執念の勝利
村の特産は異世界です
・執念の勝利
ポンパドール子爵家はどう言う家なのか、ですか。ちょっとその質問はわかりにくいですね。ええ、王国の中では取り立てて目立つ所のない子爵家と言って良いと思います。とても善良で、とても押しに弱い当主であるドンク子爵と、更に押しに弱いビゴが跡取りに決まっています。
それでも強いて特徴を挙げるとすると、郊外にハイエルフの住まう森があることでしょう。彼らとの関係も良好で、領地経営では色々と手伝って貰っています。はい、ハイエルフとの関係は良好ですよ。ですから、彼らを奴隷になんて考えたことはありません。
それで、どうしてエルフの森が燃えているのか、ですか。なぜ、目を背けたくなる話をしてくれますか。ええ、父に奴隷商人が近付いているのは知っていました。ただ私の目が光っている間は、エルフを奴隷になんて話をさせるはずがありません。人を人とも思わない目で見て、奴隷商人を追い払っていたんです。
だけど、現実としてエルフの森が燃えている。この事実をどう説明するのか、ですか。そのですね。私も今年で17になったんです。どう言うことかと言うとですね、そろそろ嫁ぎ先を決めなくてはいけない年頃になったと言うことです。いえ、嫁ぐのはいやだと言っていませんよ。私だって子爵家の娘ですからね、親が決めた相手と結婚するのも不思議だとは思っていません。それでも欲を言うのであれば、素敵な方が良いなぁと夢見ていたんです。ただ近場の貴族に、該当する方が居ないことは知っていました。
それでも、器量好し……自慢ではありませんよ、これは事実ですからね。器量好しで頭が良くてしっかりしていて……ええ、すべて事実なんです。そんな私ですから、求婚してくる方は大勢おいででした。
その中の一人に、フランセと言う男爵様がいたんです。相手の方が格下、格下ですけど、かなり勢いのある男爵家と言うのは確かです。しかも押しが強くて、ですね。父が押し切られてしまったと言うことです。それで婚姻準備と言うことで、領地を空けることになりました。
そのですね、とても多くの方から引き留められました。執事から側仕え、そして街の方々から『嫁がないでください』と請願されたぐらいです。その、私が居なくなると、ポンパドール子爵家が崩壊してしまうから、なのだそうです。いやですね、そこまで子爵家の地盤は脆弱じゃありませんよ。多分ですけど……
ちなみにフランセ男爵様、お名前はファボ様と仰るのですけどね。まあ、見た目については1ヶ月掛ければ慣れること出来るかなどうかなのレベルです。ただあの成金趣味の格好は、どうも体質的に受け入れられません。しかもお顔は脂ぎっているし、笑みにしても下品そのものだと思います。
それでも、私には選択肢はありません。それが、貴族の娘に産まれたものの運命なのです。ですので、多々ある問題点は、1ヶ月掛けて我慢できる所まで持って行ければと考えていました。さもなければ、初夜の床入り前に毒殺すると言うのもありかもしれません。いえ、全然ありな気がしてきました。そうですよね、この手の不幸なんて珍しいことではありませんからね。
そうやって輿入れ準備……まだ毒は手に入れていませんけど、輿入れ準備をしてから領地に戻ってきたんです。そしたら、エルフの森が燃えていたと言うことです。どうです、私には責任がないと思いませんか?
誰の責任だろうと、エルフの森が燃えていることには違いない、ですか。それは否定できませんし、帰りの馬車で頭を抱えてしまいましたよ。それで屋敷に戻ってすぐに、父に事情を問いただしたと言うことです。いやですね、極めて冷静に問いただしましたよ。あらお父様、頬を腫らしてどうなさったんですか。どうして、怯えた目で私を見るんですか。
それで白状したのは、奴隷商人の押しに負けたと言うことです。奴隷商人の押しに負けた。森に火を付けるのを許したのですか? 下手に類焼したら、街にまで被害が出るんですよ。
そこまでするとは思っていなかった。奴隷狩りをするのを許しただけだと。奴隷狩りを許した時点で万死に値するんですけど、森を焼かせたのは本当に死刑ものの所業なんですよ。すぐにでも兵を出して、奴隷商人たちを捕まえてください。えっ、無理。小遣い稼ぎで、うちの兵が奴隷狩りに加わっている。
セバス、止めないで。お父様には、自分のしたことを理解して貰わないといけないんです。もう気を失っている、これ以上やっても無駄。それに明日になれば忘れている、ですか。ねえセバス、それはそれで、とても失礼なことを言っていると思いませんか。事実、これでもまだ手ぬるいと言うのですね。
しかし、火の手の上がり方が異常ではありませんか。いくら雨が少ない時期と言っても、火の回り方が早すぎると思います。ええっと、油を撒いているのですか。そして魔法で、一斉に火を付けたと。ねえセバス、一つ教えて貰いたいんだけど。奴隷商人って、炎熱系の魔法使いをどこから連れてきたのかしら。
なぜ、顔を背けるんです。話したくなるようにしてあげても良いんですよ。そうですか、我が家お抱えの魔法使いたちと言うことですか。ええ、そう言うことなんですね。
こんな家、潰れてしまえっ!
ごめんなさい。少し冷静さを失っていました。でも、完全に八方塞がりになってしまいました。奴隷商人を罰するために兵が必要なのに、その兵が罰せられる側に居るんですからね。下手をしたら、逆に私たちの方が攻められてしまいます。
それなら、この暴虐を見逃すのか、ですか。ねえセバス、今の私に出来ることがあると思う? 貴族が偉ぶっていられるのは、力と言う裏付けがあるからなんですよ。その裏付けを手放しておいて、どうやって権威を示すことが出来るんです?
国王に支援依頼を、ですか。それをした時点で、ポンパドール家はお取り潰しですよ。しかも、奴隷商人たちが罪に問われることはないんです。だって彼らは、お父様が許可を出したと主張するんですからね。それなら、許可を出した方が悪いことになるんです……詰んでますよね、これって完全に詰んでますよね。毒の入手が間に合ってないけど、フランセ男爵様のところに押しかけようかしら。
この奴隷商人は、フランセ男爵に取り入っていると言うのですね。だから、私の不在を狙うことが出来たのですか。つまり、今回の出来事は、裏にフランセ男爵がいたのですね。ええ、でしたら毒なんて必要ありませんね。撲殺扼殺斬殺……どれが良いのでしょう。
ところで、いつの間にか森の火が消えていませんか。あれだけの火が、簡単に消えるとは思えないのですけど。それでも消えていますね、一体何が起きたのでしょう……
そう思っていたら、もの凄い揺れが館を襲ってきました。一体何がと思ったら、目の前にあった壁がなくなっていたんです。ひょっとして、魔法で攻撃された。でも、この世界に住む魔法使いに、こんな真似を出来るものがいるとは聞いていません。ええ、屋敷の半分が吹き飛んだのは現実です。だとしたら、現実として対処が必要なのは確かですね。どんな理由があったとしても、ポンパドール家を攻撃してくれたのです。でしたら、反撃と言うものをしなくてはいけないんです。
それからセバス、少し手を貸してくださいませんか。ええ、ちょっと腰が抜けてしまったんです。あなたもそう。だったら、自分で立ち上がらないといけませんね。ちょっと言えない所が生暖かい気がするのですけど、非常事態ですから忘れることにいたしましょう。
あら、何か聞こえてきましたね。
『われは、エルフを守護するものなり』
エルフを守護するものですか。そんな存在がいたとは知りませんでしたが、大声で名乗っている以上、相手はそう考えていると言うことですね。
『森を焼き、エルフを殺す所業を許すわけには行かぬのだ。それが私欲を満たすためなら、なおのこと許すことは出来ない』
ええ、私だって許せないと思っていますよ。でも、これってないと思いませんか。ですので、反撃をさせていただきます。魔法使い……奴隷狩りで出払っている。兵士たちは……こちらも奴隷狩りで出払っている。
こっちでも詰んでいると言うことですか。取りあえず、身を守る方策を採ることにしましょう。相手が何を要求してくるのか、じっくりと見極める必要がありますからね。
ところで、前から白い紐のようなものが飛んでくるのですが。あんなものは知らないと言うのですね。でもこちらに近付いてきますよ。気持ち悪いので、棒で打ち払って貰えますか。だめ、手応えが全くない。ですがこの紐、私に絡みついてきましたよ。
あの紐さん、その縛り方だと胸が強調されてしまうんです。あまり大きく見えると、その、下品じゃありませんか。
それから、この状態で持ち上げないでください。帰ってきたままですから、着替えをしていませんし、下は簡素なスカートなんです。その先ほどの衝撃で、水をかぶったみたいですし……正直に打ち明けるとですね、ちょっとだけ粗相をしてしまったんです。ですので、持ち上げられると下から覗けてしまうんです。はい、スカートの裾を縛ってくれたんですね。ただの紐だと思ったのですけど、随分と賢い紐さんなんですね。
猿轡ですか、必要ありませんよ。ここで騒いだとしても、誰も私を助けることは出来ないと思います。もう、最初の攻撃だけで勝ち目がないことがわかってしまったんです。だから騒ぎませんから、猿轡は無しの方向でお願いします。
『罰として、娘は貰っていくことにする。良いか、これが警告と言うのを忘れるでないぞ』
ええっと、私は人身御供と考えれば良いのですよね。人質だったら、解放条件があることになりますし。いえ、解放して貰っても、私には一つも良いことが無いんです。実家は壊滅、しかも嫁ぎ先は腹黒脂ギッシュ男爵なんですよ。だから、攫われたまま解放されない、人身御供の方が良いなあって。
そうやって運ばれた先には、見知った顔が待っていました。ポルテですよね、無事だったんですね。取りあえず、抱き合ってお互いの無事を喜び合うことにしました。
それで、こちらのエルフに見えないエルフが、エルフの守護者様なんですね。あの、失礼を承知で伺いますが、本当にエルフなんですか。その、どう見ても見た目が、ですね。
『命はいらないのか』ですか。ですから、失礼を承知でと言ったんです。その言葉は免罪符ではない。はい、全くもって仰るとおりです、ごめんなさい。
ところで、隣に居る素敵な男性はどなたですか。集落のリーダー、荷造り紐を使ったのはこの方なんですね。ところで集落ってどこのですか。あとですね、荷造り紐って何のことです。この手にある、白い束になった紐のこと。通常は荷物を縛るのに使うから荷造り紐と言うのですね。
そうですか、私は荷物だったんですね。そこまでは言うつもりはない。手に入りやすいから、荷造り紐を使っているだけなんですね。
ところで、私はこれからどうなるのでしょう。ああ、ポルテさん、私を庇ってくれるんですね。ポンパドール子爵家で、唯一まともな人と言ってくださるのですね。それはそれで嬉しいのですけど、私以外がまともじゃないように聞こえますよね、それ。
事実だから仕方が無い。そうでなければ、焼き討ちを許すはずがない。はい、全くもって仰るとおりです。
同じ質問をさせていただきます。この後、私はどうなるのでしょう。
取りあえず、集落に連行する。そこで事情を聞いて、その後の沙汰を決めてくれるのですか。希望があれば、最大限に考慮してくださるのですね。でしたら、最初に希望を申し上げておきます。はい、実家には愛想が尽きました。後ですね、このまま戻ると脂ギッシュ男爵の元に嫁がないといけなくなるんです。しかもその脂ギッシュ男爵なんですけど、エルフの森を焼いた張本人なんですよ。
「ラズライティシア様、真犯人がわかりましたけど、どうします?」
「ポンパドール家だけと言うのは、流石に不公平だろう」
つまり、フランセ男爵家も壊滅させてくれるのですね。でしたら、私が手引きをいたします。はい、真っ直ぐあちらに向かっていただければフランセ男爵家です。
やけに協力的……本音を言うとですね、初夜の前に毒殺することを計画していたんです。親が決めた相手に嫁ぐのは、貴族の義務だろう、ですか。それが義務と言うのは認めますよ。そして私も、自分の結婚はそうなると思っていましたからね。
でも、世の中にはどう頑張っても無理なことがあるんです。そしてフランセ男爵に嫁ぐのは……もう少し言うとですね、褥を供にするのはどう頑張っても無理なことなんです。事情は理解出来た、ですか。その、私は怖い女じゃありませんよ。ただ、生き残るためには私も必死だったと思ってください。
しかし、凄い速さで飛んでいるんですね。それから、そちらで小さな箱を抱えている方はどなたでしょう。白船様、今回の出来事を記録しているのだと。その小さな箱で記録が出来るのですか。後で見せて貰うことは出来るでしょうか。構わない。ありがとうございます。
それからですね、目的地はあそこの館です。はい、脂ギッシュ男爵様のお屋敷です。それで、どうされるんですか。実家と同じように、半分吹き飛ばすのですか。もしも出来るのでしたら、全部吹き飛ばして欲しいのですけど。
「だそうですよ、ラズライティシア様」
「主犯なのだから、相応の報いを受けさせる必要があるのは確かなのだが……語り継ぐものがいなければ、恐怖を与えても一時的なものになってしまうのだ」
それでしたら、街の方が残っていますよ。『エルフの怒りを買った』と宣伝していただければ、全部吹き飛ばしても全然問題ありません。
「だそうです、ラズライティシア様」
「われには、かなり私情が交じっている気がするのだが……」
別に私情なんて交えていませんよ。ただ、ポンパドール家よりも責任が重いですよね。だから、全壊は正当な申し入れだと思っています。
ええっと、本当に全部吹き飛びましたね。それって、本当に魔法なんですか。極大攻撃魔法の一歩手前。本気をだしたら、この街ぐらいなら消し飛ばすことが出来るのですね。あの、つかぬ事を伺いますけど……本当にエルフなんですか? いえ、エルフですよね、エルフ。見た目に疑問とか絶対に言いませんからっ!
はい、ここまでやったのですから、先ほどなされた宣言をお願いします。
『われは、エルフを守護するものなり。フランセ男爵の悪行を断罪した』
はい、それで結構です。なんですか、街の方々が喝采を挙げていますね。これでは恐怖を伝えることが出来ないと仰るのですね。でも因果応報でしたか、悪行の報いを受けたことが伝わるのですから十分だと思います。
それはそれとして、あの男爵様は街の方にも嫌われていたんですね。ええ、とっても安心できました。そのですね、私だけじゃなかったんだって。
それで、これからどうするのですか。はい、一度集落に戻るのですね。そのですね、できればお風呂とかいただけたらと、お着替えも出来たらありがたいなと……いえ、贅沢を言っているのはわかります。ですから、できればとお願いをさせていただきました。
ところで、周りの景色ががらりと変わりましたね。それから、この白いのは雪ですか。こんなにたくさんの雪、初めて見ました。
その、言っては何なのですが、もの凄い田舎ということはありませんか。見たとおり、ものすごい田舎と言うのですか。いえ、けしてきれいな大都会がいいなぁなんて思っていませんでしたよ。
それ以上言わない方がいい、のですか。仰るとおりですね、少し静かにしていることにします。
これ以上ない非常識を見せてもらった気がします。もはや非常識で片付けて良いのかもわかりません。はい、諸星さんとラズライティシア様お二人のことです。あれだけ燃えさかっていた森林火災が消えたのも脅威ですし、お城のような館が消えたのも脅威としか言いようがありません。通常炸薬のミサイルと比べても、破壊力は遜色ないと言うか、あんなに綺麗な破壊は出来ませんよ。火を消す方は、今の技術では不可能なことです。
ところで、諸星さんって討伐対象になっていたんですよね。だとしたら、破壊魔法で攻撃されたことはありますか? 数えるのが嫌になるぐらいされた。もっとえげつない攻撃もあったのですか。ええっと、諸星さんって本当に人間なんですか。よく生き残れましたね。
「そのあたり、われも疑問に感じておるぞ」
ほら、ラズライティシア様も疑問に感じているそうです。翼人たちなんて、神様とか言っていますよね。
神代さんが、人間であることを証明してくれるはずだ、ですか。その神代さんが、採血の針が刺さらなかったと言っていましたよ。それって、本当に人のできることなんでしょうか。
そんなことより、取れ高はどうなっているのかですか。ええ、取れ高の方はバッチリだと思います。バッチリなんですけど……こんなものを報告して良いのでしょうか。出来ることを教えるためには、報告して貰った方が都合が良いと言うのですね。いえ、上杉氏たちが血相変えて駆けつけてきそうな気がするんです。
ところでその女性はどうするのですか。一応人質。解放する前に、本人の希望を聞くことにするのですね。諸星さん、ひょっとして諸星さんって天然ですか。いえ、言葉は全くわかりませんよ。でもね、その女性が何を考えているのか想像が付くんです。はい、本人は残ると言うと思いますよ。どうしてそう思ったのか、ですか。ここの所、似たような表情をした自衛隊員を二人ほど見ているんです。だから天然かと聞いたんですけどね。
こちらの世界に戻ってきたら、すでにエルフたちは別館の方に収容されていた。ああ、狂喜乱舞する山岡さんたちの顔が思い浮かぶようだ。
それで諸星さん、この穴はどうするんです?
「しばらく維持しておこうかと思っている」
そうですか、維持をするんですね。でも、良いんですか? はっきり言って、危ない代物ですよね、これ。誰かが間違って入ったりしたらどうするんです?
入れるはずがない。そこまでガバガバなセキュリティを掛けているつもりはないと言うのですね。でしたらもう一つ伺いますが、あの「Keep Out」の黄色いテープなんですけど、セキュリティってあのことを言っています? そうですか、あれなんですか。なにかあると、わざわざ教えていると思いますが。
ええっと、荷造り紐を思い出せと言うのですね。つまり、あの黄色いテープにも、似たような命令がしてあると言うのですね。許可無く近付く者は、もれなくぐるぐる巻きにされると言うのですね。それなら確かに、万全のセキュリティだと思います。
それから諸星さん、やけにその女性に優しくありませんか? 気のせい、そうですか気のせいですか。はい、気のせいですね。それ以上私は何も言いませんから。
それで、別館はどうだったか、ですか。そりゃあもう、予想は外れていませんでしたよ。もうね、山岡夫妻、服部さんが張り切って食事を用意していました。と言うことなので、別館その1に場所を移しましょうか。
ああ、やっぱり山岡さん、服部さんが張り切っていますね。ところでお三方、異世界の人に『蟹』はだめですよ。取りあえず、形はわからないようにしてあるのですか。なら大丈夫ですね。実績もありますし。
しかし本当に張り切っていますね。私が言うのもなんですけど、皆さん欲望に忠実すぎませんか。違う、住処を焼け出されたエルフに同情しているだけ。できるだけ温かい料理で迎えてあげたい親切心だと言うのですね。なるほど、普通ならとても説得力のある説明だと思います。ただカメラさえ無ければですけど。カメラ複数台持ち、はっきり言ってやり過ぎだと思いますよ。ビデオもある。そう言う問題じゃないと思いますよ。まあその格好で料理が出来たことには素直に感心しますけどね。
今夜も宴会ですか。まあお正月ですからね、別に不思議なことはないと思いますよ。三が日が宴会と言うのは、日本の美習でもありますからね。
波乱の幕開けとなった元日は、それ以上の事件もなく終わってくれた。保護をしたエルフ……男5人と女13人を、ラズライティシア様とルーテシアが面倒を申し出てくれたお陰でもある。まだ気持ちが落ち着いてないので、話をするのも明日にした方が良いとの忠告も受けていた。
いえ、言っていることはわかります。ただ、今回は随分と優しいんですね。同族だから優しくている、ですか。仰るとおりなんでしょうね……で、どうしてセリカ嬢がはじき出されるんです。彼女は、エルフたちと仲が良かったですよね。追い出される理由はないと思いますよ。ほら、ポルテさんだって……どうして、青い顔をして首を横に振ってくれるのかな。さっき、お互いの無事を喜び合っていたと思うんだ。
詳しい事情は言えない。せっかく助かった命を粗末にしようとは思っていないのだと。おかしいな、ここに居る限り身の危険があるとは思えないんだが。じゃあ神代さん……言葉がわからないから無理。それぐらいなら、ラズライティシア様にお願いをすれば済むことだよね。それでもやっぱり無理、だったら薄墨さん……どこに行ったのかな? ひょっとして逃げた?
さて今夜は大人しく寝ることにしようか。棚の増設……? しないしない。久しぶりに強制力を発揮するとは思うけどね。好みじゃないのかって、あのさ、見境無しと言うのは俺の主義じゃないんだよ。それに、言ってはなんだけどセレスには負けるから。
波乱のハの字もなかった翌朝、次なる混乱がやってきてくれた。まあ、白船君が報告したのだから、こうなるのも予想の範囲だったのだけど。
どう言うことかと言うと、戦国武将トリオが朝駈けしてくれたのだ。
「諸星さん、あなたに理由を求めて良いだろうか」
上杉さん、いきなりなんです。1ヶ月の間に、異世界人が2カ所からやってきた理由ですか。俺が戻ってくる前には、こんなことは無かったはずと言うのですね。いやですね、あなたたちが知らなかっただけではありませんか。
違う、こんなに大規模な現象だと、絶対に目に付くはずと言うのですね。確かに、今回は200人を超えていましたね。民間に対してならいざ知らず、政府関係者に隠しきるのは難しいのは確かでしょう。
だからと言って、俺に理由を持ってこないように。少なくとも、両方とも俺とは関係の無い世界ですからね。
「そう思えてしまうと言うことです。ただ、あなたが居てくれて、そしてあなたの近くで良かったと思っています。これが東京……とまで行かなくとも、どこかの街中だったりしたら住民に犠牲者が出ていたでしょう」
確かに、奴隷狩りは全員武装をしていたな。それを考えれば、少なくない民間人の犠牲が出たと思う。警察? 銃も撃てない警官に、殺る気満々の暴徒鎮圧などできるはずがない。これは犯罪ではなく、小さな戦争なのだからな。
「あなたの言う通りと言うことだ。従って、上の方も安堵しているのが現実なのだ。その代わり、今まで避けてきた問題が再浮上してきた。なんだか、わかりますか?」
今まで避けてきた問題ですか。ひょっとして、俺たちのことですか。そう、やっぱりそれですか。たまたま目立つことなく処理できたから良かったようなものの、被害が出ていたら公開できなくなってしまうと。だから俺たちの存在を急いで公開しないといけなくなった。可能ならば、次の来訪がある前と言うのですね。
まあ野党の皆さんやマスコミしてみれば、政権……だけじゃありませんね、自衛隊への攻撃材料になりますからね。一つ間違えば、集団ヒステリーに晒された可能性もあったわけですか。ところで小谷さん、菅谷先生は何か仰っていたかな?
「色々と無かったことにしたいと仰っていました。今更無理と言うのはわかっているそうですけどね」
そうか、だとしたら俺たちが世に出る方法を考えないといけないわけだな。ただ、目立って終わりと言うことは無いのだよな。絶対にない、できるだけソフトランディングすることが必要だと。だけど、どうやったらソフトランディングできると思う?
白船君に神代さん、雁首を揃えてどうかしたのかな。アイディア、私案があると言うのだね。だそうですよお三方、話を聞いてみますか。
「では白船三尉、説明してくれたまえ」
そうか、白船君って三尉だったんだ。まあ、今となってはどうでもいい情報なんだけど。
「翼人、エルフと揃ったのです。彼らの姿を公開してみせると言うのはどうでしょう。勿論、バカ正直に公開しようとは言っていません。トベとかチクタクとか、動画サイトで小出しにすると言うのはいかがでしょうか?」
だそうですよ。あいにく、俺にはよくわからない方法なんですけどね。そうですか、上杉さんたちにもよくわからないのですか。だから、持って帰って検討をすると言うのですね。
翼人、エルフは良いけど、俺とかセレスはどうする? ああ、あとセリカ嬢も問題だな。まあ彼女の場合、元の世界に帰すと言う方法があるんだが……どうかしましたか、上杉さん。
「いや、元の世界に帰すと聞いたのだが?」
ええ、言いましたけど。言っていませんでしたっけ、まだあちらと繋がっていると。
そこで白船君を見たら、気まずげに頭を掻いてくれた。どうやら、そちらの報告はされていなかったようだ。取りあえず、視察しますか?
二つ返事で答えを貰ったので、俺たちは急遽別の世界へ視察に行くことになった。ちなみに視察メンバーは、戦国武将トリオに対して、俺とラズライティシア様、それに加えてセリカ嬢とポルテが案内人になることになった。
「孝明様、奴隷狩りはどうなったんですか?」
ゲートを越えた所で、ポルテが不安げな顔をして辺りを見渡した。ああ、彼らのことかな、荷造り紐で拘束したままになっているぞ。
なに、あの紐を解くことが出来るのか、かな。答えからすると、大魔法使いなら可能かもしれないと言う所だな。
「言っておくが、われでは無理だからな」
「つまり、拘束から逃げることが出来ないと言うのですか……その、全員が全員同じぐらいに悪いと言うことはないと思います……いえ、焼き討ちをした罪は消せないと思いますよ。でも、このままだと全員死んでしまうんですよね?」
脱出できなければ、そう言うことになるのかもしれない。ただ口とかは塞いでないので、ものを食べることは出来るし、排泄だって出来ない相談じゃない。勿論、許してやることも可能だぞ。だが良いのか、仲間を殺されたんじゃないのか?
「私たちの村には、全員で50人ぐらい住んでいたんです。救っていただいたのは18名ですから、30名以上消息不明と言うのは確かなんですけど……それを考えたら、助けなくてもいい気がしてきました。セリカ様、何かご意見があるのですか?」
「私としても許せない所はあるのですけど……捕まってるかなりの人数が家臣なんです。それを失うとですね、ポンパドール家を維持していけなくなるんです」
あなたが戻っても? なぜ、そこで嫌そうな顔をしてくれるのだ?
「私が戻ると、すぐに嫁ぐと言う話になるんですよ。そりゃあ、フランセ家は壊滅しましたよ。それならそれで、トントン家とかメゾンカイザー家とかが名乗り出てくるだけです。フランセよりはマシだろう、ですか。似たり寄ったりと言うのが答えになるんですけど」
つまり、ポンパドール家家臣団を許して欲しいと言うのだね。それは構わないのだが、ポルテは構わないのかな? ポンパドール子爵様とは、今までうまくやってこられたと言うのだね。これに懲りたら、バカな命令を出すことはないだろうと言うのかい。
つまり、君たちはこちらの世界に戻ると考えて良いのかな。だとしたら、セリカ嬢共々こちらに帰って貰うことになるのだけど。元々君たちの世界なんだから、それが自然と言うのはわかっているよ。
どうして、世界の終わりのような顔をしてくれるんだ?
自分たちが、何か機嫌を損ねるような真似をしたのか、って。いや、これは親切心で言っているんだよ。普通に考えれば、生まれた世界を捨てるのは辛いよね。大丈夫だよ、住まいの方も直しておくから。
もう決まりなのか、かい。逆に聞くけど、君たちは戻りたくないのかな? 綺麗に揃ったね。心が一つになったと言う奴かな。そうか、戻りたくないのか。参考までに聞かせて貰いたいのだけど、何が君たちにそこまで考えさせたのかな?
理想の男性に巡り会えた……うん、それって錯覚だから。食べ物がもの凄くおいしかった。温泉もとても気持ちよかった。何よりも、お布団がとても気持ちよかったと言うのだね。だそうですよ上杉さん、武田さん、真田さん。俺たちの世界は、異世界人に好評なようです。
「だからと言って、無秩序に増えるのは好ましくないのだがな」
秩序を持って増えると言うのは、どう言う状態を言っているのか理解しています? そうですか、言われて気がついたのですか。確かに、秩序に関係なく異世界人が増えるのは好ましくない。まあ、そう言いたくなるのはわかりますよ。
それから一つ忠告しておきますが、入ってきているのはマシな部類ですからね。何のことを言っているのか、ですか。亜人にも色々居るし、魔物とか魔獣とか存在自身危ない奴もいると言うことです。人を捕食する魔物とかが侵入してきたら、流石にパニックが起きますよね。リアル怪獣映画なんて、体験したくありませんよね。
あちらでは嫌だが、そんな生き物が居るのなら見てみたい。良いですね、その無責任な発言。自分に責任が及ばなければ、あと、身の危険が無ければ体験してみたいと言うのは理解出来ますよ。
と言うことでポルテ、セリカ、この世界にドラゴンとか居るのかな。ドラゴンと言うのはよくわからない。大きな魔物なら、ワイバーンと言うのがいると言うのだね。特徴は、20m近い巨体に黒い翼を持っているんだ。食べるとおいしいが、どちらかと言えば人が食べられている方が多い。頭は弱いが、魔法を使えるので討伐するのが難しい。攻撃方法は、炎のブレスを吐いてくれるのだね。
だそうですよ上杉さん、武田さん、真田さん。自衛隊装備で戦ってみますか? 嫌だ、自衛隊の装備が想定している敵じゃない。想定していない敵には、武器は威力を発揮しないと言うのですね。武器って、目的に特化していますから理解は出来ますね。
それでポルテ、どこに行けばワイバーンに会えるのかな?
「ここから北に10日ほど移動した所にある、グンドキャニオンに住んでいると言う話です。後ですね、餌の匂いを嗅ぎつけると寄ってくると言われています」
ちなみに、その餌の匂いって?
「人間です。ワイバーンは人間の生肉を好んでいるんです」
だとしたら、街とか襲われそうな気がするけど。セリカ、その辺りはどうなのかな?
「兵が守っているので、普通は襲われることはありません。後はですね、ワイバーン避けの魔道具もあるんです。魔道具がない村だと、見張りの知らせで穴に潜ることになっています」
それで、ポンパドール子爵家だと、その魔道具はどこに置いてあったのかな?
「盗難対策もありますが、最高機密に類するものになっています。ですが、孝明様には正直にお伝えいたします。そのですね、屋敷の中に祭壇が作られているんです。ええ、昨日消滅したあたりですね。あの真ん中あたりに祭壇が作られていました」
つまり、フランセ男爵家でも似たようなものと言うことか……それって、かなりまずくないか?
「重要な魔道具ですから、大体の家では予備も用意してあります。屋敷さえなくならなければ、予備があるので大丈夫だと思いますよ……フランセ家は屋敷が消滅しましたね。ですけど、あそこは兵が残っているから大丈夫だと思います」
だそうですよラズライティシア様。そうすると、あっちに見える黒い点はワイバーンなんでしょうかね。
「大きなコウモリ……と言ってやりたいのだがな。5匹ほど、こっちに向かって飛んでくるな」
目の前で人が食われるのも気持ちよくありませんね。仕方が無い、荷造り紐に解放を命ずるか。ああ、ご苦労だったね。みんな、元の荷造り紐に戻って良いから。
ところでラズライティシア様、一言お願いしても良いですか? なぜ自分が、ですか。いえ、解放された理由ぐらい教えた方が良いのかなと。そうしないと、ただ安心して起きたことを忘れてくれますよね。わかった、では、しっかりと脅してやろう、ですか。ええ、その辺りはお任せしますよ。
「われは、エルフを守護するものなり。戒めを解いたのは、ぬしらに慈悲を与えるためではない。間もなく、北の空より恐怖が襲ってくる。生き残りたいのであれば、命の限り戦ってみせることだ。われはその光景を、高見より見物させて貰うことにする」
良いですね、その具体的脅威をぼかした恫喝は。はい、北の空が重要なワードなんですね。勘が良ければ、それでワイバーンだと気づくことが出来るはずだと。それは良いんですけど、みんな動きが鈍いですね。
「その、丸一日拘束されていたんです。普通に足腰が立たなくなっているんじゃないでしょうか」
なるほど、考えられる理由になっているね。それで、セリカはどうして欲しい? 奧さんにして欲しいって、そう言う質問をしたんじゃないからな。
「大きな過ちを犯しましたけど、これまで仕えてくれた家臣には違いないと思います。それに、街の者たちには罪はないと思います。思いますので、助けてくださいと言うのがお願いになります」
と言うことなので、お願いしても良いですか。えっ、お前がやれ、ですか? ポルテの頼みなら、自分でやっていたと言うのですね。と言うことで、どうしたら良いのかな、ポルテ。
「え、ええっと、ですね、その、言わなくちゃいけないんですか?」
なぜ怯えてくれるのかな。そこからしてわからないのだけど、言ってくれると嬉しいのだがな。
「そのですね、わたしたちのなかまがおおぜいしんだんですだからじひなどひつようありません」
なぜ棒読み。ラズライティシア様、勝ち誇ったような顔をしないでください。わかりましたよ、俺がやれば良いんですよね? ところでポルテ、ワイバーンの肉はおいしいんだったよな?
だそうですよ、上杉さんたち。1匹捕まえて帰りますか? 大きな騒ぎになるから止めて欲しい、ですか。常識的な答えですね、まあ皆さんの立場は理解していますけど。
荷造り紐の諸君。君たちに新しい使命を与えることにしよう。そう、北の空から飛来する敵、ワイバーンを合図をしたら動けないように捕まえてくれ。
またそれなのか。ワンパターンじゃないのか、ですか。そう言いたくなるのもわかりますが、後始末が楽で良いんですよね。しかも役目を終えた荷造り紐が、たくさん地面に散らばっていましたから。リサイクル、リユースってエコには重要だと思うんです。
「初めて見たのだが……ワイバーンと言うのはかなり凶暴なのだな」
一応肉食獣、しかも人間を捕食しますからね。凶暴と言うのは間違っていないと思いますよ。ああ、炎のブレスを吐いてきましたね。どうやら、俺たちが見つかったようです。大丈夫です。あの程度のブレスなら、簡単に防ぐことが出来ますから。
「攻撃の早さ自体は脅威ではないのだが……あくまで、自衛隊の航空戦力ならと言うことになる。空対空ミサイルで落とせなければ、かなり手を焼くことになりそうだ。ブレスの方は……まともに食らわなければ大丈夫だろう。勿論、まともに食らえば無事では済まないのだがな」
試しに、石ころでもぶつけてみますか? ええ、飛ばす所までは命令しますよ。ただ、その後は落ちている石を投げるのと同じです。防御されたら……まあ、防御次第だと思いますよ。
と言うことで、あの辺の岩を飛ばしてみましょう。
「回避能力は高いようだな。後は、魔法障壁で良いのか、その障壁強度がどの程度あるのかが疑問だ。機銃が通れば良いのだが、通らない場合はミサイルかぁ……ドローンからの攻撃じゃ無理そうだな」
あちらから、武器でも運んできますか?
「まだ、そこまでおおっぴらにはやれないだろう。だから、それは次の機会と言うことになる。危険性は理解しているつもりだが、強行した場合の混乱の方が問題となる。従って、そろそろ落としてやってくれ」
もう良いのですね。でしたら、荷造り紐たちに命じますか。待たせたね、そろそろワイバーンを捕まえてくれ。
「あれほどの魔法障壁をものともしないのか。つまり、われでも防げないと言うことになるな」
一応命令として、魔法よりも上位ですから。ラズライティシア様は、高速飛行で逃げるとか、転移魔法で逃げると言う方法があると思いますよ。
「それで、逃がしてくれると言う保証がどこにある?」
いやですね。ラズライティシア様を捕まえなくちゃいけない理由はないですよね。だから、今のは意味の無い議論と言うことです。
「ふんっ、できぬとは言わないのだな」
その辺りはノーコメントで。取りあえず、エルフの守護者としてのお言葉宜しいですか?
「今回限りの慈悲を与えてやった。これは、己の身を差し出した子爵家令嬢の命を賭けた頼みが理由である。よいかお前たち、令嬢の尊い犠牲を忘れるでないぞ」
ラズライティシア様、何か既成事実を作ろうとしていません?
仕方が無い、後沢氏に押しつけてやるか。それはそうとして、万能だな荷造り紐。小谷さんに言って、大量装備しておくかな。どうです、自衛隊も装備しますか?
資材に行けば、売るほど山積みになっていると。命令をしなければ、普通に売ってる荷造り紐ですからね。
ところで、命令必要ですか? そうですか、持ち帰って検討するのですね。了解しました。良い返事を期待しています。
そりゃあ、次々と事件が起きれば頭痛も感じますよね。はい、巻き込まれる側のことですけど。
それから、荷造り紐さんは最強です(3)




