衝突−3
村の特産は異世界です
・衝突-3
あの4人ですか? ええ、とても嬉しそうに糸魚川まで転移してきましたよ。あんなに喜ばれると、悪い気がしないのは確かなんですけどね。ところでこのことですけど、菅谷先生に報告していいですか? まだだめ、盗聴されている恐れがある。まさかそんなこと……と言いたいのですけど、可能性を否定は出来ませんね。特に諸星さんがマークされているのなら、菅谷先生に対する監視が厳しくなっても不思議はないと思います。
連絡の件は了解しました。それで、後沢さんはどうします? 彼らのことは内緒。空き地の確保だけをお願いするのですね。でしたら色々とばらすのは、今度お見えになったときにしましょう。
ところでシャルロットさんですか。転移能力って半端ないですね。ここから糸魚川って、それなりに離れているんですよ。それなのに、4人纏めて転移をするのって……便利すぎる能力だと思います。そんな能力者を取り上げたら、アメリカが過激な手段に出てきませんか? 例えば、もっと上位の能力者を投入してくるとか。
それならそれで構わない、のですか。暗殺部隊とかはどうですか? ええ、自衛隊員が失敗していますね。そこに能力者が加わっても、結果が変わることがないと言うのですね。いえ、ちょっとした疑問なんですけど、どうしてそこまで自信が持てるんです?
「アメリカを中心として、何も世界が変わっていないから、かな」
でも、能力者の成果を隠している可能性もありますよ。そうですか、それは否定できないと言うのですね。
「そこまで、アメリカってのは我慢強い国だったかな?」
我慢強くはないと思いますけど、余所との関係で使えない可能性もありますよね。それだったら、なおのこと日本に投入できないと言うのですね。下手に返り討ちに遭ったら、パワーバランスが崩れると言うのですね。そう言われてみれば、確かにそう思えてきました。
それならそれで、諸星さんってバランスブレーカーってことになりませんか? そうですか、それぐらいは理解されているのですね。ただバランスブレーカーは自分だけじゃないと言うのですね。ええっと、ファンタスティック・フォーでしたか、彼らのことを言っています?
「ラズライティシア様や翼人たちを忘れたら駄目だと思うんだが?」
ああ、確かにラズライティシア様もとんでもなかったですね。さっき自信のことを聞きましたよね。それが間違いだと思いっきり理解しました。諸星さんだけでもとんでもないのに、さらにラズライティシア様までいるんですからね。それに翼人たちも、結構な魔法を使えたのを思い出しました。
もしかして、ここを攻めた人たちは自滅することになるんですか? 攻撃によっては、本物の死体が出来ることになるのですか。ええ、相手が冷静……違いますね、理性的な対応をしてくれるのを期待します。
それからこれは興味本位の質問なんですけど……なんですか、その手の質問が多いと言うのですか。まあ、それだけ次から次へと面白いことが起こるからなんです。
それでですね、エリザベスさんはどうするんです? 命令でしたか、懸命に誘惑する命令を使っていましたよね。ええ、諸星さんに効かないのはわかっていますよ。でも、健気だと思いませんでしたか? そうかもしれないけど、体が持たないと仰るのですね。本気ですか?
そのですね、これはヴェルファイアさんから聞いた話なんですけどね。あの翼人の女性が、体が持たないのだそうですよ。ちなみに、ルーテシアさんも似たようなことを言っていましたよ。セレスさんですか、そう言えばセレスさんからは聞いたことがありませんでしたね。
なんでだろう
それはそれとして、諸星さんの口から『体が持たない』なんて話は聞きたくありませんね。たしか諸星さんの能力に、『超越』ってありましたよね。別に、超越があったなって思っただけですよ。他意なんてありませんよ、ええ他意なんて。
そう言えば、下界ではそろそろ春の兆しが見えてくるんです。勿論、ここは下界から1ヶ月遅れですけどね。除雪をどうするのかと言うのもあるんですけど、春になったら上村さんが顔を出しそうな気がするんですよ……ええ、上村さんですよ。忘れていましたよね。
「あーっ、色々と誤魔化さないといけないんだ」
そうなんですよ。まず誤魔化さないとだめなのは、第一と第二の上里荘です。あの辺の人たちは、昔のここを知っているんです。その昔のことを知っている人たちが、あの建物を見たらどう受け取ることになるのか。不思議だな程度ですませてくれれば御の字だと思いますよ。
「それなんだけど、見た目を誤魔化すと言うのはどうだろう? 例えば、見た目だけを相応に古くするんだけど」
適当に中をリフォームしたことにするわけですね。リノベ……までは時間が足りませんね。それなら、入れ物が有った分まだ説明が付くと思いますよ。それにあの人、中二病ですか。自衛隊が一晩で頑張ってくれましたっ! って勝手に考えてくれそうですしね。
「おいおい、流石にそれは可哀想だと思うよ……でも、否定できないかな」
否定できませんよね。絶対に否定できないと思いますよ。ただ、後沢さんが動き出せば、上村さんは気にしなくてもすむようになると思います。甘い、別の意味で鬱陶しくなると言うのですか。その別な意味って、どんな意味のことを言っているんですか?
ここには、大勢の若い人が集まることになる。だとしたら、高齢化を気にしている人たちが何を考えるのかと言うのですね。はい、確かに厄介なことになりそうですね。大谷村対応を用意した方が良さそうですね。それなら当てがある。まさか、そんなことを諸星さんから聞くとは思っていませんでした。それで、諸星さんの言う当てって誰のことを言っているんですか。予めお断りしておきますけど、私を指差さないようにしてくださいね。
今、手を動かし掛けて止めましたね。ちょっとした冗談、茶目っ気と言うのですか。それで、諸星さんの言う当てって誰のことでしょう。
「ファンタスティック・フォーの4人」
ああ、あの4人ですか。なるほど……で納得すると思っているんですか! 老人の多い、閉鎖的な村対応なんて私でも難しいんですよ。取りあえず理由はある。では、その理由とやらを言ってみてください。
「実はあの4人、金沢のスーパーでアルバイトをしていたんだ。どうやら、赤貧に喘いでいたようだね。だから半額弁当狙いで夕方のスーパーに通ったみたいなんだ。その半額弁当が縁で、スーパーにお世話になることになったんだ。真面目に働いていて、結構可愛がられていたみたいだね。それからグレゴリー君だったかな、養子に来ないかって誘われていたようだよ」
つまり、しっかり馴染んでいたと言うのですね。それを聞かされたら、大谷村対応を任せるのも良さそうですね。もう一つポイントがあるのですか?
「エリザベスさんなんだけどね、彼女だったら色々と誤魔化せると思わないかな?」
それって、命令の能力のことを言っています? 違う、もっと下品な方と言うのですか。下品な……ああ、彼女でしたら見た目で色々と誤魔化せそうですね。おじさんたちが、鼻の下を伸ばすのが目に見えるようです。その分セクハラが怖いんですけど。
でも、あの4人ってしっかり外人さんですよ。そんな人に、大谷村対応を任せてもいいんですか? そうですね、自衛隊員には任せるわけにはいきませんね。それを除いたら……私を指差さないように。ええ、私たち以外に日本人に見える人が居ないのは認めます。間違っても、翼人の人たちを村対応には出せませんね。
「だろうっ。だから、意外に日本に馴染んでいる彼らが適任だと思うんだ。それから、シャルロットさんには、薄墨さんを手伝って貰おうと思ってる」
転移能力でしたね。確かに、薄墨さんの手伝いにもってこいだと思います。なるほど、彼らの保護には大きな意味があったわけですね。流石は諸星さんと言ってあげましょう。
照れるなって……単なるヨイショですから、あまりその気にならないように。
気持ちはルンルン……古いですか。すみませんね、日本の今には疎いんです。それはそれとして、気分は今までに無く高揚しています。ええ、ステイツの後ろ盾を持っていても、毎日が閉塞感に包まれていたんです。便利に利用されている……お金を貰っているから仕方が無いのですけど、良いように利用されている感が強かったんです。
しかも、色物に見られていたんですよね。なんか、珍獣に向けられる視線を感じていたんです。異質なもの……と言って良いのでしょうね。何かあったら、最初に切り捨てられるのを感じていたんです。
そんな私たちを、コーメーさんは受け入れてくれると言ってくれました。殴り倒して話をするつもりだった私たちをですよ。まあ、力は相手の方が上ですから、まともにやったら殴り倒されるのは私たちなんでしょうね。違う、殴り倒される以前の問題だと言うのですか。そうですね、否定しませんよ。だって、雪に埋められて終わりでしたからね。
それなのに、私たちに救いの手を差し伸べてくれました。しかも、ステイツとの摩擦を防ぐ方法まで考えてくれたんです。感謝と言う言葉だけでは足りませんね、私を好きにしていいですよと言いたいぐらいです……お前ではお礼にならない。そうですか、趣向が変わっていいと思うんですけどね。似たようなタイプは、あちらにも一人いると言うのですか。だったら、リズでも無理ですね……お願いですから強制力を使わないで。でも、事実だと思うのよ。
それはそれとして、糸魚川駅近くへ転移しました。取りあえず、定時連絡と言う奴が必要ですね。そこで南大谷まで移動することを報告すれば、ステイツに対するアリバイ作りも完璧です。
はい、連絡が遅い。すみません、こちらにも色々とあったんです。いえ、裏切ることなんて考えていませんよ。スーパーに就職だなんて、1ミリたりとも考えていませんでしたって……ところで、どうして知っているのですか? そうですか、気づいていないのは私たちだけなんですね。
なんですか、好き勝手に転移をするなと言うのですね。その、理由を教えて貰っていいですか。そうですか、追いかけるのに苦労をするからと言うのですか。でも、南大谷からは転移を使いますよ。何しろ、バスが途中までしか行っていませんからね。それで、誰か監視役が付いてくるのですか?
無茶を言うな、ですか。自分たちは影だから、目立つわけにはいかないと言うのですね。でしたら、連絡は引き続き電話と言うことで良いですか。取りあえず、位置はトレース出来ていると言うのですね……いえ、別に何もありませんよ。いやですね、お風呂屋さんぐらい大目に見てくださいよ。
そろそろ、大糸線に乗ることにします。次の連絡は、南大谷に着いてから行います。ええ、いよいよ敵の本拠地に乗り込むんですからね……敵と言うな、ですか。まだ敵対するかどうかはわかっていないからですか。その、言って良いですか? 別に構わない、そうですか。それでは言わせて貰いますけど、どうして正面からコンタクトしないのでしょうか。こそこそと探っていたら、喧嘩を売っているような気がするんですけど。
そうですか、日本政府が事実を認めていないのですね。だから、こちらの力を見せてやろうと言う訳ですか。了解しました、喉元に転移をして度肝を抜いて見せましょう。
やる気があるように聞こえる。いつもよりも元気がある。そりゃあ、これで長い任務も終了ですからね。相手に対して優位に立てば、私たちの立場も上がってくれるんですよね。はい、期待していてくれるのですね。わかりました、2時間ほど……もうちょっとかな、吉報をお届けできると思います。
はい、電車……ディーゼルでしたか。列車が来ましたので、取りあえず連絡を打ち切ります。はい、南大谷にには80分後に到着します。
ふぃ~、緊張しました。でも、ここで気を抜くわけにはいきません。どこに監視の目があるのかわかりませんからね。銭湯のことも、ただの引っかけかもしれないのです。
「それで、座標特定はどうなっているの?」
ええ、完璧ですよ。もう少し近付けば、誤差1mで転移可能です。ですから、できるだけバスでターゲットに近付くことにしましょう。ええ、マーカーに問題は出ていませんよ。
「転移直後に、グレゴリーが時間停止を発動。そして私が、その隙に命令を発して抵抗を抑え込むのね」
「リズが本気になれば、誰も逆らうことは出来ないからな」
「そのための隙を、あなたが作ってくれないといけない訳よ。それからジャックは、非常事態に備えてくれるかしら」
「人質を取ることを考えれば良いんだな?」
「少しでも相手が怯んでくれたら、その隙に私が強制力を発揮することになると思う」
「それでも駄目だったら、シャルの力で撤退と言うことか」
「そうならないのを願っているわ」
「……だな」
ええ、ここで私たちの底力を見せてあげないといけないのです。ここで役に立つ所を見せてあげれば、待遇も良くなると思うのよ……眠っ。
「しかし、田舎だな……」
「景色は変わるんだけど……変わっても雪山ばかりなのよね。あと、川かしら」
「人里が殆ど無い……まあ、ステイツでも田舎ならそうなんだがな」
「だけど、どうして彼らはこんな田舎、しかも山奥に引き籠もっているのかしら?」
「その辺り、目立たないことを優先したんじゃないのか? ほら、翼人とかだと、間違いなく目立つことになるからな」
「それは確かにそうなんだけど……もっと山の奥まで入っていくのよね。普通に生活するのも大変だと思うのよ」
「それはそうなだろうが、それ以上のことは想像も出来ないぞ」
「優先度は低いけど、命令して吐かせましょうか」
「考え方を探るには良いのかもしれないな……しかし、暇だな」
「ステイツでも、田舎に行けば隣町まで半日かかるのは珍しくないでしょ?」
「あいにく、俺はもう少し都会に住んでいたんだ」
「だったら、仮眠でもしたら。シャルなんて、ジャックの肩……お腹ね、お腹を借りて寝てるわよ……」
「だったらリズ、俺の肩を使うか?」
「それも良いのかもしれないわね。眠くなったらお願いをするわ」
「……やっぱり退屈だな。本でも持ってくれば良かった」
「だったら仮眠でもしたら? もたれ掛かってきても怒らないわよ」
「後が怖そうな気がするが……取りあえず寝ることにする」
外は冬景色ですけど、車内はぽかぽかと暖かいから無理もないと思いますわ。人が乗ってこないお陰で、ドアも開きませんからね。と言うか、2両編成の車内には乗客が私たちを含めて10人もいないんです。外が雪ですから、みんな家に閉じこもっているのでしょうね。
他の乗客からの視線は……今のところ感じていませんね。では、ちょっと命令をしてみましょう。
「監視している者は大人しく名乗り出なさい」
どうやら、誰も反応しないようです。つまり、私の能力の届く範囲に監視者はいないと言うことですね。さもなければ、私の能力を超える実力者が付いていることになります。ただ見える範囲にいるのは、どう見てもジモティの人たちばかりです。
迷っていないかと聞かれたら、迷っていると言うのが答えになります。いきなりなんだ、ですか。今の私の気持ちを正直に打ち明けただけですよ。だって、このまま行ったら、私は生まれた国を裏切ることになるんです。ええ、よくして貰った記憶はありませんよ。どちらかと言えば、ろくでもないことの方が多かった気もします。それでも、異世界に飛ばされる前までは普通の生活を送っていたはずなんです。ハイスクールに通って、普通に恋をして……ええ、見栄を張ってしまいました。恋ぐらいはしたことはありますよ、ただ相手はトベの画面に映った人なんですけどね。格好良くて面白くて……私を知ってもらえれば、間違いなくお付き合いできたはずです。ええ、自惚れですよね。今となったら、それぐらいのことは理解出来ます。
それでですね、何が言いたいのかと言うと、私は一般的なステイツの住人だったと言うことです。最近扱いが良くない気もしますが、私たちが色物だと考えれば仕方がない気もするんです。
このままコーメー・モロボシの提案に乗ると、私たちは国を捨てることになってしまうんです。愛国心なんて持っていないと思っていたのですけど、どうやら私にも愛国心はあったようです。だから、迷ってしまうと言うことです。
コーメーに愛して貰えたらどうか、ですか。はい、国のことは綺麗さっぱり忘れられます。やっぱり、女……だけじゃ有りませんけど、恋に生きると言うのは素敵だと思いますよ。
自分に浸っていたら、一つ前の駅に到着しましたね。そろそろ3人を起こすことにしましょうか。もう、迷っていられる時間も残されていないのです。
ええ、あと6分もすれば目的地に着きますよ。取りあえず何か補給をして、バスに乗ることにしましょう。いびきですか、誰も掻いていなかったと思いますよ。グレゴリーも、行儀よく寝ていたと思います。ちょっとだけ期待したんですよ。冗談ですけど。
しかし、外は真っ白ですね。列車を降りるのが、ちょっと憂鬱になりました。でも、ここが終点ですから、降りないわけにはいきませんね。
南大谷では、私たちを含めて7人が降りることになりました。これで、少なくとも3人は目撃者を作ったことになります。よかった、売店は開いていました。何を買う……暖かい缶コーヒーでも買っていきましょう。
バスは……列車の到着に合わせてあるんですね。みんな、急がないと乗り遅れるわよ!
バスに乗れば、次に降りるのは20分後と言うことになります。ここまで来ると、私たちと同じルートを使っている人は居ませんね。つまり、普通の尾行者は存在しないことになるわけです。
それにしても、どんどん雪深くなってくるわね。これを見ているだけで、バスから降りるのは憂鬱になるんだけど。それでも、上に比べればまだましなのね。ただ、この雪の深さでも十分に遭難する自信がありますわ。尤も、シャルの能力があれば安全な所までひとっ飛びなんですけど。
国道から右に曲がって、すぐにトンネルを潜ることになります。ここまで来ると、乗客は私たちだけになります。外の景色を見れば、その理由ぐらい簡単に想像が付きますね。勿論、集落が無いとは言いませんよ。国道から少し離れた程度なら、まだ集落らしきものが目に付きますからね。ただ、この深い雪を考えると、意味も無く外に出かけるとは思えません。
バスの運転手さんは、一応私たちのことを気遣ってくれているようです。どうやら、私たちは古民家民宿に向かっていると思われているようです。でしたら、その予想に従った方が良さそうですね。尤もリズが命令すれば、私たちのアリバイなんて簡単に作ることができるんですけど。
あら、監視カメラがあるじゃないですか。都会ならいざ知らず、こんな所のバスにも監視カメラが付けられているんですね。平和そうに見えても、トラブルとは無縁ではいられないと言うことでしょうか。では、予定よりは早いですけどバスから降りることにしましょう。これで私たちは、古民家民宿に向かった客と認識されるわけです。
バスから降りました。バスから降りたんですっ。なぜ、そんなことを強調したのかと言うと、力まないとやっていられなかったからです。もう3月ですよね、日本では3月と言うのは早春と言われる季節だと聞いています。それなのに、回りは真っ白だし、空からは白いものが降ってくるんです。ただ降ってくるのならまだましで、そこそこの風のお陰で顔に張り付いてくれるんです。ええ、もうね、降りるんじゃなかったと後悔するぐらいなんですよ。
だったら、早く飛べば良い。ええ、すぐにでも飛びたい所なんですよ。ただ、私たちは古民家民宿に泊まる客なんです。だったら、それっぽく移動する必要があると思いませんか。尤も、辺りを見渡しても人っ子一人見当たらないんですけどね。
「ねえ、シャル。そろそろ良いんじゃないの?」
「ああ、早くしてくれないと本気で遭難しそうだ」
ええ、あなたたちの言いたいことは理解出来ます。私だって、そろそろ指の感覚がなくなってきたんです。辺りには人影も見えませんね。少し物陰に入ってから、目的地まで跳躍することにしましょう。
念のため確認しますけど、誰も覗いていませんよね。
「そうね、確認した範囲では監視者はいないわ」
リズが強制力で確認した以上、誰にも見られていないのは確かなんでしょう。では良いですか、いよいよ本丸に乗り込みますからね。
りぃぷっ……と
また雪の中かと思っていたのは内緒です。ですが、今度は普通に暖かい部屋に跳躍することが出来ました。でも、ここってお風呂に入った建物とは違いますよね。そうですか、本宅側の集会室と言うのですね。
それで、私たちは何をすれば良いのでしょう。はい、その女性の指示に従えば良いのですね。ところで、なんとお呼びすれば良いのですか。ギョイコー様ですか、様はいらない、ギョイコーさんですね。肩書きは医者、なるほど死体偽装にはもってこいと言うことですか。
ところで、そこにあるのは私たちの死体なのですか。死体にしては、まだ生きているように見えるのですけど。間違ってはいない、自立的に動くことが出来ると言うのですね。その、一つ良いですか、どうして裸なんでしょうか。いえ、とっても見慣れた自分の体ですよ。ほくろの位置にしても、間違っていないと思います。だからなんですけど、裸と言うのに抵抗があるのですけど……
はい、今着ているものを綺麗さっぱり脱げと言うのですか。当然、アクセサリーとかも外す必要があるのですよね。いえ、別に思い入れはないのですけど……そうですか、私たちの死体が身につけると言うのですね。はい、裸になったらこちらの服を着れば良いのだと。結構良い服ですよね、これ。
言われたとおりに脱ぎましたけど……すみません、それって私たちの死体ですよね。どうして、自分で下着とか身につけてくれるんですか。その、ドッペルゲンガーでしたか、何かそれを見ている気がしてきました。
ええ、どこからどう見ても私ですし、もう一人がリズと言うのは確かですね。それで、これからどうすればいいのですか。4人を、元いた場所に運べば良いのですか。私が飛ばせば良いのですか、違う、コーメーさんがやってくれるのですか。一つ良いですか、どうして転移魔法が使えるんですか?
転移魔法ではない、ただ命令するだけ。そこから先は、私たちの死体が頑張ってくれると言うのですね。すみません、ちょっと頭痛がしてきました。
ええ、本当に見えなくなりましたね。これって、どうやったのですか? そうですか、命令しただけで、移動方法まではわからないと言うのですね。その、ちょっと暴れたくなったと言っても良いですか?
「そんなことはどうでも良いのだけど……君たちの住まいに案内することにしよう。それから今夜だけど、歓迎の宴会をするから覚悟しておくように」
歓迎の宴会ですか。ウエルカムと言えば良いのか、大歓迎なんですけどね。ですけど、どうして覚悟が必要なんですか。久しぶりだから、住人たちが張り切っている。盛り上がりからすると、今夜は寝られないかもしれないと言うのですね。
まあ、一日だけのことですよね。でしたら我慢しますとお答えいたします。それなら良い、遠慮無くやらせて貰うと言うのですね。その、我慢するとは言いましたよ。ですが、物事には限度と言うものがあると思うんです。
「それなんだけど、ここは常識の違う者たちが集まっているんだ。限度については……まあ、酷いことにはならないと思うぞ。まあ、ちょっと覚悟だけはしておいてくれ」
歓迎なんですよね。嫌がらせとか言うことはありませんよね。違う、住人たちは本気で歓迎してくれると言うのですね。だから、日頃磨いた宴会芸を見せてくれるのだと。
つまり、私たちをだしにして騒ぎたいと言うことですか。間違っていない、ほとんどそう、ですか。ええ、新参者ですから、我慢が必要と言うのはわかりました。
「じゃあ、君たちの部屋だけど。お風呂に入った建物があったよね。そこに用意するので良いのかな? あと、ちょっと部屋数が足りなくなってきたんだ。申し訳ないけど、相部屋をお願いすることになる」
つまり、私たちは2部屋使って良いのですね。ええっとリズ、何か言いたいことが有るの。聞いてあげるけど、コーメーさんの所と言うのは受け付けないからね。
「あなたの指図は受けませんわ」
つまり、コーメーさんのところが良いと言うのですね。だそうですよ、私としては一人部屋になるから構わないのですけどね。
「だそうだ。セレス、エリザベスさんを案内してくれるかな」
「はい、あなた。それからエリザベスさん、これからよろしくお願いしますね」
「こ、こちらこそ、お願いいたしますっ!」
ええっと、どうしてそう言うことになるんです。てっきり断られる、さもなければ無視されると思ったのですけど。
「まあ、こちらにも色々とあったと思ってくれるかな。ちなみにシャルロットさんも、こちらに住んでもいいんだよ。ただし、同居人は薄墨さんなんだけどね」
ウスズミって誰ですか。ええっと、そこに居る私に似たタイプの女性ですか。なぜ似たキャラクターを被らせるのでしょうか。別にキャラクターで選んでいない。ただ、役割上一緒に居た方が都合が良いと言うのですね。ところで、その役割って何ですか?
「彼女は、資材管理を一手に担って貰っているんだ。ある意味、この集落の生命線を握っていると思ってほしい」
「一応役得として、仕入れのついででグルメが出来ます」
はい、喜んで! ええ、私の能力を生かすことが出来ますね。その、いつから仕事に入れば良いんですか?
「即答だね。それなんだけど、世間が落ち着いてからと言うことになる。何しろ君たちの凍死体が、明日見つかることになるんだ」
確かに、小さな騒ぎが起きることになりますね。その状況で出歩くのは、おかしな目立ち方をする可能性もあるのはわかります。了解です、出番があるまでは大人しく勉強でもしています。
それでジャックとグレゴリーはどうすればいいのですか。そうですか、今のところ仕事は無いのですね。将来的には、集落の保安業務をすることになると言うのですね。だそうですよ、仕事が有って良かったですね。
「ところで、あっちの建物は他に誰が住んでいるんだ?」
ああ、それって気になりますよね。それで、どうなっているんですか。
「今のところ、誰も住んでいないな。と言うことなので、君たちに一つ仕事をあげることにする」
ああ、なんか見えた気がしますね。
「そう、建物全体の管理と言う奴だ。使っていない部屋を含めて、建物全体の掃除。温泉の手入れ、食堂の手入れをして貰いたい。調理場もあるから、自分たちで料理をして貰っても構わない」
「それなのだが、俺たちは飯をどうしたら良いんだ?」
「自炊しないのなら、食事時に第一……もう一つの建物まで来ればいい。さも無ければ、翼人に届けて貰うことになるな」
「もう一つの建物って……どれぐらい離れているんだ?」
「道なりで1.6kmぐらいかな。雪が積もっているから、まあ頑張ってくれと言う距離だと思うよ」
どうしてそこで私を見ます? ええ、わかってて言っていますよ。そりゃあ、外の雪を見たら無理って思いますよね。一つ確認しますけど、途中の道は除雪してあるのですか? そうですか、除雪していないのですね。ちなみに積雪量は……3mですか。交通標識に手が届くと言うのですね。
はいはい、私に電話を入れてくれれば良いですよ。居るときなら、ちゃんと運んであげますからね。
ところでリズは何の仕事をするんです? コーメー様のお世話と言うのは仕事ではありません……と言うこともないですね。違う、ちゃんと仕事を考えていると言うのですね。
「雪が解けたら、ここももう少し周囲と付き合いが増えることになるんだ。具体的に言うと、大谷村から色々と言ってくることになるのだろうね。だから君たちには、大谷村対応をお願いしたいと思っている」
それって、私たちが対応していいことなんですか? と言うのか。私たちはここのことはわかっていませんよ。
心配する必要は無い。ここに居る者は、小谷様を除いて村の事情を知らないと言うのですね。それ以外にいるのは、そうですか、異世界から来た人たちばかりと言うのですね。確かに、その人たちに対応をお願いするのは無理と言うのは理解出来ます。
簡単な説明は終わったと考えて良いのですか。では、改めてご挨拶をさせていただきます。
「「「「これから、よろしくお願いいたします」」」」
ええ、礼儀が大切と言うのは、あちらの世界でしっかり教え込まれましたので。
ジャックとグレゴリーを送ってから、興味本位ですけど建物の外に出てみました。ええ、教えられたとおりと言うのを理解しましたよ。除雪していないのが理由なのでしょうけど、建物の周りが真っ白だったんです。試しに歩いてみたら、すぐに腰ぐらいまで埋まってしまいました。どう考えても、歩いて移動するのは無理ですよね。絶対に無理だと思いました。
それは良いのですけど、誰か除雪をしていませんか。ええ、下の方から雪が少なくなってくるのが見えるんです。まともに考えれば、雪が解けるとは思えませんよね。だから、誰かが除雪していることに繋がるのですけど……その誰かが見えませんね。ええっと、スコップだけ見えるんですけど……もしかして、もの凄いハイテクなのでしょうか。後で、コーメーさんに聞いてみましょう。
元の集会所ですか、戻ってみたらボタンが待っていました。ええっと、他の人たちは? そうですか、今日から同居するから待っててくれたんですね。確かにそうですね、よろしくお願いします。
それで、新居までは転移すれば良いのですか。でしたら、場所を教えてください。違う、歩いて行くと言うのですね。そのですね、雪は大丈夫なんですか? ここは除雪されているから大丈夫と言うのですね。それで質問なんですけど、スコップが除雪しているのを見たんです。あれって、自衛隊が開発した除雪マシンなんですか?
違う、自衛隊にはそんな技術力はない。いえ、自衛隊じゃなくてもないと思いますよ。それはそうとして、だったらあれはなんなのですか。
「諸星さんが、スコップに除雪してこいと命令したのよ」
ええっと、そんなのありですか。そうですか、ボタンも疑問に感じているのですね。ただ事実は事実として受け止める必要があると言うのですね。ジャックとグレゴリーが苦労しないよう、気を使って除雪をしてくれたのですか。
それが、リーダーの仕事かと言うのは疑問を感じますね。ただ、命令するだけでスコップが除雪をするのですね。同じことを、リズ……エリザベスも出来るのでしょうか?
そうですか、諸星さんが教えていたと言うのですね。ただ、今のところはうまく行っていないのですか。力的には問題ないので、イメージが出来ていないのがうまく行かない理由だろうと言うのですね。いえ、私的には、リズがのぼせ上がっていたのが原因に思えます。
でも、本当に除雪されているんですね。ああ、確かにスコップが一人で除雪していますね。そう言えば、私たちは荷造り紐に捕まったのでした。しかしなんですね、無生物への命令って反則だと思いますよ。
実は、もっと凄いことも出来ると言うのですか。聞いた話だと、ガラスの灰皿を金に変えたと言うのですね。それどころか、リンゴをダイヤモンドに変えた……それって、錬金魔法を超えていると思いますよ。
割とこぢんまりとした家なのですけど、二人なら十分な広さがあると思います。そうですか、ここでは私とボタンが二人きりなんですよね。つかぬ事を伺いますが、ボタンは女性が趣味と言うことはありませんか。大丈夫、きらいじゃないが相手は選ぶと言うのですね。それって、安心して良いと言うことですか。ただ、ちょっと釈然としないものを感じてしまいますね。
「私にだって、選択権はあると思うわよ」
ええっと、誓って言いますけど、私にも女性の趣味はありませんよ。ちなみに、ボタンは何か趣味があるのですか? いえ、情報として年末に『聖地』に行っていたと言うのがあるんです。だとすると、ボタンは日本の誇る『オタク』と言うことになると思うんです。
「私の趣味は、同人誌の執筆。次のコミケまでに、エクxラズ本を書こうと思っているのよ」
ほほう、それは耳寄りな情報ですね。家を一軒与えられているのは、作業部屋を確保するためと言うことですか? 違う、仕事に趣味を持ち込んでいない。そうですか、でしたら一軒家を与えられる理由は何なのですか。
あの建物ですか。あれが、資材倉庫だと言うのですね。在庫管理を含めて、資材管理がボタンの仕事と言うことですか。だから、住まいを交換したと言うのですね。ちなみに、誰と交換したのですか。そうですか、サクラ・ジンダイと交換したのですね。あちらは、仕事の関係でカスミ・ギョイコーと一緒の方が良いからですか。
つかぬ事を伺いますけど、ボタンは料理を出来ますか。失礼なことを言うなですか、そうですか、出来るんですね。出来ないとは言わないが、そちらはプロに任せているというのですね。いえ、別に他意はありませんよ。つまり、食事は第一でしたか、そこまで行く必要がある訳ですか。
「諸星さんのところにお呼ばれと言う手もあるわよ」
リーダーのところで、お呼ばれですか。ところで、誰が料理をするんです?
「誰って、セレスさんだけど?」
そうですか、セレス様が料理もされるのですね。ちなみに料理の腕は……もの凄くおいしい。なるほど、そちらの面でもリズには勝ち目がないわけですか。
それからもう一つ、あそこにある2軒は誰が住んでいるのですか。
「大きい方がラズライティシア様とエクシブ様、少し小さい方が小谷さんね。ちなみに、小谷さんが2軒分料理をしているわよ」
なるほど、そう言う人間関係なのですね。それで、これが私の部屋ですか。一応エアコンもあるのですね。質問ですけど、エアコンは動いていませんよね。だとしたら、どうしてここは暖かいのですか。
なるほど、魔法で温められているのですね。それで、どなたの魔法なんですか? アクアさん……すみません、誰のことかよくわからないのですけど。
「白船君の彼女。とても可愛らしい翼人よ、ただ年齢は2百歳を超えているけど」
こちらは、翼人と普通の人間が関係……性的なものをしているのですね。私の行った世界では、翼人って恐怖の対象だったんですよ。別に魔王側と言うことはないのですけど、だからと言って人間の味方をしてくれたわけじゃないんです。トリックスター、で良いんでしたっけ。人間側と魔王側双方をかき乱してくれたんです。
それで助かったこともあるんですけどね、逆に邪魔をされたこともあったんです。しかも翼人……思いっきり強かったんです。後はですね、思いっきり見下されてもいました。
それで、これからどうするんですか? 取りあえず、部屋で落ち着け、ですか。それがすんだら、居間で酒盛りをするんですね。良いですね、それ。ちなみにつまみはどうするんですか? 何のために資材管理をしていると思っている、ですか。確かにボタンは、資材一式を取り仕切っていたんですね。取りあえず、貰い物のビーフジャーキーがあるのだと。グッドです、ええ、ジンとかウィスキーに合いますよね、あれ。
ちなみに、その夜の宴会は今まで生きてきた中で経験の無いものでした。はい、はっきり言って、色々な夢が叶ったと思います。おいしい蟹、おいしいお魚、そしておいしいお肉。それが、これでもかと言う程提供されたのですよ。もうね、私たち4人は狂喜乱舞しましたよ。
いえ、半額弁当はおいしかったですよ。それに、人の温かい気持ちも調味料ですから、もの凄くおいしかったのは確かなんです。でもですよ、やっぱり贅沢な海の幸山の幸は格別だと思います。飛騨牛の炭火焼き、ですか。わさびをのせると絶品と言うのは確かですね。勿論、おっきな牡蠣もおいしいと思います。えっ、この牡蠣をフライにするんですか。その罰当たりと言えば良いのか……いえ、おいしく頂きますけど。
ところで、あれはエルフですか。あんなに沢山エルフが居るとは知りませんでした。それから、あのエルフは私たちの常識にあったエルフだと思います。ええ、エルフってちょっと細めでもの凄く綺麗と言うのが私たちの常識だったんです。でも、1人だけ例外が居たんですけどね。はい、巨乳と言う意味で。
なんですか、ここで生きていくための注意事項ですか。いきなりなんですか、私はただエルフを褒めただけですよね。それは問題ない、問題はここに居ないエルフ……神話の時代から生きてきた大魔法使いのエルフだと言うのですね。そのエルフがどうかした……そうですか、背が低くて丸顔で、かなり容姿的には不自由をされているのだと。ただ、それを口にするのは自殺行為と言うのですね。理解しました、ええ、しっかり理解しましたよ。他の3人にも、口うるさいぐらい注意しておくことにします。
ところであのエルフたちですけど、はっきり言ってぱないですね。なんです、あのキレキレのダンスは。もう宴会芸のレベルじゃ有りませんよね。ああ、トベとチクタクでの公開を考えているのですね。あの見た目とダンスの切れ……しっかりバズるんじゃありませんか?
私たちも、何か芸をしろと言うのですね。わかりました。でしたら、とっておきの芸をご覧に入れます。
リズ、ジャック、グレゴリー、なぜ止めるのですか? 立ち直れなくなるからやめておいた方が良い。いえ、エルフのダンスはしっかり見ていますよ。違う、立ち直れなくなるのは観客の方。失礼なことを言いますね、ほら、皆さんも早く見たいと言っていますよ。
くらぇっ、私の美声をっ!!
「ち、超越を持っていても辛かった」
ええっと、申し訳ありません。いえ、私は破壊工作員じゃありませんよっ、だから違うんです。
序列4位って、なんですか。ちなみに上には、誰がいるんです。コーメー様、シズカ様、ラズライティシア様ですか。ですが、どうして私が序列4位なんですか。全員が叩きのめされた、ですか。あの、皆さんに怯えた目を向けられるのはちょっと嫌かなと。
「どうやって魔王を倒したのかと思ったのだけど、ちょっと反則じゃないのかな?」
いえ、魔王は正攻法で倒しましたよ。私が受け持ったのは移動だけなんですからね。だからリズたち、その方法があったと言わないように。
極端な音痴はお約束ですよね。
これで、住人が増えました。




