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最強スキル「リア充爆発しろ」 〜元社畜魔王は、幸薄勇者を倒せない〜  作者: 絵夢


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18.リリとハジメとおじ様と その1

「……リリ」


「はい、何でしょうか魔王様! 今日は一段と日差しが強くて、絶好のお洗濯日和ですね!」


俺は、天井の消えた玉座の間で深く息を吐いた。

見上げれば、雲ひとつない青空。風通しは抜群。防御力はゼロだ。


……いや、ここで洗濯してどうするんだよ!



「洗濯日和なのはいい。だが、俺の日常が丸見えだ」


「開放的で素敵じゃないですか!」


「露天でいいのは風呂だけだ!」


視線を落とすと、手元にはカミラからの請求書。


見間違いかと思って三回見直したが、やはり桁が違う。


「……これ、俺の給料、数年分飛んでないか?」


「大丈夫です!」


リリは元気よくバスケットを掲げた。中にはおにぎりがぎっしり詰まっている。


「魔石を取りに行けばすぐ直せます! ピクニック気分で『嘆きの迷宮』へレッツゴーです!」


「ピクニックで迷宮攻略する奴があるか」


とはいえ、他に選択肢もない。

俺は諦めて立ち上がり、再び魔石拾いという労働に向かうことにした。





数時間後、二人は『嘆きの迷宮』の入口にいた。


……が。


「……先客か」


岩に腰掛けた男が一人。


全身を磨き抜かれた銀の軽鎧で包み、腰には使い込まれた業物。


塩胡椒色の渋い短髪に、整えられた髭。


五十代半ばといったところだろうか。


その男は、岩に腰掛けて優雅に携帯食を口にしていた。


「……ん?」


男が顔を上げた瞬間、リリが「ひっ」と短い悲鳴を上げてハジメの背中に隠れた。


「ん、どうしたリリ。なんかあったか?」


「ハ、ハジメ……あの人です… 」


「勇者時代、王都でしばらくパーティを組んでいて、結局ナンパ目的だった、あの……!」


「何だと……?」


ハジメの目が細まる。


リリの言うことが本当なら、それは冒険者の風上にも置けないクソ野郎だ。


俺が一歩前に出た、その時。


「おお……その声、その仕草……!」


男が顔を上げ、ゆっくり立ち上がる。


「もしや、麗しの小鳥ちゃんではないか!」


……小鳥ちゃん?


(ネーミングセンスどうなってんだこのおっさん)


男は大股でこちらへ歩み寄ってくる。


その足取りには一切の迷いがなく、大人の男特有の余裕が滲み出ていた。



「しばらく見ないうちに、随分と可愛いい格好になったね。」

男はリリのメイド服をさりげなく褒める。


「君、勇者だっただろう?そちらの青年に、無理やり働かされているのかい?」



男はハジメを完全に無視し、リリの前に跪くと、その手を取ろうとした。


「……おい、おっさん。俺のリリに気安く触るな」


ハジメがリリを背後に隠し、男を睨みつける。


だが、その時。


ハジメの胸元で、かつてないほど不快な音が鳴った。


パチパチパチパチッ!!


(……な、なんだ!? 爆発の予兆か? だが、こいつは男だぞ。それにカップルでもないのに、なぜ俺のセンサーが反応している!?)


ハジメは気づいていなかった。


目の前の男から放たれる「人生を謳歌し、自分に絶対の自信を持つ成熟した人間」特有のオーラが、ハジメの「非リアの怨念」にとって最大の敵である『真のリア充(精神的充足者)』としてカウントされていることに。




「おっと、失礼」


男は気にした様子もなく、軽く手を引いた。


「私はガストン。しがない冒険者だ」


仕草の一つ一つが無駄に洗練されている。

……なんだこの余裕の塊みたいなおっさんは。


「小鳥ちゃん。君のような清らかな乙女が、こんな場所にいるべきではない」


「今すぐ私のギルドへ来なさい。温かいスープと、ふかふかのベッドを用意しよう」


「お、お断りします!」


リリが俺の服をぎゅっと掴む。


「私はハジメ専属のメイドですから!」


……その一言で、ほんの少しだけ胸の奥が落ち着く。


だが。


ガストンは、悲しげに目を伏せた。


「……そうか。恐怖で縛られているのだね」


「へ?」


「若いの」


今度は、まっすぐ俺を見る。


「力で女性を従わせるのは三流だ。……守るとは、そういうものではない」


「……はぁ?」


こいつ。


静かに、でも確実に、神経を逆撫でしてくる。


「君には、男の美学が足りない」


「美学だぁ……?」


こめかみに血管が浮かぶ。


(……なんだこいつ。殴っていいか?)


その瞬間。


ゴゴゴゴ……ッ!!


迷宮の奥から、低い唸り声のような振動が響いた。


次の瞬間、


ドゴォン!!


入口の岩盤が崩れ落ちる。


「……チッ」


通路が完全に塞がれた。


「閉じ込められたか……」


「案ずるな、小鳥ちゃん。このガストンが、君を光の差す場所へ送り届けてみせよう」


ガストンが腰の剣を抜き、鮮やかな足運びでハジメの前に立った。


「若いの。君は後ろで見ていたまえ」


すっと剣を構える。


「守るというのがどういうものか、教えてやろう」


「……リリ」


「は、はいっ!?」


「俺、あのおっさん殴っていいか?」


「だ、ダメです!!」


リリが慌てて言う。


「多分悪い人じゃないと……思います……! ただ、その……」


言いづらそうに言葉を探して、


「距離感が……ものすごくバグってるだけで……」


「それ一番厄介なやつだろ」


小さく舌打ちする。


胸の奥で、またパチパチと火花が散る。


(……なんだ、この感覚)


いつもの爆発の前兆ではない。


ざわざわして、落ち着かない。

そして、妙にイラつく。


(これが……嫉妬、ってやつか?)


認めた瞬間、余計に腹が立った。





こうして、嫉妬に燃える魔王と、余裕たっぷりの紳士おじ様、そして困惑する元勇者の、奇妙な共同攻略が幕を開けた。



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