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限度と言うものを考えようよ

村の特産は異世界です


・限度と言うものを考えようよ


 知らない世界に来た以上、最初にするのは現状確認と言うのは常識のはずだ。うん確かに常識なのだが、一体どこの常識なのだろう。

 コレオスよ、ここはどこ……と言っても意味が無いのか。どのような場所か確認は取れたのか?


「陛下に申し上げます。飛べる眷属を放ったのですが、そのことごとくが落とされております。お陰で探索が進まないのですが、それでも言えるのはそれなりの実力を持つものがいると言うことです」


 なるほど、眷属が落とされておるのか。それで、余の眷属を落とす者と言うのは何者なのだ?


「確認できているのは、翼を持つ者が20ほどです。どうやら、それなりの魔法を使えるようです」


 余の脅威となり得る者か? そうか、そこそこの脅威と言うのだな。ならばカジャーよ、蹂躙して参れ。


「仰せのとおりに」


 うむ、任せたぞカジャーよ。それから、余の趣向に合いそうな者がいたら引っ立てて参れ。

 ところで勇者に問うが、ここはお前の世界なのか?


「いえ、私が住んでいた世界には翼人なんて居ませんでした。こう言った時には、戦闘機が飛んでくる……すみません、ちょっと見覚えのあるものが」


 ほほう、見覚えのある物が見えるのか?

 ちなみに、魔法を使って外の景色を見えるようにしてある。うん、臨場感に溢れてて良いと思うのだよ。


「はい、ドローンのような物が飛んでいます。後ですね、翼人が持っている物が……私には、ビデオカメラに見えるんです」


 そのドローンとかビデオカメラと言う物がどんなものかわからぬのだが……そうか、あの小さな飛行体がドローンと言うのだな。そして翼人が持っている箱が、ビデオカメラと言う物なのか。して、ドローンとはどのようなな働きをするのだ?


「ああやって空を飛ぶ物です。ただ、どんな働きかと言われたら……こんな感じに映像を撮ったり、爆弾を落としたり出来るようです。ビデオカメラも、こんな風に映像を撮る仕掛けです」


 攻撃してこないところを見ると、奴らは偵察していると言うことか? 勇者よ、もしもここがお前の世界なら、その戦力は余に勝つことが出来るのか?


「戦争のことはよくわからないのですけど……1対1の殴り合いなら分が悪いと思います。ただ武器が使えれば圧勝できそうな気がします。ミサイルとか使われたら、何も出来ないうちに殺されてしまうと思いますよ」


 なんと、なんと素敵な響きでは無いか。そうか、余を殺す力を持っている世界と言うのだな。なるほど、いよいよ余が本気を出すときがきたと言うのだな。

 良いか勇者よ、余は今まで本気と言う物を出したことが無いのだ。何しろお前たちでは、暇潰しにもならなかったのだからな。そうか、ようやく本気を出すことが出来るのだな。ならば、どうやって歓迎してやろうか。


 ところで勇者よ、お前はあの化け物を知っているか? ああ、禍々しき姿をした化け物が現れたのだ。


「ええっと、あれってドラゴンですよね。私の知っている範囲で、翼人もそうですけどドラゴンも居なかったはずです。ええ、物語の中でしか存在しない生き物だと思います」


 そのドラゴンとやらが、8匹も現れてくれたのだがな。もしかして、翼人とやらが使役しておるのか? ええい、ならば総力戦を仕掛ければ良いだけだ。コレオス、ドーフィン、アクトロスよ出撃せよ。あの図体だけでかい化け物に、余の威光をを教えてやれっ!

 それから勇者よ、もう一つ教えてくれ。うむ、下の方を見て貰いたいのだが、耳の尖った奴らが近付いてくるのだ。あの耳の長い奴らに心当たりは無いか?


「心当たりと言われても……ええっと、物語でならとお答えします。エルフって言うんですけど、森の中に住んでいて弓とか得意と言うイメージがありますね」


 しかしなんなのだ。余の誇る眷属たちが、次々と突破されておるでは無いか。ええい、四天王は何をやっておるのだ。

 それから勇者よ、もう一つ教えて欲しいことが出来たぞ。そこに現れた耳の尖った奴だが、それもエルフと言うのか? なにか、見た目がかなり違う……と言うのか、ちょっと残念に思えるのだが。


「ええっと、見た目のことはあまり言わない方が……そのですね、私の目からも怒っているのがわかるんですよ」


 怒っておるからどうだと言うのだ。ここまでやってきたことは褒めてやるが、余に勝てると思っておるのか。つけあがるな、余の前には女神すら跪くのだからな。

 ところで、この白い紐のような物はなんだ? ひょっとして、余の知らない生き物なのか? 魔力が感じられないのに、どうして空を飛んでくるのだ。こ、こら、なぜ余に巻き付いてくる。その程度で、余を封じられるとでも思っておるのか。このような物ぐらい、容易に引きちぎって……ちぎれんのだが。だ、だったら雷で……燃えない。豪炎よっ……あのさ、鎧を着た兵を鎧ごと燃やす業火なんだよ。どうして、何事も無いように余に巻き付いておるのだ? ええい、わが眷属よ、剣を持って……なんで、全員捕まっておるのだ。カジャー、コレオス、ドーフィン、アクトロスはどうした。ただちに、余を助けよっ! なんだ、このみっともない結末はっ!




 立木さん。お疲れ様です、お体大丈夫ですか。そうですか、思いっきり眠りたい。泥のように眠りたいと言うのですね。ええ、わかります。とってもよくわかりますよ。

 何があったかなんて聞きませんよ。そんなもの、聞かなくてもわかりますから。だってラズライティシア様、インテグラ、クロアさんの3人が幸せそうな顔をしているんですからね。いやぁ、立木さんって『若かった』んですね。


 ところで、御衣黄さんは混じらなかったのかな? 流石に遠慮した。自分まで混じると、とどめを刺してしまいそうな気がした。う~ん、ラズライティシア様がいるから、すぐにでも回復魔法を掛けてくれると思うんだけど。ええっと、回復魔法を使ってこれ。だったら、クロアさんの癒やしの方は……癒やしを使っても焼け石に水。強制力も使ってしまった……

 ……あのさ、君たち限度と言う物を考えようよ。俺と違って、立木さんは普通の人なんだから。なんだ、その嘘つきと言うのは。少なくとも、普通の人と言うのは間違っていないぞ。何しろ魔法も使えないし、恩恵も持っていないのだからな。


 それでお三方、楽しんでいただけましたか。一応楽しめた……なぜ、一応なんですか。そうですか、そこで立木さんを指差してくれましたか。流石にシャレにならない、だから引いていると言うのですね。それからお断りしておきますけど、これが集落の日常と言うことはありませんからね。日常だったら怖い……はい、仰るとおりだと思います。


 また来ますの言葉を残して、クロアさんはどこかへ消えてくれた。いやさぁ、癒やしの奇跡って重ねがけしても良いんだよね。だったら、もう一度立木さんに掛けていって欲しかったんだけど。それはそれとして、


 また来るつもりか


 そうか、また来るつもりなのか。つまりなんだ、また厄介ごとを持ち込んでくると言うのか。俺としては勘弁して貰いたいのだが……そうですか、立木さんも勘弁して欲しいと言うのですね。その気持ち、とってもよくわかりますよ。わかりますけど、無駄な抵抗だと思います。

 じゃあシャルロット、お三方を送ってくれるかな。なんだ、何か言いたいことが有るのかな?


「今更ながら、上里集落って怖いところだなと」


 怖くないからな。とっても優しいところだと俺は自負しているんだよ。どうして、そこで立木さんを指差してくれるのかな。


「自業自得と言ったら可哀想だと思いますよ」


 そう言い残し、シャルロットはお三方を運んでくれた。じゃあ、俺たちも帰ることにしようか。なんですか、記念写真を撮りたい……と。だったら、お三方が居る間に言って欲しかったと言えば良いのか。そうですか、お三方にはすでに写真を貰っていると。

 ええ、色々とお騒がせした自覚はあるんです。ですから、喜んでと言わせていただきます。ドラゴンフォーム、ですか。ここだと……少し下に降りればスペースはありそうですね。ちょっと待って欲しい……構いませんけど。


「燕温泉の皆さん、長野からIMO研の方がお見えになっています。これより5分後に、ドラゴンの姿を披露してくださいます」


 そうか、地域放送をしてくれたか。そう言うことだからインテグラ、変身ポーズから始めてくれるかな。うん、君たちが練習していたのを知っているんだ。ちゃんとギャラリーが集まってから変身するように。そうか、それもわかっていると言うのだね。

 すっかり馴染んでいるよな、なんか有り難みが薄れてしまったと言っても良いんだよな。


 上里集落へは、いつも通り転移で移動することになった。まあラズライティシア様とかインテグラとか俺がいるのだから、転移能力者に事欠かなかったと言うのが理由である。

 ええっと、ドラゴンフォームのお披露目ね。うん、もの凄く受けが良かったよ。やっぱりさ、100m超級のドラゴンって、派手でいいと思うんだ。久しぶりに、スマホの平面連写と言うのを見た気がするよ。

 だけど、誰一人として怖がっていなかったな。小さな子供なんて、きゃっきゃって走り回っていたよ。富士でお披露目したときなんか、外交官の人たちが青い顔をして震えていたのに。


 さて、帰ってきたのだから次なる襲撃に備えることにするか。今度は魔王が、魔王城ごと転移してくるんだからな。だったらこちらも最大戦力……荷造り紐さんで十分な気もするのだが、映像面では凝った作りにしたいと思っているんだ。

 と言うことなので、白船君ドローンの準備をよろしく。


「と言うことでと言われても、何が何だかさっぱり事情が掴めないんですけど」


 いや、今度魔王城が転移してくるんだ。なぜそんなことを知っているのかって……親切な女性が、ここに転移してくるのを教えてくれたんだよ。そうか、意味不明と言うのか、そうだよな、いきなり親切な女性と言われても納得できないよな。

 納得できないのはわかったから、そう言うものだと開き直ってくれるかな。そうそう、ここでは深く考えちゃいけないんだよ。開き直りって、今度が初めてってことは無いよな。


 ところで立木さんは? そうか、家で寝ていると言うのだね。だったらラズライティシア様とインテグラは、ここで大人しくしていてくれるかな。これ以上無理をさせると、本当に立木さんが帰ってこなくなるからね。

 それからジャック、観測値におかしな所は無いかな。おかしなことがあったら、すぐに警報が出ていると言うのだね。警報が出ていない以上、おかしな所は無い……なんかさぁ、リーダーに対して敬意に欠けると思わないか? 同じ答えをするにしても、もっと言い方があると思わないかな。

 そうか、ちっとも思わないと言うのか。司令官ごっこに付き合うつもりは無いと言うのだね。俺って、一応ここの最高責任者なんだけどな。だから、ごっこと言うのは違うと思うんだ。


 しかし、こう言う時間って嫌だよね。なんか、前にも似たようなことがあったけど。あの時は、『来るのならさっさと来てくれないか』みたいなことを言ったら来たんだよね。だから、今日も同じことを言おうかな。


 来るのならさっさと来いっ


 来ないか、そうか、今回は来ないのか。柳の下のドジョウはいなかったか。しかし、そうなると暇としか言いようがないのだが……ああ小谷さん、お茶をありがとう。


「リーダーがイライラすると、回りに伝染しますよ」


 イライラしてる? そうか、俺は待たされてイライラしているのか。いかんな、もっとどんと構えないと。

 おや、立木さん大丈夫なんですか。大丈夫では無いが、休んではいられない。ええっと、もう少し俺を信用してくれてもいいと思うんですよ。それからお前たち、どうして立木さんを見てほっとするんだ? ジャック、俺には報告することは無いと言ったよな?


「観測プログラムのことですけど、報告して理解していただけますか?」


 そうか、プログラムのことなのね。ああっと、俺にはちょっと難しいかな。どうした小谷さん、視線がとっても冷たいんだが。


「ちょっと難しいのでは無く、ちんぷんかんぷんなんですよね?」


 そうとも言うかな……それで立木さん、プログラムに何か問題があるんですか?


「別に、問題はありませんよ。メルキオールに、改良型プログラムをインストールしたんです。その判定ログを見せて貰っていただけですよ」


 ええっと、改良をしたんですね。でも、どうしてメルキオールだけに? 説明をしてくれるんですか。俺にわかる説明ですか……どうして、全員で目を背けてくれるんですっ!


「どのレベルの用語を使えば良いのか……ちょっと悩ましいなと思っただけです。それから、クロアの言ったとおりになりそうですよ」


 クロアって……あの金髪美人の? 立木さんにしっかりデレていましたよね。


「それは、必要の無い情報ですね。そんなことより、すぐに来ますよっ!」


 どうして、そこまでわかるんです。ええっと、今の揺れはなんです。警報ランプが点いたと言うことは、空間転移があったと言うことですよね。


「取りあえず落ち着いてください。それから、説明は待って貰えますか。白船君、観測ドローンを発進させてください。それからヴェルファイアさん、手はず通りカメラと荷造り紐を持たせて出撃をお願いします」


 手はず通りって……手はずが決めてあったと言うことですか? 俺、全然知らないんだけど。苦情は後、正面に画像が出るんですね。

 なんかおどろおどろしい物が現れたんだけど……ジャック君、グレゴリー君、この形に見覚えはあるかな。そうか、似たようなものを見たことがあるんだね。なるほど、魔王討伐に向かった城と似ているんだ。つまり、あそこには魔王がいると言うことだね。


 あちらの翼人なのかな、コウモリみたいな羽の生えたゴブリンが飛んでくるよ。どうやら、こちらに敵対してくれるようだね。だったらっ


「インテグラ、ドラゴンフォームで竜人8人出撃してください。ただし、攻撃はこちらの指示があるまでしないように」


 ええっと、司令は俺……


「ラズライティシア様、エクシブ君、合図をしたら魔王城に転移してください」

「キヨヒコよ、荷造り紐を持っていけば良いのだな?」

「身柄の確保を優先してください。転移してきたと言うことは、戦闘が行われている可能性があります」

「うむ、了解した。孝明の荷造り紐なら、失敗することは無いであろう」

「自衛隊から画像通信が入りましたっ」

「でしたら、正面スクリーンに出してくれますか。上杉さん、遅かったですね」

「すまない、それで状況はどうなっている?」

「白船君、画像を上杉さんのところに送っていますか?」

「ああ、こちらでも確認できた。城に見えるのだが、それで間違っていないか?」

「ジャック君、グレゴリー君が魔王のいる城に似ていると証言してくれましたよ」

「なるほど、今度は魔王と言うことか。ところで、諸星氏の姿が見えないのだが?」

「諸星氏は……ちょっと隅っこでいじけています」

「いじけている?」

「まだまだ、自分の立場を理解していないようです。それからですね、これからラズライティシア様とエクシブ君に突入して貰います。ボディカメラを付けていますので、内部をリアルタイムで見ることが出来ますよ」

「至れり尽くせりと言って良いのだな」


 ええっと、諸星さんが復帰してきませんので、私が状況をお伝えします。はい、小谷静香がお伝えしますよ。

 それから諸星さん、いい年して床にのの字を書かないでください。あなたには、責任者であるのと同時に、こちらの切り札と言う立場もあるのですからね。


 あっ、少ししゃんとしましたね。そうですか、切り札と言うのが気に入ったのですね。そうですよ、諸星さんは最強の切り札なんですからね。命令を出すお仕事は、お年寄りの副司令に任せておけば良いんです。

 あっ、立ち直ってくれましたか。本当に世話が焼ける人ですね。


「グレゴリー君、敵の抵抗はまだ続いていますか?」

「外に出ているのは制圧が終わったようです。ハイエルフたちを展開したのが良かったようです」

「ルーテシアさんたちが活躍してくれましたか。では、そろそろおしまいにしましょうか」

「つまり、われの出番と言うことだな」

「はい、勇者様御一行に活躍いただきます。諸星さんは切り札ですからね、いざと言う時に備えていてください」

「ではエクシブよ、魔王とやらを制圧に行こうでは無いか」


 ラズライティシア様が転移に成功したみたいですね。そうですか、これが魔王城の中身なんですね。それは良いのですけど、誰か捕まっていませんか?


「一人は拘束されて、三人は降伏したところと言う感じですね。ジャック君、君たちの見た魔王はあんな見た目をしていたのかな?」

「いえ、もっとおどろおどろしい見た目と言えば良いのか。この魔王……ですか、顔色の悪さを除けばイケメンですよね。俺たちのイメージとは、ちょっと違っていると思います」


 イケメンですか……イケメンねぇ。じっくり見てみると、確かに整った顔立ちをしていますね。これで顔色が良かったら、結構人気が出るんじゃ有りませんか。

 何か言っているようですけど、はっきり言って理解出来ませんね。それでも朧気ながらと言えば良いのか、『よくぞ参った』とか『絶望を見せてやろう』とか言っている気がします。


「シア、そろそろ魔王の確保をお願いします。その場に居る全員を確保してください」


 ええっと、確保するのは魔王だけで良いのでは? そうですか、見た目で判断するのは危険だと言うのですね。確かに、物語にはクソ女神が登場するのも有った気がします。諸星さんの前に引っ立てて、白黒を付けようと言うのですね。

 諸星さん、すべてに超越する勇者としてのお仕事が待っていますよ。ああっ、シャキッとしてくれましたね。これはですね、諸星さんにしか出来ないことなんですからね。




 魔王城に乗り込んだ俺の前に、顔色が悪くて体の大きな集団と、俺たちと似た見た目の4人が土下座をしていた。なんかなぁ、事件がある度に似たような光景を見ている気がするんだ。しかもこの場には、当然のように立木さんはいないんだよ。疲れたから休息をとるって……美味しいところばっかり……そうか、ここはカメラで撮っているんだね。それで、この映像はテレビ局には、うん、テレビ局に提供されるんだ。じゃあ、文句は無いな。

 それでラズライティシア様、翻訳魔法は掛けてあるのですか? なるほど、すでに準備は出来ているのだと。では、早速事実関係の究明と言うことにしましょうかね。


 全員に質問するけど、誰が公平で事情に詳しいのかな? うん、ちょっと意外。魔王だったかな、君があの女性を指差すとは思っていなかったんだ。

 ところで、君は何さんと言えば良いのかな?


「十河陽佳と言います。日本人です……その、何でもお答えします。でも、その前に教えて欲しいんですけど。ここって、日本に見えるんです。あなたの言葉も日本語に聞こえるのですけど。これって、私の勘違いですか?」


 十河さんと言ったね。君の言っている日本が、この場所と同じと言う保証は出来ないんだ。ただ、ここが『日本』と呼ばれる国と言うのは確かだよ。これで、質問の回答になったのかな? ええっと、どうして泣き出したんだい。それに、他の二人も泣き出してしまったよ。困ったなぁ、これじゃ事情が聞けないじゃ無いか。

 ……悪いけど、少し休憩に入ります。それから御衣黄さん、ケイコさんを連れてきてくれるかな。うん、こう言った時には『お母さん』が必要だと思うんだ。そう言うことなので、尋問は中断させていただきます。


 尋問が中断している間に、上杉さんから情報が入りました。そう、十河陽佳と名乗った少女、彼女が行方不明者のリストにあるのがわかったそうだ。どうやら小谷さんが、上杉さんに失踪者照会を掛けるように依頼してくれたらしい。うん、なかなか有能なスタッフ揃いじゃ無いか、俺も鼻が高いと言わせて貰おう。

 だったら、他の二人は……どう見ても日本人じゃ無いよな。だったら、日本で失踪者照会をしてもダメと言うことか。こちらは、ヒアリングの後に大使館経由で調べて貰うことにしようか。


 ところで十河さんのご家族には、そうか、警察経由で連絡をしていると言うのだね。なるほど、失踪したのは5年前というのだね。こちらの映像で、本人確認をして貰うことになっている。本人確認ができて、ご家族が希望されたら本宅に案内して貰えるかな。うん、本人が希望したらなんだけどね。


 どうだろう、そろそろ落ち着いてくれたかな。そうか、落ち着いたんだね。うんうん、全然悪くないよ。二度と帰れないと思っていたのに、こうして帰ってこられたのだからね。高校生なんだろう、安心して泣いてしまうのは仕方が無いことだとわかっているんだ。

 それで、もう話を聞いても大丈夫かな。そうか、だったら……ケイコさん、どうかしましたか?


「泣きはらした顔をカメラで撮るのは可哀想ですよ」


 あ~っ、確かに涙で顔がぐちゃぐちゃになっているね。ありがとうございます、そう言った細かなことに気がつかなくて。シャルロット、本宅に彼女たちを飛ばしてくれるかな。そこでお風呂に入って貰って、着替えをさせてから連れてきてくれれば良いよ。

 そう言うことなので、尋問は中断します。再開は、そうだね、1時間後と言うことにしよう。ハイエース、それまでは見張っていてくれるかな。無いとは思うけど、暴れるようなら荷造り紐を追加してくれて良いからね。それからケイコさん、お手伝いいただきありがとうございました。


 それから1時間後、落ち着いた3人を連れて魔王城へと戻ることになった。ただそこで疑問なのは、3人がコスプレをしていることだ。確かに、元々着ていた服は汚れていた……と言うよりボロボロだったと思う。だけどさぁ、他にも普通の服があったと思うんだ。それなのに、どうしてコスプレをしないといけないんだ?


「尋問映像の取れ高を考慮した結果です」


 取れ高の考慮って……だったら、十河さんは勇者の格好の方が良いはずだよね。どうして、黒のセーラー服なんだい? その方が、視聴者の受けが良い。でも、十河さんの通っていた高校、制服はブレザーだと言っていたんだけど。

 演出なんだから、細かなことを気にするな。いやさぁ、こうやって事実を曲げていくのって良くないと思うんだよ。それは、エルビス君とキャロルさんも同じだからね。


「彼女たちからは苦情が出ていません。ですので、尋問はこれでお願いします」


 良いけどさぁ、良いんだけど、絶対に間違って世間に伝わってしまうよね。まあ、本人が良いと言うのならこれ以上は反対しないけどね。ところで、その木の椅子はどこにあったんだい? それって、学校で使っている奴だよね。

 こちらから攫われたのがわかった以上、床に座らせておく訳にはいかないと言うのだね。だったらさぁ、もっと良い椅子があったよね。こんな椅子、一体どこから探してきたのかな? これも舞台装置だと言うんだね。わかったよ、設定は白船君に任せることにするよ。


 あ、あ、ごほん。マイクの調子はどうかな。余計なことを言わず、さっさと尋問をしろ。編集作業をする身にもなれと言うのか。君たち、最近俺に対する当たりが強くないか?

 わかった、わかったから。じゃあ十河さん、簡単に事情を教えてくれるかな。そうだね、君が攫われた世界のことからで良いから。


「私たちが攫われた……うっ」


 中断、尋問を中断します。俺が悪いのか、そうか、もう少しデリカシーを持てと。ケイコさんすみません、十河さんを落ち着かせてくれますか。


「すみません。もう大丈夫です」


 そうですか、でしたら無理のない範囲で説明をお願いします。


「その世界は、人と魔王の存在する世界でした。両者の力関係は、魔王の方が圧倒的に強いものでした。それだけならまだましだったんです。ただ、魔王たちの食糧が人間と言うのが問題でした」


 いきなりエグい話だな。それだけで、誰が悪いのか決まった気がするぞ。なんだ魔王、言いたいことが有るのか?


「確かに余らは人を主食としておる。だがな、他に食するものがなければ仕方の無いことでは無いか? それに余らは、人を根絶しようとはしておらん」


 なるほど言い分は理解したよ。それで十河さん、話を続けてくれるかな。


「魔王様の言っていることは間違っていません。仰るとおり、街では普通に人が暮らしていました。時々、小さな集落が消滅するぐらいです」


 集落が消滅って……事情を想像すると結構エグいな。うん、説明を続けてくれるかな。


「人間の側として、領民を守る……と言うより、王族が自分たちが食われない対策をする必要があります。それでずっと魔王と戦いを続けてきたのですけど、まったく歯が立たなかったそうです。戦いを仕掛けた国は、幾つか滅びたと聞かされています。それで魔王に歯が立たないからと、外から戦力を連れてくることになったそうです……うっ」


 はい、中断、中断します。ケイコさん、もう隣に着いていてください。


「私は、予備校に向かう途中で穴に落ちました。よそ見をしていたのでは無く、いきなりぽっかりと足下に穴が空いたんです。他の二人も、同じような状況だったと教えてくれました。そして穴に落ちた私は、薄暗いところで目が覚めました。そして大勢の人に取り押さえられて、首にこの黒いチョーカーを付けられてしまいました」


 なるほど、見窄らしい黒チョーカーが首に絞められているね。ひょっとして、隷属とかの権能が込められているのかな。


「隷属、ですか。それに似たような権能があると思います。その、逆らうともの凄い激痛が走るんです。だから、逆らうことが出来なくて。しかも、勝手にはずそうとすると死ぬとも言われました。それから、このチョーカーをすると、役割とその役割に相応しい能力が付与されるんです。それで私には、勇者と言う役割が与えられました。そして、魔王と戦うことが強制されてしまったんです」


 攫ってきて戦うことを強制されたと言うのだね。そこの女神だったかな、何か反論はあるのかな?


「黙秘権を行使します」


 そうか、何も言わないと言うのだね。裁判じゃ無いから、そんなものは無いと言いたいのだけど。うん、あなたのスタンスは理解出来たよ。

 うん、何か言いたいことが有るのかな、魔王。


「余のスタンスとしては、自分の世界の問題に、余所様から攫ってくるのはルール違反だと考えておる。加えて言うとだな、攫われてくるもののことを考えろと言うことだ。しかも三顧の礼で迎えるのでは無く、チョーカーの呪い……恩恵とやらで無理矢理戦わせておるのだ。善を司る女神のくせに、やっているのは悪逆非道では無いか。しかも敵わないからと、余らを別の世界に飛ばす真似までしたのだぞ。あまりにも身勝手と言うのが余の見解だ」


 あ~っ、人を食っていることを除けば、もの凄く真っ当なことを言っているな。うん、全くもって魔王様の言うとおりだと思うよ。

 ところで質問なんだけど、君たちは元の世界に戻れるのかな?


「この転移に、余は一切関与しておらん。従って、余にはわからんと言うのが答えになる」


 そうか、魔王様には無理なんだね。だったら、女神様はどうなのかな?


「戻れるのなら、恒久対策にはならないでしょ」


 そうか、戻ることは出来ないと言うのだね。だとすると、別の問題が出てくる訳か。


「そうです。魔王を含む魔族は、人を食むことで生きていく種族です。共存が望めない以上、滅する以外に方法はありません」


 その主張も理解出来るけどね。弱肉強食の世界だから、弱い方が一方的に不利益を受けるのもわかっているんだよ。だから、討伐するななんて言うつもりは無いんだ。ただね、その手段として余所の世界から攫ってくるのは言語道断なんだよ。

 ところで魔王様に聞くけど、他のものを食べることは出来ないのかな? 今のままだと、君たちは餓死することになるんだよ。


「以前人どもが、供物として食い物を持ってきた。だがな、それは喧嘩を売っているようなまずいものだったのだ」


 なるほど、そちらからも歩み寄ろうとしたわけだ。まあね、食べ物の問題は難しいのは理解出来るよ。

 十河さんたちに質問するけど、君たち個人として誰が悪人なのかな?


 ああ、全く逡巡無く女神を指差してくれたね。うん、自分たちだけでやれと言うのは、共感できる思いだと思う。なるほど、チョーカーを外して欲しいと言うのだね。女神だったかな、彼女たちのチョーカーを外してくれるかな。

 外しても良いが条件がある。なるほど、その条件と言うのは何なのかな? 自分を女神として崇めろ、魔王を断罪しろと言うのだね。そう言うのを、この世界では人質外交って言って嫌われているんだよ。例えそうでも、譲るつもりは無いと言うのだね。仕方が無いなぁ~


 チョーカーさんたち、外れてくれるかな?


 上位権限をつかえば、別に外すのも難しいことじゃないんだ。そこの女神……どうしてまた、土下座をしてくれるのかな? なんか、目が潤んでいるんだけど。お仕えする人に巡り会えた……それって、俺のことを言っているのかな? だったら遠慮すると言うのがこの場の答えになるんだよ。




 その夕方、魔王城転移に対する記者会見が行われた。うん、マスコミ対応は立木さんの仕事なんだ。だから立木さんに、東京まで出張して貰ったよ。しかも今回は、ラズライティシア様に加えてエクシブ君もお供に付けてあげたんだ。だって二人とも、魔王城に突入した、勇者パーティーなんだからね。


「立木さん、お久しぶりですね。ところで、とてもお疲れのように見受けられますが……やはり、魔王への対応は大変だったのでしょうか?」


 もう馴れ合いが生じているのかな。いつものアナウンサーの人が代表して質問してくれてるよ。立木さんが疲れてる……確かに疲れてるけど、理由は違うところにあるんだよな。


「大変だったかと言われれば、大変としかお答えようがありません」


 そうだよね、質問が悪いと言うより、現状の追認を求めただけですよね。


「諸星さんが行われた尋問映像は公開されています。また、魔王制圧までの映像もすでに公開されています。誠に持って、見事な手際と賞賛させていただきます」

「賞賛いただき感謝します。一応必要情報を公開していますので、今回の記者会見は必要無いと思えるのですが……私の気のせいですか?」

「はい、気のせいと申し上げておきます。それだけ、IMO研究所は注目を集めていると言うことです。そして注目されている割に、公開されている情報が極端に少ないと言うことも事情になっています」


 つまり、今回の事件はあまり関係が無いと言うのか。


「その辺りは、日本人スタッフが壊滅的にいないことが理由です。何しろ諸星所長を含め、4人しかスタッフがいないんですよ。従って、諸々のことに手が回らなくなっています」

「なるほど、人手不足が深刻と言うことですか。具体的には、どういった分野が不足されているのですか?」

「先ほど指摘のありました、情報公開に関する部分が全く機能していません。情報公開、マスコミ対応……政府対応は、菅谷総理の私設秘書の方が当たられているのでなんとかなっていますが……そちらにしても、不足しているとしか言いようがないんですよ」


 ああ、小谷さんがしっかりと頷いているよ。確かに、政府対応って小谷さんが一人でやっているんだよな。


「自衛隊の方が参加されていると伺っていますが?」

「はい、彼らにも活躍して貰っています。ただ、彼らは自衛官としての立場で加わっています。従って、自衛に関することだけ仕事をして貰っているのが実態です」

「大勢人がいらっしゃると思うのですが、残りは異世界出身者ばかりと言うことですか?」

「その通りと言うのが答えになります。不足する人員ですが、大谷村村長様から人員派遣の提案を頂いています。ただそちらの業務は、IMO研究所本業とは違っているのですが……」

「ほほう、具体的には?」

「パンの国観光対応と言うことです。従って、大谷村観光課からの出向を検討しているそうです」

「なるほど、人手不足は深刻と言うことですね。では、一般質問に移りたいと思います」


 この状況で、どんな質問がでるのかな。ああ、以前の忠告を忘れている人が居るよ。


「魔王城の扱いですか、以前私は考えてから質問をして欲しいとお願いをしたはずです。魔王城が出現したのは国有地です。そして形式上ではありますが、彼らは密入国と言うことになるわけです」

「質問をするなら政府にしろと言うことですか?」

「そうお答えしたつもりですが、理解出来ませんか?」


 ああ、立木さんが疲れているよ。疲れているから、答えがとげとげしくなるんだよね。違う、いつもの会見と全く同じ……言われてみれば、普段通りと言うことかな。


「今回も、転移検出システムで検出したのかと言うことですか。でしたら、その通りと言うのが答えになります。加えて言うと、場所が場所ですから目視でも確認できます」


 いつも思うんだけど、一般質問って必要かな。そうか、これはガス抜きと言うのだね。


「保護した3人の扱い……ですか。ですから、考えてから質問してくださいと繰り返しています。本人たちの申告時間とこちらの時間がずれている理由……まだマシな質問ですけど、IMO研究所は細胞を研究しているんです。ですから、その質問は物理学者にお願いします」


 研究所登録……確かに、細胞学研究だったな。うん、良い隠れ蓑になっていると思うよ。


「女神の引き渡し要求……ええ、様々な宗教関係者からの要求があるのは理解しています。それにしても、IMO研究所が判断することでは無いはずです。これは、魔王及び彼の眷属に関しても同様です」


 あの女神、なぜか俺とセレスに平伏してくれたんだよな。俺はまだきっかけがあったんだけど、どうしてセレスに平伏してくれるんだ? 俺の妻と言うのが理由なら、ルーテシアたちにも同じじゃ無いとおかしいよな?


「人材の募集をしているのか、具体的には求人を行っているのかと言うことですか。答えとしては、直接は行っていないと言うことになります。理由はシンプルで、我々に余力が無いからと言うことです。従って、後沢氏、堀内氏、大谷村に協力を依頼しています。マッチングサイト、ですか。膨大な情報の中から、どうやって適任者を探せと言うのですか? その検索をするだけでも、膨大な時間が必要になるんです」


 その割に頻繁に温泉に行っていると言うのは、言ってはいけないことか。そうか、それを言うと人材が一人居なくなると言うのだな。今立木さんに抜けられると言うのは……考えたくないことには違いないと思うぞ。

 ええっと、その質問ってここですることか? 今回は、どこの温泉で騒いだって……そうか、すでにインテグラのことが伝わっているのだな。


「質問の意図がよくわからないのですが……お世話になっている教授連との懇親会を開催しました。竜人の移動に関しては、日本政府に対して報告もしています。お世話になったご主人から依頼がありましたので、インテグラのドラゴンフォームを公開したと言うことです。温泉はどうだったか、ですか。お湯も料理も絶品だったと言うのが答えになります。ええ、エルフ、竜人たちも料理や酒を絶賛していたのをお伝えします」


 あれっ、立木さんがやけに丁寧だな。なんです奧さん、燕温泉にごまをすってるわけじゃ無いのですね。今後別の温泉を予約するとき、断られにくくするための撒き餌と言うのですか。

 なるほど、白骨温泉の稼働率が上がったと言う記事が出ていましたね。だとしたら、今回の温泉、燕温泉でしたか。そこも旅行客が増えると言うことですね。同じことを、他の温泉地も期待するのだと。

 だったら、誘致みたいなことが……そうか、うちは連絡先を公開していなかったな。つまり、あの記者は青森出身と言うことか。


「酸ヶ湯温泉……ですか。記者会見の趣旨から外れまくっていると言うのは気のせいでしょうか。いえ、とても良い温泉と言うのは知っていますよ。これまで行かなかったのは、自家用車で移動していたので遠すぎただけです。その意味で言えば、次の候補にしても良いですね。ええ、青森のお酒も美味しいのは知っていますよ。具体的銘柄……最初に飲んだのは田酒でしたかね。もう、40年近く前のことですよ。勿論、豊盃も飲んだことはありますよ」


 やっぱり立木さんの答えが親切になってるよ。あれは、ただ趣味の話をしているだけ。一部時間つぶしの意味も持っている。確かになぁ、記者会見自体の意味がわからないんだよね。


「会津はどうか、ですか。ええ、東山温泉にはよくお邪魔しました。落ち着いていて良いところだと思います」


 そうか、次は会津か。喜多方ラーメンって近くだと思って良いんだよな。




荷造り紐さんは最強です(繰り返し)

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