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住む所をどうしよう

大谷村は山の中

村の特産は異世界です


・住む所をどうしよう


 私たちは知らなかったのですけど、どうやら事件は前日に起きていたようです。何のことかと言うと、私たちの身代わりとして用意された死体のことです。当初の予定では、仕入れに行くボタンが第一発見者になるはずでした。そのつもりでいたのですけど、どうやら別の方が発見されたようですね。

 ただこの程度のことは、元々想定にあったことです。しっかり医学的にも確認されているので、どう検死をしても私たち4人は『凍死』したことになるはずです。


「テレビ、見た?」


 ええ、ボタンと二人でしっかりと確認しましたよ。コミュニティテレビでは、結構な騒ぎになっているみたいです。

 ただニュースを聞いている限り、事件性……犯罪方面ですけど、事件性は薄いように見られていますね。ただ私たちがここまで来た目的ですか、そのことに対して疑問を持たれているようです。


「古民家民宿だっけ? 予約なんて入れてないものね」


 そう言うことです。だから、私たち4人が雪道を歩いていた理由が付かないんです。それに、私たちの格好って雪山登山をする格好でもありません。どちらかと言えば、雪を舐めていると言われても仕方が無い格好でしたからね。


「それで、私たちの携帯とかも見つかっているのよね?」


 ええ、身元の確認も出来ていますね。パスポートがある以上、身元に対する疑義は浮かんでいないようです。ニュースを見る限り、目撃証言も問題ないようです。


「これで、私たちは自爆による凍死と言うことになるのかしら?」


 この地区的には、ですね。ただステイツは、私たちの行動を知っているんです。多分ですけど、返り討ちに遭ったと思われるのではありませんか。

 ええ、彼らは私の能力を知っていますからね。あんなところで、間抜けにも凍死するなんてことが無いのはわかっているはずです。


「だとしたら、コーメーが私たちを殺したことになるのよね?」


 おや、コーメーって呼び捨てですか。それって、早速しちゃったと言うことなのかな、どうなのかな?

 あらあら、顔を真っ赤にしてくれるんですね。リズって、そんなに純情だったのかしら? それからお願いだけど、強制力を使うのはやめてくれるかな。この程度のことは、女性同士の軽口だと思うのよ。


「強制力、ねえ。使っても良いけど、ボタンに迷惑が掛かるから」


 それって、私がボタンを襲うと言うことですか。ええっと、彼女のことをきらいじゃありませんよ。でもですね、やっぱり男がいいかなぁって思うんです。


「でも、セレス様って……とっても素敵だったわよ」


 そりゃあ、あの人は常軌を逸した美人ですから。と言うのは良いんですけど、セレスさんとご一緒したのですか。いえ、羨ましいと言えばそうですけど、あなたは初めてだったんですよね。

 そうですか、後から加わられたのですね。それもどうかと思うのですけど、一応は気を使ってくださったと言うことですか。


 それはそれとして、一つステップが進んだことになりますね。このこと、ジャックたちは知っているのでしょうか。ええ、あちらにテレビがあるのは知っていますよ。それでも、テレビを見ているかどうかは別だと思うんです。

 そう思うのなら、さっさと第二に転移をしろですか。だけどあの二人、今はどちらにいるのでしょうね。ええ、朝食を食べてまったりしている可能性もあると思うんです。はい、私の手にあるのは携帯電話ですね。

 ええ、シャルロットです。二人は今……そうですか、第一にいるんですね。そのニュースは、ええ、ちゃんと確認をしたと。こうして生きているのに、死んだことにされるのは微妙と言うのですか。それでですね、これからリズと二人でそちらに向かうことにします……なんか、私たちが行ってはいけないのですか? いえ、なんとなくそんな空気を感じたと言うことです。気の使い過ぎ、だったら良いんですけどね。


 それでなんですけど、説明を求めても良いですよね。邪推をするな、ですか。翼人とエルフ、しかも女性に囲まれていてそれを言いますか。違う、自分たちの経験を教えただけと言うのですね。その割に、女性の目が危ない気がするのですけど。

 だったらリズはどうなのか、ですか。はいごめんなさい、流石にリズのことを棚に上げるわけにはいきませんね。それで、どんな話を教えたんですか。そうですか、あちらの世界に召喚された所から話していたのだと。それって、あまり話したいことではありませんね。


「ですが、皆さんも苦労をされたのだなって。本気で感心させていただきました」


 ええっと、誰さん……エリオさんですか。ごめんなさい、まだこちらの人たちの顔を覚えていないんです。仕方が無い、そうですか、私のことを知らないのですね。昨夜の宴会では、しっかり挨拶をしたはずなんですけど……あの、どうして顔色を変えるんです。

 なんですか、その封印した記憶と言うのは。はい、昨日皆さんに美声を披露しましたよ。そうですか、記憶が蘇ってきたのですね。それで、どうして青い顔をして震えてくれるのですか。自覚がないのか、ですか? いえ、怖がられる覚えがないのですけど。


「だから、俺たちは止めろと言ったんだ」


 どうしてです。皆さんに唄えと促されましたよね。その結果がどうなったかですか、確かに宴会が打ち切りになりましたね。でもですよ。その責任を私に持ってきてくれるんですか。なぜ、全員で揃って私を指差してくれるんです。翼人の皆さんまで、どうして私の責任だというのでしょう。

 なんですか、まだ何人か立ち直っていないと言うのは。ハイエルフの方でもそうだと言うのですね。それって、私が悪いんですか、そうですか、私が悪いのですか。でしたら、唄うのは気持ちが乗ったときにしておきます。絶対に止めてくれ、なのですか。そこまで言われなくてはいけないことなのでしょうか? そうですか、そこまでのことなんですね。


 それはそれとして、本当に大変だったんですよ。この世界から攫われただけじゃなくて、魔王を倒したのに始末されそうになったりして……もう聞いた、のですか。でしたら、十傑衆との戦いですけど……こちらも聞いたのですね。


「それよりもですね、シャルロットさんはお買い物に行くことになると聞いています」


 ええ、ボタンの手伝いをすることになっていたわね。ところで、それがどうかしたのですか。


「その、ですね。出来たら買ってきて貰いたいものがあるんです」


 だったら、ボタンに頼んだ方が早いと思うんですけど。そうでなければ、シズカさん。いえ、駄目と言うつもりはありませんよ。ただ私の買い出しデビューは、まだ決まっていないんです。

 ああ、そんなに残念そうな顔をしないでください。それで、どんなものが欲しいんですか? 本、アンソロ本と言うのですか。すみません、よくわからないのですが……その、どういった傾向の本なのですか、そのアンソロ本と言うのは。サンプルがある……ちょっと待っててほしいと言うのですね。ええ、構いませんよ。


 しかし、エルフ……ハイエルフですか、違いがよくわからないのですけど、それはそれとして可愛らしい存在なのですね。たしか私たちの行った世界では、思いっきり人を見下していた記憶があるんです。ええっと、翼人の方々にも見下されていたような……

 そうですか、以前は見下していたと言うのですね。飛ぶことも出来ない地べたを這いずり回る虫……ええっと、流石に言いすぎだと思いますよ。だけど、今は違うと仰るのですね。荷造り紐に手も足も出なかった……それはですね、私たちも同じ経験をしているんです。そうですか、ハイエルフの方たちも同じ経験をしているのですね。それを操るコーメー様最強と言うことですね。


 ところで何さん……ソナタさんと仰るのですね。あなたの居た世界では、魔王とか居たんですか?

 魔族と言う種族がいた。従って、その王と言う意味での魔王はいたのですか。その言い方を聞くと、私たちの言う魔王とは違う存在に聞こえますね。多分違う、普通に国が営まれていたと言うのですか。魔族にしたところで、人と同じで地べたを這いずり回る虫……ごめんなさい、翼人ってどれだけタカビーだったんですか。今は違うと言われてもですね。自分たちは、煩く飛び回る羽虫に過ぎないと言うのですか。こう言っては何ですけど、落差が極端じゃ有りませんか?


 ああ、エリオさん戻ってきたんですね。それで、手に持っているのが『アンソロ本』なのですか。どこかで見た覚えのあるキャラクターなのですけど、これって公式なんですか? 一応公式、ただ作画している人が違うのですか。ああ、色々な人が書いているんですね。だから、『アンソロジー』なのですね。

 でも、これならボタンに頼めば良いんじゃ有りませんか? ボタンの趣味とは違う、だから頼みにくいと言うのですね。ちなみに、ボタンの趣味ってどんなのです? ええ、同人誌の執筆と言うのは聞いています。ただ、同人誌と言われてもよくわからないのですよね。だから、身を守るためにも情報を得ておく必要があるんです。


 なんですソナタさん、昨年ボタンが書いた本があるんですか。どうして、そんなものを持っているんです。献本を受けた……献本ってなんです。本を寄贈されること、少し手伝ったからくれたと言うのですね。それを持ってきてくださるのですか。だから、少し待っていてほしいと。はい、構いませんよ。どうせ、当面することはありませんので。


 しかし、翼人の方たちって綺麗な人が多いんですね。勿論、ハイエルフの皆さんも美人だと思います。褒めて貰えて嬉しい、ただその分生きていくのに問題が起きやすかった。ええっと、一体何があったんですか?

 見た目が良いので、奴隷狩りに狙われると言うのですね。今ここに居るのも、奴隷狩りに襲われた結果なんですか。大勢の奴隷狩りに村を囲まれ、焼き討ちに遭ったと言うのですね。酷い目に遭ったけど、今は楽しく暮らせている。だったら良いんですけど、流石に腹が立ちますね。そうですか、ラズライティシア様とコーメー様が報復をしてくれたと言うのですね。

 ところでエリオさんに……エリオで良いのですか。だったらエリオに聞きますけど、あなたの居た世界……今はパンの国と言うのですか。ええっと、どうしてパンの国と言うんです?


「その、孝明様と静香様が話し合った結果だそうです」


 だから、よくわからないのだと。すみません、だったらシズカ様に聞いてみます。

 それはそれとして、質問なんですけどね。その、パンの国でしたっけ、パンの国には魔王はいましたか? 魔王って何? ええ、その答えだけで事情は理解出来ました。パンの国には、魔王はいなかったのですね。当たり前ですけど、それぞれの世界にはそれぞれ事情が違っていると言うことですか。


 あらソナタさん、早かったのですね。それで、手にあるパンフレットを書いたのシズカなのですね。パンフレットじゃない、薄い本と言うのですか。その薄い本って、本の状態を言っていますよね。違う、『薄い本』でどんな本なのか通じるんですか。

 それで、どんな本をって……ええっと、ちょっとボタンとの同居が不安になってきました。なんですか、この男同士の絡みは……いえ、別にその傾向の人たちを差別するつもりはありませんよ。ただ、女性のボタンが書くようなものなんでしょうか。似たような本を、とある場所で沢山見た、のですか。しかも売り子には、女性が沢山いたのですね。それって、一体どんな魔窟なんでしょう。ちょっと……かなり疑問に感じてしまいました。ボタンとの付き合い方を考えた方が良さそうですね。

 それからエリオ、アンソロ本のことは承知しました。どこで売っているのか、教えてくださいね。




 予定とは違いましたが、問題が生じるほどではありませんでした。発見のされ方を考えると、むしろ薄墨さんが発見するより良かったのかも知れません。死体を発見した方には申し訳ありませんが、無関係の第三者と言うのが良かったと思います。


「確認をしましたが、発見者の沢渡(さわんど)主税(ちから)氏は大谷村の住人でした」

「あちらの派遣した工作員ではないと言うのだね」

「こんなど田舎に駐在させるほど、あちらも人手が余っているとは思えませんね」


 ここに諸星さんが集落を作る……それ以前に、諸星さんと言う存在があるのを予想するのは無理だと思います。勿論、未来予知とか言うチートが居れば別ですよ。でも未来予知って、そんなに便利な能力じゃ有りませんよね。


「ラズライティシア様が試してみたことがあるそうだよ。その結果、自分がするだろうこと以上の情報は得られなかったそうだ。新聞を見ると言う自分の行動が未来にあるのなら、その新聞の中身を見ることが出来るとかだね」

「宝くじ……と言うより、ギャンブラーだったら垂涎の能力の気もします。ただ、今回の場合は役に立たないのでしょうね」

「俺の知らない使い方が無い限り、多分そうと言うのが答えになるかな」

「だとしたら、この後アメリカはどんな行動に出るのでしょうか?」


 こっそりコンタクトすると言うのは、これで失敗したことになるわけです。だとしたら、正面から門を叩いてこようとするのでしょうか。

 その疑問に対して、諸星さんは『外交』と予想通りの答えを口にしました。その場合、彼の国に対して弱腰の日本ですからね。色々と難題を押しつけられるのが目に見えるようです。


「ただ、政府の中でも私たちのことを知る人は少ないですよね。それを考えると、外交ってどのような舞台で持ち出してくれるのでしょうね」

「それはどうなんだろうね。ところで、服部さんたちはSNSとかやっていたかな?」

「自衛隊から許可が出ていないので、今のところ情報としては出していないようです。ですので、昨年のコミケ映像は、すべて参加者した第三者によるものだそうです」

「つまり、その線からは辿れないと言うことか。だとしたら、暢気にヘリで乗り付けてくれた自衛隊幹部からかな。確か、定期的にあちらと協議をしていたはずだよね」

「実務者協議ですか。定期的に開かれていますが、出席しているのは別の部署ですね。むしろ、在日米軍のトップとのホットラインの方がありそうです」

「吉岡さんが、対応を間違えないことを願っているよ」


 そこで対応を間違えたら、強制的に表に引きずり出されますからね。いや、双方の利益を考えたら、秘密裏と言うことも有り得ますか。ただ諸星さんの舵取りが難しくなるのは間違いありませんね。

 嫌そうな顔をしていますね、しっかりと嫌そうな顔をしていますよね。そう言う話は、一介の市会議員に持ってきてほしくないと言うのですか。確かに、市会議員が外交的に鍛えられているはずがありませんからね。諸星さんが言うことは、とても良く理解出来ますよ。ただ諸星さんは、異世界人たちの保護者になってしまったんです。だから、諸星さんが頑張らないといけなくなったんですよ。

 そんなものになった覚えはない。だったら、こんな集落を作っちゃダメだったんですよ。諦めてください、諸星さんの代わりになれる人なんて居ませんから。


 それはそれとして、喫緊の課題は住人の住まいです。今は相部屋で凌いでいますけど、行き詰まるのが目に見えていますよね。後沢さんに連絡をしたのかですか。一応しましたけど、すぐには動けないのだそうですよ。違いますね、手配をしてもすぐに解決できるのかわからないのだそうです。

 理由、理由ですか。村営バスが利用していましたから、村有地の可能性があるんです。そうなると、払い下げを受ける理由が必要になるんですよ。払い下げ自体は、多分ですけど認められると思いますよ。理由の方は、県に申請した理由の使い回しですかね。ええ、IMO研関連の敷地確保と言う奴です。近くに平地が少ないですからね、各種施設を作ることを考えれば平地を確保することは不自然ではありませんので。


 ええっと、本宅はどうなっている、ですか。あれは、自衛隊が用地として確保しています。


「それなんだが、広さ的にはどれぐらいあるんだ?」

「そう言えば、正確には確認していませんでした。考えて見れば、本宅ってかなり広い平地がありましたね」


 本宅が建っている空き地、そして裏に連なる杉林。その権利関係を確認するのは確かに必要そうですね。はい、こちらも後沢さんに動いて貰いましょう。加えて言うと、白船さんにも確認して貰った方が良さそうですね。登記として、どこまで所有地になっているのかは確かに大切だと思います。


「今、大小合わせて5軒建っている。それに加えて、食糧・資材倉庫にくっついた事務棟があるだろう。そこを整理すれば、そこそこ広い建物が建てられそうな気がするんだ」

「建ぺい率の問題がありますから、目一杯に立てるのは無理ですよ。多分ですけど、建ぺい率で20%、容積率で60%ぐらいだと思います」

「それでも、かなりの建物が建ちそうじゃないかな?」


 それは否定しません。ですが、結構場所を選ぶことになりますよ。何しろ私たちの住まいは、結構無秩序に配置されていますからね。

 それは、なんとかなるのですか。そうですか、なんとかなるのですね。いえ、諸星さんがなんとかなると言った以上、疑問を挟んでも意味が無いことは思い知らされていますので。


「何か嫌って気もするけど……それを忘れるとして、あのゲートも建物で隠す必要があるよな」


 あのゲートですか。確かに、野ざらしにするのは問題がありますね。自衛隊に行って、プレハブの倉庫でも用意して居貰いますか。自分で出来る……それはわかっていますが、強制力を乱用するのは感心しませんね。勿論、駄目とは言いませんよ、ただ自衛隊を使ってあげるのも親切な気がするんです。

 ここまで、十分に貢献してくれたと言うのですね。あまり頼ると、アメリカに目を付けられるのですか。今更手遅れの感もありますけど、言っていることに間違いありませんね。だとしたら、権利関係だけ確認することにしましょう。村有地だったりしたら、村との調整も必要になりますね。


 わかっていましたが、少し失敗したと思いませんか。ええ、意外に使える土地がないことを言っています。目立たないと言う意味では、確かに選択は間違っていなかったと思いますよ。ただ予想外に、住民が増えてしまいましたよね。このままだと、もう少し下まで集落を広げる必要が出てしまいそうです。

 それにしても、あまり平地がないのは確かなんですけど。そうですね、あと直線で4km程下がればそこそこの土地が出てくると思います。ええ、今は人が住んでいませんよ。人が住んでいるのは、そこから更に2kmぐらい国道へと向かったあたりですから。そうです、そのあたりまで除雪がされてバスが通っているんです。ファンタスティック・フォーが発見されたのは、更に1kmぐらい降りた所ですね。


 それから、ふっと思いついたんですけどね。ええ、あまり良くない話だと思います。

 そのですね、あちらの世界からこちらに来る理由のことです。諸星さんは、ラズライティシア様との戦闘がきっかけですよね。そして翼人たちは、求愛……と言う名の襲撃が理由だったと思います。そしてハイエルフたちは、奴隷商人による襲撃がきっかけじゃないですか。はい、言いたいことがわかった気がする、ですか。

 そうです、何らかのトラブルが理由になっていると言いたかったんです。平和に暮らしていたら、戻ってこようとか思いませんよね。


「指摘されてみて……気が重くなったと言えば良いのか」


 ああ、しっかりとため息を吐いてくれましたね。翼人たちは、まだマシでしたけどね。ハイエルフたちの時には、武装集団がこちらに来てしまいましたよね。たまたまここだから良かったんですけど、町の真ん中だったら大きな被害が出ることになります。

 そしてファンタスティック・フォー……シャルロットさんが言っていた、魔王ですか。もしも魔王が転移してきたら、奴隷商人の比じゃない被害が出ると思うんです。


「否定できないと言うのか、ここ以外だととんでもないことになりそうだね」


 その、『ここ』なんですけどね。ここにした所で、戦闘をするような場所がないんですよ。諸星さんの力で転移場所をねじ曲げたとしても、適当な広さのある場所がないと言う問題があるんです。

 ああ、頭を抱えてくれましたね。流石に、そこまで想定していませんでしたか。現時点では、無いことを願うしかないと言うのですね。ええ、よくわかりますよ。私だって、魔王軍の襲撃なんか受けたくありませんよ。襲撃ならまだまし、戦闘を持ち込まれる方が問題が大きいのですか。

 ええっと……そう言うことですか。目標がこちらにないと言うことは、無秩序に戦闘地域が広がってくれますね。確かに、問題が大きいと思います。


 それで質問ですけど、その時にはどうされますか。近くだったら、すぐに制圧をするというのですね。でしたら、東京だったらどうします? どうしようもない、依頼を受けたら出撃することになるのですか。

 でしたら、もう少し飛躍した質問をしますね。例えばですね、ニューヨークだったらどうしますか? アニメに出てくるようなドラゴンとかだと、シャレにならない被害が発生することになりますよ。はい、リアル怪獣映画と言うことになります。


「もう、そうなったら開き直るしかないんだろうね」


 つまり、勝手に出撃すると言うのですね。違う、諦めて傍観者になるのですか。自国民を守るのは、その国の政府の仕事だからですか。言っていることはわかりますけど、気分的にはよくありませんよね。だから、開き直るしかないと言うのですね。はい、了解しました。その時は、私も傍観者になることにします。

 ところでファンタスティック・フォー……ジャックさんって、ドラゴンの首を叩き切ったことがあるそうですよ。なにやら、グレゴリーさんが足止めをして、その隙に切断の能力で首を叩き切ったそうです。大きさは……10mぐらいとか言っていましたね。そうですか、ドラゴンとしてはかなり小さいのですね。一つ伺いますが、諸星さんはドラゴンを見たことがありますか。そうですか、あるのですか。


「100mぐらいの奴だったかな。師匠と一緒に冒険に行って、ドラゴンの巣に突き当たっちゃったんだ」


 それで、どうしたんです?


「どうしたって言われても。俺が殺生を嫌っているのは知っているだろう。だから、大人しくしていろと命じてからお宝を貰って帰ってきた」


 物語だと、ドラゴンって執念深いことになっていますよね。銅貨1枚でも、執念深く追いかけてくると言う話だったと思います。

 その点は大丈夫、ちゃんとドラゴンと話をしたんですね。ええっと、その話って穏便なものでしたか。自分としては穏便、脅したとしても少しだけと言うのですね。少しであろうと、ドラゴン相手に脅しをかけたと言うのですか。そう言うのって、穏便とは言わないと思いますよ、普通は。


 それはそれとして、私たちにも覚悟が必要と言うことです。ところで、こことか近くに現れた場合ですけど……どうやって迎撃するんですか? 原則として、諸星さんとラズライティシア様と言うのは変わっていない。ただ翼人の女性が使えるので、事情によっては彼女たちを投入すると言うのですか。

 ハイエルフは投入するのですか? 彼女たちまで投入することになったら、この辺りが地獄になると言うのですね。それって、あまり考えたくない可能性ですよね。ところでファンタスティック・フォーは……翼人たちと同じ扱いなのですか。はい、理解させて貰いました。


 こんなことを言っては何なのですけど、しばらくで良いので落ち着いた時間を過ごしたいですね。月替わりメニューは勘弁してほしいと思います。




 人が増えたので、入れ物の心配が出てしまった。最初に確保するのは土地なのだが、選択した場所が徒になってしまった。どう言うことか、つまり極端に平地が少なくなっていたんだ。そして道沿いにある平地は、猫の額ほどの広さしかない。そこそこの広さを求めると、絶望的に土地がなかったのだ。

 それで本宅側に目を付けたのだが、小谷さんに現実を突きつけられてしまった。


「諸星さん、新築には色々と申請が必要なのを知っていますか?」


 申請……? ああ、申請ね。それで、どんなものがあるのかな?


「開発許可を最初にとる必要がありますね。本宅の土地が『市街化区域』なのか『市街化調整区域』なのか。家を移築しましたから、『山林』『農地』ではないと思いますけど。その確認から始める必要があるんです」


 ええっと、結構面倒に聞こえるのは気のせい?


「地目変更は結構面倒ですね。そして道路占用許可とか水路占用許可が必要になります。道路使用許可は、工事の際に必要になってきます。それからそれから、建物を作るには建築確認申請が必要になってきます。これで確認証の交付を受けないと、建物を建てることは出来ません」


 ええっと、だとしたら第一とか第二は大丈夫なのかな。あれは、建っているものをリフォームしただけ。それで押し通すしかないと言うのだね。


「確認証をとるためには、建築確認申請書、建築計画書、認定書、設計図、構造計算書等々を用意する必要があります。公有地を取得するのであれば、払い下げに関する申請も必要になります」


 ごめん。ギブアップ。なんで、こんなに申請することが多いんだ?


「無秩序な開発を防ぐため……と言うのが理由ですね。頭の悪い人は、すぐに『利権がぁ』と騒ぎますけどね。ちゃんとやらないと、事故やら環境破壊やらが起きてしまうんです」


 趣旨は理解したけど、それだと時間が掛かって仕方が無いな。今はまだ良いけど、すぐにハイエルフが増えることになっていたはずだ。彼らを収容すると、結構ギリギリになってしまうんだ。


「でも、違法行為は出来ませんよね。県知事を味方に付ければ、手続きは多少加速できますけどね。後は、村役場に協力を求めるぐらいでしょうか。後沢さんが動いているのなら、結構協力してくれるんじゃ有りませんか?」


 そうかもしれないけど、秘密をどうやって守るかと言う問題もある。ああ、開き直って全部ばらしたくなってきたぞ。短気は損気、それぐらいは知っているけどね。だけど、すぐに住宅問題が破綻しそうな気がするんだ。

 だったら、パンの国を利用したらどうだと言うのかな。いや、確かに伯爵なんかになったけどさ。その地位を利用すれば、広い住まいを確保できると言うのだね。魔法で家を建てても、誰にも文句を言われないと言うのか。なにか、悪くない手に思えてきたぞ。


 だとしたら、セリカに相談をしてみるか。ただあちらの住環境なんだけど、こちらの技術を持ち込んでも良いのかな。具体的に言うと、電気製品だね。冷蔵庫とかエアコンとか、絶対に便利だと思うんだよ。そうそう、ガスコンロとかもあった方が良いだろう?

 否定はしない。ただ限度を考える必要があると言うのだね。だったら、テレビとネットはどうだろう? 白船君がトライして失敗している。だけど、ビデオはちゃんと使えただろう。だから、電化製品がダメと言うことはないと思うんだ。電波の中継、それだったら俺が命令をすればなんとかなるんじゃないのかな。


「だったら、白船さんに相談してみる必要がありますね」


 善は急げということで、早速相談することにしようか。


 相談したら、白船君はとても迅速に動いてくれた。それってなに、無線LANの基地局。じゃあ、その筒みたいなのは? アンテナ、そうか、それがアンテナなんだね。

 それで、これを使うと何が出来るのかな。そうか、インターネットがあちらで使えるようになるんだ。後は、IP電話も使えるんだね。携帯電話は? 無線LAN経由でなら使うことが出来る。通話も、IP電話なら問題ないんだ。


「一番の問題は、ゲートを電波が通ることが出来るかです。何も工夫をしなかったのもありますが、前回はうまくいきませんでした」


 それなんだけどね、ゲートに対して命令してみようと思うんだ。さも無ければ、電線を引っ張るとかどうだろう。


「有線ですか。切れなければ、それも一つの方法と言うのは確かです。ただ出来るのなら、電波がそのまま通ってくれる方が都合が良いですね」


 そうか、だったらゲートに命令をしてみよう。


「だったら、実験から始めてみますか」


 そうだな、何でも実験は必要だと思うぞ。それでその実験なんだが、俺は何をすれば良い?


「ゲートに命令をすると言う重要な役目があります。ただその前に、基本的な構成を作っておく必要があります。こちらで接続を確認してから、一部機器をあちらに持ち込むことになります」


 それって、明日にも持ち込めるのか? そうか、今のところ明後日ぐらいになると言うのだね。その前に、俺にもすることがある。俺は、技術的なことはわからないぞ。


「あちらに話を通しておいてほしいんです。太陽電池とバッテリーを積んだ機器ボックスとか設置しますから、壊されないように見張りも必要なんです。後は、そうですね、地図があるとありがたいですね。ところで、どこを通信範囲にしますか?」


 どこって、携帯電話みたいに使えないのかな?


「携帯電話みたいに、ですか。ドコカとかウアとかソフトボールとかが手伝ってくれれば別ですけど……どう考えても無理ですよね?」


 ああ、どう考えても無理だよな。


「マイクロ波で中継して、パンの国に中継局を作れば携帯電話は使えるんです。それって、もの凄く大事になっていると思うんですよ」


 技術的には可能かもしれないが……文化汚染とかで騒ぎになりそうな気がするな。やはり、限られた場所だけで使えるようにするしかないか。

 だとしたら、取りあえずゲートのある森……確か、ハイエルフの里があった場所だったな。あそこに、拠点を作ることにしようか。


「文化汚染とか考えたら、その方が良さそうですね。ところで、先ほども言いましたけど地図って入手できますかね。もしも出来ないのであれば……いずれにしても、現地サーベイが必要ですね。ゲートの位置、ハイエルフの集落、両者の位置関係を調べておく必要があります」


 そのことについては了解した。ところで、白船君の参加は必須なのかな? そうか、必須ではないが、他の誰が出来るのかが疑問と言うのだね。ああ、全く当てがないのは認めよう。だとしたら、白船君の体が空くのを待つことにしよう。

 現地サーベイを優先しても良い、その方が機器の手配がはかどると言うのだね。だったら、後は助手か……仕方が無いなぁ、俺が手伝うことにするか。


 リズ、ええっと、何かあったのかな? 話が聞こえてきた、適任者に心当たりがあると言うのだね。まさかとは思うけど、それってリズのことじゃないよな。流石に違う、ジャックとグレゴリーが理系だと言うのだね。でも、理系と言っても分野は色々とあるよね。そうか、インターネット技術関係と言うのか。だったら、手伝って貰える可能性があるわけだ。

 これから聞いてくる。それはそれとして、一つお願いがあると言うのかな。良いんだよ、おねだりをしてくれても。


「私も、パンの国に行ってみたいと思うんです」


 異世界から逃げてきたのに、また異世界に行くと言うのかな。自分の行った世界とは違う、魔王とか居ないのもわかっていると言うのだね。伯爵夫人と呼ばれてみたい……まあ、構わないんだけどね。

 後は、そうだな、翼人にも手伝って貰おうか。空中での作業が有るんだよな、だったら翼人はもってこいと思うんだ。


「だったら、アクアに頼んでみます」


 その辺りは任せるから、良きに計らってくれれば良いよ。ああ、実験するときは俺も立ち会うから。後は、セリカにも立ち会わせるからね。なに、一応伯爵様なんだから、領地に顔を出しても不思議はないだろう? それに、俺の顔を使えば色々と面倒を避けられると思うんだ。

 そうだね、翼人便を使ってセリカにも連絡を入れておこう。


 そりゃあ、確かに俺は伯爵様だよ。そして、今日行くことも連絡はしたよ、それは間違いないよ。だけど、どうして派手なお出迎えがあるのかな? ご主人様が戻ってきたのだから、これぐらいはしてもおかしくない。いやさぁ、ちょっと顔を出しただけなんだけど。だから、そんなに落胆しないでほしいんだけど。

 わかったわかった、今日はこっちでゆっくりしていくよ。はいはい、明日もこちらでゆっくりしていくから。


 それから、彼らは初めてだったよね。最初に紹介するのが、新しく奥さんの一人になったエリザベスだよ。彼女と後から紹介する二人は、別の異世界で魔王を討伐した勇者なんだ。それは凄い、是非とも話を聞いてみたいと言うのだね。だそうだよエリザベス、構わない。だったら、今から館に案内してあげてくれるかな。ああ、こっちはこっちで、勝手にやっておくから。

 それで白船君、準備の方はどうかな。そうか、もう始めているんだね。ちなみに、そうか、無線の方は通信が出来ているんだ。ただスループットが上がっていない……ごめん、スループットって何? 通信の早さだと思えば良いんだね。あと、ピンも遅延が大きい……うん、わからないけど説明はしなくて良いよ。

 それで、今は何をしているのかな。うん、その黒い棒状のもののことだよ。光ケーブル? 光ケーブルって、もっと、その細いイメージがあるんだけど。それは間違っていない、これは電源とか防護のための被服が厚くなっていると言うのだね。うん、やっぱりよくわからないな。

 それで、光ケーブルを使って何をしているのかな。こちらで通信が出来るか確認をしている。ただ、ちょっと設置とかの準備が増えるんだ。時間が掛かるのかな、大した時間は掛からない。一応リハーサルがしてあると言うのだね。


「と言うことなので、通信は成功しました。ええ、ちゃんとスループットも出ています。はい、ピンも十分に応答が早いですよ」


 よくわからないけど、通信状況は良好ってことで良いのかな。そうか、間違っていないんだね。だとしたら、第一段階が終わったと思って良いのかな。そうか、歴史的に足跡を残したと言うのだね。確かに、異世界と安定的に通信が出来たんだ。言われてみれば、歴史的と言って間違っていないんだろうね。

 だからお願いがあると言うのかな。そのお願いと言うのを聞かせてくれるかな。そうか、ここに小さな局舎を建てたいと言うのだね。ハット……ハットって帽子? 違う、通信機を収容するための施設。施設と言っても、小さな小屋程度と言うのだね。


「太陽電池とバッテリを収容します。一応ケーブル経由でも電源供給は出来ますけど、その方が安定して動作すると思います」


 だったら構わないと言っておこう。なになに、領主としての許可を欲しい。そして領民に対しても、近付いてはいけないとお触れを出せと。ビゴ、今の話を聞いていたかな。俺の名前で、お触れを出してくれるかな。


「畏まりました。ところで、破った者へはどのような罰を与えましょうか」


 罰か……確かに罰は必要なんだろうな。ただ、命を取るのは止めてくれるかな。そうだな、二度と近寄ろうと思わないぐらいの罰で良いよ。その辺りのさじ加減は、お前に任せるから。ありがたき幸せ……いや、俺の弟になるんだろう。だったら、そこまで畏まらなくて良いんだ。

 それはそれとして、ハットだったかな。それを運んでくるのかな? 準備はこれから、手配をする必要があると言うのだね。だとしたら、今日はここまでなのかな? そう、できることはした。無線の方は、データを調べてみる必要があると言うのだね。後は、エルフの村まで測量をしていくと言うのだね。

 だったらビゴ、だれか人を付けてくれるかな。ああ、案内する人は必要だろう。それから俺たちは、屋敷に行くことにするよ。白船君たちは……そうか、測量が終わったら合流するんだね。


「では、盛大な宴を開かせていただきます」


 あまり無理を……違うな、精一杯やって見せよ! で良いんだな。だったら俺はショートカットをして……なんだ、やけに人が集まってきたな。これはなに、パレードの準備……パレードって誰の、そうか俺のパレードか。こう言うときに、領民に顔を見せる必要があると言うのだな。

 仕方が無い、伯爵としての務めを果たすことにしよう。じゃあ白船君、ジャック、グレゴリー、後は任せたからな。できるだけ早く終わらせて、盛大な宴と言うのに参加してくれ。ああ、仕事なら明日もすることが出来るのだからな。

 別に、道連れを増やそうとか考えてないぞ。おまけに言うと、自慢しようとも考えていないからな。ところでジャックとグレゴリー、女性の好みを教えてくれるかな? 大丈夫、警戒する必要は無いからな。一応だけど、自由恋愛を尊重しているんだ。ただこちらの女性は、かなり押しが強いだけなんだ。




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