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始まりの世界から

村の特産は異世界です


・始まりの世界から


 10月に入ると、上里集落はめっきり秋の気配を強くしてくれる。秋、芸術の秋、読書の秋、スポーツの秋のように、秋は気候も良くて様々なアクティビティに格好の季節と言って良いだろう。だがこと上里集落、つまりIMO研究所では、秋と言えば『食欲の秋』一択となる。

 なんだ、昨年も同じようなことを聞いたと言うのは。ああ、気のせいじゃないと言ってやろう。何しろ食欲と言うのは、IMO研究所の特徴でもあるのだからな。だから毎年、『食欲の秋』になるのは当たり前のことなのだぁっ!


 と言う具合で、俺はいささかハイ状態になっている。理由、理由はと聞いてくれるのか。それはだな、ここ1週間ちょっとのことだが、もの凄く忙しくなってくれたんだよ、俺以外はなんだけど。何しろ立木さんがゲートの向こうに行った翌日から、面会依頼がひっきりなしに来ているんだ。しかも今まではコンタクトもしてこなかったEU関係から、これでもかと言う程面会依頼が来ているんだ。不在になった途端これって、どんだけ恐れられていたんだ、立木さんはっ!


「裏を返せば、それだけ諸星さんが扱いやすいと思われていると言うことですね」


 うん、それ知ってた。でもね小谷さん、知ってたけど面と向かって言われると堪えるんだよ。だからさぁ、もう少し手心を加えてくれても良いんじゃないのかな。


「でも立木さん、こうも言っていましたよ。諸星さん、結構邪悪になってきてるって」


 いや、俺って少しも邪悪じゃないから。そこんところ、間違えないで欲しいんだけどな。それはそうと、俺が扱いやすくても、俺の周りにいる人間が扱いやすいと思って欲しくないんだよ。うん、友池さんとか藤康さんのことを言ってるんだ。特に藤康さんなんだけど、なんか色々と怨念が篭もっているんだよね。なんです、身勝手な規制で悩まされたって……そうですか、藤康さんもあちらに怨念があるんですね。


「それを否定するつもりはありません。ただそれを忘れても、目的も明確にしない面会要請を相手にしないことにしています。そんなものに付き合っていたら、時間が幾らあっても足りないことになるんです」


 この期に及んで、そんな巫山戯た面会要請をしてくるんですか。はっきり言って、こちらのことを舐めていませんか? 舐めているわけじゃなくて、万策尽きたのが理由なんですか? ひょっとして、必殺技土下座をしようとか言うことですか?


「それこそ、時間の無駄としか言いようが有りません。諸星さんの貴重な時間を、意味の無い面会に使うのは無駄の極地です!」


 いえね藤康さん、俺って結構暇なんかしていたりするんですよ。なので、『貴重な時間』なんて言われると、間接的に馬鹿にされている気がしてしまうんです。勿論、藤康さんに悪気がないのは承知していますよ。


「では、少しだけ言い方を変えることにします。諸星さんが鼻くそをほじっている時間よりも価値のないことに時間を使うつもりはありません」


 ええっと、見ていたんですか? いやいや、流石に鼻くそをほじるのと比べるのは可哀想じゃありませんか。少しも可哀想じゃない、今更ただの謝罪に意味が無いと仰ってくれるのですね。鼻くそをほじるのには意味があると仰ってくれますか。一体どんな意味があるんでしょうね。

 それそうと、どんな用件だったら面会が叶うことになるんでしょうか?


「諸星さんとの面会が、IMO研究所の利益に繋がるのかと言うことです。それが満たされない以上、面会することに意味を見いだすことは出来ません。それに加えて言うと、特区の利益に繋がるのか、日本の利益に繋がるのか、5カ国の利益に繋がるのかと言う観点が必要になります」


 それって、賠償金を持ってこいと言うことですか? そうですか、違うんですか。だったら、利益ってどう言う意味で言っていますか?


「確かに、金銭的利益と言うのも必要なことは認めます。ですが、謝罪で持ち出すには最低限にも届いていないんです。ですので、利益と言うのは、どのような価値を創造してくれるのかと言うことになります。そもそも魔法都市特区は、魔法に纏わる様々な挑戦を行う場として構築されています。そして挑戦には、アイディアと言うものが必要になります。それ以外にも必要なものが有るのですが、それを考えてくれることに大きな意味があるのですよ。ちなみに魔法都市特区が集めた資金は、すでに東京都の年間予算を超えています。独立国家と比較をすると、スウェーデンやスイスを超えているんです。ちなみにこれは、民間への投資を除外した金額です」


 え、ええっと、あの狭いエリアに東京都を超えるお金が集まってるの? 今回のエリアって、人口って10万人にも届いていないよね。そこに100倍の人が住む東京並みのお金が集まってるって……ごくり


「欲しいのがお金ではないと言う意味、ご理解いただけましたか?」


 それが見えないから、面会はすべて断っていると言うのですね。ただ会見とかで、『コンタクトがないから』なんて言ってきましたよね。だとしたら、次は『断ってるのはそっちだろう』って言われませんか?


「それならそれで、時間は有限だと突っぱねれば良いだけです。諸星さんに対して、どれだけ面会依頼が来ているのか。それを考えれば、意味の無い面会に時間など使っていられません」


 でもですよ、結果的に俺って誰とも話をしていませんよね。時間が有限と言うのは間違ってはいませんよ。でも、俺が誰とも面会をしていないんです。だとしたら、理由として弱すぎると思いませんか?


「いえ、ちっとも、と言うのは半分冗談ですが。諸星さんへの面会依頼は、我々が第一段階でスクリーニングを掛けています。そこの話で会う価値があると判断すれば、次は諸星さんへの面通しになるわけです。ただ、これまでの所、会うだけの価値がある面会依頼はありませんでした」


 つまり、IMO研究所としては会っていると言うのですね。正確には、特区として会っているんですか。菅谷総理が襲われたのは、特区開設の式典だからと言ってくれますか。いえ、それを否定するつもりはありませんよ。無いんですけど、それで良いのかなぁって疑問に感じてしまっただけです。


「裏では、友池氏たちが動いていますよ。ですので、ただ突っぱねるだけではないと言うことです。ただ聞いた話だと、余り芳しくはないようですね。どう言うことか、ですか。どうやら、ちゃんと議論をして持ってきていないと言うことです。つまり、官僚とかに見捨てられている……からなのでしょう」


 そうですか、だとしたら本当に会う意味が無いんですね。だとしたら、EU関係はどうすればいいんですか?


「アリシア首相経由、さも無ければプルシチノフ大統領経由で話がくるまで待てば良いと思われます」


 つまり、その両国の顔を立てようと言うことですか。でも、国連総会とかあったりしますよね。そこで、EUが各国に工作とかしませんか?


「そこまでEUシンパがいるとお思いですか?」


 いるとは思っていませんけど、でも、歴史のある国っておかしなところで強かったりしますよね。後は逆張り……とは違うのかも知れませんが、EUの味方をすることで利益を得ようと考える国があったりしませんか?


「どこまで立木がわかっているのかと言う疑問はあるのですが……要求がシンプルなだけに、手を貸しにくい事情があるんです。おかしいな、あいつはそこまで切れ者じゃなかったと思うんだが。いや、今は事実を事実として認める時か」


 立木さんのことは忘れるとして……いえ、拘っても答えなんか出ませんからね。それで、要求がシンプルだと工作がしにくいのですか?


「ええ、しにくいですね。そしてシンプルにしてわかりにくいと言うのが問題なんです。つまり、メリットと言う言葉が落とし穴になっているんです」


 それって、さっき言っていた『価値』のことを言っていますか? そしてお金は、現時点では価値と言うことは出来ないんですね。価値をメリットに読み替える……それって、新しい提案を持ってこいと言うことですか?


「そう言うことです。IMO研究所は、今はお金ではなく知恵を求めているのではありませんか?」


 仰るとおり、魔法の活用方法を求めています。そうか、面会を求めてくるところは、自分の立場とか金銭的なメリットしか考えていないと言うことですか。


「人類の進歩に貢献しない、するつもりのない面会は断っていると言うことです」


 流石は藤康さんですね。いや、そこで苦笑を浮かべないでください。藤康さんが何を言いたいのか、一応わかっているつもりなんですからね。藤康さん、仕組んだのは立木さんって言いたいんですよね。


「そう言うことです。ただ言い訳をさせて貰うのなら、私も同じ考えをしていると言うことです。ですので、今はとても気分が爽快なんですよ。自分の思い描いた、そしてそれ以上の未来に向かって仕事をすることができる。ここまで苦労をしてきた……ちなみにこれは立木には内緒です……苦労をしてきた甲斐があったと思っているんです」


 そうですか、藤康さんも喜んでくださっているのですね。でしたら、俺からは何も言うことはありません。違いますね、引き続き宜しくお願いしますと言わせていただきます。


「それはそれとして、一つ質問があるのですが宜しいですか?」


 藤康さんが俺に質問、ですか? なんか、怖いと言っても良いですか? そうですか、自分の専門外のことと言ってくださるんですね。だとしたら、俺に聞くようなことがあるんですか?


「特区として、まだ立木を失うわけには行かないのです。それを考えると、今回、始まりの世界でしたか。なぜ立木を派遣したのかと疑問に感じてしまったのです。勿論、立木が何の勝算も無く出向くとは考えていません。それでも、手の内が見えないので不安を感じてしまうと言うことです」


 なるほど、そう言うことですか。まず最初の、なぜ立木さんなのかと言うことですが。立木さん、今回のこと、ええ、俺に対する面会依頼が殺到することです。それを予測していたようなんです。どう言うことかと言うと、立木さんがいると面会依頼が来ないからと言うことです。


「つまり、誘いを掛ける意味があったと言うことですか。確かに、立木がいなくなった途端に面会依頼が殺到しましたな。そして、誘われて出てきた愚か者の見極めも出来たかと思います。ただ、それにしても、立木が無事に帰還できなければ元も子もないのですよ」


 それは、俺も十分理解しているつもりですよ。ですので、安全にはかなり気を使ったつもりです。エリシオンさんを行かせたのもそうですけど、アイゴさんを護衛に付けています。それから反則技ですけど、上位神……つまり、クロア、アリッサ、フィオレンティーナ、ヒスイにも監視をさせています。

 それから、出発前に使える魔法の確認をしたんですよ。ええ、したんですけどね。


「魔法の確認をした……何か問題があったのですか? そう言えば、山縣が信じられないものを見たとか言っていた気が……」


 ええ、それに関係することです。山縣さんにも立ち会って貰ったんですけど、立木さんのレパートリーを確認したんですよ。

 実は、御衣黄さんが開発した魔法があるんです。脳からの神経系に割り込みを掛けて、相手の自由を奪うと言う奴です。元々の目的は、御衣黄さんが立木さんを制圧……主に性的なんですけど。それを目指した魔法と言うことです。まあ立木さんですから、まぁったく通用しなかったそうなんですけどね。


「相手の自由を奪う、のですか?」


 ラズライティシア様が言うには、画期的な拘束魔法なのだそうです。それを試した結果、俺とセレス以外は全員身動きが出来なくなりました。ええ、大魔法使いであるラズライティシア様、エリシオンさんも拘束できてしまったんです。開発した御衣黄さんが、その威力に驚いたぐらいなんですよ。

 ちなみにその拘束魔法ですけど、オークとデモンにも通用しました。通用しただけでなく、纏めて100匹拘束してくれました。立木さんが言うには、もっと数が多くてもなんとかなりそうだそうですよ。あっ、こめかみを押さえましたね。ええ、セレスも呆れていたんです。先ほど、セレスには通用しなかったと言いましたよね。実際はですね、本当に短い時間ですがセレスも拘束されたんです。はい、最上位神であるゼッタイシン様がです。


「つまり、立木が行けばすべての戦闘を止められると言うことですか?」


 どれだけの効果範囲があるのかは試していませんけどね。後は、どれだけ人から離れた存在でも効果があるのかもわかっていません。それでも、魔法が通用する相手なら藤康さんの仰るとおりと言うことになります。


「そして立木は、転移魔法が使えると言うことですか。それにエリシオンさん……幾つもの星を滅ぼした大魔法使いでしたな」


 あっ、やっぱり頭痛を感じましたね。それって、俺たちも通った道なんです。しかもですね、闇エルフのアイゴさんがガードなんかしているんです。ですので、不意打ちへも対処可能になっているんですよ。

 後ですね、女神エンビジョン、はい、始まりの世界を統べる女神なんですけどね。その女神も、立木さんに制圧された実績があるんです。たぶんですけど、邪神も制圧できてしまうんじゃありませんか。


「つまり、心配するだけ無駄と言うことですか?」


 流石に無駄とは言いませんよ。何しろ殺し合いをしているところですからね。俺みたいに超越の恩恵がなければ、上から落ちてきた石で死ぬこともあるんです。ハードラック、ええ、運が悪ければ何でも無いところで死ぬこともあるんですよ。

 尤も、その程度のことなら対策していそうな気もするんですけどね。後ですね、何かあったらエンビジョンが飛んできますよ。


「つまり、今のところ何も起きていないと考えれば良いわけですな。おかしい、俺の知っている立木は、普通の人間だったはずなんだがなぁ~」


 それを言うのなら、ですね。最初にお目に掛かった時には、普通の成人病持ちの男性でしたよ。ただちょっと、人脈がバグっていただけ……厨二病も付け加えておいた方が良いかな。

 それはそうと、魔法都市特区の方は順調ですか? 報告書、報告書ですか。ええっと、ですね。報告書を読むのって、得意じゃないんですよね。


「それも、立木の言ったとおりと言うことですか。いやはや、大らかと言って良いのでしょうな」


 大らか、ですか。それって、『何も考えていない』ってことですか? 何事にも動じない……いえ、流石にそれは無理があると思います。だって俺、すぐにパニックになるとみんなに言われているんです。


「それはそうと、せっかくですから報告させていただきますかね。まずは近距離交通、だいたいバスとだいたい鉄道です。運用自体は、非常に順調と言って宜しいかと思います。ハブアンドスポーク方式にしたことで、殆どの移動がゲートを2度超えればすむようになりました。バスの利用率に比べて、ゲートの利用率は一桁多くなっています。加えて言うと、車の利用頻度が下がったと言うデータも出ています。まだ物珍しさがあるのですが、移動のパラダイムシフトが起きたと考えて良いのかと思います」


 そうですか、好評を博しているのですね。だったら良かったと言って良いわけですね。


「そうですな、思った以上の効果が出ていますよ。それからだいたい鉄道の方ですが、こちらの方が更に効果が大きかったと言えます。当たり前ですけど、これまでの大糸線のダイヤでは便利に使うことが出来なかったんです。それがいつ行っても、それこそ深夜でも移動できるようになったわけです。こちらは二桁程度の利用増と言うことになります。もっとも、100倍になっても母数が少ないと言う問題があります」


 ですよね、元々廃線が噂されていた路線ですものね。100倍になっても、たかが知れていると言って良いんですよね。


「それでも國枝の見積もりでは、営業収益が黒字になるようです。何しろ運航にかかる費用が激減し、利用者が二桁程度増えたわけですからね。収益と言う面では、大幅な改善になるわけです。勿論、まだ物珍しさが理由で旅客が増えているのは否定しません」


 ですよねぇ、日本各地……どころか世界中から視察がひっきりなしですもんね。ええっと、視察はお金を取っていない。従って、そちらは収益改善には寄与していないんですか。


「転移ゲートを体験したい観光客が増えていますけどね。後はですな、東京や横浜、そう言えば大宮と千葉とも繋がったのですが、そちらからの移動もかなり多くなっています。余り良いことではないのですが、経由駅として利用している旅客もあるようです」


 それって、余り嬉しいことじゃありませんよね。だって、単なる通過だと特区に利益が落ちませんもん。


「ですので、転居者に対する優遇も考えています。具体的に言うとですな、都内への通勤に対する費用補助と言うものです。少なくとも、住環境の面ではこちらの方が恵まれているんです。教育や娯楽が不足しているので、まだ吸引力としては不足しているのですがね」


 だよなぁ、東京暮らしと比べると、どう考えてもこっちは田舎だから。田舎には田舎の良さはあるんだけど、若い人には物足りないと考えてもおかしくなんだよ。だって立木さんのお子さん、田舎は嫌だと言ってたもん。


「たぶんですが、急いでも意味が無いのでしょうな。物流で人が動くのはわかっているんです。それに伴い、歓楽街やら娯楽が増えることが予想できます。加えて言うと、大学……まだ名前が決まっていませんでしたな。その大学が出来ることで、高収入のインテリ層が増えることになります。また学生も増えますから、新しい町が出来ることになるでしょう。ところで一つ相談があるのですが」


 なんです、その相談と言うのは? 俺に出来ることって、殆どありませんよ。


「もうちょっと若者を釣る餌を用意したいと言うことです。アイカでしたか、特区で彼女の露出を増やすと言うのも一つの方法です。加えて、ハイエルフや翼人の露出を増やすのはどうかと言うことです。D’sエージェンシーでしたか、彼等を巻き込んで若者の住まう街を作ることができないでしょうか」


 特区の目的を考えれば、仰るとおりと言うのは理解出来るんですよ。ただ、魔法都市特区をあまり特別なものにしない方が良くありませんか。立木さんが言っていたのですけど、あまり特殊な環境を作ると、余所への展開が難しくなるんだそうです。いえ、ここで成功しないと、余所への展開と言う話にならないのはわかっているんですけどね。

 そうですか、その恐れがあるのは気づかれていたんですね。ただ東京圏から人を引き剥がすことも必要と言ってくれますか。


「やはり、官庁をこっちに持ってきますか。移動に時間が掛からないのですから、省庁移転の条件は満たせることになります」


 本気で官庁移転をするんだったら、転移ゲートを融通すると立木さんが言っていましたよ。その場合、魔法特区である必要は無いんですよね?


「そうですか、立木がそんなことを言っていましたか。いえ、言っていることに間違いは無いんですよ。それを民間人に言われたとなると……ちょっと自信をなくしてしまったと言うことです。省庁移転に関しては、何度も有識者会議が開かれているんですけどねぇ。やっぱり、本気度が足りていなかったんでしょうな」


 えっと、ですね。転移ゲートって新しい技術が導入できるからと言うことにしておきませんか。オンラインで繋がっていても、やっぱり国会議員の先生って直接自分の所に顔を出せって言いますよね。後は、利害関係の調整とか……


「菅谷総理に、内閣府の直下に魔法庁を作って貰うか」


 もしもし、なんです、その厨二病的な省庁名は。


「魔法が重要技術と言うことになれば、国として管理をする必要があると言うことです。名前は、わかりやすさを優先しただけです。ただ民間の財産を侵すことは出来ませんので、IMO研究所との連携が必要なのは言うまでもありません」


 そうですか。IMO研究所と連携と言ってくれますか。それならそれで、長官は誰にするのですか? まさかとは思いますけど、俺とか立木さんとか言いませんよね?


「流石に癒着で騒がれそう……それ以前に、お二方から拒絶されるのがわかっているつもりです。ですので、諸星さんに影響力を及ぼしうる人材として、杉村先生などどう思いますか?」


 そうですか、杉村ですか。いえ、あいつが長官になるのなら、全力で応援しますよ。ええ、あいつも恩人の一人ですからね。ただ、派閥の力学ですか、思いっきり横やりが入りそうな気がするんですよ。


「それならそれで、潰してやれば良いだけのことです」


 もしもし、相手は選挙を経た議員様なんですよ。なんです、その『潰す』って過激な発言は。確かにお飾りの大臣は要りませんし、売名目的の大臣も要りませんけどね。

 ですよね、『魔法庁』はジャストアイディアでしかありませんよね。だから実現性はないと思って良いんですよね。なんです、だったら良いですねと言うのは。立木さんが留守なのに、どうしてこんな怖い人が残っているんですっ!




 スポーツの日が過ぎると、上里集落の秋もぐっと深まってくる。勿論、『食欲の秋』が絶賛継続中であるのは言うまでもない。それは良いんだけど、このカウントダウンはなに? そうか、蟹の解禁日までのカウントダウンと言ってくれるのだね。


 大丈夫か翼人っ!


 ハイエルフ、闇エルフ、竜人、始祖竜、魔王様たちからも賛同を得ている。だから翼人だけの考えではないと言ってくれるのか。そうか、異世界人揃ってカウントダウンしてくれてるのだな。だったらちょっと言い方を変えよう。


 大丈夫か、異世界人っ!


 だったら蟹を食べないのかと聞いてくれるのか。いや、好きだよ、蟹。だけどさ、カウントダウンするほどのことじゃないと思うんだ。

 そうか、こんなものはお祭りと言ってくれるのか。その次は、ボの付くワインの新酒を楽しむと言ってくれるのだね。ああ、あっちはテレビでお祭りをしてくれてるからね。それを考えれば、蟹の解禁日を待ちわびてもおかしくない訳か。


「節目節目を祝うのは大切なことだと思いますよ」


 そりゃあ、そうなんだけど。それはそうと、体調の方は良いんですか?


「夫が助けてくれたんです。だとしたら、いつまでも寝込んでいてはいけないと思うんです」


 そうですか、夫と言ってくれますか。以前は、キヨヒコと名前で呼んでいましたよね。


「子供まで作ったのですから、夫で間違っていないと思うわよ」


 それは否定しませんけどね。それはそうと、ジュニアとグレイスちゃんは……まあ、元気なのは疑いようがありませんね。


「そうね、元気すぎて大変なぐらい。今は、かなりケイコに頼ってるわ。ただねぇ、『おばあちゃんですよぉ』はないと思うのよ」


 おばあちゃんですか。確かに年齢的にはおばあちゃんなんでしょうけど。だったら、立木さんには『おじいちゃんですよぉ』と言って貰いますか?


「そうなりそうで怖いと言わせて貰うわ。それはそうと、夫から何か連絡はありましたか?」


 それなんだけど、3日前に『そろそろ帰る』と言う連絡があったきりなんだ。これ、もう教えてあったよね。


「便りの無いのは無事の知らせ……こっちのことわざだったわね。そう思うしかないのかなぁ。シアが気にしてなかったのは気になるんだけど」


 ラズライティシア様が、ですか。こんなもの、人それぞれと言って良いと思うんだよ。なんだ、その、負けた気がすると言うのは。


「言葉通りの意味よ。シアの方が、私より夫を信用していると言う意味ね。その意味だと、一番動じていないのはケイコだったりするんだけどね」


 あの夫婦はもう、別格だと思うしかないと思ってる。それで……エンビジョン、何か用があるのか? それからそっちのロリっ子は誰なんだ?


「邪神エテルナと申します。諸星様にはご機嫌麗しく」


 邪神って……イメージが狂ったと言って良いかな。あとさぁ、ちょっとがっかりなんかしてたりするんだよ。ほら、邪神だったらさぁ、もっとおどろおどろしくないとイメージに合わないんだ。

 うん、そうそう、そんな感じ。それでも、まだ可愛いと言っちゃいけないか? それはそうと、ロリっ子が本当の姿なんだね。それからエンビジョン、彼女もわからせて欲しいのかな?


「すでに、立木様の洗礼を受けています」


 洗礼って、なに? そうか、例の痛覚刺激を味わったんだな。それならそれで、追加で歓迎してあげたいんだよ。うん、インテグラも参加するかい?


「顔を真っ青にして土下座をしてるわよ。流石に神様に土下座させるのはやり過ぎじゃないのかしら?」


 驚いた、随分と落ち着いてくれたんだね。そうか、子供のためにも落ち着く必要があると言うんだね。

 それはそうと、女神と邪神が揃って何をしに来たのかな?


「明日にでも、立木様たちが戻られるそうです。それをお伝えに来た次第です」


 世界を統べる女神様と邪神が、ただのメッセンジャーをしてくれたのか? 下っ端には、パシリがお似合いって……


 大丈夫か、この女神と邪神はっ!


 と言うのは良いんだけど。そうか、立木さんたちは明日帰ってくるんだな。だったらインテグラ、慶子さんたちに伝えてくれるかな。うん、嬉しそうって言っちゃいけないか?


「久しぶりに夫に会えるんです。嬉しいに決まっていると思いますよ」


 そ、そうか、そりゃあそうだな。取りあえず、山岡さんたちに宴会の準備をして貰うか。それから今日は前夜祭をするから、エンビジョンに……


「エテルナと申します」


 そうか、だったらエテルナ、前夜祭の宴会に交じっていくかい? そうか、喜んでと言ってくれるのだな。

 それからエンビジョンには、一つお仕事を与えることにする。構えたな、構えてくれたね。確か君、至る所で無銭飲食を繰り返してくれたよね。だからその後始末をしてきて貰いたいんだ。取りあえずお金を渡すから、食い逃げしたところを回って、謝罪と支払いをしてきてくれるかな。ちなみにこの仕事、拒否権は与えられてないからね。逃げたら……逃げられたら良いねと言ってあげよう。

 それから、謝罪の旅は明後日からで良いからね。うん、立木さんの土産話も聞きたいんだ。その話によっては、君たちの待遇が変わることもあるからね。


 それはそうと、立木さんって本気でエリーカを連れてくるつもりなのか?


「本人も、着いてくる気が満々とお答えします」


 そうか、やっぱり来るのか。他に、誰か着いてくるとか知ってるかな?


「国王ギャラン、受付嬢のソアラ、妖精族のフラミニア、神官のフルグラです」


 ええっと、ソアラとフラミニアは予想していたけど、なんで国王様が着いてくるの? あと、神官のフルグラって……美味しそう、もとい、なんで神官が?


「詳しいことは立木様に伺ってください。妖精国に行く途中で助けたのですが、連れて来る理由は立木様でないとわかりませんので。ちなみに、こちらで言うところの16歳の美少女です」


 その情報って、必要? いや、結構重要な情報か。でも、それだけだと連れて来る理由にならない気がするんだ。うん、エンビジョンに聞いても無駄と言うのは理解しているよ。




 お久しぶりです、朝倉円香と申します。なんです、予想を外したのですか。まさか、このタイミングで出てくるとは思わなかった。ええ、まあ私もないかなぁなんて思ったのは秘密です。

 ちなみに私事ですけど、再デビュー……で良いのかな? なぁんかトベで人気が出たりしちゃったんですよ。出番は限定されますけど、『今日の異世界に行こう!』とかトベで歌うことになってしまいました。だからと言うことも無いのですが、お給料がもの凄いことになってくれました。特別手当なんですけど、桁を示すコンマが2つ付いてるって、凄いと思いませんか? 後一桁上がったら、コンマが3つになるんですよ。もうね、売れっ子芸人レベルって言っていいと思うんですよ。違う、そこまで行くと超売れっ子だと言うのですね。

 その辺りの細かいことはおいておくとして、誘ってくれた光岡さんに感謝感激雨あられ、足を向けて寝られないと思います。


 ちなみに、特別手当はトベの収益が理由なのだそうです。再生回数60億回越え……ねえ、ちょっと凄いと思いませんか? まあ、藍香さんには負けるのですけどね。あちらは、真冬さんと組んだ映像が140億再生を超えているんです。ギネス級の大ヒットになっているんですよ。

 しかも映画のギャラとか、ソロ曲の売り上げとか……アメリカのセレブ並の売り上げ……収入になっていたりするんです。立木さんが税務処理をしてくれてるから良いんですけど、藍香さん、目を何度も擦りながら預金残高を確認していたわね。だって藍香さんの預金残高、桁を示すコンマが3つ付いてるんですからね。うん、現実を直視できないのって理解出来るわよ。私だって、自分の預金残高が信じられないんだから。


 それで藍香さんに相談されたのが、全財産はたいて立木さんを買うと言う話。それぐらい本気だと言いたいんだろうけど、はっきり言って意味がないと思うのよ。だって立木さん、IMO研究所の副所長さんなんだよ。去年の収入が、株式配当を含めると2桁億に届いたそうなのよ。うん、手取りでね。使い切れないって言ってたから、お金を積んでも有り難みがないと思うのよ。

 それを教えてあげたら、藍香さんがしっかりと落ち込んでくれました。それで終わっていたら、笑い話ですんだのだけどね。


 藍香さん、創作の方が絶好調なの


 なんと言えば良いのか、心を鷲づかみにする曲がポンポンと出てくるのよ。ちょっとおかしくないって聞いたら、その答えがなんと『満たされてないから』なんだって。藍香さんって、満たされない思いが曲となって出てくるみたいなの。それを聞かされたら、立木さんにははぐらかして貰わないと駄目よね。だって、稀代の才能が発揮されているのよ。藍香さんの思いが叶ってしまったら、そこで打ち止めになっちゃうんだもの。だったらマネージャーとして、邪魔をするしかないよね。するしかないと思うんだ。

 ちなみに立木さんとは、2週間ほど声も聞いていない状況になっています。うん、立木さんが始まりの世界だったかな? そこに遠征しているのが理由なんです。だから別館その5だったかな、たまに自宅に帰っても、立木さんが帰っていないのよね。しかもリビング……サロンだよね、あれ。と言うのは良いんだけど、そこでインテグラさんのお子さんを見せられるわけ。杏香ちゃんとか大悟君は楽しそうにしているんだけど、藍香さんの目が虚ろになっているのに気づいているんだ。でもね藍香さん、赤ちゃんを呪う曲は流石に駄目よ。呪うのだったら、せいぜい真冬さん止まりにしてくれるかな。


 その真冬さんなんだけど、わりと芸能人らしいお相手と熱愛中。違う、まだその手前と言ってくれますか。でもですよ、真冬さん、しっかり朽木さんにデレてますよね。朽木さんもその気なんだから、熱愛中って言っていいと思うんですよ。

 それからなぜ朽木さんが芸能人らしい相手かと言うと、若手の起業家でお金を持っているから。港区のタワマンに自宅があるって、もうしっかりお金持ちでしょう。しかも高身長で見た目も整ってるんだから、よく残っていたと言って良いぐらいの優良物件だと思います。まあ、私の守備範囲じゃないんですけどね。


 その真冬さん向けに、藍香さんが曲を贈ったのよ。詩は真冬さんが書いたみたいだけど、曲がね、また凄かったりするのよね。ダウンロードがいきなりミリオンに迫りそうって、ちょっと凄いって言って良いかな。まあ、その上に藍香さんの曲が2曲立ち塞がってるんだけどね。

 それから映像、こちらはトベで公開しているんだけど、バックコーラスを藍香さんがしてるんだよね。言っておくけど、ミニスカートじゃないからね。そっちのビューもしっかり伸びていて、10億再生を超えたんだって。いろんな所からお呼びが掛かるようになったから、マネージメントの手も足りなくなってくれました。


「円香さんお久しぶりです。橘文香……ですけど、覚えてくれてますよね?」


 ごめんなさい、あなた誰?


 嘘よ、そんなに落ち込まないで。うん、おっぱいの大きな文香だよね。久しぶり、まだ芸能界にいたんだ?


「いえ、大学を出て、ですね。ちょっと家事手伝いなんかしていたんです。それだけだとニートになってしまうので、資格……司書なんですけどね。その資格を取ろうと勉強なんかしていたんです」


 そっか、文香も新しい道を歩こうとしていたんだね。それで、光岡さんが声を掛けたってことね。でも、図書館の司書と芸能人のマネージャーって、全く畑違いだと思うのよ。それにあなた、結構引っ込み思案のところがあったよね。良い子と言うのは知ってるけど、ちょっと無理があるんじゃないの?


「私もそう思ったんです。でも光岡さんが、他なら無理だけどIMO研究所なら大丈夫と保証してくれたんです。だからですね、二度目の冒険をしてみようと思ったんです」


 そうか、IMO研究所なら大丈夫……ねぇ。ここって、一番の色物だと思うんだけどね。でも、他と違うのはその通りかな。


「あら、朝倉さんのお友達ですか?」


 あっ、慶子さん。いえ、彼女なんですけど、私の同僚になる橘文香さん。むかぁし、5人組のアイドルユニットを組んでいた時の仲間なんです。


「そう、また可愛らしい人が増えたんですね。ところで橘さん、でしたよね。お住まいはどうなさるんですか?」

「まだ正式に採用が決まっていないんです。住まいの方は、正式に雇用して貰ってから考えようと思っていました」

「そう、まだ決まってないのね。うん、だったらウチなんかどうですか? 朝倉さんも、ここに部屋があるんですよ」

「円香さんも、こちらに住まわれているのですか?」


 そっ、ここってとっても居心地が良いのよ。後は、慶子母さんの作ってくれるご飯が美味しいのよ。家主は立木さんだけど、慶子母さんが決めたら絶対に反対されないのよ。

 でも、まだ採用して貰えるとは……


「だそうですよ、あなた」


 だそうですよって……立木さん、いつの間にお帰りになったんですか? そうですか、ほんの30分前なんですね。疲れたので、温泉に入りに戻ってきた……でしたら、お背中でも流しましょうか? 私たち2人で。


「鼻血を出して倒れてしまうので遠慮させて貰います」


 またまた、そんな冗談を。それはそうと、彼女って採用して貰えますか?


「光岡氏が決めたのなら、誰も反対はしませんよ。それぐらいの権限は、彼には与えられているんです」


 そうですか、だそうですよ文香さん。これで、たった今から私の同僚になったんですね。でしたら、これから上里ベースまで挨拶に行ってきますね。


「もしも宜しければ、虎ノ門オフィスにも顔を出してみてください」


 虎ノ門オフィスって、コンサル部門のオフィスですよね。実はですね、連れて来るのにあそこのゲートを使ったんです。ですので、すでに皆さん文香のことをご存じなんです。


「そうですか、だったら気にする必要はありませんね。では、私は温泉に入って休ませて貰います。いえ、ちょっと疲労なんか感じていたりするんですよ」


 立木さん、今年で66ですよね。異世界に行って、戦争? 違うのか、聖邪の戦い? それも違う。神々のゲームと言ってくれるんですね。そのゲームの仕切り直しをしてきたんですから、疲れた程度で終わる方がおかしいと思いますよ。


「だから私が、これから癒やしてあげる」

「シオンさん、そこは私たちと言って欲しいんですけど」


 ああシオンさんとアイゴさんだぁ。紹介します。彼女が私の同僚となる橘文香さんです。5年ぐらい前かな、一緒にアイドルをしていた仲間なんですよ。


「そう、歓迎するわ」

「綺麗な人ですね。たぶんですけど、喜んでいる人が大勢いると思いますよ」


 それ私も同感。それに文香は、私みたいなイケオジ趣味じゃないしね。じゃあ慶子さん、また後から挨拶に来ますね。


「お部屋の用意をしておきますね。これでまた、おうちが華やかになってくれますね」


 大悟君以外は全部女性……確かに華やかと言えば華やかなんだけどね。立木さん、居場所がないとか思っていませんか。そんなことはないか、そのうち6人がお手つきでしたね。ちなみに藍香さん、創作意欲が最高潮になっていたりするんです。

 と言う話は良いんですけどね。では文香を連れて挨拶に行ってきます。皆さん、大部屋においでですよね?


「お客さんが来ているので、諸星さん、ルーテシアさん、シア、エクシブ君は所長室にいます。それ以外は、たぶん大部屋にいると思いますよ。それから橘さん、朝倉さんの隣が空いていますので使っていただいて結構ですよ」


 ……私のスペースが狭くなる。いえ、冗談で言っていますからね。だから、個室は必要ありません。やっぱり大部屋の和気藹々とした空気がいいと思うんですよ。

 と言うことで行って来ますです。


 それでやってきました大部屋に……なぜか藍香さんが踊っているしぃ。もしもしどうしたんです、藍香さん。そう、立木さんに会えたからと言ってくれるんですね。でも、それだけじゃありませんよね。なるほど、立木さん分を補給できたのだと。ええ、藍香さんが抱きついていく光景がとても自然に浮かんでくれました。

 それでですね、新人の紹介をしますね。いえ、アイドルではありませんよ。私の手が足りなくなってきたので、マネージャー候補と言うことです。実は、昔の同僚だったりするんですよ。なんです、この先が見えたと言うのは。


「それで、なにさん。橘さんと仰るのですね。ちょうど一曲出来たので、歌ってみたりしませんか? なんでしたら、円香さんとのデュエット曲にも出来ますよ」


 いきなりそれですか。それをするとですね、追加でマネージャー候補を連れてこなくちゃいけなくなるんです。そうですか、だからこの先が見えたと言うのですね。


「立木さん分を補給できたので、明るい曲が沢山浮かんでくるんですっ! ああっ、身体を動かしたくなってきたっ!」


 藍香さんって、満たされていても曲が浮かぶのですね。浮かぶけど、曲の傾向が違う。今は陽の曲で、満たされてない時は陰の曲。作品の世界が広がると言うことですか、はあ。才能って、怖いよね。

 ところで文香、藍香さんがああ言ってるんだけど。挨拶が終わったら、トベスタジオに行ってみる? なんです、藍香さんが生演奏をしてくれるって。白船さぁん、ちょっと録画スタッフを揃えてくれるかな。うん、飯の種が増えるんだ。



人が増えます。ただし、女性ばかりです。

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