誕生前
村の特産は異世界です
・誕生前
王国なんですけど、それはもう酷いことになっています。だって、闇の勢力の攻勢がこれでもかってほど続いているんですよ。それをなんとか支えて……いるのかな。かなり苦しんでいると言う話が伝わってきます。その辺り、最大の戦力を失ったことが理由になっています。だって勇者エクシブ様、神話の世界から生きてきた大魔法使いラズライティシア様を失ってしまったんですよ。相手の大物って、あの二人だけが倒していたりするんです。
それからですね、地味に活躍していたのがコーメー・モロボシでしたっけ。その駆け出しの冒険者だったりするんですよ。その方まで同時に失ってしまったので、お兄様が出陣されると言う話にまでなってしまったんです。ええ、確かにお兄様は、冒険者としてかなりの活躍をしたのは確かですよ。でもですよ、引退して5年は経っていますし、言っては悪いんですけどエクシブ様より弱かったりするんです。だから焼け石に水、言葉は合っていますよね、焼け石に水にしかならないと思っています。
それからですね、実は私裏の話を知っていたりするんです。はい、今回と言っても2年ほど前のことなんですけどね。今回の不始末の裏って奴のことをです。ええ、お兄様が気にいらなくて、闇の勢力と手を組んだ貴族がいたんです。それでお兄様の足を引っ張るため、戦力の潰し合いを画策してくれました。その結果ですけど、最大の戦力を失ってしまったんです。その貴族と手を貸した官僚はお兄様が潰したんですけどね、当たり前ですけど失われた戦力は戻ってきてくれないんです。
それでですね、私は女神エンビジョン様の神殿勤めをしているんです。お前は誰かと問うてくれますか。確かに自己紹介をしていませんでしたね。聞いて驚かないように、私は現国王ギャランの妹に当たるエリーカと言います。それからそこの者、嫁ぎ遅れと言うのはあてはまりませんからね。歳からしたら嫁ぎ遅れ。あのですね、回りの貴族にいい男がいないのがいけないんです。だからこのまま神殿勤めでも良いのかなぁ、なんてことを考えたりもしているんですよ。
話を戻しますけど、女神エンビジョン様に仕えていたりするわけです。それで朝昼晩とお祈りをするんですけど、そこで神託なんてものを授けられたんです。闇の勢力に負けているからでしょうね、女神様としては放置できないと言うことだと思います。それで、その神託なんですけど……
ギルド職員ソアラ・レクサスを解放すること
だったりするんですよ。なんで、って言って良いと思いますよ。この窮地に、どうしてギルド職員の解放なんて神託が出るの? 全くわけわかめなんですけどっ!
なぁんって不信感バリバリの顔をしていたら、もう一つ神託が降りてきました。こちらはですね、ラズライティシア様とエクシブ様の帰還を交渉すると言うものです。圧倒的に不利な状況を考えれば、あのお二人が必要と言うのは間違っていません。間違っていませんけど、『交渉』ってなんですか? 交渉すると言うことは、居場所がわかっていると言う意味ですよね。居場所がわかっていて交渉……つまり、女神様が交渉する相手がいるってことですよね。つまり相手は同格? の神様と言うことですか。
それでも女神様の神託があった以上、王様……つまりお兄様なんですけどね。お兄様に伝える必要がある訳です。それで王様(お兄様)や大臣(従兄)たちの前で、女神エンビジョン様の神託を伝達するわけです。
ええ、ありのままをお伝えしましたよ。本当にありのまま伝えたんですけど、まともに考えれば信用できませんよね。はい、伝達する私だって信用できていないんですから。ただですね、私が受けた神託には間違いないわけです。だとしたら、女神に仕える者として、そのままお伝えするのが義務と言うことになるわけです。
「レクサス家のソアラを解放するのは良い。冒険者たちを扇動したと言っても、結果的に言っていることに間違いは無かったのだからな。だがなんだ、その大魔法使いラズライティシア様、勇者エクシブを返して貰えるよう交渉すると言うのは。何故この世界を統べる女神エンビジョンが、交渉などしなくてはならないのだ?」
困惑、と言うより怒ったようなお兄様……もとい王様。気持ちはわかりますけど、私に言われても困るんです。私は、神託を受けた者としてありのままお伝えしただけですからね。
「しかし陛下、死者の世界であれば、女神様の管轄外と言うことも考えられます。異空間に封印して、早2年が過ぎようとしているのです。まともに考えれば、生きていると考えるのは難しいのかと」
これは大臣、つまり従兄の意見。うん、とっても真っ当だと思うわよ。どこか知らない土地だったら、そりゃああの人たちだったら生きていけると思うわよ。でもね、魔王を封印するつもりで異空間に渡ったんでしょう。だったら、食べ物とかあるって考えるのはご都合主義だもの。
それを考えたら、死後の世界って大いに有り得るんだよね。そして死後の世界から連れて帰ってくるためには、女神様でも交渉が必要になるのだと。うん、十分理に適っていると思うわよ。ただ、そんなことをしてもいいのかって気はするんだけどね。
それでも、女神様が交渉するっ! と言っているのだから、そちらは任せておくしかないよね。そうなると、残るのはレクサス準男爵家4女ソアラを解放すること。理由はわからないけど、そっちはとっても簡単だと思うのよ。だって、通達を回せばそれですむことでしょ。
それなのに、どうしてお兄様……もとい、王様が出向くことにするの? 相手の格を考えたら、むしろ嫌味になると思うんだけど。受け入れ側が準男爵なんだから、適当な役人を派遣した方が親切だと思うの。
「女神が神託を出したのだぞ。一つの間違いもあってはならないと考えた」
そりゃあ、邪神に与する勢力は根絶やしに出来ていないわよ。私だって、危機一髪と言うこともあったぐらいだからね。だからと言って、王様自ら出向くようなことじゃないと思うのよ。
一つの間違いもあってはならないと言うのはわかるわよ、それで本音はなんなのかしら?
「うむ、ちょっとした興味と言う奴だ」
興味ね。一番否定しにくい答えを口にしてくれたわね。お兄様……もとい王様、女性に興味を持ったと言うことじゃないのよね。そう、違うと言ってくれるんだ。お兄様も良い年なんだから、いい加減后を迎えないとダメなのはわかってる?
ところでお兄様……もとい、ああ面倒ね。ギャラン兄様、女性の好みってあるのかしら? 例えばだけど、兄様のパーティーに戦士の女性がいたわよね。ああいった女性が好みとか……違う、喧嘩をするには良いが、妻として迎えたいタイプではないと言ってくれるのね。だったら、大神官になった女性は……そう、あんなおっかない女性は嫌だと言うんだ。もうさぁ、良い年になったんだから、おかしな理想を追い求めない方が良いと思うわよ。
「否定はしないのだが、お前も鏡を見た方が良いのではないか?」
私? 私は気楽な王妹様だからね。しかも神殿勤めをしているから、このままでも良いかなぁって思ってるのよ。それとも兄様、私を政略結婚に使おうとか思ってる?
誰もありがたがってくれない。だから政略結婚には使えない……ちょっと暴れたくなったけど良いかしら?
9っ月ぅ~って意味の無い言い方をしてみました。はい、上里集落の良心、人気急上昇中の秘書Oです。どこが人気急上昇と言ってくれるか、ですか。これが、本当に人気が急上昇していたりするんです。ただですね、それが主にロシア方面なんですよ。どうやら、伊勢志摩の映像が決め手になったみたいなの。美味しいイクラがあるから、飲み明かそうなんてお誘いが沢山来てるの。そう、色気じゃなくて飲み気の方で人気なのよねぇ。
美味しいイクラって、確かタッパー一杯のイクラをウオツカで飲む絵があったよね。もしかして、あれをすることが出来るのかしら……ところでロシアなんだけど、イクラの醤油漬けって有ったっけ?
魔法都市特区の方だけど、JRが中心になって交通プロジェクトを回しています。でもね、不思議なのはこっちのプロジェクトリーダーもお年寄りなのよ。なんでって言ってもいいと思うんだけどね。
そのプロジェクトリーダーの人。中里さんって言うんだけど、スポーツ刈りをごま塩にした典型的なお年寄りなの。だけどね、もの凄く馬力が有ると言えば良いのか、どんどん計画を進めていってくれるのよ。そのお陰、お陰だと思うけど、信濃大町から糸魚川までが、完全に転移ゲートに置き換わってくれました。お彼岸前までに終わるって、どんだけ突貫工事をしたのかって言いたくなったわ。
「自動改札を掻き集めるのに時間が掛かっただけです」
自動改札機を掻き集めたのですか。普通だったら、新品を持ってきますよね。
「いえ、こうやって掻き集めるのは災害等でよくあることです。それに新品ともなると、途端に納期の問題が出てくるんです。なので、使用頻度の低いところから引っぺがすのが一番手っ取り早かったりします。勿論、新品の手配も行っていますよ」
そうですか、機能実現を第一にしてくれたんですね。それで、ゲートは……転移方向がわかりやすいように、ホームの出口駅側に入り口を作った。出口は、入口駅側に作ったんですね。いえ、すれ違い駅ならそれで良いのはわかりますよ。でも、大糸線って基本的に単線だったと思うんです。ホームが一つしか無い場合は……そうですか、原則として同じ設置をしたんですね。
残りは屋根を作るのに時間が掛かっている……ええ、仰ることは理解出来ます。移動が目玉になっているから、とにかく鉄道……鉄道機能の代替機能実現を優先したと言ってくださるのですね。
「開通式を秋分の日に行うスケジュールになっています」
魔法都市特区発表から1ヶ月と思うと、思いっきり早いって言って良いですか? そうですか、競争だと言ってくれるんですね。鉄道マンの誇りに掛けて頑張った。ええ、もの凄いと賞賛されても良いと思います。
それはそうと、主要駅との接続はどうなっていますか? そうですか、あちらは場所の選定に手間取っているんですね。わかります、わかりますよ。だって東京、品川、新宿、池袋……大宮と横浜もかな。余ってるホームなんて有りませんものね。取りあえず準備の出来たところから繋ぐことになっているんですね。はい、了解です。
それで大町市のバス停なんだけど、地場のバス会社さんが張り切ってくれました。これから紅葉の季節と言うこともあって、扇沢……と言ってもピンとこないかな。黒部ダムの入り口を最優先にバス停を整備してくれたんです。信濃大町駅バス停に検札所を作って、直通転移ゲートを作ればことが足りるわけですからね。やりやすいと言えば、やりやすかったと言うことです。そしてJRの開通式に合わせて、こちらも秋分の日にお披露目と言うことになりました。
他のバス停は、設備の準備に時間が掛かっているってところね。転移ゲートは提供できるんだけど、その入れ物が中々難しいってことになっています。入れ物自体は工事用の仮設トイレぐらいの広さで良いんだけどね、道ばたに置き場所を探さないといけないのよ。どちらかと言えば、そっちの方が難しかったりしたわね。後は、どうやって料金を貰うかと言うのもあるのよ。
「それなんですけど、バス路線は市営と言うことに落ち着きそうです。そして民間のバス会社には、バス停型のゲート維持管理が委託される形となります。元々補助金がなければ赤字と言うこともあったので、事業自体に大きな影響は出ていないと言う所です」
そうか、地方のバスって赤字のところが殆どなんだよね。それを考えたら、手放して管理業務受託だけでも商売になるってことか。
流石にそれは言いすぎ。事業規模として縮小するので、黒字だからと言って喜ぶことは出来ないんですね。そうか、中々深いと言って良いですか。
「それ以外にも、バス運行を辞めることで余剰人員が生じることになるんです。その余剰人員をどうするのか。まだ受け入れ事業が始まっていなかったりするんですよ」
そっかぁ、張り切ってゲートを作ってくれたと喜んでばかりはいられないのね。産業構造変化は、間違いなく人の問題を起こす……うん、思いっきり勉強になるわ。これだけでも、規模を限定した特区でやる意味があったと言うことになる訳ですね。
それでも、バス停の設置は進み始めてはいるんですね。それで、他に問題とか出ていないんですか? 当然出ている……そりゃあそうかと言うことですね。
「一番の問題は、物流は突貫工事ではどうにもならないことです。ですので、ちょっと街から外れたところに、物流基地の建設が始まっています。大手物流会社が出資した、共同物流基地になっています。こちらに物資を集積して、特区内各箇所に物を運ぶと言うことになります」
でも、まだ特区内って人口が少ないですよね。そうですか、だから大きな混乱が起きずにすむと言うのですね。了解です、確かに混乱は小さい方が好ましいですね。
「ただですね、各社から相談を受けたりしているんですよ。セカンドステップで考えていたんですけど、どうやら前倒しにした方が良い情勢となってきました」
ええっと、何をしようと言うのです? 物資の中継基地……ここを経由した方が、輸送に時間とお金が掛からないと言うのですか。大型車のドライバー不足への対策にもなる。だから強い要望が出ていると言う訳ですね。
「嬉しい誤算なのですが、物流基地で働く従業員の住宅建設が始まっています。こちらは通勤バス代わりに、所定地区に転移ゲートを設けることになりそうです」
なるほど、実際に運用を始めると想定になかったことが起きてくるわけですか。ええっと、想定はしていた、ただ思ったより動きが速くなっただけ。良いんですよ、想定外と言っても恥じゃ有りませんからね。こう言ったことを炙り出すのも、特区の実験と言うことですよね。
それはそうと、土地収用の問題は出ていませんか? まさか、やっぱりまさかと言ってくださいますか。なるほど、地主の皆さんが売り惜しみをしているんですね。これから土地価格の高騰が見込まれるわけですから、当たり前と言えば当たり前なんですよね。
「なので、協力的な大谷村、白鹿村に施設を作ることになりました。総合病院なのですが、白鹿村の協力でかなり広い敷地を確保できました。大糸線の白鹿駅から松川の方に行ったところに、林を含めて20万平方メートル以上の敷地の提供を受けたんです。これから、賃料の交渉を始めるところです。あちらからは、しばらく無料で良いと言われたりしてるんですよ」
やけに気前が良いと言って良いですか? 当然裏があると思って良いんですよね?
「当然と言うことになりますね。大谷村には、IMO研究所本体があります。そうなると、次の重要拠点は総合大学及び総合病院と言うことになるわけです。その取り合いで、白鹿村が優位に立ちたいと言うことです」
なるほど、特区内の主導権争いと言うことですか。主要施設を誘致するのは、確かに立場を示すのには大切なことですからね。それで大町市が遅れを取ったことになるわけですね。下手をしたら、市長の責任問題にもなりかねませんか?
ええ、ウチが気にすることじゃないんですけどね。それで、次の主要施設は……IMO研究所絡みでは存在しない。広い土地が確保できるので、大学の入り口も白鹿村になると言うのですね。だとしたら、木崎湖の施設はどうするんですか? 設立準備のための事務棟として利用する。
「あとですね、宿舎……宿舎で良いんだよな。集まってきた学生たちの住まいも必要なんですよ。その一部は今回提供していただいたエリアを考えているのですが、大谷村からも土地を提供すると言う申し出が来ていたりするんです」
しかし、両方とももの凄くアグレッシブですよね。それを考えると、大町市の腰の重さが気になってしまいますね。
「大谷村、白鹿村を基準にしないように。これまでの日本を考えたら、大町市でも駆け足で動いてくれているんですよ。ただ両村の動きが速すぎるだけなんです」
そうですか、村の動きが速すぎると言ってくださいますか。言われてみれば、大町市のバス停設置も進み始めたんですよね。
「バス停の整理、移転で対処するみたいですね。ご存じだと思いますが、バス停の移転は結構手続きが面倒だったりするんです。そこを特区で押し切り、バス路線の再整理を行ったと言うことです。基本的には、廃止・新設としたようです」
ええ、『道路運送法』と言うのが有りましたね。確かに国道交通大臣の認可が求められていたかと思います。そうですか、特区を理由に押し切ってくれたわけですね。ええ、国交省が騒がないのはわかっていますよ。國枝さんが色々と動いておられましたからね。
「今のところ、住民から苦情は出ていないようです。それどころか、自宅の一部を提供すると言う申し出まであるようです」
空間転移型バス停が出来れば、思いっきり便利になりますからね。はい、その申し出が出るのは想定できました。そうか、大町市の方も動き始めているのか。
でもですよ、平地面積でいったらあちらの方が圧倒的ですよね。だとしたら、施設を作るのって大町市の方が便利だと思うんですよね。それが進まないのって、土地取引規制が足を引っ張っていませんか?
「規制が掛かっているから、逆に落ち着いている面もあるんです。それからですね、地主の方が事業を始めることを妨げてはいませんからね」
地主が事業を始める、ですか。例えば、どんなことをが考えられるんですか?
「移住してくる方が増えることを考えた集合住宅の建設、そして人が増えることを考えたショッピングモールとかですね。後は、オフィス需要がどれぐらいでるのか、色々とコンサルタントが入り込んでいるようです」
それって、色々とまずくありませんか? だって、あの手の人たちって『自分の』利益以外考えていませんよね。かもを探していると言って良いぐらいだと思うんですよ。ええっと、開発許可が下りれば……開発許可も抑えていましたね。
「小谷さん。優秀な官僚を舐めてはいけませんよ。彼等は、甘い蜜に集る蟻の習性なんか熟知しているんです。なので、詐欺まがいによってくるコンサル対策も進めていたりするんです。勿論、100%完璧と言うつもりはありませんけどね」
その辺りは仕方が無いことなのでしょうね。飲食店とかはどうですか? 嫌になるほど申請が出ている。その辺りは、大谷村と同じと言うことですか。工事関係者がたくさん入ってくるので、飲食店はいくら有っても困らない……取りあえず。やっぱり取りあえずなんですよね、それって。
まあ飲食店って、沢山開店するけど同じぐらい閉店するって話だし。別に気にする必要は無いんですよね。
それはそうと、インテグラさんの具合はどうなんです? 竜人のことはよくわからない。出産に関係したことがあるのが、長老のマイバッハさんだけなんですか。なんです、竜人のお産は難産が多いと言うのは。子供の生命力が強すぎて、母親の生命力を奪っていくんですか。だとしたら、今回は結構やばくないですか。だってインテグラさん、双子を身籠もられていますよね。だとしたらですよ、2人分吸い取っていくことになりませんか?
「それもあって、京都に預かって貰うことになりました。ことがことだけに、万全の体制を敷いているんです」
万全の体制……なるほど、フローリアンさん、パナメーラさんも付き添っているんですね。陣痛が始まったら、慶子さんも出動する……ラズライティシア様、エリシオンさんも待機している。いざとなったら、セレスさんも駆けつけることになっているんですね。
もうね、なんと言えば良いのか、これ以上無いメンバーが揃っていますよね。それで誰が子供を取り上げてくれるんですか?
「かすみちゃんが名乗りを上げてくれました。一応京都の大学から、ベテランの産婦人科の先生と同じくベテランの助産婦さんも立ち会ってくださるそうですよ」
なんか凄いと言って良いですか。御衣黄さんですけど、当然魔道具を準備しているんですよね。準備している、しかもフローリアンさん特製の魔道具なんですか。
それはそうと、お父様は立ち会わなくても良いのですか? 知らせがあったら、すぐに駆けつける予定になっている。
でも良いんですか、いえ、もっと早く立ち会ってあげなくてと言う意味で言っています。だってインテグラさん、竜人としては高齢出産になるんですよね。多分色々と不安を抱えているので、立木さんにいて欲しいと思っていると思うんです。立木さんが『大丈夫』と言って手を握ってあげるだけで、気持ちがかなり変わってくるんじゃありませんか? 妊婦の不安を取り除いてあげるのも、夫の仕事だと思うんです。
それからですね、これは話半分に聞いて貰いたいことなんですけどね。立木さん、転移魔法を使えるじゃありませんか。そうですか、それも検討したことがあるというのですね。ただ安全性がわからないので、試して良いのかわからないと言ってくださるんですか。確かに、安全性が全くわかりませんね。
「その辺り、ティアの理論検証が間に合わなかったと思ってください」
オルティアさんも、出産検討に入っていたんですか。今更ですけど、それって凄すぎると思いますよ。参考までに、どんな検討をしていたんですか?
「魔法を使って、存在確率を操作すると言うものです。転移と言うより、コピペに近い考え方だと思ってください。オリジナルを残しませんから、コピペとは違っているんですけどね」
はぁっ、コピペですか。いえね、こんなところで聞く言葉だとは思っていなかったんです。それでオルティアさんの理論検証が間に合わなかったと言うことなんですね。ええ、考え方自体がぶっ飛んでいますので。
「言う程ぶっ飛んでいないと思うわ」
ええっと、オルティアさんようこそ。ところで、大学の設立準備の方は良いんですか?
「ケンブリッジの候補者を選定したところよ。もう、希望者が多すぎて選ぶのに困ったわよ」
そうですか、希望者が多すぎたんですね。そう言えば、スタンフォードとかMITとかからも売り込みが来ているんですよね?
「そっちは、来週辺り面接することになっているの。だから忙しすぎて、理論検証している時間が足りなくて……本当は、グラさんの助けになりたいのに」
「ティアの気持ちだけで十分だと思いますよ」
「でも、竜人のためには万全の体制を敷く必要があるんでしょ。セレスさんがいるから、大抵のことは大丈夫だと思うけど。それでもキヨヒコ、グラさんは貴方に助けて貰いたいと思っていると思うわ」
その考え、私も賛成します。だってインテグラさん、立木さんに何度も救われているんです。そればっかりじゃないと思いますけど、立木さんに依存していますよね? 誰の言葉よりも、立木さんの『大丈夫』の一言が大きな意味を持つと思うんです。
「そう言うこと。だからキヨヒコは、出産の仕組みを理解する必要がある。それを理解すれば、魔法で助けることが出来るはず。それからもう一つ、理論検証を当てにしすぎないこと。初めてのことに、完全な理論は存在していないから」
だとしたら、そろそろ京都に行った方が良くありませんか。いえね、虫の知らせと言えば良いのか、早く行かないと大変なことになりそうな気がするんです。特区の方は、藤康さんに協力して貰ってなんとかしますから。立木さん、藤康さんのことを信頼されておいでですよね? 自分で抱え込まないで、頼ることも大切だって仰っていましたよね?
「小谷さんの仰るとおりなのでしょうね。では、着替えを持って京都に……なんだ慶子、京都に行っていたんじゃないのか? お尻を叩きに来た……着替えを心配するのは、グラに会ってからのことと言ってくれるのか」
「私が着替えを用意して、追いかけていきますよ」
「そ、そうか、だったら京都に行くことにする」
と言うことで、立木さんの姿が転移して消えていきました。今更のことなんだけど、立木さん転移魔法を使いこなしていますよね。まるで初めから転移魔法を知っていた……って思ってしまうぐらいです。
ところで慶子さん、インテグラさんは大丈夫なんですか? もう大丈夫になった……大丈夫になったって、立木さんがいることに意味があると言うことですか? そうですか、大きな意味があるんですね。いえ、説明してくれなくても結構です。私もそうじゃないかと思っていたんです。
はい、立木陽佳と申します。昔勇者なんかしていた陽佳です。それでですね、私は今京都に来ていたりするんですよ。ええ、インテグラさんの子供が生まれそうと言うことが理由です。
ちなみに隣にいるのは、優美お姉様だったりします。お姉様、初めましてで良いんですよね。それでですね、これでも一応緊張なんかしているんです。そうですか、甘えてくれると嬉しいと言ってくれるんですね。弟も良いけど妹も良い……だから、私のことには反対しなかったんですか。
「お父さんに厳しいことを言われてない?」
お父さんに、ですか。その厳しいことなんて、勉強しろとも言われたことがなかったりするんです。もう甘々と言えば良いのか、いえ、叱られることもあったりするんですよ。でもそう言うときって、後からぎゅっと抱きしめてくれたりするんです。その、愛されてるなって思えてしまうんです。
ああ、ごめんなさい。私ばっかり甘やかされてしまって。
「心配しないで、私も随分と甘やかされてたから。それはそうと、北斗はなんて言ってた?」
お兄ちゃん……お兄様ですか? 言い直す必要は無い、では改めてお兄ちゃんなんですけど。開き直ったら気持ちいいと言ってくれました。ええ、私が『お兄ちゃん』と呼んだ時のことです。
「だとしたら、北斗の感情的にも問題がない訳ね。まあ、北斗の気持ちもわかるかな。だって陽佳ちゃん、もの凄く可愛いから……美人の方が良かった?」
いえ、可愛いで良いです。いけないなぁ、頬が緩んで来ちゃったよ。お姉さん、もっと『可愛い』って言って貰っていいんですか?
「幾らでも言ってあげるわよ。陽佳ちゃん可愛いっ!」
あっ、抱きしめられちゃった。なんか、もう、安心できちゃったな。
それはそうと、お兄ちゃんはまだ来ないんですね。生まれたら来るはず……立ち会うのは、お父さんだけで十分なんですか。だったらお姉さんは……フライトの関係なんですね。
「それに、北斗の子供って訳じゃないからね。私たちにとってみたら、妹と弟になるのよ」
それなんですけど、お母さん……慶子母さんの子供じゃないんですよ。私だって複雑な気持ちなのに、お姉さんたちは大丈夫なんですか?
「ラズライティシアさん、エリシオンさん、インテグラさん、オルティアさんもそうかな。関係を認めた以上、子供を作ったぐらいで文句を言うつもりはないわよ。そりゃあ、世間体が悪いのは確かなんだけどね。たださぁ、お父さんってもの凄い仕事をしているでしょう。今の女性関係も、その延長線にあるじゃない。お母さんが文句を言っていれば別よ。でも、お母さんも見守っているところでしょう。だったら、子供として慌てちゃダメだと思っているのよ。それにお父さんって、足を引っ張りたい人が星の数ほどいると思うのよ。だからこそ、家族が理解してあげないとダメだと思ってる」
お姉さん凄いって言って良いですか。いえ、そこまで考えられるのって、本当に凄いと思うんです。
「ところで陽佳ちゃんに質問。お父さんって、かすみさん、御衣黄さんに手を出した?」
それだったら、手を出していないと言うのが答えになりますね。それからなんですけど、藍香さんってご存じですか? はい、IMO研究所に所属している歌姫藍香さんです。その藍香さんなんですけど、お父さんに『愛人にしてっ!』って迫っているんですよ。
話すと長くて、纏めてしまうと身も蓋もない理由なんですけどね。藍香さん、お父さんに助けて貰ったのが理由なんです。しかもその時に、藍香さんの才能を発掘したそうなんです。だからですか、藍香さんがお父さんにベタ惚れになっているんです。最初は反対していた弟さんたちも、今は藍香さんの味方に回っていたりするんです。
「つまり、SNSで流れていた話に信憑性があるってことかぁ」
やっぱり、問題だと思いますよね。お母さんが問題にしない限り、別に構わないと言ってくれるんですか。
「突き放してるわけじゃないのよ。ただね、お父さんって無理しすぎてると思ってるから。聞こえてくる評判だと、お父さんって仕事をしすぎてると思うのよ。その意味で言えば、御衣黄さんと藍香さんだっけ、その人たちには遠慮して欲しいと思ってる。だってその2人、自立できていないって感じがするから。諸星さんだっけ、諸星さんを支えるのがお父さんの仕事だと思ってる。多分だけど、それだけでも普通の人以上の仕事じゃないのかな。だから、お父さんにあまり寄りかかって欲しくないのよ。今は頑張っているけど、気をつけないとお父さんが潰れてしまうと思ってる」
お父さんに寄りかかってる……かすみさんはまだ独り立ちできていませんね。そうか、だからオルティアさんは良かったんだ。だったらエリシオンさんとか、インテグラさんもそうかな。結構お父さんに寄りかかってるよね?
「流石にその2人は例外過ぎると思うわよ。後はそうね、ラズライティシアさんがいてくれると言うのもあるわね。お母さんと話をしてると、お父さん、お母さんがラズライティシアさんを頼ってるのがわかるのよ」
ええっと、シア母さんを。お父さんが頼ってる……う~ん、シア母さんってお父さんにベタベタなんだけどなぁ。
「記者会見とか、二人きりの旅行とか。大体そう言う時って、ラズライティシアさんと一緒でしょ?」
そう言われれば……会見映えを考えたら、シオンさんじゃないかって言われたことも有ったわね。そんなときでも、お父さんってシア母さんを連れて行っていたのよ。なるほど、お父さんたちもシア母さんに依存しているんだ。
「陽佳ちゃんも、ラズライティシアさんだったら安心できるでしょう?」
言われてみれば、シオンさんだと色々と心配しないといけないし。その面でいったら、グラ母さんもあまり心配が要らなかったわね。
「ただね、これは子供として言っているだけだから。エリシオンさんとかセフィーロさんって、女の目から見ても反則だと思うしね」
つまり、セフィーロさんのことも知っているのだと。
それでね、お父さんへの負担のことを考えたら、私も問題じゃないんですか?
「陽佳ちゃん、お父さんの娘でしょ。だったら、何の問題もないと思ってるわ。老け込まないように、もっともっと甘えてあげてくれるかな」
ええっと、良いんですか。私としては望む所なんですけどね。
と思ったらお兄さん登場。ええっと、早かったと言っては駄目かしら? ちょうど時間が出来た……職場からも追い出されたと言ってくれるんですか。
「色々と思惑があったからだと思う」
「まあね、銀行も色々とあると思うし」
そうなんですか、お兄さんの仕事が関係してくるんですか。
「いや、僕はそっちの仕事はしていないんだ。ただ、お父さんが理由で異動があるかもしれない」
「うちの陽介も日本の復帰が魔法都市特区になりそうな雰囲気があるのよ」
つまり、お父さんとの関係を利用しようと言うことですか。
「お父さんが難攻不落だからと言うのが理由なんだけど……銀行がいっちょカミするのは難しいんだよ。調べてみたけど、IMO研究所の流動資産……もの凄いことになってるんだ。投資だって、銀行の介入する余地がないんだよ」
「その点でいったら、うちの方が条件が良いかな。魔法都市のことを考えたら、ショッピングモールって歓迎されるでしょ。ただ、私としては住まいが大町市と言うのは……ちょっと微妙」
ええっと、田舎ですけどIMO研究所って良いところですよ、と言っておきます。それから、転移ゲートがあるから、東京とか奈良とか歩いて30秒だったりするんです。それにですね、温泉なんかもあったりするんです。
それはそうと、IMO研究所は常に人材を求めているそうですよ。どうですお姉さん、給料もとっても良いみたいですし。
「家族が入るのは良くないと思うわよ。家族だったら、陽佳ちゃんが卒業してIMO研究所に加わるぐらいかな。さっきも言ったけど、色々と足を引っ張りたい人がいるのよ。私たちが入社したら、間違いなく叩かれることになると思う。だって、言いがかりを付けるのには格好の条件だもの。だから私たちは、お父さんの弱みになりたくないと思ってる。ただお父さん、それすら利用しそうなところがあるんだけどね」
「僕は、ハイエルフが怖いからIMO研究所に行かないことにしている」
そっかぁ、お兄さんはハイエルフを警戒しているんだ。だったらなんだけど、エリシオンさんとかどう思う? 後は、セフィーロさんとかもいるんだけど。
「そっちはノーコメント」
藍香さんに迫られるのはどう? 後は、御衣黄さん。ああ、アスカさんって金髪美人もいるわよ。
「陽佳、僕に何を言わせたいのかな? 一応彼女もちだし、2人で楽しく遊びに行ったりしているんだけどな」
別に、深い意味は無いわよ。ただね。IMO研究所の女性って、みんな綺麗だなぁって。ああ、その意味で言えば藍香さんのマネージャーをしている朝倉さんも美人だった。後はね、春夏秋冬の4人も可愛いと思うわよ。
「繰り返すけど、僕に何を言わせたいのかな」
うん、ちょっとした暇潰し。だってさ、まだ生まれないってかすみさんが言っていたもの。それでお姉さん、お兄さん、今日は泊まっていくの?
あっ、警戒したわね。うん、警戒して当然だと思うよ。特にお兄さんは。
それからお兄さん、警戒が必要なのはハイエルフだけじゃないからね。最近闇エルフが加わったのを知ってるよね。彼女たち、スタイルは間違いなくハイエルフより良いんだよ。後はね、リエッセさんって翼人の人も綺麗なの。しかも翼人の人は、男性を虜にするフェロモン攻撃があるんだって。
うん、泊まっていくんだったら美波さんを連れてきた方がいいと思うんだ。なるほど、京都で宿を取って貰ったのね。それで、どこのホテルなの?
「高級なところが良いと言ったら、本当に高級なところを取ってくれた……」
そこにお姉さんも泊まるのね。それで今日は……私も誘ってくれるんだぁ。
「子供3人の親睦を深めるのも良いと思うのよ。陽佳ちゃん、肉、好きだよね?」
モチのロンと言わせて貰います。それで焼き肉ですか、それともステーキですか? ええ、両方でも構いませんよ。
「流石に両方は無理。それで高級焼き肉……佐賀牛だったかな、一頭買いのお店が見つけてあるのよ」
美味しそうって言って良いですか。言って良い、だから予約をしたと言ってくれるんですね。だったらお母さんは……肉を食べない。それに、これは子供同士の仲を深めるためのお食事会なんですね、了解です。
だったら……ええっと、あと2人追加、良いですか? いえ、そこで神様2人が自分を指差しているんです。はい、フィオレンティーナさんとヒスイさんです。一応お父さんの娘ってことになっているんですよ。あっ、お姉さんがこめかみを押さえてる。うん、その気持ちは良く理解出来るわよ。はい2人とも、そこでお姉さんに媚びてくれるかな?
「本当に神様なんでしょ。なんか、立場が逆な気もするけど……北斗、懐具合はどうなってる?」
「そこそこ持ってるって所かな」
それだったらですね、なんとお父さんから家族カードを預かってるんです。じゃじゃ~んっ!
「そう言えば、僕も家族カードを返していなかったのを思い出した」
と言うことで、これで豪遊が確定したわね……プリムラさん、どこで嗅ぎつけてきたのかしら?
「私も娘なんですよ。だからお姉様、仲間外れにしないでください」
「みんな神様なんだよね?」
信じられないかも知れませんけど、みんな神様なんかしているんです。頭痛がしてきた、飲まないとやっていられない気がしてきたと言ってくれますか。それでお兄さんは、確かお酒を飲まなかったんですよね?
「飲まないとやっていられないと言うのはわかるんだけど……酔っ払うと、なんか危ない気がするんだよな」
だってさプリムラさん。残念ね、お兄さんに警戒されちゃったよ。それからフィオレンティーナさん、ヒスイさん、強制力の使用は不可だからね。少しでも使おうとしたら、お父さんに言いつけるからね。自重してくれると嬉しいな。
と言うことで焼き肉屋さんにレッツゴー! うん、なんかワクワクしてきたんだ。
京都って、美味しい焼き肉屋が結構沢山あるんですよね




