始まりの世界にて
村の特産は異世界です
・始まりの世界にて
久しぶりでもないのだが、俺向きの仕事が巡ってきたと言ってやろう。お前は誰か、誰かと聞いてくれるのだな。何を隠そう、俺こそはトイマスター、トイキングでも良いのだが。トイマスター杣木謙吾だ。だからそこ、おもちゃ使いと言うんじゃない。アダルトトイマスター……間違ってはいないのだが、なんか嫌って言って良いか。
その話を離れるのだが、新しい俺の仕事のことを説明しよう。仕事としてはスポット、スポットで良いんだよな。俺が世話になっているIMO研究所の大幹部、立木さんのお供と言うものだ。いや、お供と言っても国内出張のお供とかじゃないからな。ああ、どう言う訳か異世界遠征なんかするのだそうだ。そこで戦闘になると言うのだから、俺向けの仕事と言っても差し支えないと思う。
ちなみにこの遠征なんだが、立木さんとエリシオンさん。もうエリシオンさんだけで十分と言う気もするのだが、やはり戦いには数が必要になると思うんだ。だから俺とニロが同行することになった。テラ、テラは同行しないのかと聞いてくれるのだな。だがな、コピー品でもテラは王女様なんだよ。国のための戦う義務から解放された以上、今更戦いに赴くのは違うと思わないか。だからテラは、集落で大人しくすることになった。ああ、せっかく王女様として生まれたんだ。だったら王女様として、他の王妃様たちと交流しても良いと思わないか?
おかしな趣味を広めないように……
ちゃんと市販品を使っている以上、おかしな趣味と言う指摘は否定させて貰う。そんなもの、人それぞれと言っていいと思うんだよ。
そんなことは良いのだが、他の同行者は自衛隊……自衛隊ってなんだと言っちゃいけないよな。警察予備隊……流石に古いのだが、今で言うところの自衛隊隊員の白船さん、闇エルフのアイゴさんと言うことになっている。ちなみに追加の二人とも、俺の目から見ても相当の実力者であるのは間違いないな。
それで遠征に当たって色々と装備を調えたんだ。ああ、整えたんだよ。だがな、どうして立木さんはデニムなんか履いているんだ? しかも上は、ポロシャツだったりするし。俺の記憶違いでなければ、戦闘になるって話だったよな。どうして、マイホームパパの休日姿なんかしているんだ?
そしてエリシオンさんなんだが、エリシオンさんなんだが……コンセプトが可愛らしさって間違ってないか? 俺たち、戦闘を前提とした遠征をするんだよな。それなのに、どうして『可愛らしさ』がポイントになってくれるんだ?
ああ、可愛らしいよ。とっても可愛らしいと言うのは間違いないんだよ。だって、俺だって見蕩れてしまったぐらいなんだからな。だけど、明らかに目的が違うよな。中の見えない謎スカートと言うのは忘れるとして、膝上30センチぐらいの短いスカートって、絶対に目的が違うよな。ちょっとグレーの入ったブレザーとか、胸元の大きなリボンとか、可愛いんだよ、押し倒したいぐらい可愛いんだよ。だから余計に、おかしくないかと言いたくなってしまったんだ。
それに引き換え、白船さんはまとも……まともだよな。迷彩服で良いのか、深緑をベースにした、しっかりとした作りの上下に革のブーツ、目を守るゴーグルなんかも装備しているんだ。もうな、前の二人と出で立ちが違いすぎるんだよ。いや、こっちの方が正常なのは間違っていないんだけどな。
そしてアイゴさんなんだが、思わず生唾が出てしまいました。エリシオンさんのコンセプトが可愛らしさなら、こちらのコンセプトは色っぽさなのだそうだ。なぜ戦いを前提とした遠征に色っぽさが求められるんだ? 不思議に思ってもおかしくないよな。だけど、もの凄く身体の線がでる衣装なんか着てくれているんだ。レオタード……こっちの衣装なんだな。そのレオタードに獲物の入った上着と言うのがアイゴさんの格好なんだよ。もうな、目の毒って言っていいと思うんだよ。ちなみにもう一つのコンセプトは、身軽さなのだそうだ。うん、そっちは理解出来るコンセプトかな。
そして俺の格好なのだが、フツーと言って良いか。言っても良いけど説明になっていないと言うのだな。まあ、確かに説明になっていないよな。うん、木綿のシャツとぼってりとしたパンツに革のブーツなんだよ。色は地味そのもの……目立たない色使いを選択した結果なんだよ。後は、アイゴさんと同じで動きやすさがポイントになっている。ちなみに立木さんは、踏破性を求めた登山靴なんだそうだ。上とミスマッチと言って良いよな。
それからニロなのだが、魔法使いの正装……正装なのか、それ。いや、黒のマントって……あっちじゃそんなもの着てなかったよな。そうか、アニメの影響を受けたんだな。それでそのマントの下は……エリシオンさんと同じブレザーなんだな。ちなみのそのスカート……謎仕様にはなっていないんだ。うん、めくらなくても下着がしっかり見えたんだ、白なんだが。それから、今更見られたぐらいで恥ずかしがらなくてもいいと思うんだ。恥ずかしがらなくても良いんだから、照れ隠し……にしては殴る力がこもっていなかったか?
「デリカシーが無いのは最低だと思うのよ」
今更お前にデリカシーを持ち出されてもなぁ。だから、魔法で強化した拳を振るってくれるなよな。それからエリシオンさんに教えて貰って、スカートを謎仕様にした方が良いぞ。そうしないと、暴れる度に可愛い下着を開陳することになるからな。
そうか、まだ教えて貰っていないのだな。まあなんだ、そこから始めてみるのが良いんじゃないか。
それで全員の準備が出来たところで、始まりの世界だったか、そちらの世界へと移動。その移動に際しては、女神様の転移ゲートではなく、諸星さんがゲートを作ってくれた。ただなぁ、なんで『エンビジョンの世界へのゲートよ開け』でゲートが開いてくれるんだ? ニロ、何かわかったか?
「まったく」
そうか、全くわからないのか。それから立木さん、考えるだけ無駄と言わないように。そこで諦めたら、進歩なんか出来ないと思うんだ。
「意気込みは認めます。認めるのですけど、無駄な努力と言って差し上げます。それはですね、シアやシオンが一度通った道なのですよ」
そうか、エリシオンさんも通った道なのだな。なるほど、魔法にもなっていないと言ってくれるのか。だから理解する方法が思いつかないと言ってくれるわけだ。
諸星さんの能力のことを忘れるとして、ここはどこなんだ?
「王都にある私の神殿、と言うのが答えになります」
つまり、前で平伏しているのは神官と言う訳か。香水……お香、なのか、ちょっと匂いがきついと言って良いか? まあ、あっちの世界でも神殿と言えばお香が定番だったのだがな。
それで、これからどうするんですか、立木さん。
「ケンゴー君が仕切ってくれて良いんですよ。何しろ貴方は、勇者なのですからね」
すみません、できれば勘弁して欲しいのですが。ええ、俺なんてひよっこもひよっこと言うのを思い知らされているんです。
戸籍年齢は俺の方が上……肉体年齢は間違いなく俺の方が下なんです。ですので、ここは立木さんに仕切っていただければと思ったりします。
「女神エンビジョン、ここから先は貴方に任せます」
「私に、でしょうか」
ゴクリとつばを飲み込んでくれたな。うん、ちょっと色っぽかったと言ってやろう。いいよな、女神様って。
「この方たちは、異世界の勇者様、賢者様です。粗相の無いよう、国王の所に案内差し上げなさい……なんでしょう立木様」
「ここが貴方を奉る神殿と言うのは間違っていないのですよね?」
「でしたら、間違っていないと申し上げます。トラットリア王国王都に奉納された、この世界で最大の神殿となっています」
ちょっと自慢気味に見えるのだが、そうかニロにもそう見えるんだな。しかしあの女神、立場を理解していないんじゃないか?
「その割にその女性ですが、興味津々と言う体でこちらを見ていますよ」
「その女性……申し訳ありません。彼女は例外中の例外なんですよ。王妹エリーカと言えば、立木様にも心当たりがありますよね?」
王妹エリーカって、確か『じゃじゃ馬』で、誰も喜ばないから政略結婚も出来ない姫と聞いた気が。そうか、そのエリーカなのか。ただまあ、見た目はそこそこ良いんじゃないのかな。尤も、エクステラには負けるのだがな。
「そうですか、では見なかったことにいたしましょう。それで、どなたが私たちを国王陛下のところに案内していただけるのですか?」
「本来なら、神官のエリーカに任せるところなのですが。不安しか有りませんから『私が行きます!』って被せてもダメですよ。問題を起こしそうだから、貴方を外すことにしたのですからね。それですので、『私が行きます!』って、私の言ったことを聞いていましたか?」
「本人のやる気を尊重することにしましょうか。どうせ、誰が一緒に行っても同じだと思いますので」
なんで、誰が行っても同じになるんだ。いや、不安を感じてもおかしくないと思うんだ。だから女神様、立木さんの言うとおりになんて……どうして自分を信じられないんだ?
「ではエリーカ。貴方に、立木様一行の案内を任せることにいたします。繰り返しますが、くれぐれも粗相の無いようにしてください」
「では、お兄……陛下のところに伝令を送ることにいたします。伝令が戻ってきてから、王城へ向かうことで宜しいですか?」
「貴方の割に、とてもまともな意見と言ってはいけませんか?」
なんか女神様、思いっきり不審がってるよな。それだけ、普段の行状が思わしくないと考えれば良いのか?
「それはエンビジョン様の気のせいだと思います。それよりも、エンビジョン様が降臨されたことを広めても宜しいでしょうか?」
「そう言えば、とても久しぶりに降臨したのでしたね。でしたら、私も王城に行った方が良いのでしょうか?」
「女神様のお越し頂くのは畏れ多いと言えば良いのか。本来国王自らはせ参じるところだと思います」
随分とまともなことを言っているように聞こえるんですけど。それって、俺の気のせいですか? なんです、女性は猫を被るのが得意と言うのは。普通は長続きしないので、すぐに本性がばれることになるのですか。
「では、私はお見送りをしてから自分の世界に戻ることにいたします。それまでは……そうですか、応接でお茶を振る舞ってくれるのですね」
ああっ、前の世界では経験したことのないまともな接客だな。おかしいなぁ、王女の男だったのに、随分とぞんざいな扱いをされた気がするんだよ。
それはそうと、王妹殿下の案内で応接へ……まあここは神殿なんだからな。それを考えれば、質素な部屋と言うのは予想して然るべきことだよな。ああ、とっても質素な部屋だったんだよ。それで、出されたお茶も……俺の舌も肥えたのかな。まあ、こんなものかと言うレベルのものだったんだ。
「エンビジョン様、質問をして宜しいでしょうか?」
「特別に許します。それで、何か聞きたいことがあるのですか?」
「はい、色々と」
すこぉし化けの皮が剥がれてきたのかな。聞きたくてうずうずしていたのは見えていたからな。
「エンビジョン様は、勇者エクシブ様、大魔法使いラズライティシア様を返していただくよう、交渉をされるはずだったと思います。それなのに、全く異なる方がおいでになったのはどうしてなのでしょうか?」
目的を考えたら、当然出てくる疑問と言うことか。それが最初に出るところを見ると、結構まともと言っても良いんじゃないのか?
「交渉の結果、と言うことになります。ちなみにこちらに御座すエリシオン様ですが、ラズライティシアに匹敵する大魔法使いであられるのです。そして立木様は、ラズライティシア、エリシオン様を従える賢者であられます。ケンゴー様は、別の世界で勇者として活躍された方です。そしてニロ様は、ケンゴー様と同じ世界で魔法使いとして活躍されておいでです。アイゴ様、白船様は立木様の護衛と考えて頂いて結構です」
「つまり、交渉に大失敗をした、と言うことですね?」
「なにをどう聞いたら、交渉に失敗、しかも大失敗したことになるのでしょう?」
なんか、性格に難があるのはわかってきた気がするな。その質問なんだが、もう少し歯に衣を着せたものにするものだろう。
「だって、エクシブ様とラズライティシア様じゃありませんよね? その方たちが、ずっと私たちと共に邪神と戦ってくださるのですか?」
おっ、結構鋭い質問だな。ああ、女神様が答えに詰まっているよ。だけどそこで、立木さんの顔を見て良いのか? 立場としてなら、女神様が一番上じゃないとおかしくなるんだが。
「ラズライティシアは、戻る気はないと断言しました。理由は愛する人に巡り会ったと言うものです。コーメーなるものも、忙しいからその気はないと言う答えでした。それでもなんとかとお願いをした結果、こうしてお手伝いをいただけることになったわけです」
「大失敗ではなく、失敗だったと言うことですか」
ああっ、この王妹殿下は容赦が無いな。
「比べるのもおこがましいほど見た目はエリシオン様の方がお綺麗ですよ。でもですよ、今必要なのは邪神と戦う力のはずです。実力もわからない人を連れてきて、成功だなんて言って欲しくないと思います」
「キヨヒコ、面倒だからこの国を滅ぼしていい?」
「邪神も含めてなら許します」
なんて過激なやりとりなんだろう。それから立木さん、普通は止めるところだよな。なんで、エリシオンさんを煽る真似をしたんだ? なんだニロ、そうか、ラズライティシア様を貶したのが理由なんだな。
ああっ、女神様が土下座をしているよ。でもな、失言をしたのは王妹殿下なんだよ。女神様が土下座をしてもねぇ。ほら、王妹殿下が不思議そうな顔をしているよ。
「ええっと、私何かまずいことを言っちゃいました?」
「お願いしてご足労いただいたのです。貴方の言葉は、失礼を通り越して万死に値するものなのです」
「でも私、何も間違ったことを言っていないと思います。私は、この方たちのことを貶しているわけではありません。女神様の失態を指摘させて頂いているだけです」
ああっ、性格に難ありってのがよくわかったよ。そりゃあ、これだったら貰い手が無いのも納得できるな。うん、俺でも要らないなぁって思うんだよ。
「それからギルド職員ソアラなのですけど、なぜ解放するように命じられたのですか?」
「それは、間違いを正すことが第一です。それから、いざと言う時の保険を考えました」
「保険、ですか?」
保険って、この世界にその概念があるのか? そこからして疑問があるのだから、王妹様が首を傾げるのも仕方が無いよな。
「コーメー・モロボシの怒りを買わないようにするためです。彼の者の力は、女神である私を超えています」
「なんで、そんな化け物が新米冒険者なんかしていたんですか? 女神様がしたことじゃなかったんですか?」
「彼の者に関しては、私の責任範囲外のことですっ!」
なんかこのやりとり、女神様の答えがボロボロになっているぞ。うん、これじゃあ信用して欲しいと言うのは無理な相談だと思うぞ。
それで立木さん、俺たちはいつまで無駄話に付き合っているんですか? なんか、もの凄くぐだぐだに見えるんですよ。いけ好かない教皇でしたけど、もっと深慮遠謀があったと思うんです。それなのに、こいつらから切羽詰まったものを感じないんですよね。頭も悪そうに思えるんですよ。
「性格に難があるのは確かなんですけど。私には、意外にまともに見えましたよ」
意外にまとも……質問自体はまともな質問だと思うぞ。ただなぁ、俺たちの前でする質問かと言う疑問があるんだ。そうか、だから性格に難があると言うわけか。
「それからそこの者たち。悪口を言うのなら、私に聞こえないところでしてください!」
事実の指摘……それが悪口になると言うのだな。そうか、自覚をしていないと言うことなのだな。なんです立木さん、自慢の道具で躾をしてみてはと言うのは。そのですね、俺にだって選ぶ権利があると思うんですよ。
繰り返しますけど、いつまで付き合って……あれっ、なにか騒がしくなってきませんか? 慌てた女性が入ってきましたよ。
「お兄様……陛下が邪神の攻撃を受けているのですかっ!」
押されていると言うのは間違っていないと言うことか。王様のところって、国で一番守られている場所だよな。それが攻撃を受けているって、もう手遅れになってるんじゃないのか?
ところで白船さん、立木さんの姿が見えないんですけど? そうですか、気がついたらいなくなっていた。流石にトイレってことはありませんよね?
「年寄ですから、トイレが近くても仕方がないと思いませんか?」
って、空間転移をしたんですか。それで、トイレと言うのは冗談ですよね? それで、どこに行っていたんですか?
「ちょっとお城の近くまで行ってきました。なんかちっこいのが沢山……ざっと2千程度ですかね。バラバラになって押し寄せていましたよ」
「ちっこいの……ですか。どんな見た目をしていましたかっ!」
「貧相で肌が……土気色って言えば良いのかな。お粗末な武器を振り回していましたよ」
「小鬼がなんでっ!」
どうやら、襲っているのは小鬼って言われる奴のようだな。最近仕入れた知識だと、ゴブリンって奴のことなのかな。だとしたら、数が集まるのは厄介と言っていいんだろうな。
「ところでエリーカ様で良かったですか? 2千ほどの小鬼は、王国にとって脅威となりますか?」
「お兄様ならっ! 負けることはありませんが、数が数ですから手を焼くことになるかと思います」
「かなりの被害が出ることになりますか?」
「数が数ですから、民に相応の被害が出るのではないでしょうか」
立木さん、俺たちが行かなくて良いんですか? ちょっと考え事……何か考えることがあるんでしょうか?
「2千と言うと多そうに聞こえますが、散らばっていますからさほどたいしたことはないんですよ。つまり、かなり無駄な攻撃と言うことが出来るわけです。だとしたら、この攻撃に意味があるのかどうかと言うことですね。仮にも邪神と呼ばれる神なのですから、頭が悪いとは思いたくないんですよ」
つまり、この攻撃は別の意図があると言うことですか?
「囮、陽動……さも無ければ、王様が動けない状況を作ると言うことが考えられますね。頭が悪いのだとしたら……女神の留守を狙ったとも言えるのですけど」
女神の留守を狙った……確かに女神様は別の世界に行っていたな。だとしたら、その可能性が高いと考えて良いんじゃないのか?
「だとしたら、もっと本気で攻めてくると思いませんか? 邪神には、もっと強力な手駒がいますよね?」
「魔神将、オーガがいます。それで、何を考えられておいでなのですか?」
「女神の留守を狙うのであれば、もっと強力な戦力を差し向けると言うことです」
ってことは立木さん、この攻撃には別の意図があると言うことですか。だったら、どんなことが考えられるんですか?
「一番ありそうなのは、何かを隠すための攻撃と言うものですね。騒ぎを起こすことで、余所に目が行きにくくなるんですよ。ただですね、それだとあまりにもあからさまとも言えるんです。ですので、他の可能性として王様を城から動けなくすることですね。幾ら小鬼が弱くても、数が多ければ被害も出るわけです。だとしたら、王様は動きにくくなる」
「つまり、その隙に別の場所で戦を起こすと言うことでしょうか?」
「その可能性が高いと言うことです。ただ、それがどこかと言う問題がある訳です。王妹殿下、何か心当たりはありますでしょうか」
「色々とあるのですが……そうですね、戦力的には妖精の里が考えられると思います」
なるほど、戦力さえ有れば2拠点を同時に攻めるということか。どちらかを潰せれば、自分たちが有利になることはわかっているんだからな。そしてどちらが厄介かと言うと……どっちなんだ?
「潰しやすい方から潰すと言う考え方もあるんです。王妹殿下、王妹殿下ならどちらが潰しやすいと考えられますか?」
「エクシブ様、ラズライティシア様がいない状況と考えれば宜しいのですよね。でしたら、同じぐらいと言うのが答えになります。ただ、数で攻める場合は妖精の里の方が潰しやすいのではないでしょうか。人族とは違い、妖精族は圧倒的に数が少ないと言うのが理由になります。また孤高を保っていましたので、回りからの支援を受けにくいと言うこともあります」
「正しく、情勢を理解されておいでなのですね」
ちょっと驚いたと言って良いか。そうか、ニロも驚いたと言ってくれるのか。だって気楽な王妹なんだぞ、神殿勤めなんかしていたら、難しいことなんか考えないだろう。それなのに、立木さんの問いかけにちゃんと答えてるじゃないか。
「では女神エンビジョンに命じます。妖精の里ですか、何者かに攻められたりしていないか確認してください」
「ご命令とあれば……」
あっ、女神の姿が消えた。そうか、女神が女神としての務めを果たしに行ったのだな。それは良いんだが、女神が人の命令に従って良いものなのか?
それで立木さん、妖精族が攻撃を受けていたらどうするのですか?
「そうですね、攻撃側を手伝うと言うのはどうでしょう。何しろ妖精族は、シアのことを散々罵ってくれたようなんです。シアが言うには、面倒だから滅ぼさなかったのだそうですよ」
そうか、だがな、だったら獲物を横取りするのは良くないと思うぞ。立木さんなら文句を言われることはないと思うが、それでも残しておいた楽しみを奪われた気になるんじゃないのか?
「なるほど、そう言う考え方もあるわけですか。でしたら、楽しみはシアに残してあげないといけませんね。それから王妹殿下、顔色が優れませんがどうかされましたか?」
「どうかしたかと聞かれますか……」
流石の王妹殿下も、恐怖なんか感じ始めたようだな。ああ、俺にもよくわかるぞ。女神が謙ったりとか、戦争を大したことのないように振る舞ったりとか、どう考えても立木さんは普通じゃないんだ。
おっ、女神様が帰ってきた。
「エンビジョン、それでどうなっていましたか?」
「小鬼の数こそ1千と少ないのですが……魔神将、オーガ、オークと強力な戦力が揃っていました。あと半日ほどで衝突するのではないでしょうか」
「それで、妖精族は持ちこたえられそうですか?」
「保って1週間かと。それが早まることはあっても、遅くなることはないと思います」
それって、流石にまずいと思うんだが。もしも助けるのなら、すぐにでも助けに行った方良いと思うぞ。なんです、慌てて行っても仕方が無いと言うのは。
「王妹殿下に伺います。妖精族、森人でも良いのですが、素直に助けてくださいと言うと思いますか?」
「彼等は、私たち人族を見下しています。ですから、人族に助けを乞うのは恥だと考えると思います。戦いが始まる前なら、なおのこと助けを求めないと思います」
「多少の犠牲は、シアを罵った報いと考えて貰いますかね。まあ、圧倒的な力を見せてやれば、誇りなんて粉々に打ち砕くことも可能なんですけどね」
圧倒的な力って……ひょっとして、エリシオンさんが本気を出すと言うことなのか? そうか、『少し』本気を出すと言ってくれるのだな。ああ、まだ俺の考えが甘かったと言うことか。
「王妹殿下。私たちを王城に案内して頂けるでしょうか。そこでお茶でも飲みながら、時間を潰すことにしますよ」
そんなことで良いのかと言っても良いか? 言っても良いが、何も変わらないと言ってくれるのだな。そうか、言っても無駄と言うことか。
またまたお会いしましたね。王妹などしているエリーカと申します。それでですね、交渉しに行くと言う神託を受けてから、エンビジョン様の音沙汰がなくなってしまいました。たぶんですけど、交渉が決裂したのではないでしょうか。そもそも女神様が交渉しに行くこと自体、おかしな話だと思うんですよ。
それでも神殿勤めをしているのですから、毎日女神様に祈りを捧げる必要があります。今朝もですね、ちゃんと身を清めてから女神様の像の前でお祈りをさせて貰いました。
いつまで待たすんじゃぁ、ボケっ!
いえ、こんな下品な言葉は使いませんよ。せいぜい『いつまで待てば宜しいのでしょうか』ぐらいなんです。ただちょっと、言葉遣いが違っているだけなんですよ、苛立ちが交じっていましたので、はい。
それでですね、今日も30分ほど祈りを捧げた直後、そろそろ朝食を頂こうかなと女神様の像に背を向けたんです。そうしたらですね、背中の方が急に騒がしくなったんです。背中の方って、有るのは女神様の像だけなんですよ。今日は掃除の日ではありませんので、誰かが潜んでいると言うこともないはずなんです。ですから恐る恐る振り返ったら、ですね。見知らぬ男女6名と、やけに神々しい見たの女性が1人立っていました。神々しい女性って……ひょとしてエンビジョン様が降臨したのかしら。
流石にないわぁって思っていたら、他の神官たちがわらわらと集まってきました。どうやら皆さん、天啓を受けたようですね。だとしたら、目の前に居るのは本当に女神様と言うこと? 確かにそれっぽいふいんき……あれっ、雰囲気をしていると言えばしてるんだけど。
だとしたら、見知らぬ6人の男女って……誰? それはそうと、お年寄りが一人交じっているんだけど。しかもそのお年寄り、偉そうに女神様に指示なんか出したりするのよ。もうね、絶対に面白いことになっているに違いないわ。ワクワク
それはそうと、随分失礼なことを言われた気がするんですけど。まだ若い男なんだけど、今私のことを『じゃじゃ馬』って言わなかった? 言ったよね、神託を聞き漏らさないために、これでも注意力がある方なんだからね。聞き間違いなんかじゃないんだからね。
しかもなに、『王妹エリーカと言えば心当たりがある』と言うのは。どう考えても、良い評判ってことは無いよね。どっちかと言ったら、悪口だと思えるのよ。それを女神様が言うのって、どうよって思っても良いよね。そうか、今の言葉遣い自体が問題と言ってくれるわけだ。
それでこの6人をお兄様、もとい王様のところに案内すれば良いのね。一応神託が出ているのだから、騒ぎにはならない……はずがないよね。どう見ても、エクシブ様とかラズライティシア様じゃないんだから。それでも案内……どうして、私を外してくれるんです? いえ、私が行きますよ、だって間違いなく面白いことになると思いますから。だから、私が行くんですってっ!
やっぱり押しって必要よね。お年寄りの一言もあって、私が案内することになりました。でもですよ、どうして女神様が冴えないお年寄りの……どうして冷や汗が出るのかしら。それはそうと、お年寄りの言うことを聞くんでしょう。
それからですね、先触れを送る常識ぐらい持っていますからね。お兄様と言い、皆さん私に対して間違った先入観を持っていませんか? そうですか、実績がすべてと言ってくださるのですね。
それから、女神様は安売りをするものではありません。よほどの緊急事態でもない限り、国王が足を運ぶものですよ。それからそこの男、すぐに本性がばれるとは何のことを言っているのですか? それからですね、ここは女神様を奉る神殿なのです。ですので、応接と言っても豪華さからは離れたものになっているんです。いえ、司教様の秘密部屋なんですけど、趣味が悪いって言いたくなるぐらいに飾り付けられていますけどね。はい、誰も知らないはずの秘密部屋のことを言っています。お茶も寄付を受けたものですから、こんなものでもおかしくないんです。
それでですね、落ち着いたところで教えていただきたいことがあるんです。ええ、とっても重要なことだと思いますよ。そもそも今回連れて来られた6人ですけど、正体を教えて貰っていませんよね。正体不明の者を、陛下の前に連れて行くのは問題だと思うんです。
女神様が保証する……それで安心できると思う方が間違っていますよね。
それで6人のことを教えて貰ったのですけど、どうしてって疑問に思ってもいいと思うんです。だって説明を聞いた限り、そのエルフはラズライティシア様より格下ですよね。それから意味不明な説明、そこの老人がラズライティシア様を従えていると言うこと。あの人って、孤高にして至極……で良かったのかな。王様だって、敬意を持って接しないと言うことを聞いて貰えなかったと思うのよ。そのラズライティシア様を従える……この老人が? あり得ないって言いたくなる気持ち、わかって貰えるかしら。
それから異世界の勇者と魔法使い……更に格下にしか思えないんだけど。しかもその勇者、さっきから失礼なことばっかり言ってくれてるよね。うん、私に対してなんだけどさ。あと疑問なのは、ダークエルフなんか連れてきて良いの? ダークエルフって、闇の勢力の手先になっていたと思うんだ。
だから、『交渉は失敗ですよね』ってやんわりと指摘しました。だって、そうとしか思えないんだもの。しかもなに、ラズライティシア様が愛する人を見つけたって。全員に拒否されたから、代役を連れてきたってことでしょ。それって大失敗……まあ代役を連れてきたから、失敗程度で良いのかな。失敗って言っていいと思うんですよ。
そりゃあ、そのエルフ、見た目はラズライティシア様を置き去りにしていますよ。でもですよ、求められているのは見た目じゃないんです。実力もわからない人を連れてきて、成功だなんて言って欲しくはありません。
それはそうと、この国を滅ぼすって……本気で言っています? それから、どうして女神様が土下座なんかするんですか? もしかして、私って何かまずいことを言ってしまいましたか? 失礼って……私は、女神様を糾弾しているんです。それからそこの勇者、貰い手が無いって本当のことを言わないようにっ!
それはそうと、もう一つ疑問があるんです。はい、最初の神託なんですけど、どうしてソアラを解放しろと命じてくれたのですか? なんです、その保険と言うのは。保険と言う概念自体がわからないですし、コーメー・モロボシを恐れたって……貴方は女神様なのですよね? どうして新米冒険者を女神様が恐れるんですか?
なんです、女神様の責任外って。もうね、さっきから説明が支離滅裂になっていませんか? それからそこの老人と勇者、悪口を言うなとは言いません。ええ、悪口なら散々言われていますからね。どうせなら、私に聞こえないようにしろと言うだけのことです。事実を口にしただけ……ねえ、私に喧嘩を売っていますか。それからそこの老人、道具を使って躾をすると言うのは何のことですか? いえ、ちょっと背中に冷たい物が流れたと言えば良いのか。悪い予感がしてくれたんです。
それはそうと、前触れに出した者が戻ってきたようですね。慌てている……お兄様が邪神の攻撃を受けているんですかっ!
それで、それからそこの老人、今突然現れましたよね。トイレって……普通歩いて行くものではありませんか? 違う、お城の近くに行ってきた……そこでちっこいのが……ちっこい、小さいのと言う意味ですか。それが2千って、その見た目だと小鬼ですよね。なんで、小鬼がお城を攻撃できるんですっ!
いえ、相手は小鬼ですよね。だとしたら、驚異としてはさほど高くないことになります。町の守りを越えられたら、民たちに相応の被害が出るのではないでしょうか。それで、あなたたちが支援してくださるのですか? なんです、別の意味があるのかと言うのは。
魔神の手駒ですか? 魔神将やオーガがいますよ。それが出てくると、勝てる者はかなり限られることになります。お兄様……陛下でも、単独では難しいのではないでしょうか。
そんな戦力は見られなかったと言うのですね。そうですね、本気で攻め落とすのならば出し惜しみする理由はないと思います。はい、妖精の里が狙われるのは確かだと思いますよ。こちらには小鬼だけなのですよね、だとしたら本体は妖精の里を目標にすると言うのはおかしくないと思います。はい、妖精の里って、結構疎まれていたりしますから。
「正しく、情勢を理解されておいでなのですね」
これでも、私は王妹なのですよ。いえ、褒められて喜んでなどいませんよ。はい、気のせいと言って差し上げます。
それは良いのですけど、どうして女神様に命令できるんです? しかも女神様が素直に命令を聞くって、おかしくありませんか?
それはそうと、どうして魔神側の攻撃を手伝うと言う話になるのですか? あなたたちは、この世界を守るために来たのですよね? なんです、シアを罵ったからと言うのは。シア、それはラズライティシア様のことを言っておいでですか? 先ほどから疑問なのですが、貴方はラズライティシア様とはどのような関係なのですか? それからお願いなのですが、妖精の里を滅ぼすことを前提とした話をしないでいただきたいのですけど。好かれてはいませんが、滅ぼされたりすると私たちにも大きな影響があるんですよ。だからっ、女神様が帰ってきましたね。顔色が良くないように見えるのですが、ひょっとして酷いことになっているとか。そうですか、こちら以上の戦力が差し向けられていたんですね。もって1週間って、どう考えても支援が間に合いませんよ。
妖精の里が支援を求めてくるか、ですか。それでしたら、求めてこないと言うのが答えになります。はい、彼等はとてもプライドが高いのです。私たち人族をはっきりと見下しているのも確かです。戦いが始まる前では、助けを求めてくることはないと思います。
ですから、犠牲を前提にしないでいただきたいのですが。シアを罵った報い……民たちには関係がないと思うのですけど。それから、圧倒的な力……圧倒的な力なのですか?
皆さんを王城に案内するのは良いのですけど。今、小鬼に攻め込まれているのですよね。それは気にしなくても良い、気にしなくても良いと言われてもですね。それで王城に行って何をなさるおつもりですか? 時間を潰す、お茶を飲んで時間を潰す……もしもし、正気を疑っても良いですよね。はい、この件に付いては、そちらの勇者の方と同じ意見なんです。
それは良いのですけど、今王城は取り込み中ですよ。はい、小鬼とは言え攻め込んできていますからね。そこにのこのこと出かけていって、相手に……そうですか、私を指差してくださいますか。確かに私は王妹です。王妹ですが、だからと言って尊敬されているのかと言うと、ですね。いえ、邪魔者にされているって、はっきり指摘されると流石に辛いところがあるんです。
それからですね、皆さんのしている格好なんですけど、はい、しっかり目立つと思います。いえ、エリシオン様の格好、私は良いと思いますよ。私も真似をしたいなぁって思うぐらいなんです。ただですね、こちらにはそんな格好をした者はいないんです。後はですね、無事王城までたどり着けるのかと言うと、真っ先に狙われそうな気がいたします。
「シオン、任せて良いですか?」
「場所はキヨヒコの方が知っていると思う。勿論、出来ないなんて言わないわっ!」
もう一つ疑問が生まれたのですが、お二人の関係ってどうなっているんですか? まさかとは思いますが、貴方がエリシオン様のご主人様とか言いませんよね。最愛の人って……あなたのようなハイエルフが、人族の男性を愛しているって……ラズライティシア様と言い、もめ事の種を持ってきてくださりましたね。
それはひとまず棚上げにすることとして、周りの景色が変わっていませんか? もしかして、女神様が転移の恩恵を使ってくれたのでしょうか。
「私がやった」
あなたが、転移魔法を使ったと言うことですか。ラズライティシア様でも、転移魔法は使えなかったと思います。そうですか、今はラズライティシア様も普通に使っているのですね。いえ、細かなことには拘りませんよ。なにか、拘ったら負けと言う気がしてきましたので。
それで、ここは……王城の中ですね。確かに衛兵への説明は面倒だと思います。ですけど、これだと城の中に忍び込んだことになってしまうのですよ。はい、更に面倒なことになると申し上げておきます。その証拠にですね、ああっ、見回りに見つかってしまいましたぁって、何をしたんですか?
「ちょっと固まって貰った」
固まって貰ったって、まさか殺していませんよね。殺していない、固まって貰っただけ。ちなみに伺いますが、元に戻すことは出来るのですよね。そうですか、別に難しいことではないと仰ってくださるのですね。いえ、それ以上の説明は要りません。そう言うものだと開き直ることにしましたから。
「大丈夫。10分もすれば元に戻る」
そうですか、そんな魔法が存在するのですね。いえ、貴方の実力はよくわかりました。
それでですね、これから私が皆さんをご案内するのですけど、はい、一応前触れはしてあるんですよ。でも、正規のルートから入ってきていませんよね。つまり皆さんは、無断侵入者と言うことになるわけです。私ですか、私がいても意味が無いと申し上げておきます。ですので、覚悟して付いてきてください。
それから、それからですね。なんと言えば良いのか、この方たちが敵でなくて良かったと思いました。はい、心から思わせていただきましたよ。だって、途中で出会った衛士たち全員、エリシオン様の魔法で固められてしまったんです。それだけでも凄いのに、やり方がスマートじゃないって……スマートなやり方ってなんですか?
「別に固めなくても、抵抗できなくすることが出来るんですよ」
そうですか、固めなくても抵抗できなくなると言ってくださいますか。それはなんです、そこで動かなくなっている兵士のことを言っていますか。はい、騒ぎ立ててくれているのですけど、指一本動かなくなっていますよね。いずれにしても、スマート……ちょっと意味がわからないところがあるのですけど、力尽くには変わりませんよね。
はい、拘りませんよ、拘ったりしませんから。それでですね、私の顔ぐらいは知っていますよね。大人しくその扉を開いてくれませんか? 流石に出来ない、出来ないと言ってくれますか。はい、あなたたちの忠誠心は尊いと思いますよ。ですが、世の中には無駄な抵抗と言うものもあったりする……あの、まだ私は話の途中だったりしたんですけど。どうして、扉の反対側に転移してくれるんですか? 時間の無駄、そうですか、時間の無駄と言ってくださるのですね。ただですね、今は戦争の真っ最中なんですよ。どう言うことかと言うとですね、王様の周りには臣下が沢山あつまっているんです。だからいきなり転移なんかしたら大騒ぎになって……なってませんね。
「面倒なので、追加で話せないようにしました。いやぁ、かすみちゃんが色々と開発してくれてるんですよ」
「でもかすみの努力は本当の意味では役に立っていない」
「この程度で満足して貰っては困りますからね」
あのぉ、そんなのんびりと出来る状況じゃないんですけど。それで、どうして私を指差してくださるのですか? 説明役、私に説明役をしろと仰りますか。
「これで、実力を疑われることはないと思いますよ」
そうですね、ラズライティシア様でもとんでもないと思ったのに。それ以上にとんでもない魔法使いがいるとは思いませんでした。なんです、今でもラズライティシア様の方が上、なんですか。だったらラズライティシア様に来て頂いた方が丸く収まったと思うんですよ。
「キヨヒコと私に不満があるのなら、この世界を滅ぼして帰ることにする」
え、ええっとですね。さっきからこの人、エリシオン様なんですけど、いちいち反応が過激じゃありませんか? 世界を滅ぼすって、冗談ですよね、あはははは。
「冗談ではない。少なくとも、5つの世界を滅ぼしたはず」
冗談じゃないのですか。そうですか、もしかして貴方が『魔王』と言うことはありませんよね。そうですか、滅ぼした世界では魔王と呼ばれていたのですね。それから立木様でしたよね、お願いですからエリシオン様を野放しにしないで貰えますか。
いえ、まだ私は19年しか生きていないんです。ですので、まだまだ楽しみたいことが沢山有るんですよ。なので世界を滅ぼすと言うのは、ちょっとご遠慮いただきたいなぁなんて思ってしまうのですよ、はい。
「それでは王様とお話をするのですが、どこまで魔法を解除すれば宜しいですか?」
私たちの話って、全部聞こえているんですよね。でしたら、まずお兄様……陛下だけ解除して頂ければ良いかと思います。それ以上は、陛下が判断されると思いますです、はい。
「では、取りあえず話が出来るようにしますかね。それからいきなり失礼な真似をいたしました。私、諸星様から派遣された部下の立木と申します。そして隣にいるのが、大魔法使いエリシオンです。そしてそこの若い男性が、異世界の勇者ケンゴーです。そしてその隣にいる女性が、魔法使いニロです。そしてそこにいる男性が、記録係の白船と言います。それから、彼の持っているものは気にしないで頂ければ幸いです。そして、アイゴ、出てきてくれますか。彼女が私の護衛をしている闇エルフのアイゴと言います。ギャラン陛下、お目通りが叶い光栄に存じます」
ここまでしておいて、その挨拶をしてくれますか。流石のお兄様も、どう扱って良いのか戸惑われておいでですね。はい、その気持ちは良く理解出来ますよ。どう考えても、私たちの常識をいくつか飛び越えてくれてますもの。
「諸星と言うのは、冒険者コーメーのことを言っておるのか?」
「その冒険者コーメーで間違っておりません。今彼の元には、大魔法使いラズライティシア様、勇者エクシブ様、冒険者ルーテシア様が共におられます」
「そうか、冒険者コーメーの関係者と言うのだな。それで、何故貴殿がいらっしゃったのだ?」
「女神エンビジョンが、我妻ラズライティシアを攫っていこうとしました。その報復のため、と言うのが私個人の理由になります。そして私を派遣した諸星様は、自分が関わった世界、そして関わり合った人たちのことが心配になったからと言うことです。ですので、私に支援をしてこいと命じたと言うことです」
「支援をしてくださると言うことか?」
「一応、そのつもりで来ていますよ。勿論、気が変わらなければと言うことになります」
ああっ、この人って結構ねちっこい。まあね、王宮には似たタイプが沢山いるから慣れてるけど。ただね、王宮にいる奴とは実力が違いすぎるのよ。
「では伺うのだが、どこまでしてくれるつもりなのだ?」
「質問に質問で返すのが失礼なことと言うのは承知しています。ですが、どこまでして欲しいのかと伺わせていただきます」
「それであれば簡単だな。邪神を滅ぼしてくれればそれで良い」
「そして、世界の秩序を壊すと言うのですね。秩序と言うのがわかりにくければ、バランスと言い換えましょうか。すでに邪神が崩してはいますが、滅することで決定的にこの世界はおかしくなりますよ」
「つまり、邪神は必要悪だと言うのだな?」
言葉はきつそうに聞こえるけど、意外にお兄様が落ち着いておられますね。その辺り、ちょっと不思議と言って良いですか?
「陛下は、冒険者をされていたと伺っております。その冒険は、血湧き肉躍るものではありませんでしたか? 邪神を滅すると、二度とその冒険が出来なくなるのです。その事実だけでも、邪神の存在理由があると思いませんか?」
「だが、邪神の手のものは民を殺すのだ。であれば、滅ぼして欲しいと考えてもおかしくないはずだ」
「では、他国も滅ぼせと仰りますか? まさかとは思いますが、他国と戦争をしたことが無いとは仰りませんよね?」
ねえ、それって議論のすり替えじゃない? だよね、話をすり替えているよね。でもお兄様が、考え込んでいるわ。つまり今の答えに、意味があったと言うことなの。
「では要求を少し変更する。勇者エクシブ、大魔法使いラズライティシアを失ったことで、邪神の手の者を抑えきれなくなってしまったのだ。従って、傾いた戦況を押し返して貰いたい。そして、我々の戦力増強を合わせてお願いをする」
「では、取りあえず押し返すことから始めますかね。恐らくご存じだと思いますが、妖精の里が邪神の攻勢を受けているところです。頃合いを見計らって、邪神の手の者を潰してきましょう」
どうして今すぐじゃないのって、疑問に思っても良いよね。うん、お兄様も同じなんだ。やっぱりこのおじさんって、どこかおかしいと思うんだ。
常識と言うものは、常にアップデートされていく物です。




