↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/109

見方を変えればこちらも異世界

村の特産は異世界です


・見方を変えればこちらも異世界


 やはりこちらの世界のベッドは気持ちが良い。久しぶりに目覚まし時計で目を覚ました俺は、帰ってきたのだと感激することになった。その辺り、夢ではないことを理解出来たと言うことだ。

 ちなみにだが、昨夜寝る前には夜這い対策をしておいた。具体的には、部屋に侵入できないように仕掛けをしたのである。どう言うことかと言うと、ドアに対して『開くな』と命令をしておいたのだ。転移魔法を使えば入っては来られる。ただ、今のところ使えそうなのはラズライティシア様だけなのだ。そのラズライティシア様は、エクシブ相手で忙しいことはわかっている。残りの二人……三人に対してなら、その程度の対策で十分だったのだ。


 ドアへの命令を解除して、俺は朝風呂に行くことにした。どうやら、俺は思った以上に疲れていたようだ。部屋に戻ったところで、限界を超えてしまったのだ。だから風呂にも行かず、そのまま落ちてしまったと言うことだ。


 新しい下着を用意し、お湯の溢れるお風呂に入る。たったこれだけのことでも、帰ってきたことの喜びを感じてしまう。あちらの世界のすべてを否定するつもりはないが、こんな贅沢は王侯貴族でも無い限り無理な相談だったのだ。しかも技術レベルの違いもあり、身につけるものはこちらの方が遙かに上質だった。絹とか綿とか麻とかの素材はある。あるのだけれど紡績技術が違えば、布としての質も変わってくると言うものだ。

 朝風呂を堪能していたら、疲れた顔をしたエクシブが入ってきた。それだけなら問題は無いのだが、おまけのようにラズライティシア様まで入ってきてくれた。


「なに、エクシブは風呂の使い方を知らぬのでな。それに、われらは恥ずかしがるような関係ではないのだ」


 まあ、言っていることは間違ってない。ただ、俺が居るのを忘れてほしくないだけだ。


「なんだ、お前はわれに欲情すると言うのか。それならそれで、エクシブと一緒に可愛がってやっても良いのだぞ」


 それは取りあえず遠慮……否定しておく。ところでだ、煩くしなかっただろうな。どうしてそこで、しまったと言う顔をするのだ。なに、遮音結界を張るのを忘れたと言うのか……わざとだよな?


「なに、ちょっとしたお節介と言うものだ。だが、どうやら空振りだったようだ」


 ああ、俺は部屋に遮音を命じたからな。俺がその気にならなければ、そのお節介は空振りにしかならないはずだ。


「それなのだが、どうしてぬしはセレスやルーテシアに手を出さぬのだ。あちらに居るときとは、事情が変わっていると思うぞ。それにルーテシアだって、いつまでもお子様ではないだろう」


 その事情が変わっていると言うのが理由なのだがな。ところで質問なのだが、元の世界に戻ることが出来ると思うか?


「いきなりだな。昨日も言ったことだが、われが原因と言うのはわかっているが、どうやってこの世界に転移したかはわかっておらんのだ。従って、戻れるかと言う問いには、可能性は否定しないと言うのが答えになる。そしてわれの事情を言うと、探すつもりはないと言っておく。まあ、今のところはなのだがな」


 なぜ、探すつもりはないのだ?


「この世界に興味があるからに決まっておるだろう。神話の時代から生きてきたと言うのは、それだけ長い間世界の移ろいを見てきたと言うことになるのだぞ。その長い時間、われのいた世界に殆ど変化はなかった。それが、この世界に来て見たら、想像もしたこともない光景が広がってくれたのだ。しばらくこの世界を見てみたいと考えても不思議ではないと思うぞ」


 ちなみに『しばらく』の時間感覚はどうなのだ?


「そうだな、数百年単位ぐらいだ。われにしてみれば、一瞬にも等しい時間と言うことだ」


 つまり、二人は元の世界に戻ることは出来ないと言うのだな。


「恐らくだが、セレスとルーテシアはここに残ることを希望するぞ。ぬしが理由であるのは当然だが、それを忘れてもこの世界は興味深すぎるのだ。だからルーテシアは、お前に関係なく残ることを希望するだろう。なにしろあやつは、冒険大好き娘だからな」


 師匠に対する考察は、俺と同じと言うことか。それはそれとして、エクシブが泡だらけになって居るぞ。なに、洗ってみたら汚いことがわかったのだと。確かに、冒険者など水浴びか体を拭く程度だからな。

 だからと言って、たわしで体を擦るんじゃない。そんな柔な肌をしていない。まあ、どうせ野郎の体だからな。それに柔な肌をしていたら、サバイバルなど無理な相談と言うのは理解出来る。ただな、その持ち手付きのたわしは風呂掃除……しかも床を掃除するためのものだからな。せいぜい、あっちに有るブラシで洗ってやれよ。


「なに、汚すのは申し訳ないと思っただけだ」


 その物言いは、流石にエクシブが可哀想だと思うぞ。ただ否定できるかと言われれば、ちょっと難しいというのは確かなのだろうな。




 風呂から上がってみたら、とても眠そうな顔をした小谷さんが居た。まあ、ただいただけじゃ無く、見るからに濃さそうなコーヒーをがぶ飲みしていた。どうやら、ラズライティシア様のお節介が直撃したようだな。


「ああ、おはようございます。いきなりで申し訳ありませんが、私の部屋に防音の命令をして貰えますか?」


 やっぱりあの声で眠れなかったのか。ああ、その依頼は受けておく必要があるな。ところで、なにを注文しているのだ? 朝食……ああ、朝食ね。忘れていたぞ。


「朝食を忘れていたのですか。もしかして、諸星さんは普段から朝食を抜いていたのですか?」


 確かに少しだけ説明が不足していたな。あちらの世界だが、三食と言う概念がないんだ。セレスは別として、冒険者は食べられるときに食べると言うのが普段の生活になっている。だからあいつらは、昨夜ドカ食いをしているんだ。と言うことなので、朝食は昨夜ほどは必要無いからな。


「えっ、大量に注文してしまったのですけど」


 冷蔵庫にでもしまっておくことだ。と言う話は良いのだが、そろそろセレスとルーテシアを起こしてきて欲しい。どうして俺が起こしに行かないのかか、わかっていて聞いているよな。


「ええ、わかっていて聞いていますよ。でも、お二人のしどけない格好って興味がありませんか?」


 それは否定できないのだが、面倒を避けるために今は否定しておくことにする。これから沢山時間があるのはわかっているが、立ち上げを遅らせても碌なことは無いはずだ。だから、小谷さんには二人を起こしてきて貰いたい。


「はいはい、起こしてきますよ。起こしてくれば良いのですね。ところで、ラズライティシア様とエクシブさんは良いのですか。はい、もう起きていると。二人揃ってお風呂に入ってきたのですね。床用のブラシでエクシブさんが洗われていたのですか。なにか、扱いがぞんざいになっていますね」


 少し楽しそうに、それでいて眠そうな目をして小谷さんはダイニングを出て行った。


 今更なんだが、立派すぎる別荘だと感心させて貰った。ベッドルーム10室もあり、ダイニングだって30人ぐらいでパーティーの出来る広さがある。お風呂にしたところで、こぢんまりとした温泉旅館ぐらいの広さがあったぞ。これからのことを考えなければ、ここで良いだろうと言いたくなるぐらいの充実度だと思う。

 それに、廃村に比べれば、軽井沢と言うのは別天地だったのだ。少し歩くだけで、多種多様なショップが揃っている。レストランやスーパー、甘味にスナック、アパレルショップも揃っているのだから、これから作り上げる苦労をしなくても済むはずだ。


 あの4人、この環境に慣れたら田舎への引きこもりを否定しないだろうか。なにしろ俺自身、このままで良いのではと思えるぐらいだからな。別に、俺が後から来る奴の面倒を見なくてはならない義務など無いはずだ。


「それなのですけど、支援を受ける対価は必要だと思いますよ」


 ああ、小谷さん戻っていたのか。ところで、二人は大人しく起きてくれたか?


「セレスさんは、比較的素直に起きてくれましたね。ちなみに、今はおめかしに取りかかったところです。その、ルーテシアさんなんですけど……」


 ああ、あの人はずぼらで色々と気にしないからな。


「諸星さんが起こしに行かなかった理由に納得がいきました。いえ、暴れたとか絡んできたとかではありませんよ。その、とてもしどけない格好で寝ていたと言うのか。はい、寝間着は使っていたんです。使っていたんですけど、役に立っていませんでしたね。しかも、指摘してもあっけらかんとしていましたし」


 つまり、セレスは時間が掛かるが、師匠はすぐに現れると言うことか。

 と思っていたら、予想通り師匠がダイニングに顔を出してくれた。さて、コーヒーを飲む習慣がない、と言うよりコーヒーはなかったので、目覚めのお茶を出すことにしよう。電気ポットの便利さは、やはり格別なのだと実感させて貰った。

 取りあえず、師匠おはようございます。


「師匠ではなく、ルーテシアと呼んで欲しいと言っておいたはずだがな」


 それはそれとして、お茶を飲んで待っていてください。小谷さんが、朝食を用意してくれるそうです。


「朝食……こちらでは、普通に朝食を食べるのか?」


 やはり師匠は驚いてくれた。その辺りは、予想通りと言うところだ。

 そんなことを考えていたら、ラズライティシア様とエクシブが入ってきた。エクシブがしゃっきりとしているのは、若いからと言うのが誤解であるのは理解している。


「うむ、われがリフレッシュの魔法を掛けたからな」

「まあ、食うものは食ったし、ベッドも極上だった。それを考えれば、恵まれすぎた環境と言うのは確かなのだが。それでも、俺は疲れていたんだ。疲れていたんだよ」


 そのあたりは、まあ、うん、頑張ってくれとしか言いようがないな。ところで二人もミルクの入ったお茶で良いか?


「われは、ビールと言うものでも良いのだぞ。何しろ風呂上がりだからな、喉が冷たいものを欲しておるのだ」

「エクシブはどうだ?」

「俺も、ビールだったか。そっちの方が良い」

「それなのだが、私にもビールをお願いしたい」


 つまり、異世界組3人はビールを所望すると言うことだ。朝からと言うのは、彼らにはあてはまらない概念と言うのは間違いない。何しろ今日は、『仕事』をしないのだからな。

 まあ、別に構わないのだがな。ただ、この後外出するので多少は控えて欲しい。


「うむ、何なら我が酔い覚ましの魔法を掛けてやる」


 それでも、控えて欲しいと言うのがお願いです。

 そんなことを話していたら……と言うのか、ビール瓶が3本ほど空になったところでセレスが現れた。小谷さんの言う通り、ちゃんとおめかしをしてきたようだ。今更何なのだが、とびっきりの美人と言うのがセレスを見た感想だった。


「皆さん、朝からお酒ですか?」

「セレスよ、こんな薄いのは酒とは言わん。朝風呂と言う贅沢をしたのでな、喉の渇きを潤しているだけだ」

「お風呂に入られたのですね。私も、この後に入ろうかしら」

「うむ、朝の風呂もまた、とても心地の良いものだと言っておこう」


 うんうんと頷くラズライティシア様。それはそれとして、セレスはお茶が良いのか、ビールが良いのか。


「お茶と言うのは、どうやって飲むのですか?」

「暖かいのに、ミルクを入れて飲むのだが?」

「でしたら、お茶をお願いいたします」


 と言うことなので、小谷さん、任せて良いか?


「ええ、そんなことじゃないかと思いました。ええ、わかっていますよ、わかっているんです」


 そう言いながら立ち上がり、小谷さんはポットのお湯をティーポットに注いだ。途中まで用意してあったので、ポットにはアッサムのティーバッグが入っていた。


「ミルクは温めた方が良いですか?」

「今回は、ポーションで済ませておこう」

「手抜きと言う気もしますけど、取りあえず了解です」


 手抜きと言うこともあって、お茶の準備はすぐに済ませることが出来た。それでも技術の違いがあり、セレスにしてみれば上質のお茶になっていた。一口含んだところで、おいしいですねとにっこりと笑ってくれたのだ。

 いや、なんだ、おいしいのは理解出来るのだが。どうして俺に向かって微笑んでくれるのだ。お茶を用意したのは、俺ではなく小谷さんなのだが。ただ拘ると碌なことにならないので、話を先に進めることにしよう。

 取りあえず落ち着いたところで、俺の話を聞いて貰いたい。色々と行動を起こす前に、確認しておくことがあるんだ。この辺りは、すでにラズライティシア様にも話したことである。


 まずお前たちが元いた世界、つまりあちら側なのだが、帰り方がないかを探すつもりだ。ラズライティシア様に聞いてみたら、気が向いたらと言う前向きのものでは無かった。だから俺は、俺なりにその方法を探すことにする。その前提で質問をするのだが、帰る方法が見つかったら帰りたいと思うのかと言うことだ。はい、セレス、質問があるのか?


「はい、二つほど。帰る方法が見つかったらですね、またこちらに来る方法も同時に探すのかと言うことです。加えて言うのなら、自由に行き来できるようにするのかと言うことです」


 それなのだが、こちらに戻ってくることまでは考えていなかった。ただ、帰る方法を見つけたときには、こちらに来る方法も見つけていると思う。それが最初の答えになるな。そして自由にと言うのは、状況次第と言うことになる。こちら側の受け入れが出来れば、それなりの対応が出来ると言うのが今できる答えだな。


「では、孝明様はあちらの世界に戻られるのですか?」


 元々俺は、こちらの世界の住人だからな。だから、その質問には『行かない』と言うのが答えになる。


「でしたら」


 そう言ったセレスは、一度ルーテシアの顔を見た。


「私は、こちらに残りたいと思います」


 じゃあ、師匠……ルーテシアはどうする?


「その前に、どうして理由を聞いてくれないのですか?」


 そこで熱の混もった眼差しを向けてくれるな。厄介なことにならないよう、理由を聞かなかっただけなんだから。

 それは、後から聞くことにする。それで、ルーテシアはどうするのだ?


「君が残るのなら、私も残ることにするよ。いやなに、こちらの世界も中々刺激的なようだからね。新しい冒険ができるのではないかと、今からわくわくしているんだ」

「私はですね、孝明様が残られるからですよ」


 一応聞いておくが、ラズライティシア様、エクシブはどうする?


「なぜ、スルーしてくれるんですか!」


 文句を言うセレスを無視して、俺は二人に質問を繰り返した。


「われは、風呂で答えたとおりだな。それからエクシブなのだが、我を置いて帰れると思って欲しくない」


 取りあえず答えはわかったのだが、一応はエクシブにも聞いてやってくれ。だよな、エクシブも頷いて居るぞ。


「答えのわかっている質問などしないのが優しさと言うことだ」


 それはそれで、可哀想な気がするのだが……取りあえずの答えは、全員こちらに残ると言うことだな。


「われが代表して答えるが、その通りと言うことになる」


 つまり、全員が残ることを前提にこれからのことを考えることになるわけだ。それから小谷さん、今は食べ物を前に出さないように。それをすると、話を聞いて貰えなくなるのだからな。ラズライティシア様、今更手遅れと言ってくれますか。


「うむ、せっかく料理が供されたのだ。それならば、敬意を払っておいしく頂くのが我らの義務なのだ」


 この後街に出かける予定なんですけどね。まあ、その時はおやつ程度にしておこうと思いますよ。

 遠慮無くと言ったら、本当に遠慮無く食べてくれた。それでも、昨夜に比べれば遙かにマシと言うところか。


 お腹が膨らめば、心にも余裕が生まれてくれるだろう。生まれてくれたら良いなと淡い期待を抱きながら、俺はこれから……今日ではなく長期的な話をすることにした。その取りかかりなのだが、全員がこちらに残ることを希望してくれたのだ。それならそれで、各々の身分を明確にする必要がある。


 こちらの世界には、戸籍と言う制度で住民が管理されている。そして当然のように、俺たち5人にはその戸籍がない。だから権力者に頼んで、その戸籍を作って貰うことにした。ただ馬鹿正直に情報を記録しても意味が無い……こともないのだが、どう登録するのかを考える必要があるんだ。


 それは良いかと確認したら、取りあえず全員が頷いてくれた。ただ小谷さん、あなたまで頷く必要は無いのだぞ。


 それで俺なのだが、名前を変えることに意味が無いのはわかっている。だから元々持っていた名前を使うことにした。ただ年齢は、この世界に居たの時とは変えている。いや、何、そのままだと29になってしまうからな。神様に若返らせて貰ったので、24と言うことにしておいた。住民票にも、その年齢で登録しておくことになるな。それで、次はラズライティシア様なのだが、名前はそのままで良いか?


「名前を変えることに意味は無いのだろう?」


 だとしたら、年齢はどうする? 馬鹿正直に、うん千歳とするわけにも行かないからな……まあ、30にしておくか。


「それこそどうでも良いのだが、なぜ30などと言う数字を持ち出したのだ?」


 うん、根拠などないんだよ。エクシブよりは年上にしただけのことだから。それでエクシブなのだが、20歳で良いよな?


「お前、俺の歳を知っているよな。なぜ18ではなく20にするんだ?」


 それには、簡単にして重要な理由があるんだ。それはだ、お前たちが酒を飲むからだ。この国ではな、酒を飲んでいいのは20歳からなんだ。

 とにかく、余計なところで目立つわけには行かない。ただでさえ目立つ容姿をしているのだから、余計な突っ込みを避けるのは当然のことだろう。そうか、取りあえず納得してくれたんだな。それで、二人の関係なのだが『夫婦』で良いんだよな?


「われはかまわんぞ」

「どうしてっ!」


 はいはい、その苦情はラズライティシア様に言ってくれ。そうだよな、言えないよな。あまり反発すると、また今晩虐められるぞ。ええっと、虐められるのが癖になっていると言うことはないよな。だったら良いんだが……

 それで師匠……ルーテシアなんだが、24ぐらいで良いか?


「特に構わないよ。それで、君と同じ年齢と言うのに何か意味があるのかな?」


 そのあたり、俺と言うよりラズライティシア様との見た目年齢の差を考えただけです。10代にしなかったのは、繰り返すがお酒を公然と飲むためです。


「なるほど、それなら納得が出来ると言うものだよ。ところで、私は君の奧さんと言うことで良いのかな?」

「ルーテシアさん。孝明様の妻は私ですよ!」


 予想されたことだが、セレスが異議を唱えてきた。


「なに、二人とも妻になれば問題ないはずだろう?」


 それなんですけど、この国では重婚は許されていません。従って、戸籍上の配偶者は一人と言うことになります。


「なにか、とても窮屈な制度なのだね。だったら仕方が無い、戸籍上の妻の座はセレスに譲ることにしよう」

「と言うことで、私が名実ともに妻と言うことになるわけですね」


 名の方はわかるが、実の方はないと思うのだが。戸籍の登録は、あくまで便宜上のものだからな。


「実の方は……昨夜既成事実を作ろうとしたんですよ」


 深く突っ込んじゃ駄目なのだろうな。それでセレスだが、年齢は20歳で良いんだよな?


「私は17歳なんですよ。ただそれだとお酒が飲めないんですよね。でしたら、20歳と言うことでお願いします」


 了解。これで、確認は終わったことになるな。そう言うことなので、小谷さん5人のデータは揃った……どうかしたのか?

 なぜそこで冷たい視線を向けてくれる。なに、俺たちが何を話しているのか聴き取れない? すまん、向こうの言葉で喋っていたな。だったら、5人の名前、年齢、続柄をメモで渡す。3人の名字なのだが……なぜ3人なのかって。一応セレスが、俺の配偶者になるからだ。いや、だからって、そんな勝ち誇った顔をしないでくれないか? 一応言っておくが、登録上の戸籍だけだからな。だからセレス、今晩関係しますと宣言するな!


 息が切れるのは、自由すぎる奴らのせいに違いない。取りあえず気を取り直して、俺は肝心の移住の話をすることにした。


 俺たち6人なら、このままここで生活をしてもいいのかもしれない。だが、誰も俺たちだけで終わると保証してくれないんだ。と言うことで、次の奴らのことも考えて移住先を決めることにする。ここよりはずっと不便になるのだが、それぐらいは我慢してくれ。その代わり、気兼ねなく外で暴れられるようにする。


「それなのだが、具体的な場所の目星は付いているのか?」


 それは、昨日会った偉い人に任せようと思っている。多分だが、小谷さんの故郷の近くになると思う。


「なるほど、だから6人と言ったのだな」


 そこだけ日本語にしたのは、間違いなく軽い悪意があるからだろう。その証拠に、小谷さんの顔色が変わってくれたのだ。


「すみません。今、何の話をされていたのですか。察するところ、皆さんの移住先だと思うのですけど……どうして6人と言う数字が出てくるんです?」


 うん、その辺りは察してくれると嬉しいな、と。


「なんですか、その察してくれと言うのはっ!」


 多分だが、菅谷先生が色々と考えてくれるからだ。それから言っておくが、俺は何の強制力を働かせていないぞ。俺たちの希望を伝えるのは、小谷さんの仕事のはずだよな?


「その強制力ですか。私に働かせていると言うことはありませんよね。どうして、顔を背けるのですか? いえ、ほんと、勘弁してくださいよ」


 いや、これから議員を目指すんだったら、俺たちと一緒に居た方が良いと思うぞ。まあ、長い目で見たらと言うことなんだがな。


「諸星さん。確か目立ちたくないって言っていましたよね。だったら、一緒に居ても私が目立つことがないと思いますよ」


 取りあえず、菅谷先生にはありのままに報告してくれれば良いさ。後は、あちらが勝手に忖度してくれるだろう。間違いなく、小谷さんの出身地が検討に影響すると思うんだ。


 可哀想だが、小谷さんは俺たちから逃げられないだろう。もう少し正確に言うと、俺たちに関わった時点で将来が決まったはずと言うことだ。何しろ、秘密と言うのはそれを知る関係が少ない方が都合が良い。これだけ俺たちと関わった以上、小谷さんは一蓮托生の関係になったと言うことだ。違うな、最初に関わった時点で逃れられない運命を背負ったと言うことになる。


 取りあえず、今話さなければいけないのはここまでだな。それでこれからなのだが、軽井沢の街を散策することにする。セレス、何か聞きたいことがあるのか?


「街の散策ですけど、私たちはこの格好で良いのですか? 昨日ですけど、皆さんとても変わった格好をされていましたよね」


 取りあえず、昨日のは忘れてくれ。従って、この格好で構わないと言うのが答えになる。ちなみに昨日のあれだが、この世界でもあれは特殊だと思ってくれ。それから、セレスの格好なのだが、それでも綺麗すぎると思うぞ。


「孝明様は、私を綺麗だと言ってくださるのですね」


 おい、そこで頬を染めるな。それから俺が言ったのは、お前のしている格好のことだからな。なんだ小谷さん、俺たちの話は理解出来ていないだろう?


「話していることはわかりませんよ。でも、何を問題にしているのかは朧気ながらに理解出来るんです。ええ、はっきりって諸星さんが悪いと思いますよ。と言うことで、私は席を外しますね。ええ、菅谷先生に報告する必要があるんです」


 と言うことでと口にして、小谷さんはダイニングを出て行った。何かとても気に入らないので、防音の命令ではなく増幅の命令をしておいてやろうか。そんな暗いことを考えるのは、多分現実逃避と言うことになるのだろう。


「取りあえずだ。セレスが綺麗なことは認めてやる。それを認めた上で、その格好は目立つことこの上ないんだ。だから、もっとシンプルな格好にしてくれないか?」

「でしたら、お風呂に入って着替えてきますね。私の綺麗なところは、今晩見ていただこうと思っています」


 それではと、とても嬉しそうな表情でセレスは出ていった。ラズライティシア様、何か言いたいことが有りますか?


「いや、なに、セレスばかりに構っていると、ルーテシアが嫉妬するぞと忠告しようと思ってな」


 師匠……ルーテシアが、ですか?


「私は、今晩と言わずに今からでも構わないのだよ」


 ちなみにルーテシア、意味を理解して言っているのか?


「綺麗な服を着ることじゃないのか?」


 安心した。それでこそ師匠と言ってあげよう。

 ああ、それで間違っていないぞ。


 少し安堵を覚えながら、俺は外出の準備をすることにした。ああ、ラズライティシア様とエクシブ、二人はその格好で構わないからな。


 それから1時間後、俺たちは別荘を出発することになった。なぜそれだけ時間が掛かったのかと言うと、セレスのお召し替えに時間が掛かったからに他ならない。まあ女性がお風呂に入って着替えをしたのだから、その程度の時間が掛かるのは仕方が無いのだろう。

 ちなみに、小谷さんは宣言通りお留守番と言うことになった。一緒にどうかと何度かお誘いしたのだが、『仕事があります』と固辞してくれたからである。いや、女性陣二人と比べられたくないのは理解出来るぞ。


「なぜ二人なのだ?」


 そこで自分とセレスを指差さないでください。はい、三人に訂正しますから。おかしな波風を立てないでください。


「つまり、誰と言うのは波風を立てることなのだな」


 その辺りはノーコメントでお願いします。ああ、俺が油断していたのは間違いないな。政治家たるもの、女性の美醜に触れてはいけないのだ。それに加えて、常日頃ヨイショを忘れてはいけないと言うことだ。

 それで散策してどうなったか。行く前から結果は見えていたのだが、連れて行った4人が大興奮してくれたのだ。まあ、人が大勢居ること、その大勢の人が綺麗な格好をしていること。色とりどりの店が並び、見たことのないものが売っているのだ。まあ、興奮するなと言うのが無理な相談と言うのは仕方の無いことだろう。

 それからソーセージを歩きながら食べ、ジェラートの大盛りを食べ、加えてなぜかソフトクリームやらカレーパンまで食べてしまった。そう言えば、おかきも食べ歩きに入っていたな。



 その中で、何が好評だったか、か?



 ここでも彼らは、ビールを楽しんでくれたのだ。そうなると、同じ店で売っているソーセージに人気が集まってくれた。悪いことに、その店では色々な種類のソーセージが焼かれていたんだ。従って、4人は『全種類』を所望してくれた。どうやら異世界人は、ことさら肉がお好みのようだ。

 ちなみに、俺たちが目立っていたのは言うまでもないだろう。それから、森人二人は長い耳を目立たないように隠していた。その辺りの隠蔽は、ラズライティシア様が魔法でやってくれた。ただ偽装工作はそこまでなので、セレスとルーテシアが目立ちまくってくれたのだ。特にセレスは、高身長で抜群のスタイルをした美人である。お陰で、歩く先々で男の目を引きつけてくれたと言うことだ。


「ところで孝明よ。シズカの故郷と言うのは、ここと似ているのか?」


 これだけ軽井沢を楽しめば、その疑問が出るのは当たり前と言えただろう。従って、俺も答えを用意していた。


「答えは否だな。目立たないことを第一目的、そして次に来る奴を受け入れることを考えたんだ。だから、あちらの世界でも点在する村のような場所になっている」

「今更なのだが、ここではいけないのか? まあ、いけないのだろうな」


 すぐに諦めたのは、その先のことを理解しているからだろう。一つ間違えば戦闘になることを考えれば、こんな無防備な場所を拠点にするわけにはいかない。それでも落胆するのは、今までの興奮ぶりを考えれば不思議なことではない。

 ああ、殆ど人の居ないど田舎と言うのは確かだな。ただな、お前たちが食い散らかしたソーセージぐらいなら、比較的簡単に入手できるぞ。それどころか、もっと違ったうまいものだって入手可能なんだ。


「なんと、本当なのか?」


 驚いてくれたか。まあ、あっちの世界と比べれば仕方が無いな。この世界は物流……つまり、行商人に似たものなのだが、物量が発展しているんだ。従って、配送可能なものなら金さえ出せば入手できるんだぞ。


「うむ、やはり帰らないのが正解と言うことだな」


 よきかなよきかなと喜ぶあたり、年齢相応……で良いのか。年寄りらしいと言って良いのだろう。

 それから、もう少し季節が進むと、ここでも雪が降るし思いっきり寒くなる。


「なんと、こちらでも雪が降ると言うのだな。あれは見ているだけなら良いのだが、いざその場に出くわすと寒くて堪らん。暖を取る魔法を使わないと、とてもではないがやり過ごせないのだぞ」


 ちなみに、こちらでは魔法を使わなくても暖を取ることは出来るぞ。加えて言うと、着ているだけで暖かくなるものもある。そしてだ、雪が降れば降ったで、新しい遊びをすることが出来るからな。


「そうか、ルーテシアよ、まだまだ楽しめそうだぞ」

「その、雪が降るまで時間はどれだけ掛かるのかな?」


 雪が降るまでね……初雪までなら、あと2、3ヶ月と言う所だな。積もるのは、更に1ヶ月ぐらい先になる。それからだ、これから色々な果物が旬を迎えるんだ。向こうでは食べられない、極上品揃いと言うのを予告してやる。


「はて、あちらでもおいしい果物ぐらいあったと思うのだがな?」


 飽くなき食への追求、品種改良を甘く見るなと言うことだ。普通に自生している果物とは格が違うのをこれから知ることになる。と言うことでだ、桃を買って帰ることにする。少し早いが、ブドウもよさげなのが出ているから買って帰ろう。


 市議時代では手が出ないような高級品が、お洒落な店構えのフルーツショップ並んでいた。以前の俺ならば、足を踏み入れることはないような店だ。お金の有無ではない、イメージを守るためと言うことだ。嘘を言うな、庶民のお前が高級フルーツ店に縁があるはずがないと言うのだな。

 そのことを忘れるとしてだ、今の俺は官房機密費と言う打ち出の小槌を手に入れたのだ。従って、一房1万円もする高級ブドウも恐れるに足らないと言えよう。


 なになに、朝どれのトウモロコシが入っている。糖度20度超えで、生食をしても絶品というのだな。よしわかった、それも買わせて貰うことにする。それで一つ相談なのだが、別荘まで運んで貰えないか。配送料はいらないのか、そうか、だったらこちらのスイカも追加でお願いする。カットメロンを食べていくかと言うのだな。ああ、赤いのと緑のを、それぞれ5本ずつお願いする。

 このメロン、一玉5万円もするのか。仕方が無い、二玉ずつ荷物に加えておいてくれ。いいか、食べ頃のものを選んでくれよ。


 いかん、ここで贅沢を覚えると後から辛くなってしまう。だが、これはご褒美の先渡しでは無いのだろうか。だったら、遠慮無く贅沢しても良いはずだ。

 ちなみにこのメロン、4人から絶賛を受けることになった。従って帰ってからの宴は、トウモロコシに桃、メロンにスイカとフルーツ三昧になったのは言うまでもないだろう。


 大好評の散策を終えた俺たちは、夜の宴に思いを馳せて別荘へと歩いて帰った。ちなみに20分の距離は、俺たちにとってはお隣に行く程度の距離でしかない。その辺り、移動が馬車か徒歩と言うのが理由になっている。特に山の中に行く際には、歩いて行くしか他に方法がなかったのだ。それもあって、セレスを含めて全員の足腰は鍛えられていた。

 ただいまと帰ったのは良いのだが、俺たちを迎えた小谷さんの表情は暗かった。何かあったのかな?


「何かあったと言うことは無いのですけど。ただ、移住先の候補地が見つかっただけです」


 それで小谷さんが暗い表情をしているのだ。だとしたら、導き出される答えなど決まっている。つまり、小谷さんの故郷の近くと言うことだな。


「それだけじゃなくてですね、私も着いていけと命令されたんです」


 ああ政界進出の夢が、婚期を逃すことになる。叫びたくなる気持ちはわかるから止めはしない。まあ、気を強く持って頑張ってくれ。


「ところで孝明様。どうしてシズカさんは叫んでいるのですか?」


 移住先の候補が彼女の故郷の近くで、俺たちについて行くことになったからだ。ああ、最初から予想できた話だぞ。


「つまり、歓喜の雄叫びを上げていると言うことですね」


 良かったと言うのは勘違いなのだが、それを訂正して良いものだろうか。


「良いのか?」


 別に害が無いから、良いことにしておこうと思う。

 ラズライティシア様は、日本語を理解することが出来る。だからの問いに、俺は保留を答えとすることにした。


「なんなら、エクシブにシズカを襲わせるぞ」


 いきなりなんだ……ちなみに、襲うの意味なんだが、当然性的になのだよな。


「われが仕込んでいるからな。シズカ程度なら、手玉に取るのも難しくあるまい」


 やっぱり性的にと言うことか。小谷さんを手玉にとる……出来るのかもしれないが、しばらく静観をしていてくれないか。


「今晩にでも思ったのだが。では、しばらく静観と言うことにしておこう」


 ちなみにその今晩なのだが、俺は新たに棚を二つ心に作ることになった。いや、命令を使えば棚を作らなくても済むのはわかっている。わかっているのだが、仕方が無いんだよ。今更なんだが、俺だって健康な男と言うことだ。

 それから、二人ともとても素敵だったことを補足しておく。ただ気になったのは、セレスの抱き心地が誰かに似ていたことだ。と言っても俺に比較できるのはゼッタイシン様、コスモクロアだけなのだが。俺の経験が不足しているから区別が付かなかった。そう言うことだと思っておくことにしよう。




巻き込まれた小谷さんに合掌

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。