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集落の年明け

村の特産は異世界です


・集落の年明け


 肉まんと焼き小籠包は食べられなかったが、中華街での食事は楽しめたと思う。ただお店から、出禁を食らったのは痛恨だった。まあ、32人の団体が、100人前の料理を平らげたのだ。それだけなら問題ないはずなのだが、加えて飲み放題を利用したのだがいけなかった。いつまでも飲み続けられ、『勘弁してください』と泣きを入れられてしまったと言うことだ。

 その後バスで江ノ島まで移動して、冬の海を鑑賞させて貰った。異世界人……エクシブたちやハイエースたちは、海そのものを見たことがなかったそうだ。唯一ラズライティシア様は、海を見た経験があるらしい。それにしても、自分の知っている海とは大違いだと言ってくれた。


「孝明よ。沖に見える巨大なものは、あれは船だと思って良いのか?」


 ラズライティシア様が指差した先に、水平線近くに浮かぶ船の姿があった。流石は原始人、目だけはやけに良いなと感心させて貰った。おかしいな、心の中だけで感心したはずなのに。なぜ魔法で攻撃されるんだ。


「ぬしの考えておることぐらい、顔を見れば理解出来る」


 そうですか。それはあまり嬉しくない関係だな。それはそれとして、あれはタンカーと言う奴だな。長さが300mから400mぐらいある奴だぞ。


「この世界は、あのように巨大な鉄の船を作ることができるのか」


 ちなみに、上を見て貰えるかな。


「上を見れば良いのか。なんだ、あの鉄で出来た鳥のようなものは」


 あれは飛行機。ジェット機と言う奴だ。大きさは60mぐらいだな。音の速さよりは遅いが、ハイエースたちで追いつけないと思うぞ。ちなみに、この世界では音よりも早い飛行機があるし、星の世界にも行くことが出来るのだからな。


「なるほど、ここに残ることを決めたのは正解だったと言うことか。この様子なら、まだまだ新しいものを見られそうだな」


 ええ、おばば……ラズライティシア様なら、もっと色々なものを見られると思いますよ。ただ、その頃には俺たちはいないと思いますけどね。どうかしましたか、そんなに驚いた顔をして。


「いや、お前に寿命があると言われて驚いただけだ。何しろぬしは、殺しても死なない奴だからな。たかが寿命程度で死ぬとは思わんかったのだ」


 随分と失礼なことを言ってくれますね。俺は定命……で良かったですか、定命を持つヒトなんですよ。普通に60年もすれば、老いさらばえてこの世を去ることになると思います。


「すべてを超越するお前が、年を取るとも思えぬのだがな。それはそれとして、ルーテシアも定命を持たないのだぞ。それにハイエースたちも、100年や200年程度で死ぬことはあるまい」


 そうなると、俺たちが先にいなくなると言うことになるのか。だとしたら、どう引き継いでいくのかを考えないといけないわけだ。


「そうだな。もしもぬしに寿命があると言うのならその通りだろう」


 だから、俺にも寿命はあるんですよ。

 それはそれとして、そろそろ集落に戻る時間かな。


「ええ、山岡さんの買い出しも終わったようですからね」


 買い出し? 何を仕入れたんだ?


「正月ですからね。年越し蕎麦にかまぼこなんだそうです。それ以外のおせちは、大体準備がすんでいるそうですよ。あとは、そうそう、お餅も沢山用意したそうです」


 年越し蕎麦……ね。異世界人に年越し蕎麦はないと思うんだ。これも、日本の風習だと言うんだね。まだ年越し蕎麦は良いけど、おせちなんて誰が食べるのかな。

 洋風、中華風、和風のハイブリッドになっている。3人が腕によりを掛けたので、絶対に失望させることはないと言うのだね。だったら期待させて貰うことにするよ。なになに、途中でよさげなものがあれば仕入れていくと言うのだね。ああ、反対する理由はない。やりたまえ白船君ってところだな。


 圏央道から中央道、長野自動車道と経由してまだ明るいうちに安曇野までたどり着いた。ここからは、下道を使って真っ直ぐ北上していくことになる。大町までは道が混むが、それを過ぎれば他の車も少なってくれる。

 なになに、ここの湖も聖地になっているって。20年ぐらい昔のアニメの聖地だと。一つ良いかな、君たちには聖地が沢山あるんだね。


 日本人は多神教だからと言うのだね。だから信者の数だけ聖地が存在することになるのだと。そしてこの湖、もう少し言うとキャンプ場が聖地化の走りと言うのだね。

 それだったら、鑑賞会のメニューにあっても良さそうなのに。異世界じゃなく宇宙人ものなので、今回はリストから外してあると言うのか。要望があったから、上位リストに追加すると言うのだね。だけど君たち、今季のアニメはコンプリートしているよな。仕事をしていて、そんなに見ている時間があるのかな?

 心配は無用。一日は30時間あるのだと。こらこら、嘘を言ってはいけないぞ。そんなものは気合いでどうにでもなると言うのかな。幾ら気合いを込めても、一日は24時間だと思うんだがな。


 集落に着いたときには、しっかり暗くなっていた。しかもたった3日で、すっかりと景色が変わっていた。どう言うことかと言うと、居ない間に降った雪で建物が埋もれていたのだ。それもあって、観光バスは県道に入った所で運行停止となってくれた。除雪がしていないので、ここから先は上がっていけないのだそうだ。


「申し訳ありません。これ以上進むと、遭難してしまいます」


 その遭難してしまうような場所が、俺たちの目的地なんだけどな。それに、こんなところで残された俺たちに、一体どうしろと言うんだ。歩いて登れ、運が良ければたどり着けるだろう。いくら何でも、それは無責任と言う奴じゃないのかな。

 こちらだって命は惜しい。住んでいるのだから、それぐらい出来て当然だろうと。運送約款では、そこまで面倒を見ないことになっていると言うのだね。


 どうする、白船君。


 どうもしない。観光バスが居なくなるまで待つ。人目を気にしなくて良いのであれば、この程度の雪ぐらいなんとかなるだろうと言うのだね。あのさぁ……まあなんとかなるけど。


 そこから先は、結局ハイエースたちが活躍してくれた。最初に人を運び、次にお土産の山を運んでくれた。その活躍のお陰で、バスから降りた1時間後に俺たちは温泉に入ることが出来た。ちなみに俺とセレス、ルーテシアにヴェルファイア、センティアは第2の方の大浴場を利用することにした。

 どうして白船君たちに、セレスの裸を見せないといけないんだ。ブーイングをしても、俺は絶対に負けないからな。はい、勿論師匠の裸も死守して見せますから。


 それから白船君、県道と取り付け道路の除雪はどうする。間違いなく、正月休み中に来客があるぞ。ここって、除雪機なんか無かったよな。

 どうして俺を指差してくれるんだ。出来るでしょうって、そりゃあ、出来ないとは言わないぞ。だったらもったい付けずに除雪をしろと。なんだか、時々リーダーってなんなのか疑問に感じてしまうんだ。能力のあるものが率先して働く必要がある。どうせスコップに命令をするだけだろうと言うのだね。まあ、言っていることに間違いは無いのだがな。


 お風呂が済んで、全員が別館その1の宴会場に集合した。仕入れの関係で保存食、冷凍物が多くなるのは仕方が無いだろう。それに加えて、準備時間が足りないのも仕方がないと思っていた。思っていたのだが、それは薄墨さんを甘く見た考えのようだ。


「はい、できあいを確保してあります」


 どうやら行く先々、中華街とかでも持ち帰りをしてくれたようだ。やけに荷物が多かったのは、それが理由になっていたんだな。なになに、冷凍でも使えるタラバガニも仕入れておいた。こう言う時は、でかしたと褒めれば良いのかな。

 でかしたでいい。後は、今晩混ぜてくれれば満点なんだと。言ったと思うけど、心の棚が満室なんだ。ブルマも仕入れてきた。体操服なんて素敵だろう? いやいや、俺にはそんな趣味はないから。メイド服? 薄墨さんが着るんだよな? セレスで想像してみろと言うのかな。それは……いやいや、セレスは変化球に頼らなくても良いからな。


 しかしおいしいな、このタラバガニの炭火焼き。ああ、ノドグロの一夜干しも絶品なのは認めよう。能登の生牡蠣はどうだ、かな。うまいな、これなら幾つでもいけそうだ……いや、大きいからそんなには無理だぞ。

 しかしなんだ、そのぶりの塩焼きの大きさは。ぱっと見は鮭の切り身に似てるんだが、サイズが全然違うよな。厚みにしても3センチを超えてないか。胴回りが直径で40センチあった。脂がのっているので絶品のはずと言うのだな。ああ、確かに俺の知ってるぶりの塩焼きじゃなかったよ。

 食べるのだったら、すき焼きの一人鍋も用意してある。いやいや、流石にこれは食べきれないと思うんだ。ほら、大食らいのエルフや翼人たちも……ああ、しっかりと現実を見させて貰ったよ。悪いね、面倒を掛けて。


 大晦日と言うことで、宴会は日付が変わるまで続けられることになった。年越しの習慣はあるのかかい、実はあちらでも年越しは盛大に祝うんだ。なになに、ハイエースたちの所でもそう。だったら、年越し宴会に問題はないことになる。


 正面のスクリーンに、民放のテレビが映されていた。ジルベスターコンサートってやつ、これだとちゃんと時計が出るんだ。MHKはね、趣はあると思うよ。ただね、鐘の音で教えてくれるから、今ひとつ盛り上がりに欠けるんだ。

 時間調整のリフレインが終わった所で、時計の針が新しい年を教えてくれた。デジタル放送、しかも衛星だから、秒単位の遅延がある。白船君、この状況でその情報って必要だと思うのかな?


 言いたかっただけ、そうかい。だったら、俺も報復を考えた方が良いのかな。こらこら、そこで土下座をしないように、本気で報復をするのなら、予告無しでしてあげるから。


 ハッピーニューイヤー! でも謹賀新年でも、新年おめでとうでも何でもいい。本当にめでたいかどうかはわからないが、これも区切りと言う奴だ。つべこべ言わずに、新しい年を祝おうじゃないか。

 ちなみに、新年会は俺の独擅場だと思っている。その辺り、市会議員で幾つもの会場をはしごした経験があるからだ。だからラズライティシア様、ささ、一献傾けましょうか。なんですか、うざいから大人しくしていろと。卑屈にされると、背中に寒気が走るのですか。随分と酷いことを言ってくれるんですね。いつもお世話になっているから、そのお礼の気持ちも篭もっているんですけど。

 それでもうざいし、鬱陶しいですか。だったらエクシブ、君はそんなことを言わないよな。なぜ、聖剣に手を掛けてくれるんだい。いやね、それで切られても死なないけどさ。やっぱり、剣で切られるのは気分的に良くないんだ。痛くも無いけど。

 そう思うのなら、あっちに行け……と言うのだね。どうも君たちは、リーダーに対する思いやりに欠けているんじゃないのかな。そんなことはどうでもいい。とっととあっちに行けと。なあ、ぐれても良いのかな。


 ラズライティシア様たちに追い出されたので、翼人たちに挨拶に行くことにした。行ったのは良いんだけど、どうして平伏してくれるのかな。はっきり言うけど、そう言うのは止めて欲しいんだ。


「リーダーは神です。これは、われわれ翼人に一致した意見なんです」


 神って……止めて欲しいんだけど。俺は神なんて高尚なものじゃなくて、色々と煩悩に塗れた人間なんだよ。だったらヴェルファイアとセンティアが、その煩悩を晴らす手伝いをする。108回頑張れば、煩悩は消えるのだろうって……なぜに除夜の鐘ネタ? 白船君に聞いたと言うのだね。それからヴェルファイア、『体が持つかしら』と言うのは無しだぞ。君たちが倒れる前に、俺の方が限界を迎えるんだからな。


「ですが、主様の限界が見えたことがないんですけど」

「4人がかりでも、主様に蹂躙されていますよね」


 だから、俺をお化けみたいに言うんじゃない。俺だって、不公平にならないように頑張っているんだからな。だったら、もう少し手加減をして欲しい。手加減……すれば良いんだね。しているつもりなんだけど……


 仕方が無い、だったら白船君たちに挨拶をするか。どうやら、こちらは普通に迎えてくれたね。どうかしたのかな山岡さん。お正月と言えばお年玉だろう、かい。いい大人に対して、俺がお年玉を配るのかな? それって、どう考えてもおかしくないか。

 別にお金が欲しいわけじゃない。翼人が来たんだから、次は可愛い系のエルフをお願いする。だから、ここを作った目的から外れているんだよ。それでも、来てしまった保護をするのだろうかい。そりゃあね、それを否定するとハイエースたちを追い出すことになってしまうんだ。

 だから、次は可愛い系のエルフが良いと言うのだね。言っておくけど、俺は翼人を指定したつもりはないんだ。


 そんなことはどうでもいい。次は可愛い系のエルフに決まっているというのだね。一つ聞いておくけど、その次がなかったら? 違う奴が来ることだってあるだろう? その時はどうしてくれるのかな?


「薄墨さんが、エクxモロ本を作ります。勿論、責めはエクシブさんです」


 いや、今背筋がぞっとしたぞ。本気で言っているのか?


「ええ、夏コミで大々的に売りに出します。世間様の目に、これでもかと言う程触れさせていただきます」


 つまり、俺を敵に回したいのだと。そんなことは言っていない。大人しく可愛い系のエルフを出せば丸く収まると言うのだね。だったら、君たちが神様に祈ってくれるかな。少なくとも、俺はこの件に関与しないからな。

 祈るぐらいなら、毎日祈っている。服部氏も同好の士だと言うのだね。あのさぁ、いい加減言い飽きた気もするんだけど。


 大丈夫か、自衛隊


 これで日本は守られている。いやいや、オタクが日本を守っているわけじゃないだろう。自分も自衛隊員の一人だ。だから、自衛隊が日本を守っていることになる。

 わかったわかった。君たちが日本を守っているのは認めてあげよう。


 それから薄墨さん、顔を赤くしてスケッチしないように、『ヤマxモロ』のカップリングが降りてきたと言うのかな。もうさ、文句を言う気力も失せてきたけど。一つ教えて貰っていいかな?

 構わない。聞きたいことがあったら遠慮無く、なのだね。だったら聞くけど、どうして俺が受けで良いのかな。俺が受けになるのかな。


 強そうで、その実流されやすい。だから、強引に行けば必ず落ちると言うのだね。そんな事実はないからな。その辺りは、強調しておくことにする。事実は曲げられない。いや、その事実はないと言っているんだ。


「それから諸星さん。姫始めは、2日の夜になりますからね」


 いや、知識としては面白いけど、どうしてそれを言われないといけないのかな。

 言ってみただけ、どうせ今夜もするのだろうって。一応俺も疲れているんだけどな。絶対に逃がして貰えない。あっちを見れば、それぐらいはわかる……のだね。まあ、逃がしてくれないんだろうね。




 夜更かしした割に、朝の目覚めはすっきりしていた。隣を見ればセレスが寝ているし、反対を見ればルーテシアも寝ている。そして足下を見ると、ヴェルファイアとセンティアがくっついて寝ていた。まあ、部屋には暖房が入っているから、裸だからと言って風邪を引くことはないと思う。

 そう言えば、俺以外の奴が風邪を引いたらどうすればいいんだ。ラズライティシア様の、治癒魔法に頼れば良いのかな。薬って……早めのバビロンでも彼らには過剰だと思うんだよな。


 それから全員をたたき起こし、朝食を食べに別館へと向かうことにした。大した手間でないのは確かだが、いちいち移動するのも面倒に思えてしまう。

 ただなぁ、あっちに住むと公私の区別が付かなくなる気がするんだよな。


 もう一度『明けましておめでとう』と挨拶をして、俺たちはテーブルの置かれた食堂へと入った。流石は山岡さんと言えば良いのか、各テーブルにはおせちが一人分ずつ用意されていた。プラスティック製で良いのかな、こんなお盆をいつの間に仕入れたんだろう。


「違います。それは、ちゃんとした輪島塗です」


 そうか、輪島塗なのか。一つ教えて貰いたいんだけど、それってもの凄く高くないかな。もの凄く高い。1枚で、君の給料が半分飛んでいくと言うのだね。予算が潤沢にあるのは知ってるけど、それって無駄遣いじゃないのかな?

 異世界人に、本物を教えることに意味がある。だから、料理も本物しか出していない。一見正しそうに思える意見なんだけど、絶対に違うよね、それ。


 それ以上の追求が出来なかったのは、食堂に全員が揃ったからだ。いつまでも、山岡さんを責めているわけにはいかない。こいつら、飢えさせると何をしでかすかわからないんだ。


 うん、和洋中のおせち、中々おいしいと思うよ。ただ伝統的な見方をすると、あるのはたつくりとか黒豆ぐらいだよね。違う、子孫繁栄のかずのこもあるんだね。

 うん、ローストビーフとか蟹爪を揚げた奴っておせちじゃないと思うんだ。


 なになに、俺に今年の抱負を言えと言うのかな。ようやくこの時が来たね、市会議員時代の経験を見せてあげよう。長く挨拶をしても、誰も聞いていない。だから、可能な限り短い挨拶をしろと言うのかな。

 仕方が無いな。だったら、短く……『今年は平穏無事な一年にする』で良いだろう。


 何を言っている。絶対に無理、自分のしたことを顧みてみろ。小谷さん、追及が厳しいね。良いだろう一年の初めに目標を言っているだけなんだから。

 だから、達成できない目標を言うな……かい。どうしましたラズライティシア様、本宅奥の森に、次元穴が出来たと言うのか。そうか、新年早々やってきたのか。だから山岡さん、可愛い系のエルフと唱えないように。ここに来ると言うことは、多かれ少なかれ不幸な目に遭っているんだからね。

 どこの神様か知らないけど、こんな願いを叶えてくれなくて良いんだからな。




 私の名前はポルテと言います。はい、ハイエルフと言う種族に属している女です。私たちの特性で、見た目は10代半ばぐらいでしょうか。その実、200年ぐらい生きているおばあさんです。それから、見た目には自信が有るんですよ。もう少し熟成すると、ですね。胸の方も大きくなってくれるんです。

 アルト、現実逃避は止めろと言うのですね。自分たちは、焼き討ちに遭って命からがら逃げている途中だろうと。それはそうなんですけどね、はっきり言って絶望的だと思っているんです。3方から火の手が上がり、残った方向には奴隷狩りの男たちが待ち構えているんです。戦士たちが頑張った所で、多勢に無勢だと思いますよ。


 どうしてこんなことになった……ですか。すべて、ショウタノスが悪いんです。エルフの奴隷が欲しい……正確に言うと、賭けのためにエルフの奴隷が必要だったそうです。はい、エルフの奴隷を確保するため、私たちの村に焼き討ちを欠けてくれたんです。

 相手は準備万端。こちらは完全に虚を突かれてしまいました。こうなると、結果なんて見えていますよね。でも、あの男の奴隷になんてなりたくありません。ええ、誰の奴隷にもなりたくありませんけど、あの見た目が生理的に嫌なんです。あいつの奴隷になるぐらいなら、悪名高いサイカヤの方がまだましに思えるぐらいです。


 ええっと、火の手が大きくなってきました。これで、私たちの村はなくなったことになります。幾ら覚悟を決めても、正面突破するのは無謀に違いありません。


「ポルテ、左の方、少しだけ火勢が弱くなってる」


 それが罠である可能性は否定できません。ただ、真っ正面に突っ込んでも、結果は変わることはないでしょう。だったら、一か八か火勢が弱い方に向かうことにしましょう。

 やっぱり、世の中って残酷なものなんですね。火勢が弱まっている方に向かったら、もの凄く沢山の奴隷狩りの男たちが居ました。しかもそこには、顔をにやつかせたショウタノスまで居るんです。ねえカプチーノ、私の弓ってあったかしら。せめて、ショウタノスぐらいは仕留めてやりたいんだけど。


 そんなものがないのは知っているだろう。着の身着のまま逃げ出したのを忘れたのか、ですか。ええ、忘れていませんよ、無理だとわかっていて言っただけですからね。

 エリオ、シエンタ、魔法を使うんですか。でも、この状況を打開する魔法って、ありませんよね。空間結界ですか、それを張って何か意味がありますか。意味は無いけど、最後に抵抗ぐらいしたいと言うのですね。でしたら、全員力を合わせて空間結界を張ることにしましょう。


 あっ、あちらは魔道士も連れてきたんですね。どうして、こんなに用意が良いんでしょう。私たちの張った結界が、何かおかしな具合に歪んでしまいました。

 ねえ、これってまずくない? なにか、違った魔法になっているんだけど。


 後は野となれ山となれ、ね。間違ってはないけど、間違ってはないけど、何か嫌と言うのは贅沢ですか。そう、贅沢なのですね。

 それから一つ疑問なんだけど、どうして回りの火が消えたのかしら。理由はわからない、でも最悪の一歩手前と言うのは変わっていない。そうね、前には200ぐらいの奴隷狩りが待ち構えているんですからね。でも、あっちも慌てて居るみたい。だとしたら、あいつらも事情がわかっていないと言うことかしら。

 これって、チャンスよね。チャンスに違いないわよね。だったら、包囲される前に反対側に逃げることにしましょう……ところで、この白い紐ってなに? うねうねと動きながら、絡まってきたんですけど。パッソ、あなたもそう。それどころか、全員が捕まってしまったと言うのですね。つまり、ショウタノスは奥の手を使ったと言うことですね。


 それも違いそう、ですか。あいつらも、同じように捕まっているんだと。そう言えば、あいつらにも白い紐が絡まっていますね。だとしたら、私たちは第三勢力、しかも高位魔法を使える相手に喧嘩を売ってしまったと言うことですか。

 でも、あいつらも巻き添えに出来たんですからね。それで良しとすることにしましょう。相手が奴隷狩りだったらどうするのか? 別の勢力に捕まっただけかもしれないだろうと言うのですね。

 エリオ、お願いです。希望を口にした直後に、バキバキにへし折るのは止めてくれませんか。


 なにか、体が浮かび上がっていませんか。魔力……感じていませんよね。だとしたら、この紐とかどうなっているんでしょう。例えどうなっていても、自分たちにはどうしようもない。奴隷になるんだったら、優しい人だと嬉しいな、と。

 それぐらいの夢を見ても、許されると思うんです。




 いやさぁ、山岡さんたちの執念って本当に凄いんだな。何が来たのかわからないけど、新年早々異世界からのお客さんだよ。

 ハイエース、どうしたのかな。制圧は自分たちに任せて欲しいと言うのだね。それなんだけど、自動捕縛機構が稼働したんだ。そう、例の荷造り紐だよ。侵入者があったら、自動的に巻き付いて捕まえることになっているんだ。魔法を使っても切れないから、最強の捕縛手段になっているんだ。


 だから白船君、本宅の方に行くからね。ラズライティシア様、エクシブ、いざとなったら君たちに制圧を頼むからね。いざと言うことはないはずだ。あの紐からは逃げられない……かい。そしてあの紐から逃げられる奴だと、制圧するのに骨が折れると言うのかな。だったら、俺が制圧することにするよ。

 いずれにしても、付いてきてくれるかな。ああ、ハイエース、ヴェルファイアも着いてきてくれるかな。命に替えてもってのはいらないからね。


 いやぁ、本当に山岡さんたちの執念って凄いんだね。どうして執念で、時空を曲げてくれるのかな。どう言うことかと言うとだな、本宅の広場に『可愛い系のエルフ』が13人に、どうみても人相の悪い奴らが200人ぐらい居たんだ。

 白船君、監視カメラの映像は撮れているのかな。今度は撮れている。なになに、突然何もない所から現れたように見える。


「孝明よ、少しまずいことになっておるぞ。こやつらが出てきた空間なのだが、まだあちらと繋がっておるのだ」


 まだ、繋がっている。だとしたら、この人相の悪い奴がまだ増える可能性があると言うのかな。多分だけど、それはない。そこまで命知らずの奴はいないだろうと言うのだね。

 さて、ヒアリングと言うのをするのだけど……ラズライティシア様、翻訳魔法をお願いして良いですか。


「うむ、すでに発動済みだ」


 それは結構。だったら、まず数の少ない方から聞いてみようか。

 最初の質問だけど、君たちのリーダーは誰なのかな? そう、君で良いんだね。ちなみに、名前はなんて言うんだい。ポルテ……そうポルテで良いんだね。どうかしたのか、かな? いやちょっと、理不尽なものを感じたと思ってくれれば良いよ。

 これは興味本位の質問なんだけど、シエンタとかマーチとかノートとかも居るのかな。そう、居るんだ……


 それでポルテ、何があったのか教えてくれるかな。


「私たちの村が、奴隷狩りに襲われたんです。周りの森に火を掛けられ、大勢の奴隷狩りに囲まれてしまったんです。そこで空間結界を使ったんですけど、あちらの魔道士のせいで違う魔法になってしまったんです」

「君たちは、奴隷狩りの犠牲者だと言うのだね」

「はい、村を焼き討ちされました。ですから、犠牲者と言って良いと思います」

「そうか、それであっちは誰に聞けば良いのかな?」

「あの髪の毛が短い男、ショウタノスって言うんです。そいつが、今回の首謀者なんです」

「だとしたら、そのショウタノスと言う奴に話を聞くことにしようか」


 どこか日本人的な顔をした男、まさかこちらから行った奴と言うことはないよな。そのショウタノスを、紐に命じて連れて来ることにした。


「君がショウタノスと言うのだね。それで、何があったのか教えてくれるかな?」

「俺たちは、ただ奴隷狩りをしただけだ。これは、領主様にも認められた経済行為だ」

「つまり、君たちには何ら疚しいことはないと言うのだね」

「経済行為と行ったはずだ。しかも領主様にも認められている以上、俺たちは少しも悪くない」

「それで、彼女たちを捕まえたらどうするのかな?」

「奴隷として調教してから売り飛ばす」

「調教の中身を、具体的に教えてくれるかな」

「見た目と体の良い奴は、好き者の貴族様に売るための調教をする。そうでない奴は、労働力としてすり切れるまで使い倒す」

「それが、正当な経済行為だと言うのだね」

「言ったはずだ。領主様も認めてくださっていることだ。それよりも、俺たちを放せ。大人しくエルフを渡せば、ここでのことは問題にしないでやる」

「随分と、高飛車な要求をしてくれるんだ。君たちは、自分の置かれた状況を理解しているのかな?」

「理解していないのはお前の方だ。俺たちは、千を超える奴隷狩りの傭兵を抱えているんだぞ」

「だから、大人しく言うことを聞けと言うわけだ」


 なるほど、双方の主張に矛盾はないようだ。だとしたら、どうするのかは俺たちの判断と言うことになる。


「一応確認するけど、どうしたら良いと思う?」

「それは、われに聞いていると言うことか。だとしたら、エルフを保護してそいつらを吊すと言うのが答えになる」

「エクシブは?」

「ラズライティシアと同じだ」

「ハイエースとヴェルファイアは?」

「私たちも同じ意見です。ただ、最終的な決定は孝明様に従います」

「それは、我らも同じと言っておこう」

「念のため聞くけど、白船君はどうなのかな?」

「念願の可愛い系のエルフです。勿論、彼女たちを保護します!」


 君たちは、本当に欲望に忠実なんだね。ただまあ、今回に関しては俺も同意見かな。


「それからラズライティシア様、まだ空間は繋がっていますか?」

「少しずつ不安定になっては居る。ただ、まだ繋がっておるぞ」

「だったら、その空間を固定しておきますか」

「ぬしの判断に任せるのだが、理由ぐらいは教えてくれるか?」

「ちょっとこいつらの言い分が腹に据えかねたと言うことです。なので、俺が攻め込んでエルフたちの報復をしようかなと思っているんです」

「具体的には?」

「領主でしたか。その館を消滅させる……と言う所ですね。あと、集まっている奴隷狩りは……どうしましょうね。殺すのは流石に寝覚めが悪い気もするんだけど」

「因果応報と考えれば、別に構わないと言う気もするがな。ただ領主を一つ潰した所で、あっちの世界が変わることはないだろう」

「だとしたら、ラズライティシア様にも付いてきて貰いますか」

「われに、何をさせようと言うのだ?」

「伝説のエルフとして、ちょっと恫喝して貰おうかと。エルフを奴隷にするのなら、国を滅ぼすと宣言して貰います」

「中々、面白そうな提案だな。よし、乗った!」

「だったら、誰かに付いてきて貰いたいんだけど……ああ、ポルテだったかな。君の立場がよくわかったよ」


 何しろ13人中12人がすかさずポルテを指差してくれたのだ。そして残りの一人、つまりポルテは誰にしようかと指を彷徨わせていた。

 どうやら、彼女には責任を押しつけやすい何かがあるようだ。


 エルフたちの束縛を解消し、残りの12人は白船君に任せることにした。言葉の方は大丈夫かな、ああ、翻訳魔法が生きているんだね。だったら別宅……山岡さんたちが狂喜乱舞するのが目に浮かぶようだよ。

 ただね、彼女たちは奴隷狩りから逃げ来た所だからね。絶対に怖がらせるような真似をしたらダメだよ。そんな真似は絶対にしない。念願の可愛い系のエルフだから大切にする、なのか。あのね、その考え方自体がとてもキモいんだよ。


 それから、攻め込むのは少し待って欲しいと言うのだね。せっかくだから、自分も異世界に行ってみたいのだと。それは良いけど、自分の身は自分で守ってくれるかな。レンジャー訓練を受けた自衛隊員を甘く見るな、かい。それなら良いんだけど、小谷さん、彼女たちを任せて良いかな。場合によっては、強権を働かせてくれて良いからね。無かったことにして原隊復帰、それを脅しにしてくれて良いんだよ。

 それで白船君、準備にどの程度掛かるのかな。自宅に戻って、必要機材を運んでくる。30分程度待てば良いんだね。ああ、それぐらいだったら構わないよ。


 約束通りの30分後、白船君が大きな荷物を背負って戻ってきた。迷彩服を着ている所は、流石は自衛隊と言って良いんだろうね。しか、その荷物だけど、大きすぎないかな。野外訓練では、この程度は普通に背負うと言うのだね。しかも今回は、撮影機材も追加したのだと。多分、40kgぐらいの重量があると言うのか。

 流石に重いよね。重いけれど、まだまだいける。そうか、初めて白船君が凄いと思えたよ。ああ、それでも失敗したと言うのだね。いいよ、その正直な所。ああ、俺はそう言う所は好きだから。と言うことなので、重さを半分にしてあげよう。


 じゃあポルテ。案内をしてくれるかな。大丈夫なのか、かい。相手は、本当に大勢集まっていると言うのだね。しかも、火攻めをされたので周りの森が炎に包まれているのだと。

 う~ん、その辺り説明が難しいと言えば良いのだが。取りあえず、荷造り紐を沢山持ったから負けることはないと思うよ。


 ポルテの言う通り、ゲートを潜ったら火の海だった。しかし、こんなに森を焼いても良いのかな。延焼したら、それなりの被害が街にも出るよね。その程度のことがわからない、無能な領主と言うのだね。ただそこの娘が賢いから、なんとか領地経営が出来ていると言うのか。

 一つ質問良いかな、その賢い娘はどうしたのかな。領地経営が出来るぐらいなら、君たちを焼き討ちなんかしないよね。縁談の話が出ていて、ちょうど留守にしているんだ。もしもセリカ様がいたら、こんな暴虐は起きていないはずだと言うのだね。お嬢さんも、そっち系の名前なんだね。そっち系の名前ってなんだ、かい。ああ、勝手に思っているだけだから気にしなくて良いよ。

 なるほどポンパドールって言うんだ、領主様って。教えて欲しいんだけど、ドンクって人は居ないかな。今の領主だけど、なぜ知っているのか、かな。さあ、ふと思い付いてしまったんだよ。


 そんなことよりもと、俺は周りの火を消すことにした。こちらは簡単、火に『消えろ』と命ずれば良いだけだ。そして火が消えれば、荷造り紐に奴隷狩りの確保を命ずれば終わりになる。鎮圧と言っても、その程度のことでしかない。

 捕まえた奴はどうするのか、ですか。何もしないと言うのが答えになるんですが、それで宜しいですか。


「それで、いつ解放してやるのだ?」


 どうして解放しないといけないんです。これ以上何もしませんから、自分で脱出してくれれば良いんですよ。


「性格が悪いと思うぞ。ここの奴らでは、脱出など叶わないだろう」


 それならそれで、自業自得と言う奴です。それからポルテ、仲間が捕まってはいないかな。ぱっと見た範囲で、エルフは捕まっていないようだけど。

 ああ、訂正。今、5人ぐらいエルフが紐に捕まったよ。ここに連れて来るから、味方かどうか確認してくれるかな。


 ゆらゆらと紐に運ばれたエルフ5人、ちなみに名前は「ハリアー」「ジェイド」「レガシー」「スターレット」「アクセラ」と言うそうだ。もうね、翻訳の都合だと思うけど、もの凄い理不尽さを感じてしまうんだ。

 ちなみに運ばれてきた5人のエルフは、いずれも男性だった。加えて言うと、もの凄い美形と言うことになる。ただ問題は、全員瀕死の重傷を負っていたことだ。


「うむ、治癒魔法だな」


 ええ、死なせるのは可哀想ですからね。どうしたんだいポルテ、もっと仲間が居たはずと言うのだね。だけど、紐の捕縛は生きているもの限定なんだ。彼らの確保が遅れたのも、殆ど死んでいたからと言うのが理由なんだ。


「そうですか、レビンたちは死んだんですね」


 紐が探知しない以上、そう言うことになるのかな。可哀想だけど、それが現実と言うことなんだ。


 さて、次はバカな許可を出した領主なんだけど。その館って、ここから近いのかな。馬車で1時間程度、だからさほど遠くないと言うのだね。了解、どっちに行けば良いのか教えてくれるかな。どうするのか、かい。5人をあちらに送ってから、ショートカットをするだけだよ。うん、ちょっと空を飛ぼうと言うことだね。

 紐でハンモックのような担架を作って、5人の美形をあちらの世界に送った。ところで白船君、撮影の方は順調かな。凄い絵が取れている。発表できないのが惜しいが、期待以上と言うのだね。じゃあ、ここは良いから、次の場所に向かうことにしようか。


 ああ、あの立派な館がポンパドール……子爵で良いのかな。その子爵の館だと言うのだね。それでラズライティシア様に伺いますが、あの館をどうしましょう。半分ぐらい消し飛ばしてやれば良い。それぐらいなら、自分で出来るから手出し無用と言うのですね。もしかしても、もの凄く怒っていませんか?


「何を当たり前のことを言うのだ。本当なら、半分と言わず全部消し飛ばしてもおかしくない」


 じゃあ、どうして半分に?


「決まっておるだろう。恐怖と言うのか、語り継がれてこそ意味があるのだ。皆殺しにしては、恐怖を語り継ぐものが居なくなってしまうのだ」


 なるほど、納得しました。では、お願いすることにします。

 ええ、お願いはしましたよ。ですが、本当に容赦が無いんですね。極大攻撃魔法の二歩手前、ですか。最大威力で発動したら、館どころか周辺一帯が消滅しているのですね。


「われは、エルフを守護するものなり」


 ここからが、外連味たっぷりの恫喝になるわけですね。ええ、演出としては問題ないと思いますよ。


「森を焼き、エルフを殺す所業を許すわけには行かぬのだ。それが私欲を満たすためなら、なおのこと許すことは出来ない」


 拡声の魔法ですか。良いですね、町中に響き渡っていますよ。

 ああ、慌てていますね。ところでポルテ、あそこで差配している女性は誰なのかな。落ち着いてはいないけど、この状況であそこまで出来るのは凄いと思うよ。


 そう、あれがセリカ様だと言うのだね。だとしたら、あそこで丸くなってるのがドンク子爵と言うことかな。その通り、無能な子爵様と言うのだね。

 じゃあ、あのお嬢様を取り上げてあげようか。


「孝明よ。何故そのような真似をするのか教えてくれるか?」


 心の支えと言うのを取り払ってやろうかと思っただけですよ。ええ、それ以上の意味はありませんから。


「そうか、ぬしの好みだったのかなと思ったのだ」


 俺の好みはセレスですから。ええ、ルーテシアもしっかり好みですよ。だから、師匠に告げ口しないでください。

 それで、どうやってお嬢様を捕まえるのかですか。その、荷造り紐って便利だなって。


「罰として、娘は貰っていくことにする。良いか、これが警告と言うのを忘れるでないぞ」


 いいですね、その恫喝。とても堂に入っていると思いますよ。流石は伝説の魔法使いですね、ひねくれ方が半端じゃないと思います。

 だから褒めたんですって。だから、魔法で攻撃しないで欲しいんですけど。ええ、効きませんよ。でも、どこか嫌だと思うんですよ。




翼人が登場するのなら、やっぱりエルフも必要ですよね。ちなみにこのエルフ、由緒正しい貧乳だったりします。

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