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最強スキル「リア充爆発しろ」 〜元社畜魔王は、幸薄勇者を倒せない〜  作者: 絵夢


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19/21

19.リリとハジメとおじ様と その2


迷宮中層の複雑に絡み合う通路で、ハジメは苛立っていた。


古代文字がびっしり刻まれた扉が行手を阻んでいる。


「……どけ、おっさん。そんな扉俺が爆発で吹き飛ばす」


ハジメが拳を固めると、ガストンは「やれやれ」と肩をすくめ、細い針のような道具を取り出した。


「若いの、力に頼るのは未熟な証拠だ。この扉は古代の感応式。下手に壊せば迷宮全体に毒ガスが回る」


「見ていたまえ、小鳥ちゃん。これが熟練の技というものだ」


カチリ、と軽やかな音が響き、扉が音もなく開く。


「さあ、足元が暗いから気をつけるんだよ」


ガストンが自然な動作でリリの腰を支え、エスコートする。


その動作には一点の迷いも下心もなく、ただただ「守るべき者を守る」という気高さがあった。



「さあ、小鳥ちゃん。足元が暗い。気をつけて」


ガストンは自然な動きでリリの腰に手を添える。支えるというより、導くような手つき。



(……くっ、爆発しない……! こいつがリリに触れても、爆破センサーは優しさとしか判定しない……!)


ハジメは、自分の胸元でチリチリと空しく燻る火花を見つめた。

自分が触れようとすれば粉砕してしまうのに、この男は呼吸をするように彼女を支えている。

その事実が、ハジメの胸をナイフのように刺した。

 


難所である『嘆きの断崖』に差し掛かった時のことだ。

道幅はわずか三十センチ。

下には煮えたぎる溶岩の海。


「リリ、俺の裾を掴んでろ。……絶対に離すなよ」


ハジメが手を貸そうとした瞬間。


リリの怯えたような上目遣いと、触れそうな指先の熱。


バチッ!


(……マズい! 今ここで爆発したら、リリを溶岩に突き落とすことになる……!)


ハジメが反射的に手を引っ込めたその時、ガストンが音もなくリリの隣に並んだ。


「怖がらなくていい。私の腕は、君の不安をすべて受け止めるためにある」


ガストンは力強く、かつ優しくリリの手を取り、自分の肩に回させた。

そのまま軽々と、しかし抜群の安定感でリリを背負い、断崖をスタスタと歩いていく。


「……わぁ、すごい。全然揺れない……。おじ様、体幹が鋼みたいです」


「はっはっは。冒険者として三十年、この程度の道で小鳥ちゃんを不安にさせるようでは引退だよ」


置き去りにされたハジメは、溶岩の熱気よりも熱い嫉妬顔を真っ赤にしていた。


「……クソ。なんだ、あの安定感は。俺なんて……近づくだけで世界を滅ぼしそうだってのに……」



休憩中、ハジメが隅っこで不貞腐れながらおにぎりを齧っていると、リリとガストンの話し声が聞こえてきた。



「……ガストンさん。どうして、そんなに私に優しくしてくれるんですか?」


ガストンは、少しだけ黙ったが静かに語り出す。


「……昔ね。君くらいの娘がいたんだ」


手にしたロケットを、静かに見つめる。


「だが私は、仕事ばかりでね。彼女が病に倒れた時も傍にいてやれなかった」


「……」


「君を見たとき、思い出したよ。一人で無理をして、誰にも頼らずに戦っていたあの子を」


空気が、少しだけ重くなる。


リリが、小さく息を呑んだ。


「……私、てっきり……」


「はっはっは!下心があると思ったかい?」


ガストンは優しく笑う。


「確かに誤解を招く振る舞いだったな。だが、小鳥ちゃん。君のような美しい娘が、愛を知らぬ魔王の傍でボロボロになっていくのを見るのは、一人の父親として耐え難いのだよ」


リリは驚いたようにハジメの方を振り返った。


ハジメは慌てて寝たふりをしたが、心の中は嵐のようだった。


(……いい人じゃねえか。完璧に、いい人じゃねえかよ……! しかも、あいつの言うことは正論だ。俺はリリをボロボロにしてる。服も、精神も、城の屋根も……)



真の善意を前にして、嫉妬することすら恥ずかしくなるような、完膚なきまでの敗北感だった。



「さて、若いの。寝たふりは終わりにして、そろそろボスの間だ。……君には、小鳥ちゃんを『守り抜く』覚悟はあるかな?」


ガストンが鋭い視線でハジメを射抜く。


「……言われなくても、分かってる」


ハジメは立ち上がり、コートの煤を払った。


リリは不安そうに二人を見守っている。


ガストンの「大人の余裕」と「不器用な親心」。


それに対し、ハジメが持っているのは「近づけば壊してしまう不器用な愛」だけ。


迷宮の最深部。巨大なガーディアンが待ち構える扉を前に、ハジメの嫉妬と劣等感は、ついに臨界点を迎えようとしていた。


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