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衝突−1

村の特産は異世界です


・衝突-1


 今更ですし、私の故郷の近くでもあるのですけど、東京や静岡とは別天地ですね、この集落は。いえ、季節は冬ですから、東京や静岡でも寒かったのは確かですよ。でも、ここを知っていると、『春ですか』と言いたくなる気温だったと言うことです。何しろ雪……3mぐらい積もっているんです。

 まあ、都会を吹き抜ける風は冷たかった……別に気取って言っているつもりはないのですけどね。


 それはそれとして、どうして私は囲まれているのでしょう。諸星さん、ラズライティシア様はまだわかりますが、どうして白鳥さんや神代さんにまで囲まれているのですか。あと、御衣黄さんも意味がわからないのですけど。

 そうですか、お三方は『ノリ』ですか。ええっと、そう言う圧迫面接みたいなのは止めて欲しいんですけど。それからですね、回りで拍手して『おめでとう』と言うのも止めてくださいね。まるで、どこかの新興宗教ですからね、それ。最近参考で見たアニメの影響、なんですか。趣味の悪いアニメですね、そのアニメは。


 ところで、私が囲まれている理由を教えて貰えませんか。普通に東京に行って、北陸新幹線で帰ってきただけですよ。お土産だって、ちゃんと○○バナナを買ってきたじゃないですか。数については、一人で持てる量には限界があったと言うことです。

 違う、お土産が理由じゃない。諸星さんが、菅谷先生に言ったことを覚えているか、ですか。その色々と言っていたので、具体的にどれと言っていただかないとわからないのですが。


「どこまでばれているのか、と聞いたと思うんだが?」


 ああ、あの話ですね。それは、相手の出方を待つと言うことじゃありませんでしたか。それで、何か探知に引っかかったのでしょうか。でも、それならこんなところで私を囲んでいませんよね。


「まず静香に、『とれいさあ』で良いのか。それが仕掛けられておったぞ。しかもその『とれいさあ』、魔法に類する方法で構成されておった」

「それから貰ってきたビーフジャーキー、あれってはっきり言って毒なんだよ」

「孝明、それは正確ではないな。毒と言うより、呪いのようなものだぞ。食べた者を、牛にする呪いが掛かっておった」


 そんな呪いが……って、私しっかりと食べていますよ。私、牛になっちゃうんですかっ!


「そうすれば、静香のおっぱいも大きくなるのだがな。ただわしと孝明がおるのに、こんな幼稚な呪いが役に立つはずがないであろう。『とれいさあ』と一緒に、すべて解除してやったぞ」


 つまり、私は牛にはならないと。それで一つ安心できるのですけど、問題は呪いの掛かったビーフジャーキーですよね。他の人たちも食べていたと思いますが、皆さん大丈夫なのでしょうか?


「やはり静香は少しずれておるの。問題とするのは、ぬしに『とれいさあ』とビーフジャーキーを渡した者の方じゃないのか?」


 それはそうなのですけど、私にはここの仲間が大切なんです。なんですか、そのニヤニヤ顔は。


「いやな、ぬしもずいぶん素直になったと感心しておるのだ」


 そりゃあ、ここでは腹の探り合いなんてしなくて良いですからね。少しでも気を抜いたら、足を掬われるようなこともないんですから。もっと言うとですね、翼人たちの脳天気さを見ているからでしょうね。あの脳天気さ、本当に羨ましいと思っているんです。


「だそうだ孝明よ。腹に一物も二物もある女が、こんなことを言うようになったぞ」


 あのぉ、その言い方は止めて貰えませんか。ほら、女って謎があった方が魅力的に見えるって言いません? ですから諸星さん、可哀想な子を見る目をしないでくださいよ。自分で言ってて無理があることはわかっているんですから。

 それはそれとして、私が狙われたと考えて良いんですよね。だとしたら、ここのことがばれていると言うことですよね。


「『とれいさあ』と呪いは、こちらを観察するためであろうな。正確に言うと『とれいさあ』は解除しておらんぞ。ただ孝明が、別の場所に移動させておったがな」


 別の場所、ですか?


「うむ、近くに川が流れておるだろう。その川の中と言うのが移動先だ。不用心に移動したら、もれなく真冬の川で水遊びすることになる」

「不用心でなくても、もれなく川で水遊びをして貰うつもりですけどね。ええ、転移魔法程度でしたら、転移先を変更してやれば良いんです。と言うのか、どこに転移をしてきても転移先は1カ所だけです」


 それで、転移先が真冬の川と言うことですか。そのですね、私から提案があるんです。真冬の川も良いですけど、4mほど積もった新雪も素敵だなと。


「だそうだ孝明よ」

「雪遊びをさせてあげようと言うのかな。小谷さんって、中々親切なんだね」


 そりゃあ、攻撃されたら報復は必要だと思いますよ。幾らこちらの実力を探る為とは言え、私に牛になる呪いを掛けてくれたんですよね。だとしたら、これはれっきとした攻撃だと思います。

 良いですか、牛ですよ牛。大谷村の特産は野豚なんですけど……関係ありませんでしたね。いえ、ちょっとした宣伝です。


「誰に向かって宣伝しておるのだ? それはそれとして、解呪されることを前提としておるのだがな。とは言え、静香の言うことは間違っておらんだろう」

「どうして、そこで俺の顔を見ますかね。侵入してきたら、いつもの通り荷造り紐に活躍して貰いますよ」

「対抗できる能力を持っておったらどうする?」

「具体的には?」

「時間停止に類する能力だな。荷造り紐の固有時間を止めてやれば、絡みつくことを防ぐことが出来る」

「その程度で回避できるとは思えませんけど。一応、その対策をした荷造り紐も用意しておきますか」

「苦も無く対策ができると言うのか。われには、異常としか思えないのだがな。味方で良かったと思うことにしておこう」


 そうですね、諸星さんが敵で無くて良かったと思っていますよ。それで、いつ襲撃してくると思いますか?


「いきなり踏み込んでくるほどバカじゃないと思いたいのだが……小谷さんのことがばれていると言うことは、薄墨さんたちのこともばれていると考えた方が良さそうだね」

「調達している食料を調べれば、こちらの人数も推測することが出来るな。ちなみに、こう言ったことは攻め込む方が有利と言うのが相場だな」

「それは何ですか、こちらはずっと備えをしていないといけないからと言うことですか?」

「常識的には、と付けるのを忘れておった。われとぬしが探知しておれば、そもそも奇襲が成功することはあり得ないのだ」

「転移先は、どう頑張っても裏の雪だまりになるようにしておきますよ。今だったら、5mぐらい溜まっていたかな。固めてないから、上に立てばそのまま沈んでいくと思うよ」


 それなんですけど、転移魔法を使わなかったらどうするんですか?


「多分だけど、ここにたどり着けないと思うよ。雪上車でも持ち出さない限り、途中まで登ってくるのが限界だと思うんだ」


 そう言えば、最近除雪していませんでしたね。確かに、あんな所を歩いてきたら、見つけてくださいと言うようなものですね。


「まあ、そう言うことだよ。ただね、どこの国か……多分アメリカなんだろうね。しびれを切らしてくれて良かったと思うよ。政治的圧力を掛けられたら、流石に菅谷先生でも対処が難しいのだろうね」


 外務省とか、全く情報を持っていませんからね。その筋から攻められたら、情報を秘匿するのも難しくなると思います。そして一番厄介な人物、烏山総理大臣に知られてしまうんです。


「自国の総理大臣を、そこまで悪し様に言うものじゃないと思うんだ。ただ、否定できるのかと言われると、その、なんだ、まあ神輿は軽い方が良いと言うのはわかっているんだ。ただ軽い神輿は、何もないときに限ると思うんだよ」

「孝明よ。総理大臣と言うのは、この国の最高権力者ではないのか?」

「日本は、3権分立なんです。と言ってもわかりにくいですか、司法、行政、立法の3つに別れているんですよ。総理大臣と言うのは、行政……つまり、役人を束ねているのですが、その一番上の立場になります。司法は裁判、立法は大本となる法律を作る機関です。それぞれの長が、3権の長として同格になっている……ほぼ建前ですけどね」

「いずれにしても、最高権力者の一人であることには変わりあるまい。その最高権力者が、そのような愚か者で大丈夫なのか?」


 それが当然の疑問であるのは否定しませんよ。まともな感性をしていれば、疑問に感じても仕方が無いことだと思います。勿論、有能な総理大臣は歴史上沢山いるんですけどね。


「おだてて操縦していると思ってください。そして操縦している一人が、菅谷先生と言うことです」

「それでも、最高権力者が騒げば問題が大きくなると思うのだがな? 誰も、建前を崩すことは出来ぬだろう」

「それを否定するつもりはありませんよ。だから、面倒になると言っているんです。取りあえず、菅谷先生は今回のことを知らないようだね。だったら、アメリカが力を見せつけようと考えたのかなぁ」

「われには、それも脳天気に思えるのだが」


 目元にしわを寄せた所は、気難しいおばあさん……いえ、それだけ真剣に考えていると言うことだと思います。


「それだけ、送り込んできた人材に自信が有ると言うことでしょう」

「ぬしと言う非常識を絵に描いて額に入れ、火にくべたような存在がいなければそうなのだろうな」

「額に入れたら壁に飾ると思うんですけど……と言うのは良いのですけどね。小谷さん、他に報告することはないのかな?」


 知っててそれを言いますか? 諸星さんの故郷での話は、しっかりと干渉してくれましたよね。それはそれ、予定にないことをした以上、ちゃんと報告が必要だと言うのですか。

 そうですか、まあ、そうなんでしょうね。では、報告なんですけど……


「予想以上に酷いことになっていたと思います。ただ、町の人が好意的と言うのが救いだと思いますよ。逆に疑問なんですけど、諸星さんはあの手の人たちと何かありました?」

「しがない市会議員が、あの手の人たちから目の敵にされると思うのかな? 俺を攻撃した所で、あの手の人たちが思想的に得るものは無いはずだ」

「つまり、誰かに踊らされていると言うことですか」


 その誰かが問題と言うことですね。だけど、諸星さんは法的に故人になっていますよね。今更ですけど、諸星さんを攻撃することに意味があるとは思えないんですけど……ああ、嫌なことを思いついてしまいました。


「その嫌なことで合ってるよ。年末にはしゃいだことを反省しないといけないようだ」

「つまり、菅谷先生たちもマークされていたと言うことですか?」

「自衛隊から芋づる式に辿られたんだろうね。ちなみに、こっちはアメリカじゃないからね」

「アメリカじゃないんですかっ! だったら……ああ、中の国と言うことですか」


 なるほど、気にしなくてはいけない国ですね。だとしたら、北の熊さんはどうなんでしょうね。


「熊さんの方は知らないよ。中の国の方は、騒ぎを超せば俺を利用しにくくなると考えたのだろうね。多分だけど、牽制の意味もあると思うよ」

「つまり、あちらも能力者を抱えているのだと」

「ここの状況、アメリカの状況を考えたら、居ない方が不思議だと思わないかな? つまり、そう言うことだよ」

「居ない方が不思議、ですか。日本が特殊と言うのは、流石に考えにくいですね。そうですか、余所ではすでに取り込まれていると言うことですか」


 つまり、日本は出遅れていると言うことになりますね。それって、結構深刻じゃありませんか? そうでもない、理由を伺っても宜しいでしょうか。


「異世界帰りと言っても、能力にばらつきがあるからと言うのが答えかな。そうそうね、ラズライティシア様のような化け物は居ないと思うんだ……なんですか、ラズライティシア様」

「何故、ぬしは自分を除外してくれるのだ?」

「俺は、たかだか能力が2つしか無い無能だからですよ。命令は能動的ですけど、超越なんて能力としては地味としか言いようがありませんしね」

「その地味な能力が一番恐ろしいのだが、これは指摘しても仕方の無いことなのか?」

「ちょっかいを掛けなければ、こちらから攻撃する能力じゃありませんからね。だから、たいしたことはないと言うのが答えになります」


 なるほど、そう言うことなのか。思わず頷きそうになったのだけど、そんな単純な話であるはずがないと思います。すべてに対して超越するんですよね、ある意味それって最強の能力じゃありませんか。命令、つまり強制力と合わせたら、もう無敵なんてものじゃないと思うんですけど。


「そう言うことにしてくれても良いよ。取りあえず、2大国の動きが見えてきたと言うところかな。いやだなぁ、一介の市会議員には国際政治ってのは荷が重いんだよ」


 そんなものは、日本の政治家にも荷が重いですよ。しかも異世界関係って、これまで経験をしたこともない分野なんですからね。


「それで孝明よ、ちょっかいを掛けてきた奴らをどうするのだ?」

「しばらくは様子見ですかね。中の国は、程度の低い奴を使った扇動しかしていません。まだ手の内がわからないので、しばらく放置しておきます。アメリカの方は……やったことと言ったら、トレーサーと呪いですよね。しかも呪いのレベルが低いから、これ以上何もしてこなければ放置で良いと思いますよ」

「普通は、危険の芽を摘み取るものだと思うのだがな?」

「小さすぎて、摘み取っても別のが生えてきますよ。手間が面倒ですから、もう少し大きくなった所で刈り取ってやろうと考えただけです。除草剤を撒くのも手と言えば手なんですけどね?」

「すまぬが、除草剤とは何のことだ?」

「草が生えなくなる薬です」

「なるほど、魔王の居城近くのようなものか」

「魔王城と言われても、俺は見たことがないので知らないんですけどね。まあ、そんなものだと思ってください」


 話が逸れてきましたね。纏めると、静観って言うことになるんですよね。攻撃された身からすると、ちょっと嫌って気もするんですけど。


「呪いのことを知らなければ、一緒に飲んで騒いだだけではないのか? 帰ってきたとき、随分と上機嫌だったと思うのだがな」

「楽しかった……と聞いた気もするな。本当に報復が必要なのか、それ」


 ええっと、ですね。一応私は騙されていたんですよね。ただ騙されていただけじゃなく、牛になる呪いまで掛けられていたと思うんです。報復ぐらいあってもいいと思うんですけど……報復してくれるんですよね?

 そうですか、ちょっかいを掛けてきたときについでに報復してくれるんですね。ついで、ですか。いえ、ちょっと確認しただけです。そのですね、もう少し怒ってくれてもいいと思うんですけど。


「つまり小谷さんは、顔も見たことのない奴を、富山とか金沢まで追いかけて攻撃をしてこいと言うんだね?」


 具体的に事実を挙げられると、かなり面倒と言うのは理解出来ました。ええ、ついでで我慢をしておきます。その代わり、ついででも良いのでちゃんと報復をしてくださいね。約束ですよ、絶対にお願いしますからね。


「つまり、また酒を酌み交わしたいと言うのかな?」


 どうしてそれが報復になるんです? 楽しく新幹線を過ごせたお礼、いえ、お礼参りなら報復かも知れませんが、単なるお礼じゃ報復になりませんよね。自分の酒癖が悪いのを忘れるな、ですか。おかしいなぁ、酒癖が悪いと言う記憶が無いんですけど。

 世話をするのが面倒……変に絡んでくるから鬱陶しい。だから報復になってくれるのですか。知りたいのなら白船さんが映像記録に残しているのを見れば良い……ええっと、飲み会をビデオに撮るのは反則だと思うんですけど、思うんですけど。はい、大切なことなので、二度続けて強調させて貰いました。繰り返しますけど、酒癖は悪くなんかありませんからね。




 私の名前はシャルロット・ラングレー。まだ20歳になったばかりの可愛らしい女の子です。可愛らしいと自分で言うのか、ですか。自分で言わないと、誰も可愛らしいと言ってくれないのが問題なんです。身長が小さくて、見た目が幼く見えるから『可愛らしい』と言うことではありませんよ。薄いブラウンの髪にグレーの瞳がチャーミングだと思っているんです。

 ちなみにですね、これでも異世界なんかから帰ってきた帰還者でもあるんです。ハイスクール時代にサマースクールに参加したんですけどね、そこで友人共々酷い世界へと飛ばされてしまったんです。


 どんな酷い世界かと言うことに疑問があるのですね。良いでしょう、特別にお教えいたします。実はですね、私たちは総勢30人ほどその異世界に飛ばされたんです。そして元の世界に帰還したのは、私を含めて4人と言う体たらくなんです。そして残りの26人ですが、飛ばされた先で平和に暮らしている……と言うのなら良いのですけどね。残りの26人は、敵……魔王と言うことなんですけど、その戦いとかで名誉の戦死をしたことになっています。

 なぜなっているなんて言い方をしたかと言うとですね、現実はそんなに綺麗なものじゃないからです。使い捨てのコマですか、散々使い潰された結果と言うことなんです。


 歴戦の勇士と言ってくださるのですね。その評価はありがたいのですけど、私の役目は後方支援なんです。空間転移能力と言うものに目覚めた私は、戦闘地域への転移・離脱とか、物資の補給を役割としていました。

 そして戦闘の方は、一緒に戻ってきた3人が分担してくれました。その3人と言うのが、女帝エリザベス・ポートマン、死神ジャック・チャップマン、賢人グレゴリー・ノリスです。


 女帝と呼ばれたエリザベスは、金髪碧眼のもの凄い美人です。スタイルの方も、私とは比べものにならないほど大人びていたりします。でも、普段の彼女はとても内気なんです。気が弱いと言って良いのか、人の視線をとっても恐れてくれるんですよね。だからなのでしょうか、とっても姿勢が悪いんですよね。そのせいで、抜群のスタイルが隠れていたりするんです。

 ちなみに彼女の能力は、強制力を発動する命令と言う奴です。彼女が『死ね』と命ずれば、相手によってはそのまま死に至ると言う凶悪なものです。勿論、強制力には限界と言うのがあるのですけどね。


 そして死神と呼ばれたジャックは、能力的には『切断』と言うことになります。なんでもと言うのは語弊がありますが、かなりのものでも切断することが出来ます。これまで切断した最大のものは、巨大なドラゴンの首でした。エリザベスと後から紹介するグレゴリーがドラゴンを足止をめして、その隙を狙って首を叩き切ってくれたんです。ちなみに『死神』の二つ名は、切り裂き能力から来たものではありません。身長が190越えと高いくせに、ガリガリひょろひょろ、黒髪と灰色の瞳をした、あまり健康的に見えない見た目が理由になっています。

 最後の仲間は、賢人と言われたグレゴリーです。賢人と言いましたが、その実は阿呆と言うのは内緒です。ぱっと見が地味で老けているので、なぜか賢人とみんなで呼んでいたんです。ちなみにその能力ですが、時間停止と言う大技だったりします。勿論、停止能力にも限界はありますよ。相手の大きさが大きくなるほど、停止できる時間が短くなるんです。それでも、私の能力と合わせて脱出にはもってこいでもあるんですよ。


 あちらの世界に行ってわかったのは、戦争ばっかりしている私たちの世界もまだ生易しかったと言うことです。魔王との戦争をしているからでしょうか、人の死が日常になっていたんです。しかも異世界から人を攫ってくることに対して、全く罪悪感を持っていないんです。それどころか、足りなくなった戦力補給のため積極的に活用しているぐらいです。なので、私たち以外にも大勢の人たちが攫われてきていました。

 ちなみにですね、彼らが私たちを攫ってくることには理由がありました。理屈はわかりませんが、転移の過程で特殊な能力が備わってくれるんです。はい、私の空間転移も、後天的に授かったものなんですよ。


 それで、攫われた人たちはどうなったのか、ですか。戦力の補給と言いましたよね。つまり、殆どが亡くなられたと言うことです。酷い話だと思いませんか、私たちも酷い話だと本気で怒っていたんです。でも、色々なものを人質に取られていたので、協力しないわけにはいかなかったんです。


 その結果、私たちは魔王を倒すことに成功しました。ええ、はっきり言って英雄だと思いますよ。普通、英雄だと考えますよね。賞賛されてもおかしくないと思ってもおかしくありませんよね。

 ですが、私たちは邪魔者として扱われました。何しろ魔王を倒すだけの力があるのですからね、その力がいつ自分に向けられることになるのか。それを考えたら、邪魔者と考えるのもおかしくないと思います。何しろ彼らは、平和に暮らしていた私たちを拉致して戦わせてくれたんですからね。しかも大勢の仲間が死んだ……その中には、見殺しにされたのも含まれているんです。恨まれているのを、彼らも自覚していると言うことです。だから戦いが終わって凱旋した私たちは、彼らに一服盛られてしまったんです。凱旋したときには、仲間が10人は残っていたと思うんです。


 それからどうなったかと言うのですね。ええ、私の能力を使って逃げ出すことに成功したんです。ただ私の能力だけでは、元の世界に転移することは出来ません。私の能力は、転移先を認識できないといけないんです。それ以外の方法として、マーカートレースと言うのもありましたね。いずれにしても、元の世界がどこにあるのか、わからなければどうにもならないと言うことです。

 それでも執念……と言うのか、エリザベスの力で座標特定に成功したんです。ええ、私たちを召喚した関係者に、エリザベスが強制力を働かせることが出来たんです。もうね、死に物狂いってあのことを言うんですね。


 現実世界に帰ってきた私たちは、能力を使って糊口を凌ぐことになりました。つまり、ちんけな犯罪に手を染めたと言うことです。まだ人の心が残っていたのか、人殺しには手を染めませんでしたよ。

 そんな私たちの転機は、政府機関との繋がりが出来たことでしょう。どうやら暇人がいたようで、ちまたに溢れる事件の分析をしてくれたようです。その事件の分析から、私たちの存在が炙り出された……もの凄い暇人だと思いませんか?


 そこで4人揃ってスカウトをされ、情報局の外部協力員の身分を得たと言うことです。そのですね、口実を得たと言うのか、政府からの命令だからと言えばいいのか、結果的に何人もの人の命を奪うことになりました。

 ちなみにですね、普段の私たちは『学生』の身分を持っていたりします。何しろ最年長のジャックでも22ですし、私は20歳になったばかりですからね。


「ねえシャル、一体誰に向かって解説をしているの?」

「リズ、脳内読者って奴じゃないのか。聞かない振りをするのも、優しさと言う奴だと思うぞ」

「ジャック、多分だが突っ込んじゃ駄目な奴なんじゃないのか?」


 すみません、少し浸ってしまったようですね。それからジャック、私には脳内読者なんていませんからね。日本まで来たので、ちょっとモノローグと言うのをしてみただけなんですから。


「それは良いんだけど、どうしてビジホ……だっけ? どうしてビジホでマックを食べているのかしら? ここって、食の都金沢なのよね?」

「予算の関係だからですっ! 皆さんの学費で、結構毎月カツカツと言うのを理解してください」

「だからって、格安チケットに安ホテル、か?」


 ないよなぁと文句を言うのも理解は出来ます。ただ、私にも言いたいことはあるんですよ。


「皆さんだけ、ホクリクシンカンセンで豪遊していますよね?」

「あれは、ターゲットに接触しただけなんだけど?」

「車内で宴会をすることが、ターゲットへの接触ですか?」


 違いますよねと言ったら、全員が私から顔を背けてくれました。


「ほら、相手に警戒させないようにするのって大切だと思うのよ」

「皆さんが宴会をしているとき、私は自分で移動をして、情報収集をしていたんです。食事なんて、コンビニ飯ばかりだったんですよ」

「俺たちって、政府の依頼できているんだよな。だとしたらだなぁ、もう少し待遇が良くてもいいと思うんだ」

「そんなこと、私に言わないでください。私だって、もっとおいしいものを食べたいんですよ。情報収集で回っていて、何度値札を見てため息を吐いたことか」

「なんか、相手が変わっただけで、あっちの世界と待遇が変わっていない気がするのだけど……私の気のせい?」

「リズ、それは禁句って奴だ」

「大学に行けて、貧乏旅行だがこうして日本にも遊びに来ているんだ。帰ってきたときに比べれば、まだずっとマシの思えるんだが……気のせいなのか?」

「グレゴリー、間違いなく気のせいだと思うわよ。あっちの時と同じで、便利に使い潰されている気がするわ」


 ほらほら、そんな話をしていると気が滅入ってきますよ。それぐらいなら、さっさと仕事を終わらせることを考えましょうよ。日本に来ているから貧乏が気になるだけで、あちらに帰ればもう少しマシになるんですからね。


「フードスタンプとか、教会の炊き出しのお世話になることかしら?」

「日常生活の方が、まだ諦めが付くと言う奴か」


 ほらジャック、そこでつばを吐く真似をしないように。


「それでシャル、マーカーは辿れているのか?」

「今のところ辿れていますね。場所の特定も終わっていますから、いつでも転移は可能です」

「罠ってことは無いの?」

「相手の実力がわかりません。だから、慎重になっているんです」

「だけどなぁ、待っている方が焦れてるんだが?」

「普通は、攻められる方が不利なんですよ。攻撃する側は、相手の隙を伺えば良いんですからね」

「だけど、私たちの方が我慢できなくなってるんだけど。それって、どこか変だよね」

「金がないのが悪いんだぁっ!」


 こらこらグレゴリー、そんなことを叫んでも仕方が無いでしょ。ああごめんなさい、壁を叩かないでください。ここのホテルは壁が薄いんだから、大きな声を上げたら文句を言われるんだからね。

 それよりも、ターゲットの分析をしましょう。軍から、データを貰ったわよね?


「ええ、胡散臭いものを見る目をされたわね」

「だからリズ、それは言わない約束でしょ」

「俺たちのターゲットは、この背の高い男で良いのか?」

「Cが動いていると言う情報もあったわね。だとしたら、そう考えてもいいと思うんだけど……」


 これまでの分析でも、そう言う結果が出ていたと思います。それなのに疑問に感じるのは、何か新しい発見があったのでしょうか。


「リズ、どうかしたのか?」

「いえ、ちょっとね。この翼人に見えるのって、本物なのかしら?」

「この男があちらの世界から帰ってきたのなら、本物と考えていいと思うんだけど……」

「なんだけど、どうしてこんなに脳天気にしていられるの?」


 その翼人とエルフが、輪になって踊っているんです。唄にはキャプションが付いているんですけど、本当ですかと言いたくなる酷い歌詞ですよね、これって。


「確かに脳天気なんだが……エルフも居るんだけど、これも本物なのか?」

「一人は付け耳なんだが、後の二人は本物とみても良さそうだな。ただ、エルフの割に……」

「だよなぁ、俺たちが知ってるエルフって……そそる見た目をしていたよな」

「一人は合格だと思うんだ。ただなぁ、もう一人は金を返せと騒がれるレベルだぞ」

「逆に、その方が本物に思えてこない?」


 リズの指摘に、私たちは軽く膝を打ちました。


「偽物だったら、身の程を知れって周りが止めるよな、間違いなく」

「だとしたら、登場人物はすべて本物ってことね。そうなると、このエルフでも翼人でもない女性って、何者?」

「どう見ても日本人じゃないよな、もの凄くいい女なんだけど……」

「ねえグレゴリー、どうして私の顔を見てくれるのかしら?」

「美人のくせにそそらないなぁと思っただけだ」

「わ、私は、見た目で勝負なんかしていないんだからっ!」

「それはそれとして、こいつらなんだけどどう見る?」


 相手の戦力を見誤ると、こちらが全滅する可能性も出てくる。だから冷静に、そして客観的に相手の力を分析しないといけない。それを失敗したから、私たちは全滅寸前になったんだ。後は、敵と味方の見極めも忘れちゃいけない。


「気をつけなくちゃいけないのは、翼人の魔法と言う所だな。勿論、翼人が俺たちの知っている翼人ならと言う前提がある」

「ジャック、あなただったら負けないわよね?」

「1対1なら負けないな。ただ寄って集って攻撃されたら、流石に仕留めるまで耐えきれないと思うぞ。グレゴリー、お前だったらどうする?」

「俺かぁ、俺だったら一人お持ち帰りをするな」

「グレゴリー……趣味の話は後にしてくれない?」

「真面目な話、俺が足止めをしてジャックが切り裂けば負けないと思うな」

「後は、リズの強制力か……相手が翼人だけなら、勝てる戦いに持って行けそうね」

「敵の戦力が翼人だけ、しかも私たちの知ってる翼人ならでしょ。エルフが魔法を使ったりしたら、かなり分の悪い戦いになるわよ」

「なあリズ、シャル、俺たちって戦うことを期待されてたんだっけ?」


 ジャックの言う通り、制圧は仕事になっていないわね。ただ、穏便な話し合いって成立するのかしら。


「話し合いって、相手を殴り倒してから始めるものじゃないの?」

「お前、綺麗な顔をして怖いことを言うな」

「でも、リズの言うことは間違ってないと思うわよ。だって、私たちはすでに『攻撃』しているんだもの」

「だから、俺は呪いを掛けるのは反対だったんだよ。それなのに、リズとグレゴリーが悪乗りしやがって……」

「今更嘆いても仕方が無いでしょ」

「呪いを掛けた奴が開き直りやがった……」


 ああ、ジャックが頭を抱えているわ。でもね、穏便な話し合いって難しいと思うのよ。だって、相手は徹底的に存在を隠してきてるでしょ。あと、Cの国の動きも気になるのよね。だから、勝負は急がないといけないと思うのよ。


「それでシャル、どう決着を付けるつもりだ?」

「それなんだけど……相手の実態を確認、その後離脱と言うのが最低限なんだけどね。可能なら、私たちへの協力を約束させると言うのもあるわ」

「後の奴って、私たちが制圧できたらって話よね。でもさぁ、私たちの能力って制圧向きじゃないと思うのよ」

「その辺りは、リズに頑張って貰うしかないわね。ねえ、女帝様」

「私の命令は、対象制限があるんだけど」

「その制限の中で、相手を制圧、拘束すれば良いだけよ」

「簡単に言ってくれるのね」

「駄目だったら、私の能力で全員脱出。そのまま国に逃げ帰るだけのことよ」

「本当に逃がして貰えるのかしら?」

「魔王の前からだって逃げることに成功したのよ。流石に、魔王以上と言うのはないと思うわ……思いたいわ」

「すぐに逃げ出す算段をした方がいい気がしてきたわ……」


 それは否定しないけど。否定しないけど、それならそれで私たちを売り込みすると言うのはどうかしら。ほら、ジャックの切り裂き能力って便利だと思わない? グレゴリーの時間静止能力も、うまく使えば便利な能力だと思うのよ。リズは、ほら、見た目と体を武器にすれば良いでしょう?


「ねえシャル、ちょっと二人きりで話をしない。ええ、あなたに命令してあげようかなって思ったのよ。外、思いっきり寒いよね、真夏のアリゾナに行った気持ちにしてあげるから」


 ええっと、私は美人だって褒めたんだけど。褒めたんだけどなぁ、馬鹿にしたように聞こえたかしら。そう、思いっきり聞こえた。ジャックとグレゴリーも同じ意見と言うのね。でもさぁ、私じゃ色仕掛けって無理があるでしょう。ロリコンだったら、相手にして貰える……あのリーダー、奧さんってあの超絶美人だよね。だとしたらさぁ、ロリコンって線はないと思うんだけど……

 ごめん。確かに私が間違ってたわ。


「そう、素直に謝ってくれたら許してあげるけど」


 うん、幾らリズでも、あの美人さんには叶わないわ。どう見ても、リズの方が体が弛んでるよね……


 ええっと、どうして私はTシャツ姿で外にいるのかしら。なにか、周りの視線がとっても痛いんですけど。それに、どう見ても雪が降ってるよね。Tシャツ短パンだけって、いくら何でも無理があると思うのよ。

 財布……スマホ、部屋の鍵……見つからないんだけど。ねえ、部屋の鍵ぐらい持たせてくれても良いと思わない? どうやって、私は部屋に戻れば良いのよ。フロントで交渉するにしても、私は一体どこにいるの? わからないところからどうやって帰れと? だったら転移すれば良いって言ってくれるのね。でもさ、なぜか転移能力が発動しないんだけど。ねえリズ、私の能力を封じてくれたの。謝るからさぁ、土下座してでも謝るからさぁ、せめて能力の封印だけでも解いてくれないかな。なんか寒気がしてきたし、鼻水が止まらなくなってきたのよ。風邪を引く前に……ううん日本の警察にお世話になる前に、許してくれると嬉しいんだけどな。


 私が回収されたのは、それから30分ぐらいかな。それぐらい経過してからのことでした。ええっと、何を食べてるの? 肉まん、暖かそうね、それ。ところで、私の分はないのかしら。ない、各々自分のお金で買ってる。だったら、立て替えをしてくれてもいいと思うんだけどなぁ。それから、袋でぶら下げているのは何? 熱々のおでん。後は、カップ麺もあるのね。一応聞いておくけど、私の分はあるのかしら? 買った覚えはあるのかって? そう、やっぱり私の分はないんだ。

 それはそれとして、寒気が止まらないんだけど。そう、封印は解いてくれたのね。だから、全員でホテルに戻ると言いたいわけね。ねえ、どうして私がみんなを連れて転移をしないといけないの? 仕返しをされるとは思っていなかったのかしら?


 覚悟をしておきなさい……あれっ、転移が発動しないのだけど。そう、報復を予想していたと言うのね。だから、嘘を吐いて私の反応を調べたと言うのね。


 土下座をすれば許して貰えるのかしら?


 そこまでは必要無い。それで、どうすればいいのかしら。


「あれからみんなで相談したんだけど。私たちって、食料をコンビニで調達していたでしょ。どうやら、それが間違っていたみたいなのよ」


 なるほど、それで?


「夕方に地元のスーパーに行けば、コンビニよりも安く食料を仕入れられるようなの。半額弁当? だっけ。かなりお得だって話なのよ」


 ええっと、それってお弁当がディスカウントされてるってことでしょ。だったら、今からでも買いに行かないと。

 ああ、そう言うことね。私への罰は、ホテルに戻る前にスーパーに行けと言うことなのね。でもさぁ、私はとっくに限界を超えてるんだけど。それぐらい強制力でなんとかなる。気持ちは真夏のワイキキビーチって……お願いだから、一度部屋に戻って厚着をさせてくれないかしら。

 だめ、半額弁当がなくなってしまう。だから、着替えよりも先にスーパーにいく必要があるのだと。あなたたちは、おでんとかカップ麺を買ったのよね。肉まんは熱々でおいしかったと思うのよ。だったら、半額弁当は明日でも良いんじゃないの?


 そう、朝食用なのね。ええ、確かに朝食は必要よね。それに加えて、ランチも買っておく必要があると思うわ。でも、ランチだったらカップ麺でも良いと思わない?

 つべこべ言わずに、最寄りのスーパーに飛べと言うのね。だったら飛ぶけどさぁ、強制力の方をお願いできるかしら。そう気持ちだけじゃなくて、周りの空気を暖めてほしいのよ。幾ら気持ちがフロリダでも、体は真冬の金沢なのよ。私の体を、もう少し考えてくれると嬉しいなって。じゃあ、飛ぶからね。


 はい、しっかり風邪を引きました。お陰で、潜入の決行が1週間ほど伸びてしまいました。予算がオーバーしているんだけど、どうしたら良いと思う? このままだと、半額弁当でも追いつかないんだけど。

 それから、私たちって悪目立ちしているよね。スーパーの店員さんに、同情の目を向けられてるのに気づいてる? 半額弁当のシールなんだけど、私たちを見てから貼ってくれるよね。それはそれでありがたいんだけど、プライドを捨ててる気がしてならないのよ。


 ええっと、唐揚げ弁当に貼ってくれるんですか。しかも唐揚げは揚げたてなんですね。でしたら、こっちのハンバーグ弁当にも貼って貰えますか。沢山食べる……違います、ハンバーグ弁当は明日のお昼用なんです。

 ええっと、どうしておかずを足してくれるんです。いえ、魚のフライも好きですよ。コロッケも持っていけ、ですか。みなさん、とても優しいんですね。日本のことが大好きになりました。


 お金がないのなら、アルバイトでもするか、ですか。賄い付きなんですね、そうですか、昼と夜の心配をしなくても良いんですね。はい、しっかりと心が動きました。ですが、少しだけ考えさせてください。

 ほらそこ、お弁当の取り合いをしないように。すみません、もう1食分ノリ弁当ってありませんか。すぐに作ってくださるんですね。一応確認しますけど、本当に半額で良いんですか? 今からでもバイトをして行くか、ですか。時給千円……商品の片付けをすれば良いんですね。それをしたら、このお弁当は持って帰って良いのですか。


 ねえみんな、ご厚意に甘えた方がいいと思うんだけどなぁ。そう、誰も反対はしないのね。でしたら、ご厚意に甘えて後片付けをさせていただきます。出来たら、焼き肉ですか。お弁当に足して貰えると嬉しいなって……勿論、生姜焼きでもウエルカムです。ちょっと、肉に飢えてきているんです。

 なぜ泣いている……ですか。いえ、ようやくおいしいものが食べられるんだなって。そうですか、焼き肉弁当を作ってくれるんですね。今更なんですけど、日本っていい国なんですね。




最初はアメリカです。はい、赤貧に喘いでいます。

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