衝突−2
村の特産は異世界です
・衝突-2
季節は3月、世間ではそろそろ春を感じる所だと思います。ただここ上里集落は、相変わらずドカ雪に閉ざされていたりします。まあ、第二が営業していたのが4月中旬以降と言うことを考えれば、春にはまだまだ時間が掛かると言って良いのでしょうね。
私がなぜ時候を持ち出したのかと言うと、暇だから……ごほん、いえ、平和な時間が過ぎているからと言うことになります。アメリカの能力者と接触してから、すでに2週間が経過しようとしています。それなのに、彼らが動いてきた気配が全くないんです。こちらを焦らしている、それとも諸星さんの勘違い。色々な可能性が考えられるのですが、流石に私程度では理由を推し量ることは出来ません。ですので、素直に諸星さんに理由を尋ねることにしました。
「ところで、この4人はどうしたんです?」
諸星さんに聞きに言ったら、本館側の集会室に知らない4人が居ました。いえ、そのうちの3人には見覚えがありますね。そうそう、北陸新幹線の中でお酒を酌み交わした人たちでしたね。でも、どうして諸星さんの前で正座をしているんです。と言うか、いつの間に確保されたんですか?
「いや、ちょっと前に確保したんだけど」
そうですか、流石は諸星さんと言ってあげましょう。ところで彼ら、しっかり濡れ鼠になっていませんか。この季節、放っておくと風邪を引くことになりますよ。
「いや、誰かさんの提案通り、転移先を裏庭の雪の中にしたんだ。これは、その結果だと思ってくれれば良いよ」
誰かさんって、誰ですか。そうですか、私がそんなことを言いましたね。だから諸星さん、『悪いのはこいつ』と言って指差さないように。だって、牛さんになる呪いを掛けられたんですよ。それぐらいの反撃、許容範囲だと思いませんか。
ええっと、本気で死にかけたんですか。紐さんに助けて貰わなければ、生き埋めになって凍死をしていたと言うのですね。その、勘違いなら申し訳ないんですけど、皆さん能力者なんですよね、異世界帰りの。あの程度の雪なら、イージーモードだと教えて貰いましたよ。
そうですか、あなたたちが飛ばされた世界では雪が降らなかったと言うのですね。だから雪に対する備えはなかったと言うことですか。
ところで諸星さん、この4人をどうするんですか?
「それなんだけど、どうしたら良いと思う?」
ここのことを探りに来たんですよね。しかも、攻撃的な方法で接近してきたんです。だったら、記憶を綺麗に消して送り返すと言うのはどうでしょう。ええっと、どうして捨てられた子犬みたいな目をしてくれるんですか? 別に、命を取れとか言っていませんからね。
「最終的には、小谷さんの提案通りになるのかもね。ただ、必要なヒアリングをした方がいいと思うんだよ。そしてこの4人、思いっきり凍えているんだよね。と言うことなので、ヴェルファイアとハイエース、出てきてくれるかな」
「はい、我が君」
隠れて機会を覗っていましたね。違う、呼ばれるのを待っていたのですか。それにしても、出てくるのが早すぎませんか? 呼ばれたらすぐに来るのが自分の役目、ですか。
「それはそれとして、この4人を第二に連れて行ってくれるかな。そこで温泉に入れてあげてほしいんだ」
「仰せの通りに。ところで、躾をした方が宜しいでしょうか?」
「それは、この後と言うことにしてくれれば良い。体が冷え切っているから、しっかりと温めてやってくれ」
「畏まりました。源泉にでも漬け込んでやります」
「どうしたんだい、やけに攻撃的に思えるけど」
「我が君に害をなそうと近付いてきたと聞いています。でしたら、私たちの敵と言うことになるのかと」
確かに、翼人たちにとって諸星さんは神様のような人でしたね。その諸星さんを攻撃すると言うことは、彼女たちにとって許されざることと言うのは理解出来ます。
「つまりヴェルファイアは、彼ら程度で俺を害せると思っているわけだ」
ふ~んと諸星さんが言った所で、ヴェルファイアさんたちの表情が変わりました。改めて指摘されて、自分たちが失礼なことを言ったことに理解したと言うことですか。
「こんなもの、子供がじゃれついた程度でしかないんだ。そんなことに、いちいち腹を立ててなんかいられないんだがな」
「大変失礼をばいたしました。では、仰せの通り温泉へと連れて参ります。それから我が君、この金髪女は裸で連れて来れば宜しいですか?」
「ごめん、意味が理解出来ないんだけど?」
「この女を所望されるのかと言う意味で言っております。ですが、今のお答えで理解いたしました。普通の服を着せて、改めて連れて参ります」
ヴェルファイアさんが頭を下げた所で、翼人たちが6人、男女3人ずつ現れました。どうやらこの4人を抱えて飛ぶつもりですね。まあ、そこそこ距離があるので、その方が早いのは確かだと思います。
「一応言っておくけど、魔法で温めてあげてくれるかな。あとエリザベスさんだったかな、君の強制力は封じてあるからね。シャルロットさんにも忠告しておくけど、次に転移をしても結果は雪の中になるから。試してみても良いけど、今度こそ凍死することになるからやめておいた方が良いと思うよ」
それからと、諸星さんは男性二人の顔を見ました。
「当然だけど、ジャック君だったかな。君の能力も封印したよ。グレゴリー君、時間を止めたら君の心臓が止まることになるからね。無駄な抵抗をしないようにしてくれるかな。じゃあ、4人を連れて行ってくれるかな」
「抵抗した場合は、雪に埋めてやれば宜しいですか?」
「君たちなら、抵抗ぐらい抑え込むことが出来るのだろう? とにかく、この後重要な聞き取り調査をするんだ。締め上げるのなら、その後にしてくれるかな」
「畏まりました」
ヴェルファイアさんが頭を下げた所で、4人の男女は両側からがっしりと拘束されました。4人とも顔色が真っ青……紫色なのは、寒さに凍えているからと言うことですか。
「我が君、1時間ほどお待ち願います」
「ああ、ゆっくりとしてきてくれ」
任せたとの言葉に対して、「畏まりました」と8人は声を揃えてくれました。どうも、翼人たちの態度が以前にも増して仰々しくなってきましたね。
「ところで小谷さん、どうかしたのかな?」
ええっとですね、今連れて行かれた4人のことで来たんです。その、中々襲撃してこないなって。
「なんだ、襲撃を嗅ぎつけてきたのかと思ったよ」
そこまで鼻は利きませんよ。ところで、ラズライティシア様はどうされたんですか?
「ラズライティシア様は、ポルテに頼まれてあっち……なんだっけ、呼び方を決めたような」
それだったら、パンの世界ですね。そうですか、パンの世界に行っているんですね。
「どうやら、男……だけじゃないな、逃げていたハイエルフが見つかったようなんだ。連れて帰ってくる前に、色々と教育をするそうだよ」
確かに教育は必要だと思います。それはそれとして、入れ物をどうしますか?
「それなんだけど、当面二人部屋にして凌いで貰うことを考えているよ。本格的な対応は、雪解けを迎えてからと言うことになるね。研究所工事のどさくさに紛れて、2、3棟増築してやろうかと思ってる」
二人部屋にすれば、しばらく凌げるのは確かですね。ただ、それまでにこれ以上は増えませんよね。ええ、具体的に言うと、今連れて行かれた4人も候補です。
「二人部屋を許容すれば、第二の方は50人ぐらい収容できるんだよ。それを考えたら、まだ余裕はあると思うんだ……厳しいのは確かだけどね」
そこで悩むのは、入れ物を作った方が良いか考えていると言うことですか。ただ問題は、土地をどうするのかと言うことです。駐車場を潰すか、本宅側に手を入れる必要があるんです。
第二近くにある露天風呂用の駐車場ですか。あまり広くないのと、崖っぷちと言うのが問題だと思いますよ。確か、第二近くにバスが転回するための土地がありましたね。そこを入手すれば、そこそこ広い建物を建てられますよ。
はい、後沢さんに連絡を入れれば良いんですね。土地関係のけりが付いたら、さっさと新しい建物を作ると言うのですね。それは良いんですけど、設計とかどうします? ええっと、適当なホテルを見学するのですね。でしたら、白鹿村辺りが良いと思いますよ。
ところで、興味本位の質問をしても良いですか。別に構わない、いつもしているだろうと言うのですね。それは否定しませんし、質問するのもお約束だと思うんです。
それでですね、どうやって4人を捕まえたんですか。それから、捕まえるのに手こずりましたかと言うものです。
「どうやってって、いつも通り荷造り紐が活躍してくれたよ。時間停止能力者対策も用意したんだけど、そんなものは必要無かったね。後は、切断魔法対策も必要無かったよ」
あのエリザベスと言う女性、諸星さんと似たような能力を持っていましたよね。荷造り紐さんには、強制力は効かなかったのですか?
「下位の能力じゃ、上位能力には対抗できないよ。後は、4人ともパニックになっていたからね。特にシャルロットだったかな、10回ぐらい同じ転移を繰り返したんじゃないのかな」
そうですか、10回も無駄な努力をしたんですね。なんと言えば良いのか、ちょっと可哀想になりました。
ところでパンの世界ですけど、結果的に何人増えるんですか?
「ポルテによると、男性が10人、女性が4人見つかったそうだよ。全員が移住を希望したら、14人増えることになるのだろうね」
つまり、エルフ組がパンの世界から32人と言うことになりますね。後は諸星さんの行った世界から2名ですから、総勢で34人の最大勢力ですか。
翼人が20人ですから、異世界人だけで54人と言うことになりますね……すみません、セレスさん、セリカさん、コロナさん、お付きの人8人を合わせるとこちらは11人ですか。62人って、流石に入れ物が厳しくなってきたと思いますよ。
そのほかにも、料理人2人がいるのですね。はっきり言って、第一だけでは無理だと思います。だったら、御衣黄さんを受け入れるのか、ですか。勿論、私の家でと言うことですよね。その、出来たら遠慮したいなぁって。御衣黄さん、こっちに来てめっきり綺麗になりましたよね。いっそのこと、諸星さんの家で受け入れてあげたらどうです?
体が幾つあっても足りない。それって、冗談で言っていますよね。
あまり先延ばしにすると、本国から文句を言われそうな気がしてきました。でもですよ、こちらの居心地がとっても良いんです。そのアルバイトをしているスーパーなんですけど、ご厚意で社員寮まで使わせてくれたんです。安ホテルと言っても、宿泊費は相応の額が掛かるんです。それが節約できるだけでも、感謝感激雨あられと言うことになるわけです。
しかも残り物の惣菜を持ち帰っても良いと言うんですよ。もう、神がここに居るのだと本気で私たちは考えたんです。そのですね、本国に帰らなくても良いんじゃないのかと思い始めたぐらいなんです。
でも、あの人たちが私たちの裏切りを許してくれるとは思えません。一つ間違ったら、お世話になった方たちにご迷惑を掛けることになるのかもしれないんです。それを考えたら、いつまでもぬくぬくとした生活を送っていられないと思うんですよ。
「俺、おばちゃんちに婿に来ないかって誘われたんだ」
なんです、それって本気で言っています? どうして、私たちの中で一番どんくさいあなたが、そんなお誘いを受けるんです? ええっと、私の心臓を止めるのは勘弁してください。一番どんくさいと言うのは謝罪の上撤回しますから。
「それなんだけど、私目当ての男たちが沢山いるのよ」
ええ、リズは見た目だけは良いですからね。ごめんなさい、強制力も働かせないでください。だったら、挑発するようなことを言うなですか、だって私の所に来るのは小学生の男の子ばかりなんです。
「そう言う意味では、俺の所には誰も来ないんだがな」
あなたの場合、見た目が死神ですからね。ええ、あなたがいい人と言うのは知っていますよ。でも、世の中第一印象って大切ですよね。
とにかくですね、私たちはお国のためにここまで来ているんです。だからですね、ちゃんと仕事をしないといけないんです。ええっと、明日はシフトが入っていましたね。だから、決行は明後日と言うことで良いですか?
ほらグレゴリー、行きたくないって我が儘を言わないように。私たちが義務を果たさないと、こちらの方たちに迷惑をお掛けすることにもなりかねないんですよ。それからリズ、寄ってくる男たちは趣味じゃないですよね。そんなことはない、みんな誠実でいい人たちだと。
驚きました、あなたがそんな殊勝なことを言うだなんて。あちらの世界では、男たちをこき使っていましたよね。しかも、強制力を使わないで。
それは過去のこと、日本に来て心を入れ替えたと言うのですか。こんなに優しくして貰ったのは、生まれて初めてとまで言ってくれるのですか。まあ、前の世界が酷すぎましたからね。リズがそう言いたくなるのも、理解出来ると思います……と言うのか、私も同感なんですよ。
だからこそ、迷惑を掛けるわけにはいかないと思いませんか。そうですか、そのことには同意してくれるんですね。ですから、明日はちゃんとお別れの挨拶をしていきましょう。ほらリズ、そこで涙を流さないの。こらこら、ジャックとグレゴリーも泣かないの。3人に泣かれると、私だって悲しくなるじゃない。
え~ん、このまま残りたいよぉ
それだからこそ、ご迷惑をおかけするわけには行かないんです。だから、皆さんにお別れの挨拶をすることにしました。お別れの理由ですか、国に帰ると言えば十分ですよね。
辛くなったら、いつでも戻ってきて良いのですか。その、もの凄く嬉しいのですけど、決心が鈍るようなことは勘弁してください。枯れたと思った涙が、また流れ出てきたじゃありませんか。
出発が1時間遅れましたが、まだ許容の範囲だと思います。見送りの皆さんに手を振って別れてから、私たちはバスで駅の方へと向かいました。勿論、新幹線を使って帰る訳じゃありませんよ。見送りの皆さんに、帰ることを印象づける必要があったと言うことです。
そして適当な所で途中下車をして、目立たない物陰に移動しました。良いですか、これからが本番なんですからね。正面からではありませんが、敵地に乗り込むんですからね。
座標確認完了。ロケーションは、トレーサー近くの使われていない小屋を特定しました。では準備は良いですか、最悪転移直後に戦闘になることもありますからね。
覚悟は良い、ここまで来たら腹は決まっていると言うのですね。でしたら、皆さん飛びますからね。
リープっ
いえ、このかけ声は単なる気合いです。場所を思い浮かべて能力発動を命じれば、それだけで転移能力は発動してくれるのです。ただ何ですか、誰かに干渉された気がするんですけど。
ええ、私の転移はしっかり干渉されていました。目的として、目立たない小屋を指定したはずなんです。それなのに、転移完了と同時に雪に埋まってしまいました。転移した時点では、雪の上に転移したんですよ。でも、新雪で良いんでしたっけ、私たちの重みを受け止めきれなかったようです。そのままズブズブと、私たちは頭のてっぺんまで雪に埋まってしまったんです。
パニックになりますよね、ええ、普通ならパニックになりますよね。だから、私もパニックになったんです。と言うことなので、再度転移を行うことにしました。もう、目的地はどこでも良いと思います。このままだと、雪に埋もれて凍死する未来が待っていますからね。
はい、私たちはまた雪に埋もれています。転移座標を変えたはずなのに、なぜかまた同じ場所に転移をしてしまいました。でも、この程度でめげてはいられませんよね。ここで諦めたら、待っているのは嬉しくない凍死ですから。春になって発見されるのは、流石に悲しいと思います。
ええ、能力の限界を感じさせて貰いました。何度転移しても、結果が全く変わってくれないんです。目的地をあのスーパーにしても、結果は同じ雪の中。もうね、私の敵う相手じゃないと言うことです。
ねえリズ、あなたの強制力でなんとかならないの。もうやってる、幾らやっても雪がどいてくれないのですね。ジャックとグレゴリー……あなたたちの能力では、ここからの脱出は無理でしたね。どうしよう、私たちは綺麗な体のまま凍ってしまうのですね。
なんてことを言っていたら、ピンクの紐のようなものに巻き付かれました。何です、この紐は。私の目には、ホームセンターで売ってるビニール紐に見えるんですけど。そう、リズにもそう見えると言うのね。ところでリズ、この紐が巻き付いてくるんですけど。あなたの力で、巻き付くのを止めて貰えませんか。
やってる、でも、なんともならないのですか。ジャック、あなたの出番だと思います。ビニール紐程度だったら、あなただったら簡単に切り裂けますよね……無理、やっぱり無理でしたか。だったらグレゴリー……そんな絶望的な声を出さないでください。なんで、魔王と戦っているときより絶望的な状況になるんでしょう。天国のパパとママ、シャルロットはあなたの所に行きますからね。
勝手に殺すな、ですか。
こんなものは、その場のノリと言うものです。ええ、やけくそになっていますよ。ああ、手足の感覚がなくなってきた……
それからですか、紐さんに吊り上げられて私たちは運ばれていきました。これで、雪に埋もれて凍死の憂き目とからは逃れられたということになります。それで連れて行かれたのは、どこかで見たようなプレハブの建物でした。それでも雪や風を凌げるのですよ、しかも暖房まで入っているんです。もう、何でもお話ししますよ。ですから、できるだけ穏便に済ませてくれませんか。
私たちの前に現れたのは、どう言う訳かコーメー・モロボシでした。ええ、私たちの目的、あちらのリーダーと言うことです。普通重要人物が、のこのこと姿を現しますか?
そのコーメー・モロボシですけど、日本人の割に身長が高くて、ですね。あれっ、なんか私の好みのタイプに思えますよ。おかしいなぁ、スーパーでのバイトが趣味をねじ曲げたのかな。ええっと、リズも同じなんですか。その辺り、環境の影響が大きかったと言うことにしておきましょう。
それからリズ、どうして強制力を行使するんですか。しかも、私を愛してって……ああ、しっかりと呆れられているよ。違うよね、そういった場合はジャックみたいに切り裂きの攻撃とか、グレゴリーみたいに相手の時間を止めることだと思うのよ。あなたの場合は、相手を支配することを考えるべきだと思うの。ええっと、やれって言っているわけじゃないからね。さっきので、実力の違いはわかっているよね。
手遅れって何、ねえ、何をしたのよ。とっくの昔に攻撃をした、でも全く役に立たなかったと言うのね。どうしてそんな真似をしてくれるのかな。勝てないことはわかっていたよね。それでも男なら、立ち向かわなくてはいけないって……お願いだから、私まで巻き込まないで。だからリズ、ベッドに連れて行ってと言わないように。それって、もう強制力じゃないよね。ただ自分の願望を垂れ流しているだけよね。
ええっと、リーダーは誰か、ですか。はい、私がリーダーで構いません。だって、みんなして私を指差してくれるんですからね。色々と口うるさく言っていた、ですか。だって、誰かが纏めないとみんな仕事をしないじゃないですか。
ごめんなさい。リーダーは私で良いです。そうですか、これからヒアリングをするのですね。尋問ではなくヒアリングなんですよね。違いはあるのかですか、尋問よりは言葉が穏やかじゃないですか。それから一つ教えてください。私たちを拘束した紐のようなもの、私にはホームセンターで売ってるビニール紐に思えたんです。あれは、一体どんな兵器なんですか。
それって、ホームセンターで売ってる奴ですよね。そんなものに、私たちは捕まったんですか。そうですか、自衛隊員とかワイバーンも捕まっているのですね。自衛隊員はともかく、ワイバーンが捕まるのなら仕方がありませんね。ちなみに、どうやったんです?
そうですか、荷造り紐、でしたか。荷造り紐に命令をしたんですね。最上位の命令だから、ナイフで切れないし、火でも燃えないと言うのですね。その時間停止にはどうですか、対策品は用意した。でも、今回は使わなくてもすんだと言うのですね。ええ、荷造り紐さんが根性で頑張ってくれたんですね。
それからお願いをしても良いですか。皆まで言わなくても良い、寒くて仕方が無いだろうと言うのですね。はい、その通りです。私たちは、凍死を覚悟していたんです。新雪に埋もれるのって、対策をしていても辛いですよね。当然普通のジャンパーですることじゃないと思うんです。ジャンパーの裾から雪が入ってきて、もう、体中が冷たくて仕方が無いんです。
ええっとですね、お風呂と着替えをお願いしても良いですか。はい、厚かましいお願いと言うのは理解しているつもりです。でもですね、このままだと倒れてしまいそうなんです。
私の名前は、エリザベス・ポートマン、親しい人には、リズと呼ぶことを許しているわ。一緒に捕まったシャル、ジャック、グレゴリーの4人で、ファンタスティック・フォーと言うコードネームを持っていますの。マーブルのパクリ……違いましてよ、私たちは人外になったりしませんから。
ちなみに私の能力は、命令能力と言うものです。この命令と言うのは、生物・無生物に関係なく効果を発揮するんですよ、凄いでしょう。なんですか、反応が悪いように思えますわよ。二番煎じ、しかも下位能力と言うのですね。精神操作をできる相手に、随分と良い度胸をされているのですね。コーメー様ですか、コーメー様がどうかされたのですか。そうですか、コーメー様も似たような力を持っていると言うのですね。それは何ですか、運命の出会いと言うものですか?
私が美人と言うのは認める、ですか。何を当たり前のことを言っているのです? 美人と言うのは認めるけど、相手が悪すぎると言うのですね。私程度では、勝負にならないと言うのですね。そう言えば、私たちを連れてきた翼人の方がいませんね。その、あの方たちも美人だと思いましたよ。
隣を見てみろ、ですか。ええ、隣を見ましたよ。顔に見覚えがないかと言うのですね。綺麗な方だと思いますけど……それに、スタイルも私と同等ですか。それで、隣の女性がどうかしたのですか?
ええっと、それって翼ですよね。さっきまでなかったと思ったのですが、どこに隠していたのですか? そうですか、魔法ですか、魔法なんですね。ところであなたは……ヴェルファイア様と言うのですね。他に魔法は使えるのですか? そうですか、色々と使えるのですね。
ええ、敵対するつもりはありませんよ。それに私の能力は、あまり攻撃的ではありませんからね。それどころか、色々とお願いをしたいことがあるぐらいです。
皆まで言うな、ですか。ご理解いただけてありがたいのですけど、なぜ協力してくださるのでしょうか。そうですか、コーメー様は神と仰るのですね。そして神と言うのは、多くの女性を侍らせるのお約束なのですか。ええっと、この世界の神様とはかなり違っていると思いますよ。
ですが、その方が都合が良いのは確かですね。しかも第一夫人も協力して下されるのですか。そのお願いをしておいてなんなのですけど、なぜ皆さん私を仲間に入れようとしてくださるのですか?
なぜ、そこで顔を背けるのですか。もしかして、あの方は変態行為を好まれているとでも言うのですか? その、多少のことなら我慢する覚悟はございましてよ。その後ろですか、その程度なら立派に耐えて見せますわ。
違う、コーメー様はそんなことを要求されないのですね。ええ、少し安心させていただきました。それで、どうして仲間に入れてくださろうとするのですか? 仲間を増やさないと体が持たない……そんな理由ですの?
何を言っている、ですか。これは、妻としてとても切実だと言うのですね。夫を満足させられないのは、妻としての役目を果たしていないと仰るのですね。ただ幾ら頑張っても無理なので、数で対抗するしかなくなったと言うのですか。
その、こんなことを聞くのは淑女としてどうかと思うのですけど……
喉を鳴らすな、ですか。仕方が無いじゃないですか、その、私はまだ乙女なんですよ。殿方との行為は、未遂はありますけど経験が無いんです。未遂の部分を知りたい、ですか。その辺り、あまり触れられたくはないんです。ですから、これ以上聞かないでいただけるとありがたいのですけど。
はい、感謝いたします。こう言っては何ですけど、皆さんとてもお優しいのですね。
捕まって捕虜になったのに、どうして涙……うれし涙が出てくれるんだ。ああ、俺の名前はジャック・チャップマン。ファンタスティック・フォーで最年長の、スラッとした体系のナイスガイだ……悪かったな、見た目が理由で死神って言われてるよ。
死神の意味がわからない。そうか、お前は異世界出身なのだな。この世界では、死神と言うのは死を司る神のことを言うんだ。まあ、俺の能力が切り裂きだからな。自慢じゃないが、ドラゴンの首を落としたこともあるんだぞ。
まあ、そう言う訳で死神と言われたんだよ。首切り役人と言った奴もいたな。
話を戻すが、なぜ俺がうれし涙を流しているのかだが。それはだな、この温泉って奴なんだがな。日本に来たら絶対に入りたかったんだよ。だけどな、もの凄い貧乏旅行をしたお陰で、温泉どころかビジホのシャワーが限界だったんだ。まあ、安ホテルだけど、いいよな日本って、ちゃんとお湯が出てくれたんだ。
それはそれとして、温泉に入りたかったんだよ。しかもこの温泉、とろっとろの肌触りをしているよな。ナトリウム-炭酸水素塩温泉の源泉掛け流し……よくわからんが源泉掛け流しってのが良いよなぁ。なんか、お湯が新鮮に感じるんだよ。
なんだと、ここは飯もうまいのか。だけどな、俺たちは敵と思われているんだよ。実際、静香だったか、あの女に呪いとか掛けちまったんだよなぁ。気にする必要は無い、あんなちんけな呪いじゃ誰も困らないと言うのか。ってことは、俺たちってレベルが低かったんだな。
気にするなと言ってくれるのか。今更なんだが、あんたいい人なんだな。ああ、あんたも色々と苦労をしていたんだ。
蟹……今蟹と言ったか。なんだって、牡蠣とかもあるのか。そのだ、寿司とかも食えるのか? 頼めば作ってくれるんだな。いや、贅沢を言っているのはわかっているんだ。出来たら、うまいワギューってのを食べたいんだが。
炭焼きが絶品、わさびを下ろして乗せると更にうまいと言うのか。おいグレゴリー、今日は半額弁当じゃないものが食べられるぞ。いや、半額弁当を悪いと言うつもりはないぞ。それに、あの人たちは優しくしてくれたしな。でもなぁ、せっかく冬の日本海に来たんだぞ。蟹とか牡蠣とかぶりとか……河豚って何だ。それもうまいのか、そうかうまいのか、だったらそれも食べてみたいんだがな。
いやいや、半額弁当は悪くないぞ。なんたって、ステイツの食事よりもずっとうまかったしな。だけどお前は、それだけじゃないんだろう。知ってるぞ、ミヨって言うんだよな。本気で養子の話には心が動いたのか。ぽっちゃりめの、笑うと可愛らしい女の子なのか。勿論、俺は祝福できると思うぞ。でもなぁ、シャルが言っただろう。ステイツの奴らが、俺たちを見逃すはずがないって。だからお前だって、泣く泣くその子のことを諦めたんだよな。
そうだよな、俺たちはこれからどうなるんだろう……
温泉に入って落ち着いた頃を見計らって、私たちは第二の方へと移動しました。はい、諸星さんの立場だったら、必要の無い配慮だと思いますよ。ただ、あの人って優しいんですよね。せっかく暖まったのに、寒空を引き回すのは可哀想なんだそうです。
ちなみに、今回はセレスさんも一緒です。簡単でお腹に溜まるものを用意するのだそうですよ。ええっと、お酒も用意するんですか。いくら何でも、ちょっと優しすぎません? 特にセレスさんの手料理だなんて、自衛隊組が涙を流して悔しがりますよ。
別に構わない、のですか。そうですか、色々と情報が入ってきたのですね。その意味で言えば、私も菅谷先生に確認をしておきました。はい、アメリカは何も言ってきていないようです。ですので、彼らの扱いはアメリカを気にしなくても良いそうですよ。
自衛隊の情報があるのですか。そうですか、彼らのコードネームはファンタスティック・フォーと言うのですね。映画のバチモノ感があるのですけど、私の気のせいですよね。
それは良いのですけど、どうして4人は土下座をしているのですか。もしかして、私に対する謝罪の意味ですか。いえ、そこまでしなくて良いんですよ。違う、諸星さんにお願いをしたいと言うのですか。もう一度確認しますけど、私への謝罪の意味もあるのですよね。そうですか、考えていなかったのですね。そっかぁ、考えていなかったのか。ねえ諸星さん、暴れても良いですか?
片付けが面倒だから、大人しくしていてほしい、ですか。仕方が無いですね、寛大な私は笑ってすませてあげましょう。それで、諸星さんへのお願いって何ですか?
「私たちを、ここに置いていただけないでしょうか」
あなたたち、自分の立場を理解していますか。いえ、私を通して攻撃してきたことを言ってるわけじゃありませんよ。あなたたちは、任務で日本に来ているんですよね。アメリカから日本への亡命と言うのは、今の政治体制では成立しないんです。日本政府としては、返還を要求されたらあなたたちを帰さないといけないのですからね。
だから、そんな絶望した顔をしないでください。私だって、意地悪で言っているつもりはないのですからね。申し訳ないんだけど、あなたたちの為に日米関係を悪化させるわけにはいかないのよ。
「小谷さんの言っていることは正論と言うのは確かだよ。ただ、ここを作った目的を思い出してくれるかな?」
ここを作った目的ですか? それって、異世界から帰ってきた人たちの居場所を用意することでしたよね。ただ実際は、異世界から来た人たちの居場所になっていますよね。それで、その目的が何ですか?
「そこの4人は、異世界から帰ってきたんだよ。だったら、ここに居てもいいと思うんだ」
ええ、それで国際問題を起こさなければです。そして4人が日本人だったら、私だってダメだなんて言いませんよ。でも、4人の国籍はアメリカなんです。そして私たちを探る為に、アメリカ政府から派遣されてきたんですよ。その4人を保護……帰さないと言うのは、本気で喧嘩を売ることになりますからね。流石の菅谷先生も、庇うことは出来ないんです。
ええっと、何の考え無しに言っているつもりはない、のですか。でもですよ、どう頑張っても国際問題になってしまうんです。
「国際問題にならなければ良いんだろう?」
はい、国際問題にならなければ問題ありません。ですが、そんな方法は存在しないんです。
なんですか、常識を捨てて考えてみろと言うのですね。これまでも色々と常識外れのことをしてくれましたけど、今度はどんな非常識を見せてくれるんですか?
「非常識って言うなっ。と言うのは良いんだけど。取りあえず、この4人には死んで貰うことにする。そうだね、凍死体で発見されると言うのはどうかな。争った痕跡がなければ、単なる遭難として処理して貰えるよね?」
もしもし、死なせてしまったら保護になりませんよね。ほら、4人だって顔が真っ青になっていますよ。殺すぐらいなら、アメリカに帰してあげた方が優しくありません?
違う、話は最後まで聞くものだと言うのですね。今の話、これ以上発展のさせようってありましたか?
「この4人の凍死体が用意できれば良いんだよ」
ええ、この4人を凍死させるんですよね?
「俺は、凍死体を用意すると言ったんだけどな」
だから、この4人に死んで貰うんですよね?
「4人には働いて貰うけど、別に死ぬ必要は無いんだよ。俺が、凍死体を作れば良いだけだからね」
もしかして、人体錬成……すみません、漫画の受け売りです。人でなくて死体なら、倫理的問題が少ないと考えていませんか? その通り、アニメを参考にしたと言うのですね。すみません、ちょっと頭痛がしてきました。
つまりなんですか、この4人の凍死体を適当な所に置いてくると言うのですね。概ね間違っていない、ただその前に準備が必要と言うのですね。
「この4人に対する目撃者情報を作っておく必要があるんだ。だから4人には、南大谷駅に行って貰う。勿論、糸魚川から大糸線に乗って貰うんだよ。しっかりと、防犯カメラに映れば証拠になるよね。後は、南大谷からバスに乗って貰う必要もあるね」
ええっと、バカなアメリカ人4人が、冬の長野を馬鹿にしたと言う筋書きですか。軽装で山に入って、そのまま遭難……いえ、辻褄は合いますよ。ですが、アメリカがそんなことで騙されると思いますか?
だから、死体を用意する。日本的には、民間人が遭難して凍死しただけ。アメリカ的には、返り討ちに遭ったことになると言うのですね。ちょっと待ってください、そんなに都合よく行くのか考えて見ますから。
ええ、目撃者や監視カメラ映像は証拠になると思います。ただ、南大谷って駅員がいましたっけ? 近くに売店、そして食堂がある。そして外国人4人は、結構目立つことになると言うのですね。確かに、それなら目撃者はクリアできそうですね。ああ、バスに乗れば目撃証言は十分ですね。
ところであなたたち、ジャパンレールパスは持ってる? そう、持っているのね。だったら、パスポートと合わせて身元確認には使えるわね。
それで、第一発見者ですけど。そちらはどうします? ああ、薄墨さんたちが居ましたね。食材の仕入れに行くとき、遭難していた4人を見つけたことにするわけですか。私たちとの関係を知らなければ、不自然さのない登場人物と言うのは確かですね。
でしたら最後の確認ですけど、凍死体ってそんなに簡単に作ることができるんですか? はい、御衣黄さんですか。彼女の知識があれば、細かな調整が利くと言うのですね。なるほど了解です。そこまですれば、こちらで保護をしても大丈夫だと思います。
だそうですよって……どうして泣いているんです? 嬉しい、身も心も捧げますって……それって、願望が混じっていませんか。
「それで君たちには悪いんだが、ちょっと仕事をして貰うことになる。ああ、偽装工作ってのが必要になるんだ。その前に確認しておくけど、こちらでの行動は報告しているのかな?」
「ええっとですね、一応定時連絡と言うものはしています。今日なんですけど、行動に移すと連絡を入れています」
「だとしたら、ここでのんびりとは出来ないね。糸魚川まで転移をして、大糸線で南大谷まで来て貰えるかな」
「そこで目撃者を作ってから、姿を消せば良いんですね?」
「そう言うこと。しっかり目立ってから、ここに転移をしてくれれば良い。可能だったら、商店で何か買ってくれるかな。転移をした後で、君たちの凍死体を県道沿いの目立つ所に置いておくよ」
「購入したものが、私たちであることの証拠になるわけですか」
ああ、どう見ても嬉しそうにしていますね。まあ、気持ちはわかりますよ。これで、面倒なしがらみからも自由になれるんですからね。
「のんびりさせてあげたいんだけど、事情が事情だからすぐに行動を起こしてくれないかな。ああ、腹ごしらえぐらいはさせてあげるよ」
諸星さんが合図したら、セレスさんがワゴンを押して現れました。ええっと、アメリカ人相手にハンバーガーですか。
ただのハンバーガーじゃない。今日は飛騨牛を使っていると言うのですね。時間が惜しいので、簡単に食べられるものにしたと言うのですか。流石はセレスさんですね、気配りが半端じゃないと思います。では皆さん、お腹を満たしたら作戦決行ですよ。
出来たらもう一つ欲しい。ええっと、自分の置かれた立場をわかっています? だから、そんなに悲しそうな顔をしないでください。わかりました、あと一つだけですよ。あと一つ食べたら、糸魚川まで飛んでくださいね。いいですね、あと一つだけですよ。
半額弁当は愛情を形にしたものです!




