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素材の宝庫

村の特産は異世界です


・素材の宝庫


 途中でリタイアしたのは、俺にしてみれば不本意としか言い様がない。しかもその尻拭いを、ただのおじさん……はっ、滝のような冷や汗が背中にっ!

 立木さんに任せてしまったのは、忸怩たる思いと言って良いと思う。恥ずかしくて穴があったら入りたい……その下ネタは笑えないぞ。いや、だからと言ってだな、パッソに慰めて貰ったのは否定はしないのだがな。


 しかしだ、あのおっさん……だから、なんで背中に冷や汗が流れるんだ。立木さんなんだが、どうして仕事を纏められるんだ? なんです、あまり有能じゃ無いからって……それって、謙遜だとしても嫌味に聞こえるんだがな。



 ええっと、いたんですか?



「ええ、いたんですよ。そろそろあなたに復帰して貰おうと思っているんです。まだ、早かったですか?」


 い、いえ、絶対にそんなことは言うはずがないだろう。なぜ、そこで嫌そうな顔をするんだ? もう少し復帰を遅らせた方が良さそう……な、なぜ、そんなことになるんだ? 体調なら、もうバッチリなんだぞっ!


「そうですね、あなたが張り切りすぎているから……と言うのが答えになるのですが。多分、意味が理解出来ないのでしょうね」


 それで理解出来ると思うのか? 俺は、自分の仕事を投げ出すと言う失態をしたばかりなんだぞ。だとしたら、捲土重来、失地回復をするのが俺の仕事だろう。


「やる気と言うのは、往々にして空回りするものだからですよ。あなたが若くて頭が良くて優秀と言うのはよくわかっているんです。ただ能力的には天才一歩手前と言うところでしょうかね。先日の失敗は、実のところ出来ないことに対して張り切りすぎてしまったのが原因でなんす。今回は体力の限界が先に来ましたが、次に同じことをするとメンタルをやらかす恐れがあるんですよ」


 い、いや、そんなことは絶対に無いっ……てのが説得力が無いのは理解しているつもりだ。


「武見さんに聞いたら、あなたはもっとすかしている人なのだそうですね。そのあなたが、体力の限界まで突っ走って壊れたんです。それを聞いて、彼は大いに驚いていましたよ」


 そうですか、和志の奴がそんなことを言っていたのか。はぁっ……

 ですが立木さん、どうしてそんなことがわかるんだ? と言うより、どうしてうまく引き継いで纏められるんだ?


「その辺りは、まあ、私は仕事が嫌いだからでしょうかね。どうやって手を抜いて、しかも見栄えを良く出来るのか。そんなことを考えながら、仕事と言うのを見ていたりするんです」


 手を抜いて、と言うのか? 俺に、それを信じろと。


「そう、手を抜いてです。子供ではないのですから、求められるのは努力では無く結果なのですよ。努力をして出来ませんでした……では、困るわけです。特にあなたのような若い人は、限界を忘れて努力なんかしてしまうんです。それでうまく行けば良いのですが、うまく行かないと自分で自分を追い詰めることになる。この歳になると、そんな理由でメンタルをやる奴を嫌って程見ているんです。それを考えれば、あなたはギリギリのところで踏みとどまったのではありませんか?」


 それが、経験と言うことなのか。違う、ただ歳をとっただけ。そのせいで、手の抜き方ばかりうまくなってしまうと言うのか。

 それでも、俺がとっちらかした仕事を纏めてくれたよな。いくら手を抜くのがうまいと言っても、簡単なことじゃないはずだと思うのだがな?


「そうですね、理由はいくつかありますよ。まずですね、あなたが失敗するのが見えていたと言うのがあります。全体の工程を俯瞰し、いくつかのマイルストーンを設定しておくんです。この辺りは、後沢氏たちの協力も貰っていたんですよ。全体工程、そしてマイルストーン。各工程がどのように着手され、どんな進捗になっているのか。気がついていない、手が付けられていない工程があるのなら、バックアップの手段を考えておくことになります」


 そこまで緻密に管理をしておいて、仕事が嫌いと言ってくれるのか? どう考えても、手抜きとは対極にあると思うのだが?


「いえいえ、繰り返しますが仕事は好きじゃありませんよ。なので、もう少し種を明かすことにいたします。あなたは、最初の見積もりを失敗していたと言うことです。考えてもみてください、あなたはテーマパーク立ち上げの素人なんですよ。ネットで課金モデルを作り、その課金モデルでゲームの収益を上げる。それに比べて、テーマパークの立ち上げは遙かに多くの作業が必要になるんです」


 つまり、俺が失敗するのがわかっていた。だから、その準備を進めていたと言うことか?


「有り体に言うのなら、そう言うことになりますね。その辺り、後沢氏の伝手を利用させて貰いましたよ。思いっきり、過保護だと言われましたけどね」


 だったら、どうして仕事を取り上げなかったんだ? そうすれば、もっと早くから準備が出来ていたはずだろう。


「だから、過保護と言われたんですよ。最初から取り上げていたら、あなたは失敗を経験することが出来なかった。私が引退するためには、一日も早い後継者の育成が必要だと言うことです」


 そうやって、俺を煙に巻いてくれると言うことか。


「その辺り、年寄りの嫌らしさだとでも思ってください。それで、今の話を聞いて、なぜ私が復帰を認めなかったのか理解出来ましたか?」


 俺が、また同じ手法をとるのが見えていたと言うことだろう。ああ、認めるよ、俺は自分のやり方が間違っていたとは思っていないからな。


「私も、自分のやり方は正解などと言うつもりはありませんよ。なので、あなたがやりたいようにやってくれても構わないんです。ただ、もう代理店を巻き込んでしまったんですよ。こちらは契約に縛られますから、好き勝手できる範囲はかなり限られてくることになりますね」


 確かに、大手の代理店が噛んできたんだが。それでも、まだまだやりようがあると思うのだが。そうか、そう思うのなら手を出しても構わないと言ってくれるのか? ところで聞いておきたいのだが、あんたはどこまで見通しているんだ?

 いや、この辺りまでって目の前に手のひらを置かないでくれるか? 絶対に、もっと先まで見て俺と話をしているよな? だから、自分が引退するための布石って……みんなに言われていると思うのだが、素直に引退させて貰えるとでも思っているのか? 諸星氏だったら、強制力を使ってでも阻止してくれると思うぞ。

 年寄りを酷使するな……あんたの奧さん、ああ慶子さんなんだが。最近生き生きしていると言っていたぞ。なんだ、その燃え尽きる前に明るくなると言うのは。ここには、女神様までいるんだからな、若返りぐらいお手の物だと思うぞ。


「そうやって、年寄りを虐めないで欲しいんですけどね。まあ、そこまで言えるのなら復帰をさせても良いのでしょうね。ただ復帰に当たって、私から条件を付けることにします。着手前に、ちゃんと鴻池氏に教えを請うてください。あなたは天才一歩手前なのですが、彼はこの道のプロなんです。どんな天才でも、インプットを正確にしないと能力は発揮できませんよ」


 天才の一歩手前って……随分と微妙な評価だな。それから天才と言うのは、和志のような奴のことを言うんだ。だから俺は、自分のことを天才だなんて思ったことは無いんだよ。そうか、天才を否定するのなら、もっと他人の話を聞けと言ってくれるんだな。ああ、独りよがりで突っ走っていたのが失敗だと言うのは理解出来たつもりだ。

 なんだ、聞き分けが良すぎるのも問題と言うのは。あのなぁ、アクセルを踏んだりブレーキを踏んだり、俺にどうしろと言うつもりだ? 若いんだから、もっと突っ走れ……最初と言っていることが違うと文句を言って良いよな? いいと思うんだ。



 オリエンテーション、オリエンテーションだったのだな。それが終わったところで、関係者との顔合わせと言うことになった。つまり、代理店から派遣された鴻池氏との面談である。

 一応俺も、株式会社サンダーボルトと言うゲーム会社を経営していた。従って、代理店とも付き合ったことがある。勿論、ストレンジワールドのメディア展開が目的だ。ただ俺の知ってる代理店の奴とは人種が違う気がするな。


「ああ、ゲームエンターテインメント部門ですね。あちらは少数精鋭……で良いと思うのですが、プロジェクトと言う意味ではあまり大きくないんです。後はですね、決まったフォーマットがあるので、失敗しにくいと言うのがあります。ストレンジワールド、でしたか。あれは、ちょっとゲームが特殊でしたからね、結構苦労したと思いますよ」


 ええ、特殊だと思いますよ。何が特殊って、インタフェースが特殊ですから。勿論、そのインタフェースが売りなんですけどね。


「しかし、あのゲーム……根幹部分はお医者さんが片手間で作ったんですか。その辺り、天才と言って良いのでしょうね」


 和志が天才……何を今更と言うところだな。


「ところで、あのゲームなんですけど。色々とウチに任せてくれませんかね?」


 そう来ましたか。まあ、本業……本業ってなんだ? とにかく本業が忙しくなってきたのは確かだ。その意味で言えば、手放しても良いとは思っている。ただ、権利関係は後沢氏に任せたから、その話は彼にして貰えるかな。


「そうですか、すでに手放しておられましたか。手堅い判断だと思いますよ。ところで立木さん、ブーランジェリー王国観光及び魔王城関係ですが、これからは朽木さんと進めれば宜しいのですね?」

「年寄りの頭で考えるのはそろそろ限界ですからね……なぜ、二人して驚いてくれるんです?」

「驚いたと言えば良いのか、信じられなかったと言えば良いのか……ご自身で年寄りと仰りますか?」

「65を過ぎた年寄りですよ。年寄りと言ってもおかしくないと思いますけどね」

「年齢で言えばそうなのでしょうが……いえいえ、これから朽木さんと詰めていくことにします」


 それで、俺が立木さんに報告すれば良いのだな。なんだ、これで手放せるとでも思っていたのか? ふっ、甘すぎると言ってやろう。なんだったら、今度はパッソと一緒に踊ってやろうか?


「その時は、私がシアと一緒に踊ることにしますよ」


 なるほど、その時には諸星氏が被害を受けることになるわけだ。だけどなぁ、それはやめておいた方が良いと思うぞ。いくら非常識が服を着て歩いていても、出来ないことはやっぱり出来ないと思うからな。


「どうして、私だと出来ることになるのでしょうね……」


 その辺りは、諦めて貰うしかないと思うぞ。何しろ、公開第一歩を纏めたのは立木さんなのだからな。


「そうですね、私たちの業界でも顔を覚えられたのは間違いありませんね」

「本業でパットしなかった私が……どうして、違う世界で名前を覚えられるんでしょうね」


 なんだ、その深すぎるため息は。まあ、なんだ、本業ってのが実は向いていなかったと言うことじゃ無いのか? 歌って踊れるエンジニアを目指していた……そう言う冗談を言えるから、今の方が輝いていると思うぞ。




 立木さんから引き継いだ仕事最大の課題は、対応可能な入場者数を増やすことだった。魔王城は、現状で1日に2000人と言うのが一日の限界なのだそうだ。魔王城側の負荷は、眷属を増やせばまだ対応可能らしい。ただ魔王様たちに年中無休で働かせるわけには行かないので、休みとかを考える必要もあるのだろう。

 それでも、年間300日稼働したと考えれば、60万人に対応することになる。施設の規模を考えれば、できすぎと考えても良いと思うぞ。


 ただ1日に2000人に対応するためには、女神様側の増員も必要なのだそうだ。奇跡を与えるチョーカー自体は、諸星氏が協力すれば数を揃えるのは難しくないらしい。だがチョーカーを授ける女神様の問題を解決しなくてはいけない。どう言うことかと言うとだな、8時間と言うのは480分しかないと言うことだ。1分当たり5人に奇跡を授けると言うのは、どう考えても流れ作業になってしまう。

 テーマパークに遊びに来てそれじゃ、手抜き……じゃないのだが、遊びに来た方にしてみれば手抜きに思えてしまうよな。それを考えれば、最低でも10並列……女神様相当が10人必要と言うことになる。


「それなのですが、セレスさんにも手伝って貰うことを考えています。ただセレスさんは、滅多に現れないレアキャラの扱いとします。その意味で言えば、フローリアンさんもレアキャラの扱いにしようかと。翼人の方に、天使様に扮して貰うと言う案が出ているんです。そして外れが、人間の神官と言うことになります」


 なるほど、それなら入場のところで時間を稼げますね。ところで、アトラクションとして時間をどれだけ掛けるのですか?


「アトラクションとして、それなりの金額を頂くことになっています。従って、20分平均を考えています」


 つまり、正味の稼働を8時間として、24回しかアトラクションが開かれないことになる。1パーティー5人平均とすると、120人が限界となる訳だ。そうなると、17程度同時にこなすことが必要になってくるのか。


「バッドエンドとして、オークとデモンに負けると言うのがあります。オークとデモンで、10並列。そして四天王で4並列。魔王様を加えると最大15並列と言うことになります。魔王様には、オークとデモンを倍増することをお願いしています」


 バッドエンドね……バッドエンドか。それを悪いと言うつもりは無いのだが、少しばかりコスパが悪く感じてしまうな。


「ちなみにプレミアムチケットを用意することにしています。それとは別に、一般チケットにはガチャを取り入れることを考えていますよ。夜間、しかも短時間限定ですが、ブーランジェリー王国から姫騎士の方にもお越し頂く予定です」


 姫騎士……なんか、大人の世界の予感がするのだが。そうか、その予感は間違っていないのか。ひょっとして、エロ同人とかにある『くっ殺』とか言うのをするつもりか?

 なるほど、エロ展開にはしないが、『くっ殺』は提供するのだな。なんだと、魔王城に囚われるプランもあるのか。つまりそれは……そうか、姫騎士と一緒に牢に繋がれるのだな。なんとマニアックな……一体誰の煩悩なのだ? もしかして、大谷興業が絡んでいるのかっ!


「いえ、彼らは真剣に健全なファンタジーを考えてくれてますよ。R15の方は、代理店側の要望と言うことになります。いえ、見てみたいと言う声が思いのほか大きかったんですよ」


 あ~っ、そう言うことか。なるほど、見た目に騙されちゃいけないと言うことだな。うんうん、なんかわかった気がするよ。

 それで、大谷興業からはなんと?


「あちらの方たちは、ブーランジェリー王国側で夢を叶えるそうですよ。せっかくエルフがいるのだから、ミュージカルのようなことをして欲しいのだそうです」


 もの凄く、真っ当なアイディアだと思うぞ。そうか、鴻池氏も真っ当だと認めるのだな。


「健全なアトラクションが必要ですからね。ですので、ハイエルフの増員もお願いしてあります。加えてですね、ワイバーンの調教も進めていって貰っています」


 ワイバーンの調教……何をさせるんだ?


「ワイバーンに籠をぶら下げて、遊覧飛行をするのだそうです。勿論、オプショナルツアーにしますよ。他にも、色々とアトラクションが出来ないかを考えて貰っています」


 それを聞いていると、正式オープンまでに時間が掛かりそうな気がするのだが。そうか、同じ結論に達しているのだな。


「正式と言うより、フルオープンを来春とすることにしました。それまでは、アトラクションを絞ってプレオープンの形とします。当たり前ですけど、見せる方のトレーニングも必要なんですよ」


 拙い芸……芸と言って良いのかわからんのだが、アトラクションとして纏めるのが必要と言うのは理解出来る。それに、これから大谷村は、厳しい冬に向かっていくのだからな。豪雪となったときの対応も、プレオープンの際に練り上げておく必要があるともうぞ。

 ただそうなると、本格的に稼げるのは来春になってからと言うことだな。それまでは、アトラクションを減らし入場料を下げて対応するのか?


「立木さんに相談したらですね、逆に高くした方が良いと言われましたよ。理由を教えて貰ったのですが、確かに入場料を上げた方が良さそうです」


 まだ出し物として纏まっていないのだよな。それを、正規の料金よりも高くとると言うのは……プロとして、どうかと思うのだが?


「立木さんから、1桁2桁高くても希望者が殺到すると言われましたよ」


 1桁2桁高くてもって……正規の料金はどれぐらいで見ているんだ?


「魔王城側は、大人1万円、家族4人で2万円と言う所ですね。ブーランジェリー王国側は、宿泊費と食事代が更に上乗せされます」


 有名テーマパーク並みと言うことか。値段として、かなり強気の気もするのだが。

 それを前提にすると、プレオープンは10万円を遙かに超えることになるのだが。どう考えても、正気の沙汰には思えないのだがな。


「朽木さんの仰るとおりだと思いますよ。ですから、立木さんは別の顧客を求めることを提案してくださりました」


 顧客って、テーマパークに遊びに行くような人が顧客だよな。それ以外の顧客と言うのがいるのか?


「腐るほどいる……と言うのが立木さんのお答えでした。実のところ、すでに弊社にも色々な問い合わせが入っているんです。その問い合わせなのですが、アトラクションは別として時間を使わせて欲しいと言うものです」


 アトラクションは別として……つまり、アトラクションはどうでも良いと言うことか………………


 あ~っ、なんかわかった気がするぞ。つまり、研究的なことを考えている奴がいると言うことか?


「その通りと言うことです。魔王城からブーランジェリー王国ツアーを組んだ場合、1泊2日で100万円コースが余裕で成立しそうなんです」


 なるほど、そう言った事情がある奴からはふんだくれる訳か。ただな、異世界に憧れたお子様はどうするんだ? そこからふんだくるわけにはいかないと思うぞ。


「なるほど、やはり朽木さんは善良な方と言うことですね。ちなみに立木さんは、訳ありからふんだくるのだから、そっちはただでも良いぐらいだと言っていましたよ。ただ、数が限られますから、招待するのも難しいと思っているんです。思っていたんですが、フルオープンしてからも招待枠を作れるだろうと言われてしまいました」


 そこで苦笑を浮かべたと言うことは、招待枠は考えていなかったと言うことだな。そうか、やはり考えていなかったのか。


「物珍しさで稼げるのは、最初のうちだけですからね。その稼ぎ時に、招待枠を作ると言われたら……苦笑ぐらいなら優しいものだと思いますよ。しかし立木さん、後沢さんたちも悪人だと思いますよ」


 善人ではやっていけない世界だと思うが、それでも後沢氏までじゃ無いのか? 立木さんは、普通にリタイアしたおっさんなんだからな……いやいや、今ので冷や汗はないと思うんだ。

 ちなみに、悪人と言うのはどう言う意味なんだ?


「契約の穴を指摘してくださいましたよ。ええ、弊社との契約は、今の魔王城とブーランジェリー王国なんです。上里集落自体は、契約に含まれていないんです。立木さんなんですけど、これで異世界ネタが打ち止めだと思っているのかと聞かれてしまいましたよ」


 つまり、なんだ、追加ネタの権利関係を言っていると言うことか。つまり、結んだ契約書には穴……があったわけだ。


「後沢氏が警戒したのでしょうね。後は、ウチの法務も常識的だったと言うことです。違いますね、想像力が足りなかったと言った方が良いのでしょうね。まだ影も形も無いものを、契約書に盛り込むことは出来ないと言うことです」


 そりゃあ、そうだよな。新しい異世界なんて、努力義務に盛り込むのも無理がありすぎるだろう。つまり、契約に盛り込むことは、博打として大きすぎると言うことか。ああ、真っ当な法務なら、盛り込むことに反対するな。


「それはそうなんですけどね。問題は、魔王城とブーランジェリー王国関連だけと言うことなんです」


 今のところ、持ちネタと言ったらそれぐらいのはずだよな。だとしたら、何も問題が無いような気がするのだがな。


「対象外に、セレスさん、ラズライティシア様、ルーテシアさん、翼人の皆さん、竜人の皆さんがいると言うことです。はっきり言って、契約した奴は降格ものの見落としだと思いますよ」


 えっ、いや、それって……流石に阿漕じゃ無いのか。そうか、契約の穴を突かれたと言うのだな。契約書がすべてだと考えれば、正しいのは立木さんと言うことになるわけだ。


「ブーランジェリー王国及び魔王城のプロモーション権、入園関係のとりまとめ及び料金収受。これが、金のなる木と言うのは間違っていないんです。何しろ、初期投資が他のテーマパークと比べて桁違いに小さいんですよ。従って、今のままでも弊社に莫大な利益をもたらすのは間違っていません。間違っていないから、欲が出てしまうと言うことです」


 なるほど、俺もまだまだ甘かったと言うことか。それで、立木さんは今後の拡張について交換材料とした訳か?


「小出しにされてしまいました。無料招待枠程度では、翼人の協力程度なのだそうです。そこをなんとかと頼み込んで、竜人の協力までは勝ち取りましたよ」


 ああっ、思いっきり苦笑が浮かんでいるな。つまり、別の要求を呑まされたと言うことか? なんだ、その足下を見られたと言うのは。


「ハイエルフのプロモーションを考えろと言う宿題を貰ったと言うことです」


 今回の公開のことじゃ無いのか? 違う、もっと大きな意味でのプロモーション……つまり、芸能ネタと言うことなのか?


「だから、足下を見られたと言いました。実のところ、各芸能プロから突っつかれてたりしたんです。ええ、トベに映像が出ていますからね。見た目が良くて、動きがキレキレ……売り出せば、間違いなくトップアイドルになってくれますよ。目の前に、美味しい餌をぶら下げられたと言うことです」


 なるほど、確かに美味しい商材だな。


「お陰で、弊社内にIMO特別チームが結成されましたよ。これでもう、運命共同体になったと言うことです」


 主導権をとられた割に、嬉しそうに見えると言うのは言ってはいけないことか? そうか、実は喜んでいると言うのだな。


「実は、立木さんにプロモーション契約を結べないかと持ちかけているんです」


 立木さんに……なのか? あの、普通のおじさんにか? はっ、冷や汗と震えが来たっ!


「ワイドショーのコメンテーターと言う奴です。記者会見で目立ってくれましたから、引き合いと言うのが来ているんですよ。後はですね、旅番組に出て欲しいと言うものですね。ちなみに、こちらは特別ゲストを期待してのものです」


 特別ゲスト……著名な教授陣と言う奴のことか? 後は、番組内での売り込みを想定していると言うのか。なるほど、IMO研に売り込みを掛けたい奴は山ほどいそうだな。

 でも、旅番組……酒場ネタを含めて、立木さん一人と言うことは無いのだろう? そちらは、エルフと竜人を考えているのか。なるほど、御衣黄さんにも隠れファンがいると言うのだな。だったらだな、女神様……フローリアンさんなんだが、彼女も使えると思うぞ。


「ですよねぇ。かなり美味しい画が撮れると思うんですよ。ただねぇ、忙しすぎると断られてしまいました。なので、今は条件闘争中になっていますね」


 その辺り、流石はマスコミ関係者と言うことだな。賞味期限のある美味しい商材……うん、間違っていないと思うぞ。

 話を戻すが、無料招待枠はどうなっている? そうか、地元の学校から始めると言うのか。1日100組程度……大谷村村長経由で話を回しているのだな。だとしたらだ、後はどうやって全国に広げていくかと言うことか。流石に、海外はないと思って良いよな?


「流石にない……と思いたいですね」


 流石の俺も、海外までは考えていないからな。日本政府から頼まれる可能性も微レ存なのだが……その時はその時と言うことにしておこう。


「政府からの依頼なら、ちゃんと金を取れと言われましたよ。立木さんに」


 あのおっさん、本当にただのエンジニアだったのか? そうか、あなたも疑問に感じているのだな。




 魔王城とブーランジェリー王国の一般公開が始まって、そろそろ1ヶ月が経とうとしている。その1ヶ月の間で、招待入場者は1万人を超えたと言うのは、頑張ったと言って良いと思う。ちなみにこのご招待は、地元大谷村の学校から始め、隣村の白鹿村の学校にまで広げた。これには、地元優先と言う意味に加え、時間稼ぎと言う目的もあったそうだ。

 当たり前だが、無料招待でも交通整理は必要となる。各県の教育委員会に直接振る……と言うプランは、立木さんからダメ出しを食らった。、しかも12歳以下の特別無料招待……保護者込みをIMO研の定例会見でぶち上げてくれたのだ。


 そこで何をしたのかと言うと、各県に枠を割り振ったのである。そして受付を、鴻池氏の会社に任せることにした。お陰でね、MHKの夕方に番組が一つ出来てしまったんだ。うん、招待を希望する団体からの申し込みを受け付ける番組。お手紙でもビデオレターでもトベでもチクタクでも、何でもいいから、応募をして欲しいと言うものだ。

 そして受け付けるだけで無く、その結果も放送に流すことになった。ちなみに番組MCは、安達マミちゃん。そう、プレオープンイベントに来てくれた女性だよ。そして男性側は、子供たちにも人気の高いお笑いコンビのBLTが務めてくれることになった。いずれも売れっ子なのだが、あちらから売り込みがあったのだそうだ。


「『今日の異世界に遊びに行こうっ!』は、ゲストとしてIMO研究所代表諸星さんご夫妻にお越し頂いています」


 ちなみに収録スタジオは、上里集落に作られていたりする。もう少し正確に言うと、魔王城の中に作ることになった。まあ、なんだ、魔王城が一番広いのもそうだし、見た目が変わっていると言うのもポイントになったそうだ。

 ちなみに記念すべき第1回目の放送では、3人のMCが東京から移動するところ。そう、空間ゲートを通るところから始まることになった。うん、夢があって良いと思うぞ、自画自賛だけどな。


 鴻池さんに教えて貰ったのだが、この番組制作に関してIMO研究所からの持ち出しは無い。それどころか、放送権料として結構な金額がMHKから支払われることになったそうだ。その金額を教えられたとき、本当に良いのかと心配になったのは内緒である。いや、鴻池さんの会社、ちゃんと取り分があったのかなと。


「ご心配には及びませんよ。ぼろ儲けとは言いませんが、放送権料だけでもこれまでの投資が回収できる当てがついたぐらいです」


 そんなに、と言っても良いと思うぞ。なるほど、これまでの投資が大したことが無いと言ってくれるのか。しかも掛かっているのは、殆どが人件費と言うのだな。


「用地買収に費用が掛かっていませんからね。それから、建物にしたところでたかが知れているんです。宿泊施設の改修は、大谷村が率先して動いているんですよ。ですので、我が社の投資額も抑えられていると言うのがお答えになります。今費用が掛かっているのは、地味な本物をそれっぽい派手な偽物に置き換える作業です」


 地味な本物ね……確かに、本物は地味だと思うぞ。ただ本物ならではの迫力が……アトラクションには求められていないんだよな。

 ちなみに『今日の異世界に遊びに行こうっ!』は、時間帯としては異例の視聴率をたたき出しているそうだ。そして集落側からのゲスト、俺もその一人なのだが、ゲストによって視聴率に差が出ているらしい。その中で人気が高いのは、翼人とハイエルフ、そしてオークとデモンなのだそうだ。いや、翼人とハイエルフはまだわかるのだが、なぜオークとデモンが人気になるんだ? 魔王様が拗ねるから、ほどほどにして欲しいと思うんだ。


「やはり、見た目がわかりやすいと言うのが大きいと思いますよ」


 そうか、魔王様の場合は、ただ顔色の悪いイケメンにしか見えないからな。その意味で言えば、オークとデモンの人気が高いのも理解出来ると言うことか。


「それからですね、うちの国際部から諸星さんにお礼を言いたいそうです」


 広告代理店の国際部……俺に関係するとは思えないのだが?


「例の、1泊100万円コースのことです。値段が上がっても構わないので、もっと便宜を図って欲しいと依頼が来ているんですよ。しかも、その依頼元が各国政府と言うことです。お陰で、今まで手が届かなかった人脈が出来ると、国際部がお祭り騒ぎになっているんですよ」


 なるほど、そう言うことね。ああ、確かに感謝されて然るべきことだと思うぞ。


「それから諸星さんに伺います。IMO研究所で、慰安旅行を考えられていませんか?」


 慰安旅行……前回の旅行からなら、3ヶ月近く経っているからな。それを考えれば、そろそろ旅行を考えても良いと思うのだが……あなたがそれを持ち出したと言うことは、俺たちの旅行にテレビカメラが入ると言うことか?

 そうか、やっぱりそうなのか。俺としては構わないと思うのだが……絵的にかなり危ないものになると思うぞ。公序良俗……別に、宴会中にいかがわしいことをしてるわけじゃ無いのだがな。お茶の間に公開するのはどうかと思えてしまうんだ。


「でしたら、沖縄に行かれたときのようなものはどうです?」


 なぜそれを……と言っちゃいけないのだろうな。そうか、あの程度でも十分視聴率を稼げると言うのか。だったら愛知に行った社会見学は? あれも提案しようと思っていた、と言うのか。宴会を映さないのであれば、問題はないと思うぞ。

 それで、どこに行ったら良いと思う?


「沖縄は二番煎じ……でもないのですけどね。今度は本島じゃ無くて、諸島部を候補にしてもいいと思っているんです。その辺りは、ホテル次第なのですが……可能であれば、ハワイも候補にしたいんですよ」


 は、ハワイ、ですかっ! いやいや、俺たちってアメリカに行っても良いのかな。そうですか、別に難しい話じゃ無いんですね。


「それどころか、盛大に歓迎されると思いますよ」


 歓迎されるんですか……そのですね、俺は語学の方は。ええ、当てにならないと思ってください。


「その程度、どうとでも出来ますよ」


 そうなのか、どうとでもなると言ってくれるのか。だったら、ハワイと言うのも行ってみたいと思うぞ。


「でしたら、どこかの局に振ってみますよ……入札の方が良いのかな。ただ人数が多すぎると発散するので、少し人数を絞っていただきたいと思っています」


 人数を絞るのね……なかなか難しいと思うんだ。そうか、その分回数で稼げば良いと言うのだな。目的地ごとに、連れて行く女性を変えれば良いのだと。


「必須はセレスさん、翼人の女性と言うことになります」


 そうか、翼人か……ヴェルファイアかセンティアを連れていけば良いんだな。ところで、竜人はいいのか? あと、ハイエルフとかもいるのだが。なぜ、そこで冷たい視線を向けてくれるんだ?


「失礼、ちょっと呆れてしまったと言えば良いのか。その辺り、商材を提示頂いた上で選択させていただきたいと思います」


 呆れ……られることなんだろうな。ああ、言っていて俺もちょっと変だと思っているんだ。




 リゾート再びの話は、家内との温泉旅行から帰ってきて教えられました。温泉旅行ですか、久しぶりに本に囲まれてきましたよ。しかも今回は、家内と二人きりと言う完全なプライベートです。ロビーで金色の髪をした女性を見た気もしますが、見ないことにすることにしました。

 それで帰ってきたら、沖縄再訪、将来的にハワイですか。鴻池さん、私の留守を狙ってくれたようですね。嫌ですね、私に対して必要の無い警戒と言って差し上げますよ。ええ、反対する理由はないと思っていますので。


「でも、こんなに露出して良いの?」


 なんだ慶子、何か不安があるのか。そうか、マスコミにしゃぶり尽くされることを心配しているんだ。ただね、私の狙いはそこにあるんだよ。

 意外かな、理由を聞けば意外でもないと思うよ。実はね、私は翼人やハイエルフの賞味期限をとっとと終わらせようと思っているんだ。そうか、ますますわからないと言ってくれるんだね。だったら一つ質問。今のハイエルフや翼人は、普通の人にとってどう映っているのかな?


「質問がわかりにくいわ」


 そうか、わかりにくいのか。だったら、ちょっと酷い表現を使ってみようか。そう、友人、隣人、珍獣、化け物ぐらいかな。そのうちのどれに該当していると思うのかな?


「本当に酷い選択肢だと思うわよ。でも、あなたの言いたいことはわかった気がするわね。あなたは、珍獣や化け物扱いだと思っているんでしょ。でも、どうしてスターと言う選択肢を入れなかったの?」


 スターを入れなかったのは、彼らは何もしていないからと言うことだよ。酷い言い方をするのなら、上野動物園のパンダと彼らの扱いは変わらないんだ。この際宗教的なものは忘れる……面倒なことになるからね。それを忘れれば、彼らの価値は物珍しさでしかないんだよ。その物珍しさと言う価値……ではないね、余計な属性を彼らから取り去りたいと言うのが私の思いなんだ。

 だから諸星氏は、もっとマスコミに出るべきだと思っているんだ。そして翼人やハイエルフが、マスコミ的に飽きられた方が良いと思っているんだよ。彼らが当たり前の存在となったとき、ようやく友人であり隣人になることが出来ると思うんだ。翼人やハイエルフが、姿を偽ること無く普通に生活をすることが出来る。東京の街中を歩いていても、人集りの出来ない未来と言うのを考えているんだ。


「だから、露出を増やすと言うの? でも、急ぎすぎに感じるのは私の気のせい?」


 気のせいかと聞かれたら、気のせいじゃ無いと言うのが答えになるね。ああ、敢えて急いでいるところがあるんだよ。それから断っておくけど、私の年齢は理由じゃ無いからね。


「そう、私は無理矢理理解させようとしている気がするわよ。まだまだ大きな混乱があると考えているのでしょう? その対策……になるのかしら。過剰な反応を起こさないために、異世界の人を知らしめようとしているんじゃ無いの?」


 その意図が無いとは言えませんね。この1年と言う短い時間で、翼人、ハイエルフ、竜人、魔王様と異世界からの訪問者を迎えています。そして竜人の時には、少なくない犠牲者が生まれているんです。竜人の被害は大きなものでしたが、それでも許容範囲……と言うのは言いすぎですかね。彼らが、まだ理性的な存在と言うのが救いでした。

 だけど、次に現れるのが理性的な存在である保証は無いんです。更に言うと、理性的にこの世界を壊すことを考えるものが出てくる恐れもあるんです。その脅威に対して、どう備えるのかと言うのも考えておかないといけないんですよ。


「つまり、自衛隊の人と話をしたと言うことね?」


 自衛隊、ですか。正確には違いますね。後沢氏を通して、菅谷総理と話をさせて貰ったんですよ。勿論、自衛隊の人……吉岡さんとも話をしていますよ。あの人たちは、今では無く未来をどう守っていくのか考えてくれていますからね。これから現れる相手が、話が出来る相手とは限らないんです。

 例えば魔王様にしたところで、物語に出てくるような純粋な悪だったらどうします? 人を殺し、自分が君臨する世界を作ること……要は、半世紀ちょっと前に会った独裁者のような存在ですね。後はですね、竜人たちのことも気になっているんです。ええ、彼らが逃げてきた理由ですよ。彼らのような強者が、逃げ出さざるを得なかった世界と言うのが気になったんです。


「インテグラさんたちを見たら、暴力的と言うことは無さそうね。だとしたら、世界から排除されたと言うのは考えにくいと言うこと」


 そう言うこと。世界の敵となって、追放されたとは考えにくいんですよ。だとしたら、彼らが逃げ出す理由と言うのがあると思うんです。それが世界の崩壊なのか、彼らでも敵わないような敵が現れたのか。今までなら荒唐無稽、SFの世界で語られるような話なのですけどね。異世界と言う存在が現実となった以上、考えなくてはいけなくなってしまったんです。


「話を纏めると、異世界との付き合い方を世界中の問題にしたいと言うこと? 私たちだけが考えるのでは無くて、世界中の人に考えて欲しい……とてもわかりにくい説明だと思うわよ」


 やはり、わかりにくかったか。自分で話をしていて、少し支離滅裂になっていた気がしたんだよ。少しじゃ無い、かなり支離滅裂……まあ、そうなんだろうね。思いついたことを、整理しないで口にしてしまったんだ。

 大丈夫、諸星氏たちには整理して伝えることにするよ。後はそうだね、シアを巻き込むことも考えているよ。勿論、インテグラからも話を聞かせて貰うつもりだ。子供たちの世界を守るためには、脅威の存在を詳らかにする必要があるからね。


 そうか、身の丈を考えろと言ってくれるのか。確かに、私は身の丈に合わないことをしようとしているのだろうね。ただね、礎にぐらいはなれると思うんだ。そんな大したものじゃ無い……相変わらず言いたいことを言ってくれるのだね。

 怒ったか、かい。いやいや、色々と言ってくれて助かっていると思っているよ。そうじゃなきゃ、30年以上も一緒にいられないだろう。熟年離婚を考えた……土下座、した方が良いのかな?



多分、最強は奧さんだったりします

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