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頑張る村長

村の特産は異世界です


・頑張る村長


 色々とあった公開ヒアリングだったが、帰ってきたら意外に落ち着いた時間が待っていた。小谷さんが教えてくれたのだが、結論など簡単に出るはずが無いと言うことだ。ヒアリングの結果を持ち寄り、これから国と国との調整が行われる。利害の調整作業、擦り合わせを考えたら1ヶ月や2ヶ月で、纏まるものでは無いと言うのだな。

 まあ、TPPだっけ、締結に時間が掛かったのは知っているよ。だけど、そんなに時間を掛けて良い問題なのかな? そうか、当然裏があると言うのだね。


「色々な国が、抜け駆けを考えていると思いますよ。ですから、菅谷総理への面会がひっきりなしになっているんです。後はですね、繋がりのある議員さんとかが総動員されているはずです」


 なるほど、抜け駆けねぇ。そう言えば上村さん、国会議員の先生が顔を出すようになったと言っていたような。うん、与野党両方の先生だよ。もうね、とってもわかりやすいよねぇ。だって二人とも、研究所開設の時には顔も出さなかったんだよ。


「だとしたら、中林村長さんが苦労していそうですね。あの人たちって、自分は偉いと思っていますから」


 それはなんだ、村長だったら自分の言うことを聞けと言う意味なのかな。そうか、そう言う意味なんだな。確かに、地元の国会議員って平時は横柄だよね。うん、市会議員時代に何度も見てるから。でもさぁ、そういう手合いを俺が相手にすると思っているのかな? 言っちゃあ悪いけど、二人とも議員としては雑魚だよね。


「雑魚と言えば雑魚なんですけど。実を言うと、菅谷先生に感謝なんかされているんです」


 菅谷総理に感謝……ごめん、意味がわからないんだけど。


「記者会見で、散々立木さんが脅してくれましたよね。と言うか、記者相手に無双をしてくれたじゃ無いですか。あのお陰で、随分と遠慮してくれるようになったそうですよ。まあ、理由はわかりすぎるほどわかっていると笑っておいででしたけど」


 わかりすぎるほどわかる理由ってのは? そうか、ここの取材許可のことを言っているのか。普通には許可が取れないから、菅谷総理のご機嫌を損ねるわけにはいかないというのだね。でもさぁ、こう言う時って今までならメディアスクラムを組んで騒ぎ立ててくれたよね。

 メディアスクラムを組んでも意味が無い。政府相手ならなんとかなるが、民間企業相手ではそれも難しい。しかもうちは、広告すら出していないと言うのだね。新聞や週刊誌に悪口を書かれても、痛くも痒くも無いのは確かだな。


 でも、菅谷総理は何も言ってきてないよね。そうか、まだ多国間の調整が出来てないのが理由なのか。下手に便宜を図ると、各国からクレームが殺到することになると言うのだね。

 それは理解したけど、どうして吉岡さんとか杉下さんは遊びに来られるんだ? 目的が村の視察では無いから、派遣した隊員への激励が口実と言うのかな。いやさぁ、それってもの凄い屁理屈に思えるのは気のせいかな。気のせいでは無いが、無理を通すのに必要な口実と言うのだね。まあね、あの人たちには色々とお世話になっているからね。


「それから、立木さんが困っていましたよ」


 立木さんがかな。あの人が困るって……もしかしてラズライティシア様とインテグラのことかな? 違う、昔働いていた会社絡み。確か、大手のIT企業だったよね?


「不定期に開かれる昔の同僚との飲み会があったそうですよ。その飲み会に、どこから聞きつけてきたのかCEOが乱入したそうです。昔上司だった役員の方も同席したそうですよ」


 なんか、とっても微妙な立場の人たちが来たんだな。確か立木さん、元の会社に残れなかったとか言ってたよね。つまり、残れなかった会社の偉い人が来ても、有り難みがないと思うんだ。


「普通、そう思いますよね。それぐらい、相手もわかっていたみたいですよ。ですから、非常勤の社外取締役と言う餌を持ってきたそうです」


 それって、立木さんへの餌になるのかなぁ。確かに、肩書きとしては立派だと思うけど、つい最近まで年金生活を送ると言っていたよね。社外取締役って……立木さんのバグってる人脈だけでも釣り合わないと思うんだ。


「私もそう思います。それでも、古巣を邪険には出来ないみたいですね。その辺り、立木さんも優しかったんだなと思いましたよ」


 あの人、結構辛辣だけど優しい人だと思うよ。小谷さんだって、温泉旅行をアレンジした貰ったんだろう? たしか、エクシブと二人でしっぽりといったんだよな。


「ええ、高山で良いお宿をとってくれました。観光スポット直近の、ハイグレードな所でしたね。ひなびた温泉も良いんですけど、ああ言ったハイグレードのお宿もなかなかの物でした。それに立木さん、お勧めの穴場情報も教えてくれたんです。もうね、至れり尽くせりってこのことだと思いましたよ」


 うん、お陰で俺も助かったと思っているんだ。公開ヒアリングの後、小谷さん、もの凄く機嫌が悪かったよね。もうね、触れるのも怖かったぐらいだったんだよ。温泉から帰ってきたら、曲がっていたご機嫌が直っていただろう?


「まだ釈然としないところはあるんですよ。それに、立木さんには置き去りにされた恨みもありますから。ただなぁ、のれんに腕押しと言えば良いのか、うまく躱されてしまうんですよね、あの人には。諸星さんは……まあ、半分諦めていますから」


 なにか、俺に対する評価が厳しくないか? 厳しいのでは無く、正当な評価と言うのだね。そうか、俺は諦められるようなことをしているんだ。


「ええ、意外と頼り甲斐が無いと言えば良いのか、結構逃げてくれますからね」


 それは……ええっと、ごめんなさい。ただなぁ、俺は恩恵を持っていても、社会経験も無い若造なんだからな。自分で若造と言うな、はい、仰るとおりだと思います。


「話を戻しますけど、今度ラズライティシア様とインテグラさんを連れて古巣を訪問するみたいです。防衛関係の職場もあるそうですけど、そちらにも顔を出すそうですよ。その時には、吉岡さんたちも顔を見せるそうです」


 そうか、便宜としてはかなりのものだな。


「忘れていました。怪獣の特撮で、古巣の事業場も出演していたそうです。勿論、ビルだけなんですけどね。川崎市と共同で、特撮映像の再現をするそうです」


 ああ、あの映画ね。そうか、あのビル群に立木さんの古巣があったんだ。でもさ、それって間違いなく悪乗りだよね。


「流石に大阪は断ったそうですよ」


 大阪って……大阪でのシーンって有ったっけ? シリーズ物だから、大阪のもあるんだね。巨大な花の出た奴……多分あれのことだな。

 だけど、インテグラのドラゴン形態はちょっと違わない? そうか、見た目なら変えられると言うのだね。なんかさぁ、映画界から引っ張りだこにならないか? そうか、場所が無いから実写は無理と言うのだね。確かに、インテグラが暴れたらニューヨークの二の舞になるね。


 ところで立木さん、何かご用ですか。あれ、どうしてリズまで一緒に居るんだ? そうですか、大谷村絡みの話なんですね。一応事情は理解しましたけど、どうして立木さんがリズと一緒に?


「所長が出るほどでは無いと言うことですよ。行政との調整なんて、下の者がすることですからね」


 なるほど、そう言うことですか。はい、納得しました……小谷さん、どうかしたのかな?


「いえ、立木さんを見習わないといけないなと思っただけです」

「まあ、古いだけの年寄りですから」


 何か含むところがあるような……それは良いんですけど、大谷村で何かあったんですか? 俺の耳には、問題は聞こえてきていないんですけど。


「問題ではありませんよ。この集落にとっては、間違いなく良いことですからね。もったい付けても時間の無駄ですから報告しますが、大谷村から村有地の提供の話がありました。県道沿いを少し下ったところにある、宅地と農地合わせて2ヘクタールほどの土地だそうです。多少の高低差はありますが、地目の変更を含めて便宜を図ってくださるそうです。それで不足するのなら、さらなる村有地の提供を考えるとのことだそうです」


 土地の提供って……もの凄くありがたいんだけど。うん、はっきり言って色々と手狭になっていたんだ。下の方って、ここよりも平地が多かったよね。だったら、そこそこの建物も作れるのかな。それはそれとして、温泉は有りますか?


「ボーリングをすれば出てくるとは思いますよ。ただ、今時点で温泉として活用していません。ですから、答えとしては無いと言うことになりますね。沸かし湯で我慢して貰うしかないと思います……冷泉があった気もするけど、大浴場には出来ないでしょう」


 まあ、いつでも入れると言うだけで贅沢なのは間違いないからな。それに温泉に入りたければ、第一とか第二に来て貰えばいいわけか。本宅側……あそこはあまり広くないんだよな。


「それからもう一つ、セレスさんの依頼に対する回答を貰いました。大谷村農協からですが、パンの国に対する農業指導をして貰えるそうです。信大および県の農業試験場の協力も得られるそうです」


 ポンパドール伯爵としてはありがたいのだけど。でも、そんなことをしても大丈夫なのか? 絶対に、検疫とかの問題が出る気がするんだよ。


「JICAにも協力を仰ぐそうです。あそこなら、海外への農業支援も手がけていますからね」


 そうか、ノウハウを持っているところにも協力して貰うんだね。だとしたら、反対する理由はないと思うよ。しかし、色々なものが動き始めたんだね。


「それだけ、あの発表のインパクトが大きかったと言うことです。ちなみに大谷村ですが、独自の施策を始めていますよ。具体的には、移住者向けの住居の準備です。これまでも移住者の募集はしていたんですけど、大幅な増加が見込まれるからと言うことです。それから、これはあまり良くない話ですが……」


 なにか、問題があったと言うのかな。立木さんが良くないと言うと、本当に問題だから怖いんだけど。


「土地の買い漁りが始まっていると言うことです。日本と言う国は、外国人による土地購入を規制していないんですよ。それもあって、中の国を筆頭に外国資本が流入してきています。お陰で、土地の価格が爆上がりなんだそうですよ。中林村長さんの顔が……必ずしも良いことばかりではないのでしょう。ですから、少し引き攣っていましたよ。負動産が不動産になったのはありがたいのですけど、行き過ぎると色々と弊害が出てくるんです」


 土地取引って……規制の網を掛けることが出来た気がするんですけど。そうですか、そのためには指定が必要なんですね。しかも過疎の村だから、もともとこんなことは想定していなかったと言うのか。

 不動産バブルって……迷惑としか言いようがないんだけどね。


「今住まれている方は問題ないのですが……負動産として相続された方が問題なんですよ。買い手の無い土地なんて、はっきり言ってお荷物でしか無いんです。しかも、毎年毎年固定資産税を取られるんですからね。物納されても困るので、村としても引き受けてはいなかったんです」


 ああ、小谷さんが頭を抱えているよ。どうやら、小谷さんにも心当たりがあったようだね。そうか、ありすぎると言うのだね。

 だとしたら、後沢に頼む……そうか、今からだと出遅れていると言うのだな。価格がかなり釣り上がっているので、逆に売る方も強気になっていると言うのか。まあ、その気持ちも理解出来るかな。貧乏神だった土地が、あっという間に福の神になったんだからね。ただ、俺たちとしては困ったことになる可能性がある訳か?


「実害が出るようなら、この村を出れば良いだけですよ。まあ、あまりやりたいことじゃ有りませんけどね」


 その手があるのは知っていたけど、確かに気が乗らない方法だと思うよ。なんと言えば良いのか、この土地に対する愛着も湧いてきているんだ。

 それで立木さん、誰に連絡しているのですか? そうですか、後沢に連絡しているのですね。なんです、不幸中の幸いと言うのは。


「後沢氏、堀内氏が動いてくれていたようです。まあ、優秀な起業家の彼らですから、ここが知られたときのことを想定してくれていたのでしょうね」


 そうですか、彼らが動いてくれてたのか。その辺り、流石と言って良いんだろうな。


「ええ、ただ同然で土地を買えたそうですよ。その頃は、異世界のことは知られていませんでしたからね。ですので、国道からここに至る県道沿いの土地の殆どは押さえることが出来たそうです。それ以外、特に国道沿いは高値で攫われたみたいですね。その辺り、手が足りなかったのが敗因なのだそうですよ」


 そうか、一口に買収と言っても時間が掛かるからな。地権者だったか、その確認にも時間が掛かったと言うことか。登記簿と実際の所有者が違うなんて、珍しいことじゃないんだよな。分筆だったか、それも面倒になる理由だと思うぞ。

 そんな解説は必要ない。はい、確かに必要無かったですね。しかしなんだぁ、大谷村に土地ブームが来たのかぁ。ひょっとして、色々と開発が入ると言うことかな? 村長としては、本音は嬉しいんだろうな。なんだ、小谷さん、何か問題があるのか?


「いえね、竜人の時も問題だったと思いますよ。でもですよ、もっとたちの悪いのが来ることが有り得ますよね。例えばですけど、シャルロットさんたちの居た世界みたいな魔王とか魔王とか魔王とかです」


 俺の行った世界では、魔王じゃ無くて魔神だったんだがな。そう言えば、エクシブをこっちに連れてきてしまったぞ。魔神討伐も、勇者様の仕事だったはずだ。なんだ、小谷さん。魔神ならここにって……


「いえ、ちょっと言ってみたかっただけです。まあ、諸星さんは魔王とか魔神とかには見えませんね。なんと言えば良いのか、諸星さんって善良すぎるんですよ。それはそれとして、ですね。下手な施設を作ったりしたら、被害が出たりしませんかね」


 もしものことを考えてたら、結局何も出来ないと思うんだよ。俺としては大谷村に貢献するつもりはあるからな。無理のない範囲で、防犯には協力するつもりだ。


「防犯と言いますか……まあ、諸星さんの責任じゃないのは確かですけど。損をするのは……まあ買い占めした人には諦めて貰いましょうか」


 そう言うこと。異世界だからって飛びついてくる以上、ちゃんとリスクも覚悟して欲しいんだよ。でも、大谷村としては良いことじゃないのかな。雇用は増えるし、税収だって増えるだろう。

 一応話はわかりましたけど、立木さん、まだ何かあるのですか?


「大芝と宇梶から、たまには顔を出せとせっつかれているんです。と言うことなので、出張申請良いですか?」


 そうですか、あの二人を理由にしてくれましたか。あの二人を理由にされると、流石に駄目とは言えないんですよ。

 それで、出張は一人で行くんですよね? ええ、わかってて言いました。3人と言うことで宜しいですか?


「小谷さんはどうされますか?」

「私ですか? また、冷凍マグロみたいに転がされそうな気がして……いえ、嫌とは言っていませんよ。お酒も料理も美味しかったですから。まあ、エクシブさんの活躍は見られませんでしたけど。置いて行かれた気もしますね。それで、今度はどちらまで?」

「二人からは、宴会のやりやすい場所との指定があったんです。なので、ちょっと思案中と言うことになりますね」

「なんか楽しそうに思えますね。だったら、この前の宿はどうです?」

「白骨温泉は、宿が思いっきり取りにくくなっているんですよ。頼めばなんとかなると思うのですが……あまり無理を言いたくないんですよね。かと言って、奥飛騨もマンネリかなぁって思い始めてきましたから。もちろん、良い場所なんですよ。しかも、色々と宿にも個性がありますからね」

「なんで、奥飛騨の宣伝を……それは良いのですけど、この前の図書館温泉はどうです?」

「あそこって、意外にお洒落な宿なんですよ。だから、宴会って雰囲気じゃ無いんですよね」


 もしもし、どうして宴会前提の話になっているんです。確か、両教授の接待と言う話でしたよね。だから、温泉グルメになると言うのですか。


「ちょっと趣向を変えて、新潟にしてみるかな」

「新潟って……お酒が美味しそうですね」

「まあ、美味しい酒蔵が一杯有りますからね。ただ新潟と言っても、ここから山を一つ越えたぐらいの場所ですよ。そこにですね、秘湯感たっぷりの温泉宿があるんです。もうね、かき玉みたいに湯ノ花が浮かんだお湯が最高なんですよ」

「かき玉みたいに湯ノ花が浮かんでいるのですか……」

「この時期だと、山菜も残っていると思いますよ。後はですね、あの辺りはトマトも美味しいんです。ただお断りしておきますけど、部屋は歴史を感じる……で良いのかなぁ。お洒落さとは対極のところにありますからね。白骨の宿を、もっと殺風景にした感じと思ってくだされば結構です」

「いえいえ、良いお風呂に美味しいお酒……もう、それがあれば完璧ですよ」

「それで、小谷さんとエクシブ君の二人で宜しいですか? なんです、諸星さん」


 いや、話を聞いていたら羨ましく思えてきたんだ。そのですね、俺も混ぜて貰っていいですか?


「責任者二人……三人がここを開けると言うのですか。白船君たちが居ますから、守りの方は問題ないのでしょうけど。確認したら、6室ほど空いていますね。と言うことなので……3室分連れて行くことが出来ますよ」


 うちは、セレスとルーテシアか。リズを置いていけば、大谷村対応は大丈夫そうだな。だとすると、あと3人だな。ヴェルファイアたちには、村の守りを固めて貰おう。


「無理に、全室埋める必要はありませんよ」


 それはそうなんですけどね。ただ、連れて行かないと拗ねられないか気にしただけです。セリカとコロナ王女か……流石に、パンの国の女性には厳しいかな。特にコロナ王女は……あれ、どうしてコロナ王女がこんな所に? なかなか素敵なお召し物ですね。


「こちらは、薄墨様に見立てていただきました。どうしたのかと言いますと、そうですね、こちらの言葉で虫の知らせでしたか。とても重要な決定がある気がしたので、こうしてお邪魔した次第です。それで、私がどうかいたしましたか?」


 虫の知らせか……確かに、嗅覚としては満点なのだろうな。


「大芝、宇梶両教授の接待で温泉に行こうと言う話になったんですよ。諸星さんも参加されるので、後はどなたをお連れしようかと言う話をしていたんです」


 その説明に、一つも間違ったことはありません。ただ間違っていないからと言って、ここで持ち出すことに問題がありますよね。そうですか、それは立木さんの関知することでは無いと言うのですね。俺の下半身事情って……ラズライティシア様とインテグラを連れていきますよね。その立木さんが、俺に対して下半身事情って言ってくれますか? だからこそ、言う権利があると言うのですか。


「何か見苦しい言い合いが聞こえましたが……今の話が正しければ、私も同行者の候補と言うことですね。漏れ聞こえてきた話から考えますと、私たちには厳しいとお考えなのようですね。具体的に、どのような点が厳しいのでしょうか?」


 いえ、そのですね。これから行こうとする宿が、庶民の泊まるものと言うことです。ですから、止ん事無きお方をお連れするのに差し支えがあると考えたわけです。


「伯爵様の仰ることではないと思いますが……それはそれとして、立木様にお伺いいたします。今私は、第一別館、でしたか。そちらに逗留しております。その温泉……宿ですか、その宿は第一別館と比べていかがなのですか?」

「狭さ具合は同じぐらいですかね。ただ寝具は、布団マットレスと言うものを使うんです。ベッドに慣れた方だと、少し苦労されると思いますよ。後は、そうですね、多少古いと言うぐらいですね」

「その、布団マットレスと言うものがよくわかりませんね。ただ、孝明様、ラズライティシア様は経験されておいでですよね。でしたら、私も大丈夫だと思いますよ」

「だそうですよ、諸星さん。私は、事実をありのままお伝えしましたからね」


 ええ、何も間違ったことは言っていませんね。ただ、伝え方に依ってはハードルが下がりますよね。そうですか、そのつもりも無いと言うことですね。でもなぁ、王女様を安旅館……で良いんだよな。そんなところに連れて行って良いのだろうか。


「お気遣いいただきありがとうございます。ですが、お見えになる方も立派な方と伺っています。でしたら、私もご挨拶したいと思うのですけど……それは出過ぎた真似なのでしょうか?」


 立派な方……確かに、ネームバリューのある方たちなんですけど。それは、もう世界的に有名な方だと思います。もしもし、立木さんどうかなされましたか? 京都の方からクレームが来た。なんです、そのクレームと言うのは?


「たまには、俺にも声を掛けろと言うことです。どうやら、大芝か宇梶から話が伝わったようですね。ただそこで声を掛けるとですね、部屋が……4人部屋と3人部屋が出来るだけか。本山が来るのだったら、かすみちゃんを呼ばないわけにはいきませんからね」


 結局どう言うことです? そうですか、一部屋の密度が上がるだけと言うのですね。それで4人部屋と言うのは……立木さんの部屋と言うことですね。わかります、御衣黄さんはまだしも、あの二人が別の部屋を認めるとは思えませんからね。


「今のお話ですと、また立派なお方が増えると言うことですね。でしたら、是非ともご挨拶させていただきたいのですけど」


 そこまで言われたら、流石にダメとは言えませんね。はいわかりました、セリカと一緒にご招待いたします。


「了解しました。6室全部押さえました。都合14人と言うことですか。なかなか盛大な宴会になりそうですね。宿にも、色々と話を通しておきますよ。特別料理もお願いしておく必要がありますね」


 流石は段取の立木さん。ええ、楽しみにしていますのでよろしくお願いいたします。それで、食べるものは何が美味しいのですか? ここと同じで、意外に海が近い。そうですか、海の幸と山の幸が同時に味わえるのですね。いいですね、それは。


 そう言うことなので、明日に備えてここは解散と言うことにします。それで出発は? 移動方法によるのですね、ところでお三方はどうやって移動するんです。特に本山名誉教授は、京都から移動するんですよね?

 そうですか、御衣黄さんが出張中でしたか。だとしたら、シャルロットが転移で運んでくれるんですね。なんです、だからシャルロットも混ぜてあげると言うのですか。いえ、ダメとは言いませんけど、理由を教えて貰えますか?


「意外に、彼女が報われていない気がしただけですよ。便利に使われているので、たまにはご褒美も良いのかなと考えたんです」


 便利に使われている……そう言えば、結構使い潰していたな。それを考えたら、誘ってあげるのも悪くはないな。うん、本人が希望したら混ぜてあげましょうか。

 もしもし、今度は誰と話をしているんですか。そうですか、御衣黄さんと話をしているんですね。なるほど、御衣黄さんもオーケーなんですね。なんです、お使いを頼んだと言うのは? 宴会のつまみ、京都ならお漬物と言うのですね。本山名誉教授にも、何か持ってこいと言ってある。そうですか、宴会の準備は万端と言うことですね。ええ、こう言った宴会はしたことがないので、そのですね、とっても楽しみなんですよ。




 ちょっと楽しい気持ちになっていたら、大山村の村長さんが訪ねてきました。そう、中林村長です。いやですね、色々とお世話になっているんですよ。だから、邪険になんかしませんよ。

 それで中林さん、今日はどのような用件で? なんです、ちょっと困ったことになった。武藤先生……確か、衆議院議員の方でしたね。その武藤先生がどうかしたのですか? なんです、記者を連れて訪問したいと言うのですね。そうですか、下心が見え見えの話ですね、それ。


 それで、その武藤議員がなんと? 大谷村の村長なのだから、言う通りにアレンジしろと高飛車に言ってきた。本当なら断りたいのだが、地元議員なので逆らうと後が怖いと言うのですね。ところで、マスコミは誰かと言うのも聞いていますか? そう、聞いているのですね。だから、こうして相談に来た……なるほど。でしたら、こう伝えていただけますか?


『律民党及びATV関係の方は、記者会見を含めて全員集落に出禁にします』


 ええ、そうお伝えしてくれれば結構です。理由、理由が必要ですよね。あなたに圧力を掛けて困らせたからと言うのが理由ですね。それだと、報復が怖い……と言うのですか。大丈夫ですよ、この話はこちらからも拡散しますから。ええ、お仲間にフルボッコにされると思いますよ。マスコミにもフルボッコにされるのかな。

 大丈夫です。俺たちは、全面的に大谷村と中林村長の味方です。ええ、普通にお願いをしてきたのなら、こんな過激なことは言いませんよ。衆議院議員を笠に着て命令をしてきたんですよね。だとしたら、こちらも相応の対応をすると言うことです。

 それとも、俺の方から出禁を発表しましょうか? ええ、立木さんが色々と伝手を作ってくれたんですよ。だから、定例会見のようなことも考えているんです。場所、場所ですか……大谷村で良さそうな場所はありますか?


「残念ながら、適当な場所が思いつきません」


 だとしたら、場所は継続課題と言うことで。おや、立木さんどうかされましたか? はい、野党の国会議員が無理を言ってきたんです。そう言えば、与党の方は何も言ってこないな……なるほど、菅谷総理の同行者の一人になっているんですか。


「そう言うことは、小谷さんに相談して欲しいのですけどね。ただ今回の件は、小谷さんだと騒ぎが大きくなりそうですな。でしたら私が引き受けましょうか?」


 それは良いのですけど、今村長さんに『出禁』の話をしましたよ。

 そうですか、あの手の手合いは中途半端じゃいけない。マスコミを連れて、押しかけるのが常套手段と言うのですね。いえ、その程度なら徹底的に報復しますけど。


「あの党は、スタンドプレーをしたがる議員が多いんですよね。それに、党のガバナンスも効いていないし……ちょっと、議員辞職させる方法が無いかを考えていたと言うことです」


 それって、出禁よりも過激じゃありませんか? いえ、見せしめには良いと思いますけど、それだと怖い所と言う評判が立ってしまいますよね。


「過激、ですか。仕方がありませんね。でしたら、他の方法を提案することにしましょう」


 他にも方法、もっと穏便なものがあると言うのですね。それで、そんなに良い方法があるのですか?


「ええ、諸星さんが悪者になれば良いだけのことです。中林村長は、直接諸星さんにお願いをした。しかも、よろしくお願いしますと熱心にお願いしたことにします」


 ええ、それは事実の追認ですよね。それで、俺はどう答えればいいんですか?


「とっても政治家らしい答えがあるんです。それは、『善処する』と言うものです」


 ええっと、善処ですか。それって、やらないと言う意味ですよね。国語辞典的には違う。『適切に処置する』と言うのですね。適切って、随分と曖昧な答えだと思うんですけど……曖昧だから良いのですか?


「対応しないとは言っていませんからね。もしも食い下がられたら、総理大臣の招待を優先しているとでも答えてください。人数の少ない組織なので、幾つもの事案に手が回らないから『善処』させていただくと言うことです」


 間違いなく、総理よりも先に来たがっていますよね。それを考えると、喧嘩を売っているようにも思えますけど。そうですか、公開された政治日程の邪魔は出来ないと言うのですね。総理の訪問時には、他のマスコミも一緒に招待する。それが遅れることになると、ATVが袋叩きに遭うことになるわけですね。結果的に、武藤議員の味方がいなくなるわけですか。


「いっそのこと、野党第一党の党首も一緒に招待すれば良いんですよ」


 それはちょっと……大丈夫、どうせ借りてきた猫になると言うのですか。思うんですけど、立木さんって野党に対して辛辣じゃ有りませんか?

 別に、野党だけじゃ無い。かなりの数の国会議員は信用していない。本気で日本のことを考えているのは、ほんの一握りと言うのですね。その一握りの国会議員でも、大丈夫かと心配してしまう人も居ると言うのですね。そのお話、理解出来ないことはないのですけど……外では言わないようにしてくださいね。


「そんなに青く見えますか?」


 そうですね、立木さんの場合は『チクチク』とやってくれましたね。はい、わかりました。では、その対応で進むことにします。中林さん、それで宜しいでしょうか? そうですか、当面それで凌げそうと言うのですね。


「農業支援の件ですが、各所から前向きの言葉を貰っています。JICAさんからも、人選を行うと言う回答が来ました」


 それは、明るい話題ですね。はい、中林さんのご尽力に感謝いたします。だからと言うわけではないが、お願いしたいことがある。そうですね、取りあえずお願いの中身を教えて貰えますか?


「ブーランジェリー王国ですか。その観光対応を、村の観光課で扱わせていただけないでしょうか?」


 つまり、異世界観光と言うことですよね。確かに窓口が必要なのですが、大丈夫なのでしょうか? 間違いなく、各国対応になりますよ。


「スキー場対応でのノウハウがあります。後はですね、お隣の白鹿村にも協力を要請するつもりです。冬期オリンピック対応の実績がありますので、及第点ぐらいは取れるのでは無いでしょうか」


 私たちの手に余ると考えていましたから、引き受けてくださるのはありがたいと思っていますよ。それで、こちら側の担当は……立木さん良いんですか、だったらお任せしますけど。どうかしましたか、立木さん。


「当面私が対応するのは構いませんが、人員の増強を考えてください。どう考えても、決定的に人手不足なんですよ。諸星さん、IMO研究所の職員って誰がいるのか理解していますか?」


 誰がって……俺と。


「すみません、もう少し正確に言わせて貰います。除く異世界人、自衛隊員、ファンタスティック・フォーでお願いします」


 だったら簡単だな。俺と小谷さん、それから立木さんと御衣黄さん……ちょっと待て、まさか4人しか居ないと言うのか? いやいや、他にも居たはずだよな?


「それが居ないんですよ。ご理解いただけましたか? いくら何でも、4人じゃ少なすぎると思いませんか?」


 ええ、しっかりと理解しました。白船君たちがいるのですけど、彼らは自衛隊員として派遣されていましたね。ファンタスティック・フォーは、アメリカとの関係が問題になるわけですか。つまり、IMO研究所の職員として紹介できないのだと。これからのことを考えると、至急増員が必要と言うのは確かですね。

 ちょっと後沢に当てが無いか聞いてみますよ。ところで、どうして中林さんが手を上げているのですか? まさか中林さんが入社されるとか?


「流石に、それはまさかと言わせていただきます。人の問題なのですが、村から出向させると言うのはいかがでしょうか? 手始めに、観光と住居関係の者が該当します」


 その申し出はありがたいのですけど。村役場って、そんなに人材が豊富なんですか。ええっと、この場合の人材と言うのは、人数的にと言う意味で言っています。

 そうですか、余裕ということは無くても出向者を出すのは可能と言うのですね。IMO研究所は、村としての重点施策になっている。だから、予算も使いやすくなっているのですか。ところで、上村さんと言うことはありませんよね? いえ、彼に問題があるわけじゃ無くて、ですね。確か出張所は、上村さんと女性がもう一人だったと聞いた覚えがあるんです。そうですか、上村さん以外を考えると言うのですね。了解しました、なんです、中途採用の応募がかなりあると言うのは。移住希望者の問い合わせも増えたのですか……ホームページを見させていただきましたけど、良かったと言って良いんですよね?


「IMO研究所様々と言う所です。ただ、外資に買われた土地だけが心配と言えば良いのか……開発に関する規制条例を作る必要がありそうです。議員たちも張り切っていますから、すぐに成立すると思いますよ。いやぁ、村に活気が戻ってきた感じです」


 そ、そうですか、それは良かったですね。それで、出向者の選定はいつ頃になりそうですか。それから、事前に面接をさせていただければと……いえ、別に年齢制限を掛けるつもりはありませんよ。見ていただいてわかると思いますが、立木さんなんて第三の人生としてここに来ていますから。

 なんです立木さん、別に他意なんて有りませんよ。ただ、年齢に拘らないと言っているだけですから。それに立木さん、下手すれば俺よりも有名ですよね。テレビの露出、間違いなく立木さんの方が多くなっていますから。なんです、旅番組に出ないかと誘われているって……その時は、ラズライティシア様も一緒と言うのですね。有名と言っても、その程度だと言いたいのですか。


 それは良いのですけど、年齢性別には拘りませんから。ただ国籍は……その辺りは、面接してふるいに掛ければ良いですね。ええ、面接は私が行いますよ。何しろ、IMO研究所の大切な仲間になるんですから。


「それからですね、提供できそうな村有地が増えました。こちらも、2ヘクタールぐらいですか。農業支援ですが、こちらで研修を行うと言う方法も考えられると思います」


 なるほど、派遣するのよりは壁が低そうですね。うん、こちらに連れて来るとなると、あちらでも希望者が殺到しそうな気がするな。中林さん、なかなかナイスなアイディアだと思いますよ。


「予めお断りしておきますが、葉物野菜、根菜が主となるかと思います。後はせいぜい、食用ホオズキとか……これからだとスイカは間に合わないか。果物系は時間が掛かりますね」


 それでも十分だと思いますよ。奥さんたちの評価だと、あちらの農業は大昔のものだそうですからね。そもそも、肥料と言う概念が発達していないのだそうです。土作りとか不足しているそうですし、連作障害のように死語になったことがまだ残っていると驚かれていたようですよ。作られている作物にしても、昭和を思い出しても記憶に無いぐらいの味なのだそうです。


「それは、私も報告を受けていますよ。それでも、そこそこの収量があるとも聞いています。つまり、発展の余地があると言えるわけです。もちろん、向き不向きがありますので慎重な対応が求められることになるのかと思います。現地の食生活によって需要も変わってくると思いますので」


 確かになぁ、あっちは米食なんかしていなかったしな。パンの国だからと言うことでは無いんだけど、やっぱり小麦粉を焼いたものが多かったと思うんだ。


「つまり、ちゃのこの出番と言うことですか」


 ちゃのこって……確か、おやきのことでしたか。違う、ちゃのこはちゃのこだと言うのですね。皮の材料が違うので、混同しないで欲しいと言うのですか。


「すみません、つい熱くなってしまって」


 いえ、郷土愛は良いと思いますよ。ただ、道の駅では『おやき』で売っていましたよね。そうですか、あれは観光客向けと言うのですね。ちゃのこの特徴は、ジャガイモを練り込んだことでのモチモチ食感なのですか。ええ、重要な違いですよね、それは。


「ところで、諸星さんは生ハムとかお好きですか?」


 生ハム、生ハムですか……その、恥ずかしながらあまり食べたことが無くて。なんです小谷さん、そこは見栄を張るところじゃない。正直に食べたことが無いと言え。ええっと、食べたことが無いんです。立木さんは?


「ええ、お酒のあてにぴったりだと思いますよ。マドリッドに行ったときには、山のように食べましたね。うちの娘も、喜んで食べていますね」


 そうですか、聞いた俺が馬鹿でした。それで中林さん、生ハムがどうかしたのですか。原木を一本持ってきている。あの、原木ってなんですか?


「生ハムの熟成単位です。もも肉一本分だと思ってください」


 なるほど、そう言うものなのですね。それで、その原木を……プレゼントしてくださるのですか。いえ、宜しいのですか? 村の宣伝をして貰っているお礼って……そうですか、でしたら遠慮無く。


「ところで、立木様はお酒がお好きと伺っていますが?」

「嗜む程度、お付き合い程度とご理解いただければ」


 誰とでもお付き合いできますよね、このウワバミさんは。と言う論評は、心の中だけでしておくことにしておこう。


「そうですか、生ハムに合わせてワインを……と行けば良かったのですが、日本酒を何本かお土産で持ってきたんですよ」

「ほほう、なかなか興味深いですね。白鹿錦ですか、大谷錦、いやいや、天晴山と言うのも有りましたな」

「おやおや、なかなかお詳しいことです。今日はですね、上里集落にあやかって天晴山を持ってきました。蔵元は安曇野なのですが、米は大谷村の酒米を使っているんですよ」

「なるほど、本山とかにも宣伝しておきますか」

「そうしていただけると幸いです。お気に召すようであれば、本山名誉教授様にこちらからお送りいたしますよ」

「あいつのことですから、こちらに飲みに来ることでしょう。それで、こちらのおすすめの宿は? できれば、宴会が開ける場所がありがたいのですが」


 あれっ、立木さんの目の色が変わったぞ。のんべと言えば良いのか、はたまた宴会フェチと言えば良いのか。ちがう、単なる温泉好き。一体誰が、その戯れ言を信じてくれるんでしょうね。


「スケジュールを教えていただければ、後ほど宿を紹介いたしますよ」


 ああ、中林さんが揉み手をしているよ。うん、なかなか頑張っていると言うのか、千載一遇のチャンスを逃さないようにしているのだな。これからのことを考えたら、協力するのは吝かでは無いぞ。うん、多分迷惑を掛けることになると思うから。




好きです燕温泉。良いですよね、秘湯の温泉って

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