いつもの旅行の話
村の特産は異世界です
・いつもの旅行の話
久しぶりだと思うんです。はい、最近影が薄くなってきた秘書Oと申します。その影が薄くなった理由、IMO研究所の秘書事情なんかお伝えします。
皆さん、始まりの世界のことは知っていますよね。その始まりの世界から、また美人秘書が追加されたんです。レクサス準男爵家4女のソアラさん。セレスさんがモデルに使うぐらいに、茶色の髪をした綺麗な女性です。その女性が、ですね、諸星さんの秘書として追加されたんです。お陰、お陰と言って良いのかな。諸星さんが、所長室に篭もることが増えたりしました。ちなみに、こちらのツッコミは野暮なのでいたしません。
もう一人、副所長付の秘書が増えたはず。なるほど、フルグラさんのことを指摘してくれましたか。確かに諸星さんは、彼女を立木さん付の秘書にすると言っていましたよ。ただですね、諸星さんが立木さんの決定に異を唱えられると思いますか。確かに所長権限ってのがあるんですけどね、そんなものは正論で叩き潰されてしまいましたとさ。その正論なんだけどね、『彼女には学校に通って貰います』なのよ。だってフルグラさん、まだ16歳になったばっかりなんだよね。だから学校……なぜか中学校なんだけど、大悟君の同級生に落ち着くことになりました。まあね、大谷中学校って、1クラスだから自動的に同級生になるんだけど。
ちなみにフルグラさんも、めでたく立木家に住み込むことになりました。立木さん家なんだけど、結構手狭になったと思うのよ。そう思ったら、いつの間にか拡張なんかされていました。どうやら、諸星さんに相談なんかしたみたいね。気がついたら、お部屋が5部屋増えていたりしましたとさ。
でもね、そうなると住人が多すぎると言うことになるのよ。どう言うことかと言うと、慶子さんの負担が重くなるってこと。一応共用部分の掃除は大谷村から人が入っているし、個室の掃除は入居人任せにはなってるよ。気にしない人用には、大谷村から派遣された人が掃除するんだけどね。
でもさ、お食事の準備とかお洗濯とか、かなり大変だと思うのよ。と言うことで、立木さんが大英断をして、慶子さんからお洗濯を取り上げてくれました。そして取り上げたお洗濯は、各人に洗濯袋を渡して大谷村に委託と言うことになりました。それが気になる人は、洗濯室で各自洗濯と言うことになったそうです。うち? うちにも洗濯袋を配ってくれたわね。
それからお食事の方なんだけど、意外な伏兵が登場しました。そうですか、意外だから伏兵と言ってくれるのですね。まあ、定義の話は置いておくけど。朝倉さん、橘さんが手伝いに入っています。あと夕食限定なんだけど、オルティアさんもキッチンに入っているんですよ。なので食事の外注は、今のところしないことにしているそうです。
藍香さんは手伝わないのか、ですか。それなんだけど、大悟君と杏香ちゃんが全力で止めてくれたようよ。それがね、彼女が作ったものって、食べるのに覚悟が必要みたいなのよ。それでね、今はそんな覚悟はしたくないんだって。
後ね、1階に家庭内別居用のベッドルームがあるそうです。やっぱり、慶子さんも思うところがあるんだよね。ああっ、酷い冷や汗が背中を滝のように流れ落ちてくれたぁっ!
それはそうと、金髪のイケメンが頻繁に研究所に出没しています。はい、トラットリア王国前国王様であられるギャラン様です。それでね、出没先が大部屋だったりするのよ。もうちょっと正確に言うと、エンターテインメント部門だったりするわけ。今現在で、橘さんたちに言い寄っていたりします。
その橘さんなんだけど、朝倉さんとトベデビューをしてくれました。IMO研究所のエンターテインメント部門って、世間の注目が半端なかったりするんですよね。それもあってですね、ビュー数が爆上がりになっていたりします。これも新たな収益になるんだけど、雇用目的から外れているって言っちゃ駄目?
それから恒例の定例報告会なんだけど、今回も北のドームで開催されることになりました。始まりの世界のことは、そこで関係者を集めて発表されました。勿論、諸星さんの国王就任のことも発表されています。ゲストでギャラン様を招いたのですけど、早速ファンが付いていたりします。
ヨーロッパがどうなったか、ですか。どうもなっていませんよ。少なくとも、IMO研究所から働きかける真似はしないことが宣言されているんです。後はですね、手の付けようがなくなっていると言うのも大きいと思いますよ。だって、EU解体なんて話まで出てきてるぐらいなんですよ。英国に再度加入して貰えないかと言う泣きも入っているみたいね。
研究の方は、粛々と言って良いと思う。それから治療の魔道具だけど、治験の範囲が広がっていたりします。御衣黄さんの無駄な努力を活かす方向なんだけど、幹細胞と組み合わせて難病治療での効果が認められたのよ。それから御衣黄さん、ビール瓶を出さないでくれるかな。本当の目的が達成できていないんだから、無駄な努力で間違っていないよね。
と言うイベントを終えたので、11月に入って有志での旅行と言うことになりました。その辺り立木さんが頑張ってくれた……落ち込んでもいたんだけどね。頑張ってくれたので、閉山間際の上高地観光と言うことになりました。
参加者なんだけど、慶子さんは不参加と言うことになりました。その辺りが、立木さんが落ち込んでいた理由なんだけどね。慶子さん、ジュニア君とグレイスちゃんの御世話が楽しくて仕方が無いみたいなの。だから立木さんに命令をして、赤ちゃんを連れて行けるホテルを確保することになったそうです。その辺り、インテグラさんの慰労と言う意味もあったみたいね。ということで、女子旅第3弾が開催されることになりました。
女子旅と言うことで、参加者はインテグラさんと赤ちゃん2人、なぜかセレスさん、陽佳ちゃん、杏香ちゃん、御衣黄さんの6人。御衣黄さんは上高地に後ろ髪を引かれていたみたいだけど、どうやらインテグラさんを優先したみたいね。それで目的地は、伊勢志摩の高級ホテルのビラ。ひょっとしてあそこのことかな。うん、超高級ホテルだよ。
一方上高地組はと言うと、いつもの教授3方と諸星さん、不思議なことにイセッタさん。後は立木さんと大悟君に、これまたなぜかフルグラさん。私、勿論私も参加ですよ。何を今更と言ってあげましょう。
ちなみに常連のエクシブさんは、ルーテシアさんと一緒に冒険に行っています。それはそうとして、なぜに元国王様がいるの? しかも王妹殿下……違うか、今は王妃様まで参加しているし。
「シズカは、われに恨みでもあるのか?」
いえ別に、と申し上げておきます。ちなみに部屋割りなんだけど、教授連は纏めて畳の部屋になりました。そして立木さんなんだけど、ラズライティシア様、大悟君と一緒でこちらも畳の部屋。元国王様は、現王妃様と一緒の部屋。そして諸星さんはアルカナさんと同室。私は、なぜかフルグラさんと一緒と言うことになりました。
参加人数と部屋割りは、これしか部屋が確保できなかったからだそうです。そりゃあ、シーズン終了間際の上高地だからね。むしろ、これだけ確保できたのが凄いと言わせて貰うわよ。
それから初めて来た上高地なんだけど……なんて言って良いのか、もの凄く良いんですけど。なんだろう、もの凄く心洗われる景色と言えば良いのか。それに、水もとっても綺麗なんだよね。流石は山岳リゾート、ただの田舎とは違うと言うことか。
と感動していたのは私だけ……そうですか、諸星さんも感動しているんですね。元王様たちは……そうですか、綺麗だとは思うが、自然は飽きるほど見ていると仰ってくださるのですね。ええ、きっとそうだと思いましたよ。
それで大悟君はどうなのかな? もの凄く綺麗で感動している。そっかぁ、だったら連れてきた甲斐があったと言うことになるわね。偉そうに言うな……立木さんすみません。はい、私は割り込んだ立場なんですよね。
「せっかくエクシブ君が案内してくれると言ったんですよ。だったら、始まりの世界に遊びに行けば良かったのではありませんか?」
遊びに行くのだったら、喜んでついて行きますよ。勿論、それが普通の遊びと言うのならです。でもですよ。洞窟とか迷宮って……普通の人には命がけの冒険になるんです。私のような温室育ち……そこっ笑わないようにっ! 温室育ちの女性には難しいと思うんです、はい。
「小谷さんが将来国会議員を目指すのであれば、行動力が必要だと思うんです。まあどこまで行っても、本人の問題なんですけどね」
ええっと、ひょっとして諦めていたりしませんか。諦められるようなことをしたのか、その自覚があるのかと聞いてくださりますか。ええっとですね、明日から本気を出すのではいけないでしょうか。ええっと、明日はまだ上高地でしたね。でしたら、帰ったら本気を出すと言うことで宜しくお願いします。
あの、初めましてフルグラと申します。ところで、どうして『美味しそう』と言う話になるのですか? いえ、食べたことはありますよ。甘くて美味しかったのは確かですけど。
それから、その『美味しそう』に良からぬものを感じてしまったんです。私の気のせい、気のせいなんですね。いえ、こちらの殿方って、金髪碧眼の美少女に弱いと参考文献で見せて貰ったんです。そうですか、気のせいなんですね。でしたら安心させていただきます。
それでですね、予定通り……違いますね、予想通り立木様の懐に入り込むことが出来ました。本音が出たのですか? 何を仰ってるのかよくわからないのですけど。
敬虔なエンビジョン信徒だった私ですから、神に仕えるのは至上の喜びなのです。なぜ過去形なのか、ですか。それでしたら、答えは簡単だと思います。エンビジョンなんですけど……呼び捨てにして良いのかと聞いてくださいますか? でも、神として下っ端ですよね。普通の……普通と言うのには疑問があるのですけど、普通の人である立木様に相手にされていないんです。色仕掛けをしているみたいですけど、本当に相手にされていないんです。そんな破廉恥な女神様を、尊敬できると思いますか。思いませんよね、思わないから信徒であるのを辞めたんです。
それにですね、立木様のお屋敷……狭いと言って良いですか? ただお屋敷自体は狭いのですけど、なんです、この快適な空間は。自由に使って良いと言われた部屋なのですけど、水ではなくお湯が出るお風呂があるんですよ。しかもトイレまであるって、世界が違うと思わせていただきました。しかもですよ、エンビジョンより遙かに高位なフローリアン様、パナメーラ様までおいでになるんです。もうですね、夢みたいな環境と言っていいと思うんです。
ただですね、それでも不満があったりするんですよ。こちらの世界に残して頂いたのは感謝していますよ。ですが、立木様の御世話係にはして頂けなかったんです。その代わり、学校に行けと言うのは何なのですか? これでも成人を迎えた大人の女性なのですよ……こちらでは、16歳は子供と言ってくださいますか。
いえ、私としては大人だと思っているんです。それに、こちらの男性は金髪碧眼の美少女が好物と聞いているんです。だとしたらですね……そちらの金髪の女性はどなたなのですか? そうですか、クロア様、アリッサ様と仰るのですね。戦力差を理解しましたので、見せつけるように胸を張らないで欲しいんですけど。
それはそうと、お二人からただならない神性を感じるのですけど。そうですか、上から2番目に偉い神様なのですね。ところでセレス様とどちらが……セレス様がお二人のお母様なのですか。はい、お二人の言葉は神の言葉。ですので、信心深い私ですから疑ったりなんかいたしません。
文句は言いましたけど、学校って良いですよね。大勢の方が集まって、先生から色々なことを教えていただくんです。ただ悲しいのは、理解が全く追いついてくれないんです。数学って何ですか? 英語って、全然理解出来ないんですけど。理科って……ちんぷんかんぷんなんです。
そんな事情もあってですね。大悟さんの御世話になりっぱなしなんです。家に帰っても、ですね。大悟さんの部屋でお勉強を教えて貰っているんですよ。ところで大悟さん、耳の長い女性の姿がチラチラと見えるんですけど。ひょっとして、妖精族の女性だったりしますか? 私たちの世界では、妖精族って人を見下していたんです。確かに綺麗な姿をしていますけど、年齢はおばあさまよりも上だったりするんです。いえ、だからどうしたとは申しませんけど。
ところで、旅行と言うのはどう言うことでしょうか。旅と言うのは、冒険に行くと言うことですか? 違う、ただの遊びだと仰ってくださるのですね。やはり立木様は、お貴族様なのでしょうか。そうですか、優しいおじさんだと言ってくださるのですね。大悟さんは、お子様と言うことは無いのですね?
「お姉ちゃんを応援するために、本当の子供にならないことにしているんだ」
そうですか。養子になることは誘われておいでなのですね。つまり大悟さんには見所があると言うことなのですね。いえ、別に含むところなどありませんよ。私は、敬虔な信徒……どなたのと聞かないように。敢えてお答えするのなら、セレス様と申し上げておきます。
それでですね、旅行と言うものに連れてきて頂きました。上高地と言う場所で、とても自然が綺麗な場所なのだそうです。ただですね、私にしてみれば『日常』の世界に近かったりするんです。いえ、雪を抱いた山々は綺麗だと思いますよ。それに、町や道路も整備されていますので、あちらの世界との違いは理解しているつもりです。
それでもやっぱり、感動からはほど遠いと思うんです。
宿……綺麗なところだと思いますよ。その宿に荷物を預けて、川沿いを散策するのですか。でも、こんなところを歩いて、魔獣とか襲ってきませんか? 熊、熊はおっかないですけど、魔獣の方がもっとおっかないんですよ。
ところであそこで戯れいているのは、小鬼と言うことはありませんよね?
「あれは、ニホンザルって言うんだ」
そうですか、あれはお猿さんなんですね。小猿を抱いているところなんて、可愛らしいと言っても良いと思います。
それはそうと、足下が少し危ないと思います。ですので大悟さん、腕に捕まっても良いですか?
はい、ありがとうございます。お陰で、安心して歩けるようになりました。ところでですけど、前の方に沢山人が集まっていますね。あれはなんなのですか? そうですか、大悟さんにもわからないのですね。大勢人がいて怖いので、もう少し捕まっていても良いですか?
「どうやら、俺たちが目当てみたいだな」
どうして、私たちが目当てになるんですか? そうですか、これからわかると言ってくださるのですね。立木さんが、知らないお年寄りとお話をされていますね。それで……イセッタさんがやる気満々になっているんですけど。これから何が起こるのでしょうか……
ちょっと記憶が飛んでいたようです。いえ、なにかとっても恐ろしいものを見た記憶が朧気にあるんです。でも、それが何だったのかを思い出すことが出来ないんです。気のせいだと思うんですけど、なぜか下半身が生暖かったりするんです。それから大悟さん、もう少し支えて貰って宜しいでしょうか? まだ恐怖が収まらないので、ぎゅっとして貰えたりすると嬉しいんですけど。
それで、一体何が起きたのでしょうか。あちらを見て見ろ……あちらを見れば良いんですか、あちらを……
すみません、また少し記憶が飛んでしまいました。ですので大悟さん、もう少し力を込めて抱きしめて頂けるでしょうか。はい、身体が震えが止まらないんです。大丈夫、怖くはないんですね。そのですね、もう一度『大丈夫』と耳元で囁いて頂けるでしょうか。
ありがとうございます。これで、少しは安心できたと思います。ただですね、また気を失うかも知れませんので、もう少し抱きしめて頂けるでしょうか。
それはそうと、あれはドラゴンで良いのでしょうか? ドラゴンと言えば、私たちの世界では恐怖の象徴なんです。多くの冒険者の方々が挑んでいるのですけど、伝説ぐらいでしか討伐された話がなかったりするんです。
そうですか、ドラゴンで間違っていないのですね。それから、あれがイセッタさんなんですか。あっ、本当にイセッタさんに戻ってくれましたね。でもどうして人の姿を取っているんですか?
「あの格好を長く続けると、もの凄くお腹が空くらしいんだ。そしてもの凄くお腹が空くと、人間を食べたりするんだ」
そうですか、お腹が空くと人間を食べるのですね。大悟さん、今から気を失いますのでしっかりと抱き留めておいてくださいね。
はい、岩魚の塩焼きは美味しかったと思います。それからラズライティシア様、替えの下着をありがとうございました。大悟さんが困っていた……そうですか、大悟さんに恥ずかしいところを見られたのですね。でしたら、責任を迫っても良いのでしょうか?
「好きにすれば良いのでは無いか? それ以前に、しっかりと迫っておったと思うのだがな」
それは気のせいと申し上げておきます。これでも身持ちの堅い神官だったんですよ。はい、自分を安売りなど絶対にいたしません。それから、売り時を間違えたりもしませんので悪しからず。
どうしてイセッタを指定したのかと思ったんだけど、これが目的だったんだね。ああ、竜と言うのは神として崇め奉られているのは知っていたんだ。知っていても、現実と中々結びついてくれなかったんですよ。
そうですか、これに協力するから宿の方も無理を聞いて貰えたんですね。いえいえ、イセッタも張り切っていたから問題はないと思いますよ。練習した変身ポーズって、中々使い処がなかったりするんですよ。
それで、これからどうするんです。歩いて宿に戻る。そうですか、たまには散策も良いですね。それに、紅葉が結構綺麗だと思いますから。はい、集落でも見られると言うのは禁句なんですよね。
でも同じ山だと思っていたんですけど、かなり違うものなんですね。あの谷みたいになっている部分、岳沢と言うんですね。ええ、とっても綺麗だと思うんですよ。水もたっぷり流れていて、ああっ、綺麗だなぁって思えるんです。意外にですね、あちらの川って汚れていたりするんですよ。
しかし、観光客が沢山いますよね。しかもその沢山の観光客、俺たちを見つけたらスマホを向けてくれるし。まあ、有名税だと思って諦めるしかないのでしょうね。
ところでギャラン様、何か食べたいものがあるのですか?
「うむ、あの白くて渦巻きを作っているものに興味がある」
白くて渦巻き……ひょっとしてソフトクリームのことを言っているのかな。そうか、だったら買ってくれば……行列だな。行列が出来ているよ。仕方が無い、強制力を使って……ごめんなさい、そう言うズルはしませんから。
と言うことで、大人しく行列に並びました。それから大悟君、二人には1つで良いのかな? 大人として恥ずかしいことを言っている自覚はあるのか? いや、改めて指摘しないでくれるかな。うん、指摘されたら思いっきり恥ずかしくなったんだよ。
そう言うことで、全員に行き渡ったかな。それはそうと、小谷さん、どうかしたのかな?
「どうして、私の分が無いんですか?」
小谷さん、小谷さんだったら自分で並べるよね。それが答えになるんだけど。だって立木さん、ラズライティシア様も自分で並んだんだよ。俺、小谷さんに頼まれていないからね。
「仕方がありませんね。小谷さんには、私の分を差し上げますよ」
立木さん、甘いと言って良いですか。そうですか、無駄なことに時間を使うつもりはないと仰るのですね。それで立木さんはどうするんです? いえ、愚問でしたね、はいはい、ラズライティシア様と仲良くしてください。
それからお土産売り場の2階に上がって、団体様席でお昼ご飯を頂きました。うん、山賊焼きで良いのかな、食べ応えがあって良かったと思うよ。それに香ばしい香りが食欲を誘ってくれたしね。ただ、ここで食べ過ぎると夕食の楽しみが……と言う心配は要らなそうだね。ただギャラン様、元国王様だと思うと、その食べ方ははしたないと思うんですよ。
「うまいものを味わい尽くすのは礼儀だと思っているっ!」
いえ、そんなところで気張らないで欲しいんですけど。この後、5時間もしたら別の美味しい料理も味わえるんですよ。胃袋の方を……と言う心配は要らなそうですね。
「うむ、この後狩りに行こうかと思っておるのだ」
ちなみに、上高地では無許可の狩猟は禁止されているんです。例え熊が出たとしても、追い返す以上のことは出来ませんからね。
ですから、そこであからさまにがっかりしないで欲しいんですよ。腹ごなしをしたかったら、先ほど行った場所より先に山があるので登ってきたらどうですか?
「ならば、そうさせて貰うことにする」
繰り返しますけど、動物を狩るのは禁止です。それ以前に、生えている草花を採取するのも禁止ですからね。
「美しい女性を口説くのは禁止事項になるのか?」
ひょっとしてナンパするつもりですか。いえ、そちらは駄目とは言いませんよ。駄目とは言いませんけど、面倒を持ってこないことを条件とします。面倒を持ってきたら、ですか。立木さんにお願いをして、お仕置きをして貰うことにしますからね。ええ、邪神が泣いて謝ったと言うあれをして貰います。
そうですか、理解をして頂けたんですね。ええ、俺も厳しいことは言いたくないんです。もう少しこちらの習慣を理解してからなら、いちいちうるさいことを言わないと思います。
大人しく聞き分けてくれたのか、ギャラン様のお出かけはなくなりました。その代わりなんですけど、薪割りなんかで汗を流すことになりました。それは良いんだけど、上半身裸になる必要ってあるんですか。薪割りをすると汗を掻くことになる。だから、上半身裸になったと言ってくれるんですね。
一つ疑問なのは、女性の視線を集めていたのは偶然なのでしょうか。そんなことは意識していない。ただ腹ごなしに薪割りをしただけと言ってくださいますか。その割に、胸の大きな女性を選んで記念写真を撮っていましたよね。そうですか、ギャラン様からの連絡手段を持っていないと仰るのですね。
一つ伺いますが、ギャラン様の好みは胸の大きい女性ですか。そうですか、胸の大きさがそのまま魅力になると言ってくださるのですね。
「勿論、容姿を無視する訳ではないのだぞ」
そうですか、最後の決め手が胸だというわけですね。いえ、軽蔑なんかしませんよ。俺だって、似たようなものですからね。それからフルグラさん、君はこれからの女性だからね。
それで今夜の宿にチェックイン。普通に綺麗な宿なんだけど、今までに比べると質素と言って良いかな。だって部屋には、テレビもなかったりするんだ。上高地の環境を楽しむには良いんだけど、ちょっと寂しいかなと思ってしまうんだよ。だったら、ロビーに来れば良いんだけどね。
綺麗なお湯に浸かってから、レストランに全員集合。ここで教授連が加わってくれました。そうですね、お久しぶりと言わせていただきます。立木さんなんですけど、しばらく出歩く……連絡が着かなくなることはないと思いますよ。
それで、飲み物は? この赤いリストバンドを着けていれば、冷蔵庫のお酒は飲み放題なんですか。い、良いんですか、この人たちの酒量は並じゃないんですけど。それが飲み放題の醍醐味。時間制限があるので、頑張っても冷蔵庫は空にならないとまで言ってくれますか。だったら良いんですけど、じゃあ乾杯の発声をって……もう始めているんですね。
と言うことで、地ビールがうめぇっ! って言っても良いですよね。ほら、ギャラン様も瓶からラッパ飲みなんかしていますよ。それからフルグラさん、君はこちらでは未成年なんだからね。だから大悟君と二人、大人しくソフトドリンクでも飲んでいてくれるかな。
それはそうとして、ビュッフェでも料理の質が高いんですね。ええ、薪火料理ですか、とっても美味しいと思います。はい、野菜を焼いたのが美味しいって、地味に凄いと思うんですよ。ギャラン様の食いっぷり、飲みっぷりを見ても選択は成功だと思いますよ。
それから小谷さん、今日は冷凍マグロにはなれないと思うよ。うん、時間制限があるからね。甘い、甘いと言ってくれるのか? なんでと聞いても良いよな。
「部屋用のお酒とおつまみが買ってあるんです」
そうか、そこまで準備がしてあるんだな。だったらだな、大悟君ちょっとお願いをしても良いかな?
「ここって、冷凍マグロ置き場がありましたっけ?」
部屋飲みだから、布団に放り込んでくれればいいと思うんだ。その後、その後かぁ……君たちが中学生と言うのを忘れなければ、多少のことなら大目に見てもいいかなぁぐらいだな。大悟君なら大丈夫と俺は信じているからね。
それからフルグラさん、抗議は受け付けないので悪しからず。
そして翌朝なんだけど、間違いは起きなかったそうだよ。その代わり、フルグラさんが立木さんの部屋で寝ることになったそうだ。うん、部屋中酒臭くて眠れそうにないのが理由なんだって。しかし小谷さん、最近酒量が増えていないか?
それで本山先生の姿が見当たらないんだけど。年寄らしく朝の散歩って、そんなことを言っても良いんですか?
「大正池まで行ってくるそうですよ。朝靄に浮かぶ大正池を見て見たいとかなんとか」
そうですか、ちょっと趣深そうって……もう時間的には手遅れなんですね。残念だな、間に合うのなら転移でちょちょっと行ってこようと思ったのに。
「それなのだが、中々幻想的だったと言わせて貰おう」
ひょっとして、ラズライティシア様は行ってきたのですか。そうか、大悟君とフルグラさんも連れて行って貰ったんだね。だったら小谷さんは、誘いに行ったけどイビキを掻いて寝ていたのか。当たり前だけど、その辺りが小谷さんなんだね。
「もしもし、私のことを噂にしていました?」
小谷さんおはよう。ちょっとね、朝の散歩のことを話していたんだよ。それから朝食は、本山先生が戻ってきたところで始めるからね。
それで、今日の予定はどうなっているんですか?
「自然の景色だと、ギャラン様が退屈されると思います。ですので、ちょっと都会に足を伸ばしてみようと思っているんですよ」
都会、ですか。確かに、田舎の景色は見飽きていますよね。それで都会なんですけど、どちらまで行く予定なんですか?
「それなんだが、俺の案内で京都を回ることにした」
そうですか、今日は京都観光をするんですね。はい、移動に時間が掛かりませんからね。秋の京都なんて、素敵だと思いますよ。なるほど、紅葉からは離れるんですね。自然ではなく、建物を見ようと言うことですか。だったら、東京とか大阪の方が良くありませんでしたか?
いえ、ちょっと言ってみたかっただけです。ですので、そんな目で見ないで頂けたらなぁって言わせていただきます。
はい大悟です。野球とかしていませんし、背もそこそこ高かったりする大悟です。意味がわからない、大した意味は無いから気にしなくても良いんですよ。
それで俺、立木さんに連れられて上高地なんか来ています。名前ぐらいは知っていたんですけど、上高地に来るのは初めてなんです。尤も、両親が生きている時でも、あまり旅行に行っていなかったんですけどね。
それで上高地なんですけど、もの凄く綺麗だと思います。空気の清冽さが凄いって、上里集落でも似たようなものだと思ったんですよ。でもこっちって、車の数が圧倒的に少ないんですよね。しかも標高が高いから、また空気の味が違っていたんです。それから見える景色、川とか橋とか山の裾野が広がる景色とか、絵に描いたような景色だと思ってしまいました。
だからと言うことも無いんですけど、立木さんに感謝しているんです。あのまま立木さんと知り合わなければ、俺って最底辺の暮らしをしていたと思うんです。こんな贅沢な旅行……そうですか、今回は杏香の方が贅沢なんですね。いえいえ、俺にはこれでも十分に贅沢だと思えるんです。ただ残念なのは、モコさんがお留守番と言うことかな。
ええっと、どうかしましたかフルグラさん。フルグラさんだったら、いつも学校……だけじゃなくて勉強も教えていますよね。ああ、あれはニホンザルですよ。小鬼……ひょっとして、立木さんのビデオに出ていた奴かな。はい、それとは違った野生の動物です。気をつけていれば、ちょっかいを掛けられることはないそうですよ。
ああ、足下が悪いんですね。腕に捕まっても良いか、ですか。まあ、構わないと答えておきます。大きな声では言えないんだけど、感触的にはモコさんと同じかな。いえ、何がとは言いませんよ。
それからそれなりに歩いたら、人集りに出くわしました。なんでだろうなと思ったら、立木さんが年配の方……立木さんもしっかり年配なんだけど。その年配の人と話をしていました。それで、イセッタさんがやる気になっているんだけど。
それで、どう言うことなんですか? なるほど、便宜を図って貰ったお礼をするんですね。はいはい、竜って日本だと神様の扱いと言うのは知っています。ここも同じ、船の舳先に竜が付いている。あの船、確かに竜の彫り物が付いていますね。
おおっ、変身ポーズが見事に決まりましたね。はい、見物をしている方たちも、やんややんやの喝采を送ってくれてます。ところで立木さん、どうかしたんですか? 腕を見て見ろ、腕……なんでフルグラさんが失神しているんだ?
ギャラン陛下、そうですか、ドラゴンと言うのは恐怖の代名詞なんですね。それは理解したんですけど、剣がないって残念がらないでください。あれは、イセッタさんなんですからね。殺し合いなんかしちゃいけませんよ。それからですね、もっと小さなコローラルさんなんですけど、バフを掛けないエクシブさんと互角だったそうですよ。ですので、やめておいた方が無難だと言っておきます。
ええっと、フルグラさんが気絶したままだったな。しかし、思ったより軽いと言っちゃいけないかな。それから足下は見ないことにしておきます。陛下が言ったとおりなら、仕方が無いことなんだよな、そうだよなと思っておくことにします。
だからフルグラさん、フルグラさん。ああ、気がついたかな。そうか、恐ろしいものを見た気がしたと言うんだね。ああ、震えているのは感じているよ。そうか、ぎゅっと抱きしめれば良いんだね。怖い物は怖いから、仕方が無いよな。
それで何が起きたのか、かな。ちらりで良いんだけど、ちょっと後ろを見てくれるかな。あっ、また失神した。でも、今度は出るものがなくなったみたいだな。
うん、怖かったよな。本気で怖がっているのは、足下を見れば理解出来るよ。だから、そうか、ぎゅっと抱きしめれば良いんだな。もっと力を込めて……なんか感動って言って良いかな。湿っぽいのは気にしないことにしておくから。
それから、あれはイセッタさんだからね。ほら、人間の姿に戻っただろう。どうして人の姿をしているのか、かい。それなんだけど、以前イセッタさんたちが襲ってきたことがあるんだ。その時なんだけど、人間の躍り食いをしてくれたんだよ。どうやら、あの格好を長く続けると、もの凄くお腹が空くようなんだよ。それで、人間の躍り食いをしたんだ。ええっと、もう一度気絶をするんだね。予告して気絶するのもどうかと思うけど、ちゃんと抱き留めておくよ。
それから、それからねぇ。シア母さんが下着を入手してきてくれました。ありがとうシア母さん。流石にあのまま、ホテルまで連れて行けないよな。
ちょっと腹ごしらえで、岩魚の塩焼きを食べました。意外に集落では、こう言ったのを食べてないんだよな。バーベキューでも食べていませんよね。そうですか、今度チャレンジしてみるんですね。
フルグラさんどうかしたのかな? 迷惑を掛けてごめんなさい……いや、別に気にしていないよ。だってフルグラさん、初めてドラゴンを間近で見たんだよな。だったら、気絶をしてもおかしくないと思うんだ。それに、頼られて嬉しかったりしたんだ。
シア母さん、なんか悪い顔をしていますよ。俺、何かしちゃいましたか?
それから、川の反対側を通って河童橋まで戻りました。それは良いんだけど、どこにでも猿がいるんですね。そうですか、たまに熊も出てくれるんですね。怖いかって……怖いはずなんですけど、なぜか怖くなかったりするんですよ。たぶんですけど、さっき見たイセッタさんが影響していると思います。
だからフルグラさん、怖がらなくても良いんだからね。これは心の声なんだけど、もう少しボリュームがあると嬉しいんだけどなぁ。間違いなく、杏香の方が大きいと思うんだ。
結局熊に遭遇することもなく、河童橋まで戻りました。だけど、本当に人が多いんですね。しかも、思いっきり多国籍になっているし。
ソフトクリームですか? はい、美味しそうだと思います。そうか、フルグラさんは食べたことないんだね。まあ、異世界にソフトクリームがある方が不思議なんだよな。それで、行列に並べば良いんですか? そんな、諸星さんを並ばせるなんて、申し訳ないと言えば良いのか。
まっかせなぁさぁい!
あっ、久しぶりに聞いた気がする。諸星さん、随分と機嫌が良いんですね。いえ、ソフトクリームは2つお願いします。冷やかしているつもりなんでしょうけど、俺には効きませんから。それ以前に、大人として恥ずかしくありませんか?
それで全員……どうして小谷さんが甘えているんです? ちゃんと立木さんも、行列に並んでいましたよ。なんだかなぁ、最近小谷さんの駄目なところばかり見てる気がするよ。多分だけど……違うか、間違いなく今夜も冷凍マグロになりますよね。
結局立木さんが、自分の買ったソフトクリームを小谷さんに。それで立木さん、それって流石に恥ずかしくありませんか? 開き直った老人は最強……そうやって開き直ってくれるんですね。あっ、開き直ったって言ってたんだ。
一応プラスプーンを使うんですね。てっきり、二人でなめっこするのかと思っちゃいました。それが出来るのは10代ぐらい。やりませんよ、恥ずかしいですし相手がいませんから。
ソフトクリームを食べたら、お土産物売り場の二階の食堂へ。いつも思うんだけど、研究所の人たちって食べてばかりだよな。なんです、異世界の人たちは食べられる時に食べておくと言うのは。そうですか、1日2回食べられることは滅多にないと言うんですね。それが出来るのは王族ぐらい……ギャラン陛下とエリーカ殿下って、確か王族でしたよね。
フルグラさんは……神官は質素な暮らしをしている。だから、一度の食事もとても粗末……質素なものになっているんだね。なるほど、だからかぁ。いや、何のこととか言わないからね。大丈夫、確かめなくてもわかってるから。
それでホテル……ロッジなんですね。綺麗なんだけど、殺風景と言えば良いのか。こんな小さなテレビって、川崎の時以来だと思います。そうですか、他の部屋にはテレビが付いていないんですね。そうですね、これだったらない方がすっきりすると思います。でも、やっぱり殺風景な気がしますね。
それで、これから……食事前にお風呂に入るんですね。一つ教えてください、やっぱりここも温泉なんですか? 違う、単なる沸かし湯の大浴場なんですね。意外と言っても良いですか? それから立木さん、背中を流させて貰っていいですか? いえ、どうして涙ぐんでるんです!
「いえ、息子に背中を流して貰った記憶が無いんです。だから、嬉しいなぁって感激してしまったんです」
おおい北斗さぁん、北斗さんのお父さんがこんなことを言っていますよ。だからたまには、背中なんか流してあげたらどうですかぁ~って聞こえないか。
いえ、ここにいない人のことを持ち出しても仕方がありませんね。それから、俺も杏香も喜んでお背中を流しますよ。流石に杏香は問題……小学6年生とお風呂に入ったら、世間から後ろ指を指されてしまうと言うんですね。だったら、二十歳過ぎの女性だとどうなるんでしょう。はい、お姉ちゃんのことを言っています。お姉ちゃんだったら、頼んだら……頼まなくても押しかけてきそうな気がしますね。
「家族風呂はないのか?」
家族風呂……ですか。そうですか、家族風呂はなかったんですね。ちょっと安心しました。いえ、この歳になると、女の人とお風呂に入るのは恥ずかしいんですよ。シア母さんと入ったら、のぼせて倒れてしまいそうな気がします。
「ならば、フルグラだったらどうだ?」
どうしてそこでフルグラさんが? いえ、一応気づいていますよ。ええ、かなりあからさまでしたから。でもですよ、俺ってモコさんと付き合っていたりするんです。フルグラさんも綺麗だと思いますけど、胸の大きさはどっこいどっこいなんですよ。それから、どこまで本気なのかわからないって気もしたんです。
ところでハイエルフは別枠……別枠ってなんですか? はい、一応わかってて言ってます。ただ俺、まだまだ未熟と言えば良いのか。もっともっと勉強しないといけないと思っているんです。はい、フルグラさんは可愛いと思いますよ。でも、なんか違う気がするんですよ。
「なるほど、女性関係を勉強すると言うのだな?」
なぜ、曲解してくれるんですか? 何度も言っていますよね、俺、武見さんに憧れてるんです。だから、勉強と言うのは研究者になるための勉強なんです。はい、もの凄く長い道のり……険しい道のりですか。いずれにしても、努力が必要と言うのはわかってるつもりです。
上高地、今年は行けなかったな。このお宿、11月14日に開いているのは確認したんだ。だけど、すでに温泉旅行の予定は入っているし。ああ、薪火料理とビールの飲み放題がぁ




