06.元彼襲来!愛と怒りのエクスプロージョン
城下町での買い物騒動から、数日後。
魔王城の廊下に、軽快なリズムが響いていた。
「ふんふふ〜ん♪」
リリがモップを手に、床を磨いている。
ぎこちないが、以前よりは明らかに上達している。
「あ、魔王様!」
俺に気づくと、ぴしっと姿勢を正した。
「見てください、この角度! 汚れが――」
「借金みたいに、とか言うなよ」
「うっ……」
しゅんとするな。
「……まぁ、ちゃんとやってるじゃないか」
「ほんとですか!?」
ぱっと顔が明るくなる。
「……あと、その服」
「は、はい?」
「……似合ってる」
視線を逸らしながら言う。
「っ……ありがとうございます……!」
やけに嬉しそうだな。
――その時だった。
ドォォォォン!!
魔王城の正面ゲートが、派手に吹き飛んだ。
「魔王ハジメ!!」
煙の向こうから、やたらと通る声。
「我が仲間を誑かした外道よ! 今こそ裁きを――」
「……うるせぇな」
煙が晴れる。
現れたのは、金ピカの鎧の男と、その後ろに控える三人の女。
「……あ」
リリの表情が固まる。
「元リーダーの……アルフレッド様……」
「リリ! やはりここにいたか!」
男が笑う。
「戻ってこい! お前は俺の――」
「……元カレ、です」
「……は?」
思わず聞き返す。
「その……付き合ってるって言われてて……」
「言われてて?」
「……でも、実際は……パーティのためって言われて、色々……」
言葉を濁す。
だが、十分だった。
「……おい」
一歩前に出る。
「お前ら、リリを何だと思ってる」
「決まっているだろう!」
アルフレッドが笑う。
「パーティのための戦力だ! 寝ずの番も、荷物運びも、囮も――全部あいつの役目だ!」
「……なるほどな」
「それを勝手に――」
「――違います」
リリが静かに言った。
空気が変わる。
「私は、戻りません」
モップを握る手に力が入る。
「もう、あの時みたいに……全部受け入れるつもりはありません」
一歩、踏み出す。
「……今は、魔王様の専属メイドですから」
次の瞬間。
地面を蹴る。
速い。
一瞬で間合いに入り――
「がっ!?」
モップの柄が、アルフレッドの鳩尾に突き刺さる。
そのまま追撃。
無駄のない動き。
「な、なんだその動きは!?」
魔法が飛ぶ。
だが当たらない。
紙一重で避け、次々と無力化する。
「……もう、利用されるだけの役は終わりです」
⸻
「くっ……!」
アルフレッドが立ち上がる。
「こうなれば……!」
剣を掲げる。
「皆、俺に力を!」
三人が立ち上がり、抱きつく。
「「「アルフレッド様ぁ〜!」」」
「我らの絆を一つに――!」
光が集まる。
「究極魔法――セイクリッド・リンク!!」
「……」
(……は?)
戦闘中だぞ。
(なんで抱き合ってんだ)
(なんでキラキラしてんだ)
(なんで成立してんだ)
――プツン。
【警告:リア充反応、急激上昇】
【怒り値、臨界点突破】
俺の周囲に、赤黒い火花が弾けた。
「……ザルドス」
「はい」
「リリ連れて下がれ」
「了解です」
「え、魔王様……?」
「いいから下がってろ」
一歩、前へ。
「……俺の前で」
赤黒い光が集まる。
「くだらねぇもん見せてんじゃねぇよ」
「な、何を――」
「『リア充爆発しろ』」
ドォォォォォォォォン!!!
赤黒い爆発が、すべてを飲み込んだ。
⸻
静寂。
「……ふぅ」
「……スッキリした」
「……魔王様」
振り返ると、リリ。
「……服、またやられました……」
肩口が破れている。
「……」
視線が、いく。
「……さっきの、良かったぞ」
「えっ」
「普通にカッコよかった」
「……ありがとうございます」
笑う。
その瞬間。
パチッ。
淡いピンクの火花。
「……あ」
「魔王様?」
「来るな」
一歩。
「来るなって――」
ボンッ!!
「きゃっ!?」
「だから言っただろ!!」
⸻
どうやら。
敵よりも――
こいつの方が、よっぽど厄介らしい。




