始まりの世界へ……
村の特産は異世界です
・始まりの世界へ……
秋分の日が終われば、次に待ち構えているのはIMO研究所の公式会見。つまり、月例報告会と言うことになります。もうね、出席希望者が多すぎて交通整理に困ってしまったわよ。前回が5千人の報道関係者だったんだけど、今回は倍プッシュと言うことで1万人となってしまいました。
まともに考えれば、こんな人数を収容できるホールなんてないのよ。前回の5千もギリギリだったんだけど、流石に1万は無理と立木さんもギブアップ。ただね、収容能力のあるホールなんて、まともに考えれば空いてるわけが無いのよ。だって季節も良いから、各種イベントがてんこ盛りなんだからね。
そこで鴻池さんに泣き付いて、場所を探して貰いました。うん、日本中で探すことになったわよ。周主席からは、『こっちで用意しましょうか?』なぁんてお誘いもあったんだけどね。鴻池さんが北の大地のドームに話を付けることで今回は遠慮させて貰うことになりました。
しかし、今後の月例報告会。こんなに人数が増えることはないと思うけど、場所の用意を考えないと駄目そうね。
しかしなぁ、広すぎって言って良いかしら。うん、プロ野球とかサッカーとかができるぐらいなんだからね。広さが十分以上ににあるのはわかってたのよ。それでも空いてるって、そこの事情には触れないけどさ。
それで開会は、いつもの立木さんがステージに立ちました。観客席を使わなかっただけマシだけど、大きなバックスクリーンには立木さんのアップがでででーん。
「本日は、9月度IMO研究所月例会見を開催いたします。参加希望者が1万人を超えましたので、急遽北の大地に会場をお借りすることとなりました。土壇場で会場確保に動いていただいた皆様に感謝いたします。また、土壇場での会場変更でご迷惑を賭けしたことをお詫びいたします」
この辺りは形通りなんだけどね。こんなに集まるのが悪いっ! なんて流石に文句は言えないんだよね。だからさぁ、次回からはオンラインで終わらせようかなんて意見まで出ていたりするのよ。
まあ、いろんな所から反対意見が出ているから、まだこの形式を続けるんだけどね。それでも、そろそろ潮時だと思うのよ。
「まずエンターテインメント部門の報告を行います。朽木君、宜しくお願いします」
と言うことでエンターテインメント部門の報告になる訳ね。ただ1ヶ月前と比べて、さほど大きな進展があったわけじゃないのよね。
「IMO研究所エンターテインメント部門の第1の柱、魔王城並びに異世界ツアーについて報告をさせて貰う。まず魔王城ツアーだが、現時点で恙なく執り行われている。これはひとえに、魔王ヴェルサティス様の協力の賜と言えるだろう。全く違う文化の世界から来た魔王様が、これだけ俺たちの世界に溶け込んでいる。上里集落、敢えて上里集落と言わせて貰うのだが、その設立目的が正しかったのだと確信できることだ」
そう、上里集落は、異世界から帰ってきた、一方通行で来た人たちのシェルターなんだよね。そして単なるシェルターで終わるのではなく、奈良の試行からもわかるように文化の交流・融合にあると思っているのよ。魔王様とその眷属たちは、その理念を体現してくれていると思うわ。
「次にブーランジェリー王国ツアーだが、こちらはツアーエリアの拡大を行っている。すでに好評を博しているワイバーンの体験飛行だが、新たなワイバーンを追加し対応人数の拡大に成功した。それもあって、オプショナル料金の引き下げを計画している。そしておかしの世界では、魔獣ツアー……こちらは、まだまだ危険性の除去が終わっていないのだが、護衛を付けることで開催することとした。その護衛なのだが、翼人ならびに始祖竜、その配下が受け持つこととなった」
そこで、新しいツアーの映像。うん、パンの世界とは違った景色が良いと思うわ。それに、魔獣……コカトリスとかなんだけどね、生きてる映像って、とっても刺激的だと思うのよ。他にも、面白そうな魔獣が沢山いるから、こっちも人気が出ると思うわ。
「そして名前の長い世界だが、いよいよ来月報道陣への公開を行うこととなった。D’sエージェンシーが窓口となって、取材申し込みを受け付けている。10月の取材枠がそろそろ埋まりそうな勢いと言っておこうか」
鴻池さんが、嬉しい悲鳴って言っていたわね。ただね、例の件なんだけど、本当に良いのかって立木さんに聞きにきていたのよ。先日の事件もあったから、マスコミを含めて完全にシャットアウトになっているのよ。理由、理由なんだけど、テロを含めた安全性を理由にしてくれたわ。
「次に収益のもう一つの柱、『今日の異世界に行こう!』なのだが、契約交渉が順調に進んでいることを報告する。そして『今日の異世界に行こう!』対応の意味で、無料招待枠を拡充することなった。当たり前だが、1日200の招待枠では回しきれなくなったからだ。現時点で、倍増と言うのがこの場での発表となる。これは、公開できるエリアが増え、対応能力が上がったことも理由になっている」
これもさぁ、ちょっと議論になったのよね。ただ味方を増やすために、無料枠を拡大すると言う決定をしたのよ。まあIMO研究所幹部会議では、全会一致での決定だったんだけどね。
「ちなみに、魔法都市特区に絡めて再度特区内の小学生を招待することとなった。本件に関しては、新たなエリアへの招待となる。なぜ優遇するのかと言うのは、魔法都市特区内だからと言うのが理由になる」
これが、特区協力に対する餌……そう、言い方が良くないか。だったら、恩恵の一つと言うことになるわね。
「最後に所属アーティストについてだが、AIKAは4カ国ツアーを行っている。そして春夏秋冬だが、『今日の異世界に行こう!』で日本各地を回っている。彼女たちも、タイミングを合わせてAIKAと合流してコンサートに出演しているな。今AIKAの妹、KYOKAがデビューに向けてレッスンを開始した。所属アーティストについては、現在報告できるのはここまでだな……違うか、今はAIKAのマネージャーをしている朝倉円香なのだが、AIKAをサポートする形で再デビューをする計画もある」
なのよね、今は藍香ちゃんを中心に、アーティスト活動の輪が広がっているところなのよ。だからかな、デビューしたいってメールが結構来ていたりするのよ。ただ人手不足……だけじゃないんだけどね、今のところ手が回らないと言うのが答えかな。うん、IMO研究所って普通の芸能事務所じゃないのがその理由ってところ。別にね、芸能界で稼ごうなんて考えていないのよね。それで質問、質問ね。
「IMO研究所の本務でないことは承知した上で伺います。更に芸能活動を広げることを計画されているのでしょうか?」
当然出る質問よね。だって、IMO研究所の所属アーティスト……アイドルって言わないわよ。アーティストの注目度って、非常識のレベルに到達しているもの。でもね、春夏秋冬も今更だけど結構化けてきていると思うのよ。今は藍香ちゃんのおこぼれを貰う形になっているけど、地道にファン層を広げているんだよね。
「その質問がでるのは想定されていた。ただIMO研究所と言うのは、元々人の寿命に挑戦する研究をする場所なのだ。ただ異世界への唯一の窓口と言うことで、その活用も行っていると言うのが実態となっている。それが、現在行われている魔王城並びにブーランジェリー王国公開と言うことになる。大きな収益源になっているのは確かなのだが、芸能活動と言うのは本来の業務ではなかったと言うことだ。そして本格的な芸能活動をするつもりはないと言うのが現在の方針となる」
そうなると、ちょっとした矛盾が出ているんだよね。そう、藍香ちゃんたちのことなの。春夏秋冬は、『今日の異世界に行こう!』関係者と言う理由が付いてくれるんだよね。
「AIKA並びにKYOKAでしたか、彼女たちは『今日の異世界に行こう!』に関係していなかったかと思いますが?」
「そちらは、はっきり言ってバグってる立木副所長案件だ。川崎のストリートで出会い、D’sエージェンシーの鴻池氏、そしてうちの光岡に紹介したのが理由となっている。両親が亡くなり、親戚の支援が得られず生活に困窮した彼女に対して差し伸べられた救いの手だと考えて貰えば良い。もしも彼女に歌の才能が無ければ、慢性的に人手不足のIMO研究所の職員になっていただろう。実は、今でもお茶くみを喜々としてやってくれているのだが……まあなんだ、その辺りは特例と言うことになるわけだ。ただ採用は特例だが、今はIMO研究所の強力な武器になっているのは承知の通りと言うことだな」
藍香ちゃんが強力な武器……もうね、しっかり外交手段になっているんだもの。研究所の顔と言う意味では、今や立木さん以上って言っても良いんじゃないのかな。
「現時点で、4つの世界に繋がっているのかと思います。この先、新たな世界と繋げる予定はあるのでしょうか?」
「4つの世界……4つの世界かぁ。その辺りの回答は、立木副所長からして貰うことにする」
「朽木君、何でも私に振るのは止めて貰えませんか?」
でもさ、異世界案件って立木さんマターだよね……そうだったっけ? まあ、本当なら諸星さんなんだろうけど、立木さんが仕切っているのは間違いないと思うのよね。
「本来ならば能動的に関係するつもりはない……とお答えします。よく引き合いに出す、法的根拠がないと言うのが一番の理由なのですよ。ですのでパンの世界、おかしの世界、名前の長い世界、これからの世界で終わりにしたいと思っています。思っているのですが、『帰還事業』と菅谷総理に説明しているのですが、こちらからあちらに連れ去られた方が戻ってくることを想定する必要があるんです。ですので、状況次第と言うのが答えになります。なるんですよ」
いつになく、立木さんの歯切れが悪いんだよね。それがわかるんだろうね、質問をした人が『それで』と先を促してくれたのよ。
「IMO研究所所長諸星氏が、異世界帰りと言うのはご存じかと思います。正確には死後異世界に転生し、魔王と誤認されて討伐対象となったそうです。ただ勇者エクシブ、大魔法使いラズライティシア様をもってしても、討伐が叶わなかったのだそうです。そのため大魔法使いラズライティシア様が、己を犠牲にして異世界に封印した……その結果、諸星氏、エクシブ君、ラズライティシア様、ルーテシアさん、セレスさんの5人がこちらの世界に転移してきたんです」
そこで一息入れて、なんか、本当に言いにくそうにしているわね。
「暴力の最高峰である勇者エクシブ君、そして魔法の最高峰である大魔法使いラズライティシア様がいなくなったことで、あちらの世界では邪神の侵攻を止めることが出来なくなったそうです。そこであちらの世界を統べる女神エンビジョンが、大魔法使いラズライティシア様を拉致しにこちらの世界に来たんです。なぜ拉致と説明したかと言うと、本人は帰るつもりがないからと言うことになります」
「つまり、あちらと称した世界と関わる予定があると言うことですか?」
まあ、今の話からすればそうなるよね。だけどさ、それだったらもっとすっきりと答えていると思うんだ。
「魔王樹の森を送り込んできた世界もそうなのですが、私たちが手を出す法的根拠がないんです。ですから、今までなら『手を出さない』と言うのが答えになるわけです。ただですね、IMO研究所は所長である諸星氏が最高意思決定権を持っているんです。諸星氏の性格的に、見捨てられないと言うのがあるんですよ」
「つまり、諸星さんが関与を決定されたと言うことですか?」
「それだったら、もっとすっきりするんですけどねぇ……なんとかなりませんかと相談されてしまったんです。勿論、これまでとってきたIMO研究所のスタンスを理解された上でのことですよ」
ああっ、質問した人の顔に苦笑が浮かんでる。どうやら、立木さんが困っている理由が理解出来たみたいね。でもね、それって実は誘導されているんだ。
「組織として関わることは出来ない。だったら、個人としてどうするのかと言うことです。ちなみに先ほど上げた5人は、今更帰るつもりはないと言う答えを貰っています。更に付け加えるのなら、大魔法使いラズライティシア様は魔法特区絡みで多忙となっています。その意味で言うと、私も忙しいんですけどねぇ……」
「つまり、立木さんが出向かれるのだと?」
「諸星さんに頼まれてしまいました。ですので、私がシオン……失礼、エリシオンを連れて出かけることになりました。せっかくですから、自衛隊から来ている白船君を記録係として連れて行くことにします。観光開発の価値があると判断できたら、積極的に世界を繋げることになるのでしょうね。気が進みませんけど」
本当に嫌々って言う空気を全身から放ってくれているわね。でも、諸星さんの命令には逆らえないって印象づけるのには成功したわね。誘導の意味、もうわかってくれたかな?
「私にしたところで、さほど長期間留守にするわけにはいきません。ですので、エリシオンの力で邪神を蹂躙することを考えています。それに加えて、見所のありそうな魔法使いを鍛えることも考えています。こちらに連れて来れば、色々と鍛えることも可能ですからね」
その問題は、帰るのを嫌がることね。後はエルフだったりしたら、立木さんのコレクションに加わることかしら。でも、女神様は頑なに拒んでくれたんだよね。うん、スピアーノさんとエンビジョンさん。そう言えば、パンの世界とおかしの世界の女神様はどうなってるんだろう?
「では、研究部門の発表を行います。まず、IMO研究所が設立する大学についてオルティアから説明いたします」
「私が学長となる大学……大学名称は現在公募中となっています。ブーランジェリー王国、シャトレーゼ王国、フィアッタラノーボルクランボレフェラーロアウダボルオースチジャガロルスポルスベンベシトロエ王国、スハハトクサイカス王国は用地の確保が完了し、学舎建設も順調に進んでいます。そして白鹿村のご協力で、大学本部並びに大学病院の建設も始まりました。まだ整地の段階ですが、最先端技術を投入して建設を加速して参ります。以上が大学の入れ物の状況となります」
最先端技術、ねえ。諸星さんが現地に行って、ああしろ、こうしろって言うのが最先端技術なのかなぁ。でも、それが一番早いってのは確かなのよね。しかも今なら、全部魔法で説明が付いちゃうから都合が良いのよね。
「なお付属中高は、大学と同じ敷地に建設することとなります。そして大学の魂となる教授連なのですが……」
そこでオルティアさんが大きく息を吐いてくれました。うん、交通整理がもの凄く大変だったそうよ。だからってことも無いけど、立木さんに甘えていたのを知っているんだ。
「ケンブリッジ、MIT、スタンフォード、ハーバードから多数の希望者がありました。そちらの選考がようやく終わったところです。それ以外にも、民間の研究機関からも多くの派遣希望を受け取っています。日本国内についても、同様の状態となっています。現在想定している大学の規模に対して、応募者が多すぎると言うのが現状となっています。そしてそれは、大学への入学希望者も同じ状況となっています。関係者1万人規模を考えていたのですが、このまま拡大すると10万人規模の研究都市……で良いのでしょうか。研究都市になってしまいそうです。ちなみに中高は、1クラス40名相当、1学年2クラスを計画しています。ここから先は、立木副所長にマイクを譲ります」
オルティアさん、すっかり日本語が達者になったわね。やっぱり言葉を覚えるのって、ピロートークが良いってのは本当だったのね。元々オルティアさんが優秀と言う異論は受け付けません。
「では魔道具関係ですが。数量が増えたこと以外に進展はありません。現在行われているのは、関係者を限定した新しい魔法の開発となります。こちらは名古屋の大学に協力いただき、工学的な活用方法を試して貰っているところです。流石に原子構造まではいじれていないのですが、新たな化合物が出来そうと言う報告を受けています。それから細胞の方ですが……魔法都市特区の影響を受けて停滞していると言うのが答えになります。こちらは、大学に人が集まることでの加速を期待しています」
もうね、御衣黄さんと武見君が過労死寸前……と言うのは言いすぎかな。でも、かなり疲れているのは確かなのよ。後は、あまり発表できない研究とかもしているんだよね。うん、魔法方面での話。
「大学並びに付属中高ですが、事務方としてトップに諸星所長を据えることになりました。それに加えて、魔法都市特区検討メンバーにも理事としての参加を了承して貰っています。加えて米英中露からも、理事の派遣が行われます。教育機関設立に必要な資金ですが……とても多くの寄付を受けていると言うのが答えになります。それから白鹿村に大学病院を作ることを説明しました。それに加えて、米国カリフォルニア州アーバインにも大学病院の分院を作ることになりました。両病院では、現代医学と魔法を活用した医学の融合に関する臨床試験を行うこととなります。ちなみに設立時で病床数2千の計画となっています。そのうちの1千が白鹿村にある附属病院並びにブーランジェリー王国に用意されます。そして残りの1千が、アーバインの分院に用意されます。なお英国、ロシア、中国にも分院計画が立ち上がっています」
日本最大の病院が1400床ぐらいなんだよね。それに匹敵する病院が、いきなり僻地……もとい魔法都市特区内に出来てしまうのよ。そうなると、ね、わかるよね。つまり、病院スタッフも沢山必要ってわけ。従って、看護師学校も作られることになったのよね。ハイエルフとか闇エルフを集めても全然足りないのよ。
それから、看護師学校には異世界人も連れてきます。そうしないと、圧倒的に人が足りていないの。それからもう一つ、関係者の住まいも足りなくなっているのよね。だから魔法都市特区内は、建設申請のラッシュになっています。ちなみに異世界側にも、スタッフ用住居が建設されていたりするのよね。
それからそれから、魔法都市特区なんだけど、ちょっとエリアが広がったりしました。うん、池田町と松川村の陳情があったのよ。大谷村、白鹿村からの推薦もあったから、めでたく仲間入りと言うことになりましたとさ。いつ安曇野市を飲み込むのかが、わりかしホットな話題になっています。
松本市? 流石にあそこは大きすぎるのよ。だから、セカンドステップ以降と言うのが答えになるのよね。
「最後に国内の大学連携なのですが、東の大学、名古屋の大学、京都の大学、奈良の大学との協定が締結されました。今後拡大は見込まれるのですが、ここから先は理事会マターとなっています。以上で、研究部門からの報告となります」
ちょっと盛りだくさんすぎたかな。それに、エンターテインメント部門とは、全く毛色が異なっているのよ。どう言うことかと言うと、記者さんのバックグラウンドが変わってくるということ。
だから質問……あれって、どう見てもあっちの人だよね。
「EUニタイシテモンコヲヒラクヨテイハアリマスカ?」
「日本国総理大臣の命を狙い、内親王殿下を危険に晒し、なおかつ4カ国首脳の集まる場所を狙ったEUを、ですか?」
ああっ、立木さんが事実を陳列してくれたわ。これを持ち出されると、昔なら戦争になっていたところなのよね。だって、バックに各国政府がいるのが明るみに出てるんだもの。
「ソレデモ、ハイジョスルノハモンダイガオオキイトカンガエラレマス」
「だから、門戸を開けと言うのですか? まだ政治体制が変わったとは聞いておりませんが?」
暴動自体は至る所で起きているのよね。ただ、まだ選挙が行われていないし、EUと言う組織に変化は起きていないのよ。だから5カ国は、相手にしないことで合意していたりするのよね。勿論、表向きはと言うことなんだけど。
「勘違いしていただきたくないのですが、個人を排除しているつもりはありません。優秀な研究者は歓迎すると申し上げておきます。日本政府、それから他の4カ国は、帰化を歓迎するのだそうですよ」
「IMOケンキュウジョガハイジョシタコトガ、カゲキナコウドウノゲンイントナッテイルノデハアリマセンカ?」
「ちなみに私どもに対して、EUからコンタクトはありませんでした。研究成果の提供、そして日本企業に対する制裁検討……すべて、皆さんから教えていただいたものです。その際に、どのような対応を取るのか、IMO研究所としてはその質問にお答えした程度ですよ」
ああっ、嫌みったらしいことを言ってくれたわ。
「具体的制裁措置なのですが、日本国外に対する無料招待はまだ始まったばかりです。今のままだとアジアから出られませんので、朽木君から報告したとおり、招待枠を増やすことにしました。事実として、EU圏を排除した実績はありません。言葉としては、まあ何度か臭わせてはいるの否定いたしません。ただ臭わせている程度で、具体的にどうしたと言うのはないんですよ。加えて言うと、最初に協力していただく国は選ばせていただきました。EU諸国は、その選から漏れた程度でしか有りませんよ。それなのに、随分と過激な行動を取ってくれたのではないでしょうか。話し合いではなく、実力行使に出てくれたわけです。本当はやりたくないのですけど、こちらも行動で示す必要が出てしまったと言うことです」
ああ、あっ。ぜぇんぶ責任を押しつけてくれたよ。でも、『事実』だけ取り上げると、立木さんって何も間違ったことを言っていないのよ。
でもさぁ、これ以上の質問は傷口を深くするんじゃないのかな。ひょっとしてあの質問者、それを狙っていたのかしら。つまり、EU関係者じゃないってことか。
「最後に教えていただきたいのですが、あちらの世界、で宜しいのでしょうか。いつ出向かれることになるのでしょうか?」
「定例会見が終わるのを目安にしていました。準備も出来ていますので、一度温泉でのんびりしてからと言うことになります」
ここで温泉を入れてくれるのが立木さんなんだよね。それで、次はどこに行くんだっけ? 大悟君と杏香ちゃんを連れてリゾート……新潟に行ってくるのね。それで誰を連れて行くのかしら? 孫を連れて行くのだから慶子さんと行くのね。そうかぁ、孫と言ってくれたか。
美味しいブドウ狩りをさせてあげたい。うん、孫孝行には良いと思うよ。年寄らしくてね。
なんか俺が悪者になった気がするのは気のせいなのかな。気のせいではない、所長の我が儘に振り回された形にした。これも世間向けのポーズと言ってくれるのだな。だけどそのポーズ、今更意味のあることなのだろうか。
俺を悪者にした異世界遠征……ちなみに、あちらの世界は『始まりの世界』と呼称することになった。なぜ『始まりの世界』かと言うと、俺が転生、転移? したことがすべての始まりだからだそうだ。
ちなみにこの遠征が決まったことで、女神エンビジョンが飛び跳ねて喜んでいたな。これであちらの世界での権威も保てるのだそうだ。
追加情報なのだが、この遠征に志願者なんか出たんだ。うん、ケンゴー君とニロさんの二人。もう一人エクステラさんなんだけど、冒険は引退するのだそうだ。まあ、戦う理由が無くなったんだから、お姫様が戦う必要が無くなったのは確かだと思うよ。
ちなみにケンゴー君は、じっとしていられないと言うのが理由なのだそうだ。立木さんが言うには、穀潰しになることへの強迫観念があるらしい。だから、一番自分に馴染んだ戦いの世界に身を投じることにしたようだね。
そしてニロさんは、立木さんとエリシオンさんへの興味が一番らしい。今回はガチ戦闘になる可能性が高いから、色々と勉強できると考えたみたいだね。だけどさ、立木さんにガチ戦闘なんかさせて良いんだろうか。
「うむ、シオンが着いておるのだ。万が一にも危ないことはないであろう」
そうかなぁ、小鬼なんて数を頼みに襲ってくれるんだぞ。それに野生動物だって、殺る気満々だった記憶があるんだよ。それを考えたら、油断大敵って言っていいと思うんだ。
「それに、ケンゴーも同行するのだ。殺し合いの世界に身を置いていたのだから、奴は実力以上に強いと思うぞ。その意味で言えば、ニロも強いのではないか?」
そっか、あの二人は命がけの戦いに出ていたんだよな。だったら、躊躇がないと言えば良いのか、こちらの人に対する強みを持っている訳か。
「それからシオンは、白船のことを評価しておったぞ。だからコウメイよ、あまり心配する必要はないと言ってやろう」
そう言えば、白船君は陸自のレンジャー資格を持っていたな。それを考えれば、立木さん以外は戦闘経験者ってことになるわけだ。
「実はキヨヒコが一番恐ろしいのだがな」
なんでって言って良いよな。だって立木さん、65……66になったのか。もう、しっかりお年寄りなんだよ。若い頃に比べて、身体も動かなくなったってぼやいていたんだよ。その立木さんが一番恐ろしいって……なじぇ?
「帰ってきたら、白船にでも聞いてみることだな。それはそうと、エリーカで良かったか。ぬしのために連れて帰ってくると言っておったぞ」
エリーカって、王妹殿下だったっけ。そのエリーカだよね。うん、じゃじゃ馬エリーカ。ちょっと……いや、かなりだけど要らないかなって言っても良いかな。なんです、その手遅れと言うのは?
「うむ、キヨヒコが悪い顔をしておったのだ。どうやら、エンビジョンに神託を下させるようだぞ」
そんなことあり? って疑問に思って良いよな。思っても良いが、今更手遅れと言ってくれますか。俺が何を言っても、ポーズにしか見えないとまで言ってくれます?
「大人しくしておれば、あれはあれで中々可愛らしいのではないか。勿論、大人しくしておればなのだがな」
俺って、一介の冒険者だったんですよ。その俺の所まで、王妹殿下の悪評が伝わってきたぐらいなんです。それを考えたら、大人しくしていれば? 絶対に無理に決まってるじゃないですか。だぁれも喜ばないから、政略結婚が成立しないって評判だったぐらいですよ。
それぐらいだったら、ソアラの方が良いと思うんですよ。セレスがいるから、今更と言う気がするのも確かなんですけどね。だったら両方って……俺ってどう思われているんですか?
それはそうと、弟子になりそうな魔法使いの心当たりがありますか? 一応はある。ただ、連れて来るのは難しいと言ってくれますか。ひょっとして、妖精の里関係者と言いませんよね。そうですか、妖精の里関係者ですか。まともに考えれば、あり得ないと言って良いですよね。だって妖精……こっちで言うハイエルフですけど、思いっきり人を見下していましたよね。
「そしてわれは、奴らにしてみれば一族の恥さらしなのだからな。ひよっこどもがピーチクパーチクと煩いので、何度滅ぼしてやろうと思ったことか」
そうですか、滅ぼしてやろうと何度も思ったんですか。それで質問なんですけど、どうして滅ぼさなかったんですか?
「理由は簡単だな。面倒だったからだ」
その程度のことだったと言うことですか。それで、立木さんたちは妖精の里に行くことになるんですか?
「攻め込むと言っておったような気が……まあ、気のせいだろう」
どうして立木さんが攻め込むことになるんです。ラズライティシア様、一体何を立木さんに吹き込んだんですか?
「なぜ、われに理由を求めるのだ?」
ラズライティシア様だからです。間違いなく、『罵られている』とか伝えてますよね。
「嫌われておるとは教えたがな。後は、妖精族の恥さらしと言われておるともな。ただな、われは事実を伝えただけだぞ」
そうですか、事実を伝えただけと言ってくれますか。それって、間違いなく『告げ口』に類するものですよね。立木さんが本気で攻め込んだら……クロアたちが手を貸す可能性のあるわけですよね。そうなったら、妖精の里なんて跡形もなく吹き飛んでしまいませんか?
なんです、クロアが手を貸さなくても吹き飛ばせると言うのは。ひょっとして、エリシオンさんが吹き飛ばすとか言っていませんか?
「ちなみに、シオンの立場もわれと同じだからな。只人に身体を許した、一族の恥さらしと蔑んでくれるであろう」
そうですか、最悪と言って良いですか。それから疑問なんですけど、始まりの世界に行くのは、邪神対応のはずですよね。どうして、妖精の里蹂躙が目的になってくれるんです?
「どうしてと問うてくれるか。そうだな、キヨヒコが我を愛してくれておるから、と言うのが理由だな」
それって、ラズライティシア様の私怨を晴らすってことになっていませんか? 滅ぼさないまでも、常識を塗り替える。やっぱり私怨を晴らすことになってるじゃ有りませんか。
なんか拘ると恐ろしいことを聞かされそうな気がしてきましたよ。だから忘れることにするんですけど、ちなみに候補ってフラミニアでしたっけ。彼女のことを言っていますか?
「なんだ、コウメイも知っておったのか。シオンには劣るが、なかなかの美少女だと思うのだ。キヨヒコのエルフコレクションにはうってつけの人材だと思うぞ」
もしもし、なぜエルフコレクションが出てくれるんです? なんです、その女神への対抗と言うのは。嫁と娘を合わせれば、女神は7柱いる。それに引き換え、アイゴを加えてもエルフは4人と言ってくれるんですね。
それはそうと、いつの間にアイゴが加わったんです? どさくさ、どさくさ紛れと言ってくれますか。なるほど、一度壁を越えてしまえば後は楽になってくれるんですね。それって、藍香ちゃんが言っていた奴ですよね。うん、藍香ちゃんの場合は成功していないけど。
私、私が誰と聞いてくれますか。言葉遣いが気持ち悪いって、酷いことを言ってくれるのですね。これでも私、女神様だったりするんですよ。女神じゃなくて邪神、邪神と言ってくれますか。あのですね、女神に聖邪の区別なんかないんです。だから私は女神様で間違っていないんです。そもそも善悪って、立場を変えれば変わってくる物ですよね。それにですね、私もこの世界の安定と繁栄のために働いているんです。世界と言うものには、適度な緊張が必要なんですよ。だから私は女神様なんですよ。
それからですね、この見た目は演出と言う物なんです。だって『邪神』で良かったのですよね。邪神が可愛らしい姿をしていたらおかしいと思いませんか? ですので、見た目の年齢を上げたり、犬歯を伸ばしてみたり、目の周りに隈を入れたり、思いっきり目を吊り上げたりして見せたんです。どうです、邪悪な存在に見えますよね。ただまあ、美しさは隠し切れていないとは思いますけどぉ。
しかしてその実態は、エンビジョンとは違って美少女だったりするんです。だから、邪悪に見える演出が必要になったと言うことです。お前の名前はと聞いてくださいますか? でしたら特別にお教えいたしましょう。はい、私はエテルナって言います。生まれの順で言えば、エンビジョンの妹ってことになるんでしょうかね。ちなみに頭の方は、間違いなく私の方が賢かったりします。
それで賢い私は、ちょっと闇の勢力の影響圏を広げようかななんて考えたんです。その時に邪魔になるのは、エンビジョンなんて頭の悪い女じゃなくて、私より年上のおばば……妖精族のラズライティシアなんです。
でもあのおばばはなんなのですか? どう見ても、私たちより強そうなんですよ。妖精族のはずなのに、妖精族を超えた存在になっているんです。しかも人間族の若い男を囲ったりして、羨ましいったら……ゲフンゲフン、妖精族にあるまじき行いだと思うんです。だからですね、妖精族からは思いっきり嫌われていたりします。それどころか、私に向ける以上の憎悪を向けられていたりするんです。恥知らず程度なら可愛いもので、化け物とか、耳が長いだけのゴミとか公然と口にしていたりするんです。はい、命知らずと言えば良いのかなんと言えば良いのか。おばばがその気になったら、妖精族の里なんて一夜にして消滅してしまうのにね。お陰で、おばば、つまりラズライティシアだけを気にしていれば良いので楽だったりするんですけどね。
それなので、目の上のたんこぶ……ものもらい? 何でもいいのですけど、次の段階としてラズライティシアの排除を計画しました。その方法なんですけど、上位神様がちょうど良いコマを送り込んでくれたんです。そのコマを利用することにしました。そのコマですけど、はい、コーメー・モロボシと言う男のことです。ちなみにこの男の力も、私の力を凌駕してくれてます。やってられないと言えば良いのか、なんと言えば良いのか。ちょっとやさぐれたりしたんですよ。ただまあ、利用価値があったので我慢したんですけど。
わかりますよね、はい、ラズライティシアをコーメー・モロボシにぶつけたんです。ただ何もしないと、お互い干渉しないで生きていくことになります。ですので、アホな人間に囁きかけて……ちょっと餌をぶら下げたとも言えるんですけど。コーメー・モロボシを『魔王』として討伐させることにしました。
笑っちゃうよね
だってあのぼけっとした男が、よりによって『魔王』だなんて。どう見ても、『魔王』ってガラじゃないと思うんです。だけど欲に目が眩んだ男には、彼の本性なんてどうでも良いことみたいね。それだけ国王に対する恨みが深いってことかな。うん、餌ってのは国王を追い落とす手助けをすること。
それで手駒の官僚を使って、王命を偽造してくれました。はい、コーメー・モロボシ討伐の王命偽造です。まあね、傍から見たら得体が知れない存在と言うのは間違っていないのよ。だって私の手駒が、あの男の言うことをとっても素直に聞いてくれるんだから。それを見せられたら、『魔王』って決めつけも不思議じゃないことになるのかしら。だからかな、意外に反対されなかったりしたのよ。
そこでちょっとした手違いは、冒険者ギルドの受付嬢が騒いでくれたこと。まあ下っ端中の下っ端だから、騒いだからって大勢には影響が出るはずが無いんだけどね。でも間違って王様の耳に届いたりしたら、手違いが起こる恐れも微レ存だったのよ。だから扇動に乗った冒険者に、息の掛かったものを紛れ込ませてみました。うん、ちょっとした破壊工作をして貰ったの。
その結果、受付嬢は役人に捕縛されました。本当なら死刑にしたかったんだけど、重い刑は国王にまで上がることになっているのよ。だから人目に付かないよう、座敷牢に軟禁程度で済ませておきました。これで、手違いの芽を摘んだことになるわね。そしてラズライティシアは、計画通りコーメーもろとも異世界に封印されました。その際ちょっとだけ封印魔法に干渉して、例の世界に飛ばすことに成功しました。これで、間違っても帰ってくることはないでしょう。つまり私の勝ちと言うことです、えっへん!
間抜けなエンビジョンが騒ぎ出しても、もう手遅れと言ってあげましょう。だってあちらは、上位神様の直轄地なんですよ。下っ端女神が陳情に言ったぐらいで、相手にして貰えると考える方が間違ってるのよ。
さて、ここまで仕掛けが進んだのだから、次は抵抗の芽を摘むことにしましょう。はい、目障りな妖精族を滅ぼしてあげるんです。だって妖精族、ラズライティシアを蛇蝎のごとく嫌っていても、種族として同じと言うのは間違っていない……間違ってないよね。間違ってはいないと思うんだけど、いまいち自信が無かったりするんだ。だって、あまりにも見た目が違いすぎるから。
それはおいておくとして、まかり間違って大魔法使いが生まれたりしたら大変でしょう。だから根こそぎ駆除してやろうかなって考えたわけですよ。
と言うことで、配下の魔神将を2ケ……もとい2名を派遣することにしました。魔神将の下には、それぞれオーガが5、オークが20、小鬼が5百いたりします。その小鬼なんですけど、シャーマンとかホブとか、上位個体も大盤振る舞いさせて貰いました。
これだけの戦力を集中すれば、妖精族の里なんか3日でぺんぺん草1本生えていない荒れ地にしてくれると思います。妖精族は、王族含めて嬲り者……嬲り殺しにしてくれると思うわよ。
それからですね、まかり間違って人間族と共闘されたら困るんです。なので、人間族の方にもちょっかいを掛けることにしました。都合が良いことに、エンビジョンはあちらの世界に陳情に行って不在なんです。バカですよね、本当にバカだと思いますよ。貴方が不在になったら、私が好き放題出来るじゃありませんか。はい、だから好き放題させて貰うことにしました。
滅ぼすのか、ですか。滅ぼしませんよぉ、滅ぼしたりなんかしませんよ。だって私の配下にも餌……食糧が必要なんです。だから、人間族は家畜として残しておく必要があるんです。後はですね、娯楽って必要だと思うんです。その娯楽の意味でも、人間族って都合が良かったりするんです。
虐殺、陵辱楽しいなぁって
いえ、これは私の感想じゃ有りませんよ。私の配下の気持ちを言葉にしただけのことなんです。食糧にもなって娯楽にもなる。たまぁに配下が殺されたりしますけど、その方がスリルがあるって喜んでくれたりするんです。なので、人間族は滅ぼさないよう気をつけていたりするんですよ。
それで何をしたのかと言うと、国王の居城を襲撃させました。ただこの襲撃、退けられるのを前提にした襲撃なんです。なので使ったのは、掃いて捨てるほどいる小鬼が2千ほどです。上位種も一応混ぜましたので、それなりの戦力にはなっていると思いますよ。後はですね、戦況に応じて追加なんかも考えていたりするんです。簡単に負けたりしたら、目眩ましになりませんよね。
あの王様にも活躍の場を与えてあげるんですから、なんて親切な私なんでしょう! と自画自賛なんかしてみたりします。えっへんっ!
どこのドームとか言いません。だから、固有名詞を出さないように




