺麗だとは思ってるわよ」


 まあ、芸術なんてそんなものと言って良いと思います。無理矢理理解しろと言っても意味がありませんし、理解出来ないと考えても不思議はないと思うんですよ。何しろ同じ世界に生きていても、美しさに関する感性は驚くほど違っていますからね。

 だからシア、あなたを美しいと感じるのは物好きとは違いますからね。それからインテグラ、あなたも同様に美しいと思っているんですよ。それからフローリアンさん、自分はどうかと指差してこないように。まったく、あなたたちは私に何を言わせたいんですか? ええ、答えはいりません。それがわからないほど、私は若くありませんので。


 それから慶子、疲れてはいないか? ああ、美術館と言うのは疲れる場所だからな。歩き回るのもそうだが、頭の方も疲れてくれるんだ。

 ところで陽佳ちゃんは退屈していないかな。なるほど、美術の教科書で見た絵が沢山あって面白いのだね。そうか、そこで教科書が出てくれるのか。流石は現役の女子高生と言う所だね。それでティアは……色使いが興味深い。ここに所蔵されているのは、日本画が主になっているからね。だから、西洋画とは感性が違っていても不思議じゃ無いんだ。画家が環境から受ける影響……それが、西洋とは違っているのだからね。


 だからかすみちゃん、そこで拗ねないように。かすみちゃんも楽しめているのかな? それともかすみちゃんは、色気よりも食い気の方だったかな。はいはい、そこで口を尖らせないように。そろそろカフェで休憩しようと思っていたのだけど、かすみちゃんには不要だったかな?

 それからかすみちゃんに一つお仕事をあげましょう。ええ、武見さんたちを呼んでくると言うものです。そろそろ合流して、宿に移動することを考えようと言うことです。本山たち……かな、あいつらは放っておいても付いてくるでしょう。


「言っていることに間違いは無いが、俺に対する敬意が足りてないんじゃ無いのか?」


 ここに現れたことがすべて……と言うことだぞ、本山よ。まあ、お前のお陰で美術館側が休憩場所を用意してくれたんだ。だから、一応感謝なんかしておこうか。それから大芝、宇梶、何か言いたげな目で私を見るんじゃない。




 4人を送り出してしまうと、本当に暇になってしまう。探索が簡単じゃ無いのは理解しているので、ここでじりじりしていても意味が無いのもわかっている。

 なんだリズ、俺が何か面白いことをしたのか?


「ううん、コウメイってもっと落ち着いていると思っていたの。でも、それが勘違いだったって教えて貰ったんだなぁって。見てご覧なさい、セレスさんは少しも焦って……あれっ?」


 セレスの様子がおかしいって、確かにご機嫌が良くないように見えるな。相変わらず綺麗なんだが、眉間にしわを寄せるのを始めて見た気がするぞ。


「コウメイ様、私だって気分が優れないときもあるんですよ」


 そりゃあ、誰だってそんな時があってもおかしくないのだが。おかしくないのだが、その理由が問題になると思うぞ。特に普段と違うことをしていれば、その理由が気になってもおかしくはないだろう。

 それで、何か理由があるのか?


「理由ですか……多分杞憂だと思うのですけど。インテグラさんたちに、逃げ出して来た理由を教えて貰いましたよね。ちょっと、その理由が気になってしまったと言うことです」


 インテグラたち……竜人たちが逃げ出してきた理由。つまり、戦いに負けたと言う奴のことだよな。皆殺しにされそうになったので、選抜されたインテグラたちが別の世界に逃げ出したと言う奴だろう?


「あの竜人が、皆殺しにされそうになるんですよ。いったい、どんな相手がそんな恐ろしいことが出来るのでしょう。ラズライティシア様でも、竜人相手では一対一ならなんとかと仰ってたぐらいなんです」


 確か、相手はエルフの大魔法使いと言っていたな。その大魔法使いが、世界を滅ぼそうとしていると教えられたぞ。それに抵抗した人たちが、竜人にも助力を求めたんだよね。竜人も世界が滅びるのは困るから、協力するのもおかしなことじゃ無いな。

 そう言われると、そのエルフの大魔法使いと言うのが気になるな。世界を相手に、たった一人で破壊を尽くしたと言うことだろう? そんな真似、ラズライティシア様でも不可能だろう。俺か、俺ならばか? まあ、出来ないと言うつもりは無いぞ。ただ、そんなことをしても意味が無いからやらないだけだ。


「でしたら、なぜ大魔法使いは世界を滅ぼそうとしたのでしょう?」


 なぜと言われてもだな、俺にも理由なんかわからないぞ。インテグラたちだって、理由がわからないと言っていたと思うんだ。


「そうですね、インテグラさんも理由は知らないと言っていましたね。そして、彼女が居た世界のその後のこともわからないと言っていましたね」


 逃げ出してきたんだからな、後のことがわからないと言うのもおかしなことじゃないだろう。ただあの竜人が逃げ出すぐらいなのだろう? だったら、その大魔法使いを止められるとは思えないな。


「止められなければ、その世界は滅びたことになりますね。だとしたら、大魔法使いは滅びた世界に殉じたのでしょうか?」


 そんなことを聞かれてもだな、そうか、疑問に思っているだけで質問をしたわけじゃ無いと言うのか。


「もしも世界に殉じたのだとしたら、なぜ大魔法使いは道連れを作ったのでしょう。なぜ、そんな悲しい真似をしたのでしょうね」


 もし世界に殉じたら……か。だが理由なんてものは、本人にしかわからないものじゃ無いのか? もしも怨恨が理由だったとしても、巻き込む相手は世界じゃないと思うんだ。だとしたら、狂っていたと言うのも理由になると思うぞ。


「だとしたら、どうして大魔法使いは狂ってしまったのでしょう」


 それこそ、誰にもわからないのでは無いのか? 人間なんて、本当にちょっとしたことが理由で狂うことがあるのだからな。大魔法使いだからといって、人間の柵から逃れられないと思うぞ。


「あなたの言うとおりなのでしょうね……」


 ほうっと物憂げなため息を吐かれると、ムラッとくるのは溜まっているのだろうか。いやいや、毎晩夫婦の営みをしているのだから、溜まっているはずは無いのだが。


「それはそうとして、どうやって見つけた世界と繋げるのですか?」


 どうやって、か。考えていなかったと言うと叱られるか? 叱りはしないが、色々と目論見が狂うことになる。それを言われると辛いのだが、どこまで俺の強制力は有効なのだろう。もしも時間や空間を超越できるのなら、アルカナに頼らなくても空間ぐらい繋げられるよな。ああ、『ヴェルファイアの世界へのゲートを開け』と命ずればすむんだから。それから今のは命令じゃ無いからな、ちょっとした呟き、独り言と言う奴だぞ。だから、なにかが開き掛けているのは気のせいと言うことにしてくれるかな。

 だからリズ、非常識と言ってくれるな。お前だって、俺と同じ強制力を持っているんだからな。なんだ、持っているけどそこまで非常識じゃ無いってのは。それはだな、力の使い方がわかっていないからだと思うんだ。間違っても、俺が非常識だからじゃないと思うぞ、多分だけどな。




 アルカナたちが異世界に行っても、立木さんたちが温泉旅行をしていても、魔王城とブーランジェリー王国公開は継続している。ちなみに女神様は、立木さんと一緒に温泉旅行に行っている。その辺り、お疲れ様の慰労と言うのと、小さなお友達には女神様の有り難みが少ないと言うのが理由になっている。うん、お父さんたちには女神様は大人気なんだけどな。

 それで、女神様の代役がどうなっているのか、か? その辺り、翼人たちが張り切ってくれてるよ。その辺り、かつて『神人』を名乗っていたからだろうな。白い翼を広げて、神託に似たことを子供たちにしてくれてるぞ。


「でも、問題があるんです」


 どうしたコナ、最初はかなり張り切っていたよな?


「どうして、素敵な殿方がおいでにならないのでしょう?」


 どうしてと言われてもだな。お前たちが担当しているのは、お子様向けのアトラクションだからと言うのが理由になる。なんだ、引率者に期待をしたと言うのは。相手は学校の先生なんだぞ、子供たちをそっちのけにして楽しめると思っているのか?

 そうか、それが期待外れだと言うのか。ちょっとした疑問なんだが、バネットたちは文句を言っていないぞ。


「それは、彼女たちは決まった男性がいるからです」


 上杉氏たちのことを言っているのか、そうか、上杉氏たちのことを言っているのだな。それで、不満を溜めているのは誰なんだ?


「ソナタ、私、それからノアです」


 つまり、16人中3人と言うことか。ハイエースたちが4人だから、残りの9人はこちらで相手を捕まえたことになるんだよな。いや、まだこちらに来て1年経っていないんだろう。それを考えると、恐るべき成立率に思えるんだが。

 なんだ、率のことはどうでもいい。いくら率が高くても、自分に関係なければ0と同じ。いやまあ、言っていることに間違いはないと思うぞ。ただなぁ、お前たちってそれしか無いのか? そんなことはない、だから仕事もしていると言うのか? それって、仕事に名を借りた男漁りのような気がするんだ。気のせいって……本当に気のせいなのか?


 一部翼人の不満はあるのだけど、小学生以下への無料公開は好評を博している。うん、『異世界に遊びに行こう!』だけど、このご時世で世帯視聴率が20%を超えているそうなんだ。ちなみに録画視聴率も高いので、MHKから感謝なんかされていたりする。どうやら、大きなお友達の評判も良いそうだ。

 そしてMHKが感謝すると、鴻池さん経由でその話が伝わってくるんだ。それは良いのだけど、ドキュメンタリーを作りたいって、なに? なんか、ドキュメンタリーにするようなことってあったっけ?


「諸星さんがテロに遭ってから、こうしてIMO研究所を立ち上げるに至ったドキュメンタリーです」


 それって、需要があるのかなぁ。そうか、それなりの需要があると言うのか。それぐらい、異世界に対する世間の関心が高いのだな。それでドキュメンタリーなのだな。ただなぁ、登場人物がかなり問題があると思うぞ。だって俺は、知人の杉村議員を頼りに、菅谷先生……その時は官房長官だったのだが。そこに直談判に行ったのだからな。その部分を再現すると、色々と差し障りが出ると思うんだ。


「でしたらドキュメンタリーではなくドラマと言うのはどうです?」


 ドラマって……今のをドラマ化すると言うのか? それにしたって、現在進行形だよな。だとしたら、やっぱり生々しすぎると思うんだが。


「そうですか、乗り気ではありませんか」


 ちょっとな、助けてくれた人たちに迷惑を掛けそうな気がするんだ。だから、ドキュメンタリーにしたところで、もっと時間が経ってからの方がいいと思うんだ。


「でしたら、諸星さんの旅行ネタと言うことにしましょうかね」


 それだったら、問題は出にくいと思うぞ。それで、第一弾はどこが候補なんだ?


「これから冬に向かいますからね。意表を突いて北海道……と言うのも良いのですが、まだ雪もないので南の方を考えています。現在沖縄のホテル数カ所と交渉しているところです」


 沖縄かぁ、うん、この前のホテルはとても良かったと思うぞ。ヴェルファイアたちも、喜んで飛び回っていたしな。ホテルからも、随分と感謝されたのを覚えているんだ。

 なんだったら、同じホテルでも良いんじゃ無いのか? そうか、あのホテルからも売り込みが来ているんだ。


「実のところ、諸星さん、セレスさんの水着姿。そして青空をバックに飛行する翼人……繰り返すと賞味期限が切れてしまうのですが、今であればもの凄い需要があるんですよ」


 俺とセレスの水着姿……がか? それを言われると、悪い気がしないのは確かだな。ただな、それだとどこに泊まっても同じ気がするんだ。そこにマリンスポーツを絡めても、大した違いが無いと言うのは言ってはいけないことか?


「なんですよねぇ、いえ、素材としては申し分ないんですよ。ただ、同じことを繰り返すと飽きられると言えば良いのか。ところで諸星さん、セレスさん、ルーテシアさんの写真集を出すつもりはありませんか?」


 なぜいきなり写真集……答える前に聞いておくのだが、当然着衣の写真集だよな。目をそらしたな、目をそらしてくれたな。だったら答えは簡単、却下却下、大却下と言うことだ。


「まあ、予想できた答えですね。それはそうと、リヴォルタ・エーレと言うブランドをご存じですか?」


 いえ、全く……と答えようと思ったのだが、どこかで聞いた気がしてきたな。あれっ、どこだったかなぁ……


「種を明かすと、銀座にブティックを出しているブランドです。イタリアのデザイナーブランドですけど、ここまで言ったら思い当たる節はありませんか?」


 ひょっとして、セレスが懇意にしているブティックのことか? そうか、そのブティックのことなんだ。それで、そのブティックがどうかしたのか?


「日本法人から、正式にアンバサダー契約を結べないかとの打診があったんです。ちなみにセレスさんとルーテシアさんにです」


 色々と衣装でお世話になっているのは確かなんだが……あまり時間をとられるのは良くないと思うぞ。特にセレスは、魔王城関係でレアキャラをするんだよな。まあ、魔王城のプロモーションは鴻池さんの仕事と言えばそうなのだが。

 それで質問なのだが、アンバサダー契約って幾ら貰えるんだ? えっ、そんな金額を提示してきたのか!


「ブランドとしても、なんとか確保したいと思ったと言うことです。日本限定じゃないので、ここまでの金額を提示してきたと言うことです」


 そうか、そうなのか。ところで質問なのだが、世界契約だと現地に行く必要があるのか? 例えばだが、イタリアに行ったりするのかと言うことなんだが。

 そうか、その打診も来ていると言うのだな。出来ればリヴォルタコレクションにも出て貰いたいと言うのか。そうか、イタリアかぁ……いやいや、俺は反対しないぞ。だから、セレスとルーテシアに聞いて貰えないか。ああ、ちゃんと着衣なら反対はしないからな。時々ある、本当に着ている意味があるのかと言う奴は絶対に阻止してみせるからな。


 それはそうと、招待の方は順調なのか? そうか、順調なのか。だったら問題は無いわけだ。


「このことについては、立木さんに感謝しないといけませんね。小学生以下を無料招待し、しかもそれをテレビ番組にする。まさか、こんなに当たってくれるとは考えていませんでした」


 そうか、無料招待は立木さんのアイディアだったな。なんだ、文科省から感謝状が来ていると言うのは。小学生以下への無料招待が効いている。交通費が掛からないこともポイントが高い。なるほど、奈良の大学のことを含めて随分と面白いことになっているんだ。


「その奈良の大学なんですけど……違いますね、奈良県のプロモーションのことですね。立木さん、うちに振ってくれたんですよ。もう立木さんに足を向けて寝られないと言えば良いのか。今度社長が、ご挨拶に伺いたいと言っていました」


 その話は、一応立木さんに聞いているんだ。別の社にしないのかと聞いたら、手間が掛かるから嫌だと言われたんだ。シングルウィンドウ……だったか、対応窓口が増えると手が回らなくなると言っていたな。

 ちなみに、本件の担当は朽木氏と言うのを忘れないように。それから、別の社と言ったのも朽木氏なんだがな。


「なるほど、朽木さんがそんなことを仰ったのですか。ええ、大丈夫ですよ。報復なんか考えていませんから。彼の立場であれば、高く売ることを考えても不思議ありませんからね。もう1社、うちの競合なんですけど、虎視眈々と異世界ビジネス参入を狙っていますからね」


 そりゃあ、これだけ異世界が注目されれば当然だよな。ただなぁ、未だにうちは零細企業だからな……勿論、人員のことを言っているからな。正社員なんて……あれっ、まだ10人に届いていない、違う、11人か。後は大谷村からの出向者2人……零細企業と言って良いよな、人員的には。

 それを考えたら、手を広げすぎるのは問題だと思うんだよ。そんなことはない、サポートがあれば手を広げてもいい。


「そこに、弊社の価値が出てくると言うことです」


 鴻池さんのところの価値ねぇ……確かに、色々と助けて貰っていますよ。うちじゃあ、絶対にテレビ番組なんて作れませんから。仕切ることも、絶対に無理ですね。

 ただ、その競合他社にとって、立木さんは障害物になるんだよな。鴻池さんも、敵だったら最初に潰すと聞いた気がするんだが。


「その辺りはですね、御社と契約してからも色々と調べているんですよ。ただですね、立木さんってあまりにも一般人過ぎるんですよ。真面目に会社員として勤められて、定年間際に早期退職で転職されているんです。もうですね、ツッコミを入れるところが見つかりませんでした」


 つまり、立木さんが一般人過ぎるのが強みと言うのですか。立木さんが一般人過ぎる……あのバグってる人脈が、一般人のものなんですか? どうして、錚々たる大学教授連と飲み仲間でいられて、実業界の寵児の後沢に覚えられているんです?


「しかも、オルティアさん、朽木さん、武見さんをスカウトしてきた……ですか。人脈がバグっているのは否定しませんよ、はい、普通の会社員には不可能な人脈と言うのは間違っていないと思います。しかしですね、会社員としての立木さんは本当に普通の会社員なんですよ。有能かと言えば、実績的にはあまり有能とは言えないと思いますよ。勿論、実績的にはと言うことになります」


 実績を強調しますか。それは、ITベンダでの実績のことを言っているんですよね。転職先の実績でも似たようなもの。管理職になったのは流石だけど、それでもずば抜けた実績とは言えない。

 その大したことが無い立木さんに、おんぶに抱っこの状態になってるんですけど。


「それは、私たちも似たようなものなんです。小学生以下の無料招待なんて、私たちでも考えないことなんですよ。しかもその埋め合わせ……収支的なものですけどね。その埋め合わせも、しっかりと考えてくださっている。今回の奈良のことでもそうですけど、社長からサポートしろと号令が出ているんですよ。なので、スキャンダルを捕まれないよう注意を払っているんですけどね……」


 あっ、鴻池さんが苦笑を浮かべてる。俺もそうだけど、立木さんには大きなスキャンダルネタがあるんだよな。ラズライティシア様とインテグラ、その関係なんて格好の週刊誌ネタだと思うんだよな。


「諸星さん、スキャンダルを騒ぎにするのに必要なものはわかりますか?」


 騒ぎにするのに必要なこと……ですか。例えば、視聴者の反感とか、女性団体が騒ぐこととか、かな。


「芸能人やスポーツ選手、公的な立場を持つ人ならその通りなんでしょうね。でも諸星さん、立木さん、それ以外の上里集落の方々……女性側が全く問題にしていないんです。そうなると、全くの私人と言うのがものを言ってくれるんです。幾ら週刊誌が騒いでも、諸星さんにダメージを与えることは出来ないんです」


 なぜ、途中から俺の話になるんだ? それはそれとして、世間から白い目で見られるのは堪えるんだが。記者会見とかで指摘されたら……確か立木さんはその方面は強かったな。


「IMO研にはスポンサーがいない……と言うのは言いすぎですけど、下半身の問題で逃げていくスポンサーはいないんですよ。だから週刊誌が騒ぎ立てても、嫌な気分になる程度で実害は発生しないことになります。そして騒ぎ立てた週刊誌に対して、IMOは出禁を宣言できますよね。そうなると、美味しいネタにアクセスできなくなるんです。損得を考えたら、下手な手出しは出来ないと言うことです。勿論、うちも陰から圧力を掛けますけどね」


 そして記者会見では、馬鹿なマスコミは一刀両断に切り捨てられると言うことか。


「一匹狼……つまりフリーランスですけどね。そういった輩は、売名のために突っかかってくると思いますよ。ただねぇ、IMO研はそう言った輩に遠慮する必要が無いんですよ。だから、ビシバシと正論で叩き潰すことが出来るんです」


 それはそうとして、今回の奈良の件、十河さん……もう養子になったから立木さんなんだが。彼女を入学させることは問題にならないのか?


「陽佳さんのことですね。たぶん入学だけでしたら、騒ぎ立てる週刊誌もいたと思いますよ。ただ、同時にシルクロード構想がぶち上げられているんですよ。彼女が異世界から帰ってきたのは知られていますから、大学入学も当然のことになってしまうんです。それからですね、騒ぎと言うのは大きくすればするほど小さなことは目立たなくなるんです」


 立木さんが、それを意図したとことは……一部はあるんだろうな。それで、立木さんを始めとしてIMO研の人間なんだが、テロとかの標的にはなっていないんだよな?


「諸星さん、知っててそれを質問されますか?」


 その辺り、一応確認のためと思ってくれれば良い。そして今の答えからすると、立木さん、御衣黄さん辺りがターゲットになると考えて良いのか?


「その辺りは、政府の方が把握していると思いますよ。ただ蛇の道は蛇と言うことわざ通り、私どもの方にも情報は入ってくるんですよ。その意味で言えば、諸星さんの理解は少しだけ違っていると言うことです」


 俺の理解が違っている……テロのターゲットになるとしたら、あの二人ぐらいしか考えられないのだが。もしかして、小谷さんもターゲットになっているのか?


「その逆です。今現在、目の敵にされているのは立木さんお一人なんですよ。ただねぇ、聞こえてくるのは難攻不落過ぎると言う評判なんですよ。表沙汰になっていませんが、検挙された団体は両手で効かないぐらいあるそうです。知らないうちに潰された団体なら、更に多くなるのではありませんかね」


 ええっと、それをどう受け止めたら良いのかな? 立木さんなんだが、ここに来る前は普通の会社員だったんだぞ。その普通の会社員が、テロ組織を潰すことなんか出来ないよな。ラズライティシア様とかインテグラは居るけど、彼女たちが勝手に集落を出た話も聞いていないんだぞ。


「検挙された団体は、一つの例外も無く自首してきたそうです。従って、不思議な力が働いたとしか思えません。フローリアンさんでしたか、彼女がやったと言うのであれば納得できるんですけどね」


 つまり、神様的な力が働いた可能性があると言うことか。だとしたら、知らないうちに潰された団体はどうなのだ?


「IMO研には、英国政府がバックにいますからね。後は、アメリカ政府も良好な関係を保とうと腐心しています。従って、両国政府が潰して回っていると言う評判が立っています。後はですね、地場で言うと大谷興業でしたか。近隣一帯に治安警報を出しているそうですよ」


 なんです、その治安警報と言うのは?


「外から、物騒な輩が入ってきてないか。近隣各施設……南は大町、北は糸魚川辺りでしょうか。その辺りに対して、たれ込みを依頼しているようです」


 大谷興業……ですか。それって、週刊誌ネタになりませんかね。いえ、反社組織との繋がりとか……


「大谷工業は、指定暴力団になっていませんよ。多少荒っぽく見えるかもしれませんが、組織としては堅気の組織と言うことになっています。警察とも、良好な関係を構築しているようですしね」


 見た目で判断してはいけないと言うことなのか。ああ、反省しないといけないな。なんです鴻池さん、どうしてそこで苦笑なんか浮かべてくれるんですか?


「いえ、諸星さんがヤの字の人を気にするのに違和感を覚えただけですよ。暴力組織と考えると、IMO研……と言うより上里集落は、自衛隊の保護下にありますよね。そして構成している人員は、竜人が筆頭なのでしょうかね。軍隊でも相手にしたくない人たちが揃っているんです。上里集落に戦争を仕掛けようものなら、返り討ちに遭って骨も残らないのではありませんか?」


 返り討ち、骨も残らないって……俺は、そんな野蛮なことをするつもりは無いぞ。俺がするのは、せいぜい無かったことにする程度だからな。


「その無かったことに興味がありますね。ただ、好奇心は猫を殺すと言う言葉がありますからね。好奇心もほどほどにしておいた方が良さそうですね」


 別に、無かったことを教えても構わないのだが……今できることと言ったら、何をしに来たのか忘れてそのままお帰り願う程度だな。それに加えて、警察に自首させると言うのも簡単だぞ。

 荷造り紐さんに縛り上げて貰うことも出来るし、どこか遠くに転移させることも難しくないな。竜人たちをけしかけなくても、出来ることは沢山あると思うんだ。転移先に、魔王城を選んでも面白いかもしれないぞ。


「忘れていましたが、諸星さんは非常識な存在と言うことですか。まさに、上里集落のトップに相応しいと言うことですね。お陰で、かなり安心することが出来ました」


 後はだな、これから上里集落は雪に閉ざされることになるんだ。それを考えると、ここへの直接的なテロは難しいと思うぞ。


「でしたら、特撮定番のお子様を人質に取ると言うのはどうですか?」


 それだったら、俺が出張って無かったことにすれば良いだけだ。『子供たちを解放、警察に自首しろ』と命令すればそれで解決するからな。


「なるほど、上里集落……と言うより、諸星さんを敵に回すのは愚かな行為と言うことですか。だとしたら、それを大々的に宣伝するのも手だと思いますけどね」


 あ~っ、それについては立木さんにも反対されているんだ。それをするとだな、各所からの要求がエスカレートしてくるからな。何しろ俺の体は一つしか無いのだから、余計な頼み事はされたくないんだよ。


「余計な頼み事……ですか。ちなみに伺いますが、再度竜人襲撃のような事件が起きたらどうなさりますか?」


 また、同じことが起きたら……か。記者会見の時に答えたと思うのだが、俺が手を出す法的根拠があるのか? 法的根拠も無しに、事件に介入するつもりは全くないぞ。


「日本ではそうでしょうな。でしたら、アメリカや中国のような他国の場合はどうなります?」


 それにしたところで、俺が手を出す法的根拠はないだろう。自覚をしているのだが、俺はウルトラマンみたいなヒーローじゃないんだぞ。せいぜい、荷造り紐さんを提供するのが関の山だな。


「例えば米国政府が、日本政府経由でお願いをしてきたら……と考えることも出来ますよね」


 それにしてもだな、被害が出たときのことを考える必要があるだろう。下手に紐付きにされたら、二進も三進もいかなくなるんだからな。このことは、立木さんと小谷さんからくどいほど注意されているんだ。ヒーローの現実ってやつ、後始末をさせられたらかなわないからな。


「よほど、厳しく言われたんですね。ええ、わかりますよ。諸星さんの首に縄を付けたい方は大勢おいでですからね」


 だろうな、だから立木さんたちもくどいほど注意してくれたのだと思う。言っておくが、俺だってそれぐらいのことはわかっているんだぞ。なんかなぁ、最近ものを知らない子供扱いされている気がしてならないんだ。

 ああ、それだけ俺の持っている力が大きいと言うのだろう。だから、注意深く振る舞う必要があると言うのもわかってる。無かったことにするのは、最後の手段と言うのもわかっているんだ。ああ、わかっているんだよ。


 時々忘れそうになってしまうのだがな。




諸星さんが最強と言うのは変わっていません。

それから、足立美術館。とっても良いところですよ。

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