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魔法使いの作り方

村の特産は異世界です


・魔法使いの作り方


 はい、十河陽佳と言います。お久しぶりと言っても良いですよね。魔王城とかブーランジェリー王国とかの公開で、忘れられた気がしてなりませんでしたから。でもさぁ、魔王城に関して言えば私も関係者なんだよね。どうして私にもキャストの話が来なかったんだろう。

 なんです、勉強中のはずと言うのは。通信制の高校に通っているはず……はい、通っていますよ。それからお父さんには、高等学校卒業程度認定試験を受けろと言われていますよ。それに合格すれば、奈良の大学を受験できるのだそうです。


 でもね、相手は一応有名な国立大学だよ。その大学に、私の頭で入れると本気で思っているのかしら。しかもフローリアンさん、頭の良くなる恩恵をくれないしぃ。そう、お父さんからダメと言われている。お父さんには逆らえないと言うのね。

 お願いだから、それを顔を赤くして言わないでくれるかな。フローリアンさん、あなたは女神様なんでしょ? 女神には違いないが、この世界の女神では無い。だから、自由に生きることが出来る……ねえ、前と違うことを言ってる気がするんだけど、私の気のせい?


 それもあって、私は毎日勉強三昧になっています。嘘を言うな、そこに置かれている同人誌はなんだ、ですか。あのね、詰め込みすぎって良くないと思うんだ。だから、時々頭をこうして休めているのよ。


「一日の大半を休んでいると言うのは私の気のせいですか?」


 いやねフローリアンさん、気のせいに決まってるでしょ。うん、気のせい気のせい。それからお母さん、可哀想な子を見る目で見ないでくれるかな。大丈夫、本気を出すときには本気を出すから。ただ、今は本気を出すときじゃないだけよ。


「帰ったら本気を出すって聞いた気がするけど……どこまで行っても陽佳さんの人生なんですけどね。ただ親として、口うるさく言った方が良いのかなと思い始めたところなのよ。そうしないと、思いっきり恥を掻くことになりそうだし……」


 思いっきり恥を掻くって言われても……通信制はまだ2年の途中だよ。そりゃあ、高卒試験に受かれば良いけど、高2で異世界に飛ばされたんだから、通信制で目一杯勉強してもおかしくないと思うんだ。

 その目一杯と言うのは、勉強では無く時間だと言うのね。うん、だって高校生活を楽しんでいないんだもの。


「私から言っても無駄と言うのはよくわかりました。だから、お父さんに言って貰うことにしますね」


 お父さん……に? でも、お父さんに、勉強しろって言われたことは無いわよ。それにお父さん、私を甘えさせてくれるから。


「あの人が甘すぎるのはわかっていますよ。あの人、昔から娘には甘かったから……と言うのは良いのだけど、お父さんが事務所で呼んでいたわよ」


 お父さんが、私を、呼んでいた? ひょっとして、魔王城公開関係かな。ほら、私も魔王城の関係者だから。人手不足だって言ってたし、女性勇者として私が参戦するのもありだと思うのよ。だからフローリアンさん、ないないって否定しないように。私を勇者にしたのはフローリアンさんなんだよ。

 でも、お父さんが呼んでいるのならすぐに行かないとね。と言っても、事務所ってまだ目と鼻の先なんだけど。そろそろ、上の研究所がオープンになる。それならそれで、転移ゲートを作ることになるんだよね。だったら、やっぱり目と鼻の先だと思うんだ。


 と言うことで、お父さん来たよ~


「ああ陽佳ちゃん、待っていましたよ」


 お父さんがニコニコしている。何か良いことがあったのかな……どうして、藤原先生がこんな所に? ひょっとして、大宴会に誘われたとか?


「いえ、私は大学の決定をお伝えに来たんですよ」


 大学……奈良の大学だよね。ふ~ん、何か集落に関係することがあったんだ。それでお父さん、私に用ってなに?


「陽佳ちゃんが、来年4月から大学生になることが決まった……と言うことです」


 私が来年大学生になるの……ポチポチ、まだ高卒資格も取っていないし、受験だってしてないんだけど。その私が、来年から大学生って。藤原先生が来ているってことは、奈良の大学と言うことだよね?

 そう、やっぱり奈良の大学なんだ。でも、どうして私が入学できることになったの?


「元々は、立木さんから話を貰っていたんですよ。ただ教授会が色々と渋っていたんですよね。その渋っていた教授会が全面降伏したんです。ですので、十河陽佳さんは来年から本学の学生と言うことになります。しかもですよ、返済義務の無い奨学金も給付されることになりました」


 ポチポチ……給付型の奨学金って、優秀な学生じゃ無いと貰えない奴だよね。そうじゃなければ、生活に困っているとか……そっか、私の場合は生活に困窮している組に入るのか?

 まさかって……でも、私ってお父さんたちの本当の子供じゃないし。年齢だけは成人しているから、本当なら独立していないとおかしいはずでしょ?


「だそうですよ、立木さん」

「慶子は、何も言っていないようですね」


 お母さんが何も言っていないって……なんのこと?


「陽佳ちゃんさえ良ければ、私たち夫婦の養子になって貰えないかと言うことです。こんなことは無理強いすることはありませんから、なってくれるのならと言うことなんですけどね」


 私が、お父さんたちの本当の子供になる……の? ええっと、冗談じゃ無いんだよね? 私、頭の出来も良くないし、すぐに怠けちゃういけない子なのに?


「冗談でこんなことを言いませんよ。慶子も、あなたのことが可愛くて仕方が無いと言っているぐらいです。もしも良ければですが、私たちの娘になって貰えませんか?」


 本当に良いの? 本当に、私なんかで良いの? ええっと、ぐすっ、ふえぇぇぇ……うれじいよぉ。


「慶子、後は任せて良いかな。これから藤原先生と、発表について詰める必要があるんだ」

「はいはい、陽佳ちゃんは甘えっ子だから。こんなんでは、奈良で一人住まいできるか心配になりますね」

「寮には、お友達だっているんですよね。だったら、一人と言うことはないと思いますけどね」

「それでも、毎日のことは自分でしないといけないんです」

「まだ、甘やかせてあげても良いと思うのだけどね」

「そんなことを言っていると、いつまで経っても独り立ちできませんからね」


 びとりだぢなんがじだぐない……ふぇぇぇぇん




 と言うことで、十河さん……もう立木さんって言った方が良いのかな。立木陽佳さんは、ケイコさんに連れられて出ていきました。ところで立木さん、本当に養子にして良かったんですか? そうですか、お嬢さんと息子さんの了解は貰っているのですね。

 やっぱり、説得に苦労されたんですか。そりゃあ、お父さんとお母さんをとられた気持ちになりますもんね。でも立木さん、随分と思い切ったことをされたと思いますよ。でも陽佳ちゃんには良かったと思いますよ。


 それで藤原先生、結局どう落ち着いたんですか? 確か、全面降伏と仰りましたよね?


「ええ、全面降伏ですね。もうですね、私に全権委任なんかされてしまいましたよ」


 でも、日間賀島では色々と言っていませんでしたか? そうですか、東京、京都、名古屋の方からプレッシャーが掛かったんですか。ええっと、文科省からもプレッシャーが掛かった。なんです、その英国大使館からのプレッシャーって……そうですか、オルティアさんが手を回してくれたんですね。うん、それなら絶対に勝てないと思うわ。


「英国の名門大学……その留学受け入れも餌になっていましたね。来年の科研費とかを持ち出されたら、降伏するしかないと思いませんか? 元々、受け入れるつもりはあったんですけどね。駆け引きをするつもりが、大事になってしまい大慌てと言うのが実態なんですよ」


 うん、絶対に降伏しますね。降伏するとは思いますけど……立木さん、十河さん……もとい、陽佳ちゃんの為にそこまでしますか? いくら何でも、甘やかしすぎだと思うんですよ。勿論、駄目とか言うつもりはありませんよ。ありませんけど、やりすぎかなぁと思っただけです。

 何です藤原先生、まだ裏があるのですか?


「なるほど、小谷さんでも気づきませんでしたか。でしたら、うちの教授連が気づかなくても仕方がありませんね」


 ええっと、それは私に対する買い被りと言わせて貰います。それで、まだ仕掛けがあったんですね。なんです、実は女子学生一人を入学させる程度の話じゃ無いと言うのは。ええっと、一体何を仕掛けてくれたんです?


「私も、最初に聞かされたときにはすぐには理解出来ませんでした。そしてその次に、体が震えるのを止めることが出来なくなったんです。立木さんは、この試みを帰還者に限定するつもりは無いと仰ってくれたんです」


 帰還者に限定しない……ぽちぽち、一体何を言っているんです? はい、ハイエルフとか翼人とか……もっと言うと、ブーランジェリー王国の人たちも考えているのですか。それだけじゃ無くて、これから現れる人たちすべてに門戸を開くのですか。

 ええっと、そんなことをしていいのかって気がするんですけど。それ以前、それってそんなに凄いことなんですか?


「このことは、教授連が負けを認めたら教えても良いと言われていたんです。それでですね、最初に伝えたときには小谷さんと同じ反応をしてくれましたね。ですから、一番相応しいキャッチフレーズを教えて差し上げたんです。はい、『現代のシルクロード』と言うものです」


 シルクロードって……交易の意味で言っていませんよね。つまり、文化の交流と言う意味で言っているんですか。ちょっと待ってください、それはなんですか、日本の文化と異世界の文化が交流する。その場所を、奈良の大学に作ろうと言うのですか?

 なんか、言いたいことがわかってきた気がします。


「1300年ほど前の奈良は、世界の文化が集まる地だったよなと立木さんに言われたんです。1300年経った今、新たな世界の文化が集まる地としようと言うことなんです。その中心に本学が置かれることを理解したとき、捻くれた教授連がガッツポーズを繰り返しましたよ。そしてこれは余録なのですが、この功績で私を教授にしてくれるそうです。立木さんにご足労願って、奈良県庁と市役所に行って貰うことにもなっています」


 そうですか、『シルクロード再び』と言うことなのですね。確かに、そりゃあ燃える話だと思いますよ。でも立木さん、どうしてそんな構想が湧いてくるんです? だから、厨二病と言うのは人を煙に巻くときに使う台詞ですからね。


「正直に言うとですね、ビゴさんの言葉がきっかけになっているんですよ。ビゴさんは、優れたものがあるのなら取り入れてどこが悪いのだと諸星さんに答えられたそうです。それを聞かされたとき、私たちは送り出す一方なのかと考えたと言うことです。科学技術と言う意味では、確かにパンの国には見るものはないのでしょうね。ですが、パンの国には魔法と言う私たちに無い技術があるんです。そして魔法をベースにした、私たちとは違う文化も育っている訳です。だとしたら、私たちにも取り入れるものがあると思いませんか?」


 ビゴさんの話は、私も聞いたことがありますね。そっかぁ、私たちの生活に魔法が入ってくるんですね。その発信地に奈良の大学……だけじゃないんですね、街自体がなると言うことですか。そりゃあ、大学の先生たちも燃えると思いますよ。こんな大きな変革、明治維新以来だと思うんです。

 奈良って、京都に隠れて地味な存在になっていましたよね。それを考えたら、行政側も大喜びだと思いますよ。


「発表には、諸星さんに奥さんたちを連れて行って貰うことになります。うまい具合に、ハイエルフや翼人、竜人に神様が揃っていますからね」


 諸星さんの奥さんずって……確かに、多種多彩な人が揃っていますね。その意味で言えば、立木さんも似てる気がしますけど……そこで目をそらさないのっ。手を出してないのって、翼人ぐらいでしょ? 違う、ブーランジェリー王国貴族にも手を出していない。

 でも立木さん、フローリアンさんとかアクトロスさんが熱い眼差しを向けていますよ。自分は奥さん一筋……もうね、笑い所でも無くなっているんです、それ。


「それはそれとして、私は家に戻ることにしますよ。ええ、陽佳ちゃんがそろそろ落ち着いたと思いますからね」


 そうですね、それってとっても大切なことだと思いますよ。はい、優しくしてあげてくださいね。ええ、良かったと思っているんですよ。だから、そこで疑わないでください。本気で良かったと思ってるんですから。

 それから陽佳ちゃんに伝言をお願いします。はい、『お姉さんが優しく勉強を教えてあげる』と言うことです。大学に入学して、恥を掻かせるわけにはいきませんからね。これまで以上に、念入りに勉強を教えてあげるつもりなんです。


 ああ、立木さんが足取り軽く事務所を出て行ったよ。ところで藤原……教授で良いんですよね。藤原教授は、今日は泊まっていけるんですよね。いえ、色々とお祝いの宴会を開こうかなって。こう言う時って、集落揚げての宴会が決まりなんですよ。

 お手柔らかに……ですか。大丈夫ですよ、単なる宴会を開く口実ですから。宴会になってしまえば……ところで藤原教授、ハイエルフはどう思います? そうですか、ここの住人と違ってはじけていないと言うのですね。

 ええ、こんなものは慣れ……と言うのか、郷に入っては郷に従えだと思いますよ。是非とも、文化の違いを『肌』で感じてください。


 それはそうとして、諸星さんの奥さんに神様っていたっけ?




 陽佳ちゃんのことは、京都にいるときに教えて貰いました。ええ、良かったと思いますよ。陽佳ちゃん、本当に色々と苦労をしていますからね。それにお父さんとお母さん、もの凄く優しくしてくれるんです。

 どうして、お前はどうするのかと聞いてくれます? 私は、別に両親に捨てられたりなんかしていませんよ。もう立派に独立して、いっぱしの研究者として活躍しているんですからね。ごめんなさい、ちょっと見栄を張ってしまいました。活躍する予定……と言うことにして貰えますか。

 それに、私は戸籍上の子供を目指していませんので……諦めが悪い。諦めたらそこで終わりと思いませんか?


 そんなことは……いえ、私生活上とっても大切なことなんですけどね。それと同じぐらいに重要なのは、研究の進展だと思います。こちらはですね、大きな……小さなかな、小さな一歩を記すことが出来ました。問題になっていた細胞の差異なんですけど、変化の痕跡らしきものを見つけることが出来たんです。

 体から離れることで、様々な情報が失われてしまう。その仮説の下、グレゴリーさんの時間停止能力を活用しました。ただ時間停止を掛けてしまうと、各種分析器が使えなくなってしまうんです。そりゃあ、試薬で細胞を破壊して遺伝子情報を取り出すんですからね。時間停止していたら、最初の破壊が出来なくなってしまうんです。

 それもあって、最初は光学観測から始めることにしました。時間停止した細胞を光学的に観測して、観測中に時間停止を解除するんです。その過程で、細胞の構成要素に変化が出ないか。超高感度高速カメラを使用して、その過程を撮影したんです。当然可視光だけの観測じゃありませんよ。赤外線から紫外線まで、波長を変えた観測もしたんです。ちなみにそのための検体は、シア母さんとインテグラ母さん……にお願いをしました。ええ、インテグラ母さんには、『私も母さんと呼べ』と脅された結果です。


 そうやって目を皿のようにして……勿論、画像解析にも掛けましたよ。この辺りは、武見さんに活躍して貰いました。武見さんって……本当に凄い人だと思いますよ。もうね、本山先生が『ウチに来ないか』って真剣に誘ったぐらいなんです。嫉妬ですか、嫌ですね、嫉妬なんかしっかりしましたよ。

 その結果ですけど、時間停止が解けたところで変化があるのがわかったんです。良いですか、時間停止前と変化が現れたんですよ。もう、勝ったも同然だと思いませんか? 普通はそう思いますよね。でも残念ながら、そうは問屋が卸してくれなかったんですけどね。


「変化があった……だったら、どんな変化なのかがわからない……だろ?」


 まあ、そう言うことなんですけどね。それはそうとして、どうして私のモノローグに割り込んでくるんです。割り込まれたくなければ、大きな声でブツブツと呟くな。乙女の呟きに、聞き耳を立てるのは良くないと思うんです。


「それでも、違いがあると言うのがわかったんだ。俺には、大きな一歩に思えるのだがな」


 その辺りは、価値観の相違と言うことで。もっとね、『おおっ』と言いたくなるような成果を期待したんです。時間停止をしてから、消滅するまでに1秒も掛からないんですよ。だとしたら、次にどうやって分析すれば良いんですか?

 見当が付かない……でしょでしょ、見当が付きませんよね。細胞を詳細に分析しようとしたら、光学観測だけじゃ無理があるんです。マイクロニードルで成分抽出しようにも、1秒限定じゃどうにもならないんですよ。


 だとしたら、困ったときのお父さん……と言うのは顰蹙を買いますよね。自分には関係ないから、別に構わない。そうですか、ねえ武見さん、ビール瓶と一升瓶のどちらが良いですか? 硬さのビール瓶、質量の一升瓶なんですけど。


「普通に、どっちも嫌だろうっ!」


 だったら、私だけに押しつけないように。そうじゃないと、ウィスキーの瓶を使いますよ。もっと凶悪になった……だって、そのつもりで考えていますからね。

 取りあえず、武器のことは忘れましょう。違いがあることは、シア母さん、インテグラ母さんの細胞で確認が出来ました。ただ二人の細胞の違いまでは、見た目が違う程度の違いしかわかっていない。さて、ここからどうしましょうか。


「取りあえず、時間停止以外の方法を考えないといけないだろう」


 そりゃあ、時間停止だと1秒しか持ちませんからね。でも、そんなに短時間の現象って、どうやって観測すれば良いんだろう? やっぱり見栄を張らずにお父さんに相談した方が良いのかしら。そう、自分もネタが無いって言ってくれるんだ。武見さん、凄そうに見えて意外に大したことが無い? いや、凄いのは認めるんだけどね。その、もうちょっと突き抜けてくれればなと。


「これで、涼真の奴には散々『非常識』って言われたんだがな。それはそれとして、求める方向が違っていると言うことだ。俺は医者であり、コンピュータプログラマなんだからな」


 だったら、お父さんはITエンジニアってのは言っちゃだめ? そっか、人生経験が違うと言ってくれるのね。武見さん、お父さんのお子さんより年下だもんね。

 取りあえず、お父さんにヘルプをするのは了解しました。はいはい、電話をしますよ。お父さんヘルプって!


 はい、可愛い娘の頼みですからね。ヘルプを入れて1時間後にお父さんが現れてくれました。もうね、シア母さんが協力的なのよ。とっても嬉しそうに、上里集落まで転移して行ってくれたわね。


「畑違いと何度言ったらわかって貰えるんですかね」


 それは重々承知の上でのお願いなの。お礼だったら、私の体でするからっ! どうして、そこで無視してくれるかな?


「予め断っておきますが、私には分析の経験はありませんからね。なので大芝と宇梶に話を通しておきました。あちらは、ナノセカンドレベルの分析もしたことがあるプロフェッショナルです」


 さすがお父さん。じゃあ、私から先生たちに連絡を入れれば良いのね。それでお父さんへのお礼の方なんだけど……親として当然のことをしただけ。俺は、ありがとうの言葉だけで良いのね。それで良いんだぁ……


「ええ、それ以上は必要ありませんよ。それから、もう一つアイディアを置いていくことにします」


 えっ、まだあるのっ。だから武見さん、勝ち誇ったような顔をしないの。


「なぜ体から離れると特徴が消えてしまうのかと言うことです。もったい付けずに言いますけど、魔力供給が途絶えるからだと考えたと言うことです」


 魔力供給が途絶えたから……なの?

 うん、ちょっと期待外れ。流石の私たちだって、それぐらいのことは考えていたわよ。


「それ以外の遺伝子情報は、私たちとシアの間に差が無いんですよね。だとしたら、一番大きな違いは魔力の有無と言うことになります。そして別の情報ですが、ハイエルフと普通の人との交配……要は子作りですけどね。生まれる子供に面白い特徴があるんですよ」


 面白い特徴……だってさ、武見さん。武見さんも関係することだよ。


「それで、どんな特徴があるんだ?」


 あっ、無視された。


「あなたとカプチーノさんとの子供は、ハイエルフとして生まれると言うことです。白船君ですけど、アクアさんとの子供が翼人になるのと同じことですよ」

「それは、何度も聞かされた気がするのだが……カプチーノが俺の子供を生んだら、その子は男女問わずにハイエルフになると言うことだよな」

「それが、パンの国での実績だそうです。そしてパンの国の実績として、ハイエルフの男性と人の女性との子供も生まれているんです。さて武見さん、その場合はどのような子供が生まれると思いますか?」


 普通に考えれば、ハイエルフが生まれると思うわよね。でも、わざわざ質問するってことは、ハイエルフじゃ無いってことになるのよね。そうか、やっぱりそうなんだ。


「2通りのパターンがあるそうです。その一つは、ハーフエルフですか。人間とハイエルフの両方の特徴を持った子供が生まれるのだそうです。そしてもう一つは、人間の子供の特徴だけを持った子供が生まれるのだそうです。どうです、とても興味深いことだと思いませんか?」

「あ~っ、なんか見えてきた気がするぞ」


 そう、武見さんも朧気に見えてきたんだ。うん、私もそうかなって思えてきたんだ。これって、さっきの話に関係してるよね。


「つまり、人間の女性の属性……魔力を持っているかどうかで変わると言うことか?」

「まあ、普通はそう考えますよね。そしてその通りと言うのが答えになるわけです。さて、このことから、導き出されることがありませんか?」

「つまり魔力の有無が、形質伝達に影響していると言うことだろう。ハイエルフの精子に含まれる特徴的部分が、魔力の無い女性では消えて、魔力のある女性では消えずに残ると考えられるわけだ。つまり、蒸発した部分の維持に魔力が関係しているわけだな」


 体から離れても、魔力さえ供給されれば形質が保たれると言うことね。自分の魔力で無くても大丈夫と言うことになるわけか。だったら、魔力だっけ? 魔力が満ちた環境で分析を行えば良いってことになるのよね……あっ


「そう、その環境だと耐えられる人間がどれだけいるのかと言う問題がある。予め言っておくが、俺も耐えられる自信が無い」


 そんなもの、私にだって無いと言わせて貰うわ。うん、耐えられるのってお父さんぐらいだと思うわよ。勿論、それじゃ意味が無いことぐらいはわかってるつもり。


「超えるべき問題が見つかったのなら、それを超える努力をすれば良いだけですね。ほら、まだまだ沢山することがありましたね」


 それはそうなんだけど、お父さん先生みたいになってるわよ。違う、親として子供を導いているつもり。う~ん、何か違うように思えるんだけど。

 細かいことは気にしちゃいけない……細かいことには思えないんだけどなぁ。


「それからもう一つ確認して欲しいことがあるんです」


 まだ、あるの? ねえ、やっぱりお父さんって変じゃない?


「だから、変と言わないように。それはそれとして、形質の消えた細胞に魔力を当ててみて欲しいんです」


 それで、細胞に変化が出ないか見て欲しいってことよね。でも、特徴部位は蒸発しているんだよ。武見さん、どうしてそこで手を叩いていくれるのかな?


「本当に蒸発したのか検証しようと言うことだ。確かに、俺たちは蒸発して消えたと思っていたんだ」


 つまり、特徴部位は蒸発なんかしていないってこと? でも、散々分析し倒しているんだよ。それで、私たちの細胞と差が無いのは確認できてるんだけどな。


「その蒸発と言うのが、物質的な意味を言っているのかどうかと言うことだ。だとしたらだ、俺たちの細胞にも同じことをしてみる価値があると思うぞ」


 武見さん、やけに燃えてるわね。それはそうとして、私や武見さんの細胞だと辛いんじゃ無いのかな? だって私たちって、シア母さんの魔力を受けたら魔力酔いを起こしたよね。つまり、魔力を受容することが出来ないってことだと思うのよ。

 そっか、それは否定しないんだ。ただ、それでも対照実験としてやってみる必要はある。だったら、もう一つのサンプルはどうするの? 魔力を受けても大丈夫な人の細胞が必要でしょ……あっ、いたっ!


「今、背筋に冷たいものが走ったのは気のせいですかね」


 うん、気のせいじゃ無いから。ねえお父さん、お父さんの生殖細胞……つまり精子を貰えるかな? 採取方法は協力するから……ゴムを使えば、汚染を心配しなくても良いでしょ?


「だそうですよ武見さん。あなたの精子も欲しいそうです」

「違いを見るだけなら、血液や口腔内の細胞でも十分なのだがな。そもそもラズライティシア様とかインテグラさんからは、卵子を貰ってないはずだ」


 だから武見さん、どうしてばらしてくれるのかな。私が色々と口実を考えているんだから、邪魔をしないでくれると嬉しいんだけど。ええっと、お父さん違うんだからね。これは、研究に必要だから言ってるのよ。




 お父さんがせっかく繋いでくれたのだから、早速両先生と連絡を取りました。そしたらですね、快く協力して貰えることになりました。ただその条件としてですね、温泉宴会を持ち出されてしまったんです。しかもですよ、今度は奥飛騨から離れて欲しいのだそうです。場所として悪くないのですが、気分を変えたいのだそうですよ。ええ、お父さんに言っています。


「なぜ……と言ってはいけないのでしょうね」


 うん、先生たちはお父さんを期待していると思うから。それでお父さん、今度はどこに行くことにする?


「日程の先延ばしは出来ないのですよね。そうなると、確保できる宿が限られてくるのですが……」


 しばらく頭を悩ませたお父さんは、『日本海にするか』と言ってスマホをいじり始めました。その前に顔を顰めたのは、きっと先生たちからメッセージが入っていたからだと思うわ。大芝先生、宇梶先生、食べたいものがあるって言ってたから。多分だけど、蟹だと思うんだ。


「スケジュールは2人に合わせれば良いわけですか。だとしたら、まだましだと思えば良いんですね」


 そこでお父さん、いきなり電話を掛けてくれました。一体、どこに掛けたんだろう?

 それは良いけど、人数は8人なんだ。ここにいるのは3人……ごめんなさいシア母さん、インテグラ母さん、ここにいるのは5人だよね。後は大芝先生、宇梶先生だから7人だと思うのよ。ひょっとして、クロアさんを数に入れてる?


「カプチーノさんを数に入れたんですけど?」


 なるほど、武見さんのことも考えてあげないといけないよね。

 だったら、クロアさんが押しかけてきたらどうするの? あと、フィオレンティーナさんとか。


「今回は遠慮して貰うことになりますね。ただフィオレンティーナだったら……」


 どうしてそこで武見さんの顔を見るのかな。深い意味は無い、本気で言ってるのかな?


「フィオレンティーナだとしても、今回は遠慮して貰うことにしましょう」


 そうよね、いつもいつも飛び入りを許してちゃダメだよね。と言うことで、明後日で良いのよね。それで、どこに行くのかしら?


「行き先は米子にしました。宍道湖のほとりに、料理の美味しいお宿があるんです。ちなみに、そこのお庭は日本庭園ランキングの上位なんですよ」


 へえ、そんな良いところがあるんだ。でも、私たちの宴会って……場違いじゃ無い?


「いつもいつも馬鹿騒ぎばかりはしていられないでしょう。あいにく、蟹が食べられる適当な温泉宿を知らないんですよ」


 そっかぁ、流石にお父さんも知らないのか。なになに、わざわざ蟹を食べに行った覚えが無い。お母さん……慶子母さんと行くのは、せいぜい金沢までだったのね。それで米子は誰と行ったの?


「勿論、慶子と行きましたよ。だから、ちょっと豪華なところになってしまったと言うことです」


 納得。お母さんとだと、宴会向きの所にはならないよね。うんうん、お母さんと宴会って結びつかないから。

 それで、今日はどうするの? 集落に帰って、接待の準備をする訳ね。まだ部屋しか確保していないから、料理の差配が終わっていないのね。うんうん、お父さんと一緒だと美味しいものが食べられるのが楽しみなの。今度は、何を食べさせて貰えるのかなぁ……


 それで、帰ってきたんだけど。どうしていつの間にか2部屋増えてくれるのかな。そりゃあ、本山先生を仲間外れに出来ないのはわかってるけど……一体誰が本山先生に教えたの? そう、大芝先生に教えて貰ったんだ。勿論、歓迎しますよ。ええ、お誘いしなければと思っていたんです。ところで本山先生、どうしてここにいるの?

 そしてもう一部屋は、なぜかお母さんが手を上げてくれました。理由……理由はですね、陽佳ちゃんを連れて行きたいからだって。それを言われたらさぁ、絶対にダメなんて言えないよね。勿論、初めからダメなんて言うつもりも無かったけど。だから陽佳ちゃん、勇者の剣を出さないように。いつの間に、そんな芸を覚えてくれたのかしら。それからオルティアさん、ええ、言わなくてもわかっていますから。


 ところでお父さん、さっきから静香さんの視線を感じるんだけど……うん、もう一部屋追加した方が良いと思うよ。静香さん、いじけると後が面倒だし。

 それからもう一つ……諸星さんが扉の影から見てるよ。流石に無理……そこまで広い宿じゃ無いと言うのね。確かに諸星さんを連れて行くと、人数がぐっと増えちゃうもんね。それに諸星さんは、沖縄とかハワイに行くことになってるしぃ。うん、今回は我慢して貰うと言うことにしましょう。その代わりだけど、忘年会の企画をした方がいいと思うんだ。


「時々、自分の立場がわからなくなってしまうんです」


 お父さんの立場って……ツアコンって、ごめん冗談。冗談だから気にしないでって。何かあったの?


「いえ、前職……IT企業に勤めていたときのことなんですけどね。会社のツーリストに、世話いらずですねって笑われたのを思い出したんです」


 それって、温泉旅行のこと? 違う、海外出張のフライトの手配のことなんだ。お陰で好き勝手手配が出来た……ダイヤモンドメンバーにもなれたって、お父さん結構楽しんでいたんだね。


「それは良いのですけど、どこまで連れて行けば良いのでしょうね?」


 日間賀島の時は……34人なんだね。そのうちの6人は教授連……だったら、集落からは28人なんだ。マイナス9プラス2って……ビゴさんたち、魔王様たちを除外するのね。それで、プラス2は……アルカナさん、イセッタさん……ああ、諸星さんのお手つきが増えていたんだ。だとしたら、21人程度の参加者になるわけね。

 ええっと、甘すぎるの? たまにはスポンサーを誘わなくちゃいけない。ああ、後沢さんたちのことね。確かに、スポンサーへのごますりは大切だと思うわ。後はファンタスティック・フォーの残り3人。そう言えば、あの人たちって旅行に行ってなかったわね。うん了解、たまには連れて行ってあげないと可哀想だと思う。でもあの3人……のうち二人を連れて行くと、もれなく奧さんが付いてくるよね。それぐらいなら大丈夫。だったら良いんだけど。

 それからだけど、贅沢を言っても良いかな? うん、12月だから暖かいところに行きたいのよ。だって、雪だったら上里集落で嫌って程味わえるでしょ。だってここの外って、平気で3mぐらい積もってくれるんだよ。だから、暖かいところがうれしいかなぁって。


 その結果……その結果ね、伊豆長岡って知ってるかな。そう、伊豆半島の真ん中辺りにある温泉。そこに広い敷地の温泉宿があるんだって。そう、建物の一部が文化財なんだね。でもさぁ、そんなところで『うち』の宴会なんてやっていいの?

 そっか、そう言うところは大宴会場があるのね。しかもステージ付きって……誰が芸をするのかな?


 それとは別の催しもある。コミケを知ってるか、ですか? 寡聞にして知らないんだけど……コミケがどうかしたの?


「年末なんですけど、ビッグサイトで催し物があるんです。ちなみに昨年は、諸星さんたちも参加されたそうですよ。と言いますか、集落を空にして東京に行ったみたいですね」


 昨年末……あっ、思い出したくないことを思い出しちゃった。そっかぁ、あれってコミケに行ったついでなんだね。そうか、ついでなんだぁ……まあ、私の人生も変わったから良いんだけど。

 それはそれで、そっちの参加者はどうするの? うん、お父さんは不参加なんだ。自衛隊組が主力……って、なぜ? 薄墨さんが同人誌を書いてるのは知ってるけど……派遣されている全員がオタクって、オタクなんだ、しかも全員。


「派遣された当時は、翼人だけ……と言うこともありませんでしたね。シアとかルーテシアさんと言ったエルフも居ましたからね。その手の世界に耐性……なのかな。適合性のある隊員が選ばれたようですよ。それで、年末押し迫ったところで東京に遠征したと言うことです。翼人の皆さんも、大いに楽しめたそうです」


 その二つで、出席者を分散させるのね。うん、納得。温泉旅行だと、特に人数がシビアになるもんね。

 それで、具体的にコミケ組はどうなってるの?


「諸星夫妻、夫妻ですよね。それに自衛隊組全員、翼人の皆さん、ハイエルフの皆さん、竜人たち、魔王様たちと言うことになりますね。魔王様たちには、人数を絞って眷属も連れて行って貰おうと思っています」


 そっかぁ、伊豆が上里集落慰安旅行だと思ったんだけど、実際の慰安旅行はコミケなのね。それなのに、お父さんは参加しなくていいのかな? ああ言う賑やかな場所は年寄りには辛い。だから年末は、集落の温泉でのんびりしている……でも食事はって、お母さんが居るから大丈夫か。

 そうなると、年末に残っているのはシア母さんたちと魔王様の眷属ぐらいになるのかな? もしもしフローリアンさん、どうして手を上げてくれるのかな? フローリアンさんは、コミケに行かなくて良いの? だぁかぁらぁ、そこでお父さんの顔を見ないでくれるかな。


 それで、東京の宿はどうするの? どうして、そこで鴻池さんが出てくるのかな。テレビ局が入るって……テーマパークの宣伝も兼ねている。だから、費用はすべてあちら持ち。ねえ、お父さん手抜きに入ってない? 違う、人数が多いからプロに任せた。そりゃあ、全員参加だと100人を超えることになるからね。でも、手抜きを考えたんだよね。ほら、そこで目をそらさないっ!

 それはそれとして、朽木さんと武見さんもコミケ組になるの? それは、これから希望を取ることになる。ただし、朽木さんは必須になってるのね。そりゃあ、あの人エンターテインメント担当だものね。


 それからオルティアさん、なんか悩んでない? コミケに行ってみたいのだが、お父さんとしっぽり行くのも捨てがたい。あのさぁ、こっちに残っても二人きりってことは無いんだからね。だから、お父さんを東京観光に誘わないの。秋葉原とか上野とか……ちょっと良いかなと思うけど、抜け駆けは良くないと思うわ。


「年末の上野……と言いますか、御徒町ですか。ちょっと遠慮したいなぁと言うのが正直な気持ちですね。それよりも、魚を食べに川崎まで行こうかと思っています。ええ、自宅の大掃除がてらなんですけどね」


 魚って、この前のあのお店のことだよね。だったらその大掃除、手伝いに行って良いかな。別に構わない、手伝いをしなくても問題は無い……だって、お掃除だったら人手があった方が良いよね。今は住んでいないから、汚れと言っても埃が殆ど。だから掃除機をかける程度しかすることが無いのか……

 それに断っておかないと、人が増えて困ることになる。なるほど、シア母さんとインテグラ母さんもこっちを見てるわね。陽佳ちゃん……私は戸籍上も娘になったと言うのね。しかも戸籍上は二十歳を超えている。つまりお酒も飲めると言うのね。うんわかった、私たちはお店で待ち合わせと言うことにするわ。なのでお父さん、予約をお願いします。全員で……7人かぁ。あまり諸星さんのことを言えなくなったと思わない?




宴会担当って、結構苦労をするんですよね。開き直って同じお店を使ったりもしますし。

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