1年目の春−2
村の特産は異世界です
・1年目の春-2
その夜は、久しぶりの大宴会になってくれた。いや、本当に久しぶりだな。なんと、ラズライティシア様たちまで戻ってきているよ。
それは良いのだが、どうしてここに上村夫妻が参加しているのだ。セレス、なんだ? 私が招待したと言うのか? しかしなんだ、上村さんは本当のことを知らなかったんだぞ。秘密を守る意味では……ああ、もう手遅れだよ。ただなぁ、招待する前に相談の一つもしてほしかったよ。
次からは相談する。いやいや、そんなに萎れなくても良いんだ。上村さんだけなら、どうとでも処理できるから。ええっと上村さん、何か変なことがありましたか。変なことしかない、それ以上に『処理』が気になったと言うのですか。
嫌ですね、冷たくなって見つかるなんてことはありませんよ。
「その冷たくなって見つかることなんですけど……あそこの4人、先日遭難者で見つかった方とそっくりな気がするんです。他人の空似と思って良いんですよね?」
他人の空似以外になにかありますか。ちゃんと死亡診断も出ているんですよね。それはわかっている。ただここに集まっている人を見ると、他人の空似ですませられそうにない。断言しますけど、他人の空似ですっ!
これで良いですか?
「そうでうすか、そうですよね。しっかりと死体があったんですからね。はははっ」
それはそれとして、ここでのことは内密に願います。心配する必要は無いのですか。その理由を教えて貰っていいですか?
「こんなこと外で話しても、誰も信じてくれませんよ。それどころか、頭の方を心配されてしまいます。まず間違いなく、気が狂ったと言われてしまのでしょうね。世の中、荒唐無稽なことを言う人は結構居ます。でもですよ、物事には限度と言うものがありますよね。ええ、ここははっきり言って限度を超えているんですよ」
だから、外で口にすることはないと言うのですね。それは、自分を守ることが理由だと考えて良いのですね。ちなみに奧さん、里帆さんはどうですか? セレスだけでお腹いっぱいなんですか。これ以上の刺激はいらないと言うのですね。
「はっきり言って、田舎のおばちゃんの許容量を超えています」
言っておきますけど、セレスは普通の女性ですよ。普通の女性が、こんなに綺麗なはずがない、ですか。いや、綺麗なのは認めますけど、ただそれだけのことですよね?
「芸能人の追っかけをしたこともあるんですけど、こんなに綺麗な人を見たことはありません。しかも、なんですか、このスタイル。温泉でご一緒したんですけど、いくら何でも整いすぎていますよね」
セレス、温泉に行ったんだ。どこの温泉、この下に温泉施設が残っていた。なるほど、今度行ってみようか。
ええっと、温泉に行くのは問題ありませんよ。ええ、ちょっと驚いただけですから。
「ですので、私たちは黙っていることにしました。勿論、村長にも教えませんよ。首……には出来ませんけど、担当を外されても困りますから」
そうですね、せっかく親しくなれたんですからね。それで、どうです、この宴会は。そうですか、想像した以上に贅沢だと言うのですね。その贅沢と言うのは、料理のことを言っていますか?
違う、違わないけど違うと言うのですね。確かに料理は贅沢だけど、少しお金を出せばなんとかなるレベルでしかないと言うのですね。だけど余興のレベルが凄すぎると言うのですね。Kポップも凄いけど、ここのはそれを超えているんですか。
「前で踊っているのは、エルフ……で良いのですか?」
はい、エルフで間違っていませんよ。彼女たちは、自分たちのことをハイエルフと言っていますけどね。それから白い翼を出しているのは、翼人の人たちです。はい、以前目撃されたのは彼らなんですよ。
ええ、自衛隊の秘密兵器ではありません。白いカラス天狗でもありませんからね。
「この目で見ても、本当のこととは思えないと言えば良いのか……」
こめかみを押さえる所を見ると、上村さんって結構常識的な人だったんですね。そうですか、結構は余分なんですね。
じゃあセレス、上村さんたちは任せるから。今度他の奥さんたちも連れて来る……頼むから、少しは秘密保持のことを考えてくれないかな。
ところで石原さん、翼人とエルフはどうですか? そうですか、期待以上と言うのですね。ただ翼人には気をつけてくださいね。手遅れ、しっかりと魅了されていると言うのですか。ちなみに、誰に魅了されたんですか。なるほど、ヤリスですか。ちょっと冷たい感じが気に入ったのだと。
できれば、エルフとも仲良くなりたい。あそこに居るエルフが良い……すみません、彼女は俺の奧さん……の一人なんです。だとしたら、あそこに居る容姿に不自由しているエルフはどうか、ですか。つかぬ事を伺いますが、彼女は守備範囲に入っているんですか?
「ゲテモノ好きって言わせたいのかな?」
そんなことを言ったら、命が幾つあっても足りませんよ。それぐらいはわかっている。だったら、危険なことを口走らないように。
それ以外のエルフは、みんな良い。ただ、決め手が今ひとつ欠けるんですね。纏めてお持ち帰りできるのなら構わない、のですか。結構欲張りなんですね。
「それはそれとして、彼女を東京に連れて帰っても良いのかな?」
石原さんの仕事場は東京でしたね。それを考えれば、当然出る疑問と言うのは理解しますよ。そして理解した上で答えるのなら、今はダメと言うことになります。ええ、彼女が普通……こちらの人と比べてと言う意味ですよ。普通じゃないのが理由です。
はい、戸籍はなんとか出来ますよ。ですが、医者に掛かることは出来ないんです。人間の医者が、翼人を診ることが出来ると思えませんよね。それ以前に、レントゲンとか撮ったら大騒ぎになりますよ。血液検査って……どんな結果になるんでしょうね。
ええっと神代さん、どうかしたのかな。翼人の血液検査、ああ確かに話題にはしたよ。と言うのか、今まさにその話をしたんだけど。
ええっと、人との違いが見つけられなかった。ごめん、それってどう考えれば良いのかな? ちなみに、エルフや翼人も差が無かったのかな。そうか、差が無かったのか……だとしたら、人間との間で子供が出来ることになるのかな?
「それなんですけど、諸星さんの世界ではどうでした? 情報としてルーテシアさんも、私たちと同じ血液を持っていました」
ルーテシア、ね。確かあちらの世界では、森人と人との間で子供が生まれていたな。半森人だったかな、混血が生まれていたと思うんだ。ハーフエルフ……そう言う呼び方もあったかな。
なんだヴェルファイア。翼人と人との間でも子供は生まれている。ただ生まれた子供は、やっぱり翼人だというのだね。貴重な情報をありがとう。
石原さん、と言うことなんだけど。
「つまり、彼女たちと子供が作れるのか」
ええっと、その気満々と言うことですか。そうですか、その気になっているんですね。ええ、ダメとは言いませんよ、ダメとはね。ただ翼人とエルフは、しばらくこの地を離れられませんよ。当たり前ですけど、彼女たちは存在自体がトップシークレットなんです。
「村の普通の主婦がそこに居なかったか?」
ええ、居ましたね。それがどうかしましたか? トップシークレットじゃなかったのか、ですか。はい、トップシークレットで間違っていませんよ。ただ情報公開の方法を模索していますけどね。すでにザルになっている。大丈夫です、その下に大きなたらいを置いてありますから。
もう良い、もう少し女性を物色するのですか。もしかして石原さんって、結構遊んでいました? そうですか、かなりの修羅場を潜っているんですね。一応注意しておきますけど、彼女たちを普通の女性と思ってはいけませんからね。普通じゃないから良い、ですか。人の趣味に口を出すつもりはありませんよ。ありませんけど、ほどほどにしておいてくださいね。
わかっていたことだが、後沢の選んだ相手が普通のはずがない。だから石原氏が普通じゃなくても、予想の範囲と言って良いと思う。良いと思いながら、常識人に見える立木さんに挨拶をすることにした。定年近くまで大企業を勤め上げたのだ、俺なんか比べものにならないぐらい社会に適応しているはずだ。
ただ後沢が推薦した以上、用心は必要なのだろうな。
立木さん、退屈はしていませんか。そうですか、結構楽しんでいると言うのですね。ところで酒好きと伺っていたのですが、手元にあるのはウーロンハイですか? 違う、ただのウーロン茶なんですね。宴会と言ったら、普通はお酒ですよね。
普通ならそう、だけど今は別の事情を優先している。なんですか、その別な事情と言うのは。
「こんな面白い世界に飛び込んだんです。だったら、少しでも長く楽しみたいと思っているんですよ」
それは、節制と言う意味で言っているのですね。なるほど、自制できるあたりがベテランと言うことですか。ところで奧さんは……リンゴジュースですか。奧さんもお酒を控えている……違う、元々お酒を飲めないのですか。ただ、今は酔っ払いたい気持ちと言うのですね。ええっと、理由を聞いても良いですか?
「回りに、翼のある人とか耳の長い人が沢山いるからです」
だから、現実のものとは思えない。それでも現実だから、心が悲鳴を上げていると言うのですね。ええ、奧さんがとても常識的な人と言うのは理解出来ました。
それで立木さんは、そうですか。別に気にしていないと言うのですね。ただ、興味はあると言うのですね。ちなみに理由を聞かせて貰っていいですか?
「彼女たちの存在に対して疑問を感じている、と言うのが答えになります」
存在に対して疑問……ですか?
「ええ、疑問ですね。ちなみに、魔法に対しても疑問を感じていますよ。まあ、今は細かなことは忘れることにしますけどね」
別の機会に、お話を聞かせて貰えますか。それは構わない。もう少し頭を整理したら教えてくださるのですね。あのぉ、立木さんって本当にエンジニアだったんですか? エンジニアで間違っていない。若い頃は、下っ端として国際標準化に加わっていたんですか。
「海外出張しているときのことなんですけどね、まだ小さな娘に『お父さん、雲の向こうに行ってるんだよ』と空を見上げて言われたこともあります」
それって、笑うことですか。お父さんが死んだことを前提にしていますよね。今こうして生きているから、笑い話にして構わない。9.11の直前に、アメリカから帰ってきたこともある。その後アメリカに行ったときには、国際線がガラガラだったのですか。
ええっと、本当に色々と経験されているんですね。経験はしているけど、一つも身になっていない。後沢にスカウトされるぐらいには、身になっているんじゃありませんか。元の会社に残っていない、それがすべてと仰るのですか。
「仕事としての継続性を捨ててきた。それが答えと言うことです」
なるほど、そう言うことですか。なぜ、と言うのは聞いてはいけないのでしょうね。別に構わないが、面白い話でも無いと言うのですね。
ところでお疲れのようですね。いえ、歳だからとは言っていませんよ。別に構わない、ただ今疲れているのは違うと言うのですか。昨日の夜から殆ど寝れていない。しかも深夜に出発したので、完徹したのと同じだと言うのですね。
ええっと、ずっと運転していたと言うことですか。すみません、前言を撤回させていただきます。見た目に似合わずエネルギッシュなんですね。もう枯れている……奥さんの居る前で聞くことじゃありませんけど、エルフの女性はどうですか?
「何を言わせたい……ちょっと失礼」
誰かの連絡ですか、そうですか、メッセージが来たんですね。今、舌打ちしませんでしたか。
「それはそれとして、誰か魔法を使いましたか?」
魔法ですか。使ったかと聞かれたら、沢山使っていますね。例えば、あっちのステージとか。
「なるほど、翼人の皆さんが飛んでいますね。しかし、こんなに天井が低いのに飛べるんですね」
魔法で飛んでいますからね。天井の低さぐらい……腕を上げたのかな。
それはそれとして、魔法がどうかしたんですか?
「観測されるニュートリノが増えたのだそうです。方向を特定したら、どうやらこちらの方角だったようですね。だから、心当たりがあるよなと言うメッセージが来ました」
心当たりがあるかじゃなくて、あるよなですか。原因を知っていると確信を持たれていると言うことですか。
「ニュートリノが発生源は、例えば恒星の中心核とかです。従って、私が関われるようなものではないと言うことですよ。それで返信ですけど、白を切った方が良いですか? と言うのか、知っていると思う方がおかしいと思いますよ」
取りあえず、その方向で。ところでメッセージをくれたのは、温泉で知り合った方ですか?
「東京にある大学なんですけど、そこで原子物理学の教授をやっている奴です。大芝栄……確か教授だったかな。二人揃って、温泉宿で出禁を食らいましたよ」
温泉宿で出禁って……いったい、何をしでかしたんですか。
「別に大したことをしていませんよ。ただほんのちょっとだけ、飲み過ぎただけです」
ほんのちょっとって。ほんのちょっと飲み過ぎた程度では、宿から出禁を食らうことはないと思いますよ。
「いえ、本当にほんのちょっとです。せいぜい二人でビール2ケース程度です。あと、日本酒1升もあったかな?」
それでちょっとですか……ええっと、確かにちょっとかも知れませんね。あそこに居る女性たち、軽井沢では似たような量を飲んでいましたから。
それで、酔って暴れたと言うことですか。違う、どう違うのですか?
「明け方まで煩かったから……と言うことです。ちょっと、熱くなって語り合ってしまったんですよ」
お恥ずかしいって……奥さん、旦那さん大丈夫ですか? 大丈夫じゃないが、もう慣れたと言うのですね。似たような話が他にもある……ええっと、どう受け取ったら良いんでしょうか。ひょっとして、後沢とも似たようなことをしていませんか?
別に、殴り合った覚えはない。その言い方だと、殴り合ったことがあるように聞こえますけど。若気の至りって……本当ですか?
「大芝には取りあえず、『気のせいだろう』と返しておきました……ああ、返信がありました。『首を洗って待ってろ』だそうですよ」
すみません、なんか剣呑な話になっていませんか。いや『返り討ちにしてやる』って、煽ってどうするんです。
「それはそれとして、大芝を招待しても良いですか?」
ここは、まだ秘密にされているんですよ。はい、内閣総理大臣にも報告されていないんです。下手をすると、大騒ぎになるのは間違いないんです。
「だとしたら、こっそり招待することにします」
ええっと、話を聞いていましたか。しっかりと聞いている。相手も立場があるから、馬鹿な真似はしないと言うのですね。その立場と言うのは、大学教授と言うことですか? 違う、色々と勲章を貰っている。ノーベル賞の有力候補だと言うのですね。
「ところで、あの美人さんは日本人ですよね」
はい、日本人ですね。御衣黄かすみさんと言って、細胞学を研究しているんです。つまり、今回の研究所設立の中心人物になる女性です。
「御衣黄……ですか。確か、薄緑色をした桜の名前でしたね。中々優雅なお名前だと思うのですが……見た目は違いますけど」
見た目を言いますか。それはそれとして、御衣黄と言う桜があるんですか。
「大阪の造幣局で、くぐり抜けと言うイベントがあるんですよ。ええ、通りに沿って植えられた桜の下をくぐり抜けるんです。ただソメイヨシノと言うことはなく、色々な種類の桜が植えられているんです。その中に、御衣黄と言う桜があったと言うことです。後はですね、奈良の春日大社にある万葉植物園にも植えられていましたね」
へー、へー、立木さんは物知りなんですね。
「役に立たない雑学ばかりですよ。広く浅く……浅すぎて突っ込まれると困るぐらいです」
そうなんですか。俺みたいな若輩者にはよくわからないのですが……
「それはそれとして、彼女の手伝いとか必要ですか?」
必要かと聞かれたら、必要と言うのが答えになります。ただ、事情が事情だけに、協力者を求めるのが難しいんですよ。しかも、どんな人に助力を求めたら良いのか、流石に心当たりがないんです。
だったら、京都の大学で名誉教授をしている男と話をすると言うのですか。そちらは細胞研究をしている。だから、何かの役に立つのかもしれないと言ってくれますか。その、今更なんですけど、何者なんですか立木さん。
「第二の人生を切り上げて、第三の人生を歩み始めたロートルですが、それがなにか?」
いえ、絶対に違いますよね、それ。奥さん、どうして謎の笑みを浮かべているんですかっ! どう考えても、人脈がバグっていますよね。
後沢、どこでこんな妖怪を見つけてきたんだっ!
「それはそれとして、今度彼女を連れて温泉に行きたいと思うのですが?」
なぜ御衣黄さんを? それで、奧さんもご一緒なさるのですよね? なぜ、そこで顔を背けるのですか?
「あの集まりに、家内を連れてなんかいけませんよ」
ええっと、どんな集まりなんですか。一応御衣黄さんは、お預かりしたお嬢さんってことも無いか。ただ立木さんと二人きりと言うのは流石に問題が大きいと思いますし、本人も嫌がると思いますよ。
ええっと、早合点は良くないと言うのですか。
「あの集まりと言いましたよね。ですので、一癖も二癖もある奴が集まるんです」
それって、大御所が集まるとか言っていません? ただののんべが集まるだけ……嘘ですよね。
「もしも可能だったら、エルフと翼人を一人ずつ貸していただきたいと思っています」
ええっと、情報の管理が必要と言いましたよね。特に秘密に関することなんですよ。
それぐらいは理解している。それでも、会わせることに意味があると言うのですね。
「彼女のためにもなると思いますよ」
京都の方の人を言っているのなら、間違いなくそうなのでしょうね。それだけじゃない、研究着手を早めることが出来ると言うのですね。
仕方がありませんね……ところで、エルフと翼人ですけど、希望はありますか。そうですか、ラズライティシア様が良いと言うのですね。でしたら翼人は……特に指定は無いが、魔法に長けている方が良い。ちょっとヴェルファイア、こっちに来てくれるかな。
「お呼びでしょうか我が君」
その我が君と言うのは止めてほしいのだが。それはそれとして、立木さんに一人推薦してほしいと頼まれたんだ。
「立木様……にですか?」
こらこら、嫌そうな顔をするんじゃない。なに、もう枯れている人には興味が無い。かなり失礼なことを言っているのをわかっているのかな。それから立木さん、枯れているのは本当と言わないように。
「ちょっとですね、温泉旅行に行こうと思っているんです。ここのお風呂も良いのですけどね、色々な貸し切り露天風呂が揃っている面白い宿があるんですよ」
ええっと、立木さん。それだと、目的が全く不明ですよね。ええ、ラズライティシア様と一緒になって、秘密の一端を明かすことが目的でしたよね。
国家機密を簡単に漏らすわけにはいかない。すみません、先ほどまでと言っていることが違っていませんか。はい、そうですか、指摘してみたかっただけと言うのですね。
「出来れば、頭がよくて魔法に長けていて、何よりも美しい方が良いと思っています」
そうか、ヴァルファイアが行ってくれるのだね。それはなんだ、最後の『美しい方』と言うのが決め手だったのかな。そう、それが理由なんだ。いや、確かにヴェルファイアは美人だと思うよ。いや、多くは語らないよ、多くはね。
「漏れ聞こえてきた話では、われも行くことになったのだな?」
流石はラズライティシア様、話が早くて助かります。行ってくださると考えて良いのですね。
「それで立木と言ったな。うまい飯と酒は用意できるのだな?」
「こことは違った美味を保証しますよ」
「うむ、ならば断る理由はないと言うものだ。ところで、エクシブは置いていくのだな?」
「置いていく必要はありませんよ。ただ、合計で5人ですか……車を借りないとといけないな」
「それなんですけど」
なぜ小谷さんまで混じってくる。きな臭い話が聞こえてきたので、心配になって話を聞きに来たのだと。ああ、かなりきな臭い話になっているね。
「あちらは、大芝栄教授とどなたになるのですか?」
「声を掛けるのは、大芝教授以外には本山享也名誉教授、宇梶正直教授です」
「その人たちが、本当に集まられるのですか? 立木さんが声を掛けて?」
小谷さん、どうかしたのか?
「その人たちが動くと、大騒ぎになるんですけど」
「それは、公式行事の場合ですね。流石に、プライベートでは騒がれませんよ」
「個々人ではそうなのでしょうけど……その3人が集まれば、間違いなく目立ちますよね?」
「本山名誉教授以外は、同じ地区に研究所がありますよ。それから、集まるのは研究所に近い温泉宿です」
「だから、目立たないのだと?」
「ここほどではありませんが、結構な田舎と言うのを保証しますよ」
「それ以前に、本当に集まってくださるのですか?」
「大芝は大丈夫でしょう。本山は、一応煽りのメッセージを送っておきますよ。後はそうですね、後沢氏にも協力をお願いしておきましょうか」
後沢が協力……できることって、お金だけだよな。そうですか、お金なんですね。日本の大学は、基本的に研究費に苦しんでいると言うのですか。スポンサーの話を餌にするのですね。
「立木さんは、経理の仕事をするために派遣されたんですよね?」
「経理の仕事もすると言うのが正確です。経理だけだったら、私である必要は無いと言うことですよ」
ああ、小谷さんが頭を抱えているよ。その気持ち、俺にもわかるなぁ。
「移動手段の提案をして頂けるのですか?」
「こちらで車を出そうかと、運転手付きで」
「監視付きと言うことですね。それで、監視役は白船氏ですか?」
「そうですね、彼に行って貰おうかと思っています」
「つまり、こちらからは6人と言うことですね。男女3人ずつですか、中々バランスが良いと思いますよ」
「ヴェルファイアさんからアクアさんにチェンジしませんか?」
「白船君が行くのだったら、確かにアクアさんに行って貰った方が良さそうだね」
白船君が、一緒に旅行に行きたいと言っていたな。うん、監視役が監視役にならない気もするが……気のせいだと思っておこう。休暇じゃ無いのはマイナスだけど、二人の時間が作れるのだから悪くはないはずだ。
と言うことでヴェルファイア。役目をアクアに譲ってくれるかな? 構わない、ただ少し残念と言うのだね。理由を聞いて良いかな。
「はい、温泉グルメと言うのに興味がわきました。ところで立木様、精力回復の魔法があるのですけど……取りあえず遠慮されると言うのですね。いえ、遠慮される必要はありませんよ」
奧さん、あんなことを言っていますけど。なんですか立木さん。ええ、告げ口をしているんです。奧さんを連れていかないんですよね?
なんですか奧さん、そうですか、話を聞くだけで十分と言うのですね。それは……危ない世界には近付かない。よく旦那さんのことをご存じなのですね。
工事が始まる前には、行政への挨拶が必要となる。特に後沢と堀内が有名すぎることもあり、行政との円満な関係構築には挨拶が必須となっていた。
「押し付け合いで俺が負けただけだ」
長野駅に現れた後沢は、表情を変えずにぼそりと呟いた。ちなみに後沢の後ろには、5名ほどのマスコミ関係者が付いてきていた。
まあ、有名人の後沢なのだから、これぐらいのことは当たり前と言って良いのだろう。つまり、今日の俺は刺身のつまと言う訳だ。
「多分ですけど、私も刺身のつまだと思いますよ」
甘いな、奴らがお上品なわけがないだろう。あること無いこと……訂正だな、無いこと無いこと、妄想をして記事にしてくれるはずだ。
なんだ後沢、俺は間違ったことを言っているのか?
「今回付いてきている奴らはまともな方だ。一応経済・科学関係の記者だからな。コウメイが気にした奴らは、わざわざ足を運ぶ真似なんかしない。今頃は、ギョイコーのスキャンダルの聞き取りをしているはずだ」
御衣黄さんのスキャンダルね。まあ、叩けば……叩かなくても埃は出そうだな。なに、研究室では品行方正にしていたと言うのかな。ちなみに俺は、汚職の『お』の字もない品行方正な市会議員だったんだ。その俺が、どう言う訳か汚職議員に決めつけられたんだぞ。
つまり御衣黄さんは、後沢の情婦に見られると言うことだな。だとしたら、堀内の関与する説明が付かないと言うのか。あのなぁ、スキャンダルをねつ造するマスコミが、整合性なんか気にすると思うか。そう言うことだ。ちなみに小谷さんが言うには、俺が所長になるのは堀内の趣味らしい。だからセレスを連れて行けばと言われたのだが、後沢の進言に従いセレスはお留守番をすることになった。どうやら、勘違いをさせておいた方が扱いやすいのだそうだ。
「それに、セレスさんを連れて来るとお前らが霞む」
なんだったら、人前でキスぐらいしてやろうか。こちらがダメージを負うので止めてほしい……俺たちが夫婦と言うのは今更だよな。当然することは何度もしているんだぞ。
それでも、見せつけられるのはダメージが半端ない。ああ、そうか、今度しっかり見せつけてやろう。
それは良いのだが、ここからは……ああ、お迎えが来ているのだな。流石は日本を代表する実業家だな。相手も、かなり気を使ってくれている訳だ。
嫌な言い方、まあ、そのつもりで言っているのだから今更の指摘だな。
長野駅から県庁まで、差し向けられた車で10分弱の行程だった。黒塗りの車で正面玄関に乗り付けた俺たちは、県庁職員の出迎えを受けることになった。知事、知事はこんな所に出てこないぞ。一応立場があるので、応接に遅れて現れると言うのが通常のプロトコルになる。表敬訪問なのだから、それが世間の常識と言うことだ。
しかしまあ、なんだ。まさか俺の年齢が話題になるとは思わなかったぞ。確かに俺は、戸籍上24歳だからな。死ぬ前の年齢でも、29だと考えればいずれにしても若すぎると受け取られても不思議では無い。
彼には重要な役目を担って貰います、か。色々とぼかしているのは、本当のことを言えないのだから当然と言うことだな。ただなぁ、その重要な部分を聞きたくて仕方が無いと言う顔をしているぞ。まあ、無視するしか無いのだが、いいのか、そんなに正直に顔に出して。それからこの知事、結構なスケベ親父だな。握手の時に、御衣黄さんだけ不自然に長かったぞ。その意味でも、セレスを連れて来なかったのは正解と言うことだな。
挨拶が終われば、揃って記念写真と言うことになる。いや、真ん中は知事と後沢だろう。俺は端っこ……写真のバランスが悪いと言うのか。仕方が無いよな、俺はしがない雇われ所長なんだから。
写真撮影が終われば、少ない記者を前にした記者会見と言う奴になる。思ったよりも数が少ないのは、面白みのない発表だからだろうか。まあ、細胞研究なんて地味そのものだからな。
「研究所設立の理由……面白い素材を見つけたからと言うのが答えになる」
「下世話な噂は知っているが、別に今回に限ったことじゃない」
「結果を見せれば、世間は手のひらを返してくれる」
「堀内氏の趣味……俺は関与してないので知らない」
おい、そこは否定する所だろう。
「山奥に研究所を作る理由。美しい自然と綺麗な水と空気があるから」
「敢えて、人目に付きにくい場所を選んでいる」
「御衣黄氏の個人研究所……設立はそうなるが、拡大していくことを考えている」
「研究者の売り込みは受け付けるつもりだ。ただ、今はその時では無い」
「国内の研究所との連携……別に、国内に限るつもりは無い」
「いずれにしても、実績も出していない以上、その話は時期尚早だと考えている」
「資金の回収。実業家である以上、資金の回収を考えるのは当然」
「ただし、投資である以上失敗も覚悟をしている」
「見極め……1年かもしれないし、10年かもしれない」
「技術分野を考えれば、そんなに短期間で成果が出るとは思えない」
可も無く不可も無く、当たり前のことを当たり前に答えただけと言うのが後沢の会見だった。ある意味、肩透かしと言うのか、面白みのない会見に違いないだろう。
一応研究所の構成年齢の話も出たのだが、「偶然」と後沢が押し切ってくれた。
「県としての支援を考えている」
「地元自治体も、最大限の配慮を行う」
「当然、法に従っての対応となる」
「過疎の自治体として、先端技術を扱う研究所が出来るのは喜ばしい」
「可能であれば、さらなる誘致に努めたい」
長野県知事、大谷村村長……来てたのか。まあ、顔を出しても不思議じゃ無いな。文字にするとありきたりだが、はっきり言って態度は思いっきり前のめりだった。それだけ、長野県北部地域は投資を求めていると言うことか。
俺もしがない市会議員だったのだから、その気持ちはとても理解出来ると思ってる。何しろ少子高齢化の社会では、地方都市は何もしなければ……多少の手を打ったとしても、衰退していくのが目に見えているのだからな。
ただなぁ、本当のことがわかったときにどうなるのだろう。それを考えると、県知事は良いとして村長には悪い気がするな。仕方が無い、心の中で謝っておくことにするか。申し訳ありませんと。
次の質問は、俺に、そうか俺なのか。
「2年前に死んだ市会議員にそっくり……その市会議員を存じ上げてないのでわかりかねます」
「経歴が不詳……あまり誇れる経歴じゃありませんので」
「なぜ後沢氏の目に止まったのか……質問相手が違いませんか?」
「どの分野を専攻したのか……法律ですが、なにか?」
「所長としての抱負ですか、研究員が成果を出せるよう、環境を整えていきたいと思っています」
まあ、胡散臭い奴が現れたと思われたのだろうな。それに、俺の経歴を調べるのは予想されたことでもある。だから、菅谷先生にはアリバイと言う奴を作って貰っている。作って貰っているが、それを強調しないと言うのも戦略になっていた。
さて、最後は御衣黄さんか。まあ、色々な意味でほじくり返したいことがあるのだろうな。
「後沢さんがパトロンと言うのは間違っていません」
「スポンサーをお願いしたのも確かです」
「女性を武器に使ったか……流石に、その質問は失礼だと思いますよ」
「愛人として囲う程度なら、わざわざ研究所を作る必要はないと思いませんか?」
「芸能人並みに綺麗……一応褒められたと思うことにします」
「ええっと、研究のことを話題にしませんか?」
「万能細胞、ですか。すでに実用化段階に入っていると思います」
「私は、どちらかと言えば細胞の寿命……単体ではありません」
「人の寿命と言い換えた方が正確でしょう」
「ただ寿命を延ばすのでは無く、若さを可能な限り保つことを考えています」
「不老長寿、ですか。誤解を生むので、その表現は使わないことにしています」
「ただ考え方として近いことは否定いたしません」
「雲を掴むような話……否定はしませんが、科学などそんなものではありませんか」
「ええっと、研究所の立地が微妙……ですか。どんな答えを期待しているのですか?」
「冬は、雪に閉ざされることになる。ええ、除雪をしないと積雪が4mを超えますからね」
「補給さえ確保できれば、雑音が入らなくて良いと思いますよ」
「出会い……ですか。何を私に言わせたいのですか?」
「ご期待に添えるかどうかわかりませんが、良き出会いがあればと思っていますよ」
なぜ、そこで俺の顔を見る。記者へのサービスって、そんなサービスが必要なのか。ゲスな勘ぐりをさせておくと、後から扱い安くなるし、煙に巻くのもやりやすくなる……そんなことを考えないといけないのか?
おや、最後の記者質問か。しかしなんだ、胡散臭さ満点の奴だな。地元紙の記者? 地元紙の記者が、変装をして現れるのか。
「地元に先端の研究を行う研究所が出来るのは歓迎したいと思います」
そう前置きをした記者は、もう一度「なぜ」を持ち出した。
「大谷村の北地区ですが、御衣黄さんとは関係が無いかと存じます。その関係の無い立地を、なぜ選ばれたのでしょうか?」
「理由でしょうか。諸星さんと知り合ったことがきっかけですね」
「もう少し踏み込んだ質問を宜しいでしょうか?」
「構いませんが、諸星さんにはとても素敵な奥様がおいでですよ。質問によっては、関係の無い人を不快にさせることを忘れないでください。ちなみに、私は勝ち目の無い戦いはしない主義です」
「つまり、今回の研究には勝ち目があると仰るのですね?」
「研究をする以上、勝ち目があると思ってやっていますよ。それとも、初めからダメだと思いながら研究をするのでしょうか?」
「これは、質問を失敗しましたね。では、最後に、立地なのですが……流石に冬が厳しすぎませんか?」
「それは、否定できませんね。ただ、意外に快適に過ごすことが出来ましたよ」
「少し前になりますが、観光客が4人遭難されています。そのことを聞いて、不安になったりはしませんでしたか?」
「亡くなられた方にはお悔やみを申し上げます。役場の方に伺った所、いささか軽装過ぎたのかと思います。自然を舐めずに、向き合っていくことを考えています」
さりげなくファンタスティック・フォーのことを持ち出してくれたな。なるほど、アメリカから送り込まれてきたと言うことだな。これで、俺たちに付けられたマーカーの意味も理解することが出来た。
反撃? そんな真似はしないぞ、今のところは。勿論、荷造り紐さんには活躍して貰うがな。前の失敗に懲りて、慎重になってくれることを期待しよう。慎重になってくれなかったら、まあ、その時はその時と言うことだな。
県庁での挨拶の後、俺たちは村長たちと一緒に大谷村まで移動した。そこで役場総出お出迎えを受け、再び記念写真の洗礼を浴びることになった。まあ、こちらにはマスコミ関係者は付いてこなかったのだがな。従って記念写真は、スマホの砲列と言い換えることが出来る。
あそこに居るのは上村さんかな。なんか嬉しそうだけど、どうかしたのかな。あれっ、なぜ奧さんまで? いやいや、どうしてセレスがここに来ているんだ。いや、悪いとは言わないぞ。ただなぁ、後沢が落ち込んでくれるんだよ。
「理由が違うのだがな」
悪いな、セレスは俺の奧さんなんだよ。しかし今日は、一段と気合いを入れてお洒落をして来たんだな。銀座のお店から新作を送ってきた……どうしてそんなことになっているんだ。
そうか、東京に来たときには顔を出してほしいと言うのか、別に構わないのだが、いつ東京に行くことになるんだろうな……ああ、菅谷先生に呼ばれていたな。だったら、さほど遠くない時期と言うことになるのか。
じゃあ、御衣黄さん、セレスの横で記念写真を……嫌がらせ、別に嫌がらせと言うことはないぞ。記者会見で言ったことを、ここで証明するだけだよ。
「それを、嫌がらせと言うんです」
そうか、それは新しい発見だな。今度仕返しをする……なぜセレスが頷いているんだ。私は、一途な女性の味方。それって、奧さんが言って良いことじゃないと思うんだ。
イモ研発足
少しずつばれてきています




