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駅前歓楽街の話

村の特産は異世界です


・駅前歓楽街の話


 人が、特に働く人が増えれば、当然遊び場も必要になってくる。遊び場……ねぇ。真面目に生きてきた……立木さん、そこで首を傾げないでくれますか? 真面目に生きてきた俺には、遊び場と言われても見識が無かったりするんだよ。だから朽木君、そっちの方は任せて良いかな?


「俺なんだが、テーマパークで忙しいんだよ。それにだ、おっさんたちの遊び場は、残念ながら知見がないんだ。従って、鴻池氏のところに放り投げることにした」


 そうか、おっさんたちの遊び場と言ってくれるのか。だったら立木さん……いえ、何も言っていませんよ。はい、言っていませんから。


「私が知っているのは、せいぜいゲームセンター止まりですよ。お金は、飲み屋で使っていましたからね」


 なるほど、飲み屋で使っていたんですね。はい、とっても説得力のある答えだと思います。だとしたら、鴻池さんに任せておけば良いんですか?


「こんなものは、自然に任せておけば良いんです。ただ気をつけないと、どこにでもあるような街になってしまいますからね。後は、モラルに厳しくなってしまう恐れがあるぐらいですかね。諸星さん、始まりの世界で遊ばれましたよね?」


 俺、俺ですか? 意外に遊びに行っていなかったりするんですよ。何しろパートナーが冒険大好きの師匠ですからね。少しでも暇が出来ようものなら、ギルドにめぼしい依頼が無いか探しに行っていたんです。夜の峠越えって、間違っても遊びなんかじゃありませんよね。


「だとしたら、大谷興業を巻き込むことを考えた方が良いですね。彼等の方が、恐らく色々な物を経験していますよ。後は……鬼頭さんにも聞いてみるか」


 大谷興業はわかりますけど、鬼頭さんってどなたですか? 川崎の……ああ、どう見ても堅気には見えない人たちのことですね。なるほど、川崎駅東口は歓楽街だと言ってくれますか。堀之内も近い……堀之内ってなんですか?


「性風俗系で有名なエリアですね。一つ間違えたら、藍香ちゃんが働いていた場所ですよ」


 なるほど、その手のエリアがあの近くにあったんですね。でも、風俗系を特区に作りますか? 世界的な注目を集めてるから、流石に問題があると思うんですよ。だから、モラルに厳しくなると言ってくれたわけですか。はい、了解です。


「イベント系は鴻池さんに任せればいいと思うんです。後はですね、シアターとかコンサートホールとか……ライブハウスとかも作った方が良さそうですね。ところで諸星さんは、ギャンブルとかされますか?」


 いえ、まったく。と言うのが答えになりますね。俺に質問した立木さんは? そうですか、やったことが無いんですね。ええ、そんな匂いがしていましたよ。


「こう言ったことは、藤康たちではダメだと思うんです。鴻池氏たちだと、東京の再開発地区とかと似たようなものになると思いますよ。勿論、ダメと言うつもりはありませんけどね」


 それから、ショッピングモールとかはどうなんです? 地方都市に行くと、郊外に結構大きなショッピングモールが出来ますよね?


「そちらは、出店計画が出ていますね。諸星さんも知ってる有名処が申請してきていますよ」


 アイオンモールとかですか? なるほど、コストカとかも来てるんですね。色々と人が集まる施設が出来てくるんですね。


「それでも問題は、どこから人が集まるのかと言うことです。大都市圏から引き剥がさない限り、過疎の問題は解決できないんですよ。なので、藤康たちが省庁移転プランを作っています」


 あっ、それ教えて貰いました。そうですか、本気で省庁移転をするんですね。それからですけど、藤康さんは魔法庁を作るとか言っていましたよ。ええ、厨二的な名前だと思いますよ。


「そんなものを作って、何を管理するつもりなんですかね。どう考えても、今の国家公務員には荷が重いと思いますよ。庁の立て付けすら出来ていないと思うんですよ」


 ですよね。結局、魔法って技術はIMO研究所にしかありませんものね。

 ところで立木さん、今夜のご予定は? 視察……視察って、何の視察なんですか?


「ちょっと、大町の駅前商店街に行くだけですよ」


 それって、単に飲みに行くだけじゃありませんか? 勿論、反対なんかしませんよ。立木さんの場合、飲み歩くのは大いに奨励していたりしますからね。ただ、大仰に視察なんて言って欲しくないだけですよ。


「では、言い方を少し変えますかね。ヒアリングと言う奴をしてきますよ」


 それって、居酒屋のご主人と雑談するってことですよね。それを、『ヒアリング』なんて言ってくれるんですか? いえ、行くなと言ってるわけじゃありませんよ。それからもう一つ、連れて行けとも言っていません。どうも、立木さんが一人で飲み歩いた方が、出会いが待っている気がするんですよ。

 と言うことなので、はい、行ってらっしゃいと言わせて貰います。


 立木さんがいなくなったと思ったら、なぜかギャラン陛下……違うか、ギャランさんが登場。それはそうと、こんな時間に珍しいですね。


「うむ、腹が減ったから顔を出したのだ」


 そうですか、お腹が空いたことを理由にしてくれますか。いえ、別に構いませんよ。別館その1なんて、毎日宴会をしているようなものですからね。はい、そこに混じっても問題ありませんので。


「それはそうとして、立木殿は不在なのか?」


 立木さんですか、立木さんに何か用でもあるんですか? 姿が見えないので、ちょっと気になっただけ。いえ、立木さんなんですけど、ちょっと離れたところに飲みに行っているんです。


「酒場に行かれたと言うことか?」


 酒場には違いありませんけど、あちらの酒場とはかなり違いますよ。たぶんですけど、こぢんまり……あまり人数の入れないところに行かれていると思いますので。そうですか、行ってみたかったと仰るのですね。でしたら、次の機会にでも連れていって貰ったらどうですか? ええ、結構な頻度で飲み歩かれていますからね。実は、立木さんが飲み歩くのを奨励していたりするんです。


「遊び回るのを奨励していると言うのか? 何故と疑問に思っても良いのだよな」


 ええ、疑問に感じるのも仕方がないと思いますよ。ただですね、立木さんの飲み屋人脈……正確に言うと、飲み屋とか温泉での出会いって、ちょっと神がかっているんですよ。ほら、先日上高地に行きましたよね。参加していた偉い先生なんですけど、温泉で知り合ったそうなんです。

 後は朽木君とか武見君なんですけど、こちらもまた飲み屋さんで偶然に出会ったんです。そう言えば、オルティアさんとの出会いも奈良の飲み屋さんでしたね。ああ、光岡さんは大町の居酒屋さんで絡まれたのだそうですよ。


「なるほど、酒場で縁を紡がれていると言うことか。この世界には、酒の神も御座すのだろうな」


 酒の神……バッカスとかでしょうかね。ただですね、セレスは関係していないと言っているんです。だとしたら、誰が差配しているんですかね。まあ、世の中には怖いぐらいの偶然と言うのもありますからね。

 それでギャランさんは、今晩はどうされるんですか? ちなみに、芸能組は別館その1には顔を出さないと思いますよ。ええ、ちょっと外国に行っていたりするんです。


「それは残念なのだが。今更戻っても良いことは無いのでな。ハイエルフと翼人に気をつけて、うまい飯を楽しむことにしよう」


 ええ、彼女たちがしっかりと狙いを定めていますからね。油断大敵って言いますからね。はい、飲み過ぎないよう気をつけてくださいね。何が起きても、無かったことにしませんので、はい。




 大町市に来たのですけど、せっかくと言うことで公共交通機関を使いました。だいたいバスのバス停のあるところまでは転移をしたのですが、そこから先は南大谷まではだいたいバスで。そしてそこから信濃大町までは、直通ゲートを通ってだいたい鉄道で移動しました。

 生まれてから満員電車で過ごした身からすると、この移動方法は全く別世界だと思います。いえ、こっちの鉄道とかバスは混んでいませんよ。ただ混んではいませんけど、乗っている時間が長かったりするんですよ。だいたい鉄道とだいたいバスを使うと、その長い時間があっと言う間に終わってしまうんです。やっぱり世界が変わったと言って良いと思いますよ。


 それで……駅員さん。別に私に対して畏まる必要はありませんからね。私など、どこにでもいるようなお年寄りなんですよ。それはそうと、利用されている方の評判はどうですか?

 なるほど、利用者が増えたと言うのですね。ただ鉄道屋としては複雑な思いがある……そりゃあ、今まで鉄道と言うのは列車が主役でしたからね。その列車が退場してしまったのだから、複雑な気持ちになるのも仕方がないと思いますよ。


「それでも保線とかから解放されましたし、遅延とは無縁の世界になったんです。だから本当に、気持ちだけの問題だと思っているんです」


 人と言うのは、気持ちの問題を忘れてはいけないんですけどね。気持ち置き去りにすると、どこかで火が付いてしまうことがあるんです。

 そうですか、人が増えたのでやる気が出てきた。町にも活気が戻ってきたと言うのですね。でしたら、魔法特区の成果が出ていると言うわけですか。ええ、お仕事中話しかけて申し訳ありませんでした。引き続き、お仕事に頑張ってください。


 駅で挨拶をしたら、次は商店街を歩きますかね。私は、別に視察とかしに来たわけじゃないのですからね。ですから、店会の皆さんが集まってこなくて良いんです。いえ、今日はプライベートなんですよ。諸星さんにはヒアリングと言いましたけど、まあ少しぐらいならお話しさせていただきましょうか。

 それで……そうですか、居酒屋さんでお話ですか。酔楽の家たもん、一応目的地だったんですけどね。二つの意味で目的を果たすことにはなるのですけど……いえ、基本は手酌なんですよ。そうですか、では乾杯をいたしましょうか。


 それで少しお話を……いえ、馬刺しは好物ですよ。赤身が好きだったりするんですよ。会津の辛味噌を使うのが結構美味しかったりするんです。いえ、ニンニクも好きですから問題ありませんよ。それから鍋……紅葉鍋ですか。つまり、鹿鍋なんですね。そうかぁ、鹿かぁ。何年ぶりなんだろう。

 ところで店会として、景気の方はどうなんです? そうですか、今はバブル並なんですね。それで店会として、何か考えられていることはあるんですか? いえ、特に規制なんか考えていませんよ。勿論、法に触れない範囲で活動して頂ければなんですけどね。規制を気にしたと言うことは、危ないことを考えているんですね。いえ、教えていただかなくて結構です。


 それからマスター、客入りの方はどうですか? なるほど、アルバイトを雇うことにしたんですね。忙しくて嬉しい悲鳴……だとしたら、ふらりと来てはは入れませんね。いえ、私を特別扱いしてくれなくて良いんですよ。満員なら満員で追い返して頂ければ結構です。


「店会としての懸念は、郊外……ここも郊外と言う気もいたしますが。郊外に、ショッピングモールの計画が立ち上がっていることです。そうなると、せっかくの人出がモールに取られることになってしまうんです。勿論、私たちの努力は必要と言うのはわかっています。こんなことを言ってはいけないんですが、私の家族もショッピングモールを選ぶと思うんですよ」


 それが、地方の現実と言うのはわかっていますよ。はい、私も温泉巡りで色々なところに行っているんです。ここにしたところで、ぼろっちい……失礼。趣のある宿に泊まって何度も飲みに来ていますからね。黒部ダムに行くベースとして利用しただけなんです。

 駅前の商店街は……コンビニ以外は入った記憶が無いぐらいです。ただ都会……都会でも、地場の商店街は苦戦しているんですよ。テレビ紹介されているところも沢山あるんですけど、その一方でシャッター街になったところも沢山あるんです。


「なので、道を潰すかと言う話が出ているんです」


 道を潰す……ひょっとして、本通りを潰すんですか? そうですか、潰して歩行者専用にするんですね。もっとお客さんとお店の距離を近くする。有名な商店街を参考にしたわけですね。ストリート型のショッピングモールを作ろうと言うことですか。信濃大町駅は注目されていますからね、その駅チカなら勝負を賭けるのには良いと思いますよ。

 ただ、顧客をどこから引っ張ってくるかが問題になりますね。後は、何を名物にするのかもあると思います。気をつけないと、年寄ばかりのストリートになってしまいますよ。それから、私に助言を求めないようにしてください。商売なんか、これまで一度もしたことが無いんです。出来て融資……これも銀行に任せた方がいいと思うんですよ。まあ、特区の方には資金が集まっているので、それを活用することを考えてください。


 それでは、一次会……これって、一次会だったんですか。一次会は終了と言うことですね。ところでマスター、店じまいをしていませんか? これから場所を変える。新しくできたスナックが中々良い……キャバクラが良ければそちらにする。いえ、スナックにしておいてください。


「立木さんの周りには、綺麗どころが揃っていますからなぁ」


 それを言われると辛いのですけど、女性を侍らすお店って苦手だったりするんです。ええ、独身時代や単身赴任の時でも、そういったお店には足を踏み入れていないんです。

 女の子を指名できるカラオケ……連れ出しとかなければ問題ありませんよ。ですから、突然恋が芽生えると言うのは認めません。それをやったら、レッドカードを出して貰いますからね。


 二次会で解放してくれたのは、運が良かったと言って良いのでしょうね。しかしなんで、待ち構えていたように宴会を開いてくれるのでしょう。ただまあ、面倒がなかったので良しとしておきましょうか。平穏と言うのとは違っていますが、後は大人しく家に帰るだけですね。おかしな出会いがないのは、精神衛生上は良かったと思いますよ。

 それに、地元の人と話が出来たんです。お陰で、色々な情報が貰えたので良しとしましょう……ああっ、やっぱり今日も逃がして貰えませんでしたか。


 人目に付くところでの転移は避けよう……駅を使えば良いんですけどね。それをしないで帰ろうと思って路地に入ったら、知らない女性が倒れていました。その前に時計にメッセージが来ていたんですけど、その理由がこれと言うことですか。この女性……まだ若そうですが、一体どこから逃げてきたのでしょうね。

 格好は……かなり危ないな。それから、見た目は極上と言うことですか。気を失っているので目の色はわかりませんが、金色の髪をした鼻筋の通った美しい顔をされていますね。スタイルの方は……隠してあげないと可哀想ですか。

 それから覗いている貴方。貴方は女神だと思えば良いのですか?


「お気づきでしたか。流石は立木様と申し上げておきます。始めして、私はルクシオと申します。ご指摘の通り、女神をしております」


 銀色の髪と言うのは、ちょっと変化球になっていますね。見た目は、女神様標準と言えば良いのか、とても美しいと思います。と言う論評は良いのですが、事情を教えて頂けますか?

 その前に、このままだと彼女が可哀想ですね。貴方なのですが、IMO研究所に来ても大丈夫ですか?


「あそこは……ご容赦願えればと。いえ、ちょっと怖いと言えば良いのか。あまり元の世界から離れていると、良からぬ輩が跋扈する恐れもありますので」


 驚きました。意外に真面目な女神様なのですね。でしたら時間を取らせるわけにはいきませんね。彼女のことを、簡単に教えて頂けませんか?


「彼女の名前はクレスタと言います。身分はテアトル王国のキネマ公爵家のご令嬢です。王太子の婚約者だったのですが、その王太子を寝取らてしまったんです。しかも王太子の不興まで買ってしまいました。別に、彼女が粗相をしたわけではないんですよ。すべて実家の政敵が仕組んだことなのですが、その策が思いも寄らない方向に向かってしまったんです。一番の理由なんですけど、はっきり言って王太子が愚かだからと言うことになります。そのせいで、彼女が処刑されることになってしまいました。公爵家を巻き込んだ、政治的決着の犠牲にされたと言うことです」


 今度は悪役令嬢もの、ですか。それで彼女がここにいるのは、貴方が保護をしたからなんですね? 賢くて人柄も良い。だから死なせるには惜しかったと言うのですか。ですが、女神ならば出来ることがあったのではありませんか?


「できるだけ、人の営みに干渉をしないようにしていたんです。これでも、かなり干渉してしまったことになるんですよ。今回は特別だと、自分自身に言い聞かせたりしております」


 そうですか。それが、女神としての貴方の方針なのですね。ただ言わせていただくなら、人に責任を押しつけないでいただきたいのです。彼女を救い上げるのであれば、貴方の治める世界ですべきことではありませんか?


「公爵家の令嬢としてはしっかりしていると思います。ただ生活能力はありませんので、放置したらあっという間に野垂れ死にしてしまいます。運が良くて奴隷商人に捕まって売り飛ばされる……最悪もう一度処刑されることも有り得るんです。実家も匿ってくれないと思いますので、私の世界に残っては生き残れる未来が見えないんです」


 たとえそうだとしても、こちらに面倒を押しつけていますよ。なぜ私たちが、貴方の尻拭いをしないといけないんですか? ですから、土下座をすれば済む話でも無いんです。

 ただ彼女に責任はないのでしょうね。このまま捨てておく訳にはいきませんので、一応上里集落に連れて帰ることにしましょうか。しかしなぁ、この時間だと諸星さんはお取り込み中だろうし。慶子はまだ起きているから、頭を下げて任せることにするしかないのかぁ……それからルクシオでしたか、まさかこのまま帰ろうと思っていませんか?


「できれば、勘弁願いたいのですけど」


 そこまで怖がられることではないと思いますよ。たかが人一人だったら、受け入れること自体は難しくありませんからね。ただ彼女、クレスタさんでしたか。貴方から事情を説明した方がいいと思うんです。このまま消えるのは、流石に無責任と言ってあげます。


「ご容赦願えないのでしょうか?」


 はい、ダメですね。それから逃げようとしても無駄です。貴方は、指一本動かせなくなっているはずですからね。


「ど、どうして、女神の自由を奪うことが出来るんですっ!」


 それが、魔法研究の最先端と言うことです。どやぁっ!




 楽しく飲んでいたら、今日は中宴会規模かな。ギャランさんを交えて、結構盛り上がったりしていたんだよ。こんな時に連絡してくるなんて、無粋と言って良いよな。うん、本人には言えないけど。

 しかし立木さん、飲みに行くたびに面倒を拾ってくるんだね。なんです、その悪役令嬢ものってのは。ええ、まだ宴会の途中ですからね、真っ最中でも意味の違う真っ最中だったんです。ですので、そちらに伺うことに問題など何もありませんです、はい。そうですか、ラズライティシア様とエリシオンさんも連れてきて欲しい。慶子さんも連れてきて欲しい……もしもし、俺がそんなお願いを出来ると思っているんですか? 見損なわないで欲しいものですっ!


 いえ、別に自慢しているわけじゃありませんよ。ただ、事実を事実として答えただけなんです。そうですか、もう連絡してあるんですね。なるほど、ラズライティシア様たちと一緒にいるわけですか。だったら、俺に連れてきて欲しいなんて言わなくてもいいと思うんですよ。

 取りあえず同行者はわかりました……それでですね、一人野次馬を連れて行って良いですか? いえ、白船君じゃないんです。はい、ギャランさんなんですよ。偶々なんですけど、宴会目当てに遊びに来ていたんです。はい、全くもって仰るとおり。ただの野次馬にしか過ぎませんよ。


 と言うことで、指定された地点へ全員で転移。ところで、そこで突っ立っている女性は誰なんです? 女神、女神と言ってくれますか。なるほど、立木さんの獲物と言う訳ですね。はい、異論は受け付けていませんので悪しからず。

 それで保護する女性は、なるほど金色の髪をした綺麗な女性ですね。慶子さんが毛布を掛けて、荷造り紐さんでぐるぐる巻き……いや、それっておかしくありませんか? 毛布が解けないようにしただけ。かなり際どい格好になっているので、念のためと言ってくれるんですね。なるほど、ギャランさんの目つきが危なかったと言ってくださいますか。だそうですよギャランさん。


「うむ、濡れ衣ではないと言っておこう」


 ええっと、そこは濡れ衣と言う所ですよね。濡れ衣ではないって……ガン見をしたと言うことですか。出来れば、お持ち帰りをしたい。なるほど、ギャランさんの好みに合ったわけですね。確かに、胸がおっきそうでしたからね。

 それで、ここからは? 女神……なんて言うんですか? ルクシオ、魔王様的に言うと、中々そそる見た目をして居ますね。その女神を、取りあえず所長室に連行するんですね。


「私たちの世界は、産廃置き場でも駆け込み寺でもないんです。来てしまった以上今更言っても仕方がありませんが、同じことが繰り返されないようにする必要があるんです」


 つまり、立木さんが性的にわからせると。それをしたら真似をする女神が出てくる。ええ、今も興味津々で覗いている女神がいるぐらいですからね。そう、そこのエンビジョン、それからスピアーノのことを言っているんだからなっ! お仕置きをして解放すると言うことですか。セレスとかに圧迫面接をさせますか?

 それをすると、後始末が辛くなる。クロアとかアリッサが、そのまま帰ってくれるとは思えませんからね。だから二人とも、呼んでないから出てこなくて良いんだよ。


 それで保護した女性……クレスタさんと言うんですね。やっぱりと言えば良いのか、その手の名前になっているわけですか。それはそうと、クレスタさんは慶子さんが連れて帰りました。お手伝いは、ラズライティシア様とエリシオンさん。なるほど、フローリアンさんとパナメーラさんも控えているんだね。手当と言う意味なら、万全の体制と言って良いわけだ。

 それでこちらは、今から事情聴取をするんですね。それでお仕置きの方は? もうしてる……確かに顔色が真っ青になっていますね。なるほど、痛覚を軽く刺激をしたと言うわけですか。


「後始末が面倒だからと言うのが理由ですね」


 ここの所、何度もなかったことにした覚えがあるんですよ。だから、面倒と言うのは良く理解出来ますです。それで、事情聴取なんですけど。立木さんがしますよね?


「私がやった方が早いんでしょうね」


 そう思いますよ。と言うことでお願いします。


「キネマ公爵家の御令嬢が、どうして処刑されることになったのですか? それに加えて、なぜ貴方が彼女を助けたのか。彼女の境遇には同情しますが、だからと言って女神が干渉する程のことではないと思うのですよ」

「ま、まずですね。彼女は、テアトル王国王太子である、フリード王太子と婚約をしていました。テアトル王国では、王太子との婚姻は公爵家間での持ち回りになっています。それでですね、今回はキネマ公爵家の順番だったと言うことです」


 持ち回りで王太子に嫁がせている。それで良いのかと言う気もするけど、決め事だと思えばおかしくはないよな。それに貴族、特に上の方の結婚なんて、政治的な事情が優先されるのが常識だし。

 だとしたら、特に揉めることもなかったと思うんだよ。ちらっと見た範囲では、クレスタだったかな、見た目もスタイルも良さそうだしね。まあ、意識がなければ性格まではわからないんだけどな。


「たぶんですけど、王妃になるのに性格は問題にならないと思いますよ。多少きついぐらいの方が、うまく国が回っていくのではありませんか?」

「それは仰るとおりなんですけど……その点で言えば、クレスタは穏やかな性格をしている方だと思います。勿論、公爵家令嬢基準ではなんですけど。それでですね、王太子殿下がちょっとした偶然でソレンと言う男爵家令嬢と知り合ってしまったんです。それでなぜか意気投合……なんでしょうね、あっという間に男女の関係になってしまったんですよ。もうね、スキャンダルと言う意味では、もの凄いスキャンダルなんです」


 ああっ、立場を考えたら両方ともあり得ないよな。まともな常識を持っていたら、王太子と男爵家令嬢が行きずりの関係を結ぶはずがないと思うんだよ。だけど、その王太子。フリードって言ったかな。王太子としての自覚に欠けるんじゃないか? 公爵家令嬢との婚約って、個人の好き嫌いとは関係の無い世界だろう。一つ間違えたら、国を真っ二つに割ってしまうことになるんだぞ。

 それに男爵家令嬢程度なら、側室の一人にでもすればすむことだよな。ギャランさんもそう思いますよね。


「その、ですね。二人とも自覚以前に少し頭が弱いと言えば良いのか。ただそれだけなら、回りが諫めれば良かったんですけど。そこに余計な思惑が乗っかってきたので、おかしくなってしまったんです。はい、キネマ公爵家とは犬猿の仲のビメオと言う公爵家がちょっかいを掛けたんです。それでも、キネマ公爵家の面目を潰す程度のつもりだったんですよ。それがおかしな巡り合わせになって、クレスタの処刑と言うことになってしまったんです。はい、ビメオも慌てましたよ。そりゃあ、順送りで王妃を出すのが習わしですからね。その習わしが壊れたら、自分にも影響してくるんです。ですが手遅れになって、クレスタを処刑せざるを得なくなってしまったんです。国王、王妃も頭を抱えていたんですよ」


 ええっと、王国の上の方全部が処刑に反対だってこと? それなのに、処刑しなくちゃいけなくなるって……王太子だっけ? 少し頭が弱いぐらいで済ませていい話なのか、それ。


「少し弱い程度だと思いますよ。ただ自覚がない、むしろ自分は聡明だと勘違いしている方が問題だと思います」


 最悪って言って良いかな。それで、処刑ってことになったわけか。ちなみに、処刑方法はどんな方法だったんだ?


「斬首です。しかも、公開斬首なんですよ。もう、領民が騒ぎまくってくれましたよ。ええ、首を切れではなく、早まるなと騒いでくれたんです」


 つまりなんだ、わかっていないのは王太子と男爵家令嬢だけってこと? だったら男爵家の方は? 当然のように反対していたんだ。なんか、頭が痛くなったって言って良いか?


「処刑場まで連れて行かれたのですよね。だとしたら、どうやって逃げ出したのですか? あなたは、手を出していないのですよね?」

「はい、手を出していませんよ。よほどのことが無い限り、不干渉と言うのが私のスタンスなんです。今回のこと、今回のことですか? たかが一国のことなんですよ。だとしたら、手を出す理由がないと思いませんか? それでも、可哀想だとは思ったんです。はい、思ったんです。そこの所、間違えないようお願いいたします」


 立木さん。微妙に苛つくって言って良いですか? そうですか、立木さんも同じなんですね。不干渉を言うのなら、最後まで不干渉でいて欲しいと言うのは間違っていますか? 別に彼女を死なせろと行っているわけじゃないんですから、そこの所間違えないように。


「諸星さんも似たようなことを言っているのをお忘れ無く。それで、どうしてこちらの世界まで来てしまったんですか?」


「世の中って、恐ろしい偶然と言うものがあるんですよ。はい、隣国なんですけど、スタジオネ王国が攻めてきたんです。こちらで言うテロ? ですか、少数が潜り込んで破壊工作をしてくれたんです。それで、処刑どころではなくなってしまったと言うことです。ちなみに潜り込んだならず者……ならず者なんですよ。行きがけの駄賃で、クレスタを攫ってくれたんです」


 なんか、しっちゃかめっちゃかって言って良い? うん、絶対におかしなことになってるよね。それで攫われたクレスタさんは、どうなったのかな?


「王国で処刑されるのなら、大人しく処刑されるつもりだったようです。ただ相手が変われば、当然抵抗しますよね。攫ったのはならず者なんですよ。当然嬲り者……にされそうになったところで、抵抗して馬車から転落してしまいました。そのまま斜面を転がり落ちて、最後は崖下まで真っ逆さま……と言う所で私が助けました」


 なんかおかしなことになってるなぁ。もしかして、クレスタさんって不幸体質とか持ってるのかな?


「それ以前に、なぜこの世界に連れてきたのかと言う方が問題ですね。その点について、釈明することはありますか?」


 確かに、助けるだけならここに連れてくる必要はありませんでしたね。やっぱり、なぜってのが気になりますよね。


「一番受け入れて貰えそうな所を選びましたっ!」


 どやぁって……立木さんが、黙って見ているとでも思ったのかな。やっぱり、無かったことにしなくちゃいけないんだ。ああっ、女神様が白目を剥いて失神しているよ。なんかさぁ、もう女神様って有り難みがないと思うんだ。

 それで、どうするんです? なるほど、女神は放置するんですね。それで彼女は? 保護した以上、最後まで責任は持つ。つまり立木さんのお手つきに……ああっ、背中を冷や汗が滝のように流れていったぁ。


「そう言うおバカは忘れるとして、身の振り方を考えてあげる必要はありますよ。元の世界に戻してあげるのか、それとも別の世界で生きていくことにするのか。光岡氏に預けたら、面白いことになりそうな気もしますけどね」


 ぱっと見の見た目は良かったですからね。アイドル路線、ですか。ちょっと年齢的に高そうって言って良いですか? なんですギャランさん、引き取り手がなければ立候補しても良いと言うのは。ダメとは言いませんけど、相手の希望も考えないといけませんからね。

 仕方ありませんね。クレスタさんでしたか、彼女のことは目が覚めてからと言うことにしましょうか。


 それで立木さん、飲む方は落ち着いて飲めましたか。なんです、結果的に視察とヒアリングになったと言うのは。ヒアリングって、飲み屋のご主人と歓談したと言うことじゃありませんよね。


「まず、信濃大町の駅員さんとお話をさせて貰いました。乗客……利用客と言った方が適切でしょうね。利用客が増えて、活気が出てきたと言っていますよ。保線や遅延の心配が無くなったのも大きいと言っていましたね。ただ、鉄道屋として複雑な気持ちを持っているそうですよ。ええ、鉄道車両と言うのは鉄道の花形でしたからね」


 なるほど、だいたい鉄道だと車両が不要になりますからね。確かに、『鉄道』と言うと、走っている列車がメインになってましたね。だとしたら、撮り鉄が大騒ぎしそうな気もしますね。

 いえ、彼等を気にする必要も無いんですけど。


「ちなみに、大糸線の営業係数は3000近辺にあります。どう言うことかと言うと、100円の営業収入を得るために、幾ら掛かるのかと言うことなんです。つまり、100円売り上げようと考えたら、3000円かかっていたんです」


 確か藤康さん、乗客数が100倍になったと言っていましたね。だとしたら、単純計算で営業係数が30近くになるんですか? それって、黒字路線になるってことですよね。


「営業経費のうち、車両に関わる部分、保線に関わる部分が不要になるわけです。従って、営業係数は更に改善されることになるのでしょうね。ただこのまま鉄道用地を荒れさせて良いのかを考える必要があります。JRに任せっきりと言う訳にはいかないのでしょうね」


 廃線になった所って、結局荒れ放題になっていますよね。だとしたら、線路を引っぺがすんじゃありませんか? それも含めて、自治体とJRで検討をして貰う。道路って……単線だと、さほど幅がありませんでしたね。


「駅員さんと話をした後、大町駅前の店会の方々に捕まったんです。そのまま居酒屋に連れ込まれて、なぜか懇親会になってしまったんですよ。冗談で言った視察とヒアリングが、なぜか本当になってしまったと言うことです」


 なるほど、店会の方々たちとは飲みニケーションを行われたのだと。それで、何か成果がありましたか?


「今はバブル景気になっているそうです。私の行った居酒屋さんも、アルバイトを雇うぐらい忙しくなっているようですよ。ただ店会の人たちは、郊外に出来るショッピングモールを気にされておいでです。なので、駅前商店街に人を引きつける方策を試行錯誤されていますよ」


 つまり、自分たちで色々と考えて見ようと言うことですね。お金ならあるので、融資をすることも可能になっていましたよね。


「とまあ、そんな話をしてきたわけです。行きはだいたいバスとか鉄道を使ったのですが、帰りは自前の転移で帰ろうと思ったんです。そのために、人目に付きにくい路地に入ったら、彼女を見つけたと言う訳です」


 今回は、バグってる出会いとは言えませんね。ええ、ルクシオでしたか。彼女が面倒を運んできただけですから。ただクレスタさんでしたか、彼女が将来化けたらやっぱりバグってることになるんでしょうね。


「いい加減落ち着きたい。なんか、もう、疲れてしまったんです」


 その辺りは、まあ、諦めてくださいとしか言いようがありませんね。そういう星の下に生まれた……嫌な星と言わないように。そう言う星の下に生まれたと思って諦めてくださいとしか言いようがありません。良いじゃありませんか、これで歴史に名前を残すことになるんですからね。

 願っていたのは平穏な老後……ねえ立木さん、『嘘』って断言して差し上げますよ。平穏な老後を願っていた人が、いきなりラズライティシア様に手を出すはずがないでしょう。あの時から、立木さんの運命が決まったと思うんです、はい。




 私の記憶にあるのは、ならず者に襲われて逃げ出したところまででした。馬車から振り落とされたのは覚えていますが、そこから先は何がどうなったのか。それでも言えるのは、助かるとはとても思えない状況だったと言うことです。襲われる前……性的になのですけど、峠に沿った街道を移動しているのを見た覚えがあるんです。

 走っている馬車から落ちただけでも大変なのに、そこから転げ落ちて谷底に……まともに考えれば、助かるとは思えないことです。だとしたら、私は死んだと考えた方が良いのでしょう。それを考慮すると、ここは死後の世界と言うことになるわけですね。もしかしたら、私は女神ルクシオ様に招かれたのでしょうか?


 それで身体を確認してみた……質素な夜着なのですが、とても上質と言うのがわかります。薄くてしっかりとしていて、なおかつ手触りがとても良いんです。その夜着をめくって……はしたないのはわかっていますよ。それでも、自分の身体を確認しておく必要があると思ったのです。

 その結果なんですけど、身体には傷一つありませんでした。ちなみに貞操の方ですけど、奪われる前に抵抗しましたので、なくしていないのははっきりしています。


 それで安心して夜着を着直したのですが、これは下着と言って良いのでしょうか。その、なんと言えば良いのか、肌触りは良いのですよ。ただ不格好に大きくて、ですね。やけに身体に当たる部分が分厚くなっているんです。しかも腰回りは、ひだのようなものが付いて伸び縮みなんかしてくれます。

 もしかして、これは『おむつ』と言うものなのでしょうか。なぜ私がおむつなどしなくてはいけないのですか? おねしょなんて、本当に小さな頃しかしたことが無いのですよ。

 それで中を確認したのですけど、なぜか変色などしていました。いえ、さらっとしているんですよ。だから、これは間違って付いた色だと思うことにしておきます。ちょっと、かなり重いと言うのはこう言うものだと思うことにしました。

 夜着を着直して一呼吸置いてから、ぐるりと部屋の中を確認してみました。それでわかったのは、とても狭い部屋と言うことです。ただ置かれているものは、とても洗練されていると思います。しかも役目のわからないからくり、で良いのですよね。からくりが置かれていたりしました。


 これで、私の置かれた環境の確認が終わったことになります。だとしたら、次は何をすれば良いのでしょうね。扉の向こうから物音は聞こえてくるのですけど、近付いてくる足音が聞こえてくれないのです。あの扉を開けて外に出て良いものなのか、とても薄い夜着だと考えると、乙女である私がこのまま外に出て良いとは思えないんです。はい、隠すべきところが隠れていなかったりするんですよ。もしも殿方がいたりしたら、お嫁に……そうですね、私が嫁ぐ未来はなくなってしまったのでしたね。それ以前に、穿いている『おむつ』が気になりますので。

 ちなみに私は、キネマ公爵家の長女と言う立場を持っていました。キネマ公爵家は、テアトル王国の3公爵家の一つと言う由緒ある公爵家なのです。そしてテアトル王国は、3公爵家から順に王妃を迎えていました。はい、私の代はキネマ公爵家が王妃を出す順番になっていました。


 生まれた時から決められた運命なのです。ですので、私は小さな頃から王妃となる教育を受けてきました。伝統的に、テアトル王国は賢い王妃が支えてきていました。ですので、英才教育、英才教育で良いのですよね。王妃として国を導く教育を受けてきたのです。ちなみにこの教育は、3公爵家が共同して作り上げた仕組みを利用しています。

 それとは別の教育ですが、女性としての魅力を高める教育もありました。幾ら有能な王妃でも、見た目が悪くては民たちの支持を受けられませんよね。ですので、見た目を良くする努力……その中にはスタイルを良くする努力も含まれていたのですよ。ですので、美貌の次期王妃として民からも圧倒的な支持を得てもいたんです。フリード王太子殿下との婚約が発表されましたので、後は王妃として国を導くだけだと考えていたんです。それからこれは、慢心でも何でも無い、既定の路線と言うものなのです。


 その既定の路線を壊してくれた愚か者がいました。ソレンと言う男爵家の娘なのですが、こともあろうに王太子殿下と関係をしてしまったのです。ただこの程度なら、十分に修復可能なイレギュラーでしかありません。男爵家の娘であれば、側室に据えることが出来ますからね。王国に必要なのは、妻としての王妃ではなく、国を導いていく王妃と言う存在だったのです。

 だから殿下の粗相が明るみに出ても、誰も慌てなかったんです。粛々と婚姻の手続きを進め、私がテアトル王家に嫁げば国としては安心できるのですからね。それがおかしくなったのは、ビメオ公爵が横やりを入れた時からでした。ただこの横やりにしても、キネマ公爵家に恥を掻かせる程度のものだったんです。何しろビメオ公爵家から、私の子供、つまり次の王太子が后を迎えることになっていたのですからね。ですので、今のしきたりが壊れては困ると言うことです。

 それもあって、誰も慌てず騒がず、ソレンを側室として扱ったんです。私、私、ですか? 当然私も、側室として彼女を扱いましたよ。もしも私が女の子しか産めなかった場合、誰かが男の子を産む必要があったのですからね。それを考えたら、敵対する理由なんてどこにも無かったんです。


 ただですね。いささかフリード王太子殿下とソレンの頭が弱かった……いささかと言うのは、現実を見ないものなのでしょうか。思いっきり頭が弱かったと言うのが現実と言うことになりますね。しかもですね、王太子殿下は、自分が賢いと思っていたみたいなのです。そしてソレンは、自分が王妃になれるものだと信じていたようです。

 その結果、彼女を側室として扱う私が王太子殿下の不興を買ったことになりました。別に虐めているわけでもなく、ただ立場に相応しい態度をとるように指導しただけなんですよ。王妃と側室の間には、超えられない壁が存在するんです。そのことを、ですね。懇切丁寧に教えて差し上げたんです。あなたの言っていることは、王国の安寧を犯すことになるとも教えて差し上げましたよ。隣国、スタジオネ王国と言うのですけど。虎視眈々と、テアトル王国を狙っていましたからね。それがわかっているから、隙を見せるわけにはいかないと言うことです。


 王太子殿下の頭が宜しくないと言うのは、本人は自覚していないのですけど、誰もが認める事実なんです。そしてソレンに、王妃として国を導く能力の無いのも同じく事実なんです。それをはっきりしっかりと教えて差し上げたら、王太子殿下が激怒されたと言うことです。不敬……事実を教えることが不敬なのですか。そんなこと、今に始まったことじゃないと思うのですけど。それを騒ぎ立ててくれるんですか?

 不敬罪で死刑……ええっと、ですね。それをしたらどうなるのか、理解されて仰っていますか? 国王陛下、王妃殿下も止めておられますよね。私を嵌めたビメオ公爵も、顔色を悪くして諫められていますよね。ソレンの両親にしても、考え直せと彼女に言っていますよね。大臣たちも、顔色を悪くして説得に来ていると思うんです。

 ええ、全部王太子殿下の神経を逆撫ですることになったようですね。その結果、その結果ですか。公開斬首なんて、馬鹿なことになってしまいました。公開ですから、民たちも集まってきているわけです。その民たちが、口を揃えて死刑を止めろと叫んでいました。処刑人にしても、本当に良いのかって、国王陛下の方を見ていたんですよ。でも、おバカな王太子が『さっさとやれ』って命令してくれたんです。もうですね、私は絶望なんかしてしまいましたよ。どうして、こんな愚か者の妻となることを考えていたのか。私がすべきことは、この愚か者を縊り殺すことだったのだと理解したぐらいです。

 はっきりと申し上げるのなら、王国に見切りを付けたのです。ただ、どうやっても逃げ出せないのですよ。だから、仕方が無いと諦めることにしました。結婚するまではとお預けにしたのですが、適当に餌を与える必要があったと言うことですね。


 そこで覚悟を決めたのですが、なぜか処刑場が騒がしくなってくれたんです。一体何事、と思いますよね。そうしたらですね、隣国スタジオネ王国のものが騒ぎを起こしてくれたようです。はい、処刑場だけでなく、王都各所で騒ぎを起こしてくれたんです。

 その騒ぎに紛れて、私はスタジオネ王国の者に拉致されてしまいました。これで助かった……と言うのは早計だと思うんです。だって、そのスタジオネ王国の者なんですけど、品性の欠片もない見た目をして居たんです。もしかして、ただ処刑されるのよりも、もっと悪いことになったりして……


 だから、私は公爵家令嬢なのですよ。あなたたちのような下賤な者の慰み者になる女ではないんです! なので抵抗させていただきました。思いっきり抵抗させていただきましたよ。たぶん相手も油断していたのでしょうね。2人ほど殴り倒すことに成功いたしました。ただ暴れすぎたせいでしょうか、馬車から転落してしまったんです。そこから先は、最初にお話をしたとおりと言うことです。

 さて私は、これからどうしたら良いのでしょうか。とても殿方の前に出られる格好ではありませんし、そこはかとなく臭う気もするんです。どうすればいいのか、全く浮かんでくれないんですよ。だからですね、私は開き直ることにいたしました。


 おやすみなさい


 用があったら、誰かが起こしに来てくれるでしょう。だったらそれまで、寝ていれば良いと思いませんか? 狭いベッドですけど、寝心地は最高なのですからね。




悪役令嬢です。いえ、パターンとして必要なのかなと。

それから某駅近くですが、夕食(飲み含む)に苦労したことをここに記しておきます。

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