05.お買い物デート?
数日後の朝。
「……服?」
「はい。さすがに替えが必要かと」
カミラに言われ、俺はリリを見る。
先日の爆発で、まともな私服はほぼ消し飛んでいる。
「……わかった。買ってこい」
「えっ、本当ですか!?」
ぱっと顔が明るくなる。
分かりやすいな。
「ただし――」
俺は視線を横に向けた。
「ザルドス。お前がつけ」
「……え?俺ですか」
気の抜けた声。
だが、こいつの実力は折り紙付きだ。
「監視役だ。文句言うな」
「へいへい」
ザルドスは立ち上がる。
リリは少しだけ背筋を伸ばし、ぺこりと頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします……!」
⸻
城下町を人の流れに乗って、二人は歩いていた。
ザルドスの歩き方は気だるげだが、足取りには一切の無駄がない。
その少し後ろ。
(……)
俺は人混みに紛れて、こっそり尾行していた。
別に、気になるわけじゃない。
これは監視だ。
仮にも勇者が魔族の街を歩くのだ、安全確認が必要だろう。
……それだけだ。
⸻
「あっ――」
リリの足がもつれる。
人混みに足を取られたらしい。
倒れる、と思った瞬間。
「……危ねぇぞ。前見て歩け」
「ひゃっ、あ、ありがとうございます……っ」
至近距離で見るザルドスの整った横顔。無気力な瞳がふと自分を捉える瞬間、リリの心臓が不自然に跳ねた。
(……な、何これ。魔王様とは違う、この『大人の余裕』的なキュンキュン感……! 普段無気力なのに、ふとした仕草がかっこよすぎる……っ!)
⸻
(……なんだ今の)
少し離れた位置で、俺は眉をひそめる。
(自然すぎるだろ)
一連の動きに、無駄がなさすぎる。
(……あいつ、手慣れてないか?)
「……チッ」
小さく舌打ちした。
(来て正解だったな)
⸻
やがて二人は、一軒の店に入る。
城下町で一番人気のブティックだ。
布地も仕立ても、そこらの店とは明らかに違う。
「……好きなの選べ」
「えっ、いいんですか……?」
「仕事で使うもんだろ。必要経費だ」
ぶっきらぼうに言いながらも、ザルドスは店内を見回す。
「……ザルドス殿、これ、どうでしょうか? さっきのより、ずっとフリルが多くて……」
リリが持ってきたのは、少し露出の多い、お姫様のようなパステルカラーのドレスだった。
「……知らねぇよ。好きにしろ。……まぁ、お前は肌が白いから、その色は映えるんじゃねぇか?」
「……っ!!」
リリの顔が赤くなる。
無気力イケメンのストレートな褒め言葉は、幸薄勇者の心にクリティカルヒットした。
「わ、私、着替えてきます!!」
リリがいくつか服を持ち試着室に駆け込む。
⸻
(……おい)
離れた場所から見ていた俺は、こめかみを押さえた。
(なんだあの会話。デートカップルそのものじゃ無いか)
(……気に入らん)
⸻
ザルドスは店内の壁にもたれ、静かに待つ。
しばらくして、カーテンが開く。
「……どう、でしょうか」
リリが、少し遠慮がちに出てきた。
淡い色合いのワンピース。
シンプルだが、体のラインに合っている。
無理に着飾っていない分、余計に目を引いた。
「……」
ザルドスは一瞬だけ視線を向ける。
「……悪くねぇな」
それだけ言って、視線を戻した。
「そのまま来て帰れよ。魔王様も喜ぶはずだ」
「ありがとうございますっ!」
リリは嬉しそうに笑った。
⸻
新しい服に身を包んだリリが、軽く裾を整える。
「魔王様気に入ってくれるかな」
リリが俺の事を気にしている。
(……なんだこの気持ち)
「っ!!!」
【警告:対象の魅力値が閾値を突破】
【リア充度、急上昇】
「……は?」
「――おい、待て」
パチッ。
「……ダメだ」
「……ダメだって言ってるだろ……!」
ボンッ!!
小さなピンク色の爆発が、俺の周囲で弾けた。
⸻
少し離れた場所で。
リリが不思議そうに振り返る。
「……今、何か音しませんでした?」
「……気のせいだ」
ザルドスは興味なさそうに答える。
だが、その目はほんの一瞬だけ、こちらを見ていた。
(……バレてやがるな、あいつ)
⸻
(……チッ)
物陰の中で、俺は小さく舌打ちした。
(なんで俺が隠れてるんだよ)
別に、やましいことはない。
……はずだ。
(……帰るか)
そう思った瞬間。
また、ちらりとリリの姿が目に入る。
新しい服。
少しだけ軽くなった足取り。
さっきより、楽しそうな表情。
「……」
足が、止まる。
(……まぁ)
小さく息を吐いた。
(もう少しだけ、様子を見るか)
その直後。
パチッ。
「……は?」
【微弱なリア充反応を検知】
「なんでだよ!!」
ボンッ!!
今度は、さっきより少しだけ大きな爆発が起きた。
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